私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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そうなんです大臣。

今回でアズカバンの囚人編終了です。炎のゴブレット書く前に原作を読み直すので次回は少し遅くなります。
誤字脱字等ございましたらご報告して頂けると幸いです。


満月とか、医務室とか、ふくろう便とか

 私の意識が覚醒したのはそれからしばらく経ってからだった。

 スネイプ先生が今まさに私に何かの魔法を掛けようと杖を振り上げたまま止まっている。

 私は怠い体を無理やり地面から引き剥がすとスネイプ先生の持っている杖を奪い取り、私が先ほど掴まされた偽物の杖と取り換える。

 そして本物の杖を先ほど偽物が落ちていた場所に置くと、私は先ほどと同じように地面に倒れ伏し、時間停止を解除させた。

 先生が杖を振るうと同時に呪文が逆に放たれスネイプ先生を吹き飛ばす。

 スネイプ先生が驚きを隠せないといった顔で壁に激突し、意識を失った。

 これで五分と五分だ。

 まだ体に麻痺の呪文が残っているのか、私はそのまま意識を失いそうになる。

 私は転びそうになりながらもスネイプ先生の杖を拾うと、それをポケットにしまった。

 次の瞬間、物音を聞きつけ駆けつけてきたルーピン先生が部屋の入り口から顔を出す。

 

「一体何があったんだい? その……2人とも元気がなさそうだ」

 

 私はよろよろと床から立ち上がる。

 掃除をしておいてよかった。

 以前のままだったら、制服が埃だらけになっていただろう。

 

「いえ、2人とも自分の魔法が暴発しただけです。それよりもペティグリューは?」

 

「まだ死んではいない。城に連行することになった」

 

 それは何とも呑気な話だ。

 私はスネイプ先生が自らの呪文によって完全に伸びていることを確認すると、魔法で持ち上げた。

 

「ブラックのことだからその場でペティグリューを殺すと思ったのですが……」

 

「勿論、ブラックはそのつもりだった」

 

「ではハリーが?」

 

「ああそうだ」

 

 大方ハリーが殺すなとでも言ったのだろう。

 自分の両親をヴォルデモートに売り渡した張本人なのにだ。

 ……案外ハリーも私と同じで両親などどうでもいいと思っているのか?

 私は気絶したスネイプ先生を浮かせたまま隣の部屋に移動する。

 隣では縛られ猿轡を噛まされたペティグリューが床の上でもがいていた。

 

「咲夜、スネイプ先生は?」

 

 ハーマイオニーが浮いているスネイプ先生を心配そうに見ながら言った。

 

「さっきよりもしっかり気絶しているだけよ。行きましょう?」

 

 私は改めて部屋の中を見回す。

 先ほどまでブラックを睨んでいたハリーの視線は、今度はペティグリューに向けられている。

 どうやら、誤解は解けたようだ。

 私たちはペティグリューが逃げないように気を付けながら階段を下り、横穴を通っていく。

 横穴の天井は低く、スネイプ先生の頭をぶつけないようにするのに意外と労力を要した。

 

「これがどういうことなのかわかるかい? ペティグリューを引き渡すということが」

 

 ブラックがハリーに話しかける。

 私はブラックが絶対にその話を始めると思っていたので、スネイプ先生の頭に気を付けつつ会話に耳を傾けた。

 

「あなたの罪が無くなる。自由になるということですか?」

 

「そうだ。しかし、それだけではない。誰かに聞いたかも知れないが……私は君の名付け親でもあるんだ」

 

 ブラックの言葉に、ハリーは知っていると言葉を返した。

 三本の箒での教師陣の会話を思い出しているのだろう。

 

「つまり、君の両親が私を君の後見人に決めたのだ。もし自分たちの身に何かあればと」

 

 ブラックは私の後ろを歩いているので、表情を見ることは出来ない。

 だが私はブラックが嬉しそうに、だが少しの恐れを持っているような顔をしていると容易に想像できた。

 

「これは例えばの話なのだが……あ、いや、勿論君がおじさんやおばさんとこのまま暮らしたいというなら、その気持ちはよくわかるつもりだ。でも、まあ……考えてくれないか? 私の汚名が晴れたら、もし君が…別の家族が欲しいと思うなら……」

