私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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原作を尊重しつつ、オリジナリティを加えるのって難しいです。
誤字脱字等ございましたらご報告して頂けると幸いです。


人狼とか、忍びの地図とか、三本の箒とか

 シリウス・ブラックが校内に侵入したということで、グリフィンドール生はダンブルドア先生の指示に従い大広間に戻っていた。

 10分も経つと他の寮の生徒も困惑した表情で大広間に入ってくる。

 私はなんとかこの場を抜け出そうと模索するが、何故か私の横にはスネイプ先生がいる。

 ダンブルドア先生の言いつけで私を見張っているかのようだった。

 まあ、それはそうだろう。

 昼間、私はダンブルドア先生に杖を突き付けた。

 そしてその日の夜にこれだ。

 ダンブルドア先生は私がブラックを手引きしたと思っているに違いない。

 そう思っていなかったとしても、私がブラックと接触しようとすることは予想していたのだろう。

 私は横目でスネイプ先生の顔を見る。

 スネイプ先生は辺りを警戒しながらも意識だけはこちらに向けているようだった。

 まあ確かに私とブラックは繋がっている。

 そして私がブラックを探しに行こうとしたのも確かだ。

 私は床一面に敷かれた寝袋の1つを持つと、それを引きずるようにして隅のほうに歩いていく。

 スネイプ先生は流石についてくることはなかったが、しっかりと私を監視していた。

 

「ねえ、ブラックはまだ城の中かしら」

 

 私に追いついてきたハーマイオニーが心配そうな声を上げた。

 

「ダンブルドアはそう思ってるみたいだけど……」

 

 その後に続きロンとハリーが寝袋を持ってやってくる。

 私は鞄の中から毛布を取り出すと、変身術でキングサイズのベッドに変えた。

 

「ハーマイオニー、一緒に寝ましょ。男子は床ね」

 

 ハーマイオニーはベッドに入るかどうか戸惑っているようだったが、ふかふかのマットレスの誘惑には耐えられなかったらしい。

 私と一緒にベッドの中に潜り込んだ。

 ハリーたちはズルいといった顔をしていたが、流石に僕も一緒に寝たいとは言えないだろう。

 

「あのー、僕たちにもベッドを――」

 

「自分で作りなさい」

 

 私はロンのその言葉をばっさりと切り捨てる。

 ロンは諦めたように寝袋の中に入っていった。

 

「ブラックが今夜襲ってきたのはラッキーだったと思わない?」

 

 ハーマイオニーが布団に包まりながら言った。

 

「寮塔には誰もいなかったわけだし」

 

「きっとハロウィーンだって知らなかったんだろうな。じゃなきゃこの広間を襲撃していたぜ」

 

 私はそんなロンの言葉を否定する。

 

「流石にそれはないんじゃないかしら。ブラックも死にたがりじゃないだろうし」

 

「灯りを消すぞ!」

 

 監督生のパーシーが大声で怒鳴った。

 

「全員寝袋に入って……どうしてベッドが? まあいい、おしゃべりはやめ!」

 

 次の瞬間一斉に蝋燭の火が消えあたりが暗くなった。

 私はベッドの上で天井を眺める。

 大広間の天井は魔法により実際の空を映し出すようになっているのだが、今日は満天の星空だった。

 星を見ながら寝るというのも悪くない。

 この瞬間だけはブラックに感謝しておこう。

 

 

 

 

 次の日の朝、学校中がシリウス・ブラックの話でもちきりだった。

 どうやって城に入ったのか、その目的は何なのか。

 噂に尾ひれが付き1人歩きしていく。

 私は休憩時間に時間を止め暴れ柳の通路を使い叫びの屋敷に向かう。

 そして中に入り時間停止を解除した。

 

「ごめんください。って別に貴方もここの住民ってわけじゃなかったわね」

 

 私はブラックを探しながら手当たり次第に清めの呪文を使い屋敷中を綺麗にしていく。

 2階に行くとブラックが犬の状態でベッドの上で寝ていた。

 

「呑気なものね。まったく……」

 

 私はブラックが寝ているうちに抱き上げシャワールームのほうに持っていく。

 水道は完全に壊れているが、そこは魔法で代用できるだろう。

 

「アグアメンティ、水よ出よ!」

 

 私は杖先から水を出すとブラック犬に掛けていく。

 ブラックはびっくりしたように飛び起きるとキャインと鳴いた。

 

「じっとしてなさい体洗うんだから」

 

 私はブラックの体を水で濡らしシャンプーをしていく。

 初めは嫌がっていたがそのうち諦めるように大人しくなった。

 私はもう1度杖先から水を出しブラックの体についた泡を落としていく。

 そして完全に泡が落ち切ると水気をふき取り乾かした。

 

「よし、これでいい」

 

 一通り乾いたので私はブラックを解放する。

 ブラックはふらふらと数歩歩き人間の姿になった。

 

「洗うなら洗うと言ってくれ。いきなり水をぶっかけるな」

 

 ブラックは息も絶え絶えといった表情で私を見る。

 

「ごめんなさいね。でも綺麗になったわ」

 

 私はブラックを上から下まで観察する。

 髪のごわごわや肌の色は少し良くなった気がする。

 着ている服はボロボロのままだったが。

 私は修復魔法で服の補修をしていく。

 数回も魔法を掛ければブラックはすっかり綺麗になった。

 

「昨日グリフィンドールの談話室に侵入しようとしたみたいだけど、無茶するわね」

 

