Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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熟練の悪党とこれからの戦闘スタイル

 

 

 

「ヴァーッツ!」

 

 シズクとカナタに知らせるためというよりは、焦る自分にVATSの起動を急がせるため、俺はそう叫んだのかもしれない。

 

 時の流れが遅くなった世界で火炎ビンを睨みながら、まず落ち着けと自分に言い聞かせた。

 火炎ビンへの命中率、55パーセント。

 APも1射でゴッソリ持っていかれてしまう。

 

「これは悪手。この状況なら、そうじゃねえ」

 

 スプレー・アンド・プレイをデリバラーに交換。

 ゲームでは不可能だったVATSを起動しての武器交換もこの世界では可能だから、これが正解のはずだ。

 

 フォールアウト4、ゲームの中ではできなくとも、この世界ならばできるという事は他にも多い。

 だからこそこんな戦い方も可能で、おそらくそれがこれからの俺の戦闘スタイルになるはずだ。

 

 デリバラーをもう1丁装備して、VATSキャンセル。

 コンクリートの土台の陰から跳び出した瞬間に、またVATS起動。

 

 走る俺。

 振りかぶった火炎ビンを投げる熟練の悪党。

 目が合った。

 その白目の充血具合を見るに、クスリでもキメているのか。

 

 遅い。

 

 VATSを起動すると、すべてがスローモーションの世界になる。

 なのでこうして走り出してから起動すれば、俺は敵より速く動きながらデリバラーの固有効果『VATS中の攻撃命中率上昇、APの消費25パーセント減少』の恩恵を利用できるのだ。

 そして走ればかなりの速度で減るAPが、VATSを起動中はスローモーションの世界になるからか、ほとんど減らない。

 

「成功率90、ザマアっ」

 

 薄汚れて黒ずんだ手から離れたばかりの火炎ビンに、左のデリバラーを2発。

 熟練の悪党の頭部に右のデリバラーを3発。

 束の間だけクリティカルを使うべきか悩んだが、熟練の悪党が他にもういないと決まった訳ではないので温存。

 

「VATS発動。くたばれっ!」

 

 悪党なんて生き物に身を堕とし、それだけじゃ飽き足らず、よりにもよって俺の嫁さんを丸焼きにしようとは。

 100万遍殺しても殺し足りない。

 

 デリバラーの特徴的な銃声。

 

「うおおおおぅ」

「あづいいぃ」

「めがあぁ、めがあぁ」

 

 スローモーションの世界で火炎ビンが撃ち抜かれると、周囲にいたらしい悪党まで炎に包まれて、そんなマヌケな悲鳴が複数上がる。

 さすがと言うべきか、熟練の悪党は2発までデリバラーの攻撃に耐え、3発目でようやくHPバーの色を完全に失った。

 

 その瞬間、世界が時の流れを取り戻す。

 

「アキラ!?」

 

 まだ走る。

 5まで上がったAGILITY、日本語にするならば敏捷性とでも訳すべきステータスに任せて。

 

「左よ、アキラくんっ!」

 

 サンキュ。

 

 そう返す代わりに、またVATSを起動。

 俺が向かっているトラックの残骸の右側ではなく左側から飛び出した、ただの悪党の右手にはCNDが悲惨な状態の小汚い拳銃。

 

 そんな銃などどうでもいいが、もっとどうでもいいのが悪党なんて連中の命だ。

 迷わず頭部へ2連射を選択。

 それを選択してVATS発動。

 走る足は止めずに、だ。

 

 デイーン

 

 銃声を追うようにそんな音がして、ピップボーイの視覚補助システムの下部にデフォルメされた死神の姿が表示される。

 

 GLIM REAPER'S SPRINT。

 

 LUCKツリーの上位に位置し、LUCKが最低8ないと取得不可能なPerkが、いいタイミングで発動してくれた。

 その効果は『VATSで敵を倒すと25パーセントの確率でAPを全回復する』というもの。

 

 つまり俺はまだまだ走れて、悪党が視界に入ればその瞬間にVATSで息の根を止めてやれる。

 

 きっと悪党連中から見れば俺は目にも止まらぬ速さで駆け回り、瞬きよりも速く敵を撃ち殺す銃の名手といった存在だろう。

 

 走る。

 あと少しだ。

 

 元の時間を取り戻して吹っ飛んだ悪党になんて目もくれない。

 ただ、全力で走る。

 

「覚悟しろボンクラ!」

 

 滑り込む。

 トラックの残骸の向こうへ。

 まるで敵チームのエースにタックルを仕掛けるサッカー選手か、サヨナラのホームベースに滑り込む野球選手だ。

 

 アスファルトとパワーアーマーが擦れて火花が散ったような気がするが、そんなのを見ているヒマはない。

 

