誤字脱字等ございましたらご報告して頂けると幸いです。
学校に着いた次の日には授業が始まった。
魔法生物飼育学ではハグリッドが火トカゲを扱う授業を行った。
寒い屋外で枯れ木や枯葉を集め焚火を起こし、その中に火トカゲを入れるのだ。
火トカゲは名前通り炎が好きなトカゲで、たき火の中を楽しそうにちょろちょろと走り回る。
占い学では新しく手相占いが始まった。
手相はお嬢様の専門外なので私自身あまり詳しくなかったが、ハリーは先生からクラスで一番生命線が短いとの指摘を受けていた。
ハリーはどうもそのことが気に入らないらしい。
確かハリーはクリスマスに死ぬほど喜ばしい出来事があったはずなのだが、何故そこまでご機嫌斜めなのだろうか。
私は朝食の席でハリーに聞こえないようにロンに話しかけた。
「ねえ、新学期始まってからハリー凄く不機嫌じゃない。ハーマイオニーとも仲が悪そうだし。何かあったの?」
ロンはハーマイオニーにも聞こえないようにヒソヒソ声で答えた。
「実はハリーはクリスマスプレゼントにファイアボルトを貰ったんだ。でも送り主が書いて無くて……ハーマイオニーがシリウス・ブラックから贈られた罠じゃないかっていって先生にチクってマクゴナガル先生が持って行っちゃったんだ」
「ハーマイオニー……鋭いわね」
私はロンの顔を見るが、ロンもハーマイオニーに対してある程度苛立ちを覚えているらしい。
「酷いと思うだろ! ファイアボルトだぜ!? ウッドもカンカンさ。毎日のようにマクゴナガル先生に抗議に行ってるよ」
「まあハーマイオニーの考えも間違ってはいないわね。でも少し用心が過ぎるわ。それに少し飛んでみればわかることじゃない」
もっとも、贈った本人は私だが、プレゼント主はブラックなのでハーマイオニーの予想は正しい。
だがハリーを殺そうとするのであればわざわざ500ガリオンも出してファイアボルトを買う必要はない。
新しいニンバスでよいのだ。
「咲夜からもマクゴナガル先生に言ってやってくれよ。早くハリーに箒を返せって」
「その必要はないわね」
「「何故さ!?」」
聞き耳を立てていたのかロンと共にハリーも声を荒げた。
私は2人に落ち着くように言ってから理由を話した。
「ハリーはどうやってグリフィンドールの最年少シーカーになったんだったかしら?」
「それはマクゴナガル先生に空を飛ぶところを見られて……退学になるかと思ったけど違って……そうか」
ロンは気が付いたようだった。
ハリーはまだ訝しげな顔をしていたので説明を続ける。
「規則を捻じ曲げてまでハリーをシーカーにして自らのポケットマネーで箒を買い与えるぐらいマクゴナガル先生はハリーや自分の寮に関しては甘いわ。必ず次の試合までには箒は返ってくるはず」
勿論私のこの言葉は箒が何ともないという前提での話だ。
だが箒に変な魔法が掛かってないのは保証できる。
私が注文した箒だからだ。
「絶対返ってくるからハーマイオニーと仲良くしなさい。もう小さくないんだからこんなことで喧嘩しないの。ハリーだってハーマイオニーの行動がハリーを思ってのことだってわかっているんでしょう?」
「分かってるけど……」
理屈では分かっていてもやはり納得はいかないようだ。
するとグリフィンドールのキャプテンであるウッドがハリーに近づいてきた。
顔を見るに良い情報を持ってきたというわけではなさそうだった。
「ハリー、悪い知らせだ。マクゴナガル先生に箒のことで話をしに行ってきたんだが、先生は……その俺に対しておかんむりでね。ハリーが死ぬか生きるかよりクィディッチ優勝杯の方が大事だと思っているんじゃないかって言われちまった。俺はただスニッチを捕まえたあとだったらハリーが箒から振り落とされたって構わないって、そう言っただけなんだぜ?」
「あら、マクゴナガル先生の言うこともあながち間違いではなさそうよハリー」
私がそう茶化すとウッドはこちらをジロリと睨んだ。
私は冗談よと言わんばかりに肩を竦める。
「まったくマクゴナガルの怒鳴りようったら……まるで俺が何か酷いことを言ったみたいじゃないか」
「言ったんじゃないの?」
「言ってないさ! 俺はただファイアボルトがあれば今年こそ優勝杯を獲得できるって……。ハリー、もしかしたら新しい箒が必要になるかもしれない。この前貸した『賢い箒の選び方』の後ろに注文書が付いている。ニンバス2001なんかどうだ? マルフォイと同じ奴」
ハリーはウッドの提案を聞いて少し考えるように顔を伏せた。
先ほどの私の言葉を思い出しているのかもしれない。
「咲夜の話では箒はそのうち返ってくるらしいけど……買うとしてもマルフォイがいいと思っているやつなんか、僕は買わないよ」
ハリーはそういうと口の中にオートミールを掻きこむ作業に戻っていった。
ウッドは驚いたようにその言葉を聞くと私のほうに振り向く。
「箒が返ってくるって本当かい?」
私は席を立ち鞄を持つとウッドに向けて言った。
「マクゴナガル先生も貴方と同じぐらい優勝杯が欲しいということよ」
