Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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準備完了

 

 

 

 すずやかパネエっ!

 

 そんな声を何度も聞いた賑やかな昼メシを終え、俺は工場の簡易陣地化に取り掛かった。

 

 相当の人気店だったのか、かなりの量を手に入れたハンバーグ・ソースは大好評。

 店内のチラシには○○店なんて文字がいくつもあったので、また違う店を見かけたら補充も可能だろう。

 

 俺の護衛だというシズクと2人、ある程度の畑までを囲うようにタレットを設置して回る。

 防壁なんかはまだいらないだろうと昼メシを食いながらの話し合いで決まったので、まあ楽な部類の作業か。

 

「こんなモンかねえ」

「お疲れ。予定よりずいぶん早く終わったな。ミサキ達は、まだハンバーグレストランの先にあるスーパーマーケットを漁ってるぞ」

「どうせワゴン車で持ち帰れねえほどの商品を、駐車場に積み上げてんだろうなあ」

「当然だな。下手をすればその分け前を市場に並べただけで、ミキの成人の儀式は終わりだろう」

「せめて恋人同士にでもなんなきゃ、誰かさんは帰りそうにねえけどな」

「ふふっ。ならバスに戻って、指揮をしてるタイチと軽くミーティングかな」

「バスってか、ありゃもう装甲車か護送車だけどな」

 

 セイちゃんの天才的な腕で魔改造された路線バス。

 世紀末の荒野をあんなのが走り回っていたら、10や20の悪党なんて裸足で逃げ出してしまうんじゃないだろうか。

 

 屋根に3機のタレット。

 その中間に位置する天井からにゅうっと姿を現した2人の兵士が構えるのは、一見してヤバイ兵器だとわかるロケットランチャー。

 そして窓がないとしか思えない、鉄の塊である大きな車体から重い音がしたと思えばいくつもの窓が開き、一斉に10以上の銃口を自分達に向けられたら。

 

 想像しただけで恐ろしい。

 

「路線バスが決戦兵器になってしまうんだものな。我が従姉妹ながらたいしたものだ」

「新制帝国軍なら普段使いはしなくても、ロケランくれえ持ってるだろうからな。あんまムチャはできねえよ」

「やっぱり隠し持ってると思うか?」

「隠し持ってるってより、使ったらミサイル補充すんのに金がかかっから倉庫に置いてるって感じじゃねえかな。それか、使うほどの敵がいねえか」

「……すべての悪党がまとまって浜松を手に入れようとして大戦、なんて幸運はないだろうからなあ」

「悪党?」

「浜松の旧市街には、かなりの悪党がいるらしいぞ」

 

 なるほど。

 戦前の大きな駅だけじゃなく、旧市街のそこら中に悪党がいるのか。

 それだけではなくフェラル・グールとモングレルドッグ、それに都会の街中ならそれなりにいるはずのプロテクトロンなんかのロボット。

 本当なら、レベル上げをそっちでやりたいくらいだ。

 

「アキラ、シズクさん。お疲れっす」

「おお、隊長殿。お疲れさまだ」

「お疲れ。タレットの設置は終わったぞ。そっちはどうだ?」

 

 シズクに隊長殿なんて呼ばれて肩を竦めたタイチは、バスの前に俺が出した丸テーブルで手描きの工場の地図を見ながら特殊部隊の指揮をしているようだ。

 

 聞くともなしに聞いていた無線の感じでは問題なさそうだったし、何かあればタイチの指示で応援に出るはずの2人も、揃ってバスに寄りかかりながらダベっている。

 特に問題は起きていないようだ。

 

「工場の広い場所や外はサクラさんが、室内はウルフギャングさんがいる物といらない物を選別してくれてるっすからね。里に持ち帰る物は続々と運ばれてきてるっす」

「それにしては少なくないか? アタシ達みたいに、手当たり次第に運び出せばいいのに」

「ここを少なくとも第二の基地。できれば農業と漁業で生きる、新しい集落にするべきだってウルフギャングさんは言ってたっす。だから根こそぎは持って行かないらしいっすよ。そうっすよね、アキラ?」

