Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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おうちに帰ろう

 

 

 

「あれは、カナタはアキラにくれてやる事に決めた。本人も、喜んで小舟の里へ着いて行くと言っとる」

「うをいっ!」

 

 それに続く勝手に決めんなという怒声はなんとか押し込めたが、結構な語気を浴びせてしまう。

 

「まあ黙って聞くのじゃ」

「へへっ。もう嫁が3人もいるらしいから、今日からは毎晩5Pかぁ。羨ましいぜっ」

「しねえっての」

「お、やっとタメ口になってくれた。それだよそれ、義兄さん」

「うっせ。いいからこのタバコでも吸ってろ、小熊」

「おおっ。戦前の、しかも洋モクじゃん! やっりー。サンキュー」

 

 1本咥えてからタバコの箱を放る。

 それを器用にキャッチしたジローは、満面の笑みだ。

 

 小型のヤオ・グアイじゃなくって、サーカス団かクマ園にでもいる熊かコイツは。

 

 体格と口調はこんなだが、笑うと何とも言えない愛嬌のある、くしゃくしゃの笑顔を浮かべる。

 そんなのに弱い年上のお姉様方なら、思わずキュンとしてしまう事だろう。

 

「アキラはカナタと同じで頭が回る。あのジンが娘と姪をアキラに嫁がせたならワシも、となるのはわかっておるじゃろ?」

「……わからないでもないですが納得はできませんね。いくら自分の娘だとはいえ、人の一生に関わる問題をこんな」

「娘だからこそ、好いた男と添い遂げさせてやりたい。親なんぞ、そんなもんじゃよ」

 

 あんな美人が、俺を?

 

「ないない。100っパーないですよ」

「あるに決まっとるじゃろうが。のう、ミキ?」

「はいですっ。アキラがバイクを取りに行ってる時、カナタ姉さんはアキラの話をずうっとしてたのです。すんごく嬉しそうに」

「あれの勘はとんでもないからのう。アキラの人柄を出会ってすぐに見抜き、嫁入りを承諾したんじゃろ。カナタには第六感的なPerkでもあるのやもしれぬと、死んだワシの母はよく言うておった」

「いや、だからって俺はねえって」

 

 俺の話を本当にしてたとしても『アイツなら自分からボクの足の指を喜んで舐めそうだから嬉しい』とか、そんな感じのはずだ。

 

 たしかに指だろうがなんだろうがあの真っ白で、ほどよくプニプニしてそうで、さらにすべすべしてそうなおみ足なら、もっと言うとエロいパンツをガン見しながらでいいのなら、喜んで舐め回すけれども。

 

「うっは、カナタ姉にピッタリの変態だな義兄さんっ」

「ま、また声に出てたのか……」

「がはは。まあとにかく、カナタはアキラ達と一緒に小舟の里に行かせるからの。交易の詳細なんかを詰めるのにちょうどいいじゃろ」

「ちょっと待ってくださいって」

「まあまあ、そう言うなよ。義兄さん?」

「チッ」

「あと車かバイクが直ったら、森町にも顔出してくれよな。そん時こそ夕方までは一緒に妖異と獣狩りして、夜は酒で乾杯しようぜ」

「モリマチ?」

「ああ、それはの……」

 

 市長さんが話し出す。

 その内容は、俺にとってかなり衝撃的だった。

 

 磐田の街の市長が私費を投じて作ったのは、なんと入植地なのだそうだ。

 

 高給を保証して人手を、それも過酷な労働だけでなく、戦闘までこなせるようになるための訓練に耐えられる人間達を雇って、農業と狩りに向いた田舎町を復興させる。

 その事業は何代も前の先祖が始めたそうで、現在の森町は街と呼ぶには小さいが集落と呼ぶには大き過ぎる、そんな入植地になっているらしい。

 

「俺も舞阪の島を入植地にしたいって思った事はありますが。それを何代もかけて成功させてるなんて」

「カナタなどは磐田の街のクズなど見捨てて一族で森町に移住し、これからはあちらを発展させてゆくべきだと言っておっての」

「……過激すぎて磐田の街で内政をするには向きませんか。なら、どうしてカナタさんを森町に行かせないんです?」

「あれが初潮を迎えたと同時にバイクの運転と戦闘を教えると、1年でそれなりの腕になった。そしたら戦前の本なんかを探しに、探索に出たいと言い出しての。磐田の旧市街だけならばと条件を付けて探索に出るのを許した。それからは、戦前の本屋と磐田の街を往復する日々。磐田の街とその住民達は捨てられても、そうまでして集めた書籍を棄てられなどするものか。がはは」

 

 市長さんの作戦は成功、って訳だ。

 ……ん?