そう言い残すと私は大広間から外に出る。
そしてトイレの個室に入ると時間を止めた。
私はそのまま個室から出て校庭へ出る。
そしてそのままホグズミード村の方向に向けて一直線に飛んだ。
前までは律儀に横穴を通っていたが、今思えばその必要はないだろう。
ホグズミード村を通り過ぎ私は叫びの屋敷内に入る。
そしてブラックに見えない位置で時間停止を解除した。
「ブラック、死んでないかしら?」
私がブラックに呼びかけると1匹の犬が顔を出す。
そしてその犬は一瞬のうちに人間の姿へと戻った。
「死んでたら魔法省は大喜びだったろうね。死んでないが」
久しぶりに見るブラックは痩せこけていたが死んではいなかった。
身だしなみもそこそこ整えているらしく、あって間もないころほど汚くない。
私は鞄から大皿に盛られたパスタを取り出すと、パスタに掛けられた時間の停止を解除させた。
途端に広がるパスタの香りにブラックは目を丸くする。
「君の鞄がミートソースまみれになってないことを祈るよ。それと、私のことはシリウスと呼んでくれると嬉しい。ブラックの姓にはいい思い出がない。もっとも、向こうにも私のことを家族と思っている奴はいないだろうが」
「召し上がれ? ガリガリの『ブラック』さん。あ、なんかガリガリのブラックって黒胡椒挽いてるみたいね」
私はブラックにフォークを手渡した。
ブラックはそのフォークを恭しく受け取る。
そしてその辺のボロ布をナプキンに変えパスタを食べ始めた。
「そうだ、ハリーが新しい箒で練習しているところをまだ見てないんだが、箒はどうなったんだ? ちゃんと贈れたのか?」
ブラックがパスタをフォークで巻き取りながら聞いてくる。
「贈ったわ。ファイアボルトをね。500ガリオンもしたけどあれが最高峰らしいし」
ブラックはその言葉を聞いて分かりやすいほどに喜んだ。
「そうかファイアボルトか。話には聞いていたがあれをハリーが……よくやってくれた。感謝してもしきれないよ。だが練習をしてないのは何故だ?」
「貴方からの贈り物じゃないかって怪しまれているからよ」
「私からの贈り物だと何の問題が……。大ありだな」
ブラックは頭を抱える。
多分そこまで考えていなかったのだろう。
「呪いが掛かってないか検査しているだけだからそのうちハリーの手に渡るわよ。ハリー自身は親友と大喧嘩するぐらい嬉しかったようだわ」
「親友と大喧嘩? それは何のことだがわからないが、なんにしても喜んでもらえたなら何よりだ」
ブラックは安心したようにパスタを掻きこみ始めた。
私はその横に水の入ったコップを置く。
「なんにしてもしばらくは大人しくしておきなさいな。ペティグリューは私が見張っておくから。それじゃあそろそろ授業が始まるし、私は行くわ」
ブラックがフォークをあげるような動作をする。
私はそれをわかったというサインだと判断し時間を止めホグワーツへと戻った。
2月に入るころにはようやくハリーの手元にファイアボルトが返ってきていた。
ハリーはそれをまるで戦争に送り出していた息子が帰ってきたかのように喜んでいたのを覚えている。
それからしばらくはハリーは注目の的だった。
いや、ハリーではなくファイアボルトにみんな興味があっただけだろうか。
なにせ500ガリオンもする箒だ。
学生という身分で持っているというだけでスターだろう。
私は今クィディッチの観客席に来ている。
ハリーが今から試合に向けての最後の練習を行う為だ。
私はグラウンドを見下ろす。
そこにはグリフィンドールの選手とフーチ先生、そしてロンがいる。
フーチ先生がファイアボルトを手に取りながら何かうんちくのようなものを話しているのが見えた。
ハリーと他の選手たちはその説明に聞き惚れていたが、ウッドがそれを中断させた。
「フーチ先生? ハリーは練習をしないといけないので……その……」
「ああ、そうでしたね。はい、ポッター、それじゃあ私は向こうで……十六夜のところで座っていましょう」
先生自身も実際に実物を手に取って見たのは初めてなのだろう。
いつもから快活な先生だが、今日はいつも以上に目をキラキラとさせていた。
「あれはいい箒です。ええそうですとも。ミス・十六夜もそう思いますよね?」
フーチ先生はロンを連れてこっちへと歩いてくる。
ロンもフーチ先生と負けず劣らずの様子だった。
「ええ、そうですね。フーチ先生。そろそろ練習を始めるようですよ」
いい箒なのは知っている。
私が選んだものなのだから。
ハリーが地面を蹴るとファイアボルトは信じられないような速度で急発進をした。
あっという間にグランドの端まで飛んでいき、速度を保ったまま一気にターンを決める。
「確かに凄い速さね。箒に乗っているとは思えないような速度だわ」
「どういうことだ? 箒に乗ってないとあんな速度は出ないだろう?」
ロンが私に聞き返した。
私はそうね、と軽く呟くとハリーの方を見る。
ハリーはウッドが放したスニッチをあっという間に捕まえる。
そして逃がし、捕まえ、逃がし、捕まえを繰り返す。
