Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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変態と呼ばないで

 

 

 

 タイチと1匹ずつマイアラークを引き摺って一番手前のタレットの向こうまで戻ると、すぐに食料調達部隊の連中が機敏に動いて運ぶのを代わってくれた。

 布巾を出して生臭くなった手を拭いてから、タバコを咥えて火を点ける。

 

「タイチ、ほれ」

「わあ、タバコっすか。しかも、戦前の? ありがたいっすー」

「それは開けたばっかだから、後ろの連中にも回してやってくれ」

「わかったっす」

「シズクも、ほら。新しいタバコの箱とライターだ」

「礼を言う前に、マイアラークを引き摺りながら2人で笑ってた理由を聞いておこうか?」

「ただの雑談だよ。なあ、タイチ?」

「そ、そうっすよ」

「へえ」

 

 美人がジト目で睨むのはやめて欲しい。

 俺は美人を責めながらあんな事やこんな事をするのを想像するのが好きだが、その逆でも愚息が反応してしまう敏感なお年頃なのだ。

 

「それよりタレットが俺達を攻撃しないのは証明できたよな。次からは、交代で数人を出して引き摺って来させてくれ。俺は色男だから、力仕事が苦手なんだよ」

「それはいいが、まだカイティングまで任せていいのか?」

「当然だ。ここから引っ張れるうちは任せてくれ」

「助かるよ。こんな楽な狩りは初めてだ。あたしにも、こんな力があればな……」

 

 今までにここや別の場所で部下を死なせた事でもあるのか、どこか後悔したような表情でシズクが言う。

 なんと言葉をかけても、その後悔を消す事なんて俺にはできやしないだろう。なので軽く頭を撫で、咥えタバコでまた車の屋根に上がった。

 俺とミサキがいつまで小舟の里で暮らすかなどわからないが、俺達がいなくなってもタレットを上手く使えれば狩りも里の防衛もこれまでよりずっと楽にはなるだろう。

 防衛に関しては相手が対策を立てて何か仕掛けるまでの間に、小舟の里が力を蓄えられるかどうか。それが重要になって来るはずだ。

 

「次、やるぞ?」

「ああ」

 

 俺が屋根でタバコを踏み消してまたスコープ付きレーザーライフルを出すと、シズクが咥えたタバコの灰が春の風に吹かれてポトリと落ちた。

 そういえば、こちらに来てからタンポポを見ていない。

 なぜかそんなどうでもいい事を考えながら、俺はトリガーを引いた。

 

「いやいや、だから女はおっぱいでしょって!」

「ふはは。まだまだ若いのう、タイチ。尻よ尻、ケツ。女はケツなんじゃよ。のう、青年よ?」

「違いますよ、ジンさん。パンツ、それこそが至高」

「マニアックじゃのう」

「……さすがっすねえ、アキラ」

 

 里から届いた昼メシを食い終え、男連中で車座になってこんなバカ話をするのは悪くない時間だ。それにしてもタイチ、さすがってのは「さすが童貞」って意味か。もしそうなら、ミサキじゃないがぶん殴ってやる。

 ちなみに午前中の狩りの成果は、マイアラーク8匹。これは今までの新記録ペースだそうだ。

 なので、食料調達部隊の表情は明るい。

 

「アキラ、ちょっといいか?」

「あいよ」

 

 女達も少し離れた場所で地べたに座って食後のおしゃべりに興じているのだが、立ち上がったシズクがそう声をかけてきたのでそちらへと移動する。

 ちょうど男達と女達の中間での立ち話となる訳だが、誰もが口を閉ざして俺とシズクを注視しているようだ。

 

「午後からの狩りなんだが」

「ああ」

「橋からカイティング出来るマイアラークがもういないなら、場所を変えるか遠くから釣るかしかない。アキラはどっちがいいと思う?」

 

 注目されているのは、それでか。

 バリケードから離れてカイティングとなれば、それだけ危険も増す。今までもそれをやって、何度も被害を出した苦い経験があるのだろう。

 

