Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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VIPルーム

 

 

 

 スワコさんが梁山泊に顔を出したのは、約束の時間である夜9時になってすぐの事だった。

 俺は焼き鳥と漬物ばかり食いながら飲み続けていたが、ペースはだいぶ落としているので話し合いに支障はない。

 

「なんでカウンターなんかで飲んでるんだい。オヤジ、個室にこの子達の酒とツマミを運びな。あたしはいつものだ」

「へーへー。それよりスワコ、このラジオに値を付けるとしたらいくらだ?」

「ちょっと見せてみな。……核分裂バッテリーの充電はほぼ満タンか。250ってトコだね」

「ずいぶんと高いな」

「核分裂バッテリー分の値段が150さ。そしてラジオの修理費が80」

「なるほどね。そういう事なら納得だ。アキラ、それでいいか?」

「もちろん」

「よし。ならそこのババアと個室に行ってな。金は酒なんかと一緒に持って行く」

「了解です」

 

 誰がババアだぶち殺すよ、なんて吐き捨てたスワコさんが向かった先は、戦前にはバレーボールのネットや各競技のボールなんかが置いてあったと思われる倉庫。

 今はVIPルームのような場所であるらしいそこには跳び箱やボールなんかではなく、6人ほどが座れる丸テーブルと椅子が置いてある。

 

「これはいいっすねえ」

「だろう? 明りはそこらのランプが点くまで待っておくれ」

 

 テーブルの真上と、部屋の四隅。

 お盆をテーブルに置いたマスターがそこに吊るされたランプに火が点すと、部屋は飲み食いをするのに不便を感じないくらいの明るさになった。

 

 酒やツマミを並べたマスターが、ごゆっくりと言ってから部屋を出てゆく。

 

 出入りのたびに錆びた金属製の引き戸が重苦しい、まるで悲鳴のような音を立てるのが難点だが、内緒話なんかをしたいならこの個室で飲むのが一番だろう。

 

 値段が稼ぎと折り合うなら俺達も使おうとスワコさんに訊いてみたが、料金は1晩で5円と、一等室よりかなり安かった。

 これなら普段はここで飲み、情報収集なんかをしたい時に俺だけカウンターに行くのがいいのかもしれない。

 

 まずは乾杯。

 

 そして浜松の街でよく食べられているという、茹でた大豆と芋と野菜のワンプレート料理をスワコさんが食い終えるまで待とうと思ったが、この体格だけでなく食い方まで豪快な筋肉美人は、それを咀嚼しながら口を開く。

 

「で、受けてもらえるんだね?」

「はい。いざとなればお嬢さんとスワコさんをどちらかの街へ送って、それから俺が動きます」

「娘だけでいいさ。バイクならその方が早いだろうし」

「でも市長さんの依頼ですからね、これは。そこは曲げられません」

「過保護なジジイだねえ。2階に住んでる女の子達を置いて逃げるはずがないってのに」

 

 もしそうなればタイチを原付バイクで小舟の里に向かわせ、武装バスを出して全員を避難させるだけだ。

 

 磐田の街の市長さんの依頼。

 

 それは浜松の街で大規模な戦闘が起こり、娘と孫が暮らす区画まで戦火が及びそうならば、すぐに2人を小舟の里か磐田の街に避難させてくれというものだった。

 

 あんな幼い子が戦争に巻き込まれるところなんて見たくもないし、いかにも女傑という感じのスワコさんが張り切って戦闘に参加し、万が一怪我でもしたら寝覚めが悪い。

 この依頼を受けるのは俺に近い全員が賛成してくれたので、特殊部隊と武装バスに被害が出なければ問題はないはず。

 

「スワコさん、いきなりですが商人ギルドがどんなもんか訊いても?」

「もちろんいいさ。なんでも訊いとくれ」

 

 礼を言い、まず基本的な事から質問をしてゆく。

 

 商人ギルドは選挙で決まった議員達の合議で運営方針を決定。

 何かあれば各々が得意とする案件を臨機応変に割り振り、それでほとんどのトラブルに対処している。

 

 それは、議員なんて言葉を聞いた時に予想した通りだ。

 

