Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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迎え

 

 

 

 シズクがお母さんを連れて帰りました。

 

 無線でマアサさんにそう告げるミサキの声を聞きながら、足音を荒げて寝室に駆け込んできたセイちゃんの小さな体を抱き締める。

 

「だいじょぶ。だいじょぶだから泣かないで、アキラ……」

「なんだよ、泣いてんのかよ俺。それも、家に帰った途端に」

「ん。びしょびしょ。いつもと逆」

「そりゃ恥ずかしくて顔を見せらんねえな。あと5秒だけ、こうさせててくれ」

「ん」

 

 こんな世界。

 それに、こんな時代だ。

 人はたやすく死んでゆく。

 でもだからこそ、せめて近しい人間だけは守りたい。

 

 そんなのは誰もが抱く感慨なのだろうが、心から思った。

 

「いや、思うだけじゃねえ。俺は誓うぞ。嫁さんだけじゃねえ。家族と仲間は、俺が守る。何があってもだ」

「ん。アキラなら、できる」

「できるかできないかじゃなく、やるんだよ。悪いがセイちゃん、こんな時だってのに俺は傍にいてやれない。ごめんな」

「アキラにはやるべき事がたくさんある。当たり前。夜だけ一緒にいてくれればいい」

「約束するよ。今夜はずうっと離さない」

「ん。待ってる」

 

 入り口にいるカナタ、嫁さん連中の姉貴分に目で『頼む』と告げて部屋を出る。

 すると家の前に完全武装したタイチが立っていて、物凄い目で睨まれた。

 

「よ、よう」

「言いたい事は山ほどあるっすけど、まず先にメガトン特殊部隊の出番があるかだけ聞いときたいっす」

「バスを出してもらいてえ。んでウルフギャングのトラックと2台で60ちょっとの人間を船外機工場まで。荷物もそれなりにある」

「なら、護衛は最小限っすね」

「そうなる。俺とジンさんもバイクで護衛に付くよ」

「了解っす。それと」

「うん?」

 

 タイチの視線が凄みを増す。

 誇張ではなく、視線だけで人が殺せそうなほどだ。

 いつぞやのクニオといい、どうしてこうこっちの戦う連中はこんな目ができるんだろう。

 

「その60人の中に頭でっかちのメガネと、顔とガタイだけはいい根性なしがいたりするっすか?」

 

 あまり考えずともわかる。

 頭でっかちはマコトで、根性なしはガイの事だろう。

 

「いるな。どっちも」

「ははっ。そりゃあ楽しみっすねえ。骨の2、3本はポキッとやっちゃわないと気が済まないっす」

「……あー。考えてみりゃ同年代だし、知り合いで当たり前か。だが、スティムパックで治る程度にしといてくれよ? あの連中にはこれから、船外機工場の守りを任せるつもりなんだ」

「心に留めておくっすよ」

「約束しろっての。俺はウルフギャングに頼んでくるから、準備ができたら店の前に」

「はいっす。3分とかからず行けるっすよ」

「頼もしいねえ、うちの特殊部隊は」

 

 とは言ったがわずか1分、もしかするとそれより早く、具体的に言うと俺がメガトン基地の通用口を出たと同時に駐車場から装甲バスのドアの開閉音とエンジン音が聞こえた。

 さっきミサキが飛ばした無線は通信機を持っている全員に聞こえていたとはいえ、呆れた身軽さだ。

 

「遅かったな、アキラ。出発の準備はできてるぞ」

 

 そう言ったのはウルフギャングで、その背後には荷台の天井にサクラさんを乗せたトラックがガレージから引き出されている。

 

「ウルフギャングもかよ。察しが早すぎだっての」

「誰かさんが何も言わずに街を出て、あんな手紙まで残していったんじゃなあ。誰だって臨戦態勢で知らせを待つに決まってる。で、俺の仕事は?」

「感心するよか呆れるぜ。60ちょっとの人間を、船外機工場まで運びたい。追撃の気配はなかったが、敵は迫撃砲まで使う軍隊みてえな連中だ。断ってくれてもいいんだぜ?」

「もし本気で言ってるんなら、今すぐその口をレールライフルで縫い付けてやるが?」

「じょ、冗談だって。頼むから手伝ってくれ」

「当り前だ。ほら、早く乗れ」

「サンキュ。バスの運転は誰がすんのかわからんが、ウルフギャングが先を走ってくれんのはありがてえ」

 

