私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

12 / 51
警戒心を強めるダンブルドアとスネイプ。それを嘲笑うかのように次々と犯行に及んでいく咲夜。なんというか、教師陣が不憫になってきます。
誤字脱字等ございましたらご報告して頂けると幸いです。


まね妖怪とか、ホッグズ・ヘッドとか、犬とか

 今日の午後は闇の魔術に対する防衛術の授業がある。

 今年新しくこの教科の担当になったルーピン先生は、一体どのような先生なのだろうか。

 コンパートメントで感じた印象は、眠れる獅子といったところだ。

 私が教室に入るとルーピン先生はまだ教室内には来ていなかった。

 生徒たちは適当に席につき、教科書と羽ペン、羊皮紙を取り出している。

 私もハリーたちの近くの席に腰かけた。

 しばらくすると相変わらずみすぼらしい服装のルーピン先生が教室内に入ってくる。

 コンパートメント内で見た時よりかは幾分と顔色は良くなっていた。

 

「やあ、みんな。教科書は鞄にしまってくれるかな? 今日はいきなりだが実習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

 その言葉を聞いて教科書や羊皮紙を広げていた生徒たちはそれらを鞄に戻し始める。

 そういえば、闇の魔術に対する防衛術では殆ど実習を受けたことがなかった。

 もっとも一度だけあったロックハート先生のピクシー妖精の実習は、私が全て片付けてしまったが。

 

「よし、それじゃ私についてきなさい」

 

 生徒たちは戸惑いながらも面白そうだといった表情でルーピン先生のあとに続いて教室を出ていく。

 途中でピーブズに遭遇してしまったが、ルーピン先生はそれを軽く対処した。

 その様子を見て生徒たちから感心の声が上がる。

 今回はまともな先生なのだろうといった安堵と期待に満ちた表情を浮かべている生徒が殆どだ。

 ルーピン先生は職員室の前で足を止める。

 そして扉を開け生徒を中に入れた。

 中には古い椅子が雑然と置いてあり、その1つにスネイプ先生が座っている。

 スネイプ先生はルーピン先生と一言二言言葉を交わすと、職員室を出ていく。

 

「さて」

 

 スネイプ先生がいなくなったところでルーピン先生が皆に呼び掛けた。

 先生はみんなに部屋の奥のほうへと来るよう合図を出す。

 そこには先生方が着替え用のローブを入れる古いタンスが置かれていた。

 先生がタンスの横に立つと途端にタンスがガタガタと揺れ始める。

 何人かが驚いたように飛びのいたが、ルーピン先生は落ち着いた声で言った。

 

「心配しなくていい。中にまね妖怪のボガートが入っているんだ」

 

 殆どの生徒がそれは心配すべきことじゃないのか? といった顔でタンスを見ている。

 

「ボガートは暗くて狭いところを好む。タンスやベッドの隙間、さらには食器棚とかだ。ここにいるのは昨日の昼過ぎに入り込んだやつで、実習に使いたかったからそのままにしておいて欲しいと校長先生にお願いしたんですよ」

 

 ルーピン先生は揺れるタンスに手をつき楽な体勢を取った。

 

「それでは、最初の問題ですが、ボガートとは何でしょう?」

 

 その言葉にハーマイオニーが電光石火の早業で手を挙げる。

 

「形態模写妖怪です。私たちが一番怖いと思うものに姿を変えることが出来ます」

 

「その通り。私でもそんなにうまくは説明できなかっただろう」

 

 ルーピン先生の言葉にハーマイオニーは少し恥ずかしそうに頬を染めた。

 

「だから暗闇の中にいるボガートはまだなんの姿にもなっていない。ボガートが独りぼっちの時にどんな姿をしているのか誰も知らないわけです。しかし、私が外に出してやると、たちまち目の前にいる人が一番怖いと思っているものに姿を変えるはずです」

 

 ルーピン先生は説明を続けていく。

 

「ボガートを退治するときは、誰かと一緒にいるのが一番だ。何に姿を変えればいいのか分からなくなるからね。私は一度ボガートが一度に2人の人間を驚かせようとしたのを見たことがある。それはとても滑稽な姿で、恐ろしいとは思えなかった」

 

 その様子を思い出したのか、ルーピン先生が少し笑う。

 

「ボガートを退散させる呪文は簡単だ。しかし、精神力が必要になってくる。こいつを本当に退治するのは笑いなんだ。君たちはボガートに君たちが滑稽だと思う姿をとらせる必要がある。私に続いて言ってみよう……リディクラス、ばかばかしい!」

 

 生徒たちはルーピン先生の言った呪文を繰り返す。

 笑いがボガートを退治するのだとしたら、ドラコとスリザリン生を連れてくるのが一番早いのではないだろうか。

 

「そう、とっても上手だ。ここまでは簡単なんだけどね。呪文だけでは十分じゃない。ネビル、ちょっとおいで」

 

 指名されたネビルはタンスと同じぐらいガタガタと震えていた。

 それでも何とかタンスの前までたどり着く。

 

「よーし、ネビル。君が一番怖いものはなんだい?」

 

 先生のその言葉にネビルはぼそぼそと何かを呟くが、とても小さな声なので聞こえない。

 

「ん? ごめんネビル。聞こえなかった。」

 

 ネビルは助けを求めるようにきょろきょろとあたりを見回していたが、やがて耳をそばだててやっと聞こえるほど小さな声で呟いた。

 

「スネイプ先生」

 