「それで、新制帝国軍との関係はどうなんで?」

「ここ30年ほどは動きがないね。今は引退してるけど、長老と呼ばれる商人が鬼と獣と姫を巧く利用して新制帝国軍が商人ギルドの自治区に立ち入るのさえ禁じさせた。その時からほとんど変わってないよ」

 

 なるほど。

 

 ジンさんと市長さんとリンコさん。

 あの3人を利用するとか、やはり商人という存在は恐ろしい。

 

 その長老とやらが小舟の里と磐田の街と天竜の連携を知れば、昔と同じように3つの街を利用して、商人ギルドがまたこの浜松で勢力を伸ばそうと画策するのだろう。

 

「……お互いに得をするんならいいがな。こっちだけ火の粉をかぶるんじゃ、距離を置くしかねえか」

「あり得る話だねえ。そして新しい交易とそのルートは、それが始まればすぐにでも掴まれる」

「商人ギルドはどう動くと思います?」

「まずはあたしに話を持ってきて、その交易になんとしても加わろうとするだろうね」

「……んでしばらくしてそれを知った新制帝国軍は、まず戦力が最も少ない小舟の里に圧力をかけるか」

「いいや。最初は天竜だろうね」

「どうしてです?」

「姫の実力を知らないからさ。こないだの小競り合いだって、姫を侮っているからこそ起きたんだ」

「……もしかして、新制帝国軍ってバカなんで?」

「否定はしないねえ」

 

 ジンさんと市長さんがどれだけ強かろうが、その武器は日本刀と鈍器。

 なのにリンコさんは国産ピップボーイである電脳少年を持ち、そこから宝物級のグレネードランチャーを取り出してそれを乱射する。

 

 どちらが脅威かなんて、子供にでもわかりそうな事だろうに。

 

「あれじゃないっすか? 姫ってのが天竜の長なら、その人にいいとこを見せたかった2人が張り切りすぎて、天竜の長は浜松の街じゃほとんど戦闘すらしてなかったとか」

「おそらく正解だねえ。とくにうちの熊は、年中発情期だから」

「なんだかなあ……」

 

 気持ちはわかるが、そんなくだらない理由かよと笑うしかない。

 あんな美人と若い時にパーティーを組んで毎晩3Pとか、ただでさえ羨ましいのに。

 

 焼酎の水割りで唇を湿らせ、どうしたものかと考えを巡らす。

 

 商人ギルドはいい取引相手にもなり得るが、とにかく油断ならない。

 もし3つの街に商人ギルドを加えて交易を開始しても、揉め事になれば商人ギルドは我関せずで、それどころか新制帝国軍を利用して交易ルートの乗っ取りを謀るかもしれない。

 

 そんなんじゃ、こっちからノコノコ出て行って手を取り合いましょうなんて言えるはずがないだろう。

 

「ま、手がない事もないけどね」

 

 ニヤリと笑ってスワコさんが言う。

 

「是非ともその考えを聞かせて欲しいですね」

「簡単さ。アキラとタイチが剣鬼と狂獣より強いって思わせればそれでいい」

「へっ?」

 

 そう来たか。

 

 たしかに日本刀と鈍器を振り回す2人を新制帝国軍が恐れ、それを利用して商人ギルドは勢力を伸ばした。

 俺とタイチがあの2人と同じくらいの脅威であると新制帝国軍が思えば、そちらはそれだけである程度の動きを封じられる。

 

 そして商人ギルドはまた新制帝国軍が恐れる山師を利用しようとするだろうが、俺達がそれを許さず、なんなら新制帝国軍と手を組む可能性がある事までをチラつかせれば。

 

「……うん。でもあの2人と同じレベルで恐れられるなんてムリ!」

「そうっすよねえ」

「なんだい。若い者がだらしない。あんなジジイより自分の方が強い、それくらい言い切れなくってどうするってんだい」

「いやだって、なあ?」

「そうっすよねえ」

 

 どちらのジジイもおそらくはレベル20。

 今の俺と同じで、すぐにでも俺はレベルが21になる。

 だがそれでも悪党のコンテナ小屋なんかで見た手並みを考えると、俺の方が強いぜなんてどうしたって言える気がしない。

 

