Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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告白

 

 

 

「つまりアキラはこう言いたいんだよ。教えてやれ、カナタ」

「そうね。『ムラムラしたら俺は上に行くから、抱かれたいヤツは着いて来い』と、旦那様はそう言ってるわ」

「言ってねえしっ!」

「だから順番とルールをまず決めないとな」

「そうなるわね。アキラくん、とりあえず急いでヤリ部屋を作っておいて」

「ヤリ部屋じゃねえから!」

「どうせそうなるからいいのよ。いいからほら、ここからは女だけで話し合うの」

「くっ。おい、ミサキ」

「……え?」

 

 わかってるよな?

 

 そんな想いを視線に込めた。

 コイツが止めてくれないと、ブレーキなんてハナっからなさそうなこの3人を、俺だけでどうにかするのはキツイ。

 

「あら、オマエから来いですって。妬けるわあ」

「あたしでいいのっ!?」

「……まったくわかってねえし」

「いいからほら、アキラはさっさと上に行け。嫁達のこんな話し合いを聞くなんて、とても褒められた事じゃないぞ?」

「いやだから、勘違いすんなって話なんだが……」

「こちらからしてみれば、アキラくんが部屋を増やすと決めた意図は違っても、どうせそうなるんだからって話なのよ。いいから早く部屋を作って、特大ベッドだけでも出しておいて」

「だな。それと、いいと言うまで下りてくるな」

 

 どうしよう。

 こんな時、どうするのが正解なんだ。

 

 ぼけっと突っ立って考えても、わかるはずがない。

 

「とりあえず落ち着いて考えるか。ダメなら、ウルフギャング辺りに相談だ」

 

 部屋の隅の天井を一部だけ解体して、そこに繋がる階段を出す。

 ヤリ部屋だから防音がどうのとかではなく、下から話の内容が聞こえてきたら怖いので、しっかりとドアも据え付けた。

 

「まいった。マジでまいった……」

 

 ゲームではだいぶ苦しめられた建築限界なんて現実ではあるはずがないので、俺の部屋はすぐに出来上がってしまう。

 そこで落ち着いて考えるためにまずは座ろうと出したのがベッドなのは、俺が心底悩みながらもどこかで期待しているからなのだろうか。

 

「……ん? そ、そうだ。とりあえず今日は、酔っ払って寝ちまおう。それが最良の時間稼ぎじゃねえかよ!」

 

 ベッドしかなかった部屋にテーブルを出し、そこにウイスキーを1本とビールを10本ほど出した。

 

 ビンのビールはキャップをテーブルの縁に引っかけ、キャップの上を叩いてビンの下を引くという、もうずいぶんと慣れた方法で開ける。

 ウイスキーは捩じれば開くから、まずはそれをラッパ飲みだ。

 

「くーっ。こんな飲み方してたら、アル中になりそうだぜ」

 

 ウイスキーをラッパ飲み。

 灼けた喉を、冷えたグインネット・ラガーで洗う。

 とにかく早く酔いが回ってくれと、またウイスキーのボトルを持ち上げる。

 

 酔ったらそのまま寝てしまうつもりなので、もう体の一部と言ってもいい黒縁メガネをテーブルに置いた。

 Charismaが1上がったところで異性からの好意が得られるわけではないだろうが、まあ気休めにはなる。

 

 そんなどう考えてもバカな飲み方をしていると、深い眠りに突き落としてくれるほどの酔いが訪れる前に、ドアをノックする音が聞こえた。

 ウイスキーのボトルは、ちょうど半分ほどしか減っていないのに。

 

 中途半端に酔ってはいるが、このくらいだと余計にエロい事が頭に浮かんだりするからヤバイ。

 

「アキラ、いないのー? あ。なあんだ、いるじゃない。いるなら返事くらいしてよね、アキラ」

「ミ、ミサキ。まさかオマエ……」

「ちょ、ちょっと待って! あたしは代表として、アキラの意見を聞きに来たのよっ!」

「……おん?」

「いいから、まずは椅子を出してよ。それから、あたしもビールもらうからね」

「はあ。ほれ、椅子」

「ありがと。でもなんでこんな広い部屋なのに、ベッドとテーブルがそんな隅っこにあるの?」

「建築スキルで作った床は頑丈だが、ここなら万が一床が抜けても下にいるミサキ達が怪我したりしねえだろ。だからだよ」

「気にしすぎじゃない?」

「いいんだよ、ほっとけ。ほら、ビール」

「ありがと。……ビールも栓を抜いてからくれるし、アキラってそういうとこズルいよね」

 

 意味がわかんねえ。

 

 そう返してビールを呷る。

 これ以上ウイスキーを入れたらミサキの質問とやらに答えられなくなりそうなので、とりあえずビールだ。

 

「んで、意見って?」

「なんでいきなりアキラがあんな事を言い出したか。まずそれを教えてよ」

「あー、それか」

「うん。あんまりにもいきなりだったからさ」

「なんつーか、気づいちまった。あ、いや。違うな。気づかねえフリをしてたけど、もう誤魔化し切れなくなったって事だ」

「ええっと?」

 

 どうやらミサキは、本当にわかっていないらしい。

 こんな美少女のくせに彼氏がいなかったというから、そんなものなんだろうか。

 呆れた鈍感さだ。

 

 驚かれるか、笑われるか、それともやんわりと断られるだけかな。

 

 そう思いながらタバコに火を点け、ビールを呷った。

 酷く、喉が渇いている。

 

 戦闘前に感じるそれとは、まったく違う種類の緊張。

 

「だから、自分の気持ちにだよ。俺がミサキ達の事を、あれだ、なんつーか、その。…………好きだ、とか。そ、そういうのだよ」

「へ?」

 

