Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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図書館へ

 

 

 

 日が暮れ始めた頃に小舟の里へと戻った俺達は、ウルフギャングの店で少し早い晩メシを食いながら酒を飲んだのだが、帰り道でなぜか機嫌が悪くなったミサキとセイちゃんの機嫌を取るのに酷く苦労した。

 

 女柔術家の簪はたまたま見つけた物で、その装備効果がピップボーイをセイちゃんに譲ったシズクにちょうどいいから進呈しただけ。

 

 そう言っても2人は納得せず、俺は仕方なくミサキにパワーフィストを、セイちゃんに工具としても使えそうなリッパーをプレゼントして機嫌を取った。

 どちらもレジェンダリー武器だぞ凄いんだぞ、俺だってダブりは持ってないんだぞ、とまで言ってようやく、2人はどうにか機嫌を直してくれたのだ。

 

「おはよう、ウルフギャング」

「おう。あれ、アキラだけか?」

「セイちゃんは基地の食堂で朝メシ食ってから来る。俺、朝はコーヒーだけでいいんだ。これ、手描きだけど図書館までの地図」

「へえ。上手いもんだなあ。……目的地は東海道じゃなくて、海沿いのバイパス。橋を渡るのが近そうだな」

「そうなんだよ。でもルートは、ウルフギャングが判断してくれ」

 

 まだ6時前なのにガレージから出されているトラックの前でタバコを咥え、ウルフギャングにも1本差し出す。

 

「ありがとう。……でも新居町駅からバイパスを通って行く道まで描いてるって事は、出来れば東海道じゃなくてこっちを進みたいんじゃないのか?」

「でもほら、俺はこっちの戦前も、ウェイストランドになってからの日本も知らねえ訳じゃん。フォールアウト4じゃ橋は結構、レイダーやガンナーって敵が封鎖して基地にしてたし」

「ガンナー?」

「ウルフギャングにわかりやすく言えば、タロン社」

「傭兵か。そういや、この辺りじゃ見てないな」

「なるほど」

「とりあえず向かってみて、バイパスが危険そうなら東海道に戻って舞阪駅の手前を右折。それでどうだ?」

「もちろん。いいに決まってる」

 

 そんな立ち話をしているうちにサクラさんが、そしてその直後にセイちゃんが来て出発となった。

 今日の目的地は東の、浜松方面。駅で言うと浜松駅から小舟の里方面に向かって2駅の舞阪という街へと向かうので、駅前橋の門を抜けてトラックは進む。

 

 北西橋から徒歩で探索に出るミサキとシズクとジンさんに連れ回される特殊部隊を、今日も迎えに行くと昨夜ウルフギャングは飲みながら約束していたようなので、探索は夕方前には切り上げる事になりそうだ。

 

「やっぱ風が凄いな、フロントの小窓を開けると。景色が良くて索敵しやすいのはいいけど」

「フロントガラス、最初からなかったからなあ」

「このトラックはどこで見つけたんだ?」

「崩落したトンネルの中央。大変だったぞ。やっと動く車、それもサクラが乗れそうなのを見つけたのに、それを引きずり出すのには車の残骸がジャマでな。3か月テントで寝起きして、朝から晩までずうっと車の残骸と瓦礫の撤去作業だ」

「そんな場所じゃなきゃ、損傷の少ない車はねえって事か。キツイなあ」

「まあ、その辺は任せとけ。今度、いいトコ連れてってやる」

「どこだよ?」

「行ってみてのお愉しみさ」

 

 もしかするとウルフギャングも、空軍基地ならばと思っているのだろうか。

 車の残骸のせいで何度か道を変えながら、ドッグミートがミサキとEDーEを発見した辺りを通り過ぎた。

 

「こっからは、俺も初めて足を踏み入れる地域だ」

「へえ。お、バイパスが見えたぞ。残念だが、車の残骸が見えるな」

「急いで逃げるにはいい道だろうしな。車の残骸なら、俺がジャンクにしてピップボーイに収納できる。いつでも言ってくれ」

「頼りになるねえ」

「戦闘じゃポカやらかしてばっかだけどな」

「最初はそんなもんさ。生き残りさえしてれば、誰だって強くなる。大切なのは、死なないって事だ」

「ジンさんにも、そんなような事を言われた」

「単純だからこそ、正しい。理屈なんてそんなもんだよ。いい具合に車の残骸がばらけてる。しばらくは進めそうだ。おかげでスピードが出せないし、帰りはセイちゃんとサクラを屋根に上げて砂浜と海を見物させてやりたいな」

「楽しみ」

 

 フロントの小窓を覗き込みながら、地図には左に公園があったのを思い出す。

 それでも、そちらに視線をやる余裕はない。

 

「くっそ、意外と早く車の残骸で道が塞が」

「ブレーキッ!」

 

 俺が叫んだ直後に、タイヤの軋む嫌な音。

 

「……いたい」

 

 シートの上で体育座りしていたのでそこから落ちたセイちゃんに手を貸して座らせ、フロントとサイドの窓を閉める。

 

「そっちも閉めろ、ウルフギャング。急いで」

「あ、ああ。エンジンは?」

「そのままでいい。バックは出来るか?」

「このままでも少しなら。後部ハッチを開けりゃ、いくらでも戻れるぞ」

「少し先に、車で道が詰まってるトコがあっただろ?」

「ああ。しっかり見たんで憶えてる」

「その最後尾が爆発しても、トラックが巻き込まれない場所まで下がってくれ」

「誘爆するような車の残骸はなかったから、少し戻るだけでいいな。それで、何があったんだよ?」

「……地雷だ」

 

