「今頃、あの長髪ロードはどんな顔してるかなー?」
クスクスと笑いながら無数の物が散乱した部屋の中で一人の少女が床に転がっていた。
その容姿は可愛らしく、年相応の無邪気さを感じるがどこか神秘的な雰囲気が漂っていた。
もっとも魔術師が見たらただの子供じゃないと分かるぐらいにかなりの量の魔力をもっているのだが。
そんな少女と生活感溢れ過ぎる部屋はミスマッチとしか言い様がない。
そのせいで少女の存在が現実味を薄れさせているほどだ。
「全く、途中式と答えの一部があるから良いけどさ。これ、一から作った奴、絶対化け物だよね。ちょっとどんな頭してるか興味出てきちゃった」
これだけ聞けば宿題に悪態を吐く少女と見えるが魔術師から見れば今すぐ彼女に掴みかかり、その宿題を代わりに解きたがるだろう。
何故なら少女が言う宿題とはとある儀式の仕組みを解くものだからだ。
「オルベルト家のおじさんが龍洞だっけ?そこから解体前の大聖杯の一部を持ち出したお陰で今の聖杯戦争に着手出来たけどさ。もう少しマシな状態で持ってこれなかったのか?損傷が酷くて直すには手間がかかるし、皆があれこれ注文するから一部書き換えなきゃいけないから面倒だよ~。頭痛いよ~。まあ、そこん所はお願い聞いて他の魔術師に未知を解析させようと動いてくれて嬉しいけどさ」
独り言を呟きながらコロコロと表情を変えてはしゃぐ彼女はその辺に散らかった物の中から煎餅の袋を見つけると手を突っ込む。
しかし中身が空っぽだと分かると今度は仰向けになる。
「あ~。退屈だ~。サーヴァントの皆はマスターになった魔術師狩りに行っているし、皆は高見の見物してるし、ズルいな...」
ややいじけた態度で今度はコーラのペットボトルに手を伸ばすがやはり空っぽであり、むっと顔をしかめると放り投げる。
投げられたペットボトルは積み上げられた本にぶつかり、本の塔は音を立てながら崩れ去る。
その光景に何か思う所があったのか、崩れそうな物に片っ端から物を投げ始めた。
部屋のあちこちから聞こえる崩れる音に少女は満足した。
そんな少女の部屋にノックが響いた。
「マスター、何か凄い音したが大丈夫か?」
声と共に入ってきた男は部屋の中に入ると顔を歪める。
「マスター。本当に大丈夫か?その、部屋が凄い事になっているのだが...」
「大丈夫じゃない~。退屈で死にそう。大聖杯の調整なんてつまんないよ。ちょうど良いからどっか行こうよ。そういえばなんでライダーがいるの?野良マスター狩りの途中じゃないの?」
「それなんだが、他のマスター達にお前の武器は目立ち過ぎると言われて追い返されてたんだ」
「まあ、ライダーは乗り物が武器みたいなものだしね。」
「だが賢明な判断だと思う。人一人殺すのに辺りを破壊してはしょうもないだろう?」
うんうんと頷きながらアンナはライダーに手を伸ばした。
「兎に角手を貸して。私が一人じゃ起き上がれないのは知っているでしょう?」
「やれやれ。私は魔術師とはあまり縁は無かったがこういうものなのか?正直、ここまでするとは考えられないのだが」
ライダーは少女を抱き上げると近くに転がっていた車椅子に座らせる。
そしてアンナの足を見ながら呟いた。
「まさか足本来の機能を捨ててまで魔術回路を増やすとは。他に問題は無いようだが」
「足だけじゃないわよ。右目だって見えないし、内臓も少しダメージがある。子供は問題なく産めるようだけど私は育てられないわ」
その言葉はどこまで淡々としていて後悔や恨みなど感じられなかった。
それは実の父親がした事だから諦めているのか、それとも魔術師の宿命と諦めているのか。
どちらにしろ、アンナは別に深く考えているようではなかった。
「すまない。失礼な事を聞いたようだ」
ばつが悪そうにライダーは謝罪の言葉を口にする。
その言葉にクスクスと笑うとアンナは口を開く。
「別にいいよ。私が勝手に話しただけだしね。どうしてもお詫びがしたいのなら、晩御飯食べに行きましょう」
「ああ、良いだろう。それでマスター、何が食べたい?御者として私が連れていこう」
「そうね~。ここ最近日本食ばっかりだったからピザとかパスタとか懐かしい物が食べたいわ」
「分かった。リアム様よりクルマという牛もいらない戦車を貰ったし、早速行こう。私もぱすたとやらに興味がある」
車椅子を押しながらライダーはアンナを一瞥すると満面の笑みを返してくる。
よほど退屈してたのか、普段から外に出る事さえ苦労する体だからか、外に出られるというだけでとても嬉しそうだった。