オーディン視点
黒のアリスと名乗る少女からの誘いを受けてから丸二日が経過し、オーディンは空間内で動く
オーディン
「よもやこれほど面倒な空間を創らなければならないとはな…」
彼は黒のアリスの誘いを受けてから丸二日かけて自分が隠れる空間以外にもう一つの魔術空間を創りあげていた
それはイリアス達天使と戦うためだけに創り出した別の異空間
オーディン
「いつでもこの空間に来いイリアス、私は逃げも隠れもしない」
虚空に向けて放ったその言葉は不思議とイリアスに届くような気がした
そしてそれに応えるように
イリアス
「いいでしょう、1000年前からの因縁に決着をつけましょうか」
突如空間が歪み、その歪みからイリアスが現れる
オーディン
「貴様の手勢も一緒か」
イリアスの後ろにはプロメスティン、黒のアリス、エデンが付いてきている
イリアス
「無論です、あなたほどの相手の庭に乗り込むのですから」
イリアス
「黒のアリスから受けた提案の件、考えていただけましたか?」
オーディン
「ああ、考えておいた」
オーディン
「私が究極魔法を発動させるために必要な最後の鍵、それを貴様らが握っているということもな」
プロメスティン
「なら、素直に全魔力の8割をイリアス様に捧げろ」
プロメスティンが独自に作り上げた魔力吸収装置を取り出し、オーディンに向ける
それは望む者の魔力を奪い尽くすこともできる装置
オーディン
「プロメスティン、いつ私がその要求を飲むと言った?」
プロメスティン
「何!?」
一瞬プロメスティンが焦りを見せる
オーディンが要求を飲むと思っていた黒のアリスやエデンも驚きを隠せない
オーディン
「私は最後の鍵を返してもらいたいだけだ、だからこそお前達にここへ来てもらう必要があった」
オーディン
「まさか天界の主戦力が全員ここへ来てくれるとは、思った以上にお前達は愚直のようだな」
エデン
「あなた、自分の置かれている状況を分かっているのですか?」
イリアス
「エデンの言う通りです、私達はその気になればあなたの求めている最後の鍵を破壊してしまうこともできることをもう忘れましたか?」
オーディン
「そんなことは分かっている、この二日間で私はお前達に対抗する空間を創り出した」
オーディンが気を込めると周囲の景色が変化し、天界と同じような景色になる
しかしそこは天界と同じ景色ではあるものの周りの色が薄い蒼に変色した異質な空間だった
プロメスティン
「何!?まさかこれは!?」
イリアス
「第一夜『Die Walkuere』(ワルキューレ)による空間創造能力ですか、つまりこの空間で私達と戦おうということですね?」
オーディン
「そうだ、そしてこの空間にはある特別なルールを施してある」
黒のアリス
「ルール?」
黒のアリスだけはオーディンが複数の能力を扱えることを知らない
しかしそれはむしろ僥倖だと言えるだろう
オーディン
「私が空間に施したルールは、『この空間で私を含めたいかなる者も究極魔法の鍵に傷を付けることはできない』」
オーディン
「私を超える魔力で空間そのもののルールを塗り替えない限り究極魔法の鍵を破壊することは不可能、ということだ」
オーディン
「大人しく鍵を渡して立ち去るというのならこの場は見逃す」
オーディン
「それでも向かってくるというなら私の全霊を以ってお前達を葬ってみせよう」
そこでオーディンは臨戦態勢になり、イリアス達と対峙する
イリアス
「あなたは私の世界再創生計画において最も邪魔な存在」
イリアス
「ようやく手に入れたあなたの弱みを簡単に渡すと思いますか?」
イリアスは一歩も引かない
オーディン
「そうか」
オーディン
「今はお前達と事を交えたくはなかったが、大人しく引かないのなら仕方ない」
オーディン
「来るがいい、女神如きが最高神に楯突いたことを後悔させてやろう」
イリアス
「その身に過ぎた力を持っただけで最高神とは笑わせますね、オーディン」
エデン
「1000年前と同じように封印の中に閉じ込めてあげましょう」
先手でエデンが六祖大縛呪を発動させる
それは隙だらけのオーディンに確実に命中する
しかし
オーディン
「無駄だ」
エデン
「なっ!?」
どんな魔物も神だろうと封印できる大縛呪はオーディンを封印することなく消滅する
オーディン
