Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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新掛塚橋蹂躙戦

 

 

 小舟の里の図書館から借りた本によるとその昔は『暴れ天竜』なんて呼ばれてもいたらしい大河、天竜川に架かる、最も河口に近い橋。

 それは二車線の車道と、3輪バイクがギリギリ通れないくらいの幅の歩道が片側だけにある、それほど大きくはない橋だ。

 だが河口に近いだけあって、長さだけは結構なもの。

 

「うっし、悪党を片付けるまではこんなもんか」

「あっという間にこれだもの。呆れるしかないわよねえ」

「まあな」

 

 コンクリートの土台を2つ。

 

 それを並べただけで、この橋を車が渡るのはほぼ絶望的になった。

 バイクが通るために中央に隙間を設けたのだが、その幅は3輪バイクは通れても軽トラでは抜けられないくらいにしてある。

 コンクリートの土台の高さは、3メートルほどか。

 その上には、木製の階段で上がる。

 

「バカな悪党達は、いきなり現れたこんな高台から狙撃されるなんて夢にも思ってないでしょうね」

「右左、好きに選べ。俺はどっちでもいい。それと高さが足りねえなら、すぐにもう一段積みあげるからな」

「はいはい。あの一夜城を建てた羽柴秀剛って、アキラくんの同類だったのかしら」

「へえ。こっちにもエロ猿はいたのか」

「あ、ヤダ。言われてみればそっくりじゃないの。女好きな所まで」

「……否定はしねえが、頼むからもうちょっとオブラートに包め。お願いだから」

「絶倫でプレイの種類を問わないド変態、とか?」

「うっせ。後で覚えてろよ。いいから狙撃準備だ。ほら、預かってた勝利の小銃」

「んふ、楽しみにしてるわ」

 

 狙撃はコンクリートの土台の上ではなく、そこに半分ほど身を隠せる状態で接続した階段から行う。

 コンクリートの土台とコンクリートの土台の隙間にヘビーマシンガンタレットを設置すれば、準備は完了だ。

 

「おっと、忘れてた」

 

 昨夜のうちに、勝利の小銃と一緒にカナタから預かっていた戦前のパワーアーマーをアスファルトの上に出す。

 

「あら、別にいのに」

「念のためさ」

「なら試したい事があるんだけど、お願いしていいかしら?」

「……言ってみな」

 

 正直、嫌な予感しかしない。

 このいかにも頭が切れそうな美人の嫁さんは、それ以上に頭がぶっ飛んでいるので、たまにその発想に恐怖すら感じてしまう時がある。

 

「アキラくんも似たようなものよ。自覚がないって怖いわねえ」

「だから人の思考を読むな。で?」

 

 くいっとメガネを直しながら、カナタが微笑む。

 

「パワーアーマーを装備した2人がアメリカン・バイクに乗って追撃してきたら、徒歩でなんて逃げ切れるはずがないわよねえ。たとえそれが、新制帝国軍の兵士でも」

「いや、それは俺も考えちゃいたがよ」

 

 この橋の悪党がどれほどバカなのかは知らないが、遠方から狙撃されたら身を隠すくらいはするだろう。

 

 そこに、俺のミサイルランチャーが火を吹く。

 たとえ隠れても爆風で殺されるとなれば、もう生き残りの悪党は逃げ出すはずだ。

 

 追撃しての殲滅戦。

 

 101のアイツが運び屋であるミサキに宛てた手紙によると、名前の前に悪党なんて単語が表示されるのは、人を脅して奪って犯して殺し、さらにその後で食料にしている連中であるらしい。

 なので、殲滅には賛成ではあるのだが。

 

「バイクのタンクは防弾板で守られてるし、タイヤのすべてが保護できる訳がないけどフェンダーだって防弾板を加工した物よ。もちろん、ボク達はパワーアーマーだからミサイルでも飛んでこなきゃ平気だし」

「まあ予備のタイヤと工具はピップボーイに入っちゃいるから、俺でもパンクくれえは直せるが」

「なら、決まりね。エンジンはかけたままにしておくわ」

「へーい」

 