 その答えにクラスにいる全員が笑った。

 ネビル自身もみんなのその反応に申し訳なさそうにニヤっと微笑む。

 だがルーピン先生はいたって真面目な顔をしていた。

 

「スネイプ先生か……よし。ネビル、君はおばあさんと一緒に暮らしていたね」

 

「え、はい。でもおばあちゃんに変身されるのも嫌です」

 

「いやいや、そういう意味じゃないよ、ネビル」

 

 先生も今度は微笑んで言った。

 

「ネビル、おばあさんはいつも、どんな服を着ているか思い出せるかい?」

 

 ネビルはルーピン先生のその問いに、目を瞑って服装の特徴を挙げていった。

 

「たかくてハゲタカの剥製がついている帽子に緑色のドレス……時々狐の毛皮の襟巻してる」

 

「ハンドバッグは?」

 

「おっきな赤いやつ」

 

「よし、それじゃあその服装をはっきりと思い浮かべて。目を瞑ったら心の中にはっきり映し出されるように」

 

 ネビルはいつものおばあさんの恰好を思い出すようにブツブツと特徴を呟く。

 

「ネビル、ボガートが出てきたら君は杖を上げてこう叫ぶんだ。「リディクラス、ばかばかしい」。そして君のおばあさんの服装に精神を集中させる。全て上手く行けばボガート・スネイプ先生はハゲタカのついた帽子をかぶって緑色のドレスを着て、赤いハンドバッグを持った姿になるだろう」

 

 流石にみんな大爆笑だった。

 それが気に入らないのかタンスはいっそう激しく揺れる。

 

「ネビルが首尾よくやっつけたら、ボガートは君たちに向かってくるだろう。今のうちに考えておきなさい。自分が何が怖いのか。そしてどうやったらそれをおかしな姿に変えられるか……」

 

 怖いもの、難しい問いだ。

 私にとって怖いものとはなんだろうか。

 妹様の笑い声? いやそれは昔怖かったものだ。

 お嬢様の死? 殺しても死にそうにないお方だ。

 ヴォルデモート卿? それこそ論外だ。

 今現在リドルと友達なのだから。

 

「みんないいかい?」

 

 私はまだ考えがまとまっていないが、授業は先へと進んでいく。

 最悪対峙した時に時間を止め、ゆっくり考えればいいだろう。

 先生の指示でネビルが1人タンスの前に取り残される。

 ボガートをネビル1人に集中させるためだ。

 

「ネビル、3つ数えてからだ」

 

 ルーピン先生はタンスに向かって杖を構えた。

 

「いーち、にーの、さん、それ!」

 

 ルーピン先生の魔法でタンスの扉が勢いよく開く。

 中からはスネイプ先生が恐ろしげな表情を浮かべて出てきた。

 その様子にネビルは口をパクパクさせながら後ずさる。

 だが覚悟を決めたように杖をスネイプ先生に向けた。

 

「り、りり、リディクラス!」

 

 次の瞬間バチンという音が聞こえてスネイプ先生が躓いた。

 緑色のドレスにハゲタカのついた帽子、手には大きな赤いハンドバッグを持っている。

 どっと笑いが沸き起こった。

 その様子にボガート・スネイプ先生は途方にくれたように立ち止まる。

 

「パーバティ、前へ!」

 

 ルーピン先生の大声にパチルが引き締まった顔で前に出る。

 バチンという音がしてボガートが血まみれのミイラの姿に変わった。

 

「リディクラス!」

 

 パチルが魔法を掛けると包帯が1本ほどけ、ミイラはそれを踏みつけ転んでしまう。

 その後もルーピン先生が次々と生徒を指名し、ボガートに当たらせた。

 ボガートは次々と姿を変えるが、ことごとく間抜けな姿に変えられてしまう。

 

「咲夜、次だ!」

 

 私は一歩前に出てボガートと向き合った。

 大蜘蛛の形をしていたボガートはバチンという音と共に姿を変える。

 生徒の全員が私が怖がるものは何か興味津々といった顔でこちらを見ている。

 ボガートはぐねぐねと迷うように形を変え、そして1人の少女の姿になった。

 金色の髪に赤い瞳、枯れ枝のような羽には宝石のようなものが沢山ついている。

 それはいつも肖像画で見る妹様そのものだった。

 途端に職員室中にいつも妹様が出している狂気と同じような物が広がる。

 妹様の狂気とは、吸魂鬼の幸せを吸い取るような生易しいものではない。

 というか、普通の生徒が耐えれるものではないのだ。

 一瞬にして職員室が地獄へと変わった。

 

「きゃは、アハハハハハハハハハ!!」

 

 生徒の殆どがしゃがみ込み、自らを抱くように身を引き締め震え出す。

 ネビルなど完全に気絶していた。

 やはり今でも私の一番怖いものは妹様なのか。

 私の背中に冷や汗が流れる。

 小さい頃に経験した恐怖を思い出すかのように体が震え出す。

 ボガートの変身した妹様はまっすぐ手をこちらに向けた。

 

「リディクラス!」

 

 果たしてお嬢様のご姉妹である妹様にマヌケな恰好など取らせていいのだろうか。

 私はそう考えていたので、妹様自体を変えることにする。

 ボガートはバチンと音を立てると、妹様の服装をしたダンブルドア先生に姿を変えた。

 スカートの長さが足りず縦縞のトランクスがはみ出ている。

 私は息を漏らすように小さく笑ったが、クラスで笑う余裕を持っている生徒は1人もいなかった。

 ほぼ全員が立ち上がることすらままならずに床に転がっている。

 気絶している生徒も少なくないようだ。

 