 滑り込んでいる途中で、さらにVATS起動。

 

 悪党の生き残りは5。

 

 まず3人の頭部を攻撃選択。

 CRITICAL BANKERのおかげで3回分まで貯まっているクリティカルメーターを使い切り、3人を殺す途中でまたGLIM REAPER'S SPRINTが発動すれば、残りも簡単にVATSで倒せる。

 その賭けに負けたら負けたで、その瞬間にデリバラーをミニガンに交換してクズを挽肉にしてやればいい。

 

 VATS発動。

 

 1つ、2つ、3つ。

 

 ……賭けは、俺の勝ちだ。

 

 3人目の頭部がクリティカル・ヒットで派手に爆ぜた瞬間、またGLIM REAPER'S SPRINTが発動した事を知らせる表示。

 

 そして、すかさず最後のVATS。

 AGIを上げておいたおかげもあり、残り2人の悪党の頭部に3連射を選択してもまだAPには余裕があった。

 もしスプレー・アンド・プレイを装備したままなら、俺程度のレベルでこんなマネは絶対にできない。

 

 これだから、デリバラー使いはやめられねえんだ。

 

 思いながらVATSを発動させ、スローモーションの世界で次々に倒れてゆく悪党を眺めながらアスファルトの上を滑る。

 

 右、左。

 両手のデリバラーが小さく上下するたびに血飛沫が舞い、最後のクソヤロウが命を落とす。

 

「あ、塗装が剥げたらセイちゃん怒っかな……」

 

 殲滅完了。

 

 時間が元の流れを取り戻し、アスファルトに滑り込んだ勢いが止まったので立ち上がる。

 すると派手な足音と、怒鳴るように俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 

「やっべ。セイちゃんじゃなくって、こっちが怒ってら」

 

 念入りに周囲にマーカーがないか確認しつつ、ヘルメットと左手のデリバラーと入れ替えるようにピップボーイからタバコを出す。

 それに火を点けると同時に結構な力で駆け寄ってきたシズクに殴られたが、ミサキよりずっと手加減をしてくれているようで痛みすら感じなかった。

 

「もう敵の姿はなさそうよ、アキラくん」

「カナタがそう言うなら安心か。おつかれ」

「なにがお疲れ、だ。自分だけで片付けておいて」

「うふふ。仕方ないわよねえ。愛するシズクを生きたまま焼かれそうになって、過保護な旦那様はブチキレちゃったんだもの」

「ふむ。それが本当なら許してやらんでもないぞ?」

「さあな。それより剥ぎ取りすっから、カナタは索敵を。シズクはワゴン車に戻って護衛だ」

「教習所の実技は悪くない成績だそうだし、パワーアーマーを荷台で装備解除してここまで運転してみたら?」

「おおっ。やっていいなら喜んでするぞ。アキラ、いいか?」

「安全運転するんならな」

「バカ者。近頃の小舟の里では、安全運転と書いてシズクの運転と読むんだぞ」

「ねーよ」

 

 機嫌よさ気に踵を返すシズクを見送りながら、悪党の装備から使えたり売れそうな物だけをピップボーイに入れてゆく。

 特に武器は、いくらあっても損はない。

 

「死体はそのまま放置、アキラくん?」

「その方がいいかなって。またぞろ悪党に住み着かれても困るし。行商人への注意喚起にもなるかなってよ。まあ、人食いが共食いする可能性もあるっちゃあるが」

「なるほどね。いいんじゃないかしら、それで」

「おっ、やっぱあった」

「なにが?」

「ちょっといい国産銃。コイツ、名前の前に悪党じゃなく熟練の悪党って表示されてやがってよ。ゲームじゃそんなんは、普通よりちょっといい武器や防具を持ってんだ」

「へえ。それで、その拳銃がそうなの?」

「ああ。『ホクブ機関拳銃』だとさ」

「フルオート拳銃なのね。たしかに国産じゃ珍しいわ」

 

 マガジンの容量が少し物足りなそうだが、それでもフルオートのハンドガンなんて今の時代では結構な貴重品だろう。

 このところヒマがあれば男だけで集まってウルフギャングの店で飲みながら話し合っている、浜松の街の偵察計画を実行する時にでも使えそうだ。

 

 看板の説明書きによると公園ではなく津波の際の避難所だったらしい丘の上の死体の銃まで回収して、シズクが運転してきたワゴン車に乗り込んだ。

 

「ちょっとアキラ、まーたムチャしたんだって?」

「そうでもねえよ。なあ、カナタ」

「そうねえ。ムチャじゃなくって、反則技の連発って感じかしらね」

 

 苦笑したカナタがエンジンをかけ、索敵をしながら走り出す。

 もちろん、助手席の俺もVATSボタンをカチカチだ。

 

