なんか今までの中でも結構長く書いたかもしれません。
一発目ネタなんだけどなあ。……解せぬ
その日、董卓は運命に出会ったのだと思う。
洛陽において劉協を十常侍から救い出し、洛陽の復興の為に全力を注いでいた日々。
毎日が目を回しそうになるほど忙しく、董卓軍の全てが一丸となって働き続けていた。
そんな中、ようやく復興に一段落がついた事を切欠に董卓は自らの親友であり、軍師で
ある賈詡からそれなりの休みをもらっていた。
そして今、董卓は洛陽から然程離れてはいない森の中にいた。
森に行くと言った時に賈?は危ないから護衛を、といってくれたが、董卓とてこの激動の
時代を生き抜いている一角の人物である。
当然、武芸にはそれなりの腕を持っているし、馬術においては自信もある。
それに、少しだけ一人になりたかったのだ。
涼州の雄に過ぎなかった自分が今では皇帝を助けている。
そして、それはある意味で一番天に近いと言っても過言ではなかった。
そんな環境の変化に少し疲れていたのだ。
董卓という少女は元来、戦や政治には向かない優しい少女である。
故に戦や政治に必要とされる悪辣さという物を是とし続ける事に少し疲れていたのだ。
森の中を馬で進む。
小鳥が唄い、風が揺らす木々が奏でる音色、木々の隙間から差し込む優しい陽の光。
それら全てに心を癒されながら、馬を進めていると、綺麗な泉が見えた。
泉は透明感溢れる水で満ちており、とても気持ちよさそうだった。
董卓は馬から降り、靴を脱いで足を水に浸した。
水は程よい冷たさで、ついパチャパチャと足で遊んでしまう。
それから少し経ち、董卓はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいない事を確認すると、
「少しなら……いいよね?」
誰もいないがそれでも確認を取り、彼女は服に手を掛け、一糸まとわぬ姿となった。
やや成長を始めた少女の身体は透明な水で神秘的に濡れ、陽の光が差し、彼女の銀色の
髪を鮮やかに輝かす。
――ああ、気持ちいい。
馬での遠出で少し汗ばんだ身体の汚れを洗い流し、泉の中に潜ったりなど、少々遊んで
いたりしていた時だった。
ガサリ、と奥の森の茂みが動いた。
董卓はその音を聞き漏らす事なく、直ぐに手で身体を隠しながら近くに置いておいた剣
に手をかける。
森の奥から出てきたのは巨大な虎だった。
虎の身体には随所に傷があり、森における多くの生存競争を生き抜いてきた猛者の風格
があった。
虎はゆっくりと董卓に近づいてくる。
「ウルルル……」
威嚇の唸り声、董卓は剣から手を離す。
今、この場で剣を抜けば、その鉄の匂いから虎が一足飛びに襲い掛かってくる事は容易
に想像がついたからだ。
しかし、このままジッといていても助かる保証は無い。
董卓はゆっくりと泉からあがり、虎から目を離すことなく後退していく。
遂に虎がその姿勢をより深く前傾姿勢にし、いつでも董卓に飛びかかれる状態になった
時だった。
大きな、とてつもなく大きな手が虎のやってきた方向から現れたのだ。
「迅、人、襲ウ、駄目」
とても低い声で手は虎にそう言い聞かせる。
すると、驚くべきことに虎は先程まで見せていた威嚇の姿勢を解き、手に頭を擦りつけ
始めた。
手は虎の求めに答えるように虎の頭を優しく撫でる。
木々を揺らしながら出てきたのは一人の巨躯の男だった。
その背丈は凡そ
いた。身体は岩のような筋肉の鎧に覆われており、そこにいるだけで威圧感を放っている
かのようだった。
男は董卓を一瞥する事なく、虎に森の奥に行くように促し、本人は泉の水を手で掬い、
飲み始めた。
一方で董卓は虎から助かったかと思えば、虎の頭を片手でつかめるほどの巨躯の男が出
てきたものだから固まっていた。そして、男は目の前に裸体の少女がいるにも関わらず、
水を飲み始めたではないか。これには董卓も少々傷ついた。
別に襲ってほしいなどと言うつもりは無いが、少しは気にしてくれてもいいのでは、と