「あー……、そうだね。ボガートには一旦タンスに戻ってもらうことにしよう」

 

 ルーピン先生が教室を見回してそう言う。

 そして杖を一振りすると、ボガートが押し込まれるようにタンスの中に入っていった。

 

「え? この惨状もしかして私のせいですか?」

 

「いや、咲夜はよくやった。ボガートの対処も完璧だったと私が保証するよ。ただ咲夜が怖いと思うものの刺激が少々強すぎたようだ」

 

 ルーピン先生が気絶している生徒に蘇生魔法を掛けながら私に言う。

 不可抗力ということだろうか。

 ルーピン先生は全員の意識が戻ったことを確認すると、コンパートメントで見た大きな板チョコを割り、生徒に配っていく。

 妹様の狂気にチョコが効果があるのかは分からなかったが、顔色が少し良くなる生徒が多かった。

 

「今日はここで終わりにしよう。みんなこの後はゆっくり休み、しっかりと夕食を取るように。気分が悪い生徒は医務室に行って安らぎの水薬を貰いなさい」

 

 ルーピン先生はちらりとこちらを見た。

 

「咲夜は少し話したいことがあるから残りなさい。大丈夫。時間はそう取らないよ」

 

 全員が死屍累々といった表情で職員室を出ていく。

 そして全員がいなくなると私はルーピン先生に続いて外に出た。

 招待された部屋はルーピン先生の私室のようだ。

 中は少し物が多いが、汚いというわけではない。

 置いてあるもののどれもこれもが年季の入ったものだった。

 

「紅茶はどうかな? 生憎ティーバッグしかないが……」

 

「いただきますわ」

 

 私はルーピン先生が紅茶を淹れている間、椅子に座って静かに待つ。

 ルーピン先生が淹れてくれた紅茶はティーバッグで淹れたものにしては美味しかった。

 

「すまないね。早速だが本題に入らせて貰うよ」

 

 ルーピン先生が紅茶の入ったマグカップを持ちながら言う。

 

「先ほどのは一体なんだい? 私は何度かボガートと対峙してきたが、ボガートがあそこまで影響力を持つのを見たのは初めてだ。もし仮にボガートが吸魂鬼に姿を変えたとしても、あそこまでの影響力は持てないだろう」

 

 やっぱりその話か。

 私は少し考える。

 果たして妹様のことは話してもいいのだろうか。

 私は少し考えたが、拙い気がするので適当な答えでお茶を濁すことにした。

 

「私が知っている中で一番恐ろしい吸血鬼です。知り合いからは破壊の象徴だと話を聞きました」

 

 私はそこで一度言葉を切る。

 

「色々と見てきましたが、私が生きてきた中で彼女がダントツで一番怖いと思いますわ」

 

「確か君は吸血鬼に仕えているんだったね。他の先生方から話を聞いたよ。彼女がそうなのかい?」

 

「いえ、私がお仕えしているお嬢様は占いの講演会が開けるほどには普通のお方です」

 

 私がそういうとルーピン先生は安堵するように胸を撫で下ろした。

 

「そうかい。いや付き合ってもらって悪かったね。君も疲れているだろう、談話室に戻りなさい」

 

「紅茶、美味しかったです」

 

 私がそういうとルーピン先生はいやいやと手を振った。

 

「本職には敵わないよ。今度は是非君の淹れた紅茶が飲みたいね」

 

 私は一礼するとルーピン先生の部屋を後にした。

 そしてその足でグリフィンドールの談話室に戻る。

 太った婦人の肖像画を抜け中に入るとフィネガンが私に詰め寄ってくる。

 いや、フィネガンだけではない。

 先ほどの授業でのダメージが少なかった生徒の多くが私に詰め寄ってきた。

 

「咲夜! あのおっそろしいのはなんだ!? 君の『一番怖い』はあんなに怖いのか!?」

 

「次ボガートと遭遇したらどうしよう! 絶対アレが出てくるよ……」

 

「私今日一人でトイレに行けないかも」

 

「う~、今だけは忘れ薬を飲みたい」

 

 他の生徒は生気を吸い取られたようにソファーの上でぐったりとしている。

 

「あれはボガートよ。私も直接はお会いしたことないけど、あんなものじゃないでしょうね」

 

 その言葉に大声で喋っていたグリフィンドール生の表情が固まった。

 ぐったりとしている生徒が唸る。

 妹様のお姿は多くのグリフィンドール生の『一番怖いモノ』を上書きしたようだった。

 

 

 

 

 1回目の授業は私のせいで少しこけたが、闇の魔術に対する防衛術はたちまち人気の授業の1つになった。

 ルーピン先生の教えることはとても分かりやすく、そして面白い。

 何より実習が多いのが人気の理由だろう。

 それに比べると魔法生物飼育学は初回と比べつまらない授業になってしまった。

 一番初めに怪我人を出してしまった為か、授業の殆どがレタス食い虫の世話を学ぶものになった。

 レタス食い虫の口の中にレタスを押し込んでいくのは少し面白いが、変化に欠ける。

 個人的には多少危なくてもいいので危険な魔法生物の世話をしたいと思った。

 そして、やはりといったところだが、ハーマイオニーと占い学の相性は悪いようだ。

 私はどちらかというと占い学は好きだ。

 理屈や理論では到底分からない世界の神秘を教えてくれそうな気がする。

 少しでもお嬢様に近づけるような気がするのだ。

 私の他にも占い学に嵌った生徒はいるようで、パチルやブラウンなんかは毎日のように昼食時、北塔のトレローニー先生の部屋に入り浸るようになり、みんなが知らないことを知っているといったような得意顔で帰ってくる。

