「終わったー、アキラ?」
「おう。セイちゃんが直せそうって言ってた分はな。バイク3台は家の作業場、バスとハイエースとトラックは駐車場にする予定の正門の横に出した。そっちの準備は?」
「バッチリっ」
「そうかい」
そんじゃ行くかと門へ向かう。
俺達とメガトン特殊部隊の休暇は終わり、今日からはレベル上げと探索だ。
本当なら原付バイクを試したかった。
だがミサキ達は毎日順番で1人ずつ俺に同行。
残りは特殊部隊と一緒に動くか、そろそろ特殊部隊はタイチだけに任せてミキと一緒に動くそうなので、そうもいかない。
今日はセイちゃんがメガトン基地で車両の修理、カナタがマアサさんとの打ち合わせの予定だから、特殊部隊にはシズクとミキが同行するらしい。それにドッグミートとED-Eが護衛に付く。
近いうちに特殊部隊だけで行動をするようになっても、しばらくはドッグミートとED-Eはまだ同行させてほしいとシズクは言っていたので、もちろんOKだと言っておいた。
ミキはこの辺りに慣れたらバイクも使うのだろうが、今日は特殊部隊と足を合わせるために徒歩だそうだ。
通用口からメガトン基地を出て、しっかりと施錠を確認してから門の前に軽トラを出す。
「軽トラックって乗るの初めてだー」
「お嬢様だもんな。ほら、乗れ」
「うんっ」
時間はまだ早朝。
窓から見た明りで気づいたのだが、ウルフギャングは昨夜から店を開けていたようなので、まだガレージのドアは閉まっている。
「なんとかしてやりてぇな」
「もしかして、サクラさん?」
「おう。あんなのを経験済みなのに今はもうできねえなんて、拷問でしかねえだろ。今の俺ならよくわかる」
「あ、あんなのとか言わないでよ。でも、なんとかしてあげたいよね」
防衛部隊の守る門に、ジンさんの姿はない。
例の錠剤の礼を言いたかったが、カナタとマアサさんの話し合いの手伝いにでも行っているのだろう。
防衛部隊が開けてくれた大きな門を抜け、駅前の東海道を右折する。
「この俺が、こんな美少女とドライブデートとはねえ。もうリア充は爆ぜろとか言えねえな」
「デ、デートじゃなくってレベル上げだから」
「へぇ。んじゃ、夢の実現はおあずけかー」
「夢?」
「おう。俺の大学は田舎だったからよ、車を持ってる連中も多かった。特に金持ちじゃなくってもな」
「ふうん。それが?」
「んで彼女ができてドライブ行った話とかよく聞いてよ。やってみたかったんだよ」
「だから何を?」
運転しながらでも索敵は怠らない。
なのでミサキに視線をやる余裕がないのが残念だ。
「カーセに青姦。ラブホはこっちにねえから、運転中に口と手でしてもらうとか」
「バッ、バッカじゃないのっ!?」
「やっぱダメかー」
当たり前だと怒鳴るような声の後で、かすかに聞こえた生唾を飲み込む音。
それを聞いて思わずニヤケてしまう。
この恥ずかしがりの美少女は、かなり恥ずかしい事でも俺の求めが本心からであるのを見抜くと、顔を真っ赤にしながらそれに応じてくれるのだ。
それに恥ずかしいは恥ずかしいが、俺の好むような事にそれなりに興味はあるようで、嫌だと言いながらもかなり悦んでくれる。
「もうっ。そういうのは家でするって約束でしょ!」
「へいへい。お、あったあった」
「もしかして、左にある薬屋さん?」
「ああ。俺が貰った錠剤、ジンさんもないと困るだろうからな」
「あのデタラメな薬かぁ」
「嫌ならミサキだけゴム使ってもいいぞ。個人商店っぽいけど薬局だから、ゴムなんかもあるだろ」
「べ、別に嫌だとは言ってないしっ」
「ははっ」
「でもかなり手前、新居駅の近くにもっとおっきなドラックストアあったよ?」