思ってしまうのは勝手だろうか。
男はある程度水を飲むと、すっと立ち上がり、再び森の奥に消えようとしていた。
「あ、あの!」
気がつけば董卓は声をかけていた。
別段、何か話したい事があった訳ではない。
何となく、彼を留めてしまったのだ。
「……何カ、用?」
「あの、助けてくれてありがとうございました。私は董卓、字を仲潁と言います。その、
よろしければ貴方の名前を教えてはいただけませんか?」
董卓の言葉に男はゆっくりと首を振る。
「我、オ前、助ケテナイ。迅、人食ウ、腹壊ス。ダカラ、止メタ」
「ソレニ、我、名前、無イ」
これには董卓も驚いた。
目の前の男は董卓の為ではなく、虎の為に止めていたのだ。
そして、名前が無い、という事実に董卓は首を傾げる。
この名無しの男は虎に名をつけるほどなのに自身には名が無いというのだ。
「モウ、イイカ?」
男は今度こそ董卓の前から消えていった。
◆◆◆◆
男と董卓の遭遇から数日、董卓はほぼ毎日森を訪れていた。
もちろん、お目当てはあの巨躯の男だ。
馬を進め、男と出会った泉に向かう。
彼があの泉に必ずいるという事は無いが、殆どの確率で彼処に行けば会えるのだ。
そして、今日もまた彼はいた。
彼はいつもの様に泉の近くにある巨木にもたれかかって寝ており、傍らには迅と呼ばれ
た大虎や、他にも様々な動物が彼の側にいた。
いつもの事ながらその光景は見る者の心を暖かくしてくれる。
董卓は何となく両手の指で四角を作り、彼を中心とした風景を四角の中に入れる。
それは今まで見てきた美術品にも劣らない美しさをもっていた。
一歩、男に近づく。
それだけで男は目を覚ます。
他の動物達の目も一斉に董卓を視る。
「何カ、用カ?」
「あ、いえ。何となくまた来ちゃいました」
駄目でしたか? と董卓が聞くと、男は何も言わず再び眠りについた。
董卓はそれを許されたと解釈し、男の側に座る。
そこはとても心地が良かった。
巨木の上から優しく降り注ぐ陽光。多くの動物達が寄り添い生み出す温もり。
あふ、と董卓の口から欠伸が漏れる。
瞼が重くなり、コテンと首が倒れ、そのまま董卓は眠ってしまった。
彼女が目を覚ました時には既に日は沈みかけていた。
周りにいた動物達の姿は無く、いるのは男と迅だけだった。
「起キタ」
「あ、す、すいません」
「謝ル、イラナイ。……食ウカ?」
男はどこからか摘んできていた小さな果実を一つ董卓に差し出す。
董卓はそれを受け取り、口に入れる。
「わ、甘い」
「美味イカ? モット食ウカ?」
男は董卓の反応が嬉しかったのか先ほどよりも多く果実を董卓に渡す。
それから暫くの間、董卓と男は何を語るでも無く静かに果実を食べ続けた。
果実もなくなり、再び静かな時間が訪れる。
「あの……」
董卓はこの男と共にいる内にある事を考えていた。
それは、この男の事をもっと知りたいというものだった。
意を決し、話しかけた時だった。
「おぉ、こんな所に女がいるぜ」
ボロボロになった見すぼらしい鎧を纏った男達が現れた。
その数は20人ほどであろうか。
彼らは全員が頭に黄色の布を巻いている事から黄巾党の残党であろうと董卓は推測を立
てた。
男達は皆、下卑た笑いを浮かべながらネットリとした視線で董卓を眺める。
それだけで身体の奥から嫌悪感が湧き上がる。
董卓はゆっくりと剣に手を伸ばす。
「なあなあ、嬢ちゃん。すこぉーしの間俺たちと遊ばねえか?」
「……お断りします」
「釣れねえこと言うなよ。この人数に敵うとでも思ってるのか?」
そういって剣をこれ見よがしに抜き、嗤う。
すると、董卓と残党の間を遮るかの様に名無しの男が立ちふさがる。
迅も唸り声を上げるが、男が森の奥を指さしたのでそれに従い森の奥に消えていく。
「ああ? なんだ、兄ちゃん」
「消エロ。オ前、臭イ」
片言で彼は残党をまるで犬を払うかのようにシッシと手を振る。
残党の額に青筋が浮かぶ。