 あの2人は占い学に嵌ったというよりかはトレローニー先生の予言に嵌ったといったほうがいいだろう。

 先生のファンのようなものだ。

 ハリーはその2人を少々疎ましく思っていたようだったが、10月に入るとクィディッチの練習でそれどころではなくなったようだ。

 今年こそ優勝! という大声がグリフィンドールのテーブルの何処かで上がるのを聞いたのを思い出す。

 そんなこんなで比較的平和に今年もハロウィーンを迎えた。

 

 

 

 

 ハロウィーンの朝、私は大広間でトーストにかじりついていた。

 みんな興奮したように何かを話している。

 どうやら今日のホグズミード村行きが楽しみで仕方がないようだ。

 私はつい昨日マクゴナガル先生に許可証を提出している。

 マクゴナガル先生は2人のサインが重なるように書き殴られた私の許可証を見て少々目を細めたが、許可を出してくれた。

 どうやら本当に保護者のサインなのか確認しづらかったらしい。

 私の横にはハリーが暗い顔をして座っている。

 その様子を見る限り、ホグズミード村に行く許可を得ることが出来なかったのだろう。

 ロンとハーマイオニーはそんなハリーを慰めるように声を掛けていた。

 

「ハニーデュークスからお菓子をたくさん持ってきてあげるわ」

 

 ハーマイオニーが気の毒そうに言った。

 

「うん、めちゃんこ沢山ね」

 

 それに続きロンも声を上げる。

 最近ロンとハーマイオニーはペットのことで喧嘩ばかりしていたが、流石に今日ばかりは休戦協定を結んだらしい。

 

「僕のことは気にしなくていい。パーティーで会おうよ」

 

 ハリーが出来るだけ元気を振り絞ったような顔でそう言った。

 私も流石に気の毒になってきたので声を掛ける。

 

「一緒に連れて行ってあげることは出来るわよ」

 

 その言葉にハリーが目を輝かせた。

 

「本当に!? マクゴナガル先生にバレないようにってこと?」

 

「ええ、私の鞄に入っていくという方法があるわ。多分吸魂鬼も教師陣も気が付かないと思う。まあ、あまりおすすめはしないけど」

 

 私がそういうと、ハリーが不思議そうな顔をした。

 

「私はいつも鞄の中に怪物的な怪物の本を仕舞っているんだけど、この様子なのよ」

 

 私が怪物的な怪物の本をテーブルの上に取り出す。

 本来何かで縛っていないと途端に暴れ出す凶暴な本が、まるで死んだかのように大人しく机の上で震えていた。

 

「最悪発狂するかもね」

 

「遠慮しとくよ」

 

 私の教科書の様子を見てハリーはこりゃ無理だと言わんばかりに首を振った。

 命を削ってまで行くところではないと判断したのだろう。

 私はトーストの最後のひとかけらを口の中に放り込むと、玄関ホールへと向かった。

 今日は1人でホグズミード村を探検することに決めている。

 ドラコやハーマイオニーたちと一緒に回ってもいいが、まだ先にも機会はあるだろう。

 私は他の生徒に交じってホグズミード村への道を歩いた。

 ホグズミード村は比較的小さな村だったが、ホグワーツが近い為か店は繁盛しているようだ。

 私はエントロピー増大の法則に従うように人の少ない方へと流されていく。

 そして一軒のパブへとたどり着いた。

 『ホッグズ・ヘッド』と看板が掛かっているそこは、他の店に比べると古臭く、なにより胡散臭い。

 窓は煤けており店の中に日の光が殆ど射し込んでいなかった。

 私はカウンターの方に近づき、椅子に座る。

 

「注文は?」

 

 バーテンダーらしき老人が不機嫌そうにそう聞いた。

 

「ブランデー、きっついやつ」

 

 私がそう注文するが、バーテンダーは難色を示した。

 

「学生がこんな時間から酒か?」

 

「あら、この店では客にお酒を出さないのかしら」

 

 それを聞くとバーテンダーはブランデーグラスと年代物のブランデーの瓶を取り出す。

 そしてそれを私の前にドカンと突き出した。

 自分で好きなだけついで飲めということだろう。

 私はラベルにXOと刻印してあるブランデーの瓶の栓を抜くとグラスに半分ぐらい注ぐ。

 そしてグラスを手で包み込むように持つと静かに揺らした。

 

「あら、古いだけかと思ったら結構上物じゃない」

 

 私はグラスに口をつけるとぽつりと呟いた。

 

「随分飲み慣れてるな」

 

「味を知らないものを人に出すわけにはいかないしね」

 

 私の口の中に芳醇な香りが広がる。

 なるほど、こうして酒が飲めるのであれば案外ホグズミード行きもありかもしれない。

 

「なにかこうチョコやドライフルーツみたいなものはないかしら。一応酒場でしょう?」

 

「一応は余計だ。普通に酒場だよ」

 

 バーテンダーの対応はつっけんどんだが、それでもおつまみは出てくる。

 私はひとしきりブランデーを楽しむと、口止め料含めブランデーの価格より少々大目にお金を払って店を出た。

 私は建物の陰に隠れると体内の時間を極限まで早くして一気に酔いを醒ます。

 数秒もするとアルコールは完全に抜け素面に戻っていた。

 