「そっちはジンさんが小舟の里に住み着いて、防衛部隊を組織した時にすべて掻っ攫ったらしい。そのおかげで今んなっても、柏木先生に補助金みてえな感じで医薬品を渡せるんだと」
「スゴイねえ」
「索敵すっから、ちっと待ってろ」
うんという返事を聞きながら、エンジンを切らず、ドアも開けたままアスファルトを踏む。
国産パワーアーマーをショートカットキーで装備。
ヘルメットだけピップボーイに戻して、交換するようにリコンスコープ付きスナイパーライフルを出す。
「でっかい銃。最初っからパワーアーマーも着てるし、気合入ってるねー」
「めちゃんこエロくって、とびきり美人な嫁さん4人とヤリまくりの休暇明けだ。こんな時にこそドジを踏みそうなのが俺なんでな。なんでも念入りにやるのさ」
「エ、エロいって言うなーっ!」
本当の事だろうに、なんて本音を漏らすと後がめんどくさい。
まず周囲にマーカーがないのを確認し、それから軽トラの荷台に上がって感知範囲外に生物がいないかリコンスコープでしつこいほど探す。
荷台から下りて運転席を覗き込むと、ミサキも助手席でフロントガラスと後方にある小さな開けられない窓から索敵をしてくれていたようだ。
「OK、クリアだ」
「あたしも降りていいの?」
「ああ。でも」
「こうでしょ? パワーアーマー装備、っと」
「ショートカットキーのイメージにもずいぶん慣れたみてえだな」
「まあねー」
俺がスナイパーライフルを痛打のコンバットショットガンに変えて軽トラを収納したのと、ミサキがヘルメットをピップボーイに入れたのはほぼ同時。
「ヤリ方は初めてん時と同じだ。覚えてるよな?」
「うん。あたしは近接だから、アキラの前には出ない。接近されたらアキラの動きを見ながら敵をぶん殴るけど、VATS使う前はVATSって声に出して言う」
「よし。俺もリロードは申告するからな。その隙を埋めてくれたら、今夜はご褒美だ。頼りにしてるぞ?」
「任せてっ」
たかが個人経営の小さな薬局。
そう言ってしまえばそれまでなのに、ミサキも気を抜いたりはしていないらしい。
これなら、少しは安心か。
「シャッターを取っ払うぞ」
「いつでもOKっ!」
錆びたシャッターが音もなく消える。
目の前にぽっかりと開いた闇色の穴を視界に入れながらVATS連打。
「クリアだ」
「同じく」
「ま、こんな狭い店だしな。薬品から棚まですべていただくから、周囲の警戒を頼む」
「うんっ」
ワゴンセールで投げ売りされていたらしい生理用品ですら、今の時代では貴重品。ワゴンごと残さずいただく。
次にピップボーイに入れたオムツに粉ミルクなんかも、需要がありそうだ。
それから絆創膏やら湿布やらの棚を回収し、ようやく薬品類のショーケースへ。
「おお、山ほどありやがる。ジンさんと山分けだな」
お目当ての男性用経口避妊薬も無事ゲット。
そこからは確認なんてヒマな時でいいとラベルも見ずに医薬品を収納して回った。
俺的に嬉しかったのは、それなりの数があった栄養ドリンク。
男の根っこビンビンドリンク! 酷い商品名だが、効果が少しでもあるのならそれでいい。
道路で油断なく周囲を見回しているミサキの元へ戻る。
「おっけ?」
「ああ。軽トラ出すから次に行こうぜ」
軽トラの運転席は狭いので、パワーアーマーをアーマード軍用戦闘服に戻して乗り込む。
「次はどうするの?」
「特に予定はねえよ。クリーチャーを探しながら流すから、気になる店なんかがあれば言ってくれ」
「はーい」
走り出すと、俺と同じようにセーラー服に着替えたミサキの鼻歌が聞こえ出す。
機嫌が良さそうで何よりだ。
「突き当たって右が西へ向かう東海道。左が海辺のイッコクに繋がる道だ。お嬢様のご希望は?」
「海、海がいいっ!」
「あいよ」
東海道はそれなりに通行が多いからか、フェラル・グールすらほとんど見かけない。