「反則技って?」

「ミサキがよくやるあれだよ。アタシと2人で前に出る時にやるVATSの使い方」

「ああ、連続VATS?」

「そうだよ。あれを走りながら連続で、最後はアスファルトの上を滑りながら使ってたようだ」

「よく見てんなあ。普通なら目でも追えねえだろうに……」

「剣で大切なのはまず観察。それがあって初めて見切りが可能になるんだよ。爺さまほどの腕はなくとも、あのくらいはな」

「それでも大したモンじゃねえか」

「アキラ」

「ん?」

「今のでレベル12になった。ありがと」

「どういたしまして。砂丘に着いたら少し遅いお昼ゴハンにして、みんなで堤防の上をのんびり歩きながらマイアラーク狩りもいいかもね。経験値だけじゃなく、市場に流せる食料も増える」

「ん。たのしみ」

 

 小舟の里には山師がいないので、マイアラークなどの食料になる肉は里の運営をするマアサさんが食肉店や料理を出す屋台に売るという形式になっている。

 なので仕入れ値が安くなり、住民達も最近じゃマイアラーク程度なら気軽に食べられるようになったそうだ。

 

「……水とメシくれえ、いつでも飲み食いできなきゃおかしいよな」

「人はそれを楽園と呼ぶのよ。このウェイストランドではね」

「へーきへーき。あたし達ならすぐにそんな楽園が作れるって」

「だといいなあ。住民から餓死者を出さないというのが小舟の里の誇りだったが、できるなら腹を空かせている人間なんていないというところまで持っていきたいものだ」

「まあ、ボクも結局は押し切られてしまったものね。水の件は」

 

 飢え。

 貧困。

 そんなのは、俺達がいた地球でもよくあった話だ。

 あれほど豊かだった日本でさえ。

 

 カナタはクラフトでいくらでも作れる水こそが新しい国を興すための切り札になると言っていたが、それはどうしてもするべきではないと毎晩のように説得した。

 

 水と引き換えで作れる程度の楽園なら、それは砂上ならぬ水上の楼閣じゃないかと。

 そんな不確かで曖昧なものに、俺達の子供の未来を託せるかと。

 

「だから早くヴォルトを見つけたい。なんとしてでもセイが直す」

「もしかして、食料生産プラントを?」

「ん」

 

 そんな事が可能なんだろうか。

 もし可能だったとして、それが外の連中に知られたりしたら。

 それこそ、終わりの見えない戦争の引き金になるんじゃないのだろうか。

 

「……ま、資源と富を奪い合うのが人間って種の本能なのかもな」

「優しい人間なんていくらでもいるけれど、権力を手に入れて戦力を振りかざせるようになるともうダメよね。非情にならないと、その権力さえ手放す事になるんだし」

「お偉いさんはお偉いさんで、お偉いがゆえに大変なんだろうな」

「だから最も強い戦力を本当に優しい人間が手に入れて、それを維持するのが何より大切なのよ」

「はいはい」

 

 どれだけ俺に戦国大名だの王様だのをさせたいんだか。

 

「あらあら。大丈夫かと思ったら、また降り出してきたわね」

「砂浜を眺めながらの散歩はまた今度だなあ」

「残念。だから雨は嫌い」

「そうだわ。ねえ、ミサキ」

「どしたの、カナタさん?」

「これじゃ外に出ての狩りはできないから、VATSで索敵をしてるアキラくんにサービスするなりされるなりしときなさい。助手席は2人並んで座れるから」

「な、なんでよ!?」

「それが終わったらアキラくんを後部に行かせて、ミサキにVATS索敵をしてもらうからよ」

「おお。それはいいな。アキラ、さっきの戦闘の褒美をやるぞ。楽しみにしてろ」

「いいっての」

「どうしてだ? またアタシにサックフードをかぶせて、このいやらしい肉袋が! って言いながら好きにしていいんだぞ? もちろん、いつも2人っきりの時はそうするように犬の首輪も着けてくれていい」

「バッ、おまっ!?」

 

 ミサキさん、お願いだから無言で拳を鳴らさないでいただきたいのですが……

 

「まあ、嫌ならいいわよ。今のアキラくん、かなり臭うでしょうし」

「えっ」

「だってパワーアーマーを着て全力疾走しながら戦闘してたのよ? それも、ほとんどの悪党を単独で壊滅させるような戦闘を。汗だくだったろうし、臭うに決まってるじゃないの」

「へ、へぇー。そうなんだ」

「ええ」

「…………あ、雨じゃシズクとセイがヒマだろうし、まああたしが助手席に行ってもいいかな。2人のために仕方なく、ホント仕方なくだけどね。うん」

「ええ。是非ともそうしてちょうだい」

 

 


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