 待てよ。

 ああ、そういう事か。

 

「俺のピップボーイなら本を持って引っ越しができるから、とりあえず磐田の街を出るために結婚しますと言っておこうって事かぁ。納得したわ」

「はっ?」

「ええっ?」

「うははっ。アキラっておもしれえなあ。これからは、義兄さんじゃなくアニキって呼ぶぜ」

「呼ぶな呼ぶな、ウゼエ」

「き、聞いてた以上の鈍感さなのです。これじゃ、カナタ姉さんもミサキ達も苦労するのです……」

 

 何を言ってんだか。

 俺が鈍感なら、世の中の連中はPerception極振りって事になるだろうに。

 

 そんなどうでもいい事を考えながら腰を上げる。

 

「小熊のジロー。ちょっと来い」

「どした、アニキ?」

「頼むからその呼び方はやめてくれ。武器は何が好みだ?」

「ぶん殴れるのが好きだぜ。スカッとするから。今は、工事現場のハンマー担いで狩りに出てる」

「イチロウさんはジローに使わせるってミニガンを買ってたが?」

「兄貴は心配性だからなあ。戦闘じゃ銃を使えっていつもうるせえんだ」

「銃は使えんだよな?」

「当たり前だっての。ただ、性に合わねえだけ。あのミニガンってのも森町に置いといて、大物狩りん時にしか使わねえだろうなあ」

「んじゃ、こっちか」

 

 ガタイの良さだけじゃなく、戦闘スタイルまで父親似なら気に入ってくれるだろ。

 

「な、なんだそりゃ。デケエ、ゴツイ、それにメカってる。雰囲気でわかるぜ、コイツはなんつーか、あれだ、ヤベエ武器だ!」

「語彙力まで熊かよ。まあ、ヤベエのは本当だ」

「やっぱりな」

「これは、強打のスーパースレッジ。カナタさんが使う勝利の小銃や、市長さんにプレゼントしたグロックナックの斧と同じような感じで、攻撃が当たると敵がよろめく事がある」

「おおっ!」

「オマケに、スタンパックだったかな。そんな名前のモジュールが付けてあったはずだ」

「なんだそりゃ?」

「簡単に言うと攻撃に電気属性のダメージが追加されて、殴った敵がたまに気絶する」

「スッゲ!?」

「これくれてやっから、撃った方が早え時はちゃんと銃も使え。銃も持たされてんだろ? イチロウさんに、あんま心配かけんな」

「マ、マジでこんなのを……」

「んじゃ使い方を説明すっからな」

 

 スーパースレッジは、妙な装備が多いフォールアウトの武器の中でも特に変わっている鈍器だ。

 設計思想からしてイカレてるとしか言いようがない。

 

 バカみたいにデカくて重いハンマーの敵を殴る部分、その後部に小型のジェットエンジンを取り付けて、推進力を打撃に乗せる。

 

 使い方はメガトン基地のパワーアーマー格納庫を作る時、フュージョンコアを消費して確認済みだ。

 使用法のレクチャーを真剣な眼差しで聞きながら、たった一言にさえ大きく頷くジローは、小熊というよりも大型犬の子犬のようだ。

 

「うわっ、ここ捻ったらホントに火を吹きやがった。これで殴るとバーンってなるんだよな、アニキ!?」

「いやエンジンを切っててもバーンとはなるだろうがよ。とりあえず、試すなら外でやれ。それとその切り替えレバーは、戦闘が終わったらちゃんと閉めるんだぞ」

「おうっ。次に森町に行くのは3日後だから、明日どっかで試すわ」

「そうかい。んじゃ、次はミキとイチロウさんのだ」

「兄貴とミキにもくれてやるんかよ?」

「こうなったらもういいだろ。人質なんかにする気はねえが、名目上だけでも俺に嫁ぐって事にしてカナタさんはこの街を出るんだし。小舟の里から人質は出せねえから、その代わりだ」

「人質だぁあ?」

「がはは。頭を使わぬジローにはわかるまい。悔しかったら、これからは少しずつでも頭を働かせる事をアキラから学ぶんじゃな。兄や姉の教えは小言のように聞こえるじゃろうが、アキラの言う事なら耳にも優しかろう」

 

 小舟の里が磐田の街と交易をするにしても、さらに踏み込んで同盟を結ぶにしても、俺はそれをどうこうする立場にはいない。

 

 決めるのはマアサさん。

 

 その決定までにジンさんやシズクともよくよく話し合うだろうから、その時に俺も意見を聞かれるくらいはするかもだが、その程度だ。

 

