一体どうすればいいんだ………
「んん……ふわぁぁぁ………朝か……」
「おはようございます。ナオツグ。さあ、それでは朝の稽古に行きましょう」
「ああ、おはようランサー。ちょっと待っててくれないか?支度をしてくる」
現在は朝6時。聖杯戦争3日目の朝。
ランサーとそのマスター、衛宮尚嗣は毎朝の稽古の為の支度をしていた。
「ふぃ〜、しかしやっぱりこの時期は少し冷えるなぁ。まあベッドから出れない訳ではないけど」
今はちょうど秋と冬の間くらいの時期で刺すような寒さはないものの、かなり冷え込んでいる。
(そういえば、昨日ニュースで今日はいつも以上に冷えるって言ってたな。今日の夜は鍋がいいな。ランサーの奴も喜んでくれるといいが……)
そんなことを考えながら、支度を済ませた尚嗣は玄関の鍵を締めて待っているランサーのもとへ行く。
「よし、行こうランサー」
「ええ、そう言えばナオツグ。ナオツグはシロウとは違って二刀流で戦わないのですね」
「ん?ああ、そういえば稽古の時はいつも一本で戦ってたな。いやな、俺も先生と手合わせして貰ったことがあったんだけど、どうも二刀流は馴染まないんだよな。俺は二刀流できるほど器用じゃなかったみたいだ」
いつも思うこと。自らの師の癖のある戦い方。威力よりも手数を優先した戦法を取る恩師の姿。その姿を見て自分は『人間の身体的な成長』では無く、『ヒトとしての精神的な成長』をしてきた。
「そうですか、ですが悪いことではありません。一本で戦うという事はそれこそ一太刀に集中できるということでもある筈ですから。まあ手数は減ってしまいますがね」
「まあそうだな。ていうか先生が特殊なんじゃないか?って思うんだよな」
「ふふっ、そうかも知れませんね」
2人で語らいながら植物がなくなり、寂しくなった街を歩く。
「おっと、そろそろ着くな」
「はい、準備は手早く済ませましょう」
「そうだな」
尚嗣が扉に手をかけ、開けようとした瞬間だった。
「ッ!」
「これは!」
殺気。
一般人ならばそれだけで気絶してしまうのではないかという程の殺気。
「ナオツグ、下がって!」
ランサーにそう言われた尚嗣は震える手を引っ込めながらランサーの裏に下がる。
「あ、ああ………」
ランサーが勢いよく扉を開ける。
すると道場の中には、
「ん?おや、おはようございます」
1人の剣道着の青年が座っていた。
「貴方ですね?先ほどの殺意を向けたのは」
その質問に、青年は朗らかな笑顔で答える。
「なんのことでしょうか?私はただ稽古後の休息を取っていたらたまたま戸の前に立った貴方達に意識を向けただけですよ。殺意だなんて………そんな………フフフ」
「
そう言ったランサーの顔には相手への敵意が滲み出ていた。
「ふむ、なんの話かはわからないが、そこまで私に敵対の意を向けられていてはどうしようもない。1つ、手合わせでもして互いに分かり合うというのはどうかな?」
明らかな挑発。自らの実力を絶対と信じてやまない者の行為だ。ランサーはそこに勝機を見出した。
「いいだろう。その挑戦を受けよう。ナオツグ!入って来てください!」
そう外に向かって呼びかけると、尚嗣が扉を開けて入ってくる。
「なんだ?なにかあったのか?うっ!?」
「はて?いかがなされましたかな?」
目に飛び込んでくるのはこの男の情報。
『筋力 C 耐久 B 敏捷A 魔力 B
幸運 C 宝具 EX』
突出したステータスは敏捷以外には無いが、驚くべきなのは宝具のランクだ。
EXランクというのは数値化が不可能なほど強力な効果を持つ宝具に与えられるランクだ。
ランサーの『最果てにて輝ける槍』ですらA++、つまりAランクの三倍相当の威力が関の山。それに圧倒的なまでの差をつけているのだ。
(やべぇ………おい、ランサー。あいつとまともにカチ合うってのは不味い。あいつかなり強いぞ……!)
尚嗣はそのことを伝えるために、ランサーと念話を行う。
(ステータスを見たのですね?やはりサーヴァントでしたか。しかし……一体どれ程の実力を秘めているのかが全くわかりません)
(ほとんどのステータスはお前が優っている。だが、問題は宝具だ。ランクはEX。今まで見たこともない宝具を使ってくるかもしれん)
(わかりました。ここは慎重に敵の実力を見ましょう)
念話を終えて向き直したランサーに向かい、男は木製の棒を放る。
「それでいいかな?見た所、槍術か棒術を嗜んでるように見える」
その発言にランサーは戸惑いを覚える。
(この男………一瞬で私の使う武器を当てた…………一体どれ程の実力が……?)
「いざ尋常に、勝負!」
そう言った青年の顔はあの朗らかな笑みとは一転し、獲物を狩るハンターのようだった。
青年は右手で棒の先端付近を強く握り、駆けてくる。
(この男の棒の握り方、短槍の握りにしても異常だ………!片手で長柄の武器を扱う気か!?)
そう、ランサーの使用する槍は片手で扱う馬上槍だ。しかし、今扱っているのは基本的には西洋では馬上で使うことのない長柄の槍だ。しかもわざわざ、長柄のメリットであるリーチを捨てているのだ。
バーサーカー、クー・フーリンでさえ戦闘中は間合いを詰める時でしかあのような握り方はほぼしないだろう。しかし、今目の前にいるこの青年はそれをやっているのだ。
「せい!」
予想通り、青年は棒を片手で前に突き出しもう左手を開けたままにしていた。
「そこだッ!」
ランサーはその空いた方の腕に向かい、棒を振るう。
しかし、
「遅いですねぇ!」
足を捻り、体を回転させてひらりと身を躱してみせた。
(予想以上に速い……!)
「次だッ!」
ランサーの攻撃を掠めることすらなく躱しきった男は、ほんの15センチほど先を残した棒を使い連続して突きを放つ。
「くっ!速い!だが!」
そう、
「……なッ…!?い、いないだと!?」
眼前にいた筈の青年が消えていた。
そのことに驚くランサーの鼠蹊部に棒が突きつけられる。
「チェックメイト。私の勝ちだ」
「………………いつの間に後ろに回り込んだ?」
全く飄々とした態度を崩さない様子で男は答える。
「最後の突きを放ったと同時に飛んだ。ムーンサルトとかいう動きと大差はない、と思う」
朗らかな笑顔に戻った。
「それじゃあ、私はこれで」
そういい残し、去ろうとした青年にランサーは声をかける。
「1つだけ………1つだけ聞かせてほしい」
「何でしょう?」
「貴方は何者だ?」
このサーヴァントは一体何者なのだろう?これほどの戦闘能力を有していながら、どうして戦闘を仕掛けてこなかったのだろう?それが不思議でならないのだ。
「ふむ………まあいいでしょう。サーヴァント、ランサー。以後お見知り置きを」
尚嗣とランサーは一瞬理解することが出来なかった。何故なら目の前にいるこの男は、自らの陣営と同じクラスだと言ったのだ。一体どういうことなのか?全く理解することが出来なかった。
「それでは………」
「ま、待て!それは一体どういう………!!」
ガララ、と音を立てながら戸を開き男は帰って行った。
「なんだったんだ……?あいつ……」
残された2人は呆然と、朝日の差し込む道場に立ち尽くしていた。
ああ………林檎を………誰か林檎と石をくれぇぇ!