Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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初Perk

 

 

 

 追いついてくれたEDーEが、俺の視界のHPバーがある辺りで揺れる。

 バイタルサインでも読み取って、心配してくれているのだろうか。

 

「わかってるよ。うがいして、きれいな水を飲めば俺のチンケなHPなんてそれで全快するさ」

 

 あまり心配させても悪いので、身を起こしてうがいをしてからゴクゴクと水を飲む。

 マーカーは黄も赤もないようだが少し、いやかなり迂闊だったか。

 建物の基礎が残っている周囲には雑草が生い茂っているので、土か砂があるのだろう。そこにマイアラークの1匹でも潜んでいたら、俺はもう生きたままソイツに食われていたりしたのかもしれない。

 

「ぴぴいっ」

「あー。マジで申し訳ない、迂闊だったわ。反省します」

「ぴいっ!」

 

 EDーEがボートを振り返る。

 

「ん?」

「ぴいっ」

 

 EDーEが優しく身を寄せるように動き、機体で俺のピップボーイを叩いた。

 

「……ボートはピップボーイに入れりゃいいじゃねえかと」

「ぴいっ、ぴぴっ!」

 

 次に、高速で移動したEDーEがその動きをゆっくりとやり直す。

 

「……そもそも、速度を落としゃ水しぶきでRADも受けねえだろと?」

「ぴいっ!」

「おっしゃる通りでごぜえます。あれだ。予想外のRADでパニクってたんだよ。次からは気をつけるって」

「ぴいーっ?」

 

 頼むよー?

 ホントにーっ?

 今のは訳すとすればどっちだろうかと、どうでもいい事を考えながらタバコを一服。

 それを終えてやっと、俺はどうにか落ち着きを取り戻したらしい。

 

「EDーE。先延ばしにしてたPerksの取得をここでやっちまいてえ。警戒を頼めるか?」

「ぴいっ!」

 

 今のなら完璧に訳せる。

 任せろっ!

 微笑みながら拳骨を向けるとそれにEDーEが機体を軽くぶつけ、俺を守るように陸側に移動した。

 ピップボーイを操作して、Perkチャートを呼び出す。

 

「こんな目に遭えば、欲しいのはまずあれだが……」

 

 昨日まで取得の検討すらしていなかったPerk、AQUABOY。

 1段階目を取っただけで水の中で呼吸が出来、RADを受けなくなるという、今まさに喉から手が出るほどに欲しいPerkだ。

 

「でも取得条件がENDURANCE5。俺はLUCK以外がオール3だからなあ。レベル4になって貯まったスキルポイントは3。ENDURANCEを5にすんのに2使って、AQUABOYを取得したらスキルポイントすっからかんじゃねえか。妹やダチを守りてえんだなんて言いながら、PerksがAQUABOYしかねえ主人公とかいてたまるかっての……」

 

 スキルポイントを消費してPerkを1つも取っていなかったのは、バリケードの近くではそう危険がないからという理由だけでなく、どれだけ悩んでも決め切れなかったというのが大きい。こんな世界でスキルポイントを消費するのは、受験先や就職先を決めるような大きな人生の選択だ。

 

「セオリーなら、ガン振りんなってるLUCKから選ぶべきだよなあ。初期のSPECIALを偏らせるのは、ほとんどそのためなんだし」

 

 ミサキが取ったすべての敵に与えるダメージが5%アップするBLOODY MESSに、VATSを使用すると低確率で正義の味方が現れて敵を倒してくれるMYSTERIOUS STRENGER。

 経験値がたまに3倍も手に入るPerkや、クリティカルヒットの追加ダメージを上げるPerk、クリティカルメーターを溜めておけば好きな時にクリティカルヒットをVATSで繰り出せるPerkなんてのもある。

 

「取得条件がLUCK8、9、10の3つなんてぶっ壊れ性能だしなあ。せっかくLUCKガン振りなんだから、その1段階目だけでも。ああ、それにやっぱMYSTERIOUS STRENGERも捨てがたい。AP消費が少なくて攻撃回数が多いデリバラーが今のメイン武器だから、相性が抜群だし。むむむ……」

 

 それにこんなSPECIALでウェイストランドに放り出された俺の一番の不満は、3しかないStrengthだ。

 それとゲーム世界よりずっと影響の大きい武器や防具の重量の影響のせいで、俺はレベル1からほぼ拳銃しか使っていないというドMの縛りプレイのような事をさせられている。

 

「くっそ。いっそBIG LEAGUESにしてデリバラーとリッパーの二刀流で、マンガの主人公でも気取ったろうか」

 

 101のアイツ。

 会った事もないが俺と同じかなりのゲーマーだと思われるソイツと話だけでも出来れば、良いアドバイスでもしてくれるのかもしれない。

 

「電話なんて繋がるはずもねえしなあ。……あ。ラジオならどうよ?」

 

 一縷の望みにすがる気分で、ピップボーイに内蔵されているラジオを操作する。

 雑音ばかりで諦めかけたその時、左腕のスピーカーから軽やかなピアノの音色が流れて春の陽に溶けた。

 

「おお。クラッシックなんぞ音楽の授業でしか聴いた事ねえが、こんな世界で聴くとなんか感動するな……」

 

 曲名など知るはずもないそれを耳に入れながら、本当にどうするべきかとまた思案に戻る。

 どこの誰が流してくれているのか知らないが、ありがたい話だ。放送時間は知らないが、小舟の里に戻ったらタレットと同じくやはり大量にあるラジオを配って歩こう。

 

「なんで小舟の里の水は平気なのかはわからんが、101のアイツの浄水器のおかげなんだろうなあ。しかしどう考えても特殊部隊が船を使うなら、1人くらいは水に身を浸しても平気な人間がいねえとキツイ、か。もったいねえ気もするが、まずは2ポイント使ってENDURANCEを5にしてAQUABOYを取得だ。……よし。待たせた、EDーE」

