Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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害虫駆除と一族の秘宝

 

 

 

 くそっ。

 あの向こうにお宝がなかったら、ヌカランでまとめて木っ端微塵にしてやるってのに。

 

 心の中でそんな悪態をつきながら、ようやくマーキング作業が落ち着いたのでトリガーを引いた。

 

 パシュッ

 

 サイレンサーのおかげでそんな小さな音しか出ないし、反動もそれほど大きくはない。

 俺が今日ようやく放った初弾は、狙い通りファイアーアント・ソルジャーの触角を半ばから弾き飛ばす。

 

 ジャイアント・アントより体が大きく、HPも多いファイアーアント。触角を潰して仲間を攻撃させるのなら、そのファイアーアントを狙うべきだろう。

 俺に撃たれた個体が、仲間に向かって火を吹きかける。

 

「銃の腕も相当じゃのう、アキラ」

「こんくらいは。それよりジャイアントアントもファイアーアントも、ワーカーとソルジャーしかいないんですよ」

「ふむ?」

「ピップボーイがあると視界に妖異の名前が表示されるんですが、上位であるウォーリアって種類のがいない。これをどう見るかですね」

「30年前にトンネルの行き止まりまで踏み込んだ時も、あのくらいの大きさが精々じゃったぞ」

「なら女王や、それを守るガーディアンもいねえのかな。それなら楽ができそうです。ってか、トンネルの最奥までって。どうやって行ったんです?」

「なあに。道路工事に使うハンマーで鬼蟻のドタマを潰しながら、ズカズカ歩いただけじゃ」

「さすがっつーか、なんつーか……」

「ワシも若かったからのう」

 

 獣は生まれた時から獣なのね。

 

 そんなカナタさんの呟きに無言で頷き、それならばと撃ちまくる。

 数匹を倒すとまた数匹がトンネルの奥からポップするという、まるでMMOのレベリングのような戦闘が終わるまでに、俺はレベルアップの音を3度も聞いた。

 

「ようやっと動いてるアントはいなくなりましたね」

「うむ。ワシが周囲を警戒しとくで、3人は一服するとよい」

「ありがとうございます。……ふうっ、ヘルメットを取るだけでだいぶ違うな」

「ですです」

「かなりレベルも上がったんじゃない、アキラくん?」

「ですね。3上がって10ですよ。まあ8に上がるための分はあと1ミリってとこまで貯まってたんで、ここで稼いだのは実質2ですけど」

「おめでとう、でいのかしら」

「ええ。ありがとうございます」

 

 根が臆病なのかケチなのか、これでまだ振っていないスキルポイントは6にまで貯まった事になる。

 

 ウルフギャングとツルむようになってからは楽な戦闘ばかりだったし、なにか問題が起きた時それに対処できるよう貯めていたスキルポイントだが、6まで増えたのなら半分くらいは使っていいだろう。

 

 気軽に普段使いするのが可能なパワーアーマーを手に入れたおかげで、使える武器の選択肢は増えた。

 ようやくLUCKツリーの、それも特に有用な上位Perkを取得できるか。

 

「嬉しそうね、アキラくん」

「まあ、この時代じゃ反則みたいなもんですけどね。それでもやっぱり、新しいPerkを取れると思うと頬が緩みます」

「でしょうね。スポーツドリンク、ごちそうさま」

「いえいえ」

 

 どうやら、休憩は終わりらしい。

 

「それでは行くかの、アキラ」

「はい」

「やっぱりボクとミキはお留守番なのね」

「とーぜんじゃ。アキラを独り占めなどさせんぞ」

「あはは。ところでカナタさん。どうして一人称がボクなんです?」

「戦前の本に出てくる、書生や帝大生っぽくて好きなのよ。変?」

「とんでもない。ボクっ子は大好物ですよ」

「じゃあ、今夜にでも美味しく食べてもらおうかしら」

「ははっ。俺の使ってたスナイパーライフルは置いとくんで、まだアントが出るようならリコンスコープを試してください」

「ありがと。でも女の勇気を振り絞った誘いをシカトだなんて、男の子のしていい事じゃないわよ?」

 

 苦笑しながらパワーアーマーのヘルメットを装備。

 先に立ってトンネルに向かった市長さんの背中を追う。

 

「くくっ。アキラ、楽しみにしてよいぞ。アレも母親似なら、下の具合は抜群じゃ」

「なーにを言ってんですか。右端か左端なら地雷は反応しませんから、そこを抜けましょう」

「うむ」

 

 アント達の死骸が散らばるトンネルの入り口でパワーアーマーのライトを点け、ピップボーイから武器を出す。

 

 害虫駆除の伝説効果が付いたコンバットショットガン。

 

 ゲームではこれを使うくらいなら爆発やツーショットを使う方が楽だったので、ほぼノーマルのままピップボーイに入っていた銃だ。重量も問題ない。

 

「感知範囲にマーカーなし。って、どうしてトンネルの入り口にテーブルが……」

「おそらくじゃが世界が滅んだその日、ここの中でその瞬間を迎えた者達がそれなりにおった。その者達は、それからしばらくここで暮らしとったのじゃろう」

「なるほど」

 

 フォールアウト4でも、主人公夫妻が自宅のリビングのテレビから流れるニュースで核戦争が始まった事を知るシーンがあった。

 車で移動中にそのニュースを聞いたならトンネルに逃げ込んだり、クラクションをどれだけ鳴らされようがトンネルを出なかったりした人達もいただろう。

 

「修理できそうなのは、もう少し先じゃ」

 

 たしかにパワーアーマーの頼りないライトは、キャンプに使うようなテーブルや、その辺の木を切って雑に釘を打って作ったような椅子なんかの向こうにある、どう見ても修理などできなそうな車を照らしている。

