「およ?挑戦者かな?」
煙を気にする事なく、乱入者に話しかけるμ。
ベタな展開を悔いていた乱入者も、平然と『そうよ』と答える。
「お相手、お願いできるかしら?第五席さん」
乱入者は挑戦を宣言する。そして小声で、当人が喋っていない事を呟く。
それをμは聞き逃さなかった。
「うん!もちろん!言って無いはずなんだけど……よくわかったね」
μもマイクが音を拾わないよう、注意しつつ返す。μの質問に乱入者は、微笑みで返事を返した。
「……あなた、名前は何て言うのかな?」
「そうね。『S』と名乗っておくわ。こんな場でフルネームなんて、恥ずかしいもの」
「そっかぁ……うん」
そう言ってμは、それ以上深くは聞こうとはしない。かわりに司会をしていた召喚獣に、観客には気づかれないよう視線を送った。
μからの視線を受け取ったルーネは、軽く頷き曲を止める。
「それじゃあ、ダンス?歌?それとも両方?」
「
「OK!ダンスだね♪曲は何でも良いかな?」
「えぇ、お任せするわ」
そこまで聞き終えるとμは、もう一度ルーネへと視線を送る。
程なくしてルーネのアナウンスが、会場に流れた。
「お待たせ致しました。両者の取り決めが終わりましたので、これよりμと挑戦者Sの、ダンスバトル開始します。アピール終了後みなさまには、良かったと思う方へ投票をお願いします!」
言い終えると、明るくテンポの良い曲が流れ始める。
「♪~~~」
μは曲に合わせて、歌いながら踊り始めた。その歌声は観客を魅了し、そのダンスは観客の視線をくぎ付けにする。
一方Sは両手にナイフを持ち、曲に合わせて舞うように踊り始める。その足取りは軽やかでいて、手にしたナイフは怪しく揺らめいていた。
ほとんどの観客はSではなく、μのパフォーマンスに注目している。曲が間奏に入り、μが歌うのをやめたところでSは呟く。
「やっぱり、普通に挑んでも勝てそうにないわね」
「?」
μはSの言動に疑問を感じたが、パフォーマンスを優先する。
「♪~~~」
間奏があけ再びμが歌い踊り出す。
(だから、私のやり方で勝たせてもらうわ!)
Sは、左手に持っていたナイフをμの喉に向けて投げ放つ。投げられたナイフは、一直線にμに向かって行く。が、μの喉にあたる寸前、ナイフが消える。
(おかしいわね……確かに彼女の死を捉えていたはず………)
内心驚きつつも、Sは冷静にプランを移す。
(投げがダメなら、直接やるまでね)
瞬時に踊っているμの背後につき、ナイフで喉を切り裂きにかかる。がまたしても、失敗。しかし今度は、原因を捉える。
(空間魔法か結界……とにかく、この子の周りの空間は歪んでいて、不可視の壁が出来上がっているって事ね)
そこまでSが考えると、不意にμと目が合う。μはSに対して余裕の笑みを向けていた。
(くっ…ちょっとムカつくわね)
曲が終わるまであと数十秒ほど。
(それなら……)
「曲の終わりが、あなたの死よ!」
Sは神の目の力を引き出す。μを蔽っている不可視の壁の切れ目。そしてμを一撃で、仕留めるための線を見極める。
(もらったわ‼)
寸分違うことなく不可視の壁を潜り抜け、Sはμの死線を斬り付ける。
それと同時に曲が終了し、μがその場に倒れ込む。
手応えはあった。間違いなくμを仕留めた。Sはそう感じていたのだが、ふと違和感を覚える。
「そう言えば」「『μを殺したのに、騒ぎにならなかかったわね?』かな?セリアさん?」
殺したはずのμがいつの間にか立ち上がっており、何事も無かったかのように喋っている。