 私はブラックの前にピザを出しながら言う。

 ブラックはそのピザに目を輝かせたが、無論話を聞くまでは与えないつもりだ。

 ブラックがピザに手を伸ばすがこちらに引き寄せて取らせないようにする。

 

「話してから」

 

 ブラックはしぶしぶといった表情で話し始めた。

 

「本当はもう少し機を待つべきだったと私自身思っている。だが、自分を抑えきれなかった。いてもたってもいられなかったんだ」

 

「だからって太った婦人を切り刻んだのはあまり得策とは言えなかったわね。婦人に恨みでもあるの?」

 

「ない……とは言い切れないな。夜のホグワーツに探検に出るとき、一番初めに立ちふさがるのが彼女だった」

 

 ブラックは思い出すように遠くを見た。

 

「ということは貴方は昔グリフィンドール生だったのかしら」

 

「ああ、そうだ。ムーニー、ワームテール、プロングズ。皆私の友人だった者の名だがよく一緒に夜の学校を探検したものだ」

 

 私はブラックのほうにピザを押し返す。

 ブラックはたまらないといった表情でピザを食べ始めた。

 私も1切れ手に取り、口に運ぶ。

 

「ああそうだ。食料だが地下廊下の絵画の梨をくすぐるとホグワーツの厨房に入れる。中には多くの屋敷しもべ妖精が働いているから彼らから食料を貰うといいだろう。厨房に入った途端大歓迎を受けられる」

 

 ブラックがそんな耳寄りな情報を教えてくれる。

 今までこうして接してきたが、やはりブラックは新聞などに掲載されている性格とは全く違う性格のようだ。

 

「はぁ……次侵入するときはもう少し慎重にね。私はダンブルドア先生から目をつけられているから協力は出来ないけど」

 

「ダンブルドアから? 一体何をしでかしたんだ?」

 

「色々ね。貴方も学生時代問題児だったみたいだけど、私も負けず劣らずといったところよ」

 

 といっても例の双子ほどではないが。

 

「問題児とは酷いな。これでも成績は学年トップクラスだったんだ」

 

「あら、気が合うわね。私もよ」

 

 私の中の印象では、ブラックは少し子供っぽい人だと感じた。

 言い方は悪いが頭のいい子供という印象を受ける。

 休憩時間も残り少なくなってきたので私は一度学校に戻ることにした。

 ブラックに適当に別れを言い時間を止め横穴を通っていく。

 そして何食わぬ顔で次の教室へと入った。

 

 

 

 

 それからというもの、私は毎日のように学校を抜け出しブラックに会うようになっていた。

 そのたびに屋敷中に清めの魔法を掛けていただけあって、既に屋敷は人間が住める環境になっている。

 ブラックの顔色も随分と良くなった。

 初めて会ったときは餓死した死骸が動いているような様子だったが、今ではこけた頬も元に戻っている。

 髪も肩口で切りそろえ、ブラックは既に昔のハンサムな恰好を取り戻していた。

 学校ではひと騒ぎあった為か未だに警戒が続いていたが、ハリーはそうも言っていられないらしい。

 クィディッチの試合が近いらしいのだ。

 グリフィンドールのチームのキャプテンであるオリバー・ウッドはことあるごとにハリーを追い掛け回し、対ハッフルパフ戦の戦術を伝えていた。

 ハッフルパフはキャプテンが新しくなったらしい。

 元々シーカーだったセドリック・ディゴリーがキャプテンをしているとのことだ。

 ディゴリーと言ったら去年私と決闘クラブで戦った生徒だったか。

 ウッド曰く彼の戦術は鋭く、シーカーとしての腕もハリーに負けず劣らずらしい。

 一度練習風景を見に行ったが、確かにチームメイトに出す指示は鋭く的確で、ディゴリー自身の動きにも無駄がない。

 やはり上級生にもなるとレベルが違うということだろう。

 そんなこんなで次の日にクィディッチの試合を控えた闇の魔術に対する防衛術の時間。

 私は適当な席に座りルーピン先生が来るのを待っていた。

 だが教室に入ってきたのはルーピン先生ではなくスネイプ先生だった。

 

「先生、今は魔法薬学の授業ではありません」

 

 ハーマイオニーが当たり前のようなことをスネイプ先生に言う。

 スネイプ先生はそんなことは分かっていると言わんばかりに口を開いた。

 

「流石の私も地下牢とこの教室を間違えるほど馬鹿ではない。それともミス・グレンジャー、君は私のことをそれほどの馬鹿だと思っているのか?」

 

 スネイプ先生のその言葉にハーマイオニーが小さくなる。

 

「ルーピン先生は今日は体調が優れない。故に私が今日は代理で授業を進めることとなった」

 

 スネイプ先生はいやに嬉しそうだった。

 スネイプ先生は毎年のように闇の魔術に対する防衛術の担当になりたいとダンブルドア先生に言っていると聞いたことがある。

 先生は順番に出席を取っていく。

 そしてそれが終わりいざ授業に入るという状況でハリーが教室に駆け込んできた。

 

「ルーピン先生、すみません僕……」

 

 ハリーは教室内にいるのがルーピン先生ではないとすぐに気が付く。

 そして愕然としたようにスネイプ先生の顔を見た。

 

「ポッター、授業は10分も前に始まっている。グリフィンドールから10点減点。早く座れ」

 

「ルーピン先生は?」

 

