Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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お宝探し

 

 

 

 夜明けから30分も経っていない朝焼けの空に、どこか懐かしさを感じさせる銃声が尾を引いて昇ってゆく。

 

 いい腕だ。

 それに、銃の威力と精度もいい。

 

 放たれた銃弾は、当然のように命中。

 

 モングレルドッグがヴィクトリーライフルの効果発動から何秒で立ち上がるのかを見たかったが、そのHPバーは色を失って、縄張りで朝寝を決め込んでいただけの哀れな犬っころはピクリとも動かなくなった。

 

「いい腕ですねえ、カナタさん」

「錆びてはおらぬようじゃな」

「エトランゼくん」

「ほいほい」

「試し撃ち、したいでしょ? どうぞ」

「いえいえ。俺にスナイパーライフルは重すぎますんで」

「重量たった10のこれが?」

「はい。9ならギリ精密射撃もできるんでしょうけどね。1でも重いと、照準がブレッブレになるんです」

 

 見るからにクールで、磐田の街でニヒルな笑みを見せた以外は表情がまったく変わらなかったカナタさんが、口を開けてポカンとしている。

 にしてもエトランゼなんて言葉を知っていたり、今の説明で驚きながら呆れて見せるとは。

 

 この人は本当にこの世界の人間とは思えないほどの知識人で、なおかつ理解力もある女性なんだろう。

 さすがは磐田の街を統べる家の女、という感じか。

 

 いや、まさかとは思うが……

 

「PERK構成やSPECIALが何特化かとは訊かないけど、STRをせめて5までは早く上げなさい。どんな高性能なタレットだって、1キロメートル先のクリーチャーを撃ち抜いてはくれないんだから」

「お、覚えときます」

 

 本当に何者なんだ。

 この知的でクールで眼鏡で戦前のぴっちりした黒いスーツで、何よりミニスカートがエロくって、美人は美人だけどミサキやシズクほどじゃないからオカズにしたら余計に興奮しちゃいそうなこの人は。

 

「あら、ありがと。エトランゼくんもかわいいわよ?」

「こ、声に出てましたか……」

「がっはっは」

「アキラ、気をつけてくださいなのです」

「うん?」

「カナタ姉さんは見合いの話が来るたび、『最低でも戦前の高等教育を受けた程度の知識があって、戦闘となればボクより役に立って、自分は容姿に劣等感を持っているけどよく見たらかわいらしい顔をしていて、ベッドでは喜んで顔面騎乗されてくれる男じゃないと結婚はしない』って言って断るのです」

「ついでに言うとMっ気があって、軽いスカトロプレイにまで応じてくれるようなら最上ね」

 

 おおっ。

 結婚はしたくねえけど、夜のお相手の方は是非ともお願いしたい。

 

 そんなバカな事を考えながらバイクを降り、タバコを咥えて箱を市長さんに渡した。

 タバコの箱がカナタさんにも渡ったので、仕草で返さなくていいと伝えてから3人でライターの火を分け合う。

 

「……エトランゼくん、だもんなあ」

「言っておくけど、ボクはそうじゃないわよ」

「なら、どうしてそれほどの知識を?」

「戦前の本とかホロテープを集めるのが趣味なのよ。それと辞書と熱意さえあれば、これくらいの事は学べるわ」

「俺をエトランゼって呼ぶ、その理由は?」

「ニコラ・テスラのフィラデルフィア計画。その一環で行われた極秘実験で、駆逐艦エルドリッジの機関部に違う世界の、武器も持たずに人を焼き殺したりする兵士が現れた。それから世界が滅ぶまでの研究で、歴史上の偉人の何割かは特殊な能力を持った別の世界からの異邦人であるという説が濃厚になったわ。ボクの目の前にいる、誰かさんみたいにね」

「よしてください。俺は、そんなんじゃ……」

 

