Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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チュートリアル

 

 

 

 ターゲッティングHUDのおかげで体の表面が赤く光って視認しやすくなっている悪党達は、まだこちらに気づいく様子はなく黄色マーカーのままだ。

 このままステルス状態からフルチャージしたレジェンダリーガウスライフルやミサイルランチャーで先制してセイちゃんを楽しませてもいいが、遊び半分で人を殺すのには抵抗があるし、レイダー並みの超索敵能力でここまで来られても困る。

 

「そこから動かないでね、セイちゃん」

「ん」

 

 ドシン、ドシン

 

 X-01を装備していると歩くだけでそんな音がしたので急ぐ事に決め、ピップボーイのインベントリから爆発ミニガンを出して装備した。

 悪党はパチンコ店の入口の向こうから攻撃されているので、ウルフギャングの奥さんを爆発の追加効果に巻き込む心配はないだろう。

 このパワーアーマーの胴体パーツは、ジェットパック・フレイム X-01MK.Ⅵ。

 ジャンプしてから三角ボタンを押しっ放しにするイメージ。

 それだけで、ジェットパックはちゃんと反応してくれた。

 

「と、飛んだだとっ!?」

 

 いいリアクションだ、ウルフギャング。

 こんな事はフォールアウト3じゃ絶対に出来なかったから、101のアイツもそんな感じで驚いてくれるだろうか。

 そしたら散々もったいぶってから、ジェットパック付きのパワーアーマーを1つ譲ってやればいい。

 

「空を飛ぶって最高だな! え、あれっ?」

 

 地面が近づいている。

 このままレイダー共のど真ん中に着地して、落下の衝撃ダメージで数人をなぎ倒したいのに。

 

「あれ、あれ? ……うは、APがすっからかん。そういやAgilityも3しかねえんだった。APたったの90って!」

 

 Agilityが3のままなので、ジェットパックを吹かしたり走ったりVATS攻撃するのに消費するアクションポイントは初期値の90。

 カッコよく登場して悪党共をなぎ倒すはずが、先制攻撃のチャンスを自ら投げ捨て、VATSすら使えない状況で敵の眼前に大音響を響かせながら現れる。

 そんな醜態に顔を真っ赤にした俺はそれがパワーアーマーのヘルメットのおかげで見えない事に感謝しつつ、線路の向こうにある駐車場のかなりパチンコ店から遠い場所、それも悪党など1人もいないアスファルトの上へムダに衝撃ダメージを発生させながら着地した。

 

「な、なんだありゃ!?」

「知るか。とりあえず撃て、食えりゃめっけもんだっ!」

 

 ホクブ拳銃と、同じくホクブ社製のライフルの銃弾が俺に降り注ぐ。

 ライフルの方は22口径で、日本人でも扱いやすい低反動のスリムなボルトアクションライフルだ。警察署の探索では1丁しか見つけられなかったらしいので、メガトン特殊部隊では最も狙撃の巧いカズノブさんだけが持ち歩いている。

 いい土産が出来たな。

 

「残念。地獄からの使者は、そんな銀玉鉄砲じゃ倒せやしねえよ」

 

 腰をわずかに落とし、見様見真似の射撃姿勢を取る。

 ああ、俺はまた人を殺すんだなと思いながら、爆発ミニガンの弾をバラ撒いた。

 

「ぎゃあっ!」

「いでえっ!」

「ひいっ」

 

 ゲームとは違う生きている人間達の悲鳴や断末魔に、ただでさえ脆い心がポッキリと折れてしまいそうになる。

 それでも司法の裁きや、その後の外とはまったく違う不自由な生活を強制されて心を入れ替える機会などないこの世界。

 ここで殺さなければこの悪党共はまたどこかで誰かを不幸にするのだと自分に言い聞かせながら、俺は拳銃などとは比べ物にならない取っ手のようなトリガーを引きっぱなしにした。

 携行式のガトリングガンの銃弾を浴びただけでも人間の体など瞬く間に目を背けたくなる状態になってしまうだろうに、レジェンダリー武器の効果でその銃弾がすべて着弾と同時に爆発するのだから酷い有様だ。

