Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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本音

 

 

 

「せっかくじゃ。このまま浜松まで出て、酒場で酒をかっ喰らって女でも買うか」

「ダメですって。それにそんな時間があるんだったら、どうせなら磐田の街に行くべきでしょう」

「遅くとも夕方には戻ると言い置いてきたで行けるじゃろうが、休みのアキラを運転手にしてはその嫁連中が怖いからのう」

「俺なんかさっきの襲撃がバレたら、またムチャしがってとぶん殴られますからね。あれを内緒にするためにも、磐田の街にジンさんを送り迎えしてたってアリバイが欲しいんですが」

「ふふっ。どれほど怒ったとて、抱きしめて尻でも揉んでやれば大丈夫じゃ」

「そんな度胸ないですって」

「だが、そろそろじゃろう?」

 

 どう返せばいいのだろう。

 迷ったが、そのまま口にする事にした。

 これがいい機会だろう。

 

 つまらない上に長くなりますが、そう前置きをしてから、ゆっくりと、自分の考えをまとめながら話す。

 

 漁港で聞いたタイチの覚悟。

 

 だったら俺が、誰よりも強くなってやると心から思った。いかにも子供らしいヘリクツだ。

 タイチの覚悟の強さと深さに圧倒されて反射的に浮かんだ答えかもしれないが、少なくとも、101のアイツくらい強くなれば、好きな女とダチ、それにそいつらが暮らす街くらいは守れるはずだと。

 

 ミキとの出会い。

 デスクローとの再戦。

 

 今度は巧くやれたと胸を撫で下ろしたが、その夜に狭い宿屋で思い返すと、自分はまだまだなんだと気づいた。気づかされた。

 誰よりも強くなってやろうだなんて思っていたくせに、それだ。

 

「んでパワーアーマーを装備する時間を、なんとか短縮できねえかって考えて。なんだかんだ考えてたら、待てよって。フォールアウト4では乗り物みたいな扱いで丸ごとピップボーイに入れられなかったパワーアーマーが、俺のピップボーイには入ってるぞってなって」

「ふむ」

「ゲームでは武器と同じように、防具もショートカットキーに登録すれば一瞬で着替えられるんです。んで2人用の部屋だってのに4人で泊ってる狭い部屋で試したら、それがあっけなくできちゃった。しかも、フュージョンコアがぶっ刺さった状態で装備できたし」

「ほっほ。あの奥の手は、そうやって思いついたのか」

「ええ。んで同じ日、ウルフギャングの交渉術にもたまげました。俺、バカだから。こっち来てからミスばっかで、でもそれじゃいけねえって、バカなりに頭を働かせるようにしてたけど。ウルフギャングみてえな交渉なんて、逆立ちしたってできません」

「ウルフギャング殿も一廉の男。どこぞの街に定住しておれば、英雄と呼ばれるような強者じゃ。そのもっとも得意な交渉に敵う訳がない。アキラはバカではないし、よくやっておるよ」

「……ありがとうございます。そう言われると、少し気が楽になったかな」

「ふふっ。そして翌日は、熊と磐田の旧市街か」

「はい」

 

 市長さんとその娘2人との探索。

 

 それでまた自分の力不足と、虫型クリーチャーは見かけていないからこっちにはいないんだろうとタカを括っていた自分の甘さに気づかされた。

 

 その途中の新聞店で、出会ったばかりのカナタさんに劣情を催した事も隠さずに話す。

 

「んで帰ったら、ミサキが不機嫌でして」

「ほう。いつでも明るいあの娘っ子がのう」

「話を聞いたら、買い物中に何遍か嫌味を言われて、それ以上の男達にナンパされたって」

「あの子もめんこいからのう」

「んでそれ聞いた俺、何を考えたと思います?」

 

 4本目のタバコを咥えて、箱をジンさんに渡す。

 それを受け取ってタバコに火を点け、紫煙をふっと吹いてからジンさんは微笑んだ。

 

「ナンパ野郎を探しに行って殴ってやろうか、じゃろ?」

「ブブーッ。不正解」

「ほう?」

「正解は、ああもうこんな街なんかふっとばしちまおうか。市長さん達は屋内にいっからミサキ達を避難させて、ジェットパックで壊れた照明塔の上に上がって、そっからヌカラン連射してりゃ余裕だろって」

「ほっほ。嫉妬深いにもほどがあるのう。それほどナンパに腹を立てるか」

 

 恥ずかしながら。

 

 そう答えると、ジンさんは呵々と笑いながら俺の肩をバシバシと叩く。

 人外ジジイコンビの片割れなんだから、もうちょっと手加減をして欲しいっての。

 

