Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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改造と抜け穴探し

 

 

 

 ならば自分のレベル上げなど後回しでいいとセイちゃんが言い張り、翌日からガレージでまずウルフギャングのトラックを改造してしまおうとなったので俺達はそのままガレージで飲み続けた。

 そうこうしているうちに里の外周を見回っていたEDーEが帰って来たのだが、マイアラークが入り込めるような場所は見つけられなかったらしい。

 その時はすでに日が暮れていたので改造が終わった後にでももう一度見回ってみる事にして、俺達はメガトン基地の自室で眠った。

 アオさん一家の部屋は特に問題がないそうなので、明日は朝からガレージに直行でいい。

 

「まだ早いのにもうガレージ開いてるな。ありゃ、ウルフギャングもいる。早いな」

「借りばかり作ってしまっている相手が自分のために朝早く来てくれるのに、寝てましたじゃカッコがつかないだろ。おはよう、アキラ。セイちゃん。さあ、入ってくれ」

「おじゃましまーす」

「しまーす」

「来たわね、お2人さン」

「おはようございます、サクラさん。奥の自宅、ここは使い辛いってのありました? あるなら、先にそっちをやっちゃいますけど」

「ないない。コーヒーと紅茶でいいかしら? もちろん淹れるのは旦那だけド」

「ん。紅茶がいい。苦いの苦手」

「ありがとうございます。あの、結構な時間をここで過ごすと思うんで、そうお気を使わずに」

「まあ、そのくらいはさせてちょうだいナ」

 

 まずは昨日、部屋に帰ってから並べたベッドの上でセイちゃんと決めた手はず通り、タレットを4つコンクリートの上に出す。

 

「これがピップボーイのインベントリに入ってたってんだから、アキラもたいがいだよなあ」

「まあなあ。セイちゃん、これよろしく。俺はセイちゃんノートの設計を丸写しで、ジャンクから部品を作ってくね」

「ん。お願い」

「そんな特技まであるのか、アキラは」

「なんでか知らんがクラフトに使う、ワークショップ・メニューってのが進化しててな。設計画面ってのが追加されてんだよ。経験値は入んねえし俺じゃたいした設計は出来ねえけど、セイちゃんがノートに書いてくれたから平気だ」

「ふうん。手伝える事は?」

「ねえなあ」

 

 コーヒーをありがたくいただきながら、ワークショップ・メニューの設計画面でセイちゃんが細かな数値までノートに書いてくれた部品を次々に作る。

 サクラさんはヒマなので散歩でもしてくるとガレージを出て行ったが、ウルフギャングは律儀にも何かあれば手伝おうと待機しているので手持無沙汰なようだ。

 

「ヒマならサクラさんと一緒に、散歩でもしてくりゃいいのに」

「いやいや、2人がトラックをイジってくれてるんだから。残る2人の奥さん達は、アキラ?」

「俺は独身だっての。いつもの探索だよ、今日はパン屋と神社。時間が余ったら、俺がボートで見つけてた工場も偵察してみるって言ってたなあ」

「迎えに行く時は任せてくれ。獲物はすべて、アキラのピップボーイのインベントリで持ち帰るんだろ?」

「ああ。笑えるくれえ道端に戦前の品を積み上げてっからな。ショッピングセンターの時なんて、トラックで何往復もするほどの服やらなんやらがあってビビったよ」

「だから、この里の住民は信じられないほど身ぎれいなんだな」

「売る品物があっても、それを適正価格で買うほど金がある商人なんていねえから。それならってマアサさんが、住民に格安で売ったらしい。面白いのが、そしたら急に風呂屋が繁盛し出したらしくてな。俺が来た頃は、臭くて市場にも行けなかったってのに」

「へえ。キレイな服や靴を汚したくないから、銭湯が流行ったのか」

「らしいよ」

 

 ミサキとシズク達から無線での呼び出しはないし、俺は図面通りの部品をワークショップ・メニューで作ってガレージに並べてゆくだけなので、昼過ぎにはすっかりやる事がなくなってしまった。

 