 

 既にブラックの言葉は支離滅裂だ。

 だがハリーはその意味を十二分に理解したようだった。

 

「貴方と一緒に暮らせる? ダーズリー家と別れられるの?」

 

「無論君はそんなことは望まないだろうとは思う」

 

 ブラックは少し落ち込んだように言う。

 

「よくわかる。共に暮らしている家族と別れるのはつらい。ただ、もしよかったら私と、と思ってね……」

 

 むず痒い会話だ。

 このギクシャクした感じがたまらない。

 ブラックも素直にハリーと暮らしたいとは言えないのだろうか。

 私はフォローを入れようと口を開くが、言葉を発する前にハリーの大声が横穴に響いた。

 

「と、とんでもない! ダーズリーのところなんか一刻も早く出たいです! 住む家はありますか? 僕、いつ引っ越せますか!?」

 

 つまるところ、ブラックとハリーの望みは同じだったというわけだ。

 私は後ろに目が付いているわけではないので直接は見えないが、多分ブラックはステーキを食べていた時より強く満面の笑みを浮かべているだろう。

 

「落ち着くところに落ち着いた。といった感じかな? 君には初めからこうなることが分かっていたのかい?」

 

 前の方からルーピン先生が私に聞いてくる。

 私はなんて言おうか迷った。

 だがこの結果を見る限りブラックはダンブルドア先生側の人間だろう。

 ブラックは自身を脱獄させたのは私だということをダンブルドア先生に報告するだろうか。

 

「いえ、私はただやりたいようにやっていただけです」

 

 私はそう言葉を濁す。

 お嬢様の指示を仰ぐのが一番確実だと考えたからだ。

 しばらく歩くと暴れ柳の下に出た。

 先頭を歩いていたクルックシャンクスが一番に飛び出し暴れ柳のコブを押してくれたらしい。

 私たちが順番に這い出るが、暴れ柳が動く様子はなかった。

 校庭は既に真っ暗だ。

 私は周囲を見渡すが、城のほうにポツポツと窓から漏れる光が見えるだけで月明りもない。

 上を見上げても星が見えないということは、雲が空を覆っているのだろう。

 私たちは杖明かりを頼りに校庭を歩いていく。

 

「少しでも変なまねをしてみろ、ピーター」

 

 時折ルーピン先生がペティグリューを脅す声が聞こえた。

 私はもう一度城の窓の明かりを確認する。

 少しずつホグワーツに近づくように歩いているようだ。

 すると、突然、空を覆っていた雲が途切れ月明りが校庭に差し込んだ。

 私は月を見上げる。

 今日はいい満月だ。

 ……満月?

 私は急いでルーピン先生の方を見る。

 ルーピン先生は月を見上げたまま固まっていた。

 

「どうしましょう! 先生は今日あの薬を飲んでいないわ!」

 

 ハーマイオニーが叫んだ。

 あの薬とはどの薬だろうか。

 だが、私の予想が正しければ狼男になることを抑制させる薬であろう。

 

「逃げろ……逃げろ! 早く!」

 

 ブラックの低い声が校庭に響く。

 

「私に任せて逃げるんだ!」

 

 狼男に変身したルーピン先生にブラックが犬の姿になって抑え込みにかかる。

 私はそれに巻き込まれないように1歩後ろに下がった。

 その時だった。

 ペティグリューがルーピン先生の落とした杖に飛びつき、近くにいたロンに呪文を掛けたのだ。

 

「エクスペリアームス!」

 

 ハリーの武装解除の呪文がペティグリューの手に当たりルーピン先生の杖を吹き飛ばす。

 だがその瞬間にもペティグリューは変身を始めていた。

 逃げられる。

 ハリーもハーマイオニーも咄嗟にそう考えたのだろう。

 ペティグリューを捕まえようと飛びつくが、人間が素手で逃げるネズミを捕まえられるはずがない。

 私は時間を止めてペティグリューを捕まえようとした。

 

(お姉さまは貴方を不死鳥の騎士団に入れたいらしいの。死喰い人にもよ。ようは3重スパイになれってことね)

 

