ルカ視点
ルカ
「まだ…まだ着かないのか?」
僕はガルダに乗りながら焦りを隠せないでいた
プロメスティン
「お前の故郷、今頃どうなってるだろうな?」
退き際のプロメスティンの言葉が何度も頭をよぎり、嫌な予感を更に掻き立てる
アリス
「落ち着け、そんな状態では勝てる戦いにも勝てんぞ?」
ルカ
「でも…!!」
アリス
「まずは落ち着け、焦っても落ち着いてても到着にかかる時間に変わりはない」
ルカ
「………………」
落ち着いて何度か深呼吸する
アリスの言う通り少しは落ち着きを取り戻せた
アリス
「少しは落ち着いたか?」
ルカ
「ありがとうアリス、おかげで気持ちは少し楽になったよ」
しかしもう一つ気になっていることがあった
ルカ
「それにしてもあのオーディンって人、何者なんだろうね…」
地上の者達は干渉できない天使に素手で触れていたことを考えるとただの人間ではなさそうだが…
アリス
「余もさっぱり分からん、だがたまもは何か知っているような口ぶりだったな、さっきは慌てていたから聞き損ねたが、魔王城に戻った時にでも聞いつめるか」
そうこうしている内に故郷のイリアスヴィルが見えてくる
ルカ
「あれは…!」
遠くから見てもはっきり分かるほどの悲惨な事態だった
村ではあちこちで火の手が上がり、空に煙の柱が立っている
ルカ
「ガルダ!急いでくれ!」
ガルダのスピードもあり、見えてから数分で村には到着できた
ルカ
「そんな…」
しかし運命は一番残酷な現実を僕に突きつけた
アリス
「残念だが、息がある者はいないようだ…」
アリスの言葉でさらに現実味を帯びてしまう
村の全ての家は焼け落ち、あちこちによく見知った人たちの無残な亡骸が横たわっている
アリス
「天使どもめ、何とむごい仕打ちだ…」
ルカ
「そうだ…母さん、母さんは!?」
家にいる母さんの事が気がかりになり、僕は全力で家の方に走り出す
アリス
「待てルカ!考え無しに走り出すな!」
アリスも慌ててその後を追う
シルフ
「ちょ…ルカ、こんな狭いところで風の力まで使って走らなくてもいいのに」
無意識に風の力まで使って走っていた
しかしルカの心はそれくらい焦っているということだった
最愛の母の死
ルカ
(お願い母さん、無事でいて!)
母の無事
今考えられることはそれだけ
ルカ
「あ…」
だがルカの前に現れた現実は悉く彼の心を否定した
自分の家があった場所は完全に焼け落ち、焼け焦げた木や瓦礫が転がっているだけだった
ルカ
「母さん…そんな、嘘だ…!!」
そこで初めて悲しみが心にせり上がってくる
ルカ
「母さーん!!!」
涙ながらにまだ燃えている家に突っ込もうとする
アリス
「待てドアホが!!」
しかしそれを止めたのはアリスではなく…
オーディン
「やめろ、無駄に命を捨てることもないだろう?」
その手を掴んで止めたのは魔王城に現れたオーディンだった
ルカ
「放せよ!!母さんが…母さんが!!」
オーディン
「落ち着け、あの家の中には死体は無い」
オーディン
「風や水の力を持っているのなら気配を探せば分かるだろう?」
ルカ
「………………」
その言葉でやっと我に帰る
冷静に考え、水と風の力を使って焼け落ちた家の中の気配を探る
するとそこには誰の遺体も見つからない
ルカ
「どういう…ことだ?」
アリス
「もしかすると、こうなる前に逃げだせたのかもしれん、それより…」
アリスはオーディンの方に向き直る
アリス
「また貴様か」
アリス
「もしや、ここを破壊したのは貴様ではないだろうな?」
しかしアリスの言っている意味もなんとなく分かる
魔王城であれだけの力を見せた彼がもしかして…
オーディン
「私にここを滅ぼす理由はない」
オーディン
「それにこの場所に着いたのはお前達が先だ」
アリス
「なら質問を変えよう、何故こんな場所に来た?」
アリスはオーディンに最大限の警戒を解かずにいた
オーディン
「天使の気配をここに感じたからだ」
ルカ
「天使の気配?」
オーディン
「どうやら、ここを廃墟に変えた本人が現れたようだな」
????
