Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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ノーコン

 

 

 

「それじゃあたしは小舟の里に戻るけど、お願いだからムチャだけはしないでよね」

「わかってるっての。そっちこそ、あぶねえマネは控えてくれよ? 頼むから」

「へーきへーき。今日はシズクとジンさんに稽古をつけてもらえる日だから、小舟の里から出ない予定だし」

「ならいいがよ」

「うんっ。じゃあ、また夜になったら迎えに来るね」

 

 おうと返すとミサキはピップボーイを覗き込み、微笑みを浮かべながら音もなく姿を消した。

 

 今日の山師仕事を終えれば、明日は休暇を取る事になっている。

 それも運び屋チートのおかげで、小舟の里の自室でいつも通りのんびりと。

 

「運び屋さまさま、って感じだあな」

「ホントっすねえ」

「そういや明日の休暇、くーちゃんはどうすんだ?」

「特殊部隊の空き部屋でお昼過ぎまでぐっすり眠って、ウルフギャングさんのお店が開いたらそこでお酒かなあ。あ。でもアキラっち達とパーティー組んでからかなり稼がせてもらってるし、ミキちゃんのお店で買い物もしたいかも」

「なるほどねえ。ヤマトは?」

「ぼくも特殊部隊の宿舎に泊まって、朝から図書室と訓練場ですね」

「言っとくが、体を休めるための休日なんだからな? 訓練はやめて、読書だけにしとけ」

「ええっ。そ、そんなっ!」

「当たり前だ、タコ助」

 

 努力をするのは素晴らしい事。

 でもそれが過ぎれば、ただのオーバーワークでしかない。

 

 飲みながらの雑談で聞いた話によると、ヤマトはノゾとミライと身を寄せ合うようにして暮らしている間、孤児であり子供であるゆえに、大人と同じ日雇い仕事をするにしても他者より長く、少しでも動きを速くするという事を心掛けていたらしい。

 

 たしかに子供でも大人よりキビキビと働き、さらに皆が8時間しか働かないところをたった30分でもタダ働きしてやれば雇い主は喜ぶのだろうが、そんなのを習い性としてしまうのはあまりよろしくないんじゃないだろうか。

 

 いつかヤマトがメガトン特殊部隊の一員になるのなら、そういう癖は今のうちに棄ててしまった方がいい。

 

「それじゃあ行きましょうっす。そろそろ夜も明けるっすから」

「だねー」

「はいよ」

 

 一等室を出て、酒場スペースのカウンターへ。

 

 カウンターの中で眠そうにしているマスターにカギを返し、梁山泊を出る。

 今夜泊る一等室の予約はしていない。

 今日はガッツリ探索。そして暗くなる前に安全なロケーションを見つけ、ミサキがファストトラベルで迎えに来てくれるのを待つ予定だ。

 

「朝は涼しくていいっすねえ」

「うんうん」

 

 浜松の街を出て、まずは遠州病院前の交差点へと向かう。

 するとそこにはやはりと言うべきか、フェラル・グールが群れて高架下をうろついていた。

 

「チッ。やっぱりいやがる。昨日も全滅させたってのによ」

「もう、そういうもんだって諦めるしかないっすね」

「面倒な仕様だよなあ」

「それであのフェラル・グールなんっすけど、ヤマトにやらせていいっすか?」

「別にいいけど、大丈夫なのかよ? いくら連射可能だっつっても、威力のよえーハンドガンのみで」

「パイナップルでも出してくれるんならありがたいっす」

「なるほどね。……じゃあ、先にアレを試してもらうか」

 

 ピップボーイを操作して、まずはオイルライターを出す。

 

「ライターっすか?」

「ああ。タイチにはもう渡してるし、ついでにくーちゃんにも渡しとくか。男4人のパーティーがお揃いのオイルライターとか、ちょっとばかりキモイが。ほれ、ヤマトも」

「ええっと。これをどうするんですか?」

「コイツに使うんだよ」

 

