Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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MMO経験者の伝統的狩猟

 

 

 

「それじゃ行くぞ。今日の予定は、ミーティングで話した通りだ」

 

 シズクの号令で、食料調達部隊の連中が歩き出す。

 ミサキはドッグミートとEDーEを引き連れながら白衣を羽織ったセイちゃんと肩を並べて仲良く話しているので、俺は最後尾をのんびりと着いて行く事にした。

 狩場はあの橋のバリケードの先だろうから、そこまでは大した危険もないはずだ。

 

「これから出発か、青年」

「ジンさん。おはようございます」

 

 黒いスーツで日本刀を携えた老人に軽く頭を下げて挨拶をする。

 鷹揚に頷いたジンさんは、途中まで一緒だからと俺の隣を歩き出した。

 

「マアサに聞いたが、武器の試しをするとか?」

「ええ」

「狩り場は、ワシの持ち場のほんの少し先じゃ。見物をしても?」

「どうぞどうぞ。防衛部隊の指揮官に見てもらえるなら一石二鳥です」

「ところで、その武器というのは……」

 

 目を細めながら春らしい陽気の空にポツンとある雲を眺め、ジンさんが呟くように言う。

 大正義団とやらになってしまった連中が小舟の里で何の仕事をしていたのかは知らないが、武器を持ち逃げ出来てしまうくらいだからジンさんの下にいたのかもしれない。

 

「持ち歩き出来るような物じゃありませんし、俺以外じゃ使い方すら理解できませんよ。ああ、セイちゃんは別かもしれませんけど」

「セイはいいんじゃ。自慢の娘じゃからのう」

「……マアサさんの旦那さんだったんですか、ジンさんって」

「3人目はちとキツイ。青年、里にいるうちにシズクとセイを孕ませぬか?」

「どちらも、俺なんかにはもったいないですよ」

「どこがじゃ。青年は、腕の良い山師であろうに」

「まだまだです。ホントに」

「場数など、生き残れば自然に踏んでゆく。大切なのは覚悟、それに生まれ持ってそれまで育んだ性根のまっすぐさよ。覚悟がなくては何も為せぬし、性根が歪んでいれば為すべき事を見誤る。強さなぞ二の次じゃ。男の生き様とは、そんなものぞ」

「……覚えておきます」

「うむ」

 

 地下道を抜け、駅の通路を使って線路を越える。

 ギイイイッっと音を立てて開いたフェンスから外に出ると、それまで軽口を叩いたり防衛部隊の女に手を振ったりしていた食料調達部隊の連中が一斉に緊張感を漂わせた。

 その気の引き締め方は、素人の俺から見ても悪くない。

 

「バリケードを出た途端にこのピリッとした空気感、いいですね」

「里で最も死亡率が高いのが、この食料調達部隊じゃ。酒を酌み交わすたびに、生き急ぐなと説教をしたくなるような若者ばかりよ」

 

 老人から見てそんな若さは眩しくもあるのだろうが、それよりも危なっかしくて心配になってしまうものなのだろう。

 ジンさんの口調には、優しさが滲み出しているように思えた。

 

「アキラ!」

「あいよ。じゃあ、俺は準備があるんで」

「うむ。じっくりと見させてもらおう」

 

 俺だけがダラダラ動くのも申し訳ないので、駆け足で先頭のシズクの横に並ぶ。

 ミサキとセイちゃんは、食料調達部隊の連中に守られるような位置なので安心だ。怖いのは今から出した物を見て欲を出した食料調達部隊の連中がミサキを人質に取ったりする事だろうが、そこはシズクとセイちゃんを信用するしかない。

 それでも視線で、ドッグミートとEDーEにミサキを頼むぞと伝えておいた。

 

「あたし達はどうすればいいんだ?」

「いつものように準備しててくれ。ただし、今シズクと俺がいるここより先には絶対に前に出ないで欲しい」

「わかった。そう厳命しておく」

「頼むよ。俺は準備を始める」

「ああ」

 

 俺達の少し先に、車の残骸が1つだけ。

 それ以外に橋の上にはゴミ1つない。

 なのでその車の残骸の少し先、橋の中央寄りに2台のマシンガンタレットを設置した。

 そのまた先にも、間隔を広げてヘビーマシンガンタレットを2台。

 最前列には橋の両端にミサイルタレットとジェネレータ:小を設置して、それぞれを電線で繋ぐ。

 

「よし、低レベルのマイアラークを狩るならこれで充分だろ」

 

 車の残骸まで戻り、その屋根に上がってスコープ付きレーザーライフルを出した。

 

「お、おい。あれって」

「知ってんのか?」

「賢者は敵だけを狙って銃を撃ちまくる機械と、さんざん戦ったらしくてな。それが自分に作れれば簡単に小舟の里を防衛可能なのにと、悔しそうに言っていたよ」

「考える事は同じなんだなあ。俺も3をやりながら思ったもんだ」

「3?」

「こっちの話さ」

 

 会話をしながら、スコープでマイアラークを探す。

 潮の満ち引きの影響でもあるのか川には底の砂が所々顔を出していて、その盛り上がりが不自然な場所を見ながらVATSを起動するとマイアラークの名前とHPバーがバッチリ見えた。

 

「マイアラークを見つけた。引っ張るぞ?」

「早いな。総員、戦闘準備。ただし、この車より前には絶対に出るんじゃないぞっ!」

 

 短く大きな食料調達部隊の連中の返事が聞こえたので、立射姿勢で銃身の根元にある安全装置を解除した。そのままスコープのレティクルの中心にマイアラークを捉え続け、息を止めてそっとトリガーを引く。

 

