Fallout:SAR   作:ふくふくろう

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運び屋のチート

 

 

 

 あははじゃねえ。

 それに、なにバカな事を。

 

 ここはフォールアウトのゲームの中じゃなく、現実世界。

 ファストトラベルが使用不可能なんてのは、小舟の里に泊まった翌日に確認済みだ。

 

「ホントだって。それに、今のあたしのピップボーイの地図はたぶんアキラのとは違うから」

「そういや、ミサキの地図はマトモに見てなかったな」

「でしょ。ほら、これ見て。前はなかったけど今はアキラと、あたし達お嫁さん達の居場所まで表示されちゃうんだから。それに自分が行ったところだけじゃなく、アキラが歩いた場所まで地図に表示されてるし」

「はぁ?」

 

 ミサキのピップボーイを覗き込む。

 

 するとそこには、たしかに俺の名前とミサキの名前が表示されている2つの人型マークがあった。

 それにそのマークがある四角い枠の上には、『スワコの店』とまで表示されている。

 

 俺のピップボーイでも地図を開いて確認してみるが、もちろんこちらにはそんなマークどころか、スワコの店という文字もない。

 

「ね、凄いでしょ?」

「どうなってんだこりゃ……」

「カナタさんが言うには、アキラのピップボーイになんでも入っちゃうみたいに、あたしのはこんなのが見れるんじゃないかって」

「……俺のチートがピップボーイの容量無限、ミサキはSTR値無視の怪力だと思ってたんだが。それだけじゃなかったって事かよ」

「たぶんね。だからアキラがもし使えたらメチャクチャ便利なのにって言ってた、ファストトラベル? それもあたしなら使えたりしてって話しててさ。だったらいいなーって、アキラのマークが向かってるらしいスワコさんの店をクリックしてファストトラベルって文字をクリックしたら、ホントにできちゃったの。あはは」

 

 笑い事じゃねえだろと言いたいが、それじゃただの八つ当たりだろう。

 スワコさんが灰皿を出してくれたので、まずは落ち着こうとタバコを咥えて火を点ける。

 

 しかし、こんな事があっていいのか。

 

 いろいろな意味で予想外、そしてなにより予定が狂った。

 

「くーちゃん。ヤマト、ノゾ、ミライ」

 

 4人の返事を聞きながらタバコを揉み消す。

 そして、深々と頭を下げた。

 

「ええっ!?」

「ちょっとちょっとアキラっち。いきなり何してんのさ?」

「すまん。ほんっとーにすまん。思いっきし巻き込んだ。いつか話して誘うつもりだったが、タイチも言ったように、まさかこんなに早く、こんな形で打ち明ける事になるとはな。そして、スワコさんもすんませんでした」

「まあ、この4人ならいいと思うよ。だろう、タイチ?」

「そうっすねえ。だいぶ早まったっすけど、逆にこれでよかったんじゃないっすか」

「そう言ってもらえっと気が楽になる。んじゃタイチは、くーちゃん達に俺達の事を話しててくれるか?」

「いいっすよ。アキラはピップボーイの確認っすよね」

「ああ。少しでも早く検証と確認をしねえと。それにいきなりミサキが消えたんじゃ、向こうも心配してるだろうしな」

「そうっすよねえ……」

 

 まずはミサキのピップボーイの時計を確認。

 

「ミサキ、ファストトラベルを選択したのは何時かわかるか?」

「ハッキリは覚えてないけど、15分くらい前だと思う。そこからスワコさんに自己紹介してザッとだけど事情を説明したら、アキラ達が到着したの」

「ファストトラベルを選択して到着するまで、1時間とかかかってねえんだな?」

「うん。それは間違いないよ。リビングのソファーで瞬きしたら、目の前の景色が変わってスワコさんにショットガンを突きつけられてたって感じ」

 

 ノータイムで到着するファストトラベル……

 

 そんなの、チートを超えた反則技じゃないか。

 なんて羨ましい。

 

「ソファーには座ってたんだな?」

「うん」

「でもソファーごとこっちには来なかった」

「うん」

「リビングにいたのはカナタだけか?」

「ううん。みんなも、泊まりに来てたミキとカヨもいたよ」

「となると、こうか……」

 

 ミサキの手を握る。

 

「ちょ、なにしてんのっ!? みなさんいるんだけどっ!」

「アホか。そういうんじゃねえよ。いいからピップボーイの地図をスクロールしてメガトン基地を出せ」

「あ、そゆ事か」

 

 じゃなかったら、なんだと思ったんだ?

