「なあ、夜海。今日は何の日か知ってるか?」
ホームルーム前、先日発売されたばかりの新刊を読んでいると、輔がいつになく上機嫌に聞いてくる。
まだ、一日が始まったばかりだと言うのに、何でこいつはテンションが高いんだ……
「知らん、興味ない。今新刊読む方が大切だ」
「何だよ、ノリが悪いな」
そりゃ悪くもなる。
出たばかりの新刊を読むのを、邪魔されたんだから。
そもそも、今日が何の日だと言われても、思い当たるものは無い。
「まあ、そう言うだろうとは思っていたけど」
「分かってたなら、聞くな。で、何の日なわけ?」
仕方なく、読んでいた本にしおりを挟み、話を聞く体制を整える。
輔は待ってましたと、言わんばかりに語り始めた。
「今日は二月十四日、バレンタインデーだよ!」
「おー、過度な期待を抱く、亡者たちの災厄の日。兼、主夫輔の独壇場」
「お前の中のバレンタインのイメージって、そう言うのなのか……」
違ったっけ?
周りの男子たちから、狂気じみた気迫を感じたからてっきり、そう言う事かと。
それと主夫輔は間違って無いはず。
そう言う特別な事がある時、決まって(料理)教室を開いているし。
「それよりもだ、知ってるかよ」
「うん、もちろん知らない」
「芸能科の赤穂さん、本命渡すらしい」
「誰それ?ってか、何で知ってるの?」
「教えたってどうせ覚えないだろ?取り敢えず、美女だよ」
なんかむかつくな。まぁ、言う通り覚えないだろうけど。
「何で知って居るかと言われたら、昨日開いたチョコ作り教室で聞いたからだな」
「……俺が言うのもアレだが、守秘義務って無いの?」
「今回だけだよ。だって、あの芸能科の生徒が本命だぜ?探るっきゃないだろ?」
芸能科か……
確か、メディア関係や芸術関係の志望生徒の集まりだったな。
別に不思議はない気もするけどな~
まだ社会に出て活躍している訳じゃないだろうし、スキャンダルとは関係ないだろうし?
渡すぐらい自由じゃないか?
すると輔がチッチッと指を振りながら、考えを見透かしたように言う。
「お前の考えも間違っていない。けどな、重要なのは美女が誰にチョコを渡すかだ」
「ふ~ん、で?結局何を話したいわけ?」
俺からしたらどうでも良くて眠くなってきた。
「放課後渡しに行くらしいから、覗きに行かね?」
長い前置きだったな。
それならそう言えばいいのに。
それに、答えは決まっている。
「うん、行かねえ」
「よし、それじゃあ放課後、体育館裏に……って行かねえの⁉」
「あいにく、忙しい身でな。放課後は生徒会の仕事がある」
「あ~~。なら仕方ないか。一人で行って来るわ」
「ん、そうしとけ。……そう言えば、どれだけ貰ったん?」
残り数分でホームルームが始まるため、話を切り上げる。
がその時、ふと気になったので聞いてみた。
「義理が十個、施策の評価を含めると、四、五十はいってると思う」
「なるほど、本命はナシっと」
「うッ…、言うな…言わないで」
「ま、義理でも貰えるだけマシじゃん?……貰えない奴もいるし」
「……なんかゴメン」
本命ナシと言われた時、オーバーリアクションをしていた輔は、申し訳なさそうに俺に謝る。
けど、謝るなら他の人にしてほしい。
意味が少し違うかもしれないが、一応は毎年貰っているから。
「赤穂さん、話って何かな?」
「じ、実は更識君に、わ、渡したいものが…」
放課後、生徒会室に向かう途中の中庭で、チョコを渡す場面に出くわしてしまった。
渡しているのはどうやら、例の赤穂さんのようだ。
輔の話だと、体育館裏のはず。
これはあえて、輔にウソを教えたんだろうな。
邪魔されないようにするために。
そもそも何で俺が中庭に居たのかと言うと、生徒会室に行く前に散歩しようと思って、ここに来た。
しばらく中庭を歩き回って、そろそろ生徒会室に行こうと思った所で、現在の状況に陥った。
気配を殺して立ち去りたいところだが、場所が悪い。
二人の居る位置、それは生徒会室のある校舎側の扉付近にいる。
つまり、迂闊に動かない方が現状得策なのだ。
「渡す…もの?」
「え、えっと……そ、その」
そんなテンプレなやり取りは良いから、早く済ませて!
そんな思いが通じたのか、赤穂さんが行動を起こす。
「こ、これ‼う、受け取って‼」
「え、ちょ、赤穂さん⁉」
そう言って袋を更識に押し付け、走り去っていった赤穂さん。
「これって一体?あっ、ヤバ。部活遅れる!」
袋を押し付けられ、茫然としていた様だが、部活に遅れそうなことを思い出したらしい。
更識も急いでこの場を立ち去って行った。
「ふぅ、やっと動ける。それじゃあ俺も、生徒会室に行きますか」
「あ!遅かったね、ミー君」
「あぁ、ちょっと道に迷ってな」
生徒会室には俺と、引きこもりの赤城以外の役員は揃っていた。
「そうなの?まあいいや。それよりミー君、バレンタインデーだよ!」
「はい、はい。今年は何?」
席に着きつつ尋ねると、柑條は自信満々に言う。
「今年はミー君の他にもいたから、みんなで食べれるように、チョコレートケーキにしてみました!」
そう言って柑條は机にケーキを出す。
そう、一応貰っているとは柑條からだ。
毎年柑條がなにを思ってか、チョコを用意しているのだ。
「お上手ですね、会長」
「おいし、そう…」
「そうね、とてもおいしそう」
「柑ちゃん~、早く食べよ~」
「そんな事ないよ?だってチョコケーキは、初めて作ったからね」
そう言いつつ、ケーキを六等分して皆の前に置く。
その傍ら、雪姫さんがコーヒーを用意する。
「準備できたね?それじゃあ」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
~後日談~
夜海:「よう、輔。昨日はどうだった?」
輔:「おう。それがな、現れなかったんだよ」
夜海:(……だろうな。中庭に居たんだから……)
輔:「下校時間ギリギリまで粘ったんだけどな~」
夜海:「……ストーカー?」
輔:「違うわ!まぁけど、少しやり過ぎた感はあるな…」
夜海:「ま、真実は闇の中って事で」
輔:「そうだな~。本人たちのためにも、それがいいか」