 なるほど、驚く方のリアクションか。

 

「まあ、驚くよな」

「めっちゃビックリしてるよ」

「でもあれだ。ミサキが断っても今まで通りに」

「えっと、アキラ」

「ん?」

「よーく考えてね」

「おう」

「普通、女が好きでもない男と同じ部屋で暮らす?」

「へっ!?」

 

 何を言ってんだコイツ……

 

「しかもさっき誰かさんが言ったように、その、……し、下着とか見えちゃうのも気にせずに宴会したりとかする?」

「ええっと……」

「自分が好きで、アキラに好かれてるってのも知ってるから。だから今まで、みんなして同じ部屋で暮らしてたんだよ?」

「へっ? あ、え? それ、マジで言ってんのか?」

「わ、悪い?」

 

 そんな顔を真っ赤にしながら、上目遣いで言われても……

 

「え、と。じゃ、じゃあ?」

 

 もしかしてミサキもOKって事か!?

 こんな美少女が俺と付き合う!?

 マジで!?

 

「って言うか、あたし達はずうっと前から、どこ行ってもアキラの奥さんって言われてるし」

「お、おう」

「だからその、あれよ」

「おん?」

「し、幸せにしてくんなきゃぶん殴るんだからねっ!」

「…………はい。頑張ります」

 

 なんだろうこの、素直に喜んでいいか悩む感じは。

 

 意を決して告白をしたら、お付き合いをすっ飛ばして結婚が決定。

 しかも、とんでもない美少女がこれ以上ないほど顔を赤らめながら言ったセリフが、『幸せにしなきゃぶん殴る』って。

 

「じゃ、じゃあ、そういう事だから。あたしは、下でみんなに報告して来るから」

「あ、ああ」

 

 まだ真っ赤な顔のミサキが腰を上げ、部屋を出てゆく。

 その足音を聞きながら、もしかしたらこれは夢じゃないのかと頬を抓ってみた。

 

「うん。普通にいてえな……」

 

 ならこれは、夢ではないのか。

 今までさんざん嫁がどうとか、旦那様だなんて言われたりしてきたが、それが現実に。

 

「はぁー」

 

 結婚。

 正直に本音を言うなら、早くね? とは思う。

 だがああまで照れながら自分を幸せにしろと言ったミサキに、そんな事を言えるはずがない。

 

「アキラ、ちょっと来いっ!」

「おわあっ!? ……シズクか。どしたよ?」

 

 ミサキが出て行って10分ほど。

 驚くほど酒が進まねえなとタバコばかり吹かしていると、ノックもせずにシズクが駆け込んできやがった。

 俺がようやく手に入れた個室で、新婚生活を妄想して自家発電でもしてたらどうすんだ。

 

「いいから来い。意見が出すぎてまとまらん」

「はぁ?」

 

 言うだけ言ってシズクが階下に消えたので、タバコと飲みかけのビールを持って作ったばかりの部屋を出た。

 

「アキラ、助かったのですっ!」

「なにがだよ?」

「もうミキの部屋はしばらく特殊部隊の女性宿舎の空き部屋でいいので、ここは任せたのですっ!」

「お、おい。荷物はどうすんだよ?」

「この家の合鍵を渡されたので、1階の作業場に出しておいてくださいなのです! ミキはこんな、こんな生々しくてハレンチな会話なんて聞いてられないのですっ!」

「は? って、行っちまったし……」

 

 生々しくてハレンチとはどういう事だと、ミキが出て行って空いた椅子に腰を下ろしながら会話を聞いてみる。

 

「だから、どうして2人っきりじゃダメなのよっ!?」

「STRゴリラにだいしゅきホールドされたらアキラが死ぬ」

「しないってば!」

「だから言ってるだろう、ミサキ。手錠だよ、手錠。あれを後ろ手にかけてからならお望みの、アキラと2人っきりでの初体験ができるぞ? アタシもSTRが高そうだから、そうするつもりだ」

「もうめんどくさいから、最初から5Pでいいんじゃない? ミサキの時はシズクが腕を、ボクとセイちゃんが片脚ずつを押えておけば、アキラくんに怪我もさせないでしょうし」

「名案がある。女子トイレを作って、その個室に1人ずつ。ミサキとシズク姉は、配管パイプに通した手錠で後ろ向きに繋いで。それを順番にアキラが」

 

 な、なんつー話をしてんだか……

 

 これじゃあ、ミキが逃げ出すのも無理はない。

 アホらしくて聞いらんねえやと席を立ち、1階の作業場に下りて、預かっていたミキの荷物を入り口側の壁際に並べた。

 

「TOUGHNESSでも取るか?」

 

 ダメージ耐性を+10、レベル10で限界の二段階まで上げれば+20まで上げてくれるPerkを取れば、とまで考えてそれを笑い飛ばす。

 TOUGHNESSのダメージ耐性上昇分なんて、俺のピップボーイに山ほど入っている高性能防具のそれと比べたら塵みたいなものだ。

 

「もし取ったら、カナタさんなんかは完全に夜のアレ用だって気づきそうだしなあ」

 

 さて、この後はどうなる事やら。

 

 どっこいしょと言いながら2階への階段に腰を下ろし、灰皿を出してから胸ポケットのタバコに火を点けた。

 どうやら俺はファーストキスの経験もないのに、本当に4人ものお嫁さんを貰ってしまったらしい。

 

 なんにせよ、これからは前以上に騒がしい日々が続くのか。

 

 自然と口角が持ち上がる。

 スケベな気持ちがこれっぽっちもないとは言い切れないが、まあ悪くない気分だ。

 

 


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