Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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授業

 

 

 

「わあっ。足を止めずに拳銃を抜いて、それを構えながらズカズカ歩いてるよ。いい度胸してるねえ、アキラっち」

「だからこっちは心配ばっかりさせられるんっすよ」

「だろうねー」

「言っとくけど、さっきのくーちゃんも同じっすからね?」

 

 2丁拳銃は通常射撃とVATSを併用する時や、敵が多くて弾をばら撒くような戦闘をする時と相性がいい。

 すばしっこくってHPがそう多くないゲッコー、それも少数が相手なら、両手で1丁を保持して正確な狙いを心掛けるべきだろう。

 

 VATSは使わない。

 

 なので怖いのはゲッコーが俺ではなく背後の5人に襲いかかる事。

 少しでも距離を詰めるため、1丁のデリバラーを両手で構えたままゆっくりと歩く。

 

 まるで放し飼いにされているニワトリのような、どこかコミカルな動きで駐車場をうろついていたゲッコーが俺に気づいた瞬間、デリバラーのトリガーを引いた。

 

 パシュッ

 

 そんな軽い銃声が鳴り、1匹目のゲッコーの頭部に小さな穴が空く。

 

 足は止めない。

 構えたデリバラーも下ろさない。

 

 腰を回すようにしてほんの少し銃口を左に振り、またトリガーを引いた。

 

 肩。

 

 ゲームと仕様が違うからか、思ったよりゲッコーのHPバーが減らない。だが2射目が頭部に命中すると、半分以上はあったHPは見事に消し飛ぶ。

 

「ラストか。ならコイツを見せておこう」

 

 弾薬が9mm弾なので俺は使わないと思われる銃、『ホクブ機関拳銃』をショートカットで装備。

 セレクターを『ア』から『レ』に変えてトリガーを引く。

 

 熟練の悪党から剥ぎ取ったこの銃は国産だからか、セーフティ状態が『ア』、セミオート射撃が『タ』、フルオートが『レ』とセレクターに刻んである。

 

 ア→タ→レと回して射撃。

 当たれ、のダジャレなんだろうか。

 もしそうだとしたら、やっぱりフォールアウト世界はイカレている。

 

 そのフルオート射撃を指切り2回、計6発の9mm弾を浴びて、ようやく最後のゲッコーはアスファルトの上にもんどりうって倒れた。

 このホクブ機関拳銃は日本語で表示されている『威力』という数値通り、たいしたダメージは出ないらしい。

 

「お疲れっす。アキラ、その拳銃は?」

 

 進んだ分だけ戻った俺に、タイチがそう問いかける。

 

「熟練の悪党ってちょっと強めのクソヤロウから剥ぎ取った国産銃。フルオートで撃てるんだが、弾が9mmでよ。誰かが使うんなら渡そうと思って、朝のうちにショートカットに入れといたんだ」

「ああ、例の名を上げた一件の。くーちゃん、使うっすか?」

「ううん。拳銃にしちゃ大きいし、サブマシンガンにしちゃ小さいもん。9mmなら弾薬の心配はないけど、どっちにしても中途半端だから使わないかなあ」

「俺は逆に9mm弾の手持ちがあんまねえからな。んじゃ、お蔵入りか」

 

 フォールアウトNVには9mm弾を使う銃があったが、フォールアウト4にはそれがない。

 そして戦前の国産銃や弾は特殊部隊の武器庫と、いざという時のためにジンさんが管理している小舟の里の武器庫にあるだけ置いてきたので、ピップボーイに9mm弾は数十発しか入っていないのだ。

 

「アキラ、それならそれはこっちに回してもらえないっすか?」

「別に構わねえけど、どうせなら10mmピストルのがいいんじゃねえか?」

「ヤマトは完全に指揮官向きで、まだ成長期なんであまりSTRがないんっす。だから少しでも軽い銃を持たせて、最初っから指揮をする前提で鍛えた方がいいかなあって」

「期待の新人、それも士官候補って事か。いいぞ。ヤマト、ほれ」

 