「安全なのは狩り場の変更だろ」

「やはりそうか」

「それにな、このタレット達はクリーチャーか敵に壊されるまで、24時間不眠不休でここを守り続けてくれるんだよ。手入れの必要すらなくな。たまに防衛部隊の連中に様子を見てもらって、マイアラークの死体がありゃ人数を出して回収してもらえばそれでいい」

「なんっ」

「そ、それはまことか、青年っ!?」

「ええ。だから狩り場を変えてこういう場所を増やしておけば、それだけ小舟の里が安全になるし食料の調達が楽になるんです」

「おおっ」

「でもまあ、それだけでいいのかって話なんですけどね」

「ど、どういう意味じゃ……」

 

 俺はミサキ達と見つけた交番で、この周辺の地図を目にしている。

 それにはシズクやジンさんが喉から手が出るほど欲している物がありそうな施設が、バッチリと明記されていたのだ。

 

「ジンさん、それとタイチもこっちに」

「う、うむ」

「わかったっす」

「アキラ、無茶するつもりならぶん殴ってでも止めるけど?」

「あー。じゃあ、ミサキも来い」

「セイもいい?」

「いいぞ」

「やった。いこっ、セイ」

 

 地べたに座り込み、ピップボーイのインベントリからえんぴつとクリップボードを出した。クリップに挟まっていた紙を裏返して、ざっとだがこの辺りの地形を書き込む。

 

「これを見てくれ。この大きいのが小舟の里、小さい○が駅。なだらかな線が線路で、ここが今いる橋だ。浜名湖に繋がってる川の形は、うろ覚えなんで適当な」

「ふむ。上手いもんじゃのう」

「だねえ。さすがオタク」

「はったおすぞ、ミサキ?」

「あははっ。冗談だって」

「ジンさん。後ろに見えるバリケードって、どの辺りまであるんです?」

「地下道の向こうの橋の少し先から、駅が外周にあたる半円状じゃ」

「やっぱりか。セイちゃん、お師匠さんはこの辺をガッツリ探索したって言ってた?」

「ううん。浜松の街ばかり行ってたし、そっちすらまだまだお宝は残ってるって」

「へえっ。あたし達もいつか行こうね、アキラ」

「ああ。んで本題なんだけど、警察って知ってる?」

 

 頷いたのは、セイちゃんただ1人。

 

「もしかして」

「地図は見ただろ、ミサキも」

「警察署あったねえ。そういえば」

「それも、かなり近所にな。位置はここらだ」

 

 橋を守りながら駅を通る半円の、ほんの少し右。そこにバツ印をつける。

 

「そこに行って、シズクさん達の武器を手に入れようって事かあ」

「武器じゃと?」

「おとーさん、警察は戦前の防衛部隊」

「まことかっ!?」

「つまり、そこには……」

 

 シズクの瞳が輝いている。

 

「あるはずだ。銃と、それなりの弾薬が」

「こんな近くに、そんな場所が……」

 

 たしかに駅の前を通る東海道をほんの少し浜松方面に進んだだけで、目的地である湖ナントカ警察署は右手に見えるはずだ。

 シズク達からすれば、意外なんて話ではないだろう。

 

「敵がいるとすればグール?」

「おそらくな」

「狭い室内であれと戦うのかあ。ゾンビのくせにすばしっこいんだよねえ」

「そこはアタマを使おうぜ、ミサキ。今してる狩りの場所をバリケードのある東海道に移して、獲物をグールに変更すればいいだけじゃねえか。それに浜松方面から新制帝国軍がトラックで攻めて来るとしたら、どう考えても東海道を西に向かって直進だろ。トラックで小舟の里に乗り込むつもりならもう少し手前で右折して橋へ向かうだろうけど、駅に防衛部隊がいつも詰めてるのを知ってるなら挟み撃ちを警戒してこっちから攻めて来る可能性もある」

「ふむ。悪くないのう」

「そうっすねえ」

「ま、待て待て。今日はアキラの武器を試して、それを提供してもらう代わりにあたしの部屋の隣を2人に使わせようって話だったんだぞ。正直、長もあたしも銃の1つくらい渡されて終わりだと思ってたんだ。それがあんな、とんでもないタレットとかいうのを使えと言われたら、その対価がっ」