 

 そう耳元で囁きながら白くてすべすべしたふとももでも弄ってやりたいが、そんなのは後だ。

 まずは確認。

 それから自宅のリビングで心配しているはずの女達に生存報告をしないと。

 

「うっわ。ホントに小舟の里だけじゃなく、『メガトン基地』だの『アキラ達の自宅』だのあるな。どっちも俺のピップボーイだとロケーション扱いじゃねえのに」

「それだけじゃなく、拡大するとセイの作業場とかアキラの寝室ってのもあるよっ」

「なら寝室にファストトラベルだ。現在時刻は、……9時11分だな」

「もう押していいの?」

「ああ。やってくれ」

「はーい」

 

 景色が、視界のすべてが歪む。

 それと同時に高層ビルのエレベーターで感じるような気色悪さに包まれると、俺はミサキと手を繋いだ状態で見慣れた部屋の真ん中に立っていた。

 

 3つのダブルベッドをセイちゃんが溶接してくっつけた、特大のベッド。

 『アブラクシオクリーナー業務用』で磨き上げた戦前のバスタブ、そこに水を注ぐ形で据え付けられたウォーターポンプ。

 ゲームで見慣れた型の大きな冷蔵庫に、酒とグラスを飾るように並べた木製の棚。

 生地のほつれすらない、戦前の上等なソファー。

 

「マジでメガトン基地の自宅だ。んで時刻は、……9時11分。マジかよ」

「笑っちゃうよねえ。まずリビング?」

「ああ。心配かけてごめんなさいって謝って、それから説明をしとけ」

「はーい」

 

 俺はリビングではなく、壁際のテーブル席へ。

 そこの小さなテーブルには、俺達と特殊部隊と、ミキとウルフギャングとジンさんも持っている小型無線機への送信機が置いてある。

 

 まずはそのスイッチをオンにして、レシーバーを持ち上げた。

 

「朝っぱらからすんません。ジンさん、少し時間をいただきたいんですが」

 

 ほっ? なんでアキラがおるんじゃ?

 

「それを説明したくて。ウルフギャングはまだ寝てるだろうから、とりあえずジンさんだけでも俺達の自宅に来ていただけたらと」

 

 了解じゃ。どうせまたデタラメな事をやらかしたんじゃろ。

 

 ……あー。こちらウルフギャング。気になるから急いで身支度をして、そっちへ向かう。

 

「起こしちまったか。悪いなあ。じゃあ待ってるよ」

 

 送信機を切ってリビングに下りる。

 

「お、来た来た。怪我もしてないようでなによりだな」

「アキラ、おかえりっ!」

「ただいま、セイちゃん。みんなも元気そうで安心した。説明は、ミサキ?」

「カナタさんが予想を話してて、だいたいその通りだったからバッチリ終わってるよー」

「さすがだねえ。うちの軍師殿は」

「うふふ。それで、あっちはどうするの?」

「もういっちょ検証がてら、すぐに戻って説明かな。カナタも来てくれるか?」

「そうね。ならジンさんとウルフギャングさんには、セイちゃんが説明してあげて」

「カヨちゃんは少し待っててくれな。あっち次第じゃあるが、すぐにタイチも連れて来れると思う」

「そんな。お気遣いなく」

 

 いいからと返して、カナタと手を繋ぐ。

 そうするとすぐにカナタはミサキの手を握ったので、俺の試したい事なんてお見通しのようだ。

 

