Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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宴会

 

 

 

 狭い建物とはいえ、物がない状態なら長テーブルを2列に並べて20人ほどが飲み食いできるスペースを確保するのは簡単だ。

 俺が椅子まで並べ終わると、女の子達が外の男共から酒やツマミ、グラスや箸までをも奪ってきて待機所はすっかり宴会場へと姿を変える。

 

「ねえ、アキラ。台所がないんだけど、ここでこれだけの人数が暮らすのに3食すべて市場で外食かテイクアウト?」

「あー。2階を厨房にすっか。あと、風呂も作ってやりてえなあ」

「アネゴ、まだっすかー? うちの連中、もう外で飲み始めちゃってるんすけど」

「乾杯もせずにかい。ぶん殴られたくなかったら、外にゴミの1つも残さずさっさと中に入れって言いな」

「へーい」

 

 全員が着席してさあ乾杯だというところで、アネゴが立ち上がって隊員を1人ずつ俺とミサキに紹介し始めた。どうやらタイチは戦闘などでシズクをサポートするのを得意とする副隊長で、アネゴはそれ以外の時に隊員を引っ張ったりするのが得意なもう1人の副隊長さんであるらしい。

 隊員は下が15歳から上が25歳の男女16人。それにシズクとセイちゃんを加えた総勢18名が、この特殊部隊のメンバーとなる訳だ。

 

「そんじゃ、アキラからも一言」

「俺もかよ!?」

「だってオイラ達、まだこの特殊部隊が何をどうやってする部隊なのかすらあんまわかってないんっすよ。それでも覚悟だけはしてここに来たんっすから、ちゃんと話してもらわないと困るっす」

「そりゃわかる気もするが。まだシズクが話し合いから戻ってねえから、何とも言えねえんだよなあ」

「説明できる範囲だけでいいっすから」

「はぁ。わかったよ」

 

 俺がどこまで話すべきか考えながら腰を上げると、全員が椅子を鳴らして立ち上がる。それだけではなく、一斉に軍隊式の敬礼までされてしまった。

 

「あー。まず、座ってくれ。これからもだが、俺に敬礼なんぞは必要ない。俺は特殊部隊の指揮官でもなんでもない、ただの山師なんだからな」

 

 隊員達は少し迷ったようだが、タイチが苦笑しながら座るとそれに続いて腰を下ろす。

 

「そんじゃ、タバコでもやりながら聞いてくれ。灰皿は、あるな。実は今、食料調達部隊の隊長であるシズクが長達に俺の計画を説明しに行っているんだ。なので話せる事は、気が抜けるほどに少ない。許可が出ればだが、お前さん達は武装して普段は山師のように廃墟なんかを探索してもらおうと思ってる。ただでさえ死ぬ確率が高いのに、いざ戦争となれば最前線に出るか敵に奇襲をかける危険な仕事だ。それに大正義団という悪しき前例があるから、特殊部隊の設立が認められれば全員ここで暮らしてもらう。競艇場へ家族に会いに行くにも、メシを食いに行くにも武器の持ち出しは禁止。探索に出るにも、……そうだなあ。たとえば、駅で防衛部隊の知り合いに武器を見せろと言われたとする。そこで武器の性能や使い方、保管方法を他言したり、ましてやちょっと持たせてくれって言われてそうしただけでその場で特殊部隊から除名だ。これは、シズクだろうがタイチだろうが変わらない。それと食料調達部隊が里からどれだけの金を貰っていたかは知らんが、その金額が極端に跳ね上がる事もないと思う。つまりは昨日までの友人達から疎まれ、たまの休みの日にしか家にも帰れないのに得る物は少ない。そんな報われない役目を背負うことになる。まだ後戻りできるから、飲みながらよく考えてくれ。以上」

 

 最後に全員の顔を見回しながらよく考えろと言うと、ほとんどの隊員が不敵な表情で微笑むか頷くかした。平和な世界なら学校に通って学級委員長か図書委員でもしていそうなカヨちゃんでさえ、「答えは変わりませんけどね」みたいな感じで微笑んでいる。

 

「そんじゃアネゴ」

「おうっ。総員、コップを持て。……よし。乾杯っ!」

 

 アネゴに続く乾杯の唱和は、俺が嫌いな体育会系のノリそのものだ。

 もし酔っ払いが隣に来てムリに酒でも勧めるようならぶん殴ってやろうと思いながら、初めて口にする小舟の里の焼酎を舐めてみる。

 やはり美味いとは思えないが、吐き出してしまうほど酷い味でもない。こちらの世界ではかなりのご馳走なのだろうが、なんとも微妙な飲み物だ。

 

「ねえねえ、アキラ」

「んー?」

「QUESTSって、ゲームでよくあるあれだよね?」

「経験値が入って、金とかアイテムを貰えるヤツな」

「やっぱり。じゃあ、ちょっと怖いけどがんばろっかな。そうした方がいいのかなと思ってた事だし」

「ま、まさかクエストが発生してんのかっ!?」

「うん。ほら、これこれ」

 

 差し出されたピップボーイの画面を凝視する。

 

 小舟の里発展計画 第一段階

 アキラの手伝いをして、小舟の里を発展させる

 

「マジかよ……」

「その下もあるよー」

 

 はじめの一歩を踏み出そう

 アキラに頼るだけではなく自分で考えて行動して、まずは胸を張って初心者山師と名乗れるように努力しよう

 (オプション)アキラが小舟の里周辺で雑事に追われている間に、湖西警察署の探索に参加する

 (オプション)アキラが小舟の里周辺で雑事に追われている間に、悪党のコンテナ小屋掃討作戦に参加する

 

「な、なんだよこれ……」

 