 もうすっかり乗り慣れた助手席に収まってドアを閉めると、メガトン基地の正門から装甲バスがゆっくりと姿を現す。

 どうやら運転は副隊長の1人であるカズノブさんらしい。

 

「運転はカズノブか。なら多少の障害物や路面の凹凸も問題なさそうだな」

「へえ。カズさん、運転の腕がいいのか」

「そうなるな。俺の生徒の中じゃ、タイチに次ぐ腕の持ち主だ」

「タイチがトップかよ。ほんっとなんでもソツなくこなすなあ、あいつ」

「ああ。さすがはアキラの親友、って感じだよ」

 

 親友。

 その語感がもたらすくすぐったさにどうしていいかわからずタバコを咥えると、箱にウルフギャングの手が伸びてくる。

 どうせ小舟の里を出るまではVATS索敵の必要はないさとライターで火を点けてやり、2人でのんびりと煙を吐く。

 

「ふーっ。……シズクの母親、ダメだったよ。間に合わんかった」

「仕方がないさ。それに、あの子なら哀しみを乗り越えられる。隣にアキラがいるんなら尚更な」

「だといいがねえ。あっ」

「ん、どうした?」

「サクラさんがいっつも荷台の天井だし、ウルフギャングには言っとかねえと」

「聞かせてもらおうか」

「敵が迫撃砲まで使う軍隊みてえな連中だったってのは言ったろ」

「ああ。聞いたな」

「シズクのおふくろさんを取り返すためにそいつらに襲撃かけたら、どっからかピッカピカのベルチバードが飛んできて勝手に手助けされた」

「は、はあっ!?」

 

 キキイッとタイヤが鳴る。

 ウルフギャングは、それほどに驚いているらしい。

 

 ちょっとアンタ?

 

 ラジオのスピーカーからそんな愛する妻の声が聞こえて気を取り直したようだが、それからは矢継ぎ早の質問で

答えるのが追い付かない。

 

「とりあえず落ち着けって。最初から話すから」

「是非ともそうしてくれ。しかし飛行可能なベルチバードって。今が戦後何年になると思ってるんだ」

「俺だって見間違いであってほしいがよ。あんな至近距離で見ちまったらなあ」

 

 あのベルチバードが俺達の敵であるとは言い切れないが、いざとなれば丈夫そうな建物内に逃げ込める歩兵と違って、そう簡単には身を隠せないトラックは航空機からしてみればいいカモだ。

 パイロットがヴォルト・スーツを着ていた事、俺がそれを101のアイツだと思っている事以外、すべて1から話して聞かせる。

 

「敵ではないが味方でもない。そしてベルチバードのパイロットはアキラとこの里の戦力が増すのを歓迎している、か……」

「そうなるなあ。また姿を見せてくれりゃバイクで追っかけて、拠点の目星くらい付けられるんだがよ」

「それほど甘い相手じゃないだろうな」

 

 やはり、ウルフギャングもそう思うか。

 

 トラックが北西門を出たのでセイちゃんお手製の監視窓を開け、VATSでの索敵を開始する。

 ないとは思うがもしあの中部第10連隊とやらに頭の回る指揮官と動く車両の1台でもあれば、そして大正義団の連中が公園の集落のトラックを使う事を知っていれば、車両の通れそうな道に地雷をいくつか仕掛けるくらいはするだろう。

 索敵の手を抜くつもりはなかった。

 

「ああ。それと、帰りは俺とジンさんがバイクでトラックとバスの護衛に付く。助手席の見張りはタイチに頼むから、ベルチバードの話を聞かせてやってくれ」

「了解だ。しかし、次から次へと厄介事がやってくるなあ。さすがはアキラだ」

「俺のせいじゃねえだろって」

「どうだか」

 

 行きと同じく、進行方向にたいした脅威は現れない。

 せいぜいワイルド・モングレルが飛び出してきてウルフギャングが眉も動かさずに轢き殺したくらいだ。

 

「着いたか。この左の草むらにしか見えねえのが戦前の公園で、少し先に駐車場がある」

「ちょうど見えたな。引っ越しの準備は万全らしい。銃を持って住民を守るように布陣してるのが大正義団か」

「そうなる」

「ふうん」

 

 


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