Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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東名浜松北バス停

 

 

 

「来たかチョーさん待ってたドンってなあっ!」

 

 ハンドガンを多用するPerkビルドのおかげか、だいぶHPが減っていた中央分離帯のラッドスコルピオンは1射で倒れ、右手に握ったデリバラーが6度連続して小さく跳ねてタイチの正面に現れたラッドスコルピオンが腹を見せて路肩に転がる。

 その攻撃が終わった瞬間、GRIM REAPER'S SPRINTが発動。

 

 ツイてる。

 これがLUCK極振りの強みだと叫びたいくらいだ。

 

「リロードOKっす!」

「おう。最低でもあと4匹はこっちで殺れるぞ!」

 

 失ったAPが満タンまで回復したので、約6射で1匹。

 それに切り札として貯めていたクリティカル・メーターがあれば、3回のクリティカル攻撃でラッドスコルピオンは瞬殺できるか、HPのほとんどを削れるだろう。

 その途中でまたGRIM REAPER'S SPRINTが発動してくれたら、それプラス数匹は倒せるはずだ。

 

「これが、小舟の里の双銃鬼……」

 

 タイチのリロードが終わったので目の前の中央分離帯から跳び出したラッドスコルピオンへ通常攻撃をしていると、そんなヤマトの呟きが聞こえた。

 

 だから俺をそんな中二臭い名前で呼ぶんじゃねえと、ゲンコツでも落としてやりたい。

 

「いい気分が台無しだぜ、ったく」

 

 そのラッドスコルピオンを倒し切り、リロードする代わりにデリバラーをコンバットライフルに変更。

 

 くーちゃんにチラリと視線をやるとサブマシンガンを振るようにしてマガジンを落とし、口に咥えていた新しいマガジンを手に取ったので、その隙を埋めるため左の中央分離帯から出たラッドスコルピオンに銃口を向けてトリガーを引いた。

 

「ああっ、横取り禁止だよぅ!」

「早い者勝ちさ」

「いくら10mmピストルでも、ノーマルじゃこんなのはキツイっすねえ。またリロードっす!」

「はいよー」

 

 コンバットライフルの弾を撃ち切ったらデリバラー。

 通常攻撃にVATSを織り交ぜてデリバラーを撃ち切ったらコンバットライフル。

 

 そうやって戦闘を続けていると、不意に新手のラッドスコルピオンが姿を現さなくなった。

 

「お、終わったんでしょうか……」

「どうだろうなあ」

「とりあえず、一息つけるのはありがたいっすよ」

「まあ、これだけ倒しちゃってればねえ」

 

 たしかに。

 

 ヤマトを囲むようにして三角形の陣形で銃を撃ちまくっていた俺達の周囲には、数えるのも面倒なほどのラッドスコルピオンの骸が転がっている。

 

「なんにせよ、リロードなんかを済ませてから水分補給だな。たった数分の戦闘だったってのに、全員笑えるくれえ汗だくだぜ」

「夏っすねえ」

「うー、オフロ入りたいよぅ」

「東名高速の高架に上がる前に休憩を挟むつもりだから、室内で休む事にすれば水浴びはできるさ」

「やあったぁ♪」

 

 たんまり消費した全員分の弾薬をそれぞれに渡し、水を飲みながらヤマト以外の3人がタバコを1本灰にする。

 そんな小休止を終えても、ラッドスコルピオンはもう姿を現さなかった。

 

「それじゃ、授業の続きっすね」

「面倒なら俺とくーちゃんが突っ込んで薙ぎ払うぞ?」

「できれば、やらせてください。ぼくが楽にしてあげたいんです」

「……はいよ。急ぐ必要はねえからな」

「ありがとうございます」

 

 ボーリング場の駐車場には、まだフェラル・グールの姿が見えている。

 ラッドスコルピオンのラッシュを迎撃した銃声に反応する事すらできなくなった元日本人を、ヤマトは丁寧な射撃で1人ずつ撃ち倒していった。

 

「駐車場なのにこんなじゃ、ボーリング場の中は漁らねえ方がいいか」

「なんでしたっけ、ナントカボール? だかはいいんっすか?」

「ピンボールな。今日はいいさ。ミサキのファストトラベルがあれば、いつでも漁りに来られるからな」

「なるほど。なら、まずはそのファストトラベル先を確保っすね」

「そうなるな」

 

 ロードマップで見た感じではこの広い敷地のボーリング場の斜め向かい、道の反対側に大きなスーパーマーケットがあり、それは東名高速の高架沿いに建てられている。

 そして東名高速の高架に並走する形で細い道が伸びていて、それを右に少し行けば目的地のバス停があるはずだ。

 

 戦前の高速道路。

 石油資源が枯渇して、一般車両までが核エネルギーを動力とするため、小型車ですらとんでもない値段になってしまった世界。

 なので車がずいぶんと少ないこの世界ではあるが、それでも高速道路、それもそのトンネルなんかにはどうしたって期待をしてしまう。

 

「アキラっち、なんか笑ってるんですけど……」

「このキモイ笑顔は、なんかを妄想してる時の顔っす」

「ふぅん。くーちゃん、水浴び中に襲われちゃったりするのかにゃあ」

「ないと言い切れないから怖いっすねえ」

「や~ん。アキラっちのエッチ~♪」

「ねえよ! あとさらっとキモイとか言ってんじゃねえ、泣くぞ!?」

 

 ボーリング場、スーパーマーケット、どちらも駐車場のフェラル・グールだけを倒し、東名高速に並行して伸びるだいぶ細い道へ。

 

 すっかり水が乾き切ってしまった戦前の田んぼと空き地と民家の前を通って、東名高速を潜る小さなトンネルのある交差点に辿り着く。

 

