Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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優しい従姉妹

 

 

 

 アオさん一家とウルフギャング夫妻の移住に関しての話し合いは、こんなんでいいのかと突っ込みたくなるほど簡単に終わった。

 俺が考えていたアオさんが基地の管理人でコトリさんが食堂のおばちゃん、その住居は待機所の上に増築した食堂のさらに上に3階を増築という案が、あっさりと了承されたのだ。給料も、住み込みで食費もかからないのにそれでは多すぎるんじゃないかとアオさんとコトリさんが心配するくらいには出してもらえるらしい。

 ウルフギャングの方は今まで暮らしたどの街よりも家賃が安いとかで、その場でジンさんに今月の家賃と税金を手渡して競艇場とメガトン基地の中間にある店を借りてしまっていた。

 で、今は俺がウルフギャングのトラックで駅を出てからの説明をさせられているのだが、ミサキとシズクの機嫌が急降下で気まずいのなんの。

 

「50もいる敵の真ん中に突っ込もうとして、歩道橋から落下。へー。無茶はするなって言わなかったっけ、あたし?」

「しかも獣面鬼が出た時点で撤退を選択せず、ちょっとHPを削ったら調子に乗って、そこに駆けつけた獣面鬼・母に殴られてぶっ飛んだ?」

「いや、あれはだな……」

 

 助けてくれとセイちゃんを見るが、彼女はテーブルに置いたピップボーイをじっと見つめて動かない。

 

「あれはなんなのよ?」

「い、いや。そういや聞いてくれよ。AQUABOYを取るために、Enduranceを2つ上げただろ。そのおかげでHPの最大値が上がってたから、それで命拾いしたんだ。やっぱあれだな、これからも安全第一のPerk構成を目指すよ、うん」

「ハナっから無茶をしないという選択肢はないのか。これはあれだな、ミサキ。危うく初夜の前に未亡人にされかかった私達が、しっかりと旦那様に命の大切さを教えてやらないと」

「旦那様じゃなくて仲間だけど、命の大切さを言い聞かせるのには賛成ね。腕が鳴るわ」

「鳴ってんのは拳じゃねえか、いや、なんでもないです。はい……」

「やれやれ。尻に敷かれてんのはどっちなんだか」

「ほっほ。まあ婿殿には、お説教もご褒美やもしれぬがの」

「カンベンしてくださいよ。俺はMじゃないですって」

「ん。決めた」

 

 セイちゃんが顔を上げ、隣にいるシズクの前にピップボーイを押す。

 その笑顔を見たシズクは、やれやれといった表情でピップボーイを持ち上げた。

 

「手伝え、アキラ」

「いいのか?」

「当然だ」

「え? えっ?」

「ちょ、ちょっとシズク。なんでセイを羽交い絞めにしてるのよ!?」

「ピップボーイを力ずくでセイちゃんに装備させようってんだろ。3に出てきたのを模倣した国産品なら、死んでも外せねえ。実の姉とも慕うシズクにセイちゃんがピップボーイを譲ろうとしてっから、姉としちゃそうはさせたくねえんだろ。説得すんのが面倒だから力ずくってのは、さすが脳筋だなあ」

「さすがはそっちだ、旦那様。あたしの事を、わかってるなあ。ほら、早く白衣を捲って装備させてしまえ」

「ダメっ。これはセイじゃなく、いつも戦うシズク姉ちゃんにっ! はーなーしーてーっ!」

「うるさい。このままでも戦えるあたしより、セイが使った方がいいに決まってるじゃないか。早くしろって、アキラ!」

「いや、だからいいのかよ? たぶんこれ、装備したら外せねえんだぞ。いつかVATSも使える純正品のピップボーイを手に入れても、ここでこれを装備しちまったらセイちゃんはそれを装備できねえんだ」

「そ、それは……」

 

 さすがは脳筋3人衆が1人、そこまでは考えていなかったか。

 

「セイちゃんも。ウルフギャングのトラックで、話は聞いてたでしょ。俺はこの先レベル上げや山師の仕事をしながら、サクラさんが使える人造人間の体も探す。そんな物がある場所になら、純正品のピップボーイだってあるかもしれない。その時にVATSを使えない国産品のピップボーイをシズクに譲ったのを悔やんでも、俺達は何もしてあげられないよ?」

「ううっ……」

「なるほど。なんかこんな昔話があったねえ、櫛と時計の鎖かなんかの」

「あったなあ。で、どうすんだ?」

 

 2人は見詰め合ったまま、何も言わない。

 それはそうだろう。

 互いの事を思い合う優しい2人は、そんな人間であるからこそ簡単には答えを出せないはずだ。

 

「むう」

「うぬぬ……」

「ま、ゆっくりと考えて決めてくれ。俺はアオさん一家の部屋を増築して、それからウルフギャングのトラックを返して店のリフォームでも手伝っとくわ」

「アキラ。増築、見てていいか?」

「もちろんだ。パワーアーマーの値段を交渉しながら作業しようぜ」

「現金をいくら持ってるかって聞いてたな。金が必要なのか?」

「ああ。500万ほどな」

「ごひゃっ!?」

 

 金額を聞いて絶句したウルフギャングの肩を叩いて早く行こうぜと促し、2人で自室を出る。

 ここは待機所の左右にあるプールの左側、水面の上に建てた建物だ。

 1階がセイちゃんが機械いじりなんかをする作業場で、2階が広いリビング。3階がベッドルームや風呂になっている。

 そのすべては空中廊下で待機所や見張り台へ続いているので、どこに行くにも楽でいい。ただ新たな住人となった双子の安全を確保するため、細かな改造は必要だろう。

 