そのキャッチのどれもが今までのモノよりキレが良く、何よりも早かった。
「あれなら敵なしだ。そうだろう咲夜」
「そうね。最高速だけ見たらお嬢様よりも速いかもしれないわ。比べてみたことがないからわからないけど」
もっとも、私はお嬢様が本気で空を飛んでいるところを見たことはないが。
「吸血鬼ってそんなに速く飛べるのかい!?」
「スニッチだってあんなに速く飛ぶじゃない。セストラルとかの魔法生物はもっと速いわよ」
「おったまげ~。でも今のハリーだったらそのセストラルにも勝っちゃうかもな」
「それは否定しないわ」
そう言い切れるほど今日のハリーは絶好調だった。
「そろそろ練習が終わるみたいだね。ハリーにファイアボルトに乗せてもらうっていう約束しているんだ。ちょっと行ってくる!」
グリフィンドールの選手がロッカールームに入っていったのを見てロンがグラウンドに駆けていった。
私はそんなロンを見送りながらフーチ先生に言った。
「私も飛んでみようかしら。許可を出してくださる? …先生?」
返事がないので私は先生の顔を覗き込む。
どうやら先生は居眠りを始めてしまったみたいだ。
私は肩を竦めると鞄からオークシャフト79を取り出す。
この箒には数えるほどしか乗ったことがない。
いつも大事に鞄の中へと仕舞っていた。
「さて、行きますか」
私はオークシャフト79に跨ると本来の性能ではありえない速度で加速した。
理屈は単純だ。
ただ普通に空を飛び、その時間を早めているだけである。
もっとも動こうと思えば光より速く動ける私だ。
速度という概念は余り関係ない。
私は楽しそうに空を飛んでいるロンに近づくと横に並び、声を掛けた。
「やっぱりいい箒は違う?」
「――ッわ!? 咲夜かい? 君箒なんて持ってたっけ?」
「2年生の頃から持っているわよ」
「そうだったのか。うん、こりゃたまらないよ。この加速、この最高速。うん凄い。見てて!」
ロンが一気に加速しようとする。
私は時間の緩急を調節してロンにぴったりとついていった。
「本当に凄い速度が出るのね。感心しちゃうわ。これをハリーにプレゼントしてくれた人に感謝ね」
「ホントだぜ。もうこの際シリウス・ブラックからの贈り物でもいいや」
ロンは急旋回するとハリーの横に降り立った。
「ハリー、この箒凄いや。これならレイブンクローなんてイチコロさ」
「ああ、レイブンクローのシーカーはチョウ・チャンらしいけど、箒はコメット260号だ。ウッド曰くファイアボルトと比べたらおもちゃらしい」
「それはどうか分かりませんよ」
いきなりフーチ先生の声がして私たち3人は恐る恐る振り返る。
その声色が少し怒ったような感じだったからだ。
「何故起こさなかったのですか! ブラックが何処から現れるか分からないのですよ? こんなに暗くなるまで箒で遊んで……まあ気持ちはわかりますが。早く城に入りなさい」
「先生、「分からない」とはどういう意味ですか? ファイアボルトがコメット260号に負けるとでも? ご冗談を……」
フーチ先生は驚いたような顔をして私の持っている箒を指さした。
「気が付いてなかったのですか? 先ほどそこにいるミス・十六夜はこの箒でファイアボルトと並走していたのですよ? どんな箒でも乗り手次第ということです」
ロンは先ほどの空での会話を思い出すように頭を捻ると、ようやく私の悪戯に気が付いたのか私を見た。
いや、正確には私の持っている箒を見た。
「咲夜の箒、見たことないやつだけど……ニンバスの最新作かい?」
どうやらロンはこの箒を知らないようだ。
フーチ先生が首を振るうと丁寧に説明してくれる。
「この箒はオークシャフト79といって1879年に作られた長距離移動用の箒です。1935年には大西洋横断に使われたこともある由緒正しき箒なのですよ」
「骨董品じゃないか!? 僕の飛行はそれに負けたのかい?」
ロンがファイアボルトとオークシャフト79を見比べて声を荒げた。
「それとは失礼ね。お嬢様からいただいた大切な物よ。10秒以内に訂正しないとその舌を切り落と――」
「大変貴重で素敵な箒です。僕のスキルが未熟なだけです」
ロンが私の袖元で光る銀色の光を見て咄嗟に訂正した。
「でも乗り手のスキルなら大丈夫だ。ハリーは箒の性能で選ばれたシーカーじゃない。ハリー、そうだろう?」
「勿論だとも。咲夜、今度の試合は絶対勝つ」
ハリーとロンは楽しそうに肩を組んで歩いていく。
私とフーチ先生はその後ろ姿を見ながら城の中へと入っていった。
次の日の朝、私はいち早く朝食取ると時間を止め、分からない程度に料理を皿に取り鞄へと入れる。
今日はクィディッチの試合がある日だ。
故にブラックが何処かへ行ってしまう前に行動を制限しなければならない。
いつもは大人しくしているブラックだが、ハリーのことになると本当に何をするか分からないのだ。
私は時間を止めたまま城を文字通り飛び出し叫びの屋敷へと急ぐ。
「ブラック、いるかしら。勝手に試合に行くんじゃないわよ?」