「へえ。ちっちぇーけど印刷所らしいぞ、この建物」

「すぐそばが東名高速に徒歩で上がれるバス停だし、ファストトラベル先としては文句のつけようがないっすね」

「おう。まず、ここの作業場で一休みだな」

「なんで民家じゃなくって印刷所の、それも作業場? くーちゃん水浴びしたいから民家の方がいいんですけどー」

「印刷機が使えそうか見たくってよ。ウォーターポンプなら、便所にでも設置してやるから」

「えー」

 

 印刷所は小さな建物で駐車場も狭いが、印刷物をトラックなんかに積み込むための出入り口はそれなりに大きかった。

 そのドアを少し開けて中を確認し、フェラル・グールすらいないのを確信したので中に足を踏み入れる。

 

「ヤベエ」

「ん?」

「……どれが印刷をする機械なのかすらわかんねえ」

「そのうちセイちゃんを連れてきて見てもらうしかないっすね」

 

 仕方ねえかと印刷機は諦め、ガラス戸から中を覗ける事務所へと向かう。

 

 浜松の街を出た時から尾行には充分に気をつけ、途中で倒したプロテクトロンをピップボーイに入れたのだし、印刷機は特定できずとも機械類をすべて持ち帰ればいいような気はするが。

 

 書きかけの書類や湯飲みが残されている事務所にもフェラル・グールはいなかったので、適当なデスクにそれぞれが座って思い思いの休憩時間を過ごす。

 水浴びをするためのウォーターポンプは、トイレではなく事務所の奥にあった給湯室に設置しておいた。

 

「アキラさん、東名高速の様子を見た後はどうするんですか?」

「ちょっと待ってくれ」

 

 ロードマップを出す。

 

「ふーっ、サッパリしたぁ♪ ってアキラっち、なんで頭なんか抱えてんのー?」

「ロードマップ見てた。したら東名高速を東に向かうと、どう見ても高架が崩れてねえ範囲にトンネルがねえんだよ。なんだこりゃ。これだから、本州ってのは土地が広すぎて訳がわかんねえ」

「え、えっと。なら西はどうなんですか?」

「危険が多そうなパーキングエリアだのインターチェンジだのを過ぎて、それどころか浜名湖を渡った先までトンネルはありそうにねえ……」

「あっちゃあ。やっぱ、そう簡単に動く車両は増やせそうにないっすねえ」

「だなあ。これなら探索だけじゃなく狩りもするつもりで山に向かって、そのついでにトンネルを探した方が効率は良さそうだ」

 

 小舟の里の武装バスや磐田の街に回すトラックを発見したトンネルのように、ある所には状態の良い戦前の車両がまだかなり存在するはず。

 

 2つの街に天竜を加えた共同体のような勢力が浜松の街を凌ぐほどの力をつけるつもりなら、車両はいくらあっても多いという事はない。

 これからも地道に捜索はしてゆくつもりだ。

 

「東名高速を探索するんじゃないとすると、次の候補はどこになるんですか?」

「……上島駅の次、自動車学校前駅かねえ」

「ならエオン集落にも?」

「くーちゃんとヤマトの意見次第だな。俺とタイチは、さっきまでそんな集落がある事すら知らなかったんだし」

 

 2人が考え込む仕草を見せる。

 

「悪い噂は聞かない。でも、いい噂もないんだよねえ」

「しかもエオン集落は街の外に交易所や宿屋があって、余所者は街の中には入れないんですよね?」

「らしいよー」

 

 だいぶ排他的な集落か。

 ならわざわざ嫌な思いをするために、こちらから出向く必要はあまりなさそうだ。

 

 そんな感想を述べると、くーちゃんとヤマトは頷いて同意を示してくれた。

 

「んじゃ四ツ池とエオンの集落はとりあえずシカトで。そうすっと時間が余っから、ヤマトの訓練がてら北にでも向かうか。東名高速から向こうなら、新制帝国軍はまずいねえって話だし」

「って事は使うんっすか、バイク?」

「くーちゃんはまだしも、ヤマトはメガトン特殊部隊に入りてえらしいからな。戦前の車両にも慣れてもらわねえと」

「うっわ、めっちゃ楽しみなんですけど~♪」

「ですね」

 

 クニオはマニキュアなんかを嬉々として塗るように戦前の品が嫌いでなないようだし、知的好奇心の強いヤマトもバイクに乗れると聞いて目を輝かせている。

 ならばさっさと東名高速の様子を見て北に向かおうと、午前中最後の休憩を終わりにして印刷所の事務所を出た。

 

「な、なんだこりゃ……」

「オイラも特殊部隊が探索に出るようになってからヒマを見て戦前の本なんかを読んでるんで高速道路が何なのかは知ってるっすけど、そこにこんな簡単に入れちゃっていいんっすかねえ」

 

 目的地の『東名浜松北バス停』に徒歩で上がる手段は、ちょっとした斜面にありふれたコンクリート製の短い階段があってそこを1分とかからず上がり切るだけちう代物だった。

 一応は階段と東名高速を隔てる鉄製の扉が設置されてはいるが、そこには警備プロテクトロンの1体すら配置されていない。

 

「くーちゃんがいっちば~ん♪」

「おい、ちゃんと敵がいねえか見ろよ!?」

「わかってるって~♪」

 

 クニオがスキップでもするような足取りで、階段を身軽に上がってゆく。

 

 くっ……

 どうしてだ。

 どうして相手が男なのに、階段でパンツが見えそうになると自然とそこに目が行くんだ……

 

「まーたバカな独り言を。呆れるしかないっすね」

「あはは」

 

 


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