 ビャンウンッ

 

 そんな発射音を聞きながらレーザーライフルの、実弾ライフルよりは小さそうな反動を逃がす事を意識したのだが、それが上手く出来たのかすら俺にはわからない。

 だがレーザーは、マイアラークに見事に命中した。

 このクリーチャーは体の大部分が硬い殻で覆われているので、減らせたHPは1割にも満たないが。

 

「お、2匹も釣れたな。ラッキーラッキー」

 

 俺が撃ったマイアラークはきょろきょろと周囲を見回したかと思うと、すぐに俺を見つけて崩れている川岸の壁を上って橋の向こうからこちらへ回り込もうと動く。

 その途中で、撃たれたマイアラークと同じく砂の中に身を隠していたもう1匹もマーカーが赤になって俺と敵対関係になったのだ。

 あとは2匹がタレットの攻撃範囲に踏み込めば、それで終わり。

 

「こんな遠くから、安全にカイティングを。やはり銃は凄いな……」

「大正義団、か。そろそろ近いぞ。音が凄いから、驚かねえように言っといてくれ」

「わかった。総員、大音量に注意っ!」

 

 シュババッ、シュババッ!

 

 そんな音を鳴らしながらミサイルタレットがミサイルを吐き出し、それは見事に先を行っていたマイアラークに命中する。

 

「うっは。最初の連射でくたばってんじゃんか。オーバーキルにも程があるぜ」

「な、な、な……」

 

 シズクは驚いて、マトモな言葉すら発する事が出来ないらしい。

 そうしている間にもう1匹のマイアラークも橋に足を踏み入れ、ミサイルを殻で守れない体の前面に浴びてHPバーをすぐに消し飛ばされた。

 

「うし。シズク、隊員を1人でいいから貸してくれ。初めて見たんだからタレットにビビるのは仕方ねえが、それでもここまでマイアラークを引き摺って来れらるくらいには肝の座ったヤツがいい」

「あ、ああ。タイチ、今日はアキラの下につけ。狩りが終わるまでだ」

「オイラっすかあっ!?」

「貧乏くじを引かされたなあ。歳も同じくれえだろうし、よろしく頼むよ。タイチ」

「はあ。アキラでいいんっすよね。マイアラークを引き摺って、ここまで運べばいいんすか?」

「そうだよ。片方は俺が引っ張るさ」

「あのシュバババンがオイラ達を撃ったりは?」

「大丈夫だって納得させるために、俺も一緒に行くんだよ。ああ、でも俺やミサキ、犬やアイボットに敵意を持ったら自動で攻撃されるから気をつけろ」

「こんなん使う山師に敵意を持てるくらいなら、1人で浜松城に斬り込んで英雄になってるっすよ」

「手柄を立てて、口説きてえ女でもいるんかよ?」

「それは内緒っすねえ」

 

 同年代の男同士、気軽に話せるようになっておきたいので聞きながら車の屋根から下りると、タイチは後ろの方で弓を持っている小柄なメガネをかけたおさげの女の子を見ながらそう言って俺に歩み寄った。少しばかり汚れた薄手の白いセーターを着ているのだが、その胸のふくらみが見事なのはここからでも見て取れる。

 

「あれか。かわいい子じゃんか、巨乳だし」

「手を出したら怒るっすよ?」

「大丈夫だっての。俺、童貞だから」

「マジっすかっ!?」

 

 童貞だという部分はタイチの耳に顔を寄せ、他の連中には聞こえないように言う。

 男の子というのはたとえ相手が誰であったとしても、心の中のどこかでコイツには負けたくないと無意識に思っていたりするものだ。

 なので見栄を張ったりせず自分の短所を正直に言えば、それで仲良くなれてしまう事も多い。その短所をからかったり周囲の人間に吹聴したりするような相手なら仲良くなる必要もないので、それを試すにも簡単なやり方だ。

 

「マジマジ」

「人は見かけによらないっすねえ」

「誰にも言うんじゃねえぞ?」

「当然っす。それより給料が出たら、2人で飲みに行きますか。パーッと」

「いいねえ」

 

 銃弾を吐き出していないマシンガンタレットとヘビーマシンガンタレットの前には簡単に出たが、ミサイルタレットの射線に入る前にタイチは額の冷や汗を拭って生唾を飲み込んだ。

 

「そう緊張すんなって。俺達と敵対してればタレットは後ろを向いて、タイチはとうにくたばってんだからさ」

「マジっ!?」

「マジマジ」

 

 俺が先に立ってマイアラークに近づく。

 

「え、あれ? なら、マイアラークがオイラ達の後ろから来たら……」

「撃たれるなあ」

「うひゃあっ」

「ミサキを守ってるアイボットは索敵が得意だから、そうなる前に教えてくれるさ。それにシズクが指名するくらいだ、タイチも戦闘は得意なんだろ?」

「まあそうっすねえ。隊長に男が出来て妊娠でもしたら、オイラが食料調達部隊を預かる事にはなってるっす」

「なんだ。シズクは男いねえのかよ。あんなワガママなおっぱいと尻が泣くぜ」

「顔もカラダも最高っすけど、口説いた男を何人も病院送りにしてればね。怖くて口説けないっすよ」

「そんなに激しいのかよ、夜のアレが?」

 

 タイチが笑いながらマイアラークの足に手をかける。

 俺も3しかないStrengthを恨めしく思いながら、全力でマイアラークを引いた。

 

「隊長と寝た男は今までいないって話っすよ。なんせ口説いた途端、あたしより強いか確かめてやるって言ってボコボコにぶん殴るんっすから」

「うへえ。おっかねえなあ」

 

 


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