私がブラックの姿を発見した時には既に横穴を通ろうとしているところだった。
尻尾を掴み引きずり出し、口にトーストを突っ込む。
ブラックは犬の姿からもとへ戻ると、痛そうにお尻をさすりながらトーストを齧った。
「痛いじゃないか。人間でいうところの髪の毛を引っ張られているようなものなんだぞ?」
「貴方ここでの生活が快適過ぎて自分が殺人の容疑で指名手配されていることを忘れてない?」
私のその言葉にブラックがギクリとする。
その様子だと本当に一瞬忘れていたようだった。
「だが聞いて驚くな。今日はこれがある」
ブラックは先ほどまで口で咥えていた黒っぽい布を私の前に広げた。
「ジェームズが持っていた透明マントを見様見真似で作ってみたものだ。効果が切れるのは早いが1晩は持つ。これで……」
私は能天気なことをいうブラックに大きなため息をつくと頭を抱える。
この様子を見せたら殺人の容疑も晴れるんじゃないだろうか。
「犬の状態だとずり落ちるわよ、それ。ほら、貸して」
私はブラックから疑似透明マントを受け取るとずり落ちないように加工をしていく。
足跡も残らないように足元に布を被せるような形で縫製した。
「少し落ち着きなさい。ホグワーツの秀才さん。そういえば、ハリーの元に箒が返ってきてたわよ。今日の試合はファイアボルトで出場すると思うわ」
「そうか、それはよかった。いつかハリーに私が送り主だと明かせる日がくるといいのだが……。よし、行こう」
ブラックは犬の姿になり器用に私が縫製したマントを着る。
ブラックの姿は見えなくなるが、足音と匂いから察するに横穴を通っていったようだ。
私はその後を追った。
久々に横穴を通るとその長さに嫌気が差してくる。
永遠と続くのではないかと思えるほどの横穴を通り過ぎると暴れ柳の下からホグワーツに出た。
まだクィディッチの試合には早いが、一足先に競技場へと向かう。
そして1番上の普段誰も座らないようなところに透明なブラックと共に座った。
「さて、吠えるんじゃないわよ。吠えた瞬間喉元にナイフが刺さるものだと思いなさい」
「クーン」
ブラックが小さな声で唸った。
それは一体どういう声なのだろうか。
いつもは尻尾と表情で大体何が言いたいか分かるが、今はそのどちらも隠れている。
まあ分からなくても問題はない。
私は横にいるブラックの後ろに鞄を置き、ブラックの位置に誰も座らないようにすると競技場を見回した。
競技場には段々と生徒が集まってきている。
10分もしないうちに競技場は生徒で埋め尽くされた。
先にレイブンクローの選手が入場し、遅れるようにグリフィンドールの選手が入ってくる。
ハリーの手にはしっかりとファイアボルトが握られていた。
それを見つけたのかブラックは透明マントがはだけそうになるほど尻尾を振っている。
グリフィンドールのキャプテンとレイブンクローのキャプテンが握手をし、フーチ先生のホイッスルで試合が開始された。
ハリーが他のどの選手よりもいち早く地面を蹴り上空へと飛翔する。
そして偵察機のようにスニッチを探し始めた。
「全員飛び立ちました! 今回の試合の見どころは何と言ってもグリフィンドールのハリー・ポッター選手が操るファイアボルトでしょう。『賢い箒の選び方』によれば、ファイアボルトは今年の世界選手権大会ナショナル・チームの公式箒になってい――」
実況をしているリー・ジョーダンはそんな調子でファイアボルトを褒め続け、マクゴナガル先生に怒られている。
レイブンクローのシーカーであるチョウ・チャンは正面からの勝負では勝てないと踏んだのかハリーを執拗に付け回していた。
ハリーがスニッチを見つけたらそれを横から攫うという作戦だろう。
少し姑息なような気はしないでもないが、そうやることでしかハリーの箒に勝てないと踏んだのだ。
確かに遠目で見ててもわかるほど、ハリーとチャンの箒の性能は違っている。
ウッドがコメット260号をおもちゃだと言っていたのも頷けるほどだ。
私はハリーたちを目で追うのも疲れたので一旦目を休める為にも観客席を見渡す。
すると観客席の外れ、人目につかないところでドラコたちが黒いマントに身を包み何かをやっていた。
大方吸魂鬼のマネでもしてハリーを箒から落とすつもりなのだろう。
ドラコの作戦にハリーが引っかかった形になるのだろうか。
チャンがドラコたちを指さして声を上げる。
ハリーは見事ドラコ達の姿を吸魂鬼だと勘違いしたのか、杖を取り出した。
「エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ来たれ!」
驚いたことにハリーは守護霊の呪文を使ってドラコたちを吹き飛ばした。
形を形成するところまでは至らなかったが、守護霊らしきものが出ただけも大したものだ。
ドラコたちはグラウンドの上でジタバタともがいている。
そうこうしている間にもハリーがスニッチをキャッチし試合は終了した。
グリフィンドールの勝利である。
「あら、チョウ・チャンはよく粘ったほうかしら。ほんとハリーはクィディッチに関しては天性の勘の持ち主ね。ブラック、帰りなさい。慎重にね」