 妹様のそんな言葉が脳裏に響く。

 もしお嬢様が本当に私を3重スパイとしたいのであればここでペティグリューを捕まえるのは駄目だ。

 一瞬私が迷っているうちに、ネズミになったペティグリューは闇の彼方へと消えてしまう。

 もう捕まえることは出来ないだろう。

 

「シリウス! あいつが、ペティグリューが変身して逃げた!」

 

 私がブラックの方を見ると、狼男になったルーピン先生が森に逃げていくところだった。

 ブラックはハリーの言葉を聞いて、ハリーの指さした方へ駆けていく。

 ハリーはそれで安心だと思ったのかハーマイオニーと共にロンに駆け寄った。

 私もスネイプ先生を地面に寝かせ、ロンの状態を見る。

 目は半開きで口も力なく開いていた。

 

「ペティグリューはロンに何をしたのかしら」

 

 ハーマイオニーがロンの目をこじ開け杖明かりで目を照らす。

 瞳孔がしっかりと動いていることが確認できた。

 

「死んでないわね。取り敢えず城に行って誰かを呼んでこないと」

 

「そうだね。行こう」

 

 私の言葉にハリーが返事をした次の瞬間、先ほどブラックが走っていった方向から犬の悲鳴のような鳴き声が聞こえてくる。

 

「シリウス!」

 

 私たちはその声の主に身に覚えがあった。

 先ほど向こうに駆けて行ったブラックが現在危機的状況だということだろうか。

 

「行きなさいハリー」

 

 私は迷っているハリーに対して言う。

 

「ロンと先生は私が面倒を見ておくわ。ようやく出来た貴方の本当の家族なのでしょう?」

 

 私の言葉にハリーは力強く頷くと悲鳴が聞こえる方向に駆けて行った。

 

「ロンを頼んだわ!」

 

 ハーマイオニーもその後を追っていく。

 しばらくすると、2人の姿は見えなくなった。

 

「エネルベート! 活きよ」

 

 私は気絶しているスネイプ先生に魔法を掛ける。

 スネイプ先生は気が付いたのか目を開け周囲の状況を確認する前に飛び起き私と距離を取った。

 そして杖を構えようとローブに手を入れるが、無論ローブの中に先生の杖はない。

 私は静かに杖を先生へと向けた。

 

「動かないでください、先生。傷に障ります」

 

「杖を向けながらいう言葉ではないな」

 

 スネイプ先生が朗々といった。

 

「あら、杖は傷を治すのにも使えますわ」

 

「その目的で君が杖を構えているのだとしたら、私としても助かるのだがな……そういうわけではなかろう?」

 

「それはどうでしょう?」

 

 私はクツクツと笑う。

 スネイプ先生は鋭く私を睨んだ。

 

「あら大変ですわ! ロンがこんなところで倒れてます。早く手当てをしないと」

 

「ウィーズリーも君がやったのか?」

 

「まさか」

 

 私はロンに視線を落とした後、スネイプ先生の目を見る。

 スネイプ先生は私に開心術を掛けようとしているようだったが、私に開心術を使うことは出来ない。

 

「これをやったのはペティグリューです。逃げられてしまったのですよ。ロンはまさに飼い鼠に腕を噛まれたということです」

 

「ほう、ではブラックの無実を証明することは出来なくなったということだな」

 

 スネイプ先生はその事実を聞き不敵に笑った。

 私はスネイプ先生が何を考えているか理解する。

 何とかしてブラックをもう1度アズカバンに放り込みたいのだろう。

 私はローブから先生の杖を取り出すと、先生に投げ渡した。

 先生はその杖を本物かどうか確かめるように眺めると、不思議そうにこちらを見る。

 

「なんの真似だ?」

 

「おかしなことをいいますね。それは先生の杖でしょう? ならば先生が持つべきものです」

 

「そういう意味ではない」

 

「ではそういう意味です」

 

 私は杖をローブに仕舞うとロンを抱き起こす。

 先生はそんな私の様子に拍子抜けしたかのように警戒を緩めた。

 私はその辺に落ちている木の棒に魔法を掛け担架に変化させると、ロンをその上に乗せた。

 