「さて、他の店も見て回りますか」

 

 そのまま村の中をゆっくりと歩いていく。

 しばらく歩くと人だかりが出来ている店を見つけたので覗き込んでみることにした。

 店には悪戯専門店「ゾンコ」と書かれている。

 いかにもロンの双子の兄たちが好みそうな店だ。

 少し中に入ってみたい気もしたが、余りの人の多さに少し戸惑ってしまう。

 私はまた今度の機会にしようと来た道を戻り始めた。

 今日は他にもやりたいことがあるのだ。

 私は城に戻る途中でキョロキョロと周囲を見回す。

 すると人の気配が全く無い場所に1人の吸魂鬼の姿を見つけた。

 私はそのまま吸魂鬼に歩み寄っていく。

 やはり肌寒さや変な感覚はしない。

 妹様の狂気に慣れているからと当初は予想を立てたが、それは違うようだ。

 もしそうなら少しは影響を受けるはずである。

 だが、その様子もない。

 

「はぁい、元気? では、なさそうね」

 

 私は吸魂鬼に話しかける。

 当たり前のことだが吸魂鬼からの返事はない。

 

「えっと、私の声は聞こえているのかしら」

 

 私がそう聞くと吸魂鬼がふわりと近づいてきた。

 ふわりふわりと次々に私の近くに吸魂鬼が近づいてくる。

 私は城の影にある石段に腰かけるとゆっくりと話しかけた。

 

「よくわからないんだけどね、貴方たちと一緒にいると少し落ち着くのよ。蝋燭の炎を見ていると落ち着くような感じなのかしら」

 

 既に10体以上の吸魂鬼が私の周りを取り囲むように飛んでいる。

 魔法省の仕事でホグワーツに来たということは意思の疎通は出来る筈なのだが。

 私は吸魂鬼の1人に触れる。

 マントはボロボロの布切れのようで、その下にある肌はガサガサしていた。

 確か人間が吸魂鬼に魂を吸い取られると廃人と化し時を経て吸魂鬼になるという話だったと思う。

 ということは元は人間なのだろうか。

 次の瞬間、どこからともなく現れた不死鳥の守護霊が私の周りにいる吸魂鬼を追い払った。

 私はゆっくりと守護霊が現れた方向を見る。

 そこにはダンブルドア校長先生が立っていた。

 

「大丈夫かね? 勝手に城を離れてはならんと言ったはずじゃ」

 

 ダンブルドア先生はゆっくりとこちらに近づいてくる。

 私は石段から立ち上がると先生と向かい合った。

 

「吸魂鬼とは意思の疎通が出来るんでしょうか。でも魔法省の仕事でここに来ているということは命令は聞くということですよね?」

 

 ダンブルドアと私の目が合う。

 私は咄嗟に視線をずらした。

 

「そうじゃな、じゃがそれは犬が飼い主の命令を聞いておるようなものじゃ。自由に会話が出来るわけではない。それよりもこれをお食べなさい」

 

 ダンブルドア先生がポケットからカエルチョコを取り出す。

 だが私はそれを丁重に断った。

 

「いえ、大丈夫です。私はどうも吸魂鬼の影響を受けないようなので」

 

「吸魂鬼の影響を受けないじゃと?」

 

 私の言葉に先生は驚いたように近づいてくる。

 私の顔色を確かめるように私の顔を覗き込んできたので私は目を瞑った。

 

「確かに影響を受けとらんようじゃ。やはり君の主人の影響かの」

 

 私は1歩離れてダンブルドア先生に言葉を返す。

 

「そうなのかもしれません。ルーピン先生から話は聞いていると思いますがボガートの件――」

 

「ああ、聞いておるとも。ルーピン先生もあそこまでの大惨事になるとは思っておらなんだようじゃ」

 

 私の言葉を遮るようにダンブルドア先生が続ける。

 

「君は生きている環境が特殊で、普通の子供とは全く違う経験を積んで生きてきたのじゃろう。だが、それでも13歳の少女じゃ。あまり危ないことに手を出すでないぞ」

 

 ダンブルドア先生は自分でカエルチョコの外装を破るとチョコを食べ始めた。

 私はふと思いついたことを先生に聞いてみる。

 

「先生、1つ知りたいことがあるのですが。不死鳥の騎士団について何か知りませんか?」

 

 ダンブルドア先生は不死鳥の騎士団という言葉を聞いて初めて私の前で隙を見せた。

 だがそれも一瞬のことで、すぐに表情を取り繕うと私に向かって言う。

 

「そうじゃな、わしから言えることは死喰い人に対抗すべく結成された組織ということぐらいじゃろうか」

 

「先生も団員なのですか?」

 

 先生は黙ってこっちを見る。

 私が何を考えているか探ろうとするような顔をしていた。

 次の瞬間、頭の中に何かが滑り込んでくるような感覚を受ける。

 私は何か拙いと思い一瞬で時間を止めた。

 時間の止まった世界で先生の後ろに回り込み考える。

 あれは開心術だろうか。

 まさか校長先生ともあろうお方が生徒に対し開心術を使ってくるとは思わなかった。

 それほど私は警戒されているのか、それともお嬢様のほうか。

 なんにしても何か手を出されたのは事実だ。

 セクハラオヤジは粛清せねばなるまい。

 私は先生の背中に杖を突き付けると時間停止を解除する。

 