 フォールアウトシリーズの主人公だけじゃなく、世界がこんな風になる前からそんな連中が。

 ますます謎が増えてしまったじゃないか。

 

「そのくらいにせんかい、カナタ」

「……はいはい」

「それより、次はアキラの番じゃぞ」

「なにがです?」

「本物の、しかも稼働してクリーチャーを倒してくれるタレットをこの目で見れる日が来るなんて。興奮で濡れるわ」

「は、はあ。でも、タレットは売れませんよ?」

「やっぱりそうなのね」

「ええ。別にケチってる訳じゃなく、安全を確認するのがとんでもなく困難なんで」

「それは、どういった検証なの?」

「俺に敵意を持つ人間が磐田の街を訪れた瞬間にタレットで殺されたりしたら、困るのはそちらでしょうからね。俺は責任を取れないし取りたくもないんで」

 

 小舟の里ではそこから外へ出る住人も、街を訪れる商人も数は限られているので、見張りの連中に注意してもらっていれば大丈夫だろうと、封鎖した橋なんかにそれなりの数のタレットを設置してある。

 だが磐田の街はその規模を考えると、人の出入りは多そうだ。

 

 市長さんとカナタさんが頷き合う。

 そしてそれを見たミキは、なぜかとても嬉しそうに笑った。

 

「アキラ。それより時間がもったいないのです」

「そうだった。なら回収しちゃいますね」

「護衛は任せてくれてよいぞ」

「マーカーは見当たらないんで平気ですよ。水分補給でもしててください、手早く済ませるんで」

「ならせめてシャッターを」

「そんなんはこうですよ。開かないならスクラップにして収納、っと」

 

 音もなくガレージの錆びたシャッターが消える。

 市長さんの驚く声と、それを聞いて上がったミキのイタズラが成功した時のような笑い声を背に受けながら、思ったよりも狭いガレージに足を踏み入れた。

 レッドロケット・トラックストップのガレージよりも狭い。

 

 本当ならどうしても着いて来たかったというセイちゃんとの約束で、発見した物はガラクタにしか見えなくとも、手当たりに次第ピップボーイへ詰め込んで帰る事になっている。

 なので錆びた工具や鉄製の棚をまず回収して、埃こそかなり積もってはいるがガラスやタイヤが無事な乗用車を最後にピップボーイに入れた。

 

「凄すぎて笑うしかない光景だのう」

「唯一の取り柄ですからね」

「ねえ、ナイスミドルなお父サマ」

「う、うむ。どうした?」

「ボク、ひさしぶりに運転がしたくなっちゃった」

「ダ、ダメに決まっとるじゃろ!? オマエに運転なんてさせとったら命がいくらあっても足りぬから、最後のバイクはミキにくれてやったというのにっ!」

「今年で20にもなるんだからムチャなんてしないわよ。いいから代わりなさい」

「い、嫌じゃ」

「黙って代われって言ってんのよ。じゃないと昨日の深夜、食堂のカズエと非常階段でナニしてたのか母さん達に言っちゃうけど? いいの? 自分達をたまにしか抱かなくなった夫が、食堂のおばちゃまを後ろから貫いて犬のように腰を振りまくってたって聞いたら、母さん達はどう思うのかしらね?」

「そ、それだけはカンベンじゃっ!」

 

 まるでヤオ・グアイのように大きな体を丸めて実の娘に許しを乞う市長さん。

 Sっ気全開の勝ち誇った表情で眼鏡をくいっと直しながら、浮気現場のさらに具体的なプレイ内容を口にして父を責めるカナタさん。

 お父さんまたなのですか、と呟きながら遠い目をするミキ。

 

 そのどれを見ていてもバツが悪いので、ピップボーイに地図画面を表示させて磐田の街からここまでの地図が埋まっているのを確認する。

 

 うん、特に問題はなさそうだ。

 