私がそういうとブラックは満足したのか暴れ柳の方向に向けて歩いて行った。
あの様子だったらまっすぐと叫びの屋敷に帰るだろう。
私は観客席から飛び降りると地面に転がっているドラコのもとへと向かった。
黒く長いローブを脱げずジタバタとしているので私は手を貸すことにする。
ドラコはふらふらとしていたが、何とか立ち上がった。
「うぅ……ありが――咲夜!?」
ドラコは驚いたように私の顔を見る。
何故私がここにいて、ドラコを助け起こしているのかわからないと言った表情だった。
「まさかハリーが守護霊の呪文を使えるなんてね。貴方も知らなかったのでしょう?」
「ああ、そうだけ……ど……」
ドラコは私より後ろを見るように視線を向け、そして固まった。
私は大体予想がついているのでゆっくりと振り返る。
そこには鬼の形相のマクゴナガル先生が立っていた。
「あさましい悪戯です! 試合中のシーカーに危害を加えようとは下劣で卑しい行為ということを自覚しているのですか? 全員処罰の対象となります。さらにスリザリンからは50点減点です。このことはダンブルドア先生にも報告させてもらいますからね。そしてミス・十六夜。貴方はここで何をしているのですか?」
マシンガントークとは少し違うが、マクゴナガル先生は呪文でも唱えるかのように捲し立てた。
「私はドラコが倒れていたので助け起こしただけですわ。ドラコ、罰則頑張ってね」
私はそう言い残すと城の中へと向かう。
今日は談話室は1日中パーティー会場と化すだろう。
早めに女子寮の方に上がるか図書室に篭るか悩むところだ。
なんにしても、少しぐらいならパーティーに参加してもいいという気分だった。
グリフィンドール談話室では既にパーティーが始まっていた。
もう既に優勝杯を獲得したかのような騒ぎようだ。
1回試合に勝っただけでこれならば、優勝した場合どうなるのだろうか。
今のうちに談話室の窓という窓に飛散防止処理を行っておいた方がいいかもしれない。
私は紅茶や飲み物を配り、食料が無くなったら足し、物がこぼれたらふき取りと、何故か運営側の仕事をしていた。
クリスマスパーティーの癖が抜けていないのだろうか。
なんにしても忙しいことこの上ない。
だが、たまにはこういうのもいいだろう。
私は余興にとフレッドが持ってきた果物を数個上に投げると投げナイフで全て撃ち落とす。
落ちた果物は皿の上に落ち、食べやすい大きさに切れた。
やんややんやと喝采を浴びる。
私は静かに頭を下げると、1人パーティーに参加していないハーマイオニーの方に近づいて行った。
ハーマイオニーは手に『イギリスにおける、マグルの家庭生活と社会的慣習』と書かれた本を持っており、それを熱心に読みふけっている。
「あら、ハーマイオニー。その本って果たして読む意味あるのかしら。その本よりも貴方のほうがマグルの生活には詳しいんじゃなくて?」
私が声を掛けるとハーマイオニーはちらりとこちらを見て、すぐさま本に視線を戻す。
「魔法使いの視点から見るマグルの生活習慣って面白いものよ。もっとも偏見があったりとか、間違っているところがあったりとかはあるけどね」
ハーマイオニーは本のページを捲る。
どうやら話をしながらでも本の内容は頭に入っているようだ。
「何か持ってきましょうか?」
「気にしないで」
ハーマイオニーは今度は私ではなくロンの方をチラリと見る。
実をいうと、今ロンとハーマイオニーは喧嘩をしているのである。
原因はブラックだ。
ピーター・ペティグリューが化けているネズミを捕まえようとクルックシャンクスは奮闘しているのだが、そのネズミはロンが監督生のパーシーから譲り受けたペットのネズミなのだ。
ロンはハーマイオニーの猫がスキャバーズを狙っていると思い込んでいる。
そして最近僅かな血と共にスキャバーズ、ペティグリューがロンの元から消えたのだった。
もっとも、クルックシャンクスが捕まえたわけではない。
捕まえていたとしたら今頃ペティグリューはブラックに殺されているだろう。
だがロンはクルックシャンクスがスキャバーズを食べたと思い込んでいる。
ハリーが間に立って仲直りさせようとはしているが、それも上手くは行っていないようだ。
そんなようなことを話していると、ハリーがパーティーから抜けてこちらにやってきた。
「試合には来なかったのかい? ハーマイオニーも咲夜も姿を見なかったけど」
「行きましたとも」
ハリーのその問いにハーマイオニーは妙にツンツンした態度で返した。
「私も上の方の席で見てたわ。ハリー、貴方いつの間に守護霊の呪文が使えるようになったの?」
「最近ルーピン先生に習ってたんだ。今度箒から落ちたら本当にウッドに殺されちゃうよ」
ハリーは恥ずかしそうに頭を掻く。
「ハーマイオニーも何か食べたほうがいいよ。せっかくのパーティーだし……」
「無理よ。私この本を月曜日までに読まないといけないの。まだあと422ページもあるのよ!」
ハーマイオニーがヒステリック気味に叫んだ。