「乙女の心を覗こうだなんて。ダンブルドア先生はとんだ変態さんですね」

 

「――ッ!?」

 

 ダンブルドア先生は突然目の前から消え、背後に現れた私に咄嗟に振り向こうとする。

 私は更に杖を強く突き付けた。

 

「君は……やはり……」

 

「勘違いしないでください。先に手を出したのは貴方です。ダンブルドア校長先生。私が人に言えない秘密を抱えているぐらいご存じでしょう?」

 

「ふむ、そうじゃな。君と君の主の紅い悪魔は大きな秘密を抱えておる。その能力もそうじゃ」

 

「その秘密を話すことができない事情ぐらい察して頂きたいものですわ」

 

「秘密にされると知りたくなるこちらの感情も察して欲しいのう」

 

 私は杖を突き付けるのをやめる。

 ダンブルドア先生はゆっくりとこちらに体を向けた。

 

「それは私も同じです。不死鳥の騎士団について先生はよくご存じのようですね」

 

「そうじゃな、良く知っておるとも。だが話してしまったら君をこちらの陣営に引き込まないといけなくなってしまうのでな。時が来て、君がこちら側につく気であるのなら、わしは君に全てを話そう」

 

「その日まで、お嬢様に失望されないようお気を付けを」

 

 私は時間を止めてダンブルドアの元から離れる。

 はっきりいって城に戻る気分ではなかったが、今からホグズミード村に戻っても仕方がないので城の方へと向かう。

 そして物陰に隠れると時間停止を解除した。

 

 

 

「十六夜咲夜。やはり君の能力は空間移動のようじゃな」

 

 取り残されたダンブルドアはぽつりと呟く。

 自身が大きな勘違いをしていることも知らずに。

 

 

 

 

 私は城に戻る途中に1匹の猫を見つけた。

 毛は赤みがかかったオレンジで、とても大柄だ。

 そして鼻が壁にぶつかったように潰れている。

 ハーマイオニーの猫だ。

 確か名をクルックシャンクスといったか。

 その猫は私のほうを振り向き「ニャーン」と一鳴きすると一直線に歩いていく。

 まるで私について来いとでも言っているかのようだった。

 私はクルックシャンクスのあとに続いて城の中を歩いていく。

 クルックシャンクスは非常に賢い猫で、時折私がついてきているかを確認するようにこちらを向く。

 ペットは飼い主に似るというが、どうやら本当らしい。

 クルックシャンクスはそのまま校庭に出ると、暴れ柳の方に向かって歩いていく。

 暴れ柳はその枝を震わせ近づいてくるクルックシャンクスを殴り飛ばそうとしたが、クルックシャンクスが木の節の1つに足を乗せると時間を止めたように大人しくなった。

 

「あら、暴れ柳の泣き所ってやつかしら。……少し違うわね」

 

 暴れ柳の根元には、人ひとりがやっと通れそうなほどの小さな穴が開いている。

 

「にゃーん」

 

 どうやら入れと言っているようだった。

 私はローブが汚れないように慎重に穴の中に入っていった。

 

「ルーモス」

 

 私は杖に明かりを灯す。

 暴れ柳の下は天井の低い横穴になっている。

 クルックシャンクスが私に続いて穴に飛び降りてきて、そのまま横穴を進みだした。

 

「結構遠いのね。一体どこに連れていかれるのかしら」

 

 これでついて行った先にネズミの死骸が1つあるだけだったらそれはそれで笑い話になる。

 横穴はどこまで続いているのか分からないほど長かった。

 方向的にはホグズミード村に向かっているのだろうか。

 やがて横穴は上り坂になり、最終的には埃っぽい部屋に出た。

 壁紙は剥がれ掛け、床は染みだらけだ。

 家具はあるにはあるが、とても使えるような状態ではない。

 窓は全て板が打ち付けてある。

 方向的にホッグズ・ヘッドだろうか。

 いや、歩いてきた距離を考えるとその更に奥、直接は見ていないがここは『叫びの屋敷』だろう。

 人の気配が全くないのに満月の夜に不気味な叫び声が聞こえてくるという心霊スポットだ。

 魔法界で心霊スポットというのもおかしな話ではあるが。

 クルックシャンクスは勝手知ったる様子でホールに出て階段を上っていく。

 私もその後に続き屋敷の中を進んでいった。

 クルックシャンクスはそのまま1つの部屋に入っていく。

 私もそれに続いて中に入ると、中には大きな黒い犬がいた。

 

「グリム……じゃないわね。普通の黒い犬かしら」

 

 私がその犬に近づくが、犬は逃げる様子もない。

 だがリラックスしているわけでもないようだった。

 警戒するように私の顔をじっと見つめ動かない。

 

「クルックシャンクスはこの犬を私に見せたかったということかしらね」

 

 犬は私に近づきクンクンと匂いを嗅ぐ。

 そして何故か私の手を見つめていた。

 どこか見覚えがあるかのように。

 

「君はあの時の……」

 

 次の瞬間犬がいきなり死人のような姿に変わった。

 いや、違う。

 死人のように見えるだけだ。

 汚れきった髪は肘まで垂れており、暗く窪んだ目をギラギラとさせている。

 犬はシリウス・ブラックに姿を変えたのだ。

 

「あ、あぁー……。え?」

 

 あまりのことに変な声が出てしまう。

 何故ブラックがここにいるかはこの際置いておこう。

 問題なのは、ブラックに素顔を見られたということと、ブラックが私の正体に気が付いたということだろう。

 