 ハリーはその場でスネイプ先生に聞いた。

 

「今日は体調が悪く、教えられないとのことだ。座れと言ったはずだ」

 

 だがハリーは動かなかった。

 

「どうなされたのですか?」

 

「命に別状があるようなものではない。グリフィンドールはさらに5点減点。次私に座れと言わせたら50点減点とする」

 

 その言葉を聞いてハリーはとぼとぼと席についた。

 ルーピン先生のことが心配なのかスネイプ先生が授業をやることが不満なのか、いや両方だろう。

 スネイプ先生はハリーが席に座ったのを見届けると話を再開させた。

 

「ポッターが授業の邪魔をする前に話していたことだが、ルーピン先生はどのような内容を教えたのか記録を残していないため――」

 

「先生、これまで授業でやったのはボガート、カッパ、グリンデローです」

 

「黙れミス・グレンジャー。私はただルーピン先生のだらしなさを指摘しただけである」

 

 スネイプ先生は教科書を後ろからめくるとニヤリと笑った。

 

「今日やるのは人狼だ」

 

 私はペラペラと教科書を捲る。

 人狼のページは確かに教科書の後ろの方にあった。

 

「でも先生、人狼はまだやる予定ではありません。これからやる予定なのはヒンキーパンクで――」

 

「この授業は君の授業ではないミス・グレンジャー。私の授業だ。その私が諸君に390ページを開くように言っているのだ」

 

 スネイプ先生が一度クラスを見回した。

 

「全員今すぐにだ!」

 

 その大声に生徒たちは一斉に教科書を捲りだした。

 その後はスネイプ先生が人狼に関しての授業を進めていく。

 その授業はルーピン先生ほどの面白みはなかったが、非常に詳しく人狼に関しての授業を進めていった。

 私はその厳格な授業が少し気に入ったのだが他の生徒はそうではなかったようだ。

 授業が終わり教室に声が届かないところまで歩くと皆次々に不満をぶちまける。

 

「いくら闇の魔術に対する防衛術の先生になりたいからってスネイプは他の闇の魔術に対する防衛術の先生にあんなふうだったことはないよ。スネイプはルーピンになんの恨みがあるんだろう。例のボガートのせいかと思うかい?」

 

 ハリーがハーマイオニーに言った。

 

「わからないわ……でも本当に早くルーピン先生にはお元気になってほしい」

 

 ハーマイオニーが心配そうな声を出す。

 私はそんなハーマイオニーに言った。

 

「大丈夫よハーマイオニー。先生はすぐ良くなるわ」

 

「どうしてそう言い切れるんだ?」

 

 ロンが後ろから追いついてきた。

 先ほどスネイプ先生に失言をして罰則を受けていたのだ。

 

「そう、貴方たちがさっきの授業を全く聞いていなかったのは分かったわ」

 

 先ほど何故スネイプ先生は無理やりまだやる予定のない人狼を授業でやったのか。

 それは今夜が満月であることが影響しているのだろう。

 

「どういうことだ?」

 

 ロンはまだ首を傾げていたが、ハーマイオニーは何かを思いついたように俯いていた。

 

 

 

 

 グリフィンドールとハッフルパフの試合当日。

 私は朝食を食べながら窓の外を見ていた。

 窓が割れるのではないかと思うほどの風と雨、そして眠っている全てのモノを起こしてしまうのではないかと思えるほどの雷が鳴っている。

 私は朝食にサンドイッチを食べながら考える。

 叫びの屋敷は大丈夫だろうか。

 あの建物は相当古い。

 流石に雨だけで倒壊することはないだろうが、この風と雷だ。

 早いうちにブラックを避難させておいたほうがいいかもしれない。

 ハリーの方を見ると他のチームメイトと共に朝食を食べながら今日の試合のことを話している。

 どうやら試合は中止にはならないようだ。

 私は他の生徒より一足早く大広間を出ると大きな黒い布に防水の呪文と目くらましの呪文を掛ける。

 その布を全身が隠れるように纏った。

 簡易的なポンチョだが傍から見ればローブ姿のままに見えるだろう。

 私は周囲を見回し誰もいないことを確かめると時間を止め暴れ柳の穴の中に入る。

 雨の中での時間停止は非常に気を使わないとならない。

 空中に浮いている水滴はそれだけで障害物となり私の前に立ちはだかる。

 もっとも水滴の時間を動かして進めばいいわけだが、その場合時間停止を解除した時に私の通った痕跡が一瞬だけ残ってしまうのだ。

 私は横穴の中に入ると透明になっている布を畳み雨に濡れないところに置く。

 そしてそのまま横穴をまっすぐと進んでいった。

 

「ブラック、いるかしら?」

 

 私は叫びの屋敷に入るとブラックに呼びかける。

 ブラックは私と鉢合わせするとビクリと動きを止めた。

 ブラックはいそいそと雨具を着込んでいたのだ。

 

「えっと……これはあれだ。うん」

 

 ブラックが気まずそうな顔をした。

 

「1つ聞くわ。まさかクィディッチの試合を見に行くつもりだったんじゃないでしょうね。それも人間用の雨具を着ているということは人間の恰好で」

 

「そんなわけないだろう。ああ、そうだとも」

 

「じゃあ見に行かないわけ?」

 

「いや見に行くともさ。あー……」

 

 私の誘導尋問にブラックは見事引っかかり苦々しい顔をした。

 