「アキラくん、スティムパックのショートカットは?」

「もちろんしてあるさ。片腕だけ持ってかれるような事にはならんと思うけどな」

「だといいわね」

「こえーって。ミサキ、もっかいスワコさんの店にファストトラベルだ」

「なんかすっごい怖い事言ってるけど、いいの?」

「ああ。これを試さなきゃ始まらねえからな。やってくれ」

「わ、わかった」

 

 また視界が歪む。

 そしてあの、嫌な浮遊感。

 

「あらあら。ホントにできちゃったわねえ」

「気持ち悪さが難点だがな。ま、さすが運び屋のチートって事か。ったく、どうせならもっと前に気づけっての」

「なによ、その言い方ー」

「うふふ。でもおそらく、ミサキの地図にアキラくんの居場所なんかが表示されるようになったのは2人が肌を重ねたからよ? それをこうまで遅らせたのは、他でもないアキラくんでしょ」

「……みんなは食堂にいる。こっちだ」

 

 俺達が立っているのは、レジカウンターと階段の中間。

 カナタの手を放し、その木製の階段を上がって長い廊下を歩き、ノックしてから食堂のドアを押す。

 

「戻ったぞ」

「おかえりーって、そっちの美人さんもアキラっちのお嫁さん?」

「ええ。カナタっていうのよ。アキラくんの第四夫人で、そこの筋肉オバサンの妹。そして、かわいいかわいいコウメの叔母ね。みなさん、これからよろしく」

 

 そのかわいい姪っ子がキョトンとしているのは、カナタとは初対面だからなのだろうか。

 まあそんなのはいいと空いている椅子に座り、冷えた缶コーヒーとミルクティーを出してゆく。

 

「ほれ、タイチ。全員に回してやってくれ」

「隠す必要がなくなった瞬間にこれっすか。まったく」

 

 ミルクティーを飲んだコウメちゃんが美味いと味王様のように叫んだり、訝し気にミルクティーを舐めたヤマト達がスワコさんにその値段を聞いて噎せたりする声を聞きながら、タイチがどこまで話したのかを訊ねてみる。

 

 信じたかどうかはわからないっすけど、一応はすべて話したっすよ。

 

 そんな答えに満足して、テーブルに着く全員の顔を見回した。

 

 どうせならノゾとミライに小舟の里を見せてやりたいが、住み込みの従業員がいるらしいのでスワコさんとコウメちゃんを連れて行くのはムリか。

 

「留守番ならボクがするわよ、アキラくん」

「……また人の思考を読みやがって。助かるが、いいのかよ?」

「ええ。筋肉オバサン、まず慈善事業の作業場でボクを女の子達に紹介してくれない? それから店番をしておくから」

「誰がオバサンだい。まあ、小舟の里に興味はあるから助かるがね」

「でしょ。だからほら、早く」

「はいはい。もう嫁いだってのに、小っちゃい頃からのマイペースは直っちゃいないんだねえ」

 

 カナタとスワコさんが立ち上がって食堂を出てゆく。

 

 それから全員を、いい機会だから小舟の里の見学に行こうぜと誘った。

 

「まずはオイラが全員を風呂屋に連れて行くのがいいっすね」

「おお。そりゃいいな。着替えと一緒に金を渡しとくから、よろしく頼む」

「今日の山師仕事も4時間ちょっとで終わりになるっすねえ」

「こんな状況だからなあ」

「ねえ、タイチっち。お風呂ってもしかして、水じゃなくってお湯で体を洗えるの?」

「そうっすよ」

「やあった。戦前のマンガ見て、ずうっと憧れてたんだよねぇ♪」

「風呂でさっぱりしたらノゾは小舟の里の商店を、ミライはメシ屋だの飲み屋を、んでヤマトはメガトン基地を見物すればいい。スワコさんが戻って来たら、順番にうちの運び屋サマが運んでくれるからな」

 

 


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