「はぁい、お元気?」

 

 私は苦し紛れにそう挨拶をする。

 

「君はあの時私を外に出してくれた者だな。ホグワーツの学生だったとは」

 

 やはり完全にバレている。

 私は自身が出せる最高速度で右手で杖を振り抜き左手で懐中時計を握りしめた。

 

「ハリーを狙っているという話は本当だったのかしら。こんなに近くに潜伏しているだなんて」

 

「待ってくれ。話を聞いてくれないか。君は何故あの時私を助けた? この際どうやってとは聞かないことにするよ」

 

 ブラックはベッドに腰かけながらそういった。

 

「その前にその髪と服と体臭をなんとかしたらどうなの? 酷い格好よ。顔も今にも餓死寸前って感じだし」

 

 私は鞄を取り出すとクッキーと紅茶を取り出す。

 そしてブラックにはパンと水を手渡した。

 

「スコージファイ、清めよ」

 

 私はブラックに魔法を掛ける。

 完全には綺麗にならないが、少し見てくれはよくなった。

 

「ありがとう。まったく君には感謝してもしきれないな」

 

 ブラックがパンをもしゃもしゃしながら私に礼を言う。

 私はクッキーをつまみつつリドルの日記帳を取り出した。

 

『お嬢様に緊急連絡。ブラックを発見したわ。どうすればいいかしら』

 

『ちょっと待ってね』

 

「何故助けた……ね。私はまずどうして貴方がここにいるかを聞きたいのだけど」

 

「裏切者を殺すためだ。ハリーの近くにあの子の両親を闇の帝王に差し出した奴がいる。ロンドンの漏れ鍋で新聞を見た時に愕然としたよ。何故あいつがそこにいるのかとね」

 

「話が見えないわ」

 

 私は日記帳に視線を戻す。

 そこには既に文字が浮かび上がっていた。

 

『まずは話を聞きなさい。ブラックがどちら側か確かめるのよ』

 

『わかりました』

 

「ハリーを殺そうとしているのは貴方だって話を聞いたわよ?」

 

「それは違う。私は殺人など犯していないし、ハリーの両親を裏切ってもいない。アズカバンには無実の罪で投獄されただけに過ぎない」

 

「その話を信じる根拠が無いわね」

 

「ロン・ウィーズリーが持っているネズミだ。奴は私と同じ動物もどきで、名をピーター・ペティグリューという」

 

「スキャバーズが動物もどき? じゃあクルックシャンクスがよくスキャバーズを襲っているのは」

 

 私はクルックシャンクスのほうを見た。

 クルックシャンクスはブラックの横で丸くなり、喉をゴロゴロ言わせている。

 

「ああ、本当に賢い猫だよ。私を見た途端に動物もどきだと見抜き警戒を解くのに時間がかかった。今では私に協力してくれている」

 

 ピーター・ペティグリューとはブラックが殺したとされる人物の1人だ。

 ブラックを助けに行く段階でブラックの事に関しては一通り調べたが、殺された後には小指しか残らなかったという。

 もしその話が本当ならばスキャバーズの小指が欠けているはずだ。

 あとで確かめなければ。

 私はブラックに見えないように日記帳に書き込んでいく。

 

『ブラックは自分は無実だと言っています。現在ホグワーツ近くに潜伏していますが、ハリーを殺す為ではなく救う為にここまで来たのだと』

 

『白で白。真っ白ということかしらね。つまらないわ』

 

『まだ完全に白だと決まったわけではないかと……』

 

「私は話した。今度は君が私の問いに答えてくれ」

 

 ブラックがパンをもしゃもしゃしならが言う。

 まともな物を食べるのは久しぶりだといった表情だ。

 

『申し訳ございません。実は今、ホグワーツの制服を着て素顔でブラックの前にいるのです。ブラックから「何故私を助けた」かと聞かれているのですがどう答えればよいでしょうか』

 

『その様子だともしかして助けた時は変装していったの? 別にそこまで気を張らなくていいわよ。言ってやりなさい! 我が偉大なる主人、レミリア・スカーレットがそう望んだからよ! って!! ……君のお嬢様本当に元気があるね。寝起きなのに』

 

 最後の1文はリドル本人の言葉だろう。

 

「さっきから何を書いているんだ?」

 

 ブラックがそう聞いてきたので私は適当に誤魔化して日記帳を閉じた。

 

「貴方を助けた理由だったわね。私の仕えているレミリア・スカーレットお嬢様が望んだからよ。あ、パンもう1ついかが?」

 

「頂こう。レミリア・スカーレット? 聞いたことのない名前だが……」

 

「あまり表に出る方じゃないから。そういえば貴方はあの時死喰い人なんかの助けは借りないのどうのこうのと言っていたわね。貴方は不死鳥の騎士団の団員なのかしら」

 

「元、だけどね。私が無実だと知っている者は私以外にはいない。いや、今目の前にいる君と、そこの猫を除いてだが。とっくの昔に団員からは外されているだろう」

 

 ブラックは2つ目のパンを食べ終わると水を1口飲んだ。

 

「そう。まあ貴方が無実であってもなくても私にはあまり関係はないわね。ハリーが死のうが生きようが私には関係ないもの」

 

 私は鞄の中から生活用品と予備の杖を取り出すとブラックに手渡す。

 

「貴方が身だしなみと生活習慣を改めるってなら食料に関しての面倒ぐらいは見てあげるわ」

 

