今回は戦国†恋姫で書いてみました。
かなりネタバレらしきものがあるのでこれからプレイする方などは読まないほうがいいかもしれません。
それではどうぞ
「だから、それはきっと傷の傷の舐め合いだったんだろう」
『だから、それはきっと運命だったのだ』
「だから、もう引き返すことは出来ない」
『だから、この手は決して放すことはないだろう』
◆◆◆◆
男の視界に勝利に沸く兵士たちの姿が見える。
勝鬨を上げているのは木瓜紋を掲げている兵士たちだった。
「おいおい、本当に奴の言ったとおりじゃねえか」
男は心底驚いたという様子で言葉を漏らした。
男が立っているのは勝鬨に湧く戦場から遠く離れた巨木の天辺であり、男は自身の手で
筒の様な形をつくり、まるで遠眼鏡で覗いているかの様にその場の様子を見ていた。
「……圧倒的な数の不利がある織田家は突然の大雨に機を見出し、雨音で軍馬の音を掻き
消し、今川本陣に急襲。そして大将、今川義元の首級をあげる、か。ここまでは奴の言う
通りだ。なら、この後は……」
男がそう呟くと同時に天に突如として光り輝く球体が現れた。
その眩い光は戦場を照らすだけでなく、遠く離れた場所にいる男も照らした。
男の姿は奇妙な物だった。
全身をゆったりとした黒い外套で覆い、顔は狼を模した仮面で覆われており、その素顔
を窺い知る事は出来ない。しかし、仮面の目に当たる部分から覗く瞳には剣呑な光が宿っ
ていた。
「……全部信じるしかない、か。奴の言っていた話も、そして奴の語った俺の未来も」
男は光球が降りてきた天を睨む。
「……お前らの言う通りになんてなってやるものかよ。ああ、なってやるものか」
ビュオウと風が吹いたかと思えば、もうそこには男の姿は無かった。
◆◆◆◆
新田剣丞は天より降りてきたとされている。
その真偽の程は定かではないが、彼の身に纏う服は普通とは違ったし、彼の保有する常
識と周囲の常識がずれている事は確かであった。
さて、そんな剣丞なのだが今は織田家で世話になっていた。
もちろんただ世話になっているだけでは無く、一応軍働きのような物をしており、小規
模とはいえ一隊を任せられており、現在はその隊の者達と長屋で寝食を共にしていた。
「……丞さま。剣丞さま……、起きてください」
ゆさゆさと体を揺らされ、剣丞は薄っすらと眼を開く。
意識がゆっくりと覚醒すると同時に鼻に体を揺らしている人物の長い黒髪があたり、少
しこそばゆかった。
「んぅぅ。おはよう、詩乃」
「はい、おはようございます」
剣丞に詩乃と呼ばれた少女は僅かではあるが微笑みの形を造り、剣丞と挨拶を交わす。
「もう皆さん起きて居られますよ。剣丞さまもすぐにいらしてくださいね」
詩乃はそう言うと、部屋から立ち去った。
剣丞はその後姿を見ながら常日頃から思っている事を考える。
(あれが、天下にその名を轟かす竹中半兵衛だってんだから本当に可笑しな世界だよな)
そう、先ほどの詩乃と呼ばれていた少女は剣丞が本来いた世界、現代においては歴史を
少しでも学んでいたのならば知らぬ者はいない程の知恵者、竹中半兵衛なのである。
もちろん、竹中半兵衛があのような可憐な女の子であるはずもない。
いや、もしかしたらそんな事もあるかもしれないが、剣丞が指揮する剣丞隊には竹中半
兵衛の他にも、木下秀吉、蜂須賀正忠、蒲生賦秀がいるのだが、その者達もまた全員が可
憐な少女なのである。また、それだけではなく彼が今まで出会ってきた武将達の全てが女
性であるのだ。
流石に織田信長までが少女であるとなると、剣丞の中では一つの仮説も立っていた。
(おそらく、ここは一種のパラレルワールドみたいなものなんだろう)
何故、自分がこの様な所にいるのか、それは分からないがいるからには何かをしたい、
剣丞はそんな事を考えながら、普段着に着替え、部屋から出ると、
「おや新田様。御目覚めのようで」
剣丞よりも頭二つほど小さな翁が挨拶をしてきた。
「団助さん、おはようございます」
「はい、おはようございます」
団助は剣丞がこの長屋にやってきた頃に雇われた小間使いのようなもので長屋をあける
事が多い剣丞隊が長屋にいない間の管理や、普段から長屋の掃除を任されている老人であ
り、毎朝こうして長屋を訪れているのである。
「新田様なんてやめてくださいよ。剣丞とかでいいですって」
「いえいえ、織田様の夫である貴方様をそのような呼び方をしましては私めの首が飛んで
しまいます。……それでは私は掃除があるので失礼いたします」
団助は頭を下げると、長屋の奥に消えていった。