「でけえナリしてっからて調子こいてんじゃねえぞ!」
残党の頭目とおぼしき者が合図を送ると、残党達は男を囲む。
董卓は加勢しようとするが、それは起きた。
暴風、そう表現すべきだろう。
男がその巨腕を振るうと残党が皆、吹き飛んだからだ。
吹き飛んだ者達は木々に身体を強く打ち付け、背骨を折り死んだ者もいたが、幾人かは
運良く、いや運悪く生き延びてしまった。
それは呼吸困難に陥り、喘いでいる間に男の足に踏み潰されてしまったからだ。
ぷち、ぷち、とまるで小枝を踏むかのように人の生命を消していく男の姿に頭目は化け
物を見る目で半ば狂乱状態となりながら、剣をデタラメにまわす。
剣は男に当たるが、剣は筋肉に阻まれ、男の生命を消すには及ばなかった。
そうする内に男の手は頭目の頭を掴む。
「離せ、離せ、離せ、離せぇぇぇえぇあぁぁぁぁぁぁあああああ!」
◆◆◆◆
手に着いた血を泉の水で落とし、男は巨木にもたれかかる。
董卓も男の横に座る。
「また、助けてもらいました」
「…………オ前、我イナクテモ勝テタ」
男はそういって董卓の剣を指さす。
確かに董卓の腕ならばあの程度の者達ならば問題は無かった。
しかし、そうなると分からないのは男の行動である。
「私が勝てると思いながら、なんで助けてくれたんですか?」
「…………意味、ナイ。ナントナク」
そう言って男はプイと顔を逸らす。
照れているのだ、と董卓は分かったが、それを指摘する事はなく、ただ笑った。
そして、董卓は男にある提案をする。
「あの。私と一緒に来てはくれませんか?」
「……何故?」
「…………一緒にいて欲しい、そう思ったから。それと、ナントナクです」
董卓は男の口調をちょっとだけ真似しながら言うと、男が笑った。
初めて見る男の笑顔に董卓もまた笑顔を浮かべた。
董卓は男を洛陽へと案内する事となったのだが、いまさらになって彼女はある問題に気
がついた。
それは自身の親友でもあり、董卓軍の中核を担う賈詡をどう説得するか、であった。
結局のところ、良い打開策を思いつくことは無く、ほぼ泣き落としという少しだけ狡い
方法で董卓は男を洛陽へと迎えた。
「それで、あんた名前は?」
そう尋ねる賈詡の言葉の端々に棘が混じるのはしょうがない事だったが、ここでもう一
つ問題が生じた。
「我、名前、無イ」
そう、男には名前が無かったのである。
これには流石の賈詡も開いた口が塞がらなかった。
董卓は男に名前が無いのを知っていたが、男が自身の側にいるという事が嬉しくて、つ
い賈詡にいうのを忘れていたのだが、うっかりでは済まない話である。
すると、事の次第を眺めていた張遼がひとつの案を出した。
「なら、
張遼の案以外に妙案は何一つ出なかった上にいつまでも名無しでは困るという事で張遼
の案が採用され、董卓は男に一つの名前を与える事となった。
◆◆◆◆
時は流れ、洛陽の復興も終え、これから天下は董卓の助勢を得た劉協の治世の下、行わ
れるかに思われたが、これを良しとしない者達の手により、反董卓連合なるものが生まれ
た。事の起こりは名門袁家の出身である袁紹から各地に出された檄文からだった。
その内容は董卓軍を知る者、ある程度の知慧を持つ者ならば袁紹の嫉妬から起きた言い
がかりによる連合軍であるという事はわかっていた。
しかし、そういった知慧を持つ者達は各々が天下を、という野心を持っていたために袁
紹に事の真贋を追求する事は無く、次々に反董卓連合へと参加を決め込んでいた。
もちろん中には檄文を鵜呑みにし、義憤により動く者もいたが、そういった者は稀であ
り、またあまり大きな勢力とは言い難がった。
この数少ない勢力の中には劉備という少女が率いる義勇軍の姿があった。
義勇軍自体は珍しいものではなかったが、この軍にはある一つの噂があった。
それは、劉備の下には天の御遣いがいる、というものだった。
天の御遣い、それは世が乱れる時に天より遣わされ、乱世を治めると噂される存在であ