「第二夜 『Singfried』(ジークフリート)」
オーディン
「最初に言ったはずだ、私はルールを創り出したと」
オーディン
「私自身にもこの能力でルールを施しているのだ、二度とそのような封印にかからないためにな」
プロメスティン
「なるほど、やはり複数の概念を操れる能力者のようだな」
一度魔王城で相対したプロメスティンは絶望気味に呟く
彼女は瞬間的に自分とオーディンの力の差を理解した
イリアス
「3人とも天界に逃げなさい!ここは私が」
オーディン
「逃がさん、お前達は究極魔法の鍵を渡さん限りこの空間から出ることは『許可しない』!!」
プロメスティン
「しまった!」
究極魔法の鍵をオーディンが手にしない限り空間からの脱出はできない
それが今オーディンが新たに創り出したルール
オーディン
「少しは知識に長けた天使がいるようだが、いかにお前の技術力でも私の創り出す概念は無力化できんぞ」
エデン
「ならあなたの魔力を消耗させてこの空間そのものを解除させましょう」
エデン
「ハアァァァァァァ!!!」
エデンは気を込めると真の姿を解放する
姿は巨大化し、普通の人間より背が高いオーディンすら小さく見えてしまうほど
エデン
「この力を解放するのは六祖と戦って以来ですか」
イリアス
「私も戦いましょう、黒のアリスにプロメスティン、あれをしっかり守るのですよ?」
プロメスティン
「はっ」
黒のアリス
「御意…」
オーディン
「やはりあの二人のどちらかが持っているのか」
オーディンは後ろに控えているプロメスティンと黒のアリスに狙いを定める
エデン
「屠り喰らう焔炎の剣(レヴァインテイン)!!」
何重にも連なった天使の城の頂上からエデンは炎の剣を振り下ろす!
イリアス
「裁きの雷!!」
同時にイリアスの雷がオーディンの頭上から迫る!
しかしそれはオーディンが放った緑色の光と同時に静止してしまう
オーディン
「ふっ、無駄だ」
オーディン
「第一夜 『Die Walkuere』(ワルキューレ)の力を忘れたとは言わせんぞ、堕落女神」
イリアス
「相変わらず小癪な能力ですね…元はただの人間だったというのに、思わぬ誤算を生んでしまったものです」
オーディン
「戦略破壊魔術兵器(マホウ)がこの世界に流れ込んでいたことを知らなかった時点でお前は敗北していたのだ」
イリアス
「しかも戦略破壊魔術兵器(マホウ)の大前提(ルール)さえも覆して二つも顕現させるとは…」
エデン
「ならば…!!」
会話の隙を縫ってエデンが無数の魔力弾で第二撃を仕掛ける
オーディン
「効かぬ、そんな攻撃では私の足止めにすらならない」
オーディンは能力で停止させるまでもなく解放する魔力の余波で全ての弾丸を吹き飛ばす
先ほどイリアスとエデンが放った攻撃も同じように吹き飛ばされる
オーディン
「今度は私から行かせてもらう」
オーディン
「天地創造の神槍(グングニル)!!!」
オーディンは独特な構えから溜めなしで天地創造の神槍(グングニル)を放つ
溜めることなく放たれた一撃といえどそれは魔王城で放ったのと同等の威力を秘めている
イリアス
「ジルフィ!ノーマレン!」
しかしイリアスもプロメスティンの作った擬似精霊で生み出した結界で天地創造の神槍(グングニル)を耐えきった
オーディン
「その紛い物の精霊、やはり邪魔になるな」
イリアス
「ナガエルの時も理解したでしょう?出力制限を施しているあなたではこの防御は破れません」
オーディン
「ならば出力のリミットを少し解除すればいいだけのことだ…!」
しかしオーディンにとってその制限解除は望ましい選択ではなかった
本来2割の出力でイリアス達天使を倒し、その後邪神初代アリスフィーズを復活させて倒す
そのはずだったオーディンの計画は今イリアス達の起こした想定外(イレギュラー)によって大幅な修正を余儀なくされている
彼が叶えるべき望みのために必要なのは大量の聖素と魔素、そしてオーディン自身の魔力
それを考慮すると2割出力での戦闘でないと魔力を余計に消費してしまい、それを再充填するために莫大な時間を使ってしまうからだ
しかし天使や他の魔物が擬似精霊をその身に宿しているということは倒した時に得られる魔力も想定より多い
つまり一時2割出力の制限を解除し、その出力を4〜5割まで引き上げても不都合足り得ない!