「せめて犬の恰好にしなさい。犬用の雨具なら私が作ってあげるから」

 

 ブラックと一緒にいて分かったことはいくつかあるが、その一番大きなものを上げるとしたらハリーを溺愛していることだろうか。

 ブラックの話ではブラックはハリーの後見人らしい。

 つまりハリーの保護者ということだ。

 ことあるごとにハリーの話をし、今日の様子を見てもこれだ。

 もし私が脱獄を手伝っておらず、アズカバンでペティグリューの載っている新聞を見ていたら北海を泳いででも脱獄していただろうと話していたほどである。

 叫びの屋敷は今にも倒壊しそうな音を発して揺れている。

 早いところブラックを連れ出した方がいいだろう。

 私は犬に変身したブラックに布を被せ雨具の形になるように魔法を掛ける。

 その後その雨具に防水と目くらましの呪文を掛けた。

 

「それじゃあ行ってらっしゃい。別行動した方がいいからね。私も後から追うわ」

 

 私のその言葉にブラックは横穴を抜けていく。

 あまり高さのない横穴だが、犬に変身しているブラックには丁度良い高さらしかった。

 私は叫びの屋敷内で10分待って、横穴を通りホグワーツへと戻った。

 もう既に選手がグラウンドに入場している。

 私は防水された布を頭まで被っている為濡れることはないが、選手たちはまだ試合が始まってすらいないのに全身びしょ濡れだった。

 観客も大変そうだ。

 ポンチョを着ている生徒もいればあっという間に傘を大破させ濡れながら応援している生徒もいる。

 何人かが全く濡れていない私を不思議そうに見ていたが、気にしないことにした。

 雨音混じりに微かにホイッスルの音がして試合が始まる。

 この雨の中キャプテンが指揮を執り統率した動きをしていく。

 チームとしての腕はグリフィンドールが勝っているようだったが、戦略的にはハッフルパフのほうが勝っているだろう。

 ディゴリーは視界が悪いことを逆に利用してグリフィンドールの選手が捉えにくい位置から攻めたりパスの妨害をしたりといった指示を飛ばしている。

 そして色々と考えながらも自分はしっかりとスニッチを探しているようだ。

 だがやはり最終的には1人1人のスキルが物を言うのであろう。

 現在の時点でグリフィンドールが50点のリードを作っている。

 そんな中フーチ先生のホイッスルが鳴り響いた。

 グリフィンドールのキャプテンがタイム・アウトを要求したのだ。

 私は一度ボールを視線で追いかけるのをやめ、観客席を見渡す。

 すると誰もいない上のほうの観客席に犬の姿のブラックを発見した。

 舌を出しぶんぶんと尻尾を振っている。

 私はそんなブラックの様子に頭を抱えた。

 いつもはあのような調子ではないのだ。

 冷静沈着で、判断も冷静。

 少々危険を好む性格ではあるが、命知らずというわけでもない。

 だがハリーのことになるとああなのだ。

 試合が再開されたようで選手たちが次々と空へと飛び立つ。

 ハリーの動きがさっきと違っていることに私は気が付いた。

 先ほどは迷走するように空中をふらふらと移動していたが、今は視界が開けたようにいつもの飛び方に戻っている。

 遠目ではよくわからないが、防水呪文を眼鏡に掛けたのだろう。

 一瞬ブラックとハリーの目が合ったような気がしたが、ブラックがすぐに身を隠したことによって事なきを得る。

 次の瞬間、私の横を1人の吸魂鬼が通った。

 

「あら、貴方もクィディッチを見に来たの?」

 

 私は自分の言っていることが呑気な言葉だということを瞬時に悟る。

 吸魂鬼の数は1人ではない。

 1人、2人と次々に吸魂鬼が集まってきており、ついにはグラウンドが吸魂鬼でいっぱいになるほどの数が集まった。

 

「あっ!!」

 

 一体誰が叫んだ言葉だろうか。

 ハリーを指さしその指をゆっくり下に降ろしていく。

 いや、そうではない。

 指を指された対象のハリーが、地面に墜落していったのだ。

 

「エクスペクト・パトローナム!」

 

 私は咄嗟に杖を振るい守護霊を出す。

 グラウンドの方を見るとハリーに呪文を掛けて落下速度を遅くさせたダンブルドア先生が、私と同じように守護霊の呪文を使い吸魂鬼を追い払っていた。

 ダンブルドア先生は私が出した守護霊の狼を不思議そうな顔で見ている。

 私の守護霊は一通り空を駆けるとそのまま消滅した。

 ハリーの方を見ると担架で城の方へと運ばれている。

 ディゴリーは審判であるフーチ先生に何かを抗議しているようだった。

 初めは吸魂鬼が現れたことについて抗議しているものだと思ったが、手にはスニッチが握られている。

 つまりは試合のやり直しを求めているのだろう。

 なんというか、正義感に溢れているというのだろうか。

 それともクソ真面目なだけだろうか。

 なんにしてもグリフィンドールのキャプテンであるウッドは負けを認めていた。

 試合はハッフルパフの勝利という形で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 私はブラックを探して雨の校庭を歩き回る。

 あんなことがあってすぐだ。

 犬の姿のままハリーのところへ行ってしまっていても不思議ではない。

 だが私の予想とは裏腹にブラックは暴れ柳のすぐ近くに犬の姿で座っていた。

 私はブラックに近づいていく。

 そんな私にブラックも気が付いたのかこちらを振り向いた。

 

「クーン」

 