った。もちろん、これが真実かどうかは分からないが、それは関係ないのだ。
必要なのは天の御遣いは反董卓連合に参加しているという事だった。
これにより劉備の義勇軍は他の軍と比べて貧弱でありながらその士気は遜色ない物とな
っていた。
そして、現在。
反董卓連合の勢いはまさに破竹の勢いであり、洛陽までにある砦、汜水関は既に抜かれ
ており、そこを守護していた将、華雄は劉備軍の関羽により討ち取られていた。
反董卓連合は残る砦である虎牢関も抜け、遂に洛陽を目前としていた。
ここで董卓軍がとったのは自身が最も得意とする騎馬による突撃。
騎馬を率いるのは猛将、張遼と武神とまで呼ばれた呂布だった。
2人の猛攻に反董卓連合はある程度まで押し込まれたが、いかんせん数が違った。
張遼は反董卓連合の中でも有数の力を持つ曹操により捕縛され、呂布は数多くの将によ
り囲まれ、その勢いを失っていた。
曹操の陣営において囚われていた張遼は曹操から勧誘を受けていた。
「張遼、既に決着は見えたでしょう? 私に降りなさい。貴方の才はここで潰えさせるに
は惜しい」
曹操はそう張遼に言うが、張遼の答えは曹操の望む物ではなかった。
「曹操、あんた、一つ勘違いしてるで?」
張遼の不遜とも取れる発言に曹操に心酔している夏侯惇などが眉尻を上げ、怒鳴ろうと
するが曹操はそれを手で制し、問う。
「へえ、まだ何かあるのかしら? 既に董卓の生命は風前の灯火。呂布は関羽達によって
動けない中、まだ勝ちの目があるとでも?」
曹操の言葉を張遼は鼻で笑う。
「ああ、確かに
凄い奴がおるんやで?」
張遼がそう告げた時、洛陽から大きな銅鑼の音が響く。
「曹操様! 洛陽の門が開き、土煙があがりました!」
「土煙……。軍勢がまだ残っていたの?……数は!」
「それが…………。敵は単騎です!」
物見の兵士からの報告に曹操は唖然とする。
ここまで劣勢の中で出てくるのだから余程の虎の子である精鋭軍かと思えば出てきたの
は単騎だという。
馬鹿にしているのか、と張遼を睨もうとした曹操の耳に張遼の呟きが届く。
「この世で一番、怖~い奴が来るで~。逃げんと全滅かもなあ?」
◆◆◆◆
時は少々遡る。
虎牢関が抜かれ、既にギリギリの心で戦いを広げていた董卓の下に更に報告が届けられ
る。
「張遼将軍、曹操軍配下、夏侯惇の手により捕縛されました!」
董卓は目の前が真っ暗になりそうだった。
そして、脳裏に浮かぶのは何故、という言葉だった。
自分は荒れた洛陽と助けてほしいと泣きながら訴えてきた劉協の助けになりたかっただ
けだったのに。
董卓も分かってはいるのだ。
これは世の習いだと。
劉協を助け、急激に力を増した自分たちを引き摺り落とそうとする今回の戦は起きるべ
くして起きたものなのだと。
だが、だからといってハイ、分かりました。と負けてあげるつもりは更々無かった。
それは今まで自分を信じてついてきてくれた皆を裏切る行為であるし、劉協は自分を頼
りにしてくれているのだ。
未だ幼い彼女を護る。
その為には勝たねばならなかった。
だが、現状は惨憺たる有様である。
「月、どうする?」
賈?の言葉に董卓はゆっくりと首を振るだけだった。
そう、ここで諦める訳にはいかない。
自分の後ろには今も涙を浮かべ、それでも尚気丈であろうとする劉協がいるのだ。
負けられない。
董卓は自身が腰に吊るしている剣に視線を落とす。
その仕草だけで長年連れ添ってきた賈?には董卓が何を考えているのかがわかった。
「駄目! 今、月が出撃しても焼け石に水よ……」
「
りの洛陽がある。最後まで戦わなくちゃ」
董卓の瞳には決して揺らぐことの無い決意の光があった。
その光は賈詡に覚悟を決めさせるには十分過ぎた。
「そう、ね。諦める訳にはいかない。……どうする、考えろ」
賈?が考え始めた時、彼は現れた。
「月」
それは董卓が連れてきた彼だった。
「陽さん」