「ああ。バスで持ち帰れる分だけだ。そんじゃ俺達は、先に出るぞ」

「はいっす。こっちの帰投予定は、17時っす」

「お互い帰るまでは気を引き締めてこうぜ」

「もちろんっす」

 

 カナタがシズクをリアシートに乗せるならこれがいいと言っていた、アメリカン・バイクを出す。

 ついでに眼鏡を『パトロールマンのサングラス』に換えてみた。

 

「ほう。戦前の映画のポスターみたいだぞ。惚れ直すじゃないか」

「よく言うよ。リアシートから降りるまで、足はここのステップな。ぶらぶらさせたりしてたら大怪我をする」

「らしいな。それと日本刀は預かってもらえとも言われた。バイクでの戦闘は、背負っているショットガンのみでいいと」

「それと、爆発以外のレジェンダリーをサイドアームに持つのもいいな。後で選ぶといい」

「わかった。じゃあ頼む」

 

 差し出すようにされた日本刀を、手も触れずにピップボーイに入れる。

 

 出会った時からシズクはこれを使っていたし、射撃も状況判断も特殊部隊の誰より巧いと確信したので渡した爆発のコンバットショットガンを背負うようになっても、これは腰に差して大事そうに扱っていた。

 きっと思い入れがあるんだろう。

 

「んじゃ行くか」

「ああ。バランスにさえ気を配れば、このステップとやらの上で立ち上がって撃ってもいいとカナタは言ってたからな。今から楽しみだ」

「頼むから俺の耳元で撃つなよ?」

「善処しよう」

「そうじゃなくて約束な」

「わかったわかった」

 

 なんか信じられねえと呟きながらエンジン始動。

 背中に当たった柔らかいブツが形を変えるほどしっかり抱き着かれてから、ギアをローに入れてクラッチを繋いだ。

 

「いちゃいちゃしてんじゃねーってんっすよ」

「うっせ。じゃ、夕方にメガトン基地でな」

 

 シズクのお世辞でその気になった訳ではないが、左手で2本指の敬礼をピッと飛ばしてアクセルを開ける。

 映画なんかで、ゴツイ白バイに乗った警官がいかにもやりそうな仕草だろう。

 

「了解っす。そっちも気をつけるっすよー!」

 

 おうと返しながら、国道362号線に向かって走り出す。

 

 カナタが運転するワゴン車が向かったのは、それを直進して右折した県道だ。

 予定では合流した後、今までまったく探索の手を伸ばしていない浜松寄りの浜名湖の湖岸を軍用ボートで偵察しながら小舟の里へ帰る事になっている。

 

「ま、予定は未定だがな」

「明日はミサキの番だが、どこへ向かうんだ?」

「さあな。ミサキ次第だろ。それより、セイちゃんの修理が終わったらどうすんだよ?」

「たぶんローテーション、だったか? それにセイが加わるだけだ」

「いやだからカナタが俺と一緒の時、そっちは車を使えねえだろうがよ。運転手がいねえんだから」

「それは考えてなかったな」

 

 そんな事を話している間に、ミサキ達のいるスーパーマーケットが見えてきた。

 

 郊外型の大型店だが平屋で、広いフードコートやゲームコーナーまではなさそうな、ありふれた店舗。

 その駐車場にワゴン車が停まっていて、その横にこれでもかと戦前の商品が積み上げられているのも見える。

 

「まーた欲張りやがって」

「ミサキは優しいからな。特殊部隊の全員にカゴ1つずつの分配をすると、ほとんどの連中が立体駐車場マンションで暮らす親兄弟にそれを渡しに行くのを知ってるんだ。だからだよ」