「セイちゃん、取り付けの手伝いは?」

「クレイジーウルフギャングだけで充分。重いのは、セイがジャッキを改造して作ったので持ち上げるから出して」

「そっかあ。はい、これね。……じゃあ、EDーEが見つけらんなかったマイアラークの通り道でも探しに行くかな」

「おいおい。1人で平気なのか? せめてサクラが帰るのを待って」

「マイアラークがいたらすぐ逃げるって。そんじゃセイちゃん、何かあったら無線で呼んで」

「ん。悪さだけはしないように」

「ガキじゃないんだから。いってきます」

 

 ボートで湖面から見える位置は、昨日EDーEが回ってくれたはずだ。

 ならばマイアラークが入り込んだのは、島と浜名湖を隔てるフェンスの内側。そう思ってまた3貯まったスキルポイントの使い道を考えながら、メガトン基地の防壁と小舟の里のフェンスの間をのんびりと歩く。

 

「あった。可能性が高いのはこれだよなあ。クリップボードを出して小舟の里の島を書いて、まず1つ目のマンホールは異常なし、と」

 

 マンホールと地面、その隙間やフタの上の土を見れば、最近そこが開けられたかどうかくらいは判断可能だ。

 マイアラークがマンホールから這い出し、それを閉めてから島を歩き回る事はさすがにないだろうから、目的の場所に辿り着けばすぐにわかるだろう。

 メガトン基地は、島の最南西。

 すぐ西の湖面に突き当たって北上を始めたのだが、北西橋より広くてそこまでの道が良く大正義団が攻めやすいからとコンクリートの土台で封鎖して、見張り小屋やタレットを配置した南西橋まで歩いても怪しいマンホールは見当たらない。

 

「こりゃ、1日じゃ終わりそうにねえなあ。ったく、仕事しろよLuck10……」

「お、山師さんじゃないか。こんなトコで何をしてるんだい?」

 

 そう声をかけてきたのは、派手なキャミソールを着た若い女だ。

 胸の谷間が強調されて眼福なのだが、それよりけしからんのはその下のミニスカートだ。

 これでは俺が設置したコンクリートの土台の上の見張り小屋へ階段で上がる時、丸見えになってしまうではないか。

 ……タレットの調子を見るとか言って着いて行こうか。こんな美人のパンツが拝めるなら、休憩時間を削ったとしても悔いはない。

 

「パンツくらいならいくらでも見せたけるけど、変態プレイはちょっとねえ」

「……また声に出てたか。悪い」

「いいさ。でもアタイは交代の時間でこれから牧場の食堂でメシだし、見張り小屋には行かないんだな」

「それは残念。ま、さっきのは忘れてくれ」

「あのおっかない食料調達部隊の隊長を嫁にって言われてんのに、手を出してないってのは本当なんだねえ。呆れた男だ」

「シズクの旦那なら、もっといい男じゃねえとな。それより、この辺りのマンホールからマイアラークが這い出したなんて事は?」

 

 女が腕組みをして少し考える仕草を見せる。

 そうなれば当然、寄せられて形を変えた胸の谷間に俺の視線が釘付けになるが、それに気づいた女はニヤリと笑って2本の指を唇に当てた。

 サービスしてやったんだから、タバコくらい寄こせという事らしい。

 ガン見したのがバレてバツが悪いので、胸元を見ないようにして箱ごとタバコを放ってライターの火も出してやる。

 

「ふーっ、ああ美味い。マイアラークねえ。昨日の晩に出たのは、島の反対側だよ」

「げ、よりによって反対側かよ」

「ああ。里の中のプールの向こうに、立体駐車場マンションが見えてるだろ? あの裏っかわさ。1階に住んでる連中が物音を聞いて、跳び起きて警邏隊に通報したらしい」

「そういや警察の代わりに、そんな部隊が犯罪を取り締まってるって言ってたなあ。ありがとう、ネエさん。そっち行って聞いてみるわ」

「あいよ。警邏隊の詰め所は、正門を入ってすぐの右側だ」

「サンキュ。そうだ。もう少しすると駅前橋の手前に、ジャズを聴きながら酒が飲める店がオープンする。そこで会ったら、1杯くらい奢らせてもらうよ」

「グールとセントリーボットが店主で、武器も売るっておかしな店だろ。噂で持ち切りだよ。冷やかしには行く予定だから、楽しみにしとく」

「じゃ、またな」

「あいよ。凄腕の山師っていうからもっとギラギラして粗暴な男かと思ったが、話し方以外はかわいらしい坊ちゃんじゃないか。……まあ、それが逆にいいんだろうねえ。もし男の顔に跨って小便をするような性癖に目覚めたら、隊長さんに遠慮せず貸し部屋に誘わせてもらうよ」