「それに、あの人が私に来てほしくないって視線で訴えてるわ」
ハーマイオニーは重そうに視線を上げロンの方を見る。
ロンはその視線に気が付いたのか聞こえよがしに言った。
「スキャバーズが食われちまってなければなぁ……ハエ型ヌガーが貰えたのに。あいつ、これが大好物だった――」
そんなロンの言葉を聞いてハーマイオニーがワッと泣き出した。
ハリーはどうしていいか分からずおろおろとしている。
「まったく……2人とも子供過ぎるわ。ハーマイオニー、行きましょう?」
私は泣いているハーマイオニーの手を掴むと女子寮の方に引っ張っていく。
そしてハリーには視線でロンのフォローをしろと伝えておいた。
私はそのままベッドのある部屋まで引っ張っていき、ハーマイオニーを自分のベッドに腰かけさせる。
そして邪魔が入らないようにこの部屋だけを時間軸から隔離した。
ようは時間が止まった世界でこの部屋だけの時間停止を解除したということである。
「ロンの言葉なんて気にすることはないわ。クルックシャンクスは決して馬鹿な猫じゃない」
「でも、ロンのネズミは……状況から考えても……」
ハーマイオニーもクルックシャンクスがスキャバーズを襲ったものと考えているようだ。
まあ襲ったのは事実だが、まだ死んでいないのは確かだろう。
「大丈夫。スキャバーズはそのうちひょっこり出てくるわ。ロンが貴方に悪口を言った分だけ貴方のほうが有利になるのよ」
「そうかもだけど……」
ハーマイオニーがすすり泣く。
私は優しくその背中を撫でた。
「色々と背負い込みすぎなのよ。ロンとの喧嘩のこともそうだけど、授業のことだって。貴方逆転時計使ってるでしょ」
私がそういうとハーマイオニーがびっくりしたような顔をした。
バレていないと思っていたのだろう。
「バレてないと思っていたの? あんな適当な言い訳に納得するのはハリーとロン、あとはネビルぐらいよ。大方マクゴナガル先生が貴方可愛さに無理やり魔法省から許可を取ったものだとは思うけど……いい? 通常とは違う時間を生きるというのは色々と不自由が生じるものなの。食事もそうだし、睡眠時間だって長く取らないといけないわ。でもあなたの様子を見ていると、そのどちらも疎かにしているでしょう?」
「咲夜、このことは内緒に……」
「それは勿論だけど……いい? 逆転時計とは別に普通の時計を1つ持ちなさい。その時計は別に時刻が合ってなくてもいいわ。起きてから何時間経ったのか、最後に食事を取ったのはいつか、何時間眠ることができたのか。異なる時間に生きるということはそういうことよ」
私は鞄の中から1つの機械式の懐中時計を取り出す。
そして懐中時計の竜頭をつまみ香箱内のゼンマイを目いっぱい巻いた。
その懐中時計をハーマイオニーに手渡す。
「毎朝起きたらこの懐中時計のゼンマイを巻いて時刻を12時に合わせること。頭のいい貴方ならこの時計を見るだけで大体の体調管理が出来ると思うわ」
「わぁ……、綺麗な時計ね。こんなの借りてもいいの?」
「あげるわ。もっとも、こんなお古なんていらないって言うんだったら返してくれてもいいけど」
「そ、そんなこと……ありがと。大切にするわ」
ハーマイオニーは目に涙を浮かべながらもニッコリと微笑んだ。
「大切にしないといけないのは時計じゃなく貴方の体よ」
私がそう言うとハーマイオニーは顔を真っ赤にする。
「それじゃあ、私はパーティーに戻るわね。私が居ないとグリフィンドールの談話室が爆発しかねないもの。勉強頑張って」
私はハーマイオニーに手を振ると時間停止を解除し、談話室に戻る。
談話室では丁度ハリーとロンがハーマイオニーに関して話し合っていた。
話を聞く限りではロンはハーマイオニーを許す気はないらしい。
これはスキャバーズが見つかった時が見物だと内心思いながら私はテーブルに置いてある料理の補充に取り掛かった。
「あああああああああアアアアアアアアアァァァァァァァっっっッッッッ!! やめてえええええぇぇぇぇぇぇ!!」
突如男子寮の方から悲鳴が聞こえてきたので、私はベッドから跳ね起き咄嗟に時間を止めた。
結局グリフィンドールの談話室でのパーティーは深夜の1時近くまで続き、マクゴナガル先生のお叱りの言葉とともに解散となった。
私はマクゴナガル先生と共に談話室の片づけをしてから眠りについたのだが、そう深く眠りにつく前にこのありさまというわけだ。
私は止まった時間の中で素早く制服に着替えると女子寮を飛び出し男子寮の方に行く。
一気に男子寮の階段を駆け上がり、中に入ると信じられない光景が広がっていた。
何故か男子寮に人間姿のブラックがいるのだ。
体勢から察するに談話室の肖像画のほうに逃げているのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題は何故ブラックがここにいるのかだ。
私は男子寮から談話室に戻り、肖像画の前まで行く。
そして時間停止を解除し、肖像画を開いた。
途端にバタバタとこちらにブラックが走ってくる。