「なら、とりあえずは山師として名を上げる事だね。そうなれば商人ギルドから直で依頼が来たりもするだろうし、他の議員との縁も結べる。突破口だって見つかるだろうさ」

「あんま浜松の街にばかり時間を割いてもいられないんですがね」

「灰色の9式とは仲が良くなったみたいだし、まあ頑張ってみなよ」

「なんです、それ? マスターもくーちゃんを9式って呼んでましたけど」

「あっ。もしかしてそれ、くーちゃんの二つ名っすか?」

「そうなるね。ソロなら『灰色の9式』、パーティーなら『碧血のロクヨン』。浜松の山師で腕っこきって言われてるのは、主にその2人さ」

「お、思ってたより大物っすね。くーちゃん」

「碧血のカナヤマさんもな」

「そのくーちゃんと臨時とはいえパーティーを組んで、碧血のカナヤマさんに討伐を手伝ってくれないかって言われてるんすもんねえ。なんとかなるんじゃないっすか、アキラ?」

「そうだといいがなあ」

「灰色娘とパーティーだって? それに碧血と討伐ってのは?」

 

 かなり驚いているらしいスワコさんに、それぞれの成り行きを話して聞かせる。

 

「……とまあ、そういう訳でして」

「呆れた幸運だねえ。いや、運じゃなくて見るからに上等な銃と本場の電脳少年があればこそ、だね。ならどうにかなりそうじゃないか。頑張んな」

「努力だけはしてみますよ」

 

 よく飲み、よく食べ、それじゃあ探索帰りにはうちに戦前の品を持ち込みなと言って、スワコさんは個室を出て行った。

 

 初日の予定は、これにて終了。

 思わぬ縁も結べたし、まあまあの成果じゃないだろうか。

 

「さあて、アキラ」

「んだよ?」

「せっかくの個室だし、夕方からチラホラ見かけてた美人さんを2人くらい呼んで、イチャイチャしながら飲みましょうっす」

「娼婦なあ。ミニスカートの奥を見ながら飲むのはいいが、あの体臭はカンベンだって」

「あー。たしかにオイラも、今となってはちょっとキツイかも……」

「だろ? 明日明後日と山師仕事をしたら、うちの嫁さん連中がカヨちゃんを連れてワゴン車で砂丘の近くまで出てくる。そしたらあの辺りに1泊してお愉しみだから、まあそれまでのガマンだよ」

「うー。今日はそれなりに戦闘もしたから、お酒だけじゃ寝付けない気分なんっすよね」

 

 俺だってそうだとは言わず、ウイスキーのボトルを出して空になっているタイチのジョッキに注ぐ。

 もちろん、俺のジョッキにもだ。

 

「なんなら、くーちゃんの具合を試したらどうだ? アイツらは身ぎれいにしてるから、そうは臭わねえだろ」

「嫌っすよ。でもせっかくだから、アキラと並んで腰を振りたかったっすねえ」

「悪いが、乱交プレイは好みじゃねえんだ」

「オイラもそうっすけど、なんてゆーかあれっすよ。思い出作り?」

「そんなのは思い出じゃなく、黒歴史って言うんだよ。いいから飲め、ほら」

「明日は夜明けと同時に出発ですからねえ」

「予定を立てるなら、地図を出すか」

 

 まず、思っていたよりだいぶ広い浜松の街の外周に赤ペンで枠を書く。

 

「ええっと、赤線地区に向かうならこの道っすね」

「いきなり激戦区はヤバイんじゃねえのか? ヤマト達は銃を撃った事すらなさそうだぞ」

「へーきっすよ。アキラとくーちゃんの戦闘を見せて、それを解説した後は反対方向にでも向かって銃の練習をさせるっすから」

「ずいぶんと適当な教官殿だなあ」

 

 俺達が帰る時、あの3人を小舟の里や磐田の街へ誘えるかもわからないし、そもそも誘ったところで着いて来る保証はない。

 ならばクニオとすら袂を分かつ前提で、3人が浜松の街の山師として暮らしてゆけるように武器を選ぶべきか。

 

 


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