Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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101のアイツからの手紙

 

 

 

 からかわれているだけだと理解はしているだろうに、ミサキはグラスを持ったままアネゴやカヨちゃんに何か言われては、あうあうと妙な呟きを漏らしながら顔を真っ赤にしている。

 俺もタイチにからかわれ続けたがシカトして飲んでいると、息を切らしたセイちゃんがシズクと一緒に戻って来た。

 

「おかえり。話し合いはどうだった、シズク?」

「バッチリだ。長は全権をタイチに与え、食料調達部隊を特殊部隊として武装させてもいいと許可してくれたよ。ただしその部隊を解散させるも存続させるも、貸し出した装備をいつ返してもらうかもアキラの胸三寸だ」

「オイラがっ!?」

「当然だろう。あたしとセイは、アキラの嫁になるんだし」

「……おいおい、冗談だろ」

「心配するな。しばらくはあたしも特殊部隊と行動を共にするから。その間に、タイチは隊長として成長すればいいし、アキラは嫁を取る覚悟を決めればいい」

「特殊部隊と行動を共にするのはあたしもね、シズク」

「ミサキもか?」

「うんっ」

 

 嫁どうこうはきちんと話し合わなければと思うが、もしもシズク達が本気だったらどうすればいいのかわからない。

 こんな美人が俺なんかに本気になるはずがないと、頭では理解しているが……

 

「ミサキ、これっ!」

「あらあら。手紙じゃなくって、ノートじゃない。アキラ、先に読む?」

「後でいいさ」

「ん。じゃ、先に読ませてもらうね」

「おおっ、ビールがあるじゃないか。あたしにもくれ」

「へいへい」

 

 タイチが副隊長から隊長になると告げられたからか、隊員達は椅子を移動して集まって何事かを話し合い始めた。

 その輪からタイチが追い出され、肩を竦めてビールを呷りながらこちらにやって来る。

 

「なんでいきなしハブられてんだ、隊長さんよ?」

「オイラは今から、隊長見習いなんだそうっす。なんでオイラと隊長に推薦する、新しい副隊長と伝令を決めてるんっすよ」

「へえ」

 

 しばらくしてアネゴと並んでこちらに来たのは、最年長の25歳であるメガネの美男子だった。さっきの紹介ではカヨちゃんの兄だと言っていたので、タイチが彼女を口説き落とせれば義理の兄になる人が新しい副隊長になるらしい。

 

「やはりカズノブか」

「まあ、そうなるっすよねえ」

「仕事中にいちゃつくんじゃないぞ、アネゴ?」

「わかってるって、隊長」

 

 新しい副隊長のカズノブさんは、アネゴのいい人なのか。

 長身だがどこか線の細い感じのするイケメンの恋人がアネゴとは。もしかするとこっちでは、戦闘能力も立派な女の魅力なのだろうか。

 

「それはいいけど、なんで泣いてるんだミサキ?」

「ハンカチ、はい」

「ぐすっ。ありがと、セイ。だって101のアイツって人、ホントいい人でさあ。アキラ、ちょっとこれ読んでみてよ。はい」

「ああ。じゃあ、読ませてもらうかな。いい、セイちゃん?」

「ん」

 

 古ぼけたノートを開く。

 そこにはかなりの達筆でまず、男か女かも、歳がいくつかもわからない運び屋を心配する言葉が丁寧に綴られていた。

 

「へえ……」

「ね、いい人でしょ。次は運び屋としてここに現れた人間が、どうすればいいかわからない場合のアドバイスが書いてあるのよ」

「おー、スゲエな」

 

 アドバイスはなんと、福島から東京を経由した浜松までの情勢の説明から始まっていた。

 そして山師の説明とそれを仕事にする場合の、注意点やアドバイスが細かく書かれている。

 

「勉強になるなあ、これ」

「でしょ。あたしもしっかり読み込むけど、アキラも時間がある時にちゃんと読んでおいて。これが書かれた頃は大正義団なんてなかっただろうけど、浜松の街やその近辺の廃墟は詳しく書かれてるから」