 ウルフギャングが息を呑む。

 もしもあのまま進んでいたらと考えたのかもしれない。

 ゆっくりと後退するトラックが完全に止まってから、まずサイドの小窓を薄く開けて外を窺った。

 

「おいおい、ここは日本だぞ。イカレたあの国とは違うんだ」

「今まで地雷に引っ掛かった事はねえのか?」

「俺達がトラックを手に入れたのは10年ほど前で、それからもなるべく国道ばかり通ってた。戦前に仕掛けられたのがあったにしても、とっくの昔に誰かが踏んでくれてたんだろうよ」

「そうじゃなくて、レイダーなんかが仕掛けたやつ」

「消耗品の地雷を買うくらいなら、銃や弾をたんまり買うさ。ド低脳の悪党にだって、そのくらいの知恵はある」

「……じゃあ、あれは戦前に仕掛けられた可能性が高いのか。なんで台風なんかで爆発してねえんだよ?」

「俺が知るかって。それで、どうする?」

「それを相談したいんだよ」

「橋の手前に車が詰まってて、その切れ目に地雷か」

「なあ、まずもう少し戻んねえか?」

「そうすっか。サクラ、ハッチの小窓から後ろ見ててくれ」

「はいヨ」

 

 Uターンをして運よく車の残骸で塞がれていなかったバイパスへの合流口まで戻り、安堵の息を吐きながらタバコに火を点ける。

 

「ふーっ。あの先に何かある、それは間違いねえよな?」

「それはそうだろう」

 

 問題はそこに足を踏み入れるべきかどうか。

 ゲーム方式ならとりあえず敵を発見するまでは進み、敵が多いか強すぎるかならレベルが上がるのを待ってまた訪れるのだが。

 

「俺が浜名湖側から、ボートで偵察に出ようか?」

「競艇用のボートでか。あれは、ちょっとした風や波でもレースが中止になるくらい繊細な乗り物なんだ。車の残骸の向こうにあるはずの橋は浜名湖が海に流れ込む場所だから、波もあるはずだ。それはやめておいた方がいいぞ」

「なるほど。詳しいな?」

「金持ちのボンボンは、博打も女遊びも派手だって相場が決まってるのよ。ねえ、アンタ?」

「昔の話だろって、そう睨むな。いいか、アキラ」

「ん?」

「この辺りには、核が落ちていない」

「ああ。街並みが残ってるもんな。爆撃でもされたのかよって感じはあるけど」

「だとすると世界が終わった日、ここいらにはまだ防衛軍の兵力があった」

「……それが橋を封鎖した? 東海道は封鎖してねえのに?」

「してたのかもしれない。考えてみろ。もう、戦後300年以上だ。東海道は片付けられただけかもしれない」

「それにしたって……」

 

 生き残った人間達が駅や市街の中心部で暮らし始め、世代が変わって海沿いのバイパス道路の存在が忘れられたり、子孫達はクリーチャーのせいでそこまで探索の足を伸ばせなかったというのは理解できる。

 だが、東海道だけを片付けたなんて。

 

「浜松の新制帝国軍は、見張りまで戦前の防衛軍の軍服を着て小銃を担いでたぞ」

「……日本各地に核が落ちた。無事な浜松は混乱こそしただろうが、人の手は足りていたか」

「都市伝説だと思ってたがな。空軍が迎撃機でミサイルに体当たりまでして核が落ちるのを防いだから無事な街が残ってる、って噂を聞いた事がある」

「核ミサイルに戦闘機で体当たりって、そんなん可能なのかよ?」

「さあな。だが、その噂には続きがあってな」

 

 ウルフギャングが瞳を伏せながらタバコを消す。

 

「続き?」

「前触れもなく孤立した街。当然、他の地域の経済活動のすべては停止している。すぐに不足し始める物資。そこへ降り注ぐ放射能。そうなれば発生するのはグールや、変異した動物達だ。ただでさえ大混乱のそんな街に、他の地域からグールやマイアラークが押し寄せる。地獄絵図だったってよ」

「……そうなると、慌てて防衛の準備か」

「だろうな。浜松の新市街は、重機がなければ動かせも出来ないような瓦礫なんかを積んだバリケードで囲まれていたよ」

「ならそれで防衛が一段落すれば、次は他に無事な街を探しに行く?」

「地図で見るとわかるが、浜松から県庁所在地の静岡市へ向かうとまず磐田市。次に袋井市、そして掛川市だ。掛川の手前までは核の被害が相当なものだったが、入ってしまえば車の残骸なんかが多くて進むのに苦労したよ。そして磐田に入る辺りに、戦前か戦後すぐの防衛軍の検問所があった。装甲車両や重機が見えたんで迂回したが、そこからの東海道はトラックが通れないような場所はなかったな」

「そこまでしか、浜松の防衛軍は東海道を片付けながら進めなかった?」

「だと思う。そしてそんな状況なら、バイパスを封鎖させた部隊になんか構っていられなかっただろう。落ち着いてから様子を見に行かせたとしても、壊れた車両なんかは……」

「放置してる可能性もあるか」

 

 ならば、立ち往生した車の残骸の向こうを見に行かないという選択肢はない。

 またステルスボーイを使うしかないか。

 

「ちょっくら様子を窺って、大丈夫そうなら車の残骸をジャンクにして道を作る。少しだけ時間をくれ」

「1人でか? 危険すぎるって」

「ステルスボーイってアイテムがあるんだよ」

「姿を消せる、ってあれか」

「ああ」

 

 ウルフギャングがタバコを咥え、小さく頷いた。

 

 

 


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