 

 そういえば、そんな話だったなあ。

 

「関係なくない? アキラがくれるって言うなら、貰っておけばいいじゃない」

「いやいや。はいそうですかと受け取れるか、あんな物っ!」

「って言われてもなあ」

「ね。ならどうしろって言うのよ、シズクさん?」

「里に金なんて、むむむ……」

「大丈夫。アキラには、セイをあげる」

「……は?」

「それは良いのう。セイだけじゃ足りぬじゃろうから、シズクも付けようぞ。がはは」

 

 ロリとバインボインの従姉妹丼?

 やめてください、おっきしてしまいます。

 

「なに鼻の下伸ばしてんのよっ!」

「がっふぁ……」

 

 デスクローガントレットは装備していないとはいえ、Luckガン振りのプレイヤーをぶん殴るStrengthガン振りがいるか。

 そんな気持ちで痛みを堪えながらミサキを見るが、フンと鼻を鳴らしながら顔を背けられた。

 くそっ。コイツ、またお漏らしさせてそのパンツを剥ぎ取ってチューチュー吸ってやろうか!

 

「うっわ、ド変態っすねえ」

「アキラはお漏らしが好き。うん、覚えた」

「……あれ?」

「声に出ておったぞ」

「くっ。まさかそういった趣味の男に嫁ぐ事になるとは。だが、これも里のためか」

「なにバラしてんのよ、バカーっ!」

「あぶねっ。お、落ち着けミサキ。頼むから」

「なによっ!」

 

 怒りをなだめるのにはずいぶんと苦労したが、呆れ顔のタイチに助けを求めて夫婦喧嘩は犬も食わないと言われたらミサキは顔を真っ赤にして俺を殴ろうとするのをやめてくれた。

 イマドキのJKなのに処女だと言っていたので、俺のような冴えない見た目の変態とでも夫婦扱いされたとなるとテレてしまうらしい。俺の中でただの知り合いでいつか友人になれそうな男というタイチの格付けは、命の恩人へと一瞬でランクアップした。

 

「ほっほ。それでは移動するとしようかの、婿殿」

「いやいや。まだまだ結婚なんてしませんからね、俺?」

「当たり前よっ!」

「どうしてだ。アキラほどの山師なら、嫁の3人くらいいても不思議じゃないだろうに」

「そうっすねえ」

「ミサキも入ってんのかよ。俺は物資を溜め込むしか取り柄のないスカベンジャー、じゃなかった。山師だからな。俺なんかが相手じゃ、ミサキ達がかわいそうだっての」

「まあ、お漏らしパンツをチューチューしちゃう変態っすもんねえ」

「うっせ、バーカ! 決めた。オマエの名前、今日からバカイチな!」

「子供じゃないんっすから。ほらほら、行きますよー。ド変態さん?」

「くうっ。違うんだよ、俺はスカトロ好きの変態じゃねえんだ。ただ、ミサキくれえの美少女のならお漏らしパンツもご褒美ってだけで!」

「世の中じゃ、そういう人をド変態って言うんっすよー。いいから行きましょうねー」

「強めのお薬お出ししときますねー、みたいに言うんじゃねえっ!」

 

 タイチに腕を掴まれて立たされたが、俺が駅の方向を見るとそちらにいた食料調達部隊の女性陣が一斉に顔を背ける。

 

「……あれ?」

「良かったっすねえ。明日には新しく住み着いた凄腕の山師はとんでもないド変態だって噂が広まるから、飲みに行っても特殊な趣味を持つ女しか寄って来ないっすよー」

「やったな、ミサキ。浮気をされる心配は、これで限りなくゼロに近くなったぞ。3人で末永く、とんでもない変態ではあるが尊敬するべきところも多い夫に誠心誠意尽くそう。これからよろしくな、第一夫人」

「ええっ、あたしが一番でいいのっ?」

「……驚くのそこかよ」

 

 


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