Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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オセ、リバーシな!?

 

 

 

 タイチに慰められながら待機所に戻り、不貞腐れながら紫煙を吐いてビールを呷る。

 飲み会中のいい見世物だったとラストスタンドのお披露目は好評だったようだが、俺が非力でミニガンどころかライフルすらマトモに使えないとバレたらどうなるのだろうか。

 幼い見た目のセイちゃんや、マジメそうなカヨちゃんにまで笑われそうで怖い。

 

「そうだ。弾を渡しとかなきゃな。これはピップボーイのインベントリに入れても重さは関係ねえから、とりあえず1万発くれえ入れとけよ。なあ、さすがは英雄の運び屋サマ?」

「だからなんで拗ねてんのよ。いい加減にしないと、ぶん殴るわよ?」

「……サーセン」

「まったく。でも、ありがと。銃も、弾も。それから、あんな大きな盾はあたしの身を案じてなんでしょ?」

「お、おう」

 

 まっすぐ目を見てうれしそうに言われると、美少女耐性が低いのでどうしたらいいかわからなくなる。

 

「妬けるなあ。それでアキラ、明日からの特殊部隊の予定は?」

「防衛部隊の持ち場の近所にタレットを設置しながら、銃の撃ち方を練習。まずはそれがいいんじゃねえか」

「なるほど」

「それが終わったらマアサさんとジンさんと俺とシズクで、地図とにらめっこしながら里の防衛計画を練るだろ。それからその工事だから、それが終わるまで特殊部隊は俺と一緒に工事現場で訓練かねえ」

「警察署の探索と、悪党の討伐はその後か」

「悪党だけでも急いだ方がいいなら、明日にでも俺が出張るが?」

「いや。次に行商人が来るのは、5月の1日だ。急ぐ必要はないさ」

「まだ2週間もあんのか。なら大丈夫そうだなあ」

「ああ」

「アキラ、ボートは?」

「工事が終わるまでに使えるようにしといてくれるとありがたい。この核分裂バッテリーは、セイちゃんが持っててくれ」

「ん。わかった。なら、行こう」

「どこに?」

「お店」

 

 そういえば昨日は俺がだらしなくぶっ倒れたので、まだ円を手に入れていない。

 俺とミサキは一文無しのままだ。

 そう思ってミサキに視線をやると、明らかにウキウキとした表情で頷かれる。

 

「ほんじゃ、行くか。おーい、もう特殊部隊の宿舎は出来てんだ。今日は泊まってくってヤツは?」

「ちなみに部屋は男女は別だよな、アキラ?」

「基本的にな。でも敷地は余ってっから、カップルには離れた場所に小屋を用意してやる。アンアンうっせえって苦情が来ねえようによ。ありがたく思え、ハナちゃん?」

「誰がハナちゃんだ。だが、ありがたいねえ。夜が待ち遠しいじゃないか」

「カップルはカズハナだけか?」

「もう1組。まあ少しすりゃ、もう1組増えるかねえ」

「ふうん。そのニヤニヤ笑いしながらの視線で察したが、あんなのが相手でいいんで? カズさん、実の兄として」

「まあカヨもまんざらではなさそうだし、しばらく見守るつもりではいるよ」

「だとさ。良かったなあ、タイチ?」

 

 少し頬を赤らめ、タイチが笑顔で頷く。

 カヨちゃんの方はもう、耳まで真っ赤だ。

 爆ぜろと思う気持ちがない訳ではないが、危険な仕事を選んだ2人だから結ばれるなら早い方がいい。どうせなら早く孕ませちまえと思いながら、飲みかけのビンを飲み干して腰を上げた。

 

「シズクも行くか?」

「飲んで待ってるよ。ここにいる連中は賢者に譲られた武器を使った経験がある者ばかりだから、どんなのが得意だったか話しながら思い出しておく」

「りょーかい」

 

 3人ですっかり晴れて、顔を出した太陽の光が降り注ぐ駐車場に出る。

 ボディーガードは、ドッグミートだけのようだ。

 

