その日、とある魔術師の家で最後のサーヴァントが召喚されようとしていた。
薄暗い地下の魔術工房には血で描かれた魔法陣。
儀式を行うは一人の少年。
妹も魔術師だが、令呪の浮かび上がったの兄である少年である為、妹は別の部屋で召喚時の隙を生まない為に待機していた。
兄、宗治は右手をナイフで切ると血を陣に垂らし、詠唱を唱え儀式を進めていく。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
詠唱が進むごとに陣は光輝き、魔力が満ち溢れていく。
辺りは強い風により、紙は舞い、魔道具は床へと落ちる。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
英霊の召喚。
聖杯を求める英霊をサーヴァントとして使役する儀式はただ続く。
それは聖杯戦争の確かな挑戦となり、呼び出された英霊が弱かろうと強かろうと関係なく進む道は茨の道となる。
それでも兄妹は聖杯を求める。
たとえ、願いが違っていたとしても。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」
最後の一節を言い終えると少年に光と静寂が訪れる。
もっとも一瞬の静寂であったが。
宗治が目をうっすら開けると陣の中には二メートルは越える白い鎧の巨漢が立っており、こちらを見下ろしていた。
「問おう...。貴方が、我がマスターか?...」
思わず息を呑む。
これが、英霊...
ただ問われただけなのに声が出ない。
言葉の一つ一つに重みがあり、それが宗治の脳を揺さぶる。
それでも返事をしようと呼吸を整えて、喉を震わす。
「あ、ああ...」
頷きながらマスターの証である右手の令呪を見せる。
「そうだ...。俺がマスターだ」
目の前のサーヴァントに油断なく構え、そう宣言する。。
もし、目の前の英霊がマスターである自分を気に食わなければあっさりと殺す事できるという事を聞いているからだ。
どう出る?
震えを必死で抑えながらサーヴァントの方に恐る恐る視線を向ける。
鎧のサーヴァントは宗治の顔を見ているが兜によって英霊の表情は読めない。
やがて英霊はゆっくりと手を差し出す。
思わず後ずさる宗治だが、その手は宗治の目の前で止まった。
「なるほど。これで契約は結ばれたのかな?これからよろしくね。マスター」
先ほどまでの雰囲気はどこに行ったのか、目の前の英霊は気軽に話しかける。
唖然とする宗治を目の前に鎧の英霊はその身に光を纏い始める。
流石の宗治もこれには驚き、距離を取るが何かが飛んでくる事などなく、光が消えると鎧の英霊も消えていた。
代わりに、そこには宗治と背丈の変わらない少年が一人、笑顔を浮かべて佇んでいた。
「サーヴァント、セイバー。ここに契約を交わし、現界しました。共に聖杯を掴みましょう、マスター」
爽やかな笑顔と共に再び手を差し出す。
状況を理解できず、唖然とする宗治はただ、セイバーの手を握り返す事しかできなかった。
*****
「お帰りなさい。無事に召喚できたようね」
妹の美里がセイバーと共に居間に戻った宗治と宗治の後ろに控えるセイバーを一瞥すると満足したように話し出す。
「貴方はセイバーね。最優のサーヴァントを引くなんて幸先が良いわね。ああ、いえ、不幸中の幸いと言うべきかしら?」
「どういう事だ?」
不穏な言葉に眉を寄せながら、椅子に座る宗治に美里は手に持った鏡に視線を移す。
「さっき魔術協会からの連絡があったわ。監督役の神父が殺されたそうよ」
「冗談だろ?監督役が殺されたって笑えないぞ?」
「冗談でこんな事言うほど、魔術協会は暇じゃないわ」
「.....」
聖杯戦争には形式上、聖堂教会から監督役が派遣される。
仕事は聖杯戦争の隠蔽とサーヴァントを失ったマスターの保護、そして秩序無い者に制裁を下したりする。
サーヴァントという強大な力を手に入れたマスターが好きなようにできないのはこの監督役の存在が大きく、聖杯戦争が円滑に進むように取り仕切る面もある。
その監督役である神父殺害の報は魔術協会、聖堂教会双方を騒がせ、マスター達にもその報は届いていた。