「ぴいっ」

「ボートで浜名湖に戻る前に、そこの細い道を越えてみようか。塗り潰されてねえマーカーが見えてんだよ。形からすりゃ公園かなんかだろうが、ファストトラベル出来ねえにしてもマップは出来るだけ埋めておきてえ」

「ぴい」

「わかってるよ。ムリはしねえさ。マーカーが出たら、すぐにボートに戻って水上からスコープで観察するから教えてくれ」

「ぴっ」

 

 一応は舗装されただけといった感じの細い道の向こうの雑草を踏んだだけで、視界に『発見 浜名湖県立自然公園 XP+24』と表示され、小銭でも鳴らしたかレジで合計金額が出た時のような小さな音が聞こえた。

 

「へえ。悪党のコンテナ小屋ん時は22だったのにな。小舟の里の部屋は自宅扱いで、ボーナスがついてんのか。ラッキー」

 

 そういえばと、今は特殊部隊の基地になったマリーナの事務所で見つけた観光案内のパンフレットを出して広げる。

 そこには簡単な地図が描かれており、小舟の里から見て北東の浜名湖に突き出した半島のような場所の先っぽに浜名湖県立自然公園の名前がしっかりとあった。

 

「隣にはフラワーパーク? こっちも公園みてえな感じかな。で、その上がゴルフ場と。おおっ。北上すっと、遊園地と動物園があるぞ。廃墟だとしても、連れてったらセイちゃんが喜ぶかもなあ」

「ぴ、ぴいっ」

「どした?」

 

 EDーEが警戒態勢を強めたような気がする。

 マーカーは、特に見当たらない。

 それなのになぜだろうか。

 

「ここはただの自然公園だからな? アメリカのロケーションならヤオ・グアイくらい出るんだろうが、ここは日本の、特に田舎じゃない地方都市だ。熊なんて動物園にでも行かなきゃ、とてもお目にはかかれなかっただろうよ。……動物、園?」

「ぴいっ……」

 

 ヤオ・グアイは放射能で変異した熊のクリーチャーで、とてもレベル4の初心者が拳銃だけで倒せるような相手ではない。

 しかもLUCKガン振りでPerksをAQUABOYしか取得してないとなれば勝敗は、それはもう1+1=より簡単に答えが出るだろう。

 

「し、自然公園とかに銃や船なんてねえだろうしなー。とりあえずボートに戻って、マリーナを回るか。なあ、EDーE。あれだよ、俺は別にビビッてねえけどさ。ほら、時間は貴重な訳じゃん?」

「……ビイーッ、ビイーッ、ビイーッ!」

「逃げるぞっ!」

 

 いつもはかわいらしいEDーEの音がけたたましいブザーになったので、一目散に駆け出す。

 コンクリートの瓦礫を跳び越えて湖面を目指す俺の動きは本当にAGILITYが3しかねえのかよと突っ込まれそうなほどだが、EDーEのスピードもさっき本気ならボートに遅れなかっただろうと問いただしたいほど見事なものだ。

 AQUABOYを取得したので、水はもう猛毒でもなんでもない。取り付いたボートを全力で押してそれに飛び乗り、急いでエンジンを始動した。

 

「追って来てるか?」

「ぴぴっ」

「来てねえのか。……はぁ。ションベン漏らすかと思った」

「ぴいー」

 

 舳先を湖の中央に向けてから自然公園を振り返ってみたが、マーカーどころか生き物の影もない。

 数分ほどそうして岸辺を見張りながら、タバコを1本灰にする。

 

「もう行こうか。こうしてぼけっと見てたって仕方ねえや。HPも満タンだし」

「ぴっ」

「時間は、……まだ朝の7時かよ。長い1日になりそうだなあ。目指すは観光案内にもあった、企業の名前を冠した大きそうなマリーナだ。対岸に向かって、少しばかり北上だな」

「ぴいっ」

 

 スロットルレバーを柔らかく握り込む。

 もう水しぶきでRADは受けないが貴重なボートを転覆させたらエンジンに水が入って修理するセイちゃんに申し訳ないし、何より俺はRADでのパニックと、本当にいたのかさえわからない敵のせいで慎重になっている。

 生き残りたければ、それでいい。

 俺がフォールアウト4で悪人には容赦しないが実は人情家のスカベンジャーとしてロールプレイしていた男主人公の、穏やかで優しい声が聞こえたような気がした。

 

「こんな世界には似合わねえ、いい天気だ」

 

 どうせなら偵察しながらマリーナを目指そうと出来るだけ対岸に寄ってボートを進めると、湖に背を向ける形でそれなりのショッピングセンターのような廃墟群が見えて来る。

 こちらの世界は石油が枯渇していたが核で動く車が普及し始めていたので、それで買い物に来る富裕層を狙った商業施設だろう。

 スロットルレバーを放し、パンフレットとえんぴつを出してスーパーと書き込む。

 そうしながらどうしても思い出すのは、フォールアウトシリーズのスーパーウルトラマーケットだ。

 こちらの食い物は腐らないしあの規模なら洋服なども大量にありそうなのでいつか特殊部隊と漁りに行きたいが、あそこがゲームのように悪党やフェラル・グールの巣になっていない事を祈ろう。

 左手に荒れ方が新居町駅の向こう側ほどでもない街並みを見ながら北上すると、半ばまで開いた水門の向こうにたくさんの船が見えた。

 

「観光案内のパンフレットにはなかったが、小さな港があるな。このまま入って、動きそうな船がないかだけでも見ておこうか」

「ぴいっ」

 

 


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