 ブラックが悲しそうな声を出す。

 ハリーが心配なのだろうか。

 私はそう思ったが、ブラックが咥えている物を見て察する。

 それはハリーが愛用しているニンバス2000の残骸だった。

 確かにハリーが落ちた時ニンバス2000は何処かへと飛んで行ってしまったが、この様子だと暴れ柳に激突したらしい。

 ニンバス2000の残骸は全てブラックが1か所に集めたらしく、ブラックの周囲には箒の破片が纏めて置いてある。

 私は素人目で見てもニンバス2000が修復不可能であることを察した。

 ブラックはハリーが箒を失うと悲しむと思い、探しに来たのだろう。

 だが箒は既にこの状態だったといったところだろうか。

 

「これを集めてたのね。心苦しいけど、この残骸はハリーに渡しておくわ。ブラック、吸魂鬼も出たことだし貴方は一旦叫びの屋敷に帰るべきよ」

 

 もしブラックの他にハリーの箒を探している人間がいたとしたら姿を見られてしまう。

 ブラックもそのことを理解しているのか暴れ柳の攻撃をすり抜け横穴に入っていった。

 私はニンバス2000の残骸を簡単な布袋に詰めていく。

 

「君は……十六夜君かね?」

 

 背後から声を掛けられたので振り返ると、フリットウィック先生が完全に雨を弾きながらこちらに歩いてきていた。

 

「はい、ハリーの箒を追いかけてここに来たのですが、このありさまで……」

 

 私は袋の口を広げてフリットウィック先生に見せる。

 フリットウィック先生は残念そうな顔をすると私に告げた。

 

「残念ですが、これはもう元には戻らないでしょう。箒はただ木と枝を合わせたものではありません。高度な魔法が掛かっているのです。ですのでこれでは……」

 

「やはりそうですか……」

 

 私は布袋をフリットウィック先生に渡す。

 フリットウィック先生はきょとんとした表情でその布袋を見た。

 

「それじゃあそれはお願いします。私もいつまでも雨に打たれているわけにはいかないので。それでは」

 

 私はそのまま城に向かって歩き出した。

 

 

 フリットウィックは何が起こったのかわからないといった表情で袋と咲夜を交互に見ていたが、やがていいように厄介ごとを押し付けられたと悟るとやられたと言わんばかりに頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 クリスマス休暇に入る前の最後の週末にホグズミード村行きが許可された。

 前回は1人でホグズミード村を歩いたが、何処も人が多くて店に入るのが億劫になってしまう。

 なので今回はハーマイオニーとロンと共にホグズミード村に行くことになっていた。

 

「そう、じゃあロンもハーマイオニーもクリスマス休暇は学校に残るのね」

 

 ホグズミード村までの道を歩きながら私は2人と談笑をする。

 

「ええ、図書館で調べたいことがあるの」

 

「別にいいじゃない、ハリーについていてあげたいんでしょ? ロンもね」

 

「僕はただパーシーと2週間も一緒に居たくないだけさ。せっかくあのうるさいのが家に帰るんだよ?」

 

 2人ともそうは言っていたが、本当の理由が見え見えだった。

 多分ハリーも気付いているだろう。

 

「そういう咲夜はクリスマスはお屋敷に帰るんでしょう?」

 

 ハーマイオニーが聞いてくる。

 

「ええ、そうね。休暇中ぐらい本来の仕事に戻らないと。元々仕事を休んで学校に通っているわけだし」

 

「あの吸血鬼のお嬢様のお屋敷かぁ……機会があったら行ってみたいな。お嬢様に頼んでみたりは出来ないかい?」

 

 ロンが私に喜々としていう。

 まあ見学したいという気持ちは分からなくもない。

 だが私は使用人の身だ。

 主人の家に客人を招くことは出来ない。

 そこまで考えて、じゃあリドルはどうなるのだという考えに至ったが……。

 

「ボガートが化けたあのお方。クリスマスは多分紅魔館にいるわよ」

 

 私がそう言った瞬間、ロンの表情が固まった。

 ボガートが化けた妹様はロンの心にも大きなトラウマを作ったらしかった。

 

「あ、いや。やっぱり遠慮しておくよ。僕なんかが吸血鬼のお屋敷に行こうだなんて身の程知らずもいいとこだ」

 

 ロンがカチコチとした発音でそういった。

 流石に苛めすぎたと思いフォローをする。

 

「この前は結局小さなパブに入っただけで終わってしまったの。色々と店を教えてくださいな」

 

「それなら咲夜、ハニーデュークスの店がいい。咲夜って意外と甘いモノが好きだろ? あそこで買えないお菓子はないほどさ」

 

 ロンが調子を取り戻したように前を歩いていく。

 私とハーマイオニーはその後を追いかけた。

 ハニーデュークスは確かにいい店だった。

 何より魔法界のお菓子が充実している。

 百味ビーンズに浮上炭酸キャンディー、ドールブル風船ガムや黒胡椒キャンディー、爆発ボンボンなどなど。

 店内はホグワーツの生徒でいっぱいだったが、ロンとハーマイオニーが一緒に居るおかげでそこまで不快な思いはしなかった。

 

「これなんかハリーへのお土産にどうだ?『異常な味』だって。血の味がするらしいぜ」

 

「うーん、駄目よ。ハリーはこんなの欲しがらないわ。これって吸血鬼用でしょう?」

 

「ならお嬢様にぴったりかもね」

 

