ブランクワールド・オンライン   作:東條九音

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遺跡攻略《神の左腕》

金髪緑眼の眼鏡をかけた美青年風のエルフ・エリックと、緑髪に緑眼の胸が大きいシルフ・シルフィアの少女の二人組が遺跡『神の左腕』の攻略へ挑んでいた。

 

「遺跡って聞いていたのだけど……これは」

 

「遺跡って言うより~、樹海?って感じですねぇ」

 

と言うより、何事も無く攻略を済ませてしまっていた。

 

この二人、ごく最近初心者の肩書が外れる実力を付けたばかりなのだが、中堅層に入って早々に最前線へとやって来ていたのだ。どちらも攻略情報のサイトなどには頼らず、自由気ままにプレーをしている。故に最前線の事情はよく知らずにいた。

 

そんな二人がなぜ最新エリアの遺跡を攻略できたのか、それは二つの『幸運』によるものと言える。

 

まず一つ目。二人の相性が良かった。エリックは精人種『エルフ』であり職業『精霊魔法師』、適性のあった属性は風。シルフィアは精霊種『シルフ』であり職業『精霊魔法師』、もちろん適正属性は風。

 

ここで重要になって来るのは、三点。まずエリックが精霊と相性の良いエルフであったこと。次にお互い精霊魔導師であること。ただし性能には差がある。エリックのは『精霊へ呼び掛け、応じた精霊の力を借りることが出来る。その際その精霊の力を引き上げる』、シルフィアのは『自身より低位の精霊の力を利用できる』と言ったもの。最後に二人とも適正属性は『風』。

 

つまりエリックは精霊(NPC)を使役する事で力を発揮するタイプで、シルフィアは自身より低位であれば制限なく力を発揮できるタイプ。エリックは精霊(NPC)を使役するところを、シルフィア(精霊種)のプレイヤーを利用する事で力を引き上げる裏技を発見したのだ。ただしこれにはお互いの同意が大前提、適正属性の一致に、そのたびに呼び掛けが必要であるため、効率は良くない。普通はNPCを使役する方が効率が良い。だがエリックとシルフィアは、奇跡的に全てを満たしそれをやってのける力があった。これにより二人は初心者を突破し、中堅へ仲間入りを果たした。

 

二つ目は、『神の左腕』の遺跡は他の遺跡と違い、樹海であったという事。

 

エルフは森の民、樹海ではステータスが上がる。シルフは風の精霊、自然の中であれば精霊の力を利用するのは容易い。そう、たまたま選んだこの遺跡は二人にとって相性がとてもよかったのだ。

 

以上の要因が重なり、難なく攻略する事が出来たのであった。

 

「それにしても、ボクたちのコンビは最強ですね!エリックさんと組めて、ボク的にはいい感じです」

 

「ボクも同感だ。こんな裏技があったなんてね。ただ難点があるとすれば、そのたびに呼び掛けが必要な所だね。普通ならそのまま使役できるけど」

 

2人は始まりの町で出会い、お互い初心者同士と言うこともあって、意気投合しその流れでコンビを組む。

 

2人でコツコツと頑張りレベルを上げていたのだが、その最中に疑似的精霊使役の裏技を発見したのだ。

 

「プレーヤー相手ですからね。もし出来ちゃったらなんか奴隷みたいで、イヤですよね~」

 

「そうだね。リアルで知り合いなら同意の上あり、かも知れないけれど、そうじゃ無いなら遺恨を残す」

 

「え~、僕はナシですねぇ。イタズラは良いですけど、完全な束縛はちょっと……」

 

「ま、いくら試してもできなかったから、システム的に不可能……ん?」

 

「どうかしました?」

 

話しながらステータスの確認をしていたエリックが疑問を浮かべた。それに気づいたシルフィアはエリックにどうしたのかを訊ねる。

 

「いや、いつの間にか『神の左腕』っていうアビリティが、増えてる」

 

「おー、もしかして遺跡攻略の特典ですかね?いいな~、ボクには特に何もありませんよ。それで、どんな能力なんですか?」

 

「えーと、『条件を満たせば、どんな種族であっても使役可能。その者の力を100%引き出す』」

 