 ただでさえ装弾数の少ないマガジンが3つしかないのが気になるが、もしかしたらスワコさんの店に在庫があるのかもしれない。

 もしあればいくつか買って渡そうと考えながらマガジンを交換し、グリップをヤマトに向けて差し出した。

 

「すいません。お借りします」

「プレゼントでいいさ。マガジンと弾も渡してえが、入れる場所がリュックサックじゃ不便だなあ」

「浜松の街に戻ったら、くーちゃんがベルトに通してるようなバッグをスワコさんの店で買うしかないっすね。今はその入ってる1マガジンだけでいいっすよ」

「あいよ」

「んじゃ次は、くーちゃんが先生になる番ねっ♪」

「いきなり青姦はレベル高すぎじゃね?」

「ちっがーう! そっちの授業じゃなくって、ゲコトカゲの解体!」

「ああ、なるほど」

「オイラはこの妖異に慣れてないんで助かるっす」

「まっかせてー」

 

 クニオが腰のナイフを抜く。

 どうやらそれは近接攻撃用というよりは獲物を解体して持ち帰るために携帯しているらしく、見事な手並みでゲッコーの頸動脈と足首の動脈を切り、死体を片手で持ち上げて血抜きが始まった。

 

「グロイなあ……」

「これが生きるって事っすよ」

「ホントなら内臓をすべて抜いてそのまま持ち帰るのがいいんだけど、こういうパーティーで動いてる場合は、高値が付くもも肉とお腹まわりの肉だけ切り取って肉屋さんに持ち込むの」

「はいっ」

「ももはこうして、股間と膝下を切り落としただけでOK。んでお腹の脂身の多い肉は、こんな感じで切り分ける」

 

 見た目は美少女の男の娘が笑顔でナイフを振るって、巨大なカエルかトカゲにしか見えないクリーチャーを解体してゆく。

 もちろんゲームとは違うので粘ついた血が水溜りのようになっているし、朝の陽の光をテラテラと照り返す内臓は嫌な臭いまで放っている。

 

 とても直視できたもんじゃない。

 

「それじゃ残りの2匹は3人でやってみて。ナイフはこれ使っていいから」

「ありがとうございます」

「今日の買い物は3人分のウェストポーチにナイフ、あとヤマトにホルスターと、ノゾとミライにはハンティングライフルとサブマシンガンを肩にかける負い紐も。くーちゃん、他に必要な山師の装備ってあるか?」

「まず水筒でしょ。あとは着替えと手拭いと、医薬品とそれを入れるポーチも欲しいねえ」

「手作業で解体だから、手も袖口も血だらけんなってるもんなあ。ほれ、水と手拭き用の『布巾』だ。ゲッコーの肉は、この『ボストンヒューグル』に包んでからリュックに入れるといい。なんなら、俺の電脳少年に入れるか?」

「苦労しながらする解体も、それを街のお肉屋さんに持ち込むのも山師には必要な経験だから。そこまではしないであげて」

「了解だ」

 

 そこまで考えてやるとは、いい教師じゃないか。

 もしかしたらクニオは、そういう事に向いているのかもしれない。

 

 解体を終えて、まずは食堂の偵察に向かう。

 俺にクニオが続く隊形で、タイチ達は駐車場でとりあえず待機だ。

 

「マーカーはねえが。……やっぱいた。フェラル・グール、屍鬼が見えてるだけで3」

「あいあい。くーちゃんは左ね」

「りょーかい」

 

 なら俺は右を撃ち倒して、残る中央は早い者勝ちという事だろう。

 

 小声で3カウント。

 0と呟くように言った俺の声に、2つの銃声が重なる。

 

「あっちゃー。やっぱ威力が違うねえ」

 

 右のフェラル・グールを倒した俺が真ん中まで始末するのと、クニオが左を倒し終えたのはほぼ同時。

 

「電脳少年持ちにゃPerkってのがあるからな」

「やっぱアキラっちの技能は戦闘系?」

 

 こちらの日本じゃPerkを『技能』と呼ぶのか。

 