「あの真ん中の小さいのが待機所だ。1階が待機所で、2階が食堂になっててな。手早く3階を増築しちまうから、少しだけ待っててくれ」

「いいさ。それが見たくて着いて来たんだし」

 

 時間が時間だからか誰もいない食堂に入り、ワークショップ・メニューを呼び出す。

 俺の視覚に同調したそれで天井を見上げ、まずは屋根を床に変更した。

 

「ほんで、食堂の隅に小部屋を作ってと」

「うおっ。な、なにもなかった場所に、部屋がっ!?」

「驚くのはこれからだっての。ドア付けて、ん。イメージするだけで開けられるから、やっぱゲームとは段違いの快適なクラフトだよなあ。んで小屋の内部の床と天井を、小屋の吹き抜けに変更っと」

「な、なんなんだこりゃ。夢でも観てるようだ……」

「はいはい、とっとと行くぞ」

 

 3階に上がってまず壁と天井を設置し、部屋を区切ってゆく。

 そのたびにウルフギャングは驚いていたが、風呂とトイレを作ってそこに出したウォーターポンプから水を出すと文字通り飛び上がって驚いた。あまりにいいリアクションで、思わず俺も笑顔になってしまう。

 

「床が水浸しにっ、いやそもそも、なんで水が出るっ!?」

「なんか、配管までされてるらしいんだよなあ。トイレやウォーターポンプを設置した瞬間に。んで手漕ぎのウォーターポンプなんて高い場所に設置したら水の汲み上げなんて出来そうにねえけど、それも不思議パワーで問題なく使えるし。マジわかんねえ仕様だよ、この世界のクラフトってのは」

「それにその水、それで体を拭いたりして平気なのか?」

「RADならまるっきりねえぞ。たぶんだけど、101のアイツがGECKを持ってる段階のセーブデータもあって、それを競艇場の浄水機にでも組み込んだんだろ。少し離れるとRADがあるけど、小舟の里の近辺なら水は安全だ」

「……何を言ってるのかはさっぱりわからんが、オマエ達2人がとんでもないって事だけはわかった。街の住民だけで使い切れないほどの浄水された水か。なんとまあ」

「ミサキもたいがいだけどな。よし、こんなもんか。あー、あー。こちらアキラ、聞いてるかミサキ?」

 

 なにー?

 

「アオさん達の部屋は増築しといた。こんな時間ですぐ終わるから遠慮するなって言って、後で実際に部屋を見てもらいながら住みやすい間取りを紙にでも書いといてくれ」

 

 わかったー。

 

「そんじゃ、ウルフギャング夫妻の新居をリフォームしてくらあ」

 

 はーい。後でお掃除に行くね。

 

「頼んだ。よし、行こうぜ。ウルフギャング」

「あ、ああ」

 

 2人でメガトン基地を出てまずしたのは、ガレージの場所決めだ。

 本当なら店の入口と向かい合う形で建てたいのだが、それをするには橋の近くは車の残骸や瓦礫が多すぎる。なので、それらは片っ端から分解だ。

 

「出すだけじゃなくて、ある物を消したりも出来るのかよ……」

「まあなー。床、壁、天井すべてコンクリートの土台で、ああ。ベッドルームはこっちにしろよ、ウルフギャング。あっちじゃ防犯上ちっと心配だ」

「BOSの要塞に住むウルフギャング。そんなの、バグにしても酷すぎるな」

「ははっ。かなり知ってんだな、フォールアウト3」

「手紙にも書いてあったろ。異世界の物語が、俺達の現実に限りなく似ている。アメリカの話だが、夢中にもなるさ」

「それでウルフギャングを名乗ってんだもんなあ。4にも出たんだぜ、ウルフギャングってキャラクター。いや、キャラクターじゃなくて所属組織か? あれ?」

「ほ、本当かっ?」

「ああ。えーっと、門は設計を1からしねえとだから最後にすっか」

「おい、アキラ。早く教えろよ。4ってのは、101のアイツがいつか発売されるって言ってたフォールアウト4だろ? 頼むから焦らすなって」

「俺には手紙がなかったからそうだと思ってたが、やっぱ101のアイツは4をやらずにこっち来たのか。くくっ。会ったら自慢してやるぜ」

 

 奥がウルフギャングとサクラさんの寝室に風呂とトイレ、手前がガレージでトラックとサクラさんのメンテナンスが出来るくらいの広さ。

 最後にタレットをいくつか置いてそれやトラックを隠す大きな鉄の門を取り付けると、ガレージに出したトラックの荷台からウルフギャングが南京錠を出してきてカギを閉めた。

 

「アキラ、これ持っとけ」

「ガレージの合鍵?」

「ああ。俺が死んだら、中の物はすべて自由にしていい」

「縁起でもねえ」

「これくらいはな。今回の報酬、受け取らないって言うんだろ?」

「現金以外はすべてあって、武器や防具なんて逆にくれてやりたいくれえだからな。その現金だって、国産品のプロテクトロンが核分裂バッテリー50付きで500万って言ってっから必要なだけだし。ま、それは銀行でも漁って用意するさ」

「うわ。国産品のプロテクトロンって、それじゃ銀行の金庫にある金は使えねえじゃねえか」

「なんでだよ?」

 

 言いながらウルフギャングが開けた立ち飲み屋の中はボロボロではあるが、掃除してテーブルや椅子を交換すればそのまま飲み屋として使えそうだ。

 

「戦前のプロテクトロンは、核が落ちたあの日で時が止まってる。その日に銀行にあった札束なんて持って行ったら、紙幣の番号照会で犯罪者と判断されて即敵対だぞ」

「げえっ!?」

 

 


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