「この馬鹿! なんでこんなところまで侵入しているのよ!」
私はブラックにそう叫びながらジェスチャーでブラックを急かした。
ブラックは滑り込むように肖像画を抜けると、犬の姿に変身する。
私はそのあともブラックの後ろ姿を追うようにしてブラックの後ろを走った。
まだ騒ぎが起こってからそれほど時間は経っていない。
ゴーストや教師に見つかることなく私たちは暴れ柳の近くまで来ることが出来た。
「急いで叫びの屋敷まで戻りなさい。そして言い訳でも考えておくことね。ちゃんとした理由がなかったら明日の朝食抜きにするわよ!」
私はそういうと犬の姿のブラックの尻に足を付け、一気に蹴り飛ばした。
ブラックは放物線を描いて暴れ柳の下にある横穴へと落ちていく。
「はぁ……はぁ……。もどろ……」
私は時間を止め呼吸を整える。
ここまで犬の走る速度で全力疾走してきたわけなので、流石に息が切れる。
ブラックがいる手前時間を止めて逃がすわけにもいかない。
私は汗と呼吸が落ち着くのを待って、談話室へと戻った。
私が時間の止まった廊下を戻っていると、マクゴナガル先生が苛立ちを隠せないと言った顔で肖像画を潜っているところだった。
私はそこで時間停止を解除し、マクゴナガル先生と共に談話室へと入る。
「おやめなさい! まったく、いい加減にしなさいよ貴方たちは!!」
マクゴナガル先生は開口一番に談話室にいる生徒を叱りつけた。
「グリフィンドールが勝ったのは私も嬉しいです。でもこれではあまりにもはしゃぎすぎです! パーシー、貴方がもう少ししっかりしなければ……」
マクゴナガル先生のそんな言葉にパーシーは憤慨した。
「先生、僕はこんなこと許可してません! 僕は皆に寮に戻るように言っただけです。弟のロンが悪夢にうなされたようで……」
「悪い夢なんかじゃない! 先生、僕、目が覚めたらシリウス・ブラックがナイフを持って僕の上に立っていたんです!」
ロンがパーシーの言葉を否定するように必死に叫んだ。
だがマクゴナガル先生はそんなバカバカしいことがあるかといった表情をしている。
「先生、ロンの言っていることは本当ですよ。私は叫び声がしてすぐ談話室に降りましたが走って逃げていくブラックの後ろ姿を見ました」
私のその言葉にマクゴナガル先生は不可解な顔をしながら太った婦人の代理を務めているカドガン卿に話を聞きに行った。
談話室にいた面々全員がその会話に耳をそばだてる。
「カドガン卿、先ほど男を1人通しましたか?」
マクゴナガル先生の声だ。
「通しましたぞ! ご婦人」
カドガン卿はその問いに対し嫌に誇らしく言葉を返した。
「と、通した? 合言葉は!?」
「持っておりましたぞ! それも1週間分も。小さな紙切れを順番に読み上げておりました」
その答えに皆がネビルの方を見る。
太った婦人の代理で談話室の前にいるカドガン卿は1日に2回も合言葉を変え、そのどれもがややこしいものだったのでネビルはそれを紙に書いて持ち歩いていたのだ。
マクゴナガル先生は顔を真っ青にしてこちらに戻ってくる。
「誰ですか」
先生の声は震えているが、とても怒りに満ちたものだった。
「今週の合言葉を書き出してその辺に放っておいた底抜けの愚か者は一体誰です?」
みんなに心配そうに見つめられながら、ネビルが今にも気絶しそうな顔でそろそろと手を上げた。
あぁ、こういうのを、蛇に睨まれたカエルというのだろうか。
私は取り合えずブラックを無事逃がすことが出来たので女子寮に帰り眠ることにした。
私が女子寮に上がろうとするとバタバタと多くのグリフィンドール生が階段を降りてくる。
その中にいたハーマイオニーは私の姿を見つけると困惑した表情で聞いてきた。
「ねえ、男子寮にブラックが出たって話を聞いたんだけど。本当?」
「本当よ。もう逃げたわ。私はまだ眠いから寝るわね」
ふらふらと手を振りハーマイオニーの横を通り過ぎる。
ハーマイオニーは慌てたように私の手を掴み引き留めた。
「不用心すぎるわ! ブラックが出たのよ!?」
「そうは言うけどハーマイオニー。逃げたならここに戻ってくることはないでしょ?」
私はハーマイオニーの手を振りほどきベッドまで移動する。
そしてパジャマに着替え直しベッドに潜り込んだ。
取り敢えず、明日の朝ステーキでも持ってブラックに会いに行こう。
話はそれからだ。
朝起きて談話室に行くと、まだ多くのグリフィンドール生が談話室でブラックの話をしていた。
どうやら殆どの生徒が昨日眠っていないらしい。
私は座り込んでいる生徒を踏まないように気を付けながら肖像画の方にいく。
そして肖像画を開け外に出ようとすると何人もの生徒に引き留められてしまった。
「まだブラックが校内をうろついているかもしれない!」
「危険だ! いくらキリングマシーンの君だからって!」
「廊下でブラックに鉢合わせたらどうする!?」
と、こんな調子だ。
だが私は朝食を取らなければならない。
そしてどこからかステーキを調達しなければならないのだ。
