Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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工場探索開始

 

 

 

 昼食を終えた特殊部隊の4班、それにウルフギャングとサクラさんとセイちゃんで組んだ即席班がパチンコ店の駐車場から出てゆく。

 俺とミサキとシズクはこの青空食堂だけでなく、パチンコ店の敷地そのものをタレットで囲ってしまい、ここを数日は滞在可能な簡易陣地にしてから探索に出る予定だ。

 

「じゃあ、あたしとミサキはざっと店内を見てくるぞ」

「ああ。2人をよろしく頼むな、ドッグミート」

「わんっ!」

「えっちゃんもアキラをお願いね。ちょっと目を離すと、ムチャばっかりするんだから」

「ぴいっ」

 

 駐車場の道路に面したところには、取り外し可能な杭が差してあって鎖が張られていた。

 ウルフギャングがトラックで引き千切ってしまったので、鎖はほぼひび割れたアスファルトに落ちている。

 なので鎖は放置、いざとなればトラックが走り抜けられる程度の等間隔にタレットを設置してゆく。

 

 やろうと思えば可能だが、わざわざ壁を設置したりはしない。

 

 車両はいくらでも欲しいが、それを運転できる人間が圧倒的に足りないのだ。

 それにどれだけ運が良くても1台か2台の車両を俺のピップボーイに入れてここに運び、それをセイちゃんが修理したら次の目的地に向かうのだから、本格的にクラフトする必要はないだろう。

 

「道路側はOKっと」

 

 駐車場は経費削減のためにか、敷地のどの面にも壁がない。

 なので全方位にタレットを設置し、それから男女2つの大型金属製プレハブをテーブルの左右に配置した。

 ついでに昼飯を食ったテーブルには、検問所でいただいた天幕を設置しておく。

 

「こんなもんかねえ。長居する気はねえから、カップル用の部屋はなしだ」

「わんっ」

 

 ドッグミートの声がしたので振り返る。

 呆れた事にミサキとシズクは、両手にとんでもない量の荷物を抱えてこちらに歩いてきていた。

 

「おいおい、なんだよその荷物……」

「なによ。せっかくお店の中にタバコがたくさんあったから持ってきてあげたのにー」

「おお、そりゃ助かるな。特殊部隊の連中も喜ぶ」

「えへへ。でしょー」

「建物は2つ。男女別か、アキラ?」

「ああ。車は修理しても2台だからな。風呂は必要か、シズク?」

「いらんいらん。作戦行動中だぞ」

「へいへい。そんじゃその大荷物とウルフギャングのトラックを収納して、そろそろ俺達も工場に向かうか」

「だねっ」

 

 まだ銃声は聞こえない。

 あれだけの誘爆があったので、工場の駐車場にいたグールは全滅してくれたのだろうか。

 

 そうならばいいなと祈るような気分でパチンコ店の景品カウンターから根こそぎ掻っ攫われたらしいタバコや菓子や玩具などをピップボーイに入れ、ウルフギャングのトラックに大きな損傷がないかをザッと確認する。

 

 ありがたい事にトラックは外装が少しばかり凹んだくらいで、走るのに支障はなさそうだ。

 

「収納完了、っと。そんじゃ行くか」

「あたし達はどの辺から工場に入るの、アキラ?」

「特殊部隊とウルフギャング班は工場の最も大きな建物に向かって、手前から等間隔で進むらしいからな。俺達はあんま大きくねえ建物の偵察だ」

「小さな建物じゃトラックの発見は期待できそうにないか」

「そうでもねえさ、シズク」

「どうしてだ?」

「いっちゃんデケエ建物は、おそらく組み立てなんかのライン作業ってのをしてたはずだ。もしそうなら、そこにあるのは大半が製造途中の車両って事んなる」

「……よくわからん」

 

 眉をハの字にしてしょげても美人は美人か。

 

 そんなバカな事を考えながら、夕方までは気軽に吸えそうにないタバコに火を点ける。

 ミサキが大量生産の工程をこちらの人間でもわかりやすいように噛み砕いて説明しているが、シズクはどうしてもそんな効率的な作業を想像できないらしい。

 