 私は試食と書かれた盆の上から血の味がするという飴のかけらを1つつまむと口の中に放りこむ。

 

「う~ん……駄目ね、この味はお嬢様は好まないわ」

 

 その言葉を聞いてロンがびっくりしたように声を上げた。

 

「咲夜は人間の血の味をよく知っているのかい?」

 

「味を知らないものを自分の主人に出せるわけないでしょう?」

 

「僕、吸血鬼の使用人にはなれそうにないな」

 

 ロンが迷ったように棚を見回す。

 そして豆板が入った大瓶を持ち上げた。

 

「じゃあこれは? ゴキブリ・ゴソゴソ豆板」

 

「絶対嫌だよ」

 

 突如後ろからハリーの声が響いた。

 それにびっくりしたのかロンが瓶を落としそうになっている。

 私が振り返るとハリーが確かにそこに立っていた。

 

「ハリー!」

 

 ハーマイオニーが驚いたように叫ぶ。

 

「どうしたの? こんなところで……それにどうやってここに?」

 

「まさか……君姿現しが出来るようになったんだね! おったまげー」

 

「そんなわけないでしょう? 私もまだ出来ないのよ?」

 

「咲夜の言う通りさ」

 

 ハリーは声を落として周りの生徒に聞こえないようにしながらここへ来れた理由を話し始めた。

 なんでもロンの兄であるフレッドとジョージに『忍びの地図』というホグワーツの詳細な地図を貰ったらしい。

 その地図には様々な隠し通路とホグワーツ内にいる人間が映し出されるということだ。

 

「2人ともなんでこれまで僕にこれをくれなかったんだ! 弟じゃないか!」

 

 ロンが憤慨するように声を荒げた。

 

「それはロンがホグズミード村行きの許可証を無事にマクゴナガル先生に提出できたからでしょう? あの場で許可証を暖炉に放り込んでいたら結果は変わっていたかもね」

 

「でもハリー、この地図はちゃんとマクゴナガル先生にお渡しするわよね?」

 

「「「まさか」」」

 

 ハーマイオニーのそんな素っ頓狂な言葉にハリーとロンと私の声が合わさる形になってしまった。

 

「僕、渡さない」

 

 ハリーが力強く言った。

 その言葉にロンが激しく同調する。

 

「ハーマイオニー、気は確かか? こんないいものを先生に渡せだなんて」

 

「僕がこれを先生に渡したら、どこで手に入れたか言わなきゃならないじゃないか。そしたらフレッドとジョージの好意を仇で返すことになってしまうよ」

 

「これだけは言っておくわ、ハーマイオニー。シリウス・ブラックの件を心配してマクゴナガル先生にその地図を渡すのだとしたら、いつかハーマイオニーはハリーに謝罪することになってしまうわ」

 

「それってどういう意味よ」

 

 ハーマイオニーが不思議そうな顔をして言った。

 

「いつまでも逃亡出来るわけがないって意味よ」

 

 私はその問いに対して適当な言葉を返す。

 結局ハーマイオニーはハリーとロンの必死な説得を受け、一応納得した様子だった。

 ハニーデュークスを出ると私たちは三本の箒に向かう。

 三本の箒はホッグズ・ヘッドと比べると活気に満ちたパブだった。

 店の中は客でごった返しており、私たちは奇跡的に空いていた小さなテーブルへと腰かける。

 

「何か飲み物を買ってくるわ。何がいい?」

 

 私がハリーたちに注文を問う。

 その様子を見てロンがウェイトレスみたいだと言ったので一旦言い直す。

 

「ご注文はお決まりでしょうか」

 

 その様子が妙に板についていたのか、3人は手を叩いた。

 

「あー、バタービールでいいよな。ハリーもいいだろう?」

 

「話に聞いて飲みたいと思っていたんだ」

 

「バタービールが3本ですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか。では少々お待ちください」

 

 私はハリーたちのテーブルを離れてカウンターの方に向かう。

 そして店主の小粋な顔をした女性に注文を伝えた。

 

「店主、バタービール3つにピスコ1つ」

 

「はいよ、バタービール3つにピスコ……ってお前さんらはまだ学生だろう? バタービール4つにしときな」

 

 やはりホッグズ・ヘッドのようにはいかないか。

 私は店主がテーブルに叩きつけるように豪快に置いたバタービールの大ジョッキを片手で2本ずつ持つとテーブルに運ぶ。

 

「お待たせ致しました。バタービールです」

 

 私はバタービールを3人の前へ置くと自分も椅子に座る。

 

「やっぱり本職は違うな。その辺にいるバイトのウェイトレスなんて目じゃないよ」

 

 ロンが興奮したように言った。

 

「あら、私の本業はウェイトレスではないわよ。メイドよメイド。使用人ね」

 

 そのあとはバタービールで乾杯を行った。

 バタービールは不思議な味がする。

 だがアルコールが殆ど入ってない為か少し物足りなかった。

 バタービールを飲んでいると戸口の方から冷たい風が入ってくる。

 誰かが入店したのだろうか。

 私が戸口の方に目を向けると、そこにはマクゴナガル先生とフリットウィック先生、ハグリッド、そしてその後ろには魔法省大臣であるコーネリウス・ファッジ大臣がいる。

 ハリーはその面子を見て仰天すると、ロンとハーマイオニーに机の下に押し込まれる。

 ハリーのバタービールがこぼれそうになっていたので、咄嗟に取り上げて静かにテーブルの下のハリーに渡した。

 

