Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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到着

 

 

 

 怒りに任せてタイチに掴みかかろうとした俺を止めたのは、隣で話を黙って聞いていたセイちゃんだった。

 小さな体を俺とタイチの間に滑り込ませたので、このままではセイちゃんに怪我をさせてしまうかもしれないと仕方なく身を離す。

 

「ちっ」

 

 ふいーっ、こちらメガトン1。

 とりあえず見えてる分は片付けた。

 可能なら、2班だけでもこっちに回しとくれ。GK-4には大きなシャッターの入口があるんで、そっから中に踏み込みたい。

 

「了解。そのシャッターは開いてるんすか?」

 

 まさか。

 真ん中辺りを手榴弾で爆破するのさ。

 ほんでまだ中に妖異がいてそれが飛び出して来てくれりゃ、3班で一斉射撃。妖異が出て来てくれねえなら、メガトン1が先頭で突入したい。

 

「なら、セイちゃんにシャッターを確認してもらう必要があるっすね。周囲を警戒しつつその場で待機を」

 

 了解っ。

 

 タイチが無線の送信機を胸に戻して俺に向き直る。

 

「アキラはどうするっす?」

「行くに決まってんだろうが」

「そうっすか」

 

 言いたい事はあるに決まっているが、この状況でそれを口に出すほど俺もバカではない。

 距離はそんなに離れていないので、すぐに手前の3つより大きく2階まである大きな建物の正面、50メートルほどの距離に布陣する3班に合流できた。

 

「なあ、タイチ。先に試してえ事があるんだが」

「なんっすか?」

「もし特殊部隊だけでの探索練習がもう充分なら、あの建物を丸ごとピップボーイに収納可能か試したい」

「……可能なら、大幅な時間短縮になるっすね」

「ああ。出来れば今日のうちに磐田まで進んでおきてえからな。いいか?」

「いいっすよ。メガトン3、アキラの護衛を。メガトン1と2はその左右に移動して射撃用意」

「はっ」

「あいよ」

「了解」

 

 ゲームでは絶対に不可能だった、建物ごとピップボーイに収納という荒業。

 

 それはふと思いついた俺や、それを見守るタイチ達が拍子抜けして呆れて肩を竦めるほど簡単に出来た。

 どうせなら大きな地震なんかが起きても少しは安心できるようにと『建物とその内部の設備や物資だけでなく、建物の土台まで収納』と念じたので、コンクリートの地面には四角形の大きな穴が出来ている。

 

「やれやれ、アキラのやる事はやっぱりデタラメっすねえ。オイラ達の緊張とかそういうのを、どうしてくれるっすか」

「俺は悪くねえだろって。それより、さっきの話だけどよ」

「簡単に説明できる事じゃないんで、時間がある時にでも話すっすよ」

「いや、でも。……それもそうかな。んじゃ、そのうち酒でも飲みながら聞くか」

「はいっす。これよりトラックに帰投する。先頭はメガトン1、2と3の間にアキラとセイちゃん。0が殿っす」

 

 俺達がトラックに乗り込もうとすると、ミサキとシズクが荷台の屋根にある柵から身を突き出すようにして、怪我人でも出たのかと大声で叫ばれた。

 あまりに帰りが早いので、何かトラブルがあって引き返してきたと思ったらしい。

 

「大丈夫だっての、怪我人なしで探索終了。今から俺はピップボーイのリストに冷蔵庫なんかがあるか確認して、あれば駐車場に出してセイちゃんに見てもらう。休憩でもしといてくれ」

「わかったー」

「見張りは任せろ」

「休憩してろって言ってんのに……」

 

 ピップボーイのリストには、冷蔵庫と冷凍庫と製氷機だけでもかなりの数が表示された。

 時間が惜しいのでその3種の後ろに(特大)と書いてある物だけセイちゃんに見てもらったが、どれもほんの少し手を加えれば問題なく使用できるとの事だ。

 電源は、俺がジェネレーターをクラフトすればそれでいい。

 