オーディン
「見せてやろう、お前達紛い物の神が決して到達できない領域をな!」
オーディン
「ハアァァァァァァァァァ!!!」
イリアス
「くっ!!?」
プロメスティン
「な、何だと!?」
黒のアリス
「とてつもない魔力ですわね…クスッ…」
エデン
「馬鹿な!?1000年前と魔力の質が違う!」
イリアス
「封印の中で蓄積し続けた魔力ということですか…」
真紅の暴風の中イリアス達は誰一人怯まなかった
一人黒のアリスが不敵な笑みを浮かべていることは誰も気付かない
ルカ視点
ふと魔王城が大きく揺れる
ルカ
「な、何だ今の!?」
アレン
「早くも動き出したか、イリアス…!」
オーディンとの戦いから二日
魔王城を拠点としてひとまず体力の回復に集中していた僕たち
天使の侵攻で大怪我をしたグランベリアも回復し、これからの対策を立てようとしていた時
どうやらオーディンと誰かが戦っているらしい
別空間で起きているはずの戦いなのにその衝撃がこんなところまで伝わってくる
ルカ
「オーディンとイリアスが」
アレン
「間違いない、オーディンの野郎力のほとんどを解放していやがる…!」
アリス
「しかしいくらなんでも早過ぎやしないか?」
グランベリア
「確かに、事実を聞く限りでは奴がイリアスと戦うには時期が早過ぎる」
アレン
「奴の計画も少なからず狂い始めてるってところか」
ミカエラ
「ですが、この戦いを放置しておいては世界がパワーバランスを崩して人間や魔物に悪影響が出てしまいます」
ルカ
「なら早く止めないと!」
立ち上がろうとする僕を母さんが止める
ルシフィナ
「待ちなさいルカ、今あの二人の間に入って何ができるのですか?」
ルカ
「それは…」
母さんの言う通りだ
不死身に近い肉体を持つオーディンはともかくイリアスまでいるのだ
その二人を同時に相手にすれば今の僕たちでは勝ち目はない
アレン
「しかもイリアスの奴、取り巻きも連れてきてるみたいだしな」
ミカエラ
「となると、エデンも」
アレン
「ああ、他にも二人連れてきている」
アレン
「マズイな…隠していた魔力に差がありすぎる」
ルカ
「あいつは力を解放してるって言ったけど、どれくらい解放しているの?」
アレン
「あくまで見立てでしかないが、全魔力の4〜5割ってところだろう」
ルシフィナ
「嘘…」
ルカ
「これで、5割…?」
信じられない
別空間をここまで揺らすほどの魔力でまだ半分
ルカ
「そんな魔力じゃ宇宙がいくつあっても足りないよ!」
アレン
「だけど今あいつにイリアス達の魔力が渡ったら俺たちだけじゃどうにもならなくなっちまう」
アルマエルマ
「彼が魔力を制限している今しか勝機はないってことね…」
アリス
「まったく、この非常事態にたまもはどこに行っているんだ…!!」
魔王城に戻ってきた時たまもはどこかに行った後だった
グランベリアや腹心の八尾や七尾にすら告げずに姿を消してしまったという
ただ自室に『必ず戻る、心配は無用』と書いた手紙だけ残して
エルベティエ
「2割出力でもあれだけ絶望的な差なのだから、出力制限を一部解除している彼に私たちが勝てる見込みは0ね…」
アレン
「エルベティエの言う通りだな、今戦いを止めに行ったところで他の天使の二の舞になるだけだ」
ルカ
「でも、他に誰が行くんだい?」
アレン
「………………」
アレンは押し黙る
自分達以外にオーディンを止められる者はいない
しかし今の自分達ではオーディンは止められない
答えは自ずと浮かび上がってくる
アレン
「無謀でもやるしかないな、でないと外の世界が破壊されちまう」
ミカエラ
「なら私も行きましょう、もうダメージは回復できました」
ルシフィナ
「私も行きます」
ルカ
「僕も行くよ、母さん達だけ行かせたくないんだ」
ルシフィナ
「ルカ、あなたは待って…」
グランベリア
「心配するな、いざとなれば私がルカの盾になってやる」
母さんの言葉を遮ったのはグランベリアだった
ルカ
「グランベリア…」
グランベリア
「気にするな、私とお前はもう戦友だ、そうだろう?」
そこでグランベリアは少年のような笑みを浮かべる
グランベリア
「相手が何だろうと私の剣に砕けぬ物はない」
アレン
「奴らの戦いに割り込んで尚且つ二人を引き離さないといけない、楽な戦いじゃないぞ?」
グランベリア
「そんなことは分かっている、大丈夫だ、死にに行くわけではないからな」
アレン
「じゃあ、行こうか」
アリス
(ルカ、死ぬなよ…)
こうして5人は魔王城を後にする
女神と最高神の戦いを止めるために
続く
少し長めにしました、次回は8割以上戦闘パートになりそうです(笑)