「ああ。偵察が楽になりそうだぜ」

「やっぱり1人で行くの、浜松?」

「ミサキみてえな美人じゃ、連れてるだけで絡まれるだろうからな」

「もうっ、お世辞を言っても何も出ないんだからねっ!」

 

 ノートには、もしも運び屋としてこちらに来た君が争いを好まぬのなら、自分が今まで旅をして見て来た中で最も安全と思われる、この小舟の里で帰りを待っていてくれと書いてあった。そうしたらレベル上げを手伝うから、のんびり一緒に元いた世界に帰る方法でも探そうと。

 

「うーん。コイツはあれだなあ」

「なに?」

「かんっぺきな主人公。となるとミサキはヒロインで、俺は脇役のサポートキャラって役どころかな。メガネだし」

「僕もメガネなんだけど?」

「カズノブさんは顔がいいから主役でしょ。なあ、アネゴ?」

「セックスも上手だしな、カズは」

「んだよ、主人公は主人公でもエロゲの主人公かよ。羨ましいねえ」

 

 最後に西から突如スーパーミュータントの集団が現れ、それを撃退はしたが西日本が気になるので自分はそちらに向かうとノートには書かれている。

 その予定ルートも書いてあるので、もしも101のアイツを追うとなれば、このノートはずいぶんと役に立ってくれるだろう。

 101のアイツが小舟の里に戻るのが先か、俺とミサキがレベルを上げて西へと旅立つのが先か。それはまだ、誰にもわからない。

 

「そうだ、アキラ」

「んー。どした、シズク?」

「これを長から預かって来た。心ばかりのお礼だそうだよ」

 

 シズクがテーブルに置いたのは、ゲームで見たままの核分裂バッテリーだ。

 

「おお。いいのかよ? 浄水器に使うから回せねえって話だったが」

「これは、長が私費で買った物だからな。ありがたくいただいておけ」

「助かるなあ。セイちゃん、これでボートをどれくらい動かせる?」

「1年か2年」

「そんなにかよ。ありがてえな。じゃあ明日から、タレットの設置とみんなの訓練だな」

「ねえ、アキラ。あたしにも銃の撃ち方を教えてよね」

「その気になってくれたのはありがてえ。ミサキが使うならミニガンかねえ」

「ノートにね、まず安全な小舟の里でどのくらいの重さなら持って走り回れるか試せって書いてあったの。それ、ちょっと出してみてよ」

「あー。ま、装填さえしなきゃいいか。ほれ」

「でっかっ!」

 

 ミニガンは人間より大柄なスーパーミュータントやパワーアーマーを装備した連中が好んで使う武器なので、大きさだけでなく重さもかなりある。

 床に出したミニガンは無改造の物でさえ、その重さは27.4。

 俺では構えて撃ちまくるどころか、持ち上げる事すら出来なさそうなほどの代物だ。

 

「こっちじゃ重さの影響がシビアで、Strengthの2倍くれえまでしか戦闘じゃ使えねえ。まあ、パワーアーマーを装備すりゃいいだけか。ピンク塗装なんて、いかにもミサキが好きそうだし。ああ、特殊部隊にもパワーアーマーを配備しておいた方がいいな。デスクロー先生なんて日本にゃいないにしても、どっかのチンピラ連中とはいつか戦う可能性はあるし。くくっ、チンピラ共め。BOS型だろうがエンクレイヴ型だろうが、それどころかT-51bですら、俺が改造した4のパワーアーマーの前では、迂闊にガンダムの前に出た旧ザクでしかねえって体にわからせてやんよ。ふははっ」

「おお、軽々と持ち上げた。さすがだなあ、ミサキ」

「第一夫人は美人で力持ち。さすが」

「そう? えへへ、なんかテレるなあ」

 

 まさか、構えられたのか。

 そう思ってミサキを見た俺は、開いた口が塞がらなくなった。

 

「ちょ、アキラ。タバコが落ちたっすよ、危ないっすって」

「な……」

「そんな重くないけどなあ。でもこれ、どうやって撃つのよ。あ、もしかしてこうかな?」

 

 片手で軽々と肩に担いだミニガンを、ミサキがサッと構える。なぜか、肩の上にだ。激しく間違っているのだが、それよりいくらStrengthが10だとしてもこんな……

 