「嫉妬、独占欲、まんま性欲。俺がミサキやジンさんの娘と姪に向けてる感情は、そんな薄汚いものなんかもしんねえんですよね」

「よく言うわ。もう惚れてしもうた事を自覚しとるくせに」

「……やっぱ、そうなんですかねえ」

「当たり前じゃよ」

「あんな美人達と一緒に暮らして、くだんねえ事でも心の底からの笑顔を向けられて、なんかヘマすりゃ本気で心配されて。そうもなりますよねえ……」

「うむ」

「でも俺のいた世界、重婚と16歳以下の女の子に手を出すのは犯罪なんですよ」

「どうでもいい理由を持ち出すな。セイは見た目こそあんなじゃが17。それにここはアキラの言う『うぇんすとらんど』。じゃろう? 郷に入っては郷に従え」

「微妙に間違ってっし。ま、とりあえずそういう事です」

「面白い報告が聞けたのう」

 

 どうやら、ジンさんは本当に面白がっているらしい。

 

「ニヤニヤしないでくださいって」

「そうもなるじゃろ。まあまずは今夜、ミサキを別室に呼んで抱いてやるんじゃな。見知らぬ世界、想像もしておらなんだ戦いの日々。見る、聞く、感じる。そのすべてのものが、少しずつ少しずつ無垢な心を傷つけるのじゃ。しっかりと気持ちを伝え、お互いがもう限界だと思うまで抱いてやるがよい。女には、それを生きる力に変える機能があるんじゃ」

「あ、いや。そんなんムリですって」

「……は?」

 

 そんなに意外だろうか。

 

 ポカンと口を開けているジンさんにタバコの灰が落ちそうだと仕草で伝える。

 それから俺の今までの女っ気のなさや、異性に対するヘタレっぷりを説明した。

 

「そんなんだから、今すぐどうこうなんてできやしませんって。あるとすればだいぶ先です」

「あれじゃのう。アキラは、何をするにも考えすぎなのじゃ」

「そう言われましても」

「筆おろしなど、遭遇戦と同じよ。いざとなれば、体が勝手に動いてくれるのじゃ」

「ははっ。それなら俺でもできそうですねえ」

「うむ。では里に戻って、遭遇戦を待つのじゃ」

「えっ、待ってたら遭遇戦じゃなくないですか?」

「ならば自分から仕掛けい。奇襲が効果的なのは、さっきの戦闘でも身に染みて理解したじゃろ」

「まーた乱暴な……」

 

 時刻は午前10時。

 たしかに、そろそろ帰った方がいい時間ではある。

 

 休日のこの時間になると酔っ払いのうちの誰かがもそもそと起き出し、冷蔵庫に入れてある『きれいな水』をグビグビっとやるのがいつもの光景だからだ。

 

 エンジンをかけ、来た道を戻る。

 悪党のコンテナ小屋の前の東海道を左折。

 もう線路に新制帝国軍の部隊はいないので、そこからは西に進めばそれでいい。

 

「今から孫に会えるのが楽しみじゃ」

「しばらくないですって」

「なあに。すぐじゃよ、すぐ」

「はいはい」

「でもまあ、種付けをせず目合を愉しみたい時もあるじゃろう。その若さなら、特にの」

「まぐわいって。いつの時代ですか」

「うるさいわ。いいからこれをピップボーイに入れておけ」

「なんです、その小ビン。見た感じ薬かな?」

「男が飲む避妊薬じゃ」

「……へっ?」

 

 ジンさんの説明は簡潔だった。

 

 避妊成功率100パーセント。

 効果は12時間持続。

 人体に無害。

 もちろん中毒性もなし。

 戦前からかなり普及していた錠剤で、今でも薬局や病院を漁ればそれなりに手に入る。

 

「休暇が終わって探索に出るなら、薬局を見つけて持ち帰るがよい」

「ジンさんの分まで、ですね」

「ふふっ。そうなるのう」

「んでジンさん、いっこだけ質問が」

「ふむ。言うてみい」

「なんで避妊薬なんて持ち歩いてるんで?」

「アキラがその気になった時に渡すために決まっとるじゃろ」

 

 平坦な声色。

 

「へぇー」

「なんじゃ疑っとるのか?」

「いえいえ、別にそんなー。でもー、マアサさんに聞いてみよっかなー」

「別によいぞ。今朝も、アキラに渡すはずの薬をどうしてこんな朝っぱらからあなたが飲むんですかと、苦笑しながら期待に胸を膨らませておったし」

「あ、朝から元気っすねっ!?」

「うむ。目標は100まで現役じゃ」

「……ホントそうなってそうで怖いな」

 