「ついでに晩メシと、追加の酒も仕入れて戻るか。あの飲みっぷりじゃ、夕方にはなくなっちまいそうだ」

「だねっ。みんな、呆れるくらいのペースで飲むんだもん」

「楽しみなんて、お酒とセックスくらいしかないから」

「ズバリ言うんじゃないって、セイちゃん」

「そ、そうよ。セイはあたしより年下なんだし」

「でも、もう大人。そこの宿舎で試してから行く?」

 

 ぐっ。

 身長差があるので手首辺りに押し付けられたのはまったくのナイチチだが、これはこれで……

 

「鼻の下を伸ばしてんじゃないっ。セイも簡単に胸なんて押し当てたりしないのっ。いい、女の子はもっと」

「ミサキはそんな短いスカートで、いつもアキラの視線を独り占めしてるのに?」

「そっ、そんな事はっ」

 

 すんません。

 バレないようにいつもガン見してます。

 宿舎のトイレがしっかりした個室なのは、脳内フォルダを有効活用するためです。ええ。

 

「師匠から貰った新品の下着、まだたくさんある」

「ええっ、いいなあ!」

「分けてあげるから、仲良くする。ミサキは第一夫人」

「……まだ言ってんのか、それ」

 

 門を抜け、マリーナのではなく競艇場の駐車場を突っ切って正門へ向かう。

 

「先にボート見てく?」

「今日はいいさ。飲酒運転はしたくねえし」

「わかった。じいじの店は、プールのずっと奥。ボート部屋の手前」

「あいよ」

 

 今は魚の養殖をしているという広いプールの奥には、レースで使うのより大きな船も2つ浮いていた。

 これが動くなら、ちょうど9人ずつ分乗して探索や戦争時は奇襲に使えそうだ。

 そう思った俺の考えを読んだのか、あれは壊れて動かないと申し訳なさそうにセイちゃんが言う。

 謝らなくていいと言いながら小さな頭を撫でていると見えてきたのは、ジャンクの積まれた見るからに油臭そうな一角。

 そのジャンクの間を縫うようにして辿り着いたドアを、セイちゃんはノックもせずに開けた。

 

「じいじー?」

「セイか。よく来たのう」

 

 そう言いながらやはりジャンクが積み上がった机の前で相好を崩すのは、ジンさんよりも老いているように見える男性。

 その目が俺とミサキに向いたが、視線はすぐに俺だけを値踏みするようなものに変わった。

 不躾な行為なのだろうが、こんな世界なので気にもせず室内を見渡す。

 

「おいおい、プロテクトロンがあるじゃねえか……」

 

 もしも動くなら、とんでもないお宝だ。

 

「若造。これが何か知っておるのか?」

「まあね。ご老人、そのターミナルは。鉄の箱は鍵盤に触れるとガラスの部分が光りますか? もし独立電源でそれが生きてるなら、ロボットを動かす事だって可能かもしれない」

「ええっ。ホントなの、アキラ?」

「ああ。ただこのプロテクトロンが、小舟の里の住民を客だと認識してくれるかはわかんねえけどな」

「もし侵入者か何かだって認識したら?」

「大虐殺が始まるだけさ」

「うわあ……」

「賢者もそう言っておったな。ついでに言うとこれは見た事がないタイプだからと、ターミナルには触りもせんかった」

「でしょうねえ」

 

 なぜなら5つも並んだチャージポッドの中で眠りについているプロテクトロン。戦前にさまざまな目的で使用されていたロボットは、人格モードの選択をして複数の用途に合わせて起動可能な、フォールアウト4に登場したモデルだからだ。

 しかもチャージポッドの上にはご丁寧に赤文字で『暴徒鎮圧用プロテクトロン 輸入品に付きロブコに認証を受けた技師以外は触れるべからず』と大書した看板が取り付けられている。

 こんな極東の島国にまでプロテクトロンを輸出していたとは。さすがロブコ社といったところだろうか。

 

「これ、強い?」

「ロボットの中じゃ弱い方だ。AWARENESSを取得すりゃレベルもわかるが、まずはStrengthを底上げしてえしなあ。それとROBOTICS EXPERTに必要なINTは、……うへえ、8かよ。しかも最後まで取れるのは、レベル44? 起動するにしても、何年後になるやら」