「あ、ありがとう」

 

 ハリーが全員に向けていった。

 堂々とホグズミード村を歩いていたので意識してなかったが、ハリーは学校を無断で抜け出してここにいるのだ。

 フリットウィック先生ならまだしも、マクゴナガル先生に見つかるのは大変よろしくない。

 ハーマイオニーが咄嗟に呪文を使いハリーを隠すようにクリスマスツリーを動かす。

 そのツリーを挟んだ向かい側の席に先生方は着席した。

 教師がここにくるのは分かる。

 ホグズミード村で教師を見たという話は談話室で聞いていたからだ。

 だが、なぜそこに魔法省の大臣がいて、しかもハグリッドと楽しそうに談笑しているのかが理解できない。

 魔法省大臣はフランクな人だとは聞いていたが、暇人ではない筈だ。

 

「なあ、あれってファッジだよな? なんであんなところにいるんだ?」

 

 ロンが声を潜めてハーマイオニーに聞く。

 

「分からないわ。少し会話を聞いてみないと」

 

 テーブルの下を覗くとハリーがツリー越しに4人の足を眺めながら静かにバタービールを飲んでいるのが見えた。

 4人の会話の内容は初めはただの世間話のような感じだったが、段々とシリウス・ブラックに関する内容になっていく。

 その話は私がブラックに聞いた話と調べて知った話をごちゃまぜにしたような内容だった。

 ブラックとハリーの父親は無二の親友だったらしい。

 そしてブラックから聞いた話の通り、彼はいたずらっ子の首謀者のような存在だったようだ。

 だが頭が悪いわけではなく、成績も優秀。

 教師からしたら一番厄介な存在かもしれない。

 そしてある日ハリーの両親は自分たちがヴォルデモートに狙われていることを知った。

 ダンブルドア先生の助言で忠誠の術を使うことに決めたハリーの両親はその忠誠の術の秘密の守人にシリウス・ブラックを選んだらしい。

 忠誠の術というのは簡単に言ってしまえば秘密の守人が口を割らない限り術者を見つけることが出来ないという魔法だ。

 もっとも色々と条件や制約はあるのだろうが、詳しい話は出てこなかった。

 つまりここにいる4人はブラックがヴォルデモートにハリーの両親を売ったと考えているのだろう。

 だがブラックの話では秘密の守人になったのはペティグリューだと言っていた。

 この辺の勘違いがブラックを殺人鬼だと思わせる原因になってしまったのだと思う。

 できることならブラックの無実を証明してあげたいが、まだ証拠が十分に集まっていない。

 ペティグリューを突き出せば証拠になるかもしれないが、白を切られたら意味がない。

 何よりダンブルドア先生に目をつけられている今、ブラックの無実を訴えたらそれだけでさらに怪しまれてしまうだろう。

 だが私はそんな話よりも、もっと興味深い話を聞いた。

 ブラックはアズカバンで吸魂鬼の影響を殆ど受けていなかったというのだ。

 まるで私のようではないか。

 ファッジの話では牢屋の中で新聞についているクロスワードを懐かしむほどの余裕があったらしい。

 影響を受けなかった理由はあるのか、何か条件があるのか。

 体質なのか、それとも性格なのか。

 4人が去った後も、私はバタービールのジョッキに口をつけながら考えていた。

 

 

 

 

 

 あの後ハリーは一直線に城へと帰ってしまった。

 ふらふらとした足取りで前が見えてないような様子だったが大丈夫だろうか。

 私はロンとハーマイオニーと別れると物陰に隠れ叫びの屋敷へと向かう。

 この季節、叫びの屋敷内は非常に冷え込む。

 ブラックは暖炉に火をつけて暖を取っていた。

 煙は大丈夫かと思ったが、器用に消失魔法を掛けて消している。

 秀才という話は伊達ではないらしい。

 

「ハリーが貴方の話を知ったわ。ハリーは貴方がポッター夫妻を裏切ったと信じている」

 

 私が三本の箒での話をすると、ブラックは悲しそうに視線を落とした。

 

「そうか……、ダンブルドアでさえ私のことを裏切者だと思っている。ハリーが知るのも時間の問題だと思っていだが……。ハリーの様子はどうだった?」

 

「……ショックを受けていたわ。とてもね。そう言えば、ハリーが忍びの地図という魔法具を持っていたのだけれど、何か知ってる?  もし危ないものだったらすぐに取り上げるけど」

 

 忍びの地図という言葉を聞いて、ブラックの目の色が少し変わる。

 

「忍びの地図かぁ……これも運命かもしれないな。ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングズ。上からリーマス・ルーピン、ピーター・ペティグリュー、シリウス・ブラック、ジェームズ・ポッター。忍びの地図を作ったのはこの4人だ」

 

「リーマス・ルーピンですって!?」

 

 私はルーピン先生の名前を聞いて柄にもなく驚いてしまった。

 いつもブラックが学生時代の話をするときは、友の名を渾名で呼んでいた。

 ムーニーという名前はよく聞いていたが、まさかそれがルーピン先生だったとは。

 

「ムーニーを知っているのか?」

 

「ええ、まさかルーピン先生のことだったなんて」

 

「先生? アイツがか? まさか今ホグワーツで?」

 

「ええ、闇の魔術に対する防衛術の教鞭をとっているわ」

 

 私がそういうとブラックは大きな声で笑いだした。

 