 ホクホク気分で助手席に乗り込み、ウルフギャングにトラックを出してもらう。

 

「ゴキゲンだな、アキラ」

「まあ、探索の成果自体は最上だ」

「だろうな。それとこれはミサキちゃんにも言える事なんだが」

「ん?」

 

 ハンドルを握るウルフギャングが苦笑する。

 なんだか子供を諭す大人の横顔にしか見えないので、まるでそれに反抗でもするようにタバコを咥えて火を点けた。

 

「アキラとミサキちゃんには2人の育ってきた環境があって、それはこちらではどんなに願っても手に入れられないほど素晴らしいものだった。だから、たまに俺達から見れば眩し過ぎる正論や理想論を口にする」

「……青臭い、か」

「そうは言わんよ。よし、東海道に戻った。後は磐田に一直線でいいんだよな?」

「ああ。よろしく頼む」

 

 進行方向に地雷や、トラックをどうこうできそうな敵がいないかを見張るのは俺の大事な役割だ。

 だが助手席の小窓を開けてその数少ない自分に出来る役割をこなしながらも俺は、弱いヤツはみんなのために早く死ねと言ったタイチの鋭い眼差しや、お前達の言葉は眩し過ぎると苦笑したウルフギャングの横顔を何度も思い出していた。

 

 俺が平和ボケしたただのガキなのは自覚しているつもりなのだが、だからといってこちらの人間と同じく、人の命など何よりも軽いものだと考えるようにはなりたくない。

 『オマエだって人殺しのくせに』と言われて当たり前だとしても。

 

「アキラ」

「え、ああ。どした、ウルフギャング?」

「いま渡ってるのが天竜川。ここを抜けたら磐田で、最初の目的地であるズズキ磐田工場はイッコクからすぐだぞ」

「……わかった。気合を入れ直す」

「そうしてくれ」

 

 東海道を東に進むと新制帝国軍の勢力圏を通過しなくてはならないので、ウルフギャングはすぐに国道1号線へとハンドルを切っていた。

 ここまでの道はウルフギャングと初めて出会い、サクラさんが守っていたアオさん一家を助けに飛ばした道なので、注意力が散漫な俺の見張りでもなんとかなった。

 だがここからは俺にとって未知の領域で、国道1号線をほんの少しでも逸れればウルフギャングもそれは同じ。

 考え事などしながら見張りをするようでは、命がいくつあっても足りないだろう。

 

「標識の文字もまだ読めるな。この先には病院に図書館、大学なんかもあるみてえだ」

「余裕ができたら本や教科書を漁りに来たいな、セイちゃん」

「ん。農業と酪農と加工品の学校がいい」

「そう都合よくはなあ」

「もう少し進むと、右手に大きなホテルがある。それを過ぎて、次の交差点を左折すればすぐに工場のはずだ」

「いい場所にあるもんだなあ」

「この道の左手には高速道路もあってな。当時は材料を運び込むにも、工場で生産した物を輸送するにも都合がよかったんだろう」

「でもそこはいいけどもう1つの狙い、違うメーカーの工場が問題だよなあ」

「ユマハの本社工場か。どう考えても磐田の街になってるユマハスタジアムに近すぎるからな」

「そこには期待できねえかな。だとすっと、バイクは望み薄だ」

「そうなるなあ」

「お、ホテル視認」

「ならもうすぐ左折だ。もし道を塞がれてたら頼むぞ」

「任せろ」

 

 やがて森という街か何かへ向かう標識が見えると、その交差点をトラックは左折した。

 

「物流センターにパチンコ屋。道は塞がれてねえなあ」

「それより左のフェンスを見ろ、やけに頑丈そうだ。たぶん、あそこからズズキの工場の敷地だぞ」

「見えるのは工場なんかじゃなくて、ただの団地じゃんか」

「ズズキの社員寮だとさ」

「ど、どんだけ広いんだよ……」

「おっと、社員寮の奥に駐車場があるな。ここからも工場に行けそうだ」

 