「……あんな年上の人にまで様付けで呼ばれるのはやっぱり気がひけるなぁ」
頭を軽くかきながら嘆息した剣丞は詩乃達と朝食をとるために歩を進めた。
「おはよう、皆」
がらり、と扉を開け、挨拶をする。
「あ、剣丞さま! おはようございます!」
いの一番に挨拶を返してきたのは橙色の髪に満面の笑顔を浮かべた木下ひよ子秀吉だっ
た。次いでぺこりと頭を下げてきたのが先ほど剣丞を起こしに来た竹中詩乃重治、そして、
「あ、剣丞さま。もうすぐご飯できますからね」
そういって調理場から顔を出した蜂須賀転子正勝、最後が
「ハニー! おはようございますわ!」
豊かな金髪を揺らしながらこちらに駆け寄ってきた蒲生梅賦秀。
これが今の剣丞隊の中核を担うメンバーであった。
「剣丞さま、少々時間がかかったようですけど何かありましたか?」
剣丞を起こしに来た詩乃の疑問に、剣丞は何もないよ、と言いながら自分の席に座る。
「いや、団助さんと部屋を出たら会ってね。少し話をしてたんだ」
団助、その人名を聞いた詩乃は少しだけ顔を曇らせた。
「……そう、ですか」
「うん? 詩乃、どうかした?」
「……剣丞さま、団助さんには気をつけてください」
居住まいを正しながら、詩乃はそう忠告してきた。
いきなりの言葉に剣丞としては首をひねる他ない。
「詩乃、いきなりどうしたんだ? 団助さんに気をつけろだなんて」
「あ、いえ。何と言いますか、その、団助さんには少々怪しいところが有るような気がし
まして……」
確証はないのですが、そう言った詩乃の言葉は確かにいつもの知恵者としての彼女らし
くなかった。
結局、その場においては剣丞が同じ長屋の仲間をそう疑ってはいけない、と詩乃に注意
し、その話は終了となった。
この時、部屋の外に小さな影があった事に気づいた者はいなかった。
◆◆◆◆
剣丞隊の長屋から然程遠くない場所にその廃寺はあった。
時刻は既に夜半を過ぎており、人の気配は皆無だった。
そんな廃寺の縁側に一人の女性が腰掛けていた。
女性は淡い金色の髪を首の辺りで軽く結び、西洋の薄手の衣服を見に纏い、月明かりを
頼りに縁側で本を読んでいた。
その女性の名前をルイス・エーリカ・フロイスと言い、剣丞が京を訪れた際に縁があり
織田家の下に身を寄せた人物である。
「……エーリカ」
本を読み進めていた彼女に月明かりの当たらない影から声がかけられる。
「いらしたのですね」
読んでいた本を閉じ、彼女は影に目を向ける。
彼女の赤い瞳は真っ暗な影の奥にいる人物をはっきりと視界におさめていた。
影からユラリと姿を現したのは桶狭間にて戦を眺めていた男だった。
いつもの狼面にゆったりとした黒の外套で全身を包んだ男はエーリカの下に歩を進め、
彼女の横に立った。
「…………」
「…………」
二人は何かを話すでもな月を見上げていた。
それから少しして、エーリカが口を開いた。
「どう、でしたか?」
「……あんたの言う通りだった。ああ、全部、だ」
男は何がとは聞かず、呟くように答えた。
「あんた、言ったよな。これは決められていることなんだって」
「ええ。貴方が貴方である限り、これは決められていること」
「……それは覆らないのか?」
「……おそらくは無理でしょう。そして、貴方が貴方であることを決められているように
私もまた私であることから逃れることは出来ません」
エーリカの言葉に男は何かを堪えるかの様に先ほどよりも高く空を見上げる。
「……俺は、ただ。役に立ちたかった。己の技を捧げたいだけだった」
「ええ」
「ただ忠を捧げ、義を掲げ、誠をもって仕えたいだけだった」
「ええ」
「それは、そんなにも許されない事なのか……?」
狼面の隙間を涙が伝う。
エーリカはそんな男に何かを言うでもなく、ただ男の手を優しく包んだ。
「だから始めるのです。貴方がただの貴方となるために。そして私がただの私になるため
に。そうでしょう?」
男はエーリカの手を優しく握り返し、彼女の隣に腰掛ける。
「ああ。ああ。そうだとも。その為に俺はあんたの側に来た」
「ええ。ええ。終わらせるのです。全てを。そして始めましょう、全てを」
ただ静かに涙を流しながら、二人は肩を寄せあっていた。
◆◆◆◆
場所は京。
しかし、その様子は剣丞が初めて京にやってきた時とは様変わりしていた。
活気にあふれた京はドス黒い瘴気に包まれ、多くいた筈の人の姿は欠片も見当たらず、
かわりにいるのは剣丞がこの世界に現れたころから大量発生を始めた人を喰らう鬼たちの
姿だった。