「ぴいっ」

「ん? どした、ED-E?」

「ぴぃっ」

「なになに、どしたのえっちゃん?」

「ぐるぅ……」

 

 俺だけでなくミサキとシズクにも視線を向けられたED-Eがまた音を発する前に、今度はドッグミートが唸り出す。

 

 これは、ヤバイか……

 

「アキラ」

「ああ、覚悟はしておこう。ミサキを頼むぞ?」

「任された」

 

 動きを決めかねてただ待っていては、それが致命的な手遅れに繋がりかねない。

 

 ED-Eの顔部分が向いているのは、工場の反対側。

 つまり俺達が通って来た道の先だ。

 

「……よし。なんにせよまずは、道路を塞ぐ形でタレットを追加するぞ」

「了解だ」

「クリーチャーが来るの!?」

「わからん。でもわからんからこそ」

「ワンッ!」

「ビーッ、ビイーッ、ビイーッ!」

 

 ドッグミートの戦闘開始を告げるような吠え声。

 それにED-Eの警告ブザーが重なる。

 

 これは、本当にヤバイ。

 

「ミサキ、その場にラストスタンドを出して射撃準備!」

「わ、わかったっ!」

「頼むぞ、シズク。ED-Eも」

「応ッ!」

「ぴぃっ」

 

 何が来るのかなんてわからない。

 それでも、2人を守りたいのなら迷わず動くべきだ。

 

「わんっ」

 

 駆け出した俺に、ドッグミートが続く。

 

 無線でタイチ達にも警告をするべきだろうか。

 そう考えながら、あまり幅のない二車線道路の真ん中にヘビーマシンガンタレットを出した。

 

「よし、あと2台」

 

 こちらシズク。

 ED-Eとドッグミートが、こちらに向かっているらしい何者かを探知。

 詳細は不明。

 各員、気を引き締めろ。

 

 了解。

 オイラ達も戻って迎撃に参加していいっすか?

 

 そんな無線の通話を聞いているうちに残り2台のヘビーマシンガンタレットを設置し終えたので、胸に装備している無線機を手に取って通話するためのボタンを押し込んだ。

 

「アキラだ。未だ敵影は見えず…… チッ、見えはしねえが音は聞こえた。エンジン音だ」

 

 ええっ!?

 

 まさか、新制帝国軍がトラックで追って来たのか?

 

「わからん。けどトラックって感じじゃねえぞ、このエンジン音は」

「わう」

「……うっそだろ、おい」

 

 なんかヤバそうなの、アキラ?

 

「ヤバイのは俺達じゃなくって、バイクに乗ってデスクロー。じゃなかった、獣面鬼から逃げてる誰かさんだけどな」

 

 獣面鬼だとっ!?

 

「おう。距離は200。バイクと獣面鬼の足なら、すぐにタレットの攻撃範囲内だ。ミサイルタレットを出す時間の余裕はねえから、パワーアーマーを装備して迎撃する」

 

 じゃあ、ラストスタンドも!

 

「いや、ミサキとシズクのポジションはそのままだ。バイクに乗ってるヤツが敵でもタレットが片づけてくれるだろうから、その後にパチンコ屋の前を横切る獣面鬼の足を潰せ」

 

 でもそれじゃアキラがっ!

 

 話している時間はない。

 俺の位置からはもう、バイクに乗っている人間が驚きに顔を歪める、その表情までが見えている。

 

 パワーアーマー、それも念のためにジェットパック装備のホットロット・フレイム塗装をピップボーイから出して急いで乗り込む。

 

「全部位パーツ、グリーン。フュージョン・コア残量、OK。外部スピーカー、音量最大。バイクのネエちゃん、こっちはいいからタレットの間を駆け抜けろっ!」

 

 身長はセイちゃんより少しだけ高い程度だが、おそらくミサキと同年代と思われる女のマーカーは黄色。

 女というよりは少女か。

 

 ミキとだけ名前が表示されている少女は、パワーアーマーからかなりの音量で発せられた言葉を聞いて迷うような素振りを見せたが、俺がミニガンの装填を確認し終えると同時にヘビーマシンガンタレットの間を走り抜けていった。

 

「攻撃開始だ。まだ突っ込むんじゃねえぞ、ドッグミート!」

「わんっ!」

 