 磐田の街と手を取り合う。

 それも、かなり深く。

 滅びるのならば共に、とまでの覚悟で。

 

 それを検討する時、まず疑うのはお互いの裏切りだろう。

 カナタさんを小舟の里に行かせる裏には、その疑念を少しでも薄らせたいという思惑もあるはず。

 それがすべてではないだろうが、商人で政治家の市長さんならそういった判断もするだろう。いずれ市長の座を継ぐという、イチロウさんも。

 

 ならばこちらも、武器くらいはケチらず出しておかないと。

 

 ソファーに戻ってピップボーイの武器画面を開く。

 おそらく大規模戦闘なんかに出る事のないイチロウさんに渡すなら、あれがいいだろう。

 

「んで、イチロウさんにはこれかな。どうぞ」

「拳銃ですな」

「はい。膝砕きのラピッド10mmピストル。引鉄を引いてれば連射可能な銃です。これの特殊効果は敵の足を潰すってものなんで、弾をばら撒いて相手の動きが鈍ったら逃げる感じの使い方で」

「なるほど。……ありがとうございます」

「いえいえ。んで、ミキは決まったか?」

 

 『いくら強くても銃じゃなあ』、『じゃのう。がはは』なんて会話をする超々脳筋親子の騒がしい声を聞き流しながら、ミキに話を振る。

 

「もし武器を増やすなら、非力な小銃を威力のある物にするくらいしか思いつかないのです」

「了解。狙撃もできる方がいいんだよな? イチロウさんのみたいに弾をばら撒くんじゃなくって」

「ですです」

「効果は? イチロウさんのみたいに相手の足を潰すのや、カナタさんのみたいに1発の弾で2発の攻撃が可能なの。それに、動物にだけならめっちゃ効くとか。まあとにかく、いろいろなのがあるんだが」

「わかんないのでアキラのオススメでいいのです」

「りょ-かい。あ、実弾銃とエネルギー銃ならどっちがいい?」

「実弾に決まってるのです。エネルギー武器の弾は希少だから、高価なのです」

 

 なるほど。

 ならガウスライフルは、まだこの世界でデビューできないか。

 

「ほんじゃ、これなんかどうだ?」

 

 オーバーシアー・ガーディアン。

 俺もかなりゲームの中ではお世話になった銃だ。

 比較的手に入れやすく、レジェンダリー武器のツーショットと同じ効果があるコンバットライフル。

 

「お、重いのです……」

「フルカスタムじゃキツイか。重量がどのくれえまでなら使える?」

「んー、15までならなんとか」

「パワーアーマーを装備した俺と同じかよ。ちょっと待て」

「でも本当に気にしなくていいのです」

 

 そうもいくまい。

 ここまで来たら、どれだけ渡したって一緒だ。

 

 パワーアーマーを装備してミキと同じ腕力かと爆笑している小熊に、渾身の蹴りをくれてやるのは後回し。

 そんなに時間がある訳ではないので、急いでピップボーイに入っているライフルの中で重量15以下の物を探す。

 

「これならどうだ」

「な、なんか凄そうなのです」

「扇動のスナイパーライフル。レシーバーがノーマルのままなのがあったらしくてな。これなら、重量はかなり抑えられてる。マガジンもノーマルだがロングバレルに、フルストックで長距離暗視スコープとサプレッサーも付いてっからまあいいだろう。効果は『敵のHPが満タンの場合、ダメージが倍になる』だ。遠距離からの狙撃なら、ツーショットよりもこれがいい」

「父さん、兄さん」

「ありがたく使わせてもらいなさい。ミキは明日にはもう、他の集落に1人で滞在し独力で店を構えるまで帰らないという一族の成人の儀式に出るのだから。これほど心強い事はないさ」

「うむ。まあもしそれが、好いた男のそばで暮らしたいからなんて浮ついた理由じゃったら、ワシは明日にでもその男を殴り殺しに行くがのう」

「は、ははは。まさかぁ……」

 

 ミキが焦った様子で顔を逸らす。

 

 どうでもいいが、なんて成人の儀式をしてるんだか。

 もし俺がこの家の子だったら、一生実家には帰れやしないだろう。

 

 でもまあ、そんなのはどうでもいい。

 この遠征の目的は、ほぼこれで果たせた。

 

 製氷機や冷凍庫を見つけ、車両を見つけ、ついでに寄る磐田の街の様子を見たい。

 磐田の街の政治経済とそれを司る者の性根が悪くなさそうなら、いくばくかの伝手を得て交易を始める糸口を探る。

 

 それがこの遠征の目的。

 なのでこれは、悪くない成果だろう。

 

 そろそろ小舟の里へ、俺達の家に帰ろうか。

 

 


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