 オイルライターを放られて首を傾げていたヤマトは、俺が次に出した物を見ると、すぐにそれが何であるか察したようだ。

 

 火炎ビン。

 

 フォールアウト4の、それも序盤ではかなりお世話になった投擲武器だ。

 

「ビンの中で揺れてる液体って可燃性で、これは悪党がよく使う武器なんですよね。商人ギルドの図書室にあった山師の手記で読みました」

「ああ。栓にしてあるボロ布火を点けて投げれば、ボンッ! ってな。こんなのが合いそうなら、次はグレネードとそれを投射するグレネードライフルも練習しとけばいい」

「……やってみます」

「気楽にやるといいっすよ。火炎ビンはオイラも試した事があるっすけど、少しくらい狙いを外しても炎が低レベルのフェラル・グールくらいなら倒してくれるっすから」

「わかりました。届かないと怖いんで、なるべく接近してから火を点けて投げます」

 

 自分でもオイルライターの火を点けてみたヤマトが、生唾を飲み下して歩き出す。

 俺はデリバラー、タイチはハンティングライフル、クニオはサブマシンガンのセーフティを解除してそれに続いた。

 

「そろそろ気づかれるっすよ、ヤマト」

「はい。遠距離武器は先制攻撃を仕掛けてこそ輝く、ですよね。投げます」

「ヤマトっち、ガンバレー」

 

 小声の遣り取り。

 

 それを終えたヤマトが少しばかり引き攣った笑みを見せ、オイルライターのヤスリを擦る。

 着火。

 

「いきます」

 

 火の点いた火炎ビンを振りかぶって遠投。

 

「ありゃりゃー」

 

 法則性でもあるのか、交差点をうろつくフェラル・グールの数は初めてここを通った時と同じ3匹。

 その最も手前にいるフェラル・グールの、さらに手前で火炎ビンが砕け散る。

 

「ご、ごめんなさいっ!」

「謝る前に射撃準備っすよ」

「はいっ!」

 

 ヤマトが抜いたホクブ機関拳銃の装弾数は24発。

 GUNSLINGERのPerkがある俺でもその弾を6発命中させなければゲッコーを倒せなかったが、たしかその後の戦闘でヤマトはフェラル・グールを3発かそこらで倒し切っていた。

 その個体と同程度のレベルの相手なら、射撃の得意なヤマトはマガジンを交換せずに3匹を倒せるはず。

 

 そんな俺の予想は、あっけなく裏切られた。

 

「おほー。ヤマトっち、やっる~ぅ♪」

「まさかまさかの威力っすねえ」

「えっと、これってぼくが倒したって言っていいんでしょうか……」

 

 砕け散った火炎ビン。

 その着弾地点から、紅蓮の炎がアスファルトを舐めるように伸びていった。

 大昔に理性だの知性だのを失ったフェラル・グールは、自ら炎の中に分け入って俺達に襲いかかろうと駆け出したが、その途中でHPをすべて失ってアスファルトの上に崩れ落ちている。

 

「ヒデエ臭いだな」

「威力もエグイよねえ。そりゃ悪党が好んで使うはずだよ」

「まだ燃えてるっすけど、延焼しそうな物もないんで先を急ぎましょうっす」

「おう。んじゃヤマト、次はこれを使え」

「そ、それってまさか手榴弾ですかっ!?」

「さすが。物知りだなあ」

「こんなのスワコさんの店で買ったら、80円はしますよっ!?」

「いいんだよ。ヤマトが山師になるってんならこれはいい売り物になるが、本当に兵士になるつもりならただの消耗品でしかねえんだ。今のうちに試しとけ」

「……ありがとうございます」

「いいさ。そんで次はグレネードライフルだ」

 

 昨日と一昨日は潜った遠州鉄道の高架橋。

 今日はそれを越えるのではなく、その下を並走するような形で進む。

 