 膝砕きのミニガン、それと3台のヘビーマシンガンタレットが同時に火を噴く。

 

「おらぁぁっ!」

 

 こちらの世界のデスクロー、獣面鬼とやり合うのはこれで2度目。

 俺はその初戦で、つまらないミスをして死にかけている。

 だからこそ、またこうやって対峙する破目になった時の事は何度も考えていた。

 

 まず、可能なら戦闘開始前にタレットを設置。

 これは半分だけだが思惑通り。

 

 次にするべき地雷の設置も間に合わなかったが、パワーアーマーを装備して50メートルほどの距離から膝砕きのミニガンでの先制攻撃に成功したのなら、前回のように下手を打つ可能性はほぼないだろう。

 

「ま、そんでも油断はしねえがよ。……おおっし! もう両足イッた、ザマアっ!」

 

 バイクを追って来た獣面鬼は1匹。

 膝砕きの効果で走るスピードが落ちたから、ヘビーマシンガンタレットのいい的だ。

 

「まだ出るんじゃねえぞ、ドッグミート」

 

 膝砕きのミニガンを爆発ショットガンに変えながらドッグミートの返事を聞いて、ヘビーマシンガンタレットの連射で削られてゆく獣面鬼のHPバーを見守る。

 

 ヘビーマシンガンタレットから獣面鬼までの距離が5メートルにまで詰められたところで、どうにかHPバーはその色を失い切ってくれた。

 このバケモノのしぶとさは嫌というほど知っているので、全身から血を流しながらぐったりとしても視線は外さない。

 

「アキラっ!」

 

 無線ではなく、ミサキの肉声をパワーアーマーの集音マイクが拾う。

 

 獣面鬼はピクリとも動かない。

 これなら、確実に殺ったか。

 

「まだ来るなっ!」

 

 怒鳴るように言ってからショットガンの銃口を向けたのはもちろん、俺の真後ろだ。

 

 ノーヘルに風除けのゴーグルをした少女が、バイクに跨ったまま両手を上げる。

 どうやら俺達の横を駆け抜けた後、律儀にUターンして来たらしい。

 

「な、なにしてんのよっ!?」

「マーカーは黄色だが、獣面鬼を俺達の方向に引っ張ってきたのはこのネエちゃんだ。無条件で信用なんかできるかっての」

「ごめんなさいっ!」

「……お?」

 

 手を挙げたまま頭を下げながら、大声で少女が叫ぶ。

 

「敵対の意志はねえんだな?」

「もちろんなのですっ!」

「そうかい」

 

 少女の武装は、背負っている軍用っぽいライフルと細い腰の両側にあるハンドガン。

 バイクの後部に取り付けられた荷台にもまだあるのかもしれないが、すでにこちらにだいぶ接近しているシズクと俺がいつでも同時に攻撃できるのは理解しているはず。

 なら、下手な動きをする可能性は低いだろう。

 

「コンバットショットガンとパワーアーマー、収納っと。もう手は下ろしていいぞ、ネエちゃん」

「ありがとうなのです。助けてくれたのも、逃げる方向を間違えたのを許してくれるのも」

「いいさ。見たところ怪我はなさそうだが平気か?」

「はいです」

「ならいいさ。ついでに聞くが、情報を売る気は?」

「情報?」

「俺達は、磐田の探索が初めてなんでな。ここいらの情報に、それなりの値段を払ってもいい」

「……ミキは磐田の街に住む商人の娘なのです。だから、磐田の街の不利益になるような情報は売れないのです」

「よりによって商人かよ。なら状態のいい戦前の施設や店、車両なんかの情報はどうしたって売ってくれそうにねえな」

 

 身長だけでなく喋り方まで幼い感じの女の子が、ニコリと笑いながら首を横に振る。

 

「据付ではなく展開可能なタレットにパワーアーマー、それに見た事もない銃器を使うとびきり腕の良い山師となら、いい取引ができそうなのです」

「……やれやれ、ちっちゃくっても商人は商人か。商魂たくましいねぇ」

「ちっちゃい言うな、なのです」

「へいへい。そんじゃそこのテーブルで茶でもご馳走すっから、取引について話し合おうか」

「よろこんで、なのですっ」

 

 


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