 

「セイちゃんには近くで見せらんないな」

 

 ミサキが単純に自分の与えるダメージがすべて5%上昇するからと取得し、その後はじめて戦闘を終えた日は顔を真っ青にして食卓の肉料理を見た瞬間にトイレに駆け込んだ、倒した敵をバラバラにするBloody MessというPerkはもちろん取得していない。

 それなのに装備した武器や防具はそのままに、悪党達は次々にその肉体を挽肉のようにされながら死んでゆく。

 

「バ、バケモノだっ!」

「逃げるぞっ!」

「ひいっ」

 

 逃がすかよ。

 ズシンズシンと機動戦士のように足音を響かせながら、パチンコ店と俺に背を向ける悪党達へミニガンの銃口を向けた。

 右手に、小舟の里の新居町駅と同じく線路の上に通路のある小さな駅が見える。

 悪党達が向かう道路の突き当りには雑草が生い茂っているのだが、そこから大きな影が不意に飛び出した。

 

「マジ、かよ……」

 

 俺から逃げた悪党がその腕に薙ぎ払われ、すかさずもう1人が胴を掴まれて持ち上げられる。

 

「くそっ、やっぱり追ってきやがったか獣面鬼。離せ、離せっ。……やめろ、俺を食うなっ。ぎゃああああっ!」

「た、助けてくれっ。なんでもするからっ。這いつくばってナニどころかケツの穴まで舐めまくってやるからさっ。頼む、頼むようっ!」

 

 レイダーにも悪党にも、女はいる。

 その中の1人が涙と、鼻水まで垂らしながらまだ話の通じそうな俺の方を向いて叫んだが、こんな世界では人を許すにも大変な覚悟というものが必要だ。

 それはその人間をいつまでも近くで見続け、その人間がまた人を殺したならば、その罪のない人の命を奪ったのは自分でもあると認める覚悟。

 そんな覚悟など出来るはずのない俺は、泣きながら助けてくれと叫ぶ女の顔面に爆発ミニガンのガンナーサイトを重ねた。

 

「や、やめてくれ。死にたくないっ。あたしは男に乗っかって腰を振ってりゃ腹いっぱいメシが食えるから、ただそれだけの理由でっ。やめてくれ。死にたくないっ、死にたくないんだよぅ……」

「それでも、名前の前に悪党なんて表示がされたら終わりなのさ。あばよ、美人レイダー」

 

 爆発ミニガンの連射で、薄汚れてはいるが整った顔立ちが頭部ごと吹っ飛ぶ。

 その死体が首から血を噴き出して膝をつくようにアスファルトに崩れ落ちるのを見ながら、俺は爆発ミニガンを膝砕きのミニガンへと変更した。

 

「ここまでがチュートリアルかよ。このデスクローを倒して、やっと俺のウェイストランドでの命を懸けたサバイバルが始まるってか。はっ。どこのどいつか知らんが、悪趣味にもほどがあるぜ」

 

 死んだ悪党が獣面鬼と呼んだデスクローは、次々に悪党を殴り殺してはもう片方の手で掴まえた人間の頭部を喰いちぎって喜悦の雄叫びを上げている。

 その光景は仮想世界なんかとは比較にならないほどに衝撃的で、この世界の理不尽さ残酷さをゲーム気分の抜けきっていない俺に教えてやろうとでもしているかのようだ。

 

「だがよ、神か悪魔か知らねえがちっとばかしゲーマーを舐めてねえか。レジェンダリー武器やフル改造のパワーアーマーをたんまり持たしたってのに、チュートリアルの相手が無印デスクロー? はんっ。テメエはあれだな、コンコードで殺されまくってコントローラーを投げそうんなったクチだな。……あめえってんだよ、ボンクラッ!」

 