「決まりね。さっさとサイドカーに乗りなさい、浮気性の老いぼれ熊」

「ううっ、アキラの前でなんという話を。これでは、ナイスミドルな市長としての体面が……」

「そんなのハナっから欠片もないから。ほら、エトランゼくんも早くリアシートに乗りなさい」

「あ、いや。なら俺がサイドカーに」

「嫌よ。さ、早く乗りなさい。バラすわよ?」

「俺は関係ないでしょって。ええっと、市長さん。俺はどうしたら?」

「後生だからそうしてやってくれ。じゃないとワシは、ワシは……」

「は、はあ。了解です」

 

 カナタさんの運転は、たしかに荒っぽくって肝の冷えるものだった。

 でもそれより厄介なのは俺の手を取って自分の腰を抱くようにさせ、もし手を離したら3人のお嫁さんにある事ない事告げ口してやるという脅しの方だ。

 

 いい匂いがする。

 やらけー。

 勃起すんな勃起すんな、お願いだマイ・サン。

 

 そんな事ばかり心の中で念仏のように唱えていたので、2台のバイクが急ブレーキをかけても俺だけ反応が遅れてしまった。

 

「出番よ、エトランゼくん。上手にできたらご褒美をあげるわ」

「ちっ」

 

 フェラル・グール。

 数は4。

 

 交差点の真ん中にあるバスの残骸を巣にしていたそれは、どうやらかなり空腹であるらしい。

 距離が50メートル以上も離れているというのにエンジン音を聞きつけると、迷わずこちらへと向かって駆け出したようだ。

 

「面倒事はゴメンなんだがなあ」

 

 磐田に入ってから大活躍のヘビーマシンガンタレットを、二車線道路の真ん中に出す。

 

「テカりがたまんないわねえ。それに、おっきくて硬そう」

「紛うことなき戦前のタレット。まるで新品同然だが、肝心の性能はどうじゃ……」

 

 黙って見てやがれ、とでもいうようにヘビーマシンガンタレットが火を吹く。

 

「ぐるぅ、がぁあっ!」

「ぐぎゃっ」

 

 1匹、2匹とフェラルが倒れてゆく。

 

「3、4っと。終わりかな。これで満足ですか?」

「ええ。とりあえずは、ね」

「うむ」

 

 交差点を左に折れた先にあったのはかなり大型のスーパーマーケットで、そこのフェラル・グールも俺がタレットを出して片付けた。

 

 建物の裏手には何台かの荷台が冷蔵庫か冷凍庫になっている小型トラックがあって、その中の1台がもしかしたら修理可能かもという事であるらしい。

 時間もないし、俺なんかが見ても修理可能かの判断がつくはずがないので、それらはすべてピップボーイに突っ込んでおく。

 

「アキラくん」

「あ、はい。もうエトランゼくんじゃないんですね」

「当たり前じゃない。ボクとアキラくんの仲ですもの」

「はいはい」

「つれないわねえ。ミキが案内できる場所はまだあるらしいけど、距離が離れてるそうだから、次はボクが目を付けていた店に行くわよ」

「了解です」

「その次が、脳筋ジジイの秘密の場所2つ。そっちじゃ本格的な戦闘になりそうだから、次を漁ったら休憩を兼ねた作戦会議でいい?」

「もちろん。お手数をおかけしてすいません」

「他人行儀ねえ」

「間違いなく他人ですもん。知り合いは知り合いですけど」

「じゃあ次にまたその股間の暴れん坊がおっきくなったら、バイクに乗ったまま尻コキでもしてヌイてあげるわね。そしたら、もう他人じゃないでしょ?」

「……カ、カンベンしてくださいよ」

 

 ヤバイ。

 何度か息子を宥め切れなくなったのがバレていたとは。

 

 交差点から15分ほど進むと、戦前の住宅地に入ってかなりスピードが落ちた。

 そこからさらに数分。

 バイクは、とある小さな建物の前に停まる。

 

「コイツは……」

 

 


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