 これだけ齢を重ねてもいろんな意味で元気なジンさんを防衛部隊の休憩場のそばで降ろし、ウルフギャングの店とガレージの間を抜けてメガトン基地の前に軽トラを停める。

 

 ガレージのドアは閉まっていたので、どうやらウルフギャングは俺の忠告を聞き入れてくれたようだ。

 

「おかえりなさい、アキラさん。ピッカピカのクルマ、すげー!」

 

 メガトン基地の門の上、見張り台からそんな声が降ってくる。

 特殊部隊の見習いで、たしかショウとかいう名前の少年だ。

 

 木刀を背負っての見張りという地味な仕事だというのに、いつも真剣な目で小舟の里と、そこを最短ルートで目指すなら通らなくてはならない二車線の道を睨んでいるのが印象的で覚えている。

 

「まだ改造もなんもしてねえからな。今日も変わりないか?」

「バッチリ!」

「そりゃ何よりだ。通用口をカギで開けっから開門はしなくていいぞ」

「了解っ!」

 

 軽トラを収納して通用口へ。

 それからフォールアウト3のメガトンの街をさらにごちゃごちゃにしたような細い路地を辿って、1階がセイちゃんの作業場になっている我が家を目指す。

 

 起きてても1人か2人だろ。

 

 そう思ってそっと入った2階のリビング兼ベッドルームでは、着替えこそしていないが全員が起きてテーブルを囲んでいた。

 

「なんだ、もう起きてたんかよ」

「やあっと返ってきたっ。出かけるんなら、書置きくらいしてってよ。もうちょっと遅かったら、受信機を持ってる全員に聞こえちゃうのに無線するとこだったんだからー!」

「へいへい。んで、なにをやってんだよ? 紙に、手描きの地図? 間取り図もあるな」

「ミキの部屋をどうするかの作戦会議。どこのどんな部屋が一番いいか相談中。武器を持ってるからメガトン基地が安心だけど、できれば本館に住ませてあげたいなって」

「柏木先生に少しでも多く会えるようにか。まあそうだよなあ」

「ボク達はこの広い1部屋で暮らすから、そんな心配はしなくていいわね」

「あ、そうだそうだ。それなんだけど俺、今日からはこの上にもう1部屋追加してそこで寝るわ」

「えーっ、なんでよっ!?」

「もう限界なんだって」

「え、宴会ならもう少し静かにするからっ!」

 

 そうじゃないんだと言ってからタバコに火を点け、全員を見回す。

 

「これだもんなあ」

「なにがよ?」

「じゃあまずオマエだ、ミサキ」

「えっ。う、うん」

「いつもいつもミニスカートのセーラー服。しかも酒を飲み出すと胡坐なんか掻きやがるし、寝る時は布団もかけずに横んなってチラチラチラチラ。パンツが見えすぎなんだっての。そのたんびにムラムラするこっちの身にもなりやがれ」

「み、見なきゃいいだけでしょっ! 変態!」

 

 変態なんて、言われ慣れてて気にする必要すら感じられん。

 次はオマエだとシズクに視線を向ける。

 

「おっ、あたしもか?」

「当たり前だっての。なんでノーブラでぴっちりしたTシャツ着て、下はレースのパンツ1枚なんだよ? 痴女か、え!?」

「誰かさんがそんなあたしをチラチラ盗み見て、そっと席を立ってトイレに向かうのが嬉しいからだが。それが何か?」

「くっ……」

 

 いつもオカズにしてごめんなさい!

 それとありがとう!!

 

「次はセイ?」

「そうだよ。ダボダボの長袖Tシャツをワンピース代わりにしてっから、萌え袖になってかわいすぎるの。あとノーブラはまだわかるけど、なんでノーパン? お兄さんビックリして腰が抜けるかと思ったんですけど?」

「なんでセイがノーパンなの知ってんのよっ!?」

「あんだけ寝相が悪けりゃどうしたって見えるわ、タコ!」

「ボクの分もあるのかな。ちょっとワクワクするわね」

 

 あなたは言われなくてもわかってるだろうに。

 

「カナタさんは確信犯でしょう? なんですか、そのエロいネグリジェは。上も下もスケスケすぎでしょっての」

「ふむ、なるほどな。だからアキラは上に自分の部屋を作ると」

「おう。今まで通り、メシ食ったり雑談してる時はここでいい。酒飲んだりすんのもな。でも俺がヤバイって判断したら上に行く。文句はねえな?」

「当然だ」

「ええっ。いいの、シズク!?」

「当たり前だろう。それより、問題は順番とルール決めだぞ」

「へ、なにそれ?」

 

 俺が思った事そのままをミサキが口にする。

 そしてシズクとカナタさんがニヤリと笑ったのを見て、俺とミサキの頬が同時に引き攣った。

 

 


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