 ゲームにクエストがあるのは、それを作った人間がそうプログラミングしたからだ。

 ならこのクエストは、誰が……

 

「ねえ、アキラには出てないの?」

「わ、わからん。ちょっと待て」

 

 慌てて自分のピップボーイを操作し、DATA画面を呼び出す。

 そこにはミサキのピップボーイと同じく、いくつかのクエストが文章で表示されていた。フォールアウトシリーズで見慣れた、ヴォルト・ボーイのイラストまである。

 

「ある。小舟の里発展計画、第一段階。それに、レース・ボートで船を探せ。新制帝国軍の本拠地の偵察、大正義団の本拠地の偵察も……」

「やっぱりかあ」

 

 神か悪魔か知らんが、ふざけたマネを。

 

「ミサキ」

「ん?」

「こんなんに踊らされる必要はねえぞ。オマエは運び屋じゃなく、ミサキって1人の人間なんだ。自由に、好きに生きる権利がある」

「って言ってもねえ。アキラの手伝いはもちろんするし、頼りっぱなしじゃダメだってのもわかってるんだ。それに警察署の探索と悪党のコンテナ小屋掃討作戦って、シズクとセイが行く訳でしょ。ならそれも手伝うに決まってるじゃない。踊らされないようになんて言うけど、したい事するべき事しかクエストになってないよ」

「そうだとしても、ミサキだけで山師の仕事なんて」

「危険だって? こんな世界で安全だけを追い求めてたら、小舟の里の部屋でアキラの帰りを待つしかないじゃない」

「いいじゃんか。そうすりゃ」

「見損なわないでよね」

「……あん?」

 

 ミサキが俺を睨む。

 今まで何度か怒らせた事はあるが、初めて見るほど真剣な眼差しだ。

 

「怖いからって男に養われて、里の外にも出られずに暮らすなんてゴメンよ」

「一緒に出ればいいじゃんかよ。そんなクエストなんかシカトしてよ。フォールアウトシリーズは自由なんだ。クエストを絶対にしなきゃならねえなんて事はねえし、NVならそんなクエストを押し付けるクソ野郎を逆にぶち殺してやったっていい。だいたいな、こんな世界に放り出された」

「はこ、びや……」

「セイ?」

「い、今、運び屋って!」

 

 ミサキの隣にいたセイちゃんが、かなり驚いた様子でミサキの肩を揺する。

 その声色があまりにもいつもと違う熱を帯びているからか、待機所にいる全員がグラスを口に運ぶのも忘れてそれを眺めているようだ。

 

「痛いってば。運び屋っていうのは、そうね。あたしのあだ名みたいなものかな。それがどうしたの?」

「手紙」

「ん?」

「手紙を預かってる。もし自分を運び屋って言う山師が里に来たら、読ませろって」

「ええっ!?」

「賢者がそう言って置いてったのか?」

 

 セイちゃんが力強く頷く。

 

「取って来るっ」

「あっ、セイ!?」

「……驚いたな」

 

 飛び出したセイちゃんがドアを閉める音がやけに大きく響くほど、室内は静まり返っていた。

 せっかくの休日、せっかくの飲み会なのにこれでは申し訳ないと、ピップボーイのインベントリから戦前の酒や食事を大皿に出して並べる。

 

「悪いな。酒とツマミを追加すっから、まあ飲み直そうや」

「おおっ、ビールがこんなに!」

「好きなだけ飲め、タイチ」

「あざーっす!」

 

 タイチがその美味さを褒めながらビールを回す。

 それで静まり返っていた室内には、ちょっとした喧騒が戻った。

 

「……なあ、ミサキ」

「なによ?」

「保護者気取りなんてしてんじゃねえって思うかもしんねえが、これだけは約束してくれ」

「言ってみなさい。約束なんて出来るかわかんないけど、聞くだけなら聞くわ」

 

 言葉を選ぼうとして、やめた。

 

「……俺を、ひとりにしねえでくれ。情けねえが、ミサキがいなきゃ俺は」

「あら、熱烈なプロポーズねえ」

「バッ、茶化してんじゃねえよっ!」

「ふふっ。冗談よ、冗談。要は死ぬなって言いたいんでしょ?」

「そうだ」

「あたしがこの訳のわからない状況に絶望して自殺したがってるような、弱い人間に見えるの?」

「そうじゃねえ。そうじゃねえが……」

「なら、大丈夫よ」

 

 ミサキの手が、いつの間にかテーブルの上で握り締めていた俺の拳を優しく包んだ。

 その温かさは俺の心のどこかを優しく慰めるが、別のどこかを激しく掻き乱す。

 どうしていいかわからなくなったので黙って頷いてタバコに火を点けると、ミサキは蕩けるような笑顔を浮かべて頷き返してくれた。

 

「約束するわ。あたしは、絶対に死なない。それに今すぐにはムリでも、アキラの背中を守れるくらい強くなる。そのためにこそ、あたしにもSPECIALやPerksがあるんじゃないかな。だから、ずっと一緒。離れろって言われても、簡単にはそうしてあげないんだから。それでいい?」

「あ、ああ……」

 

 これほどの美少女に手を握られながらそんな事を言われた経験などあるはずがないので、俺はそうとだけ返事をするのが精一杯だった。

 パチパチと音がする。

 なんだと思ってそちらを見ると、俺が置いた箱から抜き取ったタバコを咥えたタイチがニヤニヤしながら拍手をしていた。

 それにアネゴが続き、隊員達がさらにその輪に加わる。

 

「結婚おめでとーっ!」

「けっ!?」

「お子さんは何人の予定だい、お二人さん?」

「お子っ!?」

「今夜から種付け目的の本気セックスか。羨ましいねえ。よし。アタイも今夜は、思いっきり奥にぶち撒けてもらうとするか」

 

 


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