 このもっとも最近になって出会った嫁さんは、少しばかり自分を大切にする気持ちが足りないようだ。

 今夜あたり、その辺をキッチリと話し合っておこうか。

 

 まずは半脱がしで、じっくりねっとりと。

 そこから……

 

「顔がエロいわよ、旦那様?」

「失敬な。戦前の国産パワーアーマーをショートカットキーで装備っと」

「それ、本当に羨ましいわねえ。……パワーアーマー装備完了。こちらもOKよ」

「んじゃ、パーティータイムだ」

 

 カナタが右のコンクリートの土台に上がったので、左の階段を上りながらミサイルランチャーをピップボーイから出す。

 

 ユニーク武器、『パーティースターター』。

 人間に与えるダメージが50%増加するミサイルランチャーだ。

 

 フォールアウト4のボストン金融地区のグッドネイバーでこれを売っているのは、K-L-E-Oという女性型のアサルトロン。登場人物の中でも、かなり好きなキャラクターだった。

 俺は彼女の『いつか殺すリスト』にほぼすべての自キャラの名前を入れてもらったほどのイイ仲なので、世界に1つしかないはずのパーティースターターが俺のピップボーイに10以上入っている。

 

 その中から、『クアッドバレル』と『標的補足コンピューター』というモジュールの付いている物を選ぶ。

 

 クアッドバレルは、単発式のミサイルランチャーを四連装に。

 標的補足コンピューターは本来は直進するだけのミサイルを、マーキングした敵をかなりの精度で追いかけるする追尾ミサイルへと変更してくれるトンデモ部品。

 

「またずいぶんと物騒な武器を出したわね。こっちは準備OKよ」

「高さも充分。うっは、うじゃうじゃいるなあ」

「12、今のところ確認できるのはね」

「コイツでまとめて吹っ飛ばして平気だよな?」

「男の上で腰を振ってる悪党の女のそばに順番待ちが3人いるし、テーブルじゃ年嵩の男がマズそうにしながらスープだけを口に運んでるわ」

「あそこにゃ悪党が犯す女も、食える男もいねえって事か」

「そうなるわね」

「なら遠慮なく掃除をしてやるかな。3カウントだ」

「ええ」

「3、2、1……」

 

 0の声はない。

 俺もカナタも、無言でトリガーを引いた。

 

 尾を引いて飛んでゆくミサイルが着弾する前に、スコープのない俺からは取っ組み合いの喧嘩でもしているようにしか見えない2人の片方が崩れ落ちる。

 

 それを見ながら、次をマーキング。

 すかさずトリガーを引いたところで、大音量の爆発音をパワーアーマーの集音マイクが拾った。

 次が爆発する前に勝利の小銃がまた1人、また1人と悪党を撃ち殺す。

 

 そしてまた大爆発。

 

 日本のレイダーである悪党はこんな派手な戦闘には慣れていないからか、爆発に巻き込まれて仲間が挽肉になっても、粗末な小屋から出て来てキョロキョロするだけで散開などしなかったので、それだけで群れの大部分が壊滅してしまった。

 

「たった2発でこれ? オーバーキルにもほどがあるわ。もう、残りは3人しかいないじゃないのよ」

「そういう武器なんだから仕方ねえだろって。おら、行くなら急げよ」

「はいはい」

 

 パーティースターター、放り投げるようにして渡された勝利の小銃、それに通り道を塞ぐヘビーマシンガンタレットを収納。

 タイヤを鳴らしながら前に出たアメリカン・バイクに飛び乗る。

 

「残り3なら、コイツでいいか。……いや、こうだな」

 

 走り出したバイクの加速を感じながら呟く。

 

 右手に爆発の10mmピストル。

 左手にデリバラー。

 

 ゲームじゃしたくてもできなかった2丁拳銃。

 

 ミキの装備を見ていつかやろうと思っていたので、これを試せるのは少し嬉しい。

 セイちゃんが付けてくれたらしい頑丈なリアステップに体重を預け、カナタの背後で立つようにしてから両手を伸ばす。

 