「オマケに犯行声明まで残していたらしいわ。まあ、監督役が殺される事よりこっちの方で騒いでいるって感じだけど」
「その内容は?」
「この聖杯戦争は聖杯戦争にあらず、聖堂教会及び、魔術協会の手は必要とせず、我々の手で聖杯戦争を進める。ただ未知の解析に努めよ。簡単にこんな所ね。この聖杯戦争、監督役がいないから絶対荒れるわ」
溜め息を吐きながら鏡を撫でる美里に宗治は声を荒げる。
「それじゃあ、この聖杯戦争を始めた連中の思い通りじゃないか!」
「そうよ。好きなようにできる。街中で宝具をぶっぱなして一般人ごとマスターを殺す事も。魔力の為に人喰いをしようと誰も止める事ができないわ。現にほら、見てみなさい」
放り投げられた鏡を掴み、鏡を見るとそこには宗治の顔は写ってなかった。
代わりに街中が映っており、そこを二人が走っていく。
「これは?」
「連中、マスター狩りと称して見物に来た魔術師や魔術回路を持った一般人を襲っているみたい。誰が令呪を持っているか、まだ分からないようね」
「じゃあ、これは!」
「ええ、見境なく、魔術回路を持った人間を襲っているようね。ハズレても損はしないから」
思わず顔をしかめる宗治に美里はいつもと変わらない調子で続ける。
鏡の中で血飛沫が起こっても特に感情に揺れはなかった。
セイバーが何か言おうと口を開くと。
「助けようだなんて言わないでね。正直言って無駄よ。場所も遠いし、わざわざこちらの手を明かす事は無いわ。今は大人しくしてなさい」
それよりも先に言葉を発した。
魔術師としては正論だが、セイバーは納得できないようで、マスターである宗治に進言する。
「マスター。敵は確かに未知数です。ですが、目の前で無関係な人々が危険にあっている状況を見逃すのですか?」
人としての正論に宗治は唸る。
魔術師としてはまだ浅い経験しかなく、どちらかと言うと一般の感性が強い。
だから魔術師としての妹の言葉より、人としての言葉の方が頷ける。
だが、美里の言う事が分からない訳じゃない。
損得で考えるなら今は出るべきではないのだと、頭はそう告げるのだ。
だから助けるにしろ、襲撃を行う者達と戦うにしろ、どうしてもまだ利が少ない。
「セイバー、ここは状況をよく見るべきだ。迂闊に動くのは危険だ。この人達には悪いが自力でなんとかしてもらう」
妥協点として上げたのは待機。
確かに助けたいが、自分が死んでは元も子も無い。
そんな感情が待機という妥協点を上げた。
「ですが、マスター。この救出は全くの無駄にはなりません。敵の正体を探る意味ではいずれ打つべき手です。そしてそれは早い方が後の為にも良い。未知の敵ですが、だからこそ危険を冒して出るべきなのです!」
「駄目よ。リスクが大きすぎる。聖杯戦争で序盤で戦いに出るなんてよほどの馬鹿でもしないわ。セイバー、貴方が騎士道を重んじるのは分かるけどそれに私達を巻き込むのは止めてほしいわ」
「おい、美里!言い過ぎだ!」
叱咤の声を上げるが美里は肩を竦めるだけだ。
まるで「何か間違った事を言ったかしら」と言いたげに。
「すまないセイバー。だが、俺はまだお前の実力もよく分からないんだ。お前のステータスは分かるがそれだけで戦いは決まらない。それはお前が一番分かるだろ?今は闇雲に手を打つべきではないんだ」
「いえ、マスター。僕も出過ぎた事言いました。申し訳ありません...」
宗治が鏡に視線を移すとそこには一人しか走っていなかった。
血を滴らせながら逃げ惑う逃走者にサーヴァントの攻撃は容赦なく逃走者の胸を消し飛ばし、遂に動くという行為を止めた。
今のサーヴァントの攻撃でおそらくアーチャーのクラスだと予測するが英霊によってはビームなどを出す者もいる。
(やっぱり答えは知らないとな....)
二十一騎のサーヴァントがいるのだ。
後々の事を考えると戦うのは確かに危険だが、相手を確かめる位はしなくてはならないだろうと宗治は隣のセイバーを見る。
(こいつの実力も確かめないと)
自身のサーヴァントの性能テスト兼ねて、次の手を考え始める。
それがどう転ぶかによって、自身の道が変わるのだから慎重に。
CLASS セイバー
マスター 多宮宗治
真名 不詳
性別 男
身長体重 175cm 59kg
属性 秩序 善
筋力B耐久B敏捷A魔力C幸運D宝具EX