「はっはっはっは! ダンブルドアも食えないジジイだ! いやダンブルドアだからか!」

 

「その発言からして、話に出てきた狼男の友達ってやっぱりルーピン先生なのね」

 

 私がそういうと、ブラックが肯定した。

 

「ああそうだ。叫びの屋敷に続く通路はもともとあいつの為に作られたものだ。暴れ柳もその時植えられた」

 

 予想はしていたことだが、はっきり肯定されるとやはり少しは驚くものだ。

 人狼の立場はそこまで高くはない。

 基本的には危険なものとして認知されているぐらいだ。

 

「そう言えば、あなたクリスマスはどうするの? 私は一度帰ろうと思っているけど」

 

「クリスマス……そうだクリスマスだ! ハリーの箒が折れてしまっていたな」

 

 クリスマスという言葉にブラックは何かを思い出した様子だった。

 

「まさか、クリスマスにハリーに箒をプレゼントしたいと言い出すんじゃないでしょうね」

 

「察しがよくて助かるよ。ハリーは今悲しみにくれているだろう?」

 

「ばっかじゃないの?」

 

 私はすぐさまブラックの考えを否定する。

 

「金は? 手段は? のこのことダイアゴン横丁の高級箒用具店に箒を買いに行くの?そんなの喜劇もいいところよ」

 

 ブラックは表情を曇らせる。

 私はしょうがないといった表情でため息をついた。

 

「しょうがないわね。買ってきてあげるわよ。だけど、箒のお金はそっち持ちだから」

 

「勿論だとも。これが私の金庫の鍵だ。グリンゴッツの711番金庫にブラック家の財産が入っている。一番いい箒を匿名でハリーに送ってやってほしい」

 

「……なんで金庫の鍵を持ってるのよ。私としてもハリーがいつまでもガラクタ同然の箒で試合に出るというのは避けたいからね」

 

 私はブラックから金色に輝く鍵を受け取ると鞄に仕舞い込む。

 

「クリスマス休暇の間凍死と餓死には気をつけなさい。杖があるから凍死はしないにしても、餓死はつらいわよ。一応缶詰を渡しておくけど、流石に2週間分も備蓄はないわ」

 

 私はありったけの缶詰を机の上に並べていく。

 節約して食べたとしても2週間は持たないだろう。

 

「なにからなにまですまんな。食料がなくなったら最悪ネズミでも食べるさ。もしよかったらだがブラック家の金庫から少し多めに金貨を掻っ攫ってきてもいい。どうせ私の金じゃないんだ」

 

「そんな卑しいことしないわよ」

 

 私は手を振ると叫びの屋敷を後にする。

 次ここに来るとしたらクリスマス休暇が終わってからだろう。

 私は女子寮へと戻ると荷物を纏める。

 ハーマイオニーが暗い顔をしていたが、それも仕方のないことだろう。

 ブラックのあんな話を聞いたあとなのだ。

 ハリーにどんな顔をして会えばいいか変わらないのだろう。

 

「ねえ、咲夜。さっきの話、どう思う?」

 

 ハーマイオニーがベッドに横になりながら私に聞いた。

 

「シリウス・ブラックの話? もし本当なら酷い話よね。ブラックはハリーの両親と仲がよかったんでしょう?」

 

「初めからヴォルデモートの手下で、命令で近づいていたとか……」

 

「それはないわ」

 

 私はハーマイオニーの言葉を否定する。

 

「多分ヴォルデモートとのつながりが出来たのは大人になってからよ。まあどっちでもいいけどね」

 

 私は全ての荷物を鞄に詰めると、ベッドに潜り込んだ。

 今日はよく眠り、明日に備えよう。

 私はハーマイオニーにおやすみと伝えると、夢の世界に落ちていった。




用語解説


監視員スネイプ
ボガートを見張ったりおばあさんの服装になったりと忙しいスネイプ先生。今度は警備員です。

寝袋
ダンブルドア先生…もう少しまともな寝具はなかったのでしょうか。

男子は床
キマシではないです。流石に何百人の生徒がいる大広間でおっぱじめるやつはいません。

シャンプー
咲夜はシリウスのことを半分ぐらい犬扱いしています。

生活環境がどんどん良くなるシリウス
杖を持っているので食糧問題以外は大体解決。

優秀なセドリック
作品的に滅茶苦茶美化されています。理由は炎のゴブレット編にあるのです。セドリック、不憫な子。

闇の魔術に対する防衛術の教師スネイプ
ほんと多忙な人です。この時点でハーマイオニーはルーピン先生が人狼だと気が付いています。

子煩悩シリウス
なんだかシリウスのキャラがどんどんと崩壊している気がしますが、普段はまともすぎるぐらいまともです。でも原作で猫に頼んでまでハリーに箒を買い与えている&ピーターが近くにいるというだけでアズカバンを脱走するほどですので子煩悩というのは間違っていないのではないかと思います。

フリットウィック先生
映画版の不死鳥の騎士団でのガッツポーズが印象的。

ハリーがホグズミード村へ
映画版では透明マント被ってましたよね。原作ではそういう描写なかったのでびっくりしました。

三本の箒
お酒は飲めなかった模様。当たり前です。

お使い
原作ではクルックシャンクスが注文書を店に持って行きました。お金は業者がおろしてましたね。ですがこの作品では咲夜さんがいるので咲夜さんが買いに行きます。


追記
文章を修正しました。

2018-08-27加筆修正

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