「な、なんつー怪力してんだよ」

「だってあたし、Strengthだっけ? あれ10もあるんだもん」

「にしたって、おかしいだろ。重くねえのかよ?」

「ぜーんぜん。お手玉だって出来そうだよ」

 

 俺じゃ持つ事すら出来なそうなのに。

 男のプライドが崩れていく音を聞いたような気分なのでまずは落ち着こうとビールを呷ると、俺のピップボーイのインベントリは容量が無限だという事を思い出した。

 もしかすると俺のピップボーイのインベントリやミサキの怪力は、この世界で生き残るためのボーナスのような能力ではないのだろうか。

 

「こっちも持ってみろ、ミサキ」

「うわ。なんか凶悪そうな武器ねえ」

 

 俺が無改造のミニガンを収納して出したのはフル改造のレジェンダリー武器、膝砕きのミニガンだ。同系統のエネルギー武器、ガトリングレーザーよりは少し軽いが、それでも重さは36もある。

 

「さすがに重いだろ?」

「ううん、軽い軽い」

「……マジかよ。じゃ、じゃあこうしたらどうだ。少し待ってやがれっ!」

「な、なんで怒ってんのよ」

 

 プライドの問題だ。

 部屋の隅に武器作業台を出し、膝砕きのミニガンをピップボーイのインベントリに戻して作業台に取り付く。

 

「ここじゃゲームのシステムは関係ねえんだろ。なら、エンド・オブ・エタニティー並みの魔改造だって。あった、設計画面。……爆発なんかじゃなくて膝砕きにしたのは、接近する敵に弾幕を張って下手な射撃でも足を壊してダルマにしてやるためだ。必要なのは、ミサイルランチャーの直撃を受けたって大丈夫なほどの盾。よし、これなら。しゃあっ。着いて来やがれ、ミサキ」

「ど、どこ行くのよ?」

「デカくてここじゃ出せねえんだよ。外だ、外」

「ええっ!?」

 

 ミサキ以外の連中、ドッグミートとEDーEまでが顔を見合わせたが、ぞろぞろと俺に着いて来たところを見ると、何が始まるのか興味はあるらしい。

 困ったような表情で駐車場に立つミサキの前に、もはやミニガンどころか銃ですらねえだろと突っ込まれそうな武器を出した。

 ズシンっと、アスファルトが悲鳴を上げる。

 

「うわあ。もうそれ、戦艦とかについてるアレだよね」

「うははっ、どうだ。ミサキだけじゃなく、身を屈めれば5人ほどが何列にもなって盾に出来るほどの重装甲を施したオリジナルレジェンダリー武器。……そうだな、ラストスタンドとでも名付けようか。ミサキの言うように、もう武器じゃなく銃座だぞ。さあっ、持てるもんなら持ってみやがれっ!」

「よいしょ。んー、持ちにくいなぁ」

「……マ、マジ?」

 

 重さは100を超えてるんですけど。

 セーラー服を着た美少女が、軽自動車を持ち上げてるみたいな光景なんですけど。

 

「あっ、これピップボーイに入るんだねえ。なら使えるかなっ。でもこれを持ち歩いたら、戦前の物とかあんま入れらんないかも。どうしよ」

 

 嬉しそうに言ったミサキが、事もなげにラストスタンドをピップボーイのインベントリに収納する。

 容量が無限でないにしても、Strengthが高いからピップボーイのインベントリにも入れてしまえるって事か。

 

「か、完敗だ……」

「なあ、なんでアキラは落ち込んでるんだ?」

「わかってないっすねえ、隊長。男のプライドってヤツっすよ」

「僕も最愛の人がこうだからわかるなあ」

「なんだよカズ、どういう意味だ?」

「大好きなハナに、たまにはいいトコを見せたいって話さ。ベッドの上でだけじゃなくってね」

「バ、バカ。……あれだよ、カズはいつでもどこでもカッコイイって」

「ホントかい?」

「あ、ああ。だからあんま見詰めんなって……」

「いちゃついてんじゃねえっ、リア充バカップルがっ!」

「あはは。失礼失礼」

 

 


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