 この先にはいくつもの戦前の駅があり、他はまだわからないが最初の駅には悪党が住み着いているらしい。

 手投げのグレネードだけでなく、グレネードライフルだってすぐに試せるだろう。

 

「最初の交差点には妖異の姿がないっすね」

「だねー。でもアキラっち、そこのお店はホントに漁らなくっていいの?」

「ありゃ弁当屋だからな。今日の狙いは、タバコ屋とか酒屋だ。梁山泊に流す調味料も、あんま多すぎたら値崩れを起こすだろうし」

「あいかわらずケチっすねえ」

「うっせ、ほっとけ。スカベンジャーがケチで何が悪い」

 

 2つ目の交差点。

 そこにはしっかりと教材がいてくれた。

 フェラル・グールではなく、モングレルドッグではあるが。

 

「ワンコが2匹っすね」

「ど、どうしましょう、タイチ先生」

「はい?」

「手榴弾なんて使ったら、飢犬の肉が取れません……」

「ヤマトまでケチな事を言うんじゃないっす。いいから教えた通りに」

「ううっ。もったいない……」

 

 足元を見られて相場よりだいぶ安い賃金の日雇い仕事でどうにか食い繋いでいたヤマトからすると、モングレルドッグの焼き肉ですら大が付くほどのご馳走であるらしい。

 

 その迷いを振り切るように、ヤマトは安全ピンを抜いて安全把を握り込んだ手榴弾を振りかぶった。

 

「わくわく」

「いっけえっ!」

 

 放たれた手榴弾が弧を描き、交差点の真ん中で朝寝を決め込むモングレルドッグの向こうでアスファルトを叩く。

 

「あはは。またハズレ~♪」

「要練習っすねえ」

 

 アスファルトの上で2度跳ねた手榴弾が爆発。

 その時にはすでにヤマトはホクブ機関拳銃のグリップを握っていて、憂さ晴らしでもするかのようにトリガーを引いた。

 

「射撃のセンスは抜群なのになあ。なんで投擲になるとノーコンなんだか」

「ぼくが聞きたいですっ。タイチ先生、もう1匹もいいですかっ!?」

「もちろんっすよ」

「撃て撃て~い」

 

 危な気なくモングレルドッグを倒し終えたヤマトは、苦虫を嚙み潰したような表情のままマガジンを交換し、ホクブ機関拳銃をミキの店で買ったホルスターに納めてから水筒の水をグビリとやって大きく息を吐く。

 

「俺達もタバコ休憩にすっか」

「そうっすね」

「わぁい」

 

 モングレルドッグが道を塞いでいたのは電車通りに入って2つ目の交差点で、その次の交差点に戦前の八幡駅、悪党の根城がある。

 この距離で手榴弾を使ったのだから、あちらの耳にも爆発音は届いているだろう。

 小休止をして少し進んだら、ヤマトにとっては初の対人戦だ。

 

「なあ、ヤマト」

「はい」

「悪党なんて存在に墜ちたとはいえ、人を殺すのって嫌じゃねえのか? 今ならまだ引き返せるぞ?」

 

 ヤマトが微笑む。

 それは、酷く大人びた微笑だった。

 

「悪党がいなければ、父さんと母さんは死ななかった。そしてぼくが1人でも多くの悪党を殺せば、ぼくみたいに孤児になるしかない子供が減るかもしれないんです。迷いなんて、欠片もありませんよ」

「……そうかい」

「ええ。でも、お心遣いありがとうございます」

「そんなんじゃねえさ」

 

 タバコをやらないので周囲の警戒をしているヤマトに、リンコさんから譲られたグレネードライフルを渡す。

 手榴弾の時はタイチに任せたが、これの説明は俺がした方がいいだろう。

 

「……とまあ、そんな感じだ。これは貰い物だからくれてやれねえが、気に入ったら磐田の街の店に在庫があるらしいからそれを買えばいい。まず試してみな」

「ありがとうございます」

 

 


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