 もう悪党は壊滅状態で、かろうじて生き残っている連中も逃げるのを諦めてしまっているようだ。

 Perceptionも3しかないので気がつかなかったが、もしかしたら俺とデスクローはほぼ同時に草むらの向こうにいた悪党達へ奇襲をかけたのかもしれない。

 2匹のケダモノが、同時に獲物の群れに襲い掛かったのだ。獲物を喰い尽せば、今度はケダモノ同士が咬み合うのは必然。

 

「フュージョン・コア残量、OK。……HP、AP共にフル。膝砕きのミニガン、装填よし。安全装置、解除」

「逃げる気はないみたいね、お兄さン」

 

 そう言いながら俺の隣に並んだのは、驚いた事に白い機体を硝煙や泥で少しばかり汚したセントリーボットだった。

 こんな状況では確認できないが、背面にフュージョン・コアを搭載していればフォールアウト4に、そうでなければ3かNVに登場したタイプだろう。

 ……いや、胸に桜のペイントが見えたので、マリーナのプロテクトロンのように国産機という可能性もあるか。頭の上に名前が見えているが、もしかしてこれが。

 

「あの人も、またずいぶんとぶっ飛んだ助っ人を連れて来てくれたものネ」

「気に入らねえならここはアンタに任せて、俺は家でのんびりビールでも飲むが?」

「獣面鬼をか弱い女に押し付けて帰るなんて、とんだ人でなしねエ」

「誰がか弱いって、サクラさん?」

「覚えておくのね、ボウヤ。たとえその体が殺人兵器になっても、女は女なのヨ」

 

 機械であるロボットに表情などあるはずもないが、頭の上にサクラと名前が表示されているこのセントリーボットははっきりと笑ったように感じた。

 

「そうかい。悪党の50人程度なんぞ、アンタなら簡単に蹴散らせそうなもんだが。もしかして、弾切れか?」

「正解。ミサイルは残り1発。5mmも数十発しか残ってないのヨ。戦前の研究施設の捜索と101のアイツを追うのを優先して、防衛軍基地跡の探索をおろそかにしたツケが回ってきたのネ」

「そうかい。5mm弾なら腐るほどある。とりあえず1000を地面に出すから、ミサイルの最後の1発をサービスしてくれよ。ミサイルもあるんだが、取り出そうと探す暇はなさそうだ」

「ええ、戦闘になったらミサイルランチャーはボウヤを巻き込むから、5mm弾だけでいいわヨ。じゃあ、開幕のゴングを派手に鳴らしてあげるワ」

「ありがてえ」

「テンカウントの分はないから死ぬんじゃないわよ、ボウヤ?」

「誰に言ってんだ。……ほら、弾だ」

「ありがと。じゃあ、始めましょうカ」

「ああ。派手にぶちかませっ!」

 

 すっかり残った悪党を食い終え、その血で全身を洗ったようなデスクローがアスファルトを踏み鳴らして吠える。

 その巨体に、気の抜けた発射音と白煙が尾を引いてミサイルが迫った。

 前に出る。

 セントリーボットの弾薬補充なんてレアな光景も見てみたいが、そんなのは後でいい。

 

「1ラウンドでKOしてやっからな、先生さんよっ!」

 

 前に出ながら膝砕きのミニガンをぶっ放す。

 同時に、ミサイルが着弾。

 黒煙の向こうのHPバーは、笑えるほどに減っていない。

 名前もデスクローではなく獣面鬼としか表示されていないし、もしかしたら日本固有のクリーチャーで強さもまた本家とは段違いだったりするのだろうか。

 

「それでも、ぶち殺すしかねえわなあっ。ザマあ、さっそく両足重傷かよっ!」

 

 獣面鬼はアスファルトに膝をつき、天を仰ぐようにして鼓膜が持って行かれそうなほどの咆哮を上げた。

 レジェンダリー武器である膝砕きの効果は銃弾のすべてに『攻撃が当たると、20%の確率で敵の足に重傷を負わせる』という強力なものだが、足が重傷状態になってしまえばダメージが増加する効果が付いたレジェンダリー武器と比べるとダメージは少しばかり物足りない。

 だから、次はこれだ。

 

「な、なにやってんのよっ。獣面鬼に散弾銃なんて自殺行為ッ!」

 

 


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