「まあな。キッチンの安全を確認するから、俺が合図したら4人を呼んでまずはホールを漁らせてくれ」

「おっけー。塩の小ビン1つでも梁山泊に持ち込めば、それだけでなかなかの稼ぎになるしね。ラッキーラッキー」

「キッチンにゃ密封された醤油なんかもあるさ」

 

 かなり広いキッチンを覗き込む。

 そこの床に寝転がる、調理師の服にコック帽までかぶったフェラル・グールを撃ち倒し、入り口でこちらを見ているクニオに頷きを見せた。

 するとヤマトを先頭に4人が入ってきて、クニオの説明で物資の回収が始まる。

 

「くーちゃんさん、凄いです。塩がこんなにっ!」

「うんうん。残さず回収しちゃえ。んでこういう戦前の遺跡なんだけど、お宝が眠っているからこそ危険だってのは理解してるよね?」

「はい。ぼく達だけじゃ絶対に踏み込みません」

「今の一連の戦闘、ヤマトっちならどう指揮する?」

 

 こんな時も授業を忘れないか。

 

 いい教師が2人もいるのなら、俺はその護衛に徹しよう。

 よく嫁さん連中にも言われるのだが、俺は人に説明をするという行為が酷く苦手だ。こんな時は出しゃばらない方がいい。

 

「……ミライのハンティングライフルで、ゲコトカゲを狙撃。走って反撃に来た3匹を3人並んで迎撃。無事に倒したら、内臓だけを抜いた獲物を1匹ずつ背負って浜松の街にUターン、ですね。でも、それでここまでに使った弾薬代が出るんでしょうか?」

「もちろん。弾を補充して、梁山泊の2等室を取ってゴハンとお酒を注文してもおつりが来るよ。お肉はごちそうだから」

 

 ヤマトがいい笑顔で頷く。

 

「ヤマト、テーブル席の回収終了」

「塩の小ビンが12もあったよ。これをゲコトカゲにたっぷりと振りかけて焼いたら、どんな味がするんだろ。ううっ、考えただけでヨダレ出そう……」

「やったね。くーちゃんさん、次はどうすれば」

「アキラっち?」

「おう。ホールが終わったんなら、キッチンとレジを漁らせてやってくれ。リュックに入り切らねえ分は俺の電脳少年で預かって、あとで山分けだ」

 

 3人のリュックが限界までふくらむほどキッチンの物資を回収し、そこからは俺が本当に必要な物だけをピップボーイに入れて回った。

 

 まだ浜松の街を出て1時間も経っていない。

 それなのにリュックいっぱいの物資を手に入れたのだから、もしかするといったん浜松の街へ戻って、売却を済ませてから探索を再開するのだろうか。

 

「タイチっち。ここの駐車場でいいかにゃ?」

「そうっすね」

「はいなー」

「どういう事だよ、くーちゃん?」

「リュックはパンパン。でも今すぐ浜松の街に戻ったってスワコさんの店は開いてないし、梁山泊のカウンターにいるはずのマスターは2階の自室でおねんね中。だから最低でもスワコさんの店が開く9時までは、ゲコトカゲなり屍鬼なりを狩りながらヤマトっち達の戦闘訓練になるの」

「なるほどねえ」

「アキラ、最初だけでも釣り役を頼んでいいっすか?」

「任せろ」

 

 タイチとくーちゃんは3人を連れて、まず駐車場の車の残骸を見て回った。

 この残骸はまだ爆発していないから危険だ、こっちは爆発した後だからボンネットがなくなってる、だからあっちが爆発してもこの残骸より離れてれば安全、なんて声が聞こえる。

 

「それじゃリュックをここに置いて、迎撃準備っす」

「タイチ先生。駐車場の入り口に陣取るのは、やっぱり撤退を考えての事ですか?」

「そうっす。だから最低1人は背後、六間通りの向こうの路地や民家の玄関から屍鬼が飛び出してこないかも警戒するんすよ」

「わかりました」

「んじゃ俺は次の道路を渡った先にある戦前の大学から、フェラルかゲッコーをカイティングすればいいんだな?」

「お願いするっす」

「よろしくー、アキラっち」

 

 


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