「なにそれ?」

「AWARENESSは4にしかなかったような気がするが、VATSん時に敵のレベルが見える。ROBOTICS EXPERTも、4でロボットのプログラムを書き換えて味方に出来るように変更されたPerksだったっけかな」

「便利ねえ」

「残念。動くのを見たかった」

「いつか起動して、里を守ってもらうさ。しかし、暴徒鎮圧ねえ。これはちょっと気を引き締めようぜ、ミサキ」

「どして?」

「このプロテクトロンは主人公の敵としちゃ弱いが、一般人が相手なら立派な殺人マシーンだぞ。ここは日本だからそこまでぶっ飛んだ世界じゃねえと勝手に思ってたが、こんなんを5体も置いとくなんて、どうやらそうでもないらしい。この日本でも、おそらく人の命の価値はチーズとフルーツの盛り合わせ程度だったようだぜ」

「……こわっ。この、ターミナルだっけ。見つけても不用意に触ったりするのやめるわ」

「そうしてくれ、本当に別行動もするつもりならな。ご老人、戦前の品の買取を頼みたいんです。円を出せる範囲で、何かご希望の物はありますか?」

 

 老人がニヤリと笑んで煙管を持ち上げたので、胸ポケットからタバコを出して差し出す。

 引火を心配したのかセイちゃんがミサキの手を引いて少し離れるが、老人がマッチを擦ったので俺もライターで火を点けて煙を吐いた。

 

「そうじゃのう。逆にオススメは?」

「今の時代では製造できなくて、だけど問題なく使用できる、しかも高需要の物か。難しいな」

「見ての通りの老いぼれで、そんなに金もないしのう」

「ああ。それじゃこんなのはどうです?」

「なんじゃ、これは?」

「チェス盤です」

「ふむ?」

 

 そこにジャラジャラと、この日本では使われていない現在のアメリカ通貨、キャップを適当に出す。

 

「あ、もしかしてオ」

「リバーシな?」

「だってそれ、オセ」

「リバーシな!?」

「……はあ。わかったわよ」

「ご老人に遊び方を説明してやってくれ。俺はちょっと掘り出し物を探す。こりゃ、店中が宝の山だぜ」

「気が合うじゃないか、若造。これをガラクタなんて呼ぶ連中は、火の点いたタバコをケツの穴に捻じ込んでやればいいんじゃ」

「同感です」

 

 ジャンクはそこかしこに積み上げられていて、店内は足の踏み場もないほどだ。

 タバコを消し、気の向くままそれらを見て回る。

 

「おお、なんだこれ。ボートのプロペラ? 変な形で、指なんてあっさり落としそうだなあ」

 

 店の奥にはどれも銃身がひん曲がっていたりするが、初めて見る形のライフルなども積み上げられていた。出来るなら買って帰って手持ちの銃に部品を組み込んで威力や精度がどう変化するのかを確かめたいが、それをしていては貧乏なままなのでぐっと堪える。

 説明を終えたらしいミサキに呼ばれてカウンターに戻ると、老人は呆れた表情で俺を出迎えた。

 

「で、若造はこの老いぼれに何をさせたいんじゃ?」

「その前にこれ、売れそうですか?」

「それなりにの。里だけでもちょっとした稼ぎにはなるが、体が動かなくなった老いぼれ共を集めて作って浜松辺りの商人に安く売ればかなりの売上になるじゃろう」

「よしよし。いやあ。実は数年以内に、商人がこの小舟の里を訪れて仕入れをしていくようにしたいと考えてましてね」

「それがどうしたんじゃ?」

「ずっと里で商売をしている人は、それを面白くないと思うでしょ」

「くかっ、くかかかっ」

 

 鳥の鳴き声のような笑い声を聞きながら、何か変な事を言ったか考えてみる。

 どんなに考えても思い当たる節がないのでどうしたものかと思っていると、結構な力で老人にバンバンと腰の辺りを叩かれた。

 見た目は枯れ木のような老人であるのに、かなり痛い。

 ジンさんといい老人に元気な人が多いのは、やはり荒れた世界を生き抜いてきたゆえなのだろうか。

 

 


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