だが東海道を逸れて一車線しかない狭い道に入ると、急にフェラルが多くなった。
見えたら軽トラを停め、降りて狙撃。
死体の場所まで進んで剥ぎ取り。
「ねえ、アキラ」
「やっぱ剥ぎ取りはいちいちしてらんねえかぁ」
「うん。だって100メートルも進まないうちに次のフェラルが見えちゃうんだもん」
「だなあ。って、あぶねっ!」
ブレーキを蹴っ飛ばす。
「きゃあっ! な、なになにっ!?」
民家の陰から急に飛び出してきたモングレルドッグ。
歩くほどのスピードしか出していなかったので轢かずに済んだが、そうでなければせっかくセイちゃんが直してくれた軽トラを凹ませてしまうところだった。
「交通ルールを守りやがれ、犬コロ!」
「グルルゥ」
これはまいった。
ギアをバックに入れて、Uターンできそうだった民家の駐車場を目指す。
「あのグロいわんちゃんはいいの?」
「追って来るんなら、Uターンついでに殺るさ。軽トラの正面にいられると射線が取りづれえ」
「んー来ないみたい」
「なら、それでいいさ。しっかし、タレットがないと露払いがしんどくって進めねえな。これじゃ歩きのが楽なくらいだ」
「だねー。ウルフギャングさん達はどうしてたんだろ」
「荷台の上に上がったサクラさんがタレット代わり。それにトラックの前にゃ装甲板がはっつけてあっから、フェラルやモングレルドッグくれえ轢いても傷すらつかねえんだろ」
「そっかー」
「海へは新居駅まで戻ってから向かう。それでいいか?」
「別にそこまでしなくっていいって」
チッ。
イッコクのバイパス沿いなら多少は古臭くても、ラブホくらいあるはずなのに。
「ならやっぱ適当に走って、ミサキの漁りたい店でも探すか」
「はーい」
東海道がどこをどう通って京都まで伸びているのかは知らないが、あまり進むと豊橋という街に拠点を構える大正義団とカチ合ってしまいかねない。
Uターンをして広い東海道に戻り、窓を全開にしてからタバコに火を点けた。
エンジンはかけたままだが、サイドブレーキは引いてある。
「完全にミスったなあ」
「そう?」
「ああ。東海道は店を漁ってると大正義団なんかが通りかかったらヤバイし、鷲津駅方面は特殊部隊とシズク達が向かう予定だろ」
「だねえ」
「かといって狭い道に踏み込むと、タレットのねえ軽トラじゃ進むのに時間がかかる」
「じゃあどうするの?」
「みんなが働いてんのに、俺達だけ部屋でイチャイチャしてんのもなあ」
「バ、バカなこと言わないのっ!」
「けっこうマジでそうしてえんだが、まあそうもいかんよなあ」
「う、うん。ねえ、だったらいい考えがあるんだけど」
「へえ。是非とも聞かせてくれ」
煙を吐きながら聞いたミサキの提案は、たしかになかなかいい考えだった。
大昔、ではないのだが、俺達がこちらの世界に来て出会い、さらにシズクとセイちゃんに出会う直前に遠目から眺めた高校。
そこの校庭を数えるのもバカらしくなるようなフェラル・グールが徘徊していたので、進む方向を変えたら小舟の里の食料調達部隊と出会ったのだ。
「どうかな? 別の浜名湖が見える方の学校は殲滅したけど、あっちは手をつけてないの」
「悪くねえ。たしか校庭の門は閉じてたから、校門の上にヘビーマシンガンタレットを設置しちまえばいいんだもんな」
「うん。アキラならああいう場所で安全に、自動レベル上げみたいのができそうって思ってたんだ」
「あっちは小舟の里に近いからか、さっきの細い道ほどはフェラルもモングレルドッグもいねえ。そうすっか」
「うんっ」
ミサキの案は大当たり。
それどころか、ヘビーマシンガンタレットを設置した後はヒマすぎて、軽トラの運転席でイチャコラする余裕まであった。
……ふうっ、ごちそうさまでした。