 そう言ってウルフギャングがハンドルを切ると、途端に荷台の屋根のタレットが銃弾を吐き出し始めた。

 

 グール。

 

 タレットの威力の前ではただのザコでしかないが、数がハンパではない。

 

「おいおい、タレットで捌き切れんのかこんな数……」

「逃げ出す準備だけはしておくか。Uターンするぞ」

「おう。って、ヤバイ。Uターンじゃなくてバックだ、ウルフギャング!」

「ん?」

「タレットの流れ弾が駐車場の車に。黒煙が上がった! あれじゃ爆発すっぞ、急げって!」

「くっ」

「全員なんかに掴まれっ!」

 

 俺の叫びを、タイヤの軋む音とエンジン音が掻き消す。

 猛スピードでバックし始めた車体が何かに擦れて結構な衝撃が来たが、ウルフギャングはそれどころではないらしい。

 すぐ近くで核爆発が起ころうとしているのにドアの窓を開け、バックミラーで後方を見ながらアクセルをベタ踏みだ。

 

「も、もう大丈夫じゃねえか? 距離的に」

「念のためパチンコ屋の駐車場まで」

 

 ドカーンッ!

 

 そんな爆発音で、ウルフギャングの言葉は最後まで聞き取れなかった。

 

「ふうっ、危なかったなあ」

「まだ来るぞ」

「は?」

 

 ドカーンッ!

 ドカーン、ドカーンッ!

 

「これってもしかして……」

「誘爆だな」

「うへえ。工場は無事なんかよ?」

「問題ないだろ、かなり広い駐車場だったし。よしよし、パチンコ屋の駐車場は車が少ないな」

「てか、駐車場を塞いでた鎖を躊躇わずトラックで引き千切んなよ」

「細かいなあ、アキラは」

「ほっとけ。それより、どうすっか。俺は、自動車工場ってのを完璧に舐めてたぞ。まさかその敷地に踏み込んでも工場の建物すら見えねえほど広いとは」

「だなあ。とりあえず、昼メシでも食いながら考えよう」

「なら天気もいいし、外で食うか。特殊部隊の連中もずっと荷台じゃ息が詰まるだろうし」

「だな」

 

 パチンコ店の建物から離れた場所にトラックを停め、まずは周囲をタレットで囲う。

 そこにテーブルや椅子を設置して、メガトン基地の食堂で作ってもらった弁当や缶コーヒーを並べれば準備は完了だ。

 

「タイチはこっちで食ってくれ。工場をどう探索するか相談してえ」

「はいっす」

 

 いつものメンバーにタイチを加えてまとまって座り、蒸かしたジャガイモが白米の代わりにたくさん入っている弁当をパクつく。

 

「さて、どうすっか」

「どうもこうも、またトラックで敷地に入ったら同じ事の繰り返しになるんじゃないっすか?」

「だなあ。特殊部隊4班にあたしとミサキとアキラで組んだ1班を足して、地道に修理できそうな車を探すしかないだろう」

「そうなるんかなあ」

「ウルフギャングさん、セイちゃんの護衛とトラックの守りに何人くらい必要っすか?」

「必要ないよ。それよりトラックはアキラのピップボーイに入れてしまって、俺とサクラとセイちゃんでもう1班を編成した方がいい」

「そっか。ウルフギャングさんって、ミサキさんよりレベルってのが上だったんすよねえ」

「ああ。いいか、アキラ?」

「シズクがいいってんなら俺は口出ししねえよ」

「サクラさんもいるし大丈夫だろ。それに、往時の物品に明るい2人とセイの組み合わせは最上だと思う。セイ、2人の指示にはちゃんと従うんだぞ」

「ん」

 

 


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