Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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月明かり

 

 

 

 ぼやけた視界に人影が浮かぶ。

 その人物はこれでもかというほど豪奢な執務机の向こうで椅子に座り、どうやら葉巻を燻らせているらしい。

 

「ようやくお目覚めかね?」

 

 おまえは誰だと問う前に、その声の持ち主に思い当たる。

 まだ視界はぼやけているが間違えようのない相手だ。

 

「……ずいぶんといい御身分になったみてえじゃねえか、タイチ」

「誰かさんほどじゃないっすけどね。報告を聞いた全員が絶望するようなムチャをしてギリギリ生き残ったくせに、のんきに寝起きの一服をキメようとしてる誰かさんほどじゃ」

「うるせえ。おまえが見せびらかすみてえに葉巻の煙なんか吐いてっからだ」

「アキラもこの葉巻にするっすか? オイラは詳しくないっすけどなかなかの上物に違いないっす」

「俺はこれでいいさ。ところでくーの字は? 無事なんだろうな? んでここはどこだよ? それと、俺はなんでまだ生きてんだ?」

 

 問いながらいつもの赤いタバコの箱を軽く振ってフィルター側を少しだけ出し、それを咥えようとして、どうしたってそんな事はできそうにない事に気付く。

 

 どうやら俺はパワーアーマーを、そのヘルメットまでもを装備しているらしい。

 

「くーちゃんは無事っすよ。大リグを使ってアイリーンさんにもし単独行動なんてしようとしたら殴ってでも止めてくださいって頼んだから、おそらく心配はないはずっす」

 

 それならまあ安心か。

 アイリーンのステータスや戦闘の腕なんて俺が知っているはずがないが、ベルチバードを操って空を飛び、陸では中国軍ステルスアーマーを使いこなす人造人間が、たとえ歴戦の山師であるとしても10代の小僧一人を止められないなんて事はないだろう。

 

「で、ここは?」

「ギリギリ浜松城外のコンクリートビルの最上階っす。たぶんこの部屋は、当時のお偉いさんの部屋だったんじゃないっすかね」

「そして俺が死んでねえのは、ベルチバードから落下しながら4仕様のパワーアーマーをショートカットで装備したからか」

 

 言いながらパワーアーマーのヘルメットを取ってタバコを咥え、火を点ける。

 

「おそらく。最近は歩きながらや雑談しながらでもショートカット、っすか? それをいつでも使えるようにって意識してたみたいっすからね。修行は裏切らないって事っす」

「なんでバレてんだよ。それより、俺はどんくれえ気を失ってた?」

「20と数分っすね。オイラはベルチバードからパワーアーマーが落ちたのを見たその足で駆け出したっすから。んで到着してすぐにアキラの息があるのを確認して、注射用の穴から医者いらずを3本打ってショウに伝言通信を頼んだっすから。ズレてるにしても数分のはずっす」

「たったそんだけの時間で浜松の街を抜けて俺を発見したんかよ。とんでもねえな。それと、ありがとう。助かった」

「念のために確認するっすが、HPは満タンなんっすか?」

「ああ。おかげさまでな」

 

 まだたった20レべでしかない俺のHPだから、スティムパックを3本も打てば全回復するのは当然だ。

 

 風に流される吐いた紫煙が月明かりに照らされている。

 なぜ室内に月明かりが差し込むのかは考えずとも、ほんの少し視線を上げれば一目瞭然。豪華な調度の社長室と思われる部屋の天井にはそれなりに大きな穴が開いて夜空に浮かぶきれいなお月さんが見えているからだ。

 

 ゲームの中では有り得ない事だろうが、パワーアーマーの着地の衝撃で屋根が抜け、俺はこの部屋に落下したらしい。

 胡坐を掻いた俺の横には、ソファーか何かの残骸のような物もある。

 

「それとついさっき、アキラが目を覚ます約1分前にベルチバードは無事四ツ池に到着したらしいっす」

「あんな攻撃からキッチリ逃げ切ってくれたのはデケエな」

 

 これから始まる戦争でも、それが終わった後にどうせまた起こるであろう面倒事の際にも、ベルチバードが健在であればどれほど役に立ってくれる事か。

 あれに乗っている連中ほどではないだろうが、ベルチバードの存在は大きい。

 

「アキラを落とした狙撃銃は次弾の装填にだいぶ時間がかかるらしいっすからね。対空ミサイルさえ回避すれば離脱くらいは余裕だそうっす」

「やるもんだなあ、あのパツキンも」

「そうっすねえ。……あー、あー。こちらT。TからSへ。Aは嘔吐した。繰り返す、Aは嘔吐した」

「嫌な符牒だなあ、おい」

「誰かさん達が酔っぱらいながら決めた1回目の安否報告っすからね。呆れるなら過去の自分達に呆れてくださいっす」

 

 葉巻は本当に短い時間でも吸わずに手に持っていたりするとあっという間に火が消えてしまう。

 そうなったタイチは言ってからライターで吸いさしの葉巻に火を点け、あまり美味くもなさそうな表情で粘り気のありそうな紫煙を吐いた。

 

「さあて。四ツ池の部隊が到着する前に、俺を殺しかけてくれた狙撃手のツラでも拝んでおきてえもんだが」

「バカ正直にここの屋上から出るのはおすすめしないっすよ。おそらく顔を出した瞬間にまた大怪我っす」

「それほどの武器と腕なのかよ。新制帝国軍のくせに?」

「厄介なんてもんじゃないっすよ。あっちにもアキラが1人いるようなもんっすからね」

「………………どういう事だっての。詳しく聞かせろ」

 

 

 

 

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