陽、それが董卓が男につけた名前、李蒙の真名だった。
「月、待ッテロ。我、往ク」
「陽さん! 貴方は私が連れてきただけです。この戦には関係がないんです。貴方が戦う
必要はないんです。今ならば……」
逃げられる、そう言おうとした董卓の言葉は李蒙によって遮られる。
彼はいつか見た時のように優しく笑う。
「月、泣ク。良クナイ。我、月、護ル」
そう言って李蒙は董卓の横を通り、出陣の準備を始めた。
◆◆◆◆
門から出てきたのは異形だった。
あれは何なのか。
洛陽から現れたそれを誰もが見た。
それは鉄塊、そう表現するのが一番しっくりと来る。
黒鉄で巨躯を隙間なく覆い、その重厚な鎧は矢や生半可な剣は通しはしない。
顔は獣を模した鉄仮面で隠されており、素顔を窺い知る事は出来ない。
そして、何より目を引くのは異形が持つ獲物だった。
それは大きかった。
常人ならば持つどころか少しも浮かすことも叶わないほどの大剣。
そして、反対の手にはこれもまた巨大な鎖、その先端には鉄球が付いている。
誰もが唾を飲む。
「オオオオオオオオオオオォォォォオッォッッォォ!!!」
咆哮。
戦場全てに響き渡るその咆哮に肝の小さい兵士は腰を抜かし、将が乗る馬は怯え、
暴れ出す。
鉄の異形、李蒙が駆け出す。
その足音は重く、大地を揺らす。
いち早く正気に戻った将達は配下の兵に矢を放つよう命じる。
放たれる多くの矢。
しかし、そのいずれもが重厚な鎧に阻まれ、李蒙を止めるには何もかもが足りない。
そして、遂に李蒙と反董卓連合の兵士とぶつかる。
そう、ぶつかっただけだ。
大質量の鉄塊に高速で衝突した兵士はその肉を、その骨を、砕かれ、骸を宙に晒す。
一度ぶつかったというのに李蒙の勢いは止まらず、尚直進を続ける。
鉄の塊が走る。
鉄の獣が駆ける。
鉄の魔物が吠える。
李蒙が鎖を振るえば鎖により身体を両断され、先端の鉄球に潰され、大剣を振れば人が
木っ端の様に宙を舞う。
その姿に反董卓連合の兵士達が恐怖を抱くのにそう時間はかからなかった。
勝ち戦にあったはずなのに。
負ける筈はなかったのに。
あれは、なんだというのだ。
魔獣、悪鬼、羅刹。
どれも当てはまり、どれも当てはまらない。
そして、遂に。
兵士達は我先にと李蒙から逃げ始めた。
各軍を指揮する将達は逃げる兵卒を止めようと声を張り上げるが、兵士達には届かなか
った。
崩れていく前線を見ながら曹操は呆然としていた。
なんだというの、あれは……。
この戦に義が無い事はわかっていた。
それでもこの戦をもって私が覇道を歩む為の礎にするつもりだったというのに。
鉄の獣が腕を振るえば兵士が吹き飛び、鎖を振るえば両断され、剣を振るえば潰されて
いく。呂布も恐ろしく強い力を持っていたが、アレは別格だ。
一騎当千では生温い。
まさに一騎当軍。
曹操は捕縛していた張遼を睨む。
「張遼、アレは何?」
奴ではなく、アレ。
曹操は無意識の中で戦場を暴れまわる李蒙を自分と同じ人として認めたくは無いという
思いからアレと称していた。
張遼は曹操の言葉に眉根を寄せる。
「アレなんて言うんやない。あいつは、李蒙は優しい奴や。でもな、怒らせるとこの世で
一番怖い奴でもあるんやで? あんたらは李蒙の逆鱗に触れてしまったんや」
そう言って笑い、張遼は大きく息を吸い、
「陽ちん! ウチはここやーーー!!」
叫んだ。
その叫びに曹操と陣幕にいた将達は目を剥く。
「……武人としてはこの行動は一生の恥や。でもな、それでもウチは月の、董卓の矛であ
りたいと思っとる。……軽蔑してくれてもええ」
◆◆◆◆
己を呼ぶ声が聞こえた。
声の主は張遼。
そして、声の聞こえてきたのは曹の旗が翻る天幕。
李蒙はそこを目指して駆け出す。
いま、李蒙の心にあるのは董卓を護る事、そして仲間を救う、それだけだった。
「我、李蒙! 我、董卓、護ル!!」
こんな感じでこれからも適当にネタを思いついたら投稿していきたいと思います。
それではまた次回。