「あらあら、まさか気づかれていたなんて」
そしてそいつは僕の前に現れた
ラナエル
「私の名はラナエル、イリアス様に仇なす者たちの処刑人」
そいつを見た瞬間僕の心に怒りが沸き始める
ルカ
「お前が…ここを滅ぼしたのか…?」
ラナエル
「そうよ、逃げ惑う人々をこの髪で絞め殺し」
ラナエル
「このハエトリグサで下半身を食い千切り…」
ルカ
「………………」
ドクン、ドクンと心臓の鼓動がどんどん早くなっていく
ラナエル
「みんな無様だったわね、誰もかれもイリアス様の名を呼びながら死んでいったのよ?」
ラナエル
「それを命じたのはイリアス様本人だと知らずに喚く姿、本当に滑稽だったわ!」
アリス
「こいつ…!」
ラナエル
「あら、魔王如きが人間の味方をするの?」
ラナエル
「現魔王も堕ちたものね、たかだか人間の男一人に心動かされるなんて」
ルカ
「………めろ…!」
固く拳を握り、掌から少し血が流れる
ラナエル
「まさか、人間の身でこの私を倒すつもり?アハハ!笑っちゃうわね!」
許さない
こいつだけは許してはいけない!
こいつは僕が倒す!
ラナエル
「私、勝てないのに向かってくる人間が嫌いなの、だからさっさと死んで」
ルカ
「やめろ!!!!」
その瞬間変化は起きた
母さんの形見の指輪が突然砕け散り、僕の中の何かが解放されていく
アリス
「な、何だ!?」
オーディン
「何っ!?」
ルカの背中から神聖なオーラが溢れ、雰囲気が一変する
その姿はまるで天使のようにも見える
ラナエル
「どうなってるの!?何なのその姿は!?」
ルカ
「ラナエル、お前はここで倒す、もう誰も失わせはしない!」
強大な力をその身に感じながらも不思議と落ち着いていた
シルフ
「ルカ…怒っちゃった…」
サラマンダー
「しかもただの怒りではない、今までほとんど見せなかった殺意が感じられる」
ウンディーネ
「まるで冷酷そのものになったエルベティエを見ているみたい…」
ラナエル
「そんな底力、高位天使の前では無意味と知りなさい!」
苛立ちと共に右手のハエトリグサでルカに食らいつくラナエル
ルカ
「堕天舞踏…」
ブウン!
ラナエル
「え?」
しかしその一撃はルカに掠ることもなく終わる
ラナエル
(今のは残像?まさか人間にこれほどの力が…)
堕天舞踏で強化された身体能力で素早くラナエルの死角に飛び込む
狙いは首元!
ルカ
「魔天回帰!」
完全な死角から魔力を凝縮した一撃を放つ
ラナエル
「くっ!」
しかしラナエルは蛇に変化した髪で威力を殺し、ダメージを削る
アリス
「ルカ…やはりそうだったのか」
アリスはオーディンと共にルカの戦いを見守っていた
オーディン
「よもやあの少年が天使の血を引いていたとは…素晴らしい才能だ」
オーディン
「ルカの力さえあれば、必ず至れるはずだ、究極魔法に」
アリス
「?」
アリスはオーディンの放った言葉に一瞬聞き覚えがあるような気がした
究極魔法
昔たまもがそんな言葉を言っていた気がする
そんなことを考えている間にも戦いは続いていた
いや、正確には戦いの終わりが始まっていた
ラナエル
「どう…なってるの…こんな力を持っているなんて…イリアス様も…」
ラナエルの全身は既にズタボロで片腕が消し飛んでいた
ルカの放った強烈な魔力は完全にラナエルを圧倒していたのだ
ルカ
「本当は誰かを殺したくはないけど、お前だけは絶対に許せない…!」
覚悟と共にルカは剣先をラナエルに突きつける
ルカ
「これで終わりだ」
オーディン
「待て、その役目、私が引き受けよう」
トドメの一撃は意外な人物によって妨げられた
ルカ
「オーディン?」
オーディン
「わざわざお前が殺すまでもない、それに私には必要なのだ、もっと多くの聖素がな」
そう言ってオーディンはラナエルの前に立つ
ラナエル
「何の…つもり?人間如きが私に触れられるとでも…」
オーディン
「私は人間ではない、神だ」
ラナエル
「神だか何だか知らないけど、みすみすこんな所でやられてたまるものか!」
激昂したラナエルは持てる力の全てをオーディンに向かって放つ!