「私も先生も『自分の魔法』で勝手に気絶した。それでいいじゃないですか。もっとも、最初の一発に関しても五分五分です。いきなり呪文を掛けた私も悪いですが、隠れていた先生も悪いですからね」

 

 私は担架を宙に浮かせる。

 そしてスネイプ先生に向き直った。

 

「向こうのほうにブラックは駆けていきました。行きましょう先生」

 

「……待ちたまえ」

 

 私がスネイプ先生に背を向けて歩き出そうとすると、スネイプ先生は私に向けて杖を構えた。

 

「問題になりますよ? 先生」

 

「一体何が目的なのだ」

 

 先生は脅すような声で私に聞く。

 私はもう一度スネイプ先生に向き直ると、杖を構えることなくゆっくりとした速度で先生に近づいていった。

 1歩、2歩。

 スネイプ先生は動かない。

 そして私は胸に先生の杖が当たるほどの位置まで接近する。

 そして静かに閉心術を解いた。

 いや、ただ心を開いたのではない。

 私がお嬢様に抱いている忠誠の気持ちだけをスネイプ先生に開示する。

 スネイプ先生は驚いたように目を見開くと、開心術を解いた。

 

「仕えるべき主の為言えない。そういうことだな?」

 

 スネイプ先生は私が開示した情報の意味を悟ったのか確認するように私に問う。

 私はその言葉にゆっくりと頷いた。

 

「では先生、参りましょう。もしかしたらブラックを逮捕出来るかもしれません」

 

「そう言えば今日は魔法省大臣が城に来ていたな。引き渡せればマーリン勲章ものだろう」

 

 スネイプ先生と私との間で暗黙の了解が生まれた。

 スネイプ先生は私がブラックに接触していたことに関しては言及しない。

 私はスネイプ先生に話を合わせ、無理にブラックの無実を主張しない。

 ようは両者に都合がいいように話を合わせようということである。

 はっきり言って、私としてはブラックが捕まったとしても何度でも助けることが出来る。

 その場ですぐに処刑されない限りだ。

 無実が証明できないブラックを人の目がある場所で助けるというのはリスクが余りにも高すぎる。

 ここは一旦何も知らないふりをしてブラック逮捕に尽力しよう。

 私たちがハリーたちの走っていったほうに向かうとハリー、ハーマイオニー、そしてブラックが湖の近くで何故か気絶していた。

 私は気絶している理由が分からなかったが、スネイプ先生が空を指さす。

 

「吸魂鬼だ。まだ空に大量にいる。大方大勢の吸魂鬼に襲われ気絶したのであろう。何故吸魂鬼が逃げていったのかは分からんが」

 

 スネイプ先生は杖を一振りするとその辺の木の棒を担架に変える。

 私はハリーたちを持ち上げると担架に乗せた。

 スネイプ先生はブラックを乗っている担架ごと縄で拘束すると、何か複雑な魔法を掛ける。

 そして逃げられないように鉄の手錠でブラックと自分の腕を繋いだ。

 

「言っておくが――」

 

 スネイプ先生がこちらを見る。

 

「連行している途中急にブラックが消えたりしたら、私はそれを君のせいにする。当然のことだ。それは分かっているな?」

 

「そうできないように先ほど複雑な呪文を掛けていたのではなくて?」

 

「念のためだ」

 

 スネイプ先生はブラックの担架とハリーの乗った担架を引き城へと歩き出す。

 私もハーマイオニーとロンの担架を引きながら後に続いた。

 

 

 

 

 

「誰も死ななかったのは奇跡だ……こんなことは前代未聞、まったくスネイプ……君が居合わせたのは幸運だった」

 

 医務室にファッジ大臣の声が響く。

 私はスネイプ先生の横の椅子に座り先生の話に相槌をうつ機械と化していた。

 

「恐れ入ります。大臣閣下」

 

「マーリン勲章、勲二等……いや、私がやかましく言えば勲一等ものだ」

 

「まことにありがたいことです。閣下」

 