「君は何故私にそこまでしてくれる?」

 

 ブラックは不思議そうに聞いた。

 そんなの答えは決まっている。

 

「恩を売っておきたいだけよ。じゃあまた明日」

 

 私はブラックの目の前で時間を止めるとクルックシャンクスを抱えて叫びの屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 私がホグワーツに戻ると既にハロウィーンのパーティーは始まっていた。

 私はクルックシャンクスを抱えたままグリフィンドールの席へと急ぎハーマイオニーの隣へと座る。

 

「あら、咲夜遅かったじゃない。それにクルックシャンクスも一緒だなんて。貴方猫好きなの?」

 

「それはハーマイオニーのほうでしょう? まあ嫌いではないわね」

 

 私はハロウィーンのご馳走を自分の皿に取り食べ始める。

 やはりというか、ご馳走は非常に美味しかった。

 ハーマイオニーとロンは夢中になってご馳走を食べているが、ハリーは何かを気にするように教職員テーブルにいるルーピン先生の顔色を窺っていた。

 

「どうしたのよハリー。ルーピン先生がどうかしたのかしら」

 

「いや、何でもないよ」

 

 私も気になってルーピン先生のほうを見るが、特別変わった様子もない。

 呪文学のフリットウィック先生と楽しそうに談笑しているのが見えた。

 少し視線を横に向けるとダンブルドア先生が陽気な顔をしてお酒を飲んでいる。

 昼の事など気にしていないといった表情だ。

 私も気にしていては仕方がないと食事を再開させる。

 このローストビーフなど最高だ。

 是非ともこれを焼いたシェフに会いたいものだ。

 楽しげなパーティーも終わり私はハリーたちと共にグリフィンドールの談話室に向かって歩いていたが、何やら入り口付近が騒がしい。

 肖像画付近ではグリフィンドール生がすし詰め状態となっていた。

 

「なんでみんな中に入らないんだろう」

 

 ロンが怪訝そうに言う。

 

「通してくれ、さあ。何をもたもたしているんだ。全員が合言葉を忘れたわけじゃないだろう? ちょっと通してくれ。僕は首席だ」

 

 監督生であるパーシー・ウィーズリーが人混みをかき分けて肖像画の方へと近づいていく。

 そして騒ぎを聞きつけたのかダンブルドア先生も肖像画の方へと近づいて行った。

 私はハリーたちと共に肖像画が見える位置まで移動する。

 

「ああ、なんてこと!」

 

 ハーマイオニーの絶叫するような声が廊下に響いた。

 太った婦人は肖像画の中から消え去っており、絵は滅多切りにされている。

 キャンバスの切れ端は床に散らばっており、何者かが無理やり談話室に入ろうとしたことを物語っていた。

 

「婦人を探さなければならん。マクゴナガル先生、すぐにフィルチさんのところに行って城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」

 

 いつの間にか駆けつけていたマクゴナガル先生に落ち着いた声でダンブルドア先生が言った。

 マクゴナガル先生はそれを聞いて廊下を早足で歩いていったが、入れ替わるようにしてピーブズが現れる。

 

「見つかったらお慰み!」

 

 甲高くしわがれた声が廊下に響いた。

 

「ピーブズ、どういうことかね?」

 

「これをやった奴は随分な癇癪持ちですな。ええ、本当に。あのシリウス・ブラックは」

 

 ピーブズは全員が聞いている中、声高々に宣言した。

 これをやったのはシリウス・ブラックだと。




用語解説


まね妖怪
精神力の弱い妖怪にとっては天敵かもしれません。

スネイプ先生
今日の授業で一番の被害にあった人物。ルーピン先生は真面目な表情をしていますが絶対内心爆笑してます。

妹様
咲夜はフランドールの姿を実際に見たことはありません。ですが紅魔館にはおぜうやフランを描いた絵画がいくつかあるのでどんな姿をしているかは知っています。

狂気
何かの力などではなく、純粋にヤバい雰囲気。生存本能にビンビンきて頭では逃げないと分かっていても腰を抜かして動けなくなってしまうような感じ。

妹様の服装のダンブルドア
ピッチピチの服に長さが足りないスカート。普通だったら大爆笑間違いなし

レタス食い虫
なんというか、虫です。はい。

ホグズミード村
ホグワーツ近くにある村。魔法界で唯一マグルが全くいない村だと言われている。

ホッグズ・ヘッド
バーテンダーはみんな大好きあの人。ブランデーはXO(めっちゃ古いという意味)

吸魂鬼との会話
体に影響がないなら近づいても問題はない。咲夜の中ではただフワフワした変な人という印象。

開心術
パチュリーから聞いて概念は知っているが閉心術はまだ使えない。目線をずらすか逃げるしかない。

テレポート
実は咲夜はテレポートもやろうと思えばできる。でもやった瞬間宇宙空間に放り出されると予想されるので絶対やりません。空間を無理やり捻じ曲げてワープするのはとてつもないリスクが伴う為です。

クルックシャンクス
めっちゃ打ちにくい。作者殺しの名前です。

にゃーん
癒し

シリウス・ブラック
あの時差し出された手の形と、匂いであの時の人物だと悟るブラック。ホグワーツの制服を着ていることに驚きついつい人間の姿に戻ってしまう。

白で白
殺人鬼でもなくヴォルデモートの仲間でもないという意味


追記
文章を修正しました。

h30.8.16 加筆修正

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。