「ちょっと、ボクだって直進しながらツーショット.44での射撃を試したいのよ?」

「わかってるって。左の1人は残すさ」

 

 カナタはパワーアーマーを装備する前にホルスターから抜いてコンクリートの土台にでも置いていたのか、コンクリートの土台から飛び降りる時にはもう左手にツーショット.44ピストルをぶら下げていた。

 

 だからこそ俺は左に最も使い慣れ、VATSに適したデリバラーを選んだのだ。

 

「まずは右っ!」

 

 トリガー。

 跳ね上がる銃口を押さえ込む。

 

 背が高くひょろっとした男の背中が爆ぜ、そこが抉れて鮮血を噴き出しても、前ほどには心が痛まない。

 

 当たり前だろう。

 俺は決めた。

 だから、これでいい。

 

「お見事」

 

 ね、さすがはボクの旦那様。

 と続く声は、まるで動画をスロー再生した時のように聞こえた。

 

 VATS起動。

 それだけで、俺の感じる時の流れは極端に遅くなる。

 後は時の流れの遅い世界で、敵を撃ち抜いてやるだけ。

 俺の命綱であるVATSは決して索敵用なんかではなく、これが本来の使い方だ。

 

 足に1発、頭部に3発を選択して決定キーを押すイメージ。

 銃の右左の選択肢は特に出なかったが、左のデリバラーで撃ちたいと思いながら選択キーを押すと、APの消費量でデリバラーでの攻撃になっていると確認できた。

 

 VATS発動。

 指がトリガーを引いたのは、3度だけだった。

 

 それだけで背中を見せて駆け出した悪党は、叫び声すら上げず雑草が目立つアスファルトに転がってしまう。

 

「ラストは任せた」

「ありがとう。そのまま動かないで」

「ん?」

 

 返事の代わりに、カナタがハンドルを離す。

 

 すうっと上げられた右手には、俺が渡したツーショット・ブルバレルアドバンス.44ピストル。

 そのグリップに左手を添えたカナタは、きっとあのSっ気たっぷりな笑みを浮かべているのだろう。見なくともわかる。

 

「バイバイ」

 

 銃声。

 それに無防備な後頭部に.44口径弾を受け、走る悪党がその速度を乗せて体をアスファルトに叩きつけられた音が続く。

 

「お見事。アクセルの固定、それとスタビかなんかで手放し運転の直進性を上げるのもセイちゃんカスタムか」

「ええ。さすがよね」

 

 バイクという乗り物は、当たり前だがアクセルを離せば制動がかかる。

 それにいくらアメリカン・バイクでも、両手を離して射撃なんかすればバランスを崩して当然だ。

 

 セイちゃんはこのバイクが戦闘で使われる物であるから、特にリクエストはせずともそういった改造をしてくれたのだろう。

 

「んじゃ、ちっと停めてくれ」

「あら。どうして?」

「道に並んでる小屋だの車の残骸だのを片しとくんだよ。んで橋の向こうの入り口も、コンクリートの土台で封鎖しとく」

「なるほどね。ならUターンするから、回収はリアシートに乗ったまますればいいわ」

「サンキュ」

 

 ゲームとは違って臭いまであるバラバラ死体をあまり見たくないからありがたい。

 

 もしこの悪党達にまだ仲間がいてそいつらが戻ってきても、ねぐらにしていた橋の建物や家具がきれいさっぱり無くなっていれば、ここにまた住みたいとは思わないだろう。

 違う悪党が、狩り場を探して移動してくる可能性もないとは言えない。

 多少は手間でも、後々のためにそうしておくべきだ。

 

 アメリカン・バイクでの追撃中に発見の通知が来たが、ここは『新掛塚橋』というそのまんまの、いかにも日本っぽい名前のロケーションであるらしい。

 

 すべてを終えてピップボーイの時計を見ると、時刻は午前9時12分。

 まあこんなもんかと、パワーアーマーを装備解除して戦前の黒いスーツを着ているカナタに磐田の街を目指してもらった。

 

 


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