「何か、抽象的ですね~。条件って何でしょう?もしかしてキスとか?」

 

「……試しに使ってみていいかい?」

 

「ボクにですか?それってもしかして、可愛いボクを奴隷にしたい?とか」

 

「何を言ってるんだ。そう言うことじゃなくて、もしこれが本当ならボクたちの必勝法は、確実なものとなる」

 

「確かに確かに。でも、どうやって契約するんでしょうね~」

 

「そう言えばその辺の説明も……っ」

 

「ひゃ!」

 

アビリティの使用法を二人は考えていたが、突然背後から悪寒を感じ振り向く。

 

するとそこには、白髪に鋭い赤目、黒いスーツに赤いネクタイに黒い帽子をかぶった男が立っていた。

 

「いつの間に」

 

「っていうか、不気味すぎますよ。ここ一本道ですよ。すれ違ったのに気付かないって」

 

「だな…やらなきゃやられそうな雰囲気?」

 

「ですね……アビリティは後回しで、仕掛けましょう!」

 

そう決めると二人は即座に詠唱し、呼び掛けた。

 

「風の精霊使いたるエリックが、風の精霊シルフィアへ命ずる!我らの障害を切り刻め!!」

 

「風の精霊シルフィアは、確かに聞き届けたよ!さぁボクの同胞たち、力を貸してね!精霊の裁断()《スピリット・カッター《ウィンド》》!」

 

精霊を扱うものにしか見えない斬撃が、正体不明の敵を切り裂く。相手はされるがまま、ダメージを受け続ける。が、ダメージを与えている筈なのに一切手応えを二人は感じなかった。むしろ……

 

「エリックさぁん~。何かヤバみ、増してません?」

 

「ボクもそうも思うよ……」

 

「まずったなぁ~コレ、相手は完全にカウンタータイプじゃないですか」「「うん逃げよう!」」

 

するや否や直ぐに、二人は次の詠唱を始める。

 

「風の精霊使い」

 

「影潜」

 

一方男は一言呟き、地面へと沈んでいく。

 

「たるって……沈んだ!?」

 

「ちょっと詠唱を止めないで下さいよ~」

 

「マズ、くっ」

 

エリックは再度詠唱を始めようとするが、腹部へ衝撃を受け背後の木へ吹き飛ばされる。

 

「何で、どうやって、そこに……」

 

エリックがいた場所に先程の男が立っていた。

 

そして男はシルフィアの首を掴み掲げあげる。

 

「お前は……違うな。じゃあお前か?」

 

男はシルフィア見て違うと言った。そして木に手を付きながら立ち上がった、エリックの方をみて言った。

 

「お前が『神の左腕』を…………製作者か?」

 

男が何を言っているのか理解出来ないエリックであったが、2つだけ分かっていることがあった。

 

1つ、あの男は『神の左腕』について、何か知っていること。そしてもう1つは、このままだとシルフィアが殺されてしまうこと。

 

本来なら、自分だけ逃げてしまうのが正解かもしれない。けれどその選択はなかった。シルフィアの秘密を知ってしまったからには、離れると言う選択はなかった。むしろシルフィア()を使役して、自分だけのものにしたかった。

 

そう思った瞬間、エリックはあることを考え付く。そして直ぐ様実行に移す。

 

「神の左腕の名において命ずる!風の精霊シルフィアよ!ボクの使い魔となり、真の力を見せよ!不可視の空気(インヴィジブル・エアー)

 

エリックが叫んだ瞬間、シルフィアの首にどこからともなく首輪が取り付く。そして徐々にシルフィアとエリックの姿は、影も残さず消えてしまった。

 

「……完全に気配がないか。逃げられた、と言うことは違うか。ゲームマスターの話だと、言い当てられたら話を聞ける手筈になっているはず。他の神シリーズ所有者が、製作者……残るは6人」

 

そう呟いて男は遺跡を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回登場した《シルフィア》・《エリック》はルナリアさんから、《シュヴァルツェア・ケーニッヒ》は、駄ピン・レクイエムさんから提供して戴いたキャラになります。

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