ルカ
「危ない!オーディン!」
オーディン
「………………」
だがオーディンはまるで避ける必要もないかのようにその場に立ち尽くす
オーディン
「第一夜『Die walquere』(ワルキューレ)」
しかしラナエルの放った攻撃の全てがまるで時間停止したかのようにオーディンの手前で静止してしまう
ラナエル
「どうなってるの?何で攻撃が止まって…」
オーディン
「いかに強大な一撃だろうと、無限に作り出される空間の前には無力だ」
オーディン
「せめて苦しまぬよう、一撃で終わらせてやる」
そこでオーディンは魔王城でも見せたあの独特な構えになる
ルカ
「あの構え、まずいぞアリス!」
アリス
「分かってる!」
二人で地面に伏せる
あの一撃は余波だけでも城を揺らす威力
魔王城の時には崩壊させないよう加減していたようだが、周りがほとんど崩落したこの場所では…!
オーディン
「第三夜『Goetterdaemmerung』(神々の黄昏)」
オーディン
「さらばだ、ラナエル」
ルカ
「うわっ!何て魔力の旋風だ!」
アリス
「これは、イリアス以上だぞ…!」
オーディン
「天地創造の神槍(グングニル)!!!」
二度見てもただ右手を突き出すだけの攻撃
ラナエル
「あ…うああああああ!!!」
そこから放たれた真紅の閃光はラナエルを消し飛ばし、その先にある大きな山さえも吹き飛ばしてしまった
オーディン
「やはり、封印から逃れたばかりだと力のコントロールがうまくいかないものだな」
ルカ
「………………」
アリス
「魔王城の時も思ったが、何て無茶苦茶な威力だ…」
オーディンの天地創造の神槍(グングニル)はラナエルを完全に消し去り、山を吹き飛ばして虚空へと消えた
ルカ
「もしかして、今の力も20%だったの?」
オーディン
「ああ、もっともあの程度の天使では出力制限をしている私の半分にも満たない」
アリス
「なっ!?」
オーディン
「それに、例え高位天使の大軍勢が攻めてきたところで、私がいては戦いにすらならないのでな」
ルカ
「ねえオーディン、お前の持つ天地創造の神槍(グングニル)ってどんなものでも創り出せるの?」
オーディン
「私とて、創り出せないものもある」
ルカ
「この村を、元に戻すことはできないかな?」
それは一縷の望み
これだけのことをできるオーディンであればこの村を元に戻せるかもしれない
ルカはそう考えたのだ
オーディン
「すまないが、それは不可能だ」
ルカ
「そうか……」
オーディン
「最高神といえど全知全能ではないのだ」
ルカ
「なら、一瞬にイリアスと戦ってくれ!それだけの力があれば、必ず勝てる!」
アリス
「待てルカ!余もお前もこいつの正体を知らんのだぞ?」
ルカ
「そうだけど…」
アリスの言うことは間違いではない
確かに僕はこの男の素性を全く知らない上に先ほど見せた異常なまでの強さ
今のところ敵対はしていないが本当に味方なのか?
オーディン
「確かに私の目的は天使を狩り、少しでも多くの聖素を集めること」
オーディン
「イリアスを討つという目的は私も同じだ」
ルカ
「それじゃあ…」
オーディン
「ああ、協力してやろう」
アリス
「いいのか?」
オーディン
「しかし私はほとんど戦闘には参加できん、仮に戦うとしても2割出力での戦闘になる」
ルカ
「それは、どうして?」
オーディン
「いずれ話す時も来るだろう」
続く
大分更新が遅れてすみません、今回はラナエルに天地創造の神槍をぶつけました(笑)次回エンリカでルシフィナが登場します