Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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商家のおてんば末娘

 

 

 

 ミキという少女の了承を得て、まずは獣面鬼の死体と道路を塞ぐ形で出したヘビーマシンガンタレットを回収する。

 

「周囲にマーカーなし。特殊部隊への連絡もシズクがしてくれた。商談なんてのは苦手だけど、まあ頑張ってみるかね」

 

 タバコを咥えて火を点けながら、手持ちの武器や物資との交換でまず手に入れたいものを考えてみた。

 

 第一に情報、それも修理可能な車両なんかが残されていそうな場所のそれだ。

 その次は磐田の街に伝手が欲しい。

 ミキという少女の家がどの程度の規模で商売をしているのかは知らないが、あんな女の子にバイクを使わせるくらいなら、並みの商家ではない可能性が高いだろう。

 

「って、腰も下ろさずにいきなり何やってんだか」

 

 駐車場に張った大きな天幕の中のテーブルは、20人以上が対面する形で同時にメシを食えるように置いてある。

 その横にバイクを止めてエンジンを切ったミキという少女は、テーブルに荷台から出した物資を次々に並べているようだ。

 

「おいおい、何事だよ?」

 

 タバコの煙を吐きながら歩み寄った俺を、苦笑いのシズクが迎える。

 ミサキの方はミキの並べる商品に興味津々のようで、達磨さんによく似た工芸品を持ち上げて様々な角度からその出来を確かめているようだ。

 

「どうやら、この子の方も私達から情報を買いたいらしくてな。払いは金でも商品でもいいそうなんだ。だから行商用の商品も見てくれとな」

「情報って?」

「人を、探してるのです」

「へぇ」

 

 ミキはかなり小柄で、天然パーマの髪を肩くらいで切り揃えている。

 顔立ちの方もかわいらしい、そばかすがチャームポイントの将来有望な少女だ。

 

 そんな子が今にも泣き出しそうな表情で『人を探してるんです』なんて言うのなら、できれば助けになってやりたいが。

 

「ねえねえ、その相手ってミキの彼氏?」

「ち、ちちち、違うのです! 先生とミキはまだそんな関係じゃないのですっ!」

「まだ?」

「はうっ!? い、今のは言葉の綾なのですっ!」

「んで、探してる相手はどんなヤツなんだよ?」

 

 耳まで真っ赤にしたミキが、片思いの相手の事を語り出す。

 

「浜松の街を追い出されて行方不明になったイケメンの医者、ねえ……」

「アキラ、イケメンとは何だ?」

「顔がいいってこったよ」

「ふむ。ならば違うか。私はてっきり、柏木医師の事かと思ったんだが」

「柏木先生を知ってるのですっ!?」

「知ってるも何も、あのセンセは俺達が住んでる街で唯一の医者になってくれた人だからなあ」

「あうぅ……」

 

 ミキのくりっとした瞳から、大粒の涙がこぼれ出す。

 ピップボーイから出したハンカチでミサキがそれを優しく拭ってやっても、涙は後から後から流れ出してくるようだ。

 

 これじゃあ落ち着くまでは話もできなそうなので、シズクにも1本渡してから新しいタバコに火を点ける。

 俺とシズクがそれを灰にして、パチンコ店にあった缶コーヒーを半分ほど飲んだところで、ようやくミキは泣き止んで深々と俺達に向かって頭を下げた。

 

「重ね重ねごめんなさいなのです」

「いいさ。それより、座ってジュースでも飲んでくれ。柏木先生の事なら、もう心配はいらねえんだ」

「ありがとうです」

 

 メガトン基地にも医務室はあって、そこにはスティムパックやRADアウェイがたんまりと置いてある。

 なので俺達が小舟の里の柏木医院を訪れる事なんでまずないのだが、3人で柏木の暮らしぶりを知っている限りではあるが話して聞かせた。

 

「って感じだなぁ」

「ううっ、よかったのですぅ……」

「頼むからもう泣くなって。そんで、おまえさんはバイクで行商をしながら柏木先生を探し回ってたんだよな?」

「はいです」

「なら俺達が帰る時、一緒に小舟の里まで行くか? 柏木先生の顔も見れるし、里の責任者に行商で訪れる許可が貰えるよう口利きもしてやるぞ?」

「い、いいのですかっ!?」

「おう、任せろ」

「ありがとうなのですっ!」

 

 ラッキー。

 行商人、しかも磐田の街の商家の娘で、とんでもない貴重品であるバイクまで与えられているような人材をこんな形で小舟の里に連れて行けるとは。

 あとは2人をけしかけて既成事実を作らせて、婚約なりなんなりさせれば小舟の里にとって……

 

「わっるい顔してるわねぇ、アキラ」

「失礼な。そんでミキ。あ、長い付き合いになりそうだからお互いに敬語はなしな?」

「はいです」

「まだ敬語じゃねえかっての」

「これは癖だからいいのです。それに、ミキもアキラって呼ぶから敬語じゃないのです」

「そうかい。んで、そっちはどの程度の情報を出す?」

「先生の消息を教えてくれて新しい病院まで連れてってくれるんだから、なんでも教えるのですっ」

「いやいや、そうもいかんだろ。こっちが欲しい情報の最上は状態のいい、修理可能な車両のある場所なんだ。そんなの商人にしてみれば最高機密だろって」

「ほぇ、なんでなのです?」

「なんでって。こんなご時世に車両を修理できたら、とんでもねえ金額で売れるだろうがよ」

 