「……そんなんで不満は出ねえのかよ? 特殊部隊の連中とその家族だけがいい思いをしやがって、みてえな」

「小舟の里じゃあり得んな。子供の頃から学校で、『いい思いをしたかったらたくさん勉強して長の下で働くか、命を懸けて食料調達部隊として働くしかない』と教えられている。それに気のいい家族は、それなりにお裾分けなんかもするだろうし」

「安全で給料がいい公務員と、危険だがそれと同じかそれ以上に稼げる兵士って事か」

「そうなるな。学校は物事の善悪を教えながら、子供が勉強や書類仕事に向いているかを確認させてくれる場所だ。じゃあ、アタシは荷運びに参加して来るぞ」

 

 ワゴン車の横でブレーキをかけると、シズクはそう言ってスーパーマーケットへ向かう。

 その背を見送ると割れていないが汚れ切ったガラスの向こうで、勝利の小銃を担ぐカナタが大丈夫だとでも言うように頷くのが見えた。

 

 この戦前の商品の名前と数をメモしながら、それらをピップボーイに入れてゆくのは俺の仕事だ。

 そのリストを確認しながら、俺達を含めた特殊部隊の全員に買い物かご1つ分の物資を配給するのはミサキとシズクの仕事。

 

 残りはマアサさんに渡すのだが、最近では備蓄倉庫に空きがないとかで、『もう小舟の里に手に入れた物資のほとんどを渡したりせず、アキラくん達の財産として電脳少年に保管しておきなさい』なんて言われている。

 

「そういや、ミキへの分配ってどうなるんだろな」

 

 もしも山分けなら、ミキは今日1日でとんでもない量の商品を手に入れた事になるだろう。

 店をやるにしても本館の1階にある市場でとなると、戦前の商品は高いらしいので買い手がいないような気もするんだが。

 

 引っ越しのような作業を終えて全員でワゴン車に乗り込んでからそれらを訊いてみると、あたし達で探索した分をいったん山分けにして、それがミキの取り分だよーっとミサキは言っていた。

 

 まず山分け。

 そして俺達の分をすべて合わせて特殊部隊の連中にお裾分けをして、残りは小舟の里に寄付。

 今まで何も考えずやってきたが、どうやらそれが俺達の山師仕事のルールらしい。

 いつだったかタイチに気前が良すぎるだろうと呆れられたが、小舟の里には買い物かご1つ分の戦前の物資でさえ買い取れる商人がいないのでどうでもいいのだ。

 

「そ、そんなに渡されても保管場所と、それを売る店なんてミキには。ううっ、困ったのです……」

「アキラに預かっててもらえばいいだけじゃない」

「それか、ウルフギャングの店の横にでもミキの店を作っちまうか? あの辺りは本館から遠いから、月々の土地代も安いって話だし」

「あら。それがいいじゃないの。そうすれば特殊部隊の女性宿舎に仮住まいしなくていいし」

「でも、ただでさえアキラにはお世話になってばかりなのです」

「いいんだって。そんなの1時間もかからず建てれんだから」

「そーよそーよ。そしたらアキラがウルフギャングさんの店で飲んでる時、あたし達もミキの店に遊びに行けるし」

「決まりね」

 

 本人以外が決めるなと言いたいが、まあミキが店を構えるのならば、実の姉であるカナタはかなり安心なのだろう。

 あまり高額な品は売れないだろうが小舟の里の治安は間違いなくいいし、商品を補充したいなら俺達と探索に出ればいい。

 あとは、恋の成就を祈るだけだ。

 

「とりあえず俺の方の下地はできたかな」

 

 まだ顔すら出していない天竜の集落との交易拠点まで確保したなら、とりあえずするべきは俺とセイちゃんのレベル上げだろう。

 その間に小舟の里と磐田の街の交易の詳細を、マアサさんとカナタに詰めてもらえばいい。

 

 ……まだ夢を語る覚悟も、資格さえも俺にはないが、ここらで少しばかり頑張ってみようか。

 

 


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