「いや、俺は変態じゃねえから」

「変態はみんなそう言うんだよ。またね。タバコ、ごちそうさん」

 

 誤解を解くまでの道は険しそうだが、とりあえずの目的地はこれで決まった。

 南西橋から競艇場へは広い道路が残っているので、左に放牧地、右に農地を見ながら歩き出す。

 こちらの世界にも梅雨はあるのだろうか。

 ゲームと違って風邪などの病気もあるようだし、雨が降れば探索は休みになる。その時にまだ特殊部隊の連中に見せてすらいないパワーアーマーについて、座学だけでもみっちりやっておこうか。

 こちらに来てから俺が持っているタイプのパワーアーマーの燃料となるフュージョンコアだけはまだ見ていないので、もしかするとあれはアメリカが技術の流出を防いでいたのかもしれないのだ。

 パワーアーマーのハンガーにはそれぞれのパワーアーマーステーションの横に金庫を設置して武器と一緒にフュージョンコアを3つずつ入れてあるが、それを消費した訓練をするべきなのかは微妙なところだ。

 正門を抜けると市場の雑踏が見えるが、特に用事はないので右手にあるという警邏隊の詰め所を探す。

 

「ここかな。お姉さん、ちょっといいか。ここが警邏隊の詰め所なら、昨日のマイアラーク騒ぎの事を聞きたいんだが?」

「あ、凄腕で変態の山師さん」

 

 誰が変態やねん。

 

「あ、いや。失礼しました。すぐに隊長を呼んできます」

「……頼む」

 

 そこまで美人でもバインボインでもなくとも、若い異性に初対面で変態と呼ばれるのは少しばかりキツイ。

 詰め所である競艇場の案内カウンターの上には灰皿があるので気持ちを落ち着かせようと紫煙を吐いていると、俺を変態と呼んだ女に連れられて髭面の中年の男が姿を現した。

 女は長い木の棒を持っているだけだが、男は腰に短めの日本刀を佩いている。

 

「これは。初めまして、山師殿。お噂はいつもジンさんから聞いております」

「そうなんですか。悪い噂なんでしょうねえ」

「滅相もない。師は、ジンさんはいつも言っていますよ。友人達の信頼を裏切らぬためにも、里の中だけは秩序を保って暮らしていこうと」

「あの人、基本的にはマジメですからねえ。基本的には」

「ははっ。それで、マイアラークが出た時の事ですか?」

「ええ。教えてもらえる範囲でいいんで、お聞かせ願えればと。あ、タバコどうぞ」

「ありがとうございます。そうですね……」

 

 隊長さんが言うにはカニとヤドカリを合わせた巨大なバケモノ、マイアラークは里で暮らす人々にとって最も身近なクリーチャーであり、年嵩の者ならそのカサカサと足が蠢く音を聞けばすぐに危険を察知するらしい。

 昨日は1階の自室でその音を聞いた夫婦がすぐに立体駐車場マンションの入口にある警邏隊の詰め所に駆け込み、鈍器のみで武装する警邏隊の隊員はすぐさま特殊部隊に出動を要請したらしい。

 メガトン基地のサイレンが鳴ったので俺も跳び起きたのだが、相手が少数のマイアラークだから寝ていろとシズクに言われて布団の中でその帰りを待っていたのだ。

 

「立体駐車場マンションと湖の間にマンホールは?」

「どうだったでしょう。あの辺は戦前の道路になっていますが、今ではどこに行くにも使わない道ですので」

「なるほど。ありがとうございます」

「見に行くのですか?」

「ええ。これからもマイアラークが入り込むんじゃ、特殊部隊の連中が寝不足になってしまいますし」

「ならば、警邏隊からも人を」

「いやいやいや。何かあるって決まった訳じゃありませんから」

「ですが……」

「本当に大丈夫です。なんかありゃ、この無線で仲間を呼ぶんで」

「わかりました。どうかお気をつけて」

 

 


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