談話室でじっとしている時間はない。
「離しなさい。もしブラックに遭遇したら、その時がブラックの最期よ」
私の手を掴んで引き留めている女子生徒に私はそう言い放つ。
その女子生徒は私の顔が怖かったのか短く悲鳴を上げると私の手を放した。
「それと、さっき私のことキリングマシーンって言った人、後で折檻ね」
私はそう言い残すと肖像画を潜りぬけた。
そのまま大広間に向かい、誰もいないグリフィンドールのテーブルで簡単な食事を取るとテーブルを見渡す。
残念ながらステーキの姿はない。
まあ朝食の席でステーキが出てきたらそれはそれで驚くが。
どうにか出来ないかと頭を悩ませていると、少し前に聞いたブラックの言葉を思い出した。
確か厨房への入り方だったか。
用事がなかったため今まで訪れたことはなかったが、いい機会なので行ってみることにする。
確か地下廊下だったか。
私は廊下を進みながら梨が描かれている絵画を探す。
数分もしないうちに果物皿の絵画を見つけることが出来た。
「確か梨をくすぐるのよね」
私は手で梨の描かれているところをくすぐる。
すると梨は身をよじりながら笑い、急に大きな緑色のドアノブに変わった。
私はそのドアノブを掴むと恐る恐るドアを開ける。
そこには思っていたよりも大きな空間が広がっていた。
上の階にある大広間と同じぐらい広く、壁にはピカピカと輝く真鍮の鍋やフライパンが山積みになっている。
部屋の奥には大きな暖炉があった。
私が入ってきたのに気が付いたのか、多くの屋敷しもべ妖精がこちらに向けてお辞儀をする。
軽く数えても100人以上はいるだろうか。
全員がホグワーツの紋章が入ったキッチンタオルをトーガのような形で身に着けていた。
「これはこれはお嬢様、よくいらっしゃいました。紅茶などいかがでしょう?」
「これを貰ってください。お友達とお食べください」
「これはようこそホグワーツの厨房へ。狭いところですがゆっくりとくつろいでください」
屋敷しもべ妖精は寄ってたかって私の世話をしようとする。
私は自分が何人もいるような感覚に襲われた。
「いや、紅茶はいいわ。私、ステーキを取りにきたのだけれど、流石に朝食中には作ってないわよね」
「すぐさまお作りしますとも! 少々お待ちください。焼き加減はいかがいたしましょう?」
「ミディアムレアでお願いするわ」
何人もの屋敷しもべ妖精が私の要望を聞いて飛ぶようにコンロのもとへと向かっていく。
屋敷しもべ妖精とは、このような生物なのかと改めて感じた。
本当に人に仕えるのが好きな種族なのだろう。
料理を始めている屋敷しもべ妖精の顔を見ても凄く生き生きとしている。
「ステーキが出来るまで紅茶でも飲んでお待ちください」
「今茶菓子をお持ちします。お嬢様」
「クッションです。これにお座りください」
とまあこんな感じだ。
フレッドとジョージがたまにたんまりと料理を持ってくることがあるが、多分厨房に貰いに行っているのだろう。
この様子なら、頼めばいくらでも出てくる筈だ。
10分ほど紅茶を飲みながら屋敷しもべ妖精と話をしていると、いい感じに焼きあがった厚切りのビーフステーキがアツアツの鉄板に乗っているものが運ばれてきた。
私はそのステーキの時間を止めると無造作に鞄に放り込む。
その様子を屋敷しもべ妖精たちは不思議そうな顔をしてみていた。
「無理な要望に応えてくれてありがとう。何かあったらまた頼っていいかしら」
私がそういうと屋敷しもべ妖精たちは全員が手を振って応えてくれた。
私はそのまま厨房から出て廊下に戻り、時間を停止させる。
そしていい気分のまま叫びの屋敷へと向かった。
用語解説
火トカゲ
ポケモンではありません。別名サラマンダー。
シリウスからの箒の贈り物
ハーマイオニーの予想はあってます。前提が間違ってますが。
フーチ先生
絶対先生はこの時ファイアーボルトに乗ってみたくてうずうずしていたことでしょう。
おぜうの飛行(追記)
意外とコメントが多かったので解説。咲夜はおぜうさまの本気の飛行を見たことはありません。なのでこの時咲夜はおぜうの速度はせいぜい時速300~400程度だと思っています。もし月を一周できるぐらいの速度を持っているのだとしたら10秒掛かったとしても秒速1091km。生物の速度じゃありません。
おったまげー
ロンの「持ちのロンさ!」とか「マーリンの髭!」とか凄く乱用したい。したいけど自重します。
オークシャフト79
この箒自体は全く速くないです。そして曲がることも苦手です。でも咲夜にとっては動けばどんな箒でもあまり関係はないです。
クィディッチの試合を見に行きたいシリウス
引き留めても無駄だと分かっているのでせめて目の届くところにと咲夜は行動を共にします。前と考えが違うって? 仕様です。
ハーマイオニーを励ます咲夜
渡した時計は伏線とかじゃないです。
何故か入ってきたシリウス
無茶しますよね。ほんとに。
厨房
こんな厨房があったら私だったら入り浸ります。
追記
文章を修正しました。
2018-09-08 加筆修正