 俺のセリフを聞いたミキは、苦笑いを浮かべながら商人の常識を教えてくれた。

 どうやらこの世界では、パンク修理やワイヤーの交換ができる程度の修理工が超一流の技師と呼ばれているらしい。

 なのでキーを回してキュルキュルと音を出してもエンジンがかからないくらいの車両ですら、商品でもなんでもない、ただのガラクタなのだとか。

 

「そんでミキはそんな車両の場所を?」

「いくつか知ってるのです」

「おおっ」

「やあった、ミキ大好きっ!」

「それはそれは。獣面鬼と殺り合った甲斐があったなあ、アキラ」

「だな。ミキ、いくつかでいいから、その場所の情報を売ってくれ。地図に印をつけてくれりゃそれでいいから、頼む」

「いえいえ。どうせなら案内するのです」

「そこまでしてくれんのかよ?」

「とーぜんなのです」

「ありがてぇ……」

「ふむ。これで遠征の目的は、ほぼ果たしたようなものか」

「やったね。でも、今みんながやってる探索はどうするの? もう切り上げる?」

 

 いくらバイクを使っているとはいえ、いやだからこそ、こんな少女が地元の磐田の街以外で夜を明かしたりはしないはず。

 探索は夕方までの予定だったが、ここはもう撤収してミキを磐田の街へ送った方がいいか。

 そうすれば、ついでにミキの親かなにかであるはずの商人と伝手もできる。

 

「……無線で訊いてまだ成果がなさそうなら、予定を変更して磐田の街に向かうか」

「わかった。すぐに確認しておく」

 

 予想通り、成果はなし。

 だがまだ使えそうな工具なんかをセイちゃんが持って帰りたいだろうから、俺だけウルフギャング達と合流してザッと物資を回収してから磐田の街に向かう段取りになった。

 

 無線で聞いた通り工場の中ではたまにグールが出るくらいで、レイダー達が大勢で暮らしていたりはしていない。

 物足りないような気もするが、初見プレイ時のコルベガ工場にセイちゃんを連れて行くなんて考えるとゾッとするのでまあ良かった。

 

「アキラ、そろそろ1時間だぞ」

「もうそんな経ったのか。セイちゃん、ほとんど漁れてないけどいい?」

「ん。セイの曾孫の曾孫くらいまで使えるくらいの工具は確保したからいい」

「そんじゃ戻って、磐田の街に向かいますか。ホテルとかあればいいけどなぁ、磐田の街」

「あっても、さすがに20人以上が泊まれるようなのはないだろう。アキラには悪いが、食事を磐田の街で済ませたら近場に野営地でもこしらえるしかないさ」

「なるほどねぇ」

 

 そんなやり取りがあって4人でパチンコ店に戻る。

 すると、思わず笑ってしまうほどに特殊部隊の連中とミキは馴染んでしまっていた。

 どうやらミキは、テーブルに並べた商品を大安売りで特殊部隊の連中に売ってやったらしい。

 赤字ではないらしいのでまあいいが、柏木先生の消息を知れたのがそんなにも嬉しかったとは。

 

「そんじゃ、タレットだのなんだのを片して出発すっか」

「リヤカーが見当たらないけど、こんなのどうやって運ぶのです?」

「獣面鬼の死体と道路に置いたタレットを仕舞った時は見てなかったのか。こうすんだよ。収納っと」

 

 音もなくテーブルの1つが消える。

 これに慣れた特殊部隊の連中は、ポカンと大口を開けて固まったミキを見てニヤニヤ顔だ。

 どいつもこいつも、初めて見た時は同じように驚いていたくせに。

 

「な、な、な……」

「まあ、俺にはこんな特技があってな。仲良くなって損はなかったろ?」

「新制帝国軍より武装のいい集団で、電脳少年持ちが4人もいる。それだけでも信じられないのに……」

「遠目からだったとはいえ、パワーアーマーを着込んでミニガンを取り出したのなんかは見てたはずなのにな」

「電脳少年ならそのくらいはできるのかなと。でもテーブルみたいな家具なんかは入らないはずなので、心底驚いたのです」

「なるほどね。ピップボーイとその性能は知ってたのか。さすがは商人、博識だな」

「アキラのやる事にいちいち驚いてたら、あたし達の友達なんかやってらんないわよ。ね、シズク」

「だな。それよりほら、タイチ」

「はいっす。総員、班ごとに四方に分かれて周囲の警戒」

 

 大声で返事をした特殊部隊の連中がキビキビとした動きで天幕を出てゆくと、ウルフギャングやミサキ達もミキを連れてそれに続いた。

 

 天幕やプレハブ、すべてのタレットを収納してトラックを出すとまたミキが声を出してしまうほど驚いたが、磐田の街までの先導を頼むと言った瞬間にその表情は戦う人間のそれになる。

 やはりこの子はこの厳しい世界の住人で、戦う事を厭わない種類の人間であるようだ。

 

「お待たせ、ウルフギャング。ミキが先を走ってくれるから、それを追ってくれ」

「ああ。しかし、いい出会いをしたなあ。さすがはLUCKを極めた男だ」

「俺、運だけで生きてっからなあ」

「そうでもないさ。よし、ミキちゃんが動いた。追従するぞ」

「あいよ。地雷はねえし、トラックが通れる道もカンペキに頭に入ってるらしいからな。のんびり行こうぜ」

「ねえねえアキラ、磐田の街には本屋さんと洋服屋さんもあるんだって」

「へー。ミキの実家との取引次第じゃ、それなりに小遣いをやれるからな。楽しみにしとけ」

「やったぁ!」

 

 


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