剣丞たちは鬼がとある薬を飲まされ、変化した人であるという事を知り、そして人を鬼
に変えていたのはエーリカであるという事実まで辿り着いていた。
そのエーリカは剣丞の妻にして、織田家の主君である織田久遠信長の身柄を攫い、剣丞
達に自身のいる場所まで来れるものなら来てみろ、と言った。
そして現在、剣丞はこの世界に来てから縁を結んだ人々と共にエーリカがいるであろう
本能寺の近くまでやってきていた。
そこに至るまでに数えきれない程の鬼たちと戦闘をこなしており、その場にいる者達の
顔にはそれなりに疲労が見えた。
「見えた! 本能寺だ!!」
本能寺の門が見え、剣丞が叫ぶ。
並み居る鬼を蹴散らし、剣丞たちが本能寺へと駆け込もうとした時だった。
門の前に一人の男が立っていた。
「…………団助、さん?」
それは剣丞にとっては見慣れた人物、自分たちの長屋を管理してくれている翁だった。
「新田様」
「団助さん! どうしてここに! いや、それよりもここは危ないです! こっちに!」
剣丞はそういって団助に手を伸ばすが、その手を止める者がいた。
「剣丞、やめなさい」
それは剣丞がこちらで縁を結んだ一人、長尾美空景虎であった。
「なにをするんだ! あそこに団助さんが!」
手を振りほどこうとする剣丞に美空は何も言わず、真っ直ぐに団助を睨みつける。
「剣丞の言う団助ってのが誰かは知らないわ。あの男は団助じゃない」
美空は一度言葉を切り、そして、
「そうでしょう? 加藤段蔵」
団助に向けてそういった。
加藤段蔵、そう呼ばれた団助は笑みを深くした。
「……何故、分かった?」
「ふん、そんな胡散臭い雰囲気の奴があんた以外にいるもんですか」
美空の言葉に団助、段蔵は顔をしかめる。
そして、変化が現れた。
それはまるで映画のワンシーンを見ているかのようだった。
剣丞よりも小さかった筈の翁が曲がった腰を伸ばし、続いて全身の骨をゴキリゴキリと
動かし、次の瞬間にはそこには小さな翁の姿は無く、剣丞よりも頭一つ大きい狼面の男が
立っていた。
「団、助、さん?」
「新田様、いや、もういいか。そこの長尾殿の言う通り俺は団助じゃあない。いや、団助
でもあるんだが、あれは俺の変装した姿でな。初めまして、剣丞殿。俺の名は加藤志狼段
蔵だ。ま、よろしく」
段蔵はそう言って剣丞に軽く礼をした後にパチリと指を鳴らす。
すると、彼の周りに先ほどとは違う完全武装をした鬼達が姿を現した。
「……加藤、あんた何のつもり?」
美空がその顔に怒りを浮かべる。
「何のつもりもなにも。見て分かるでしょう?」
「なるほど、分かりやすいわ。でもね、私が聞きたいのはそういう事じゃあないの。私が
聞きたいのは何であんたがそっち側なのか、よ。前から胡散臭いとは思っていたけど、ま
さか外道の側につくとはね」
胡散臭い、美空のその一言に段蔵の体がぴくりと反応する。
「……それだ」
「は?」
「その言葉だ!!」
それは誰の目から見ても分かる怒りだった。
「俺はただ技を尽くして働いていたはずだ! だが、貴様はただ胡散臭いから、そう言っ
て俺を追放した! 俺が何をした!? 俺はただ鍛えた技をもって仕えたいだけだったの
に。何故、胡散臭いと思ったのか言ってみろ!!」
段蔵の言葉に美空は言葉につまった。
「なんでって、そりゃ……」
――そういえば、何で自分は目の前の男を胡散臭いと思ったのだろう?
美空は考える。
目の前の男の忍びとしての働きは素晴らしいものだった。
この男が率いる軒猿は自分にありとあらゆる情報をくれた。
この男の働きで調略が成功した事も多々あった。
――あれ? なんで私はこいつを追放したんだろう?
悩む美空の姿を見た志狼はそんな姿を嘲笑う。
「わからないだろう? そうさ、わかるはずもない」
そう言って、志狼は天を睨む。
「そうだ、そう定められた。加藤段蔵という名を持つ者は何処に言っても謂れのない猜疑
をかけられ、追放される……」
「巫山戯るな!! 本来の加藤段蔵がどのような人物であろうと俺は俺だ! 俺は加藤志
狼段蔵だ!!」
その叫びは魂からの叫びだった。
「だから俺はこちらにいる! エーリカの横に立つと決めた! 天が定めた道筋を壊す為
に! ただの志狼として始める為に!! ただのエーリカとさせる為に!!」
「加藤志狼段蔵、参る!!」
長尾のところで名前だけ出てきた加藤段蔵、なんか胡散臭いを連呼されすぎてつい書いてしまいました。戦国†恋姫、結構面白かったです。今度は柿崎あたりをヒロインにして書いてみたいです。
それではまた次回。
感想お待ちしております。