 

 市長さんにはピップボーイの視覚効果がないので索敵の手は抜けないが、それらを手当たり次第に回収しながら歩く。

 

「見えたぞ、アキラ。求めていたお宝はあれじゃ」

「路線バス。それに、ハイエースみてえなワゴン。反対車線にゃ、ウルフギャングのより大きなトラック。その隣には、軽トラまで……」

「入り口から離れておって、崩落した天井や土砂からも遠い。どれもエンジンはかからぬが、これらならお宝に相違あるまい?」

「え、ええ。想像以上ですよ」

「この奥は土砂で塞がれ、そこに開いた大穴が鬼蟻の巣じゃ。どこに繋がっとるかわからん。手早く頼むぞ」

 

 たしかにバスなんかの向こうにも車両が見えるが、それらはルーフやボンネットに土らしきものをかぶっていた。

 暗くてよく見えないが、そのまた向こうにもあるはずの車両は土砂に埋もれていたりするのだろう。

 

「すぐにやります」

 

 特に状態の良さそうな4台を手早く回収して、市長さんに頷きを見せる。

 

「よし、とっとと戻ろうぞ」

「はい」

 

 俺は専門家じゃないしピップボーイに入れながらザッと見ただけだが、4台が4台とも特に大きな傷なんかはなかった。

 セイちゃんなら、もしかしたら4台すべてを修理してしまうかもしれない。

 

 出口を目指し始めても市長さんは常に後ろへ注意を払っていたが、アントがそちらから姿を見せる前に、俺達は太陽の下へ帰還を果たした。

 

「やったのう」

「はい。修理の結果次第ですが、これなら市長さん達にも1台くらいは車両を回せそうです」

「クルマの修理費用なぞ、たとえすべての店を売り払っても払えやせぬよ」

「そんなもんですか。おおっ、『アリのネクター』だ。懐かしー」

 

 飲むのか肌に塗るのかは知らないが、使用すると火属性のダメージに強くなるアリのネクターも回収しておく。

 それから地雷、タレット、カナタさんが使う機会のなかったスナイパーライフル、全員のパワーアーマーをピップボーイに入れたら、また市長さんの後ろで流れてゆく景色を眺める時間だ。

 カナタさんならまだしも熊のように体格のいい市長さんの後ろでは、左右と後方の安全確認くらいしかできやしない。

 

 しかし、思っていた以上の成果が得られたのは素直に嬉しい。

 これから向かう最後の場所が空振りでも、充分じゃないだろうか。

 

 VATS索敵しながらそんな事を考え、風に吹かれる。

 

「父さん、右っ!」

「そろそろ市街地じゃ。いちいち屍鬼なんぞにかまっとれんわ。振り切るぞ!」

 

 フェラル・グールは屍鬼で、市長さんはそれをシカトする事にしたらしい。

 数も1だし、先を急ぎたい俺としては助かる話だ。

 

「はいですっ!」

 

 次にバイクが停まったのは、開け放たれたそれなりに大きな門を潜ってすぐの建物の前。

 中学や高校の体育館くらいの大きさか。

 

「ここが最後じゃ。パワーアーマーはいらぬぞ」

「そうなんですか?」

「うむ。ここは定期的に訪れて、安全を確保してあるのじゃ」

「んじゃ俺が行ってくるんで、みなさんは休憩しててください」

「付き合うわよ?」

「いえいえ。そんで、ここは……」

 

 体育館のような建物の大きな玄関。

 そのドアの上には、『ユマハバイ〇歴史館』という看板がかかっていた。

 玄関に続く階段の途中に見えるステンレスらしき残骸は、何かの拍子に落ちてしまった『ク』の文字であるらしい。

 

「ワシのこれもミキのバイクも、元々はここにあった物じゃ」

「なるほど」

 

 なら状態は良くても、かなり手を入れなければ乗れないバイクが残されているのか。

 

「一族が300年もかけてしゃぶり尽くしたんでの。ロクな物はないが、すべて持って行くがよい」

「……いいんですか? 市長さんの一族の、言ってみれば秘宝の隠し場所でしょうに」

「しゃぶり尽くしたと言うたじゃろ。もう3台ほどしか残っとらんよ。そろそろお天道様が中天にかかる、はようせい」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 もしも1台でも修理できたなら、それは市長さんに渡しに来よう。

 2台目も運よく直ったら俺達で使わせてもらえばいい。

 

 どう考えても3台すべてが修理可能だなんて幸運には期待できないので、そう決めてから国産パワーアーマーを装備した。

 

「用心深いのう」

「まあ、一応です。ヘルメットはなしですけどね」

 

 小走りで階段を上がり、大きなドアを少しだけ押して中を窺う。

 

 感知範囲にマーカーなし。

 クリアだ。

 

「受付なんかを漁る時間はねえか」

 

 広いエントランスに足を踏み入れると、パワーアーマーの足裏が割れたガラスの破片を踏んで嫌な音がした。

 鉄のブーツを履いているようなものなので怪我などしないとはわかっていても、その音と感触は好ましいものではない。

 

 いつか課外授業で行った美術館のような場所を想像していたが、このバイク歴史館の展示スペースは、まるで本当の体育館のような感じだった。

 

 だだっ広い空間に申し訳程度の台座があり、そのそれぞれにバイクが展示されていたらしい。

 

「あった。ホントに3台だけだな」

 

 3台だけ残されたバイクは、それぞれかなり特徴的な物。

 

 まず目についたのは2輪ではなく3輪で荷台の付いた、まるでトラックのようなバイク。

 次は大排気量らしきハーレーのようなアメリカン・バイク。

 最後がカウルのない、ネイキッドタイプのいかにも走りそうなバイクだ。

 

「よし、ミッション・コンプリート」

 

 


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