 私は置物の人形のように身動きせず椅子に座り続ける。

 スネイプ先生は私のことに関しては今のところ何も言っていない。

 ならば私も先生の言葉に頷くだけだ。

 あの後城に入るとスネイプ先生は真っ先にブラックを連れて西塔の方向に歩いて行った。

 ハリーを放置してである。

 私はそれを先に医務室に行っていろということだろうと判断し、3人の乗った担架を引いて医務室に向かった。

 そこでマダム・ポンフリーからの熱烈な歓迎を受け、ハリーたちはベッドへ、怪我が殆どない私は椅子へと座らされたのだ。

 数分もしないうちにスネイプ先生がファッジ大臣を連れて医務室に入ってくる。

 スネイプ先生はファッジ大臣に嘘の報告をしている最中だった。

 

「酷い切り傷があるが……ブラックの仕業だろうな?」

 

 ファッジ大臣がスネイプ先生の顔や腕についた怪我について言及する。

 その傷は私との対決中についたものだが、先生はなんていうだろうか。

 

「実は……ポッター、ウィーズリー、グレンジャーの仕業なのです。閣下……」

 

「そうなんです大臣」

 

 そういうことにしたいらしい。

 

「ブラックが3人に魔法を掛けたのです。3人の行動から察しますに錯乱の呪文か服従の呪文でしょうな。3人はブラックが無実である可能性があると考えていたようです。3人の行動には責任はありませんが、その3人が余計なことをしなければもっと早くブラックをとらえることが出来ていたでしょう」

 

「そうなんです大臣」

 

「この3人はこれまでも色々と上手くやり遂せておりまして、どうも自分たちの力を過信している節があるようでして……それにポッターの場合校長が特別扱いで相当な自由を許してきました」

 

「そうなんです大臣」

 

「あまりポッターを特別扱いするのはどうかと私は思うのです。私自身、個人的にはポッターも他の生徒同様に扱うよう心掛けておりまして……他の生徒であれば退学でしょうな。少なくとも友人と、ここにいる十六夜咲夜君をあれほど危険な目に遭わせたのですから」

 

「そうなんです大臣」

 

「閣下、お考えください。様々な校則に違反し……ポッターを守るためあそこまでの警戒措置が取られたにも拘らず規則を破り夜間人狼や殺人鬼と密会する。それにポッターは規則を犯してホグズミードに出入りしていたようなのです」

 

「そうなんです大臣」

 

「まあ落ち着きたまえスネイプ。いずれそのうち……あの子の行動も確かに愚かではあったが……」

 

 スネイプ先生の言葉にファッジ大臣が唸る。

 大臣もハリーにはどうにも弱いらしい。

 

「私が一番驚かされたのは吸魂鬼の行動だよ。どうして退却したのか……君、本当に思い当たる節はないのかね? スネイプ」

 

「ありません、閣下。私の意識が戻った時には吸魂鬼はブラックを襲うのをやめ、持ち場に戻ろうとしていました」

 

「そうなんです大臣」

 

「不思議なこともあるものだ。咲夜君も知らないのかね」

 

「そうなんです大臣」

 

「ミス・十六夜に気付け呪文で起こされたあと、私は追いついたのですが、その時には全員が意識不明でした。私は当然ブラックを縛り上げ、気絶している生徒を担架に乗せ全員をまっすぐ城へと連れてきました」

 

「そうなんです大臣」

 

 ファッジ大臣は何かを考えるように唸る。

 

「なんにしても、ブラックは凶悪な殺人鬼だ。ホグワーツ校内で吸魂鬼によるキスが行われる」

 

 ファッジ大臣が説明するように言った。

 その言葉にスネイプ先生は口元をにやりと歪ませた。

 私はその表情に一抹の不安を覚え、ファッジ大臣に聞く。

 

「大臣、キスとは一体なんですか?」

 

「驚いた。君会話ができるのかね!?」

 

 それはあまりにも失礼じゃなかろうか。

 私のその問いに大臣ではなくスネイプ先生がいやに機嫌よく答えてくれた。

 

「吸魂鬼は普段隠してある口を使って人間の魂を直接吸い取ることが出来る。魂を吸い取られた人間は廃人状態となり、最終的に吸魂鬼となるのだ」

 

「つまり……」

 

「そう、吸魂鬼のキスは実質的には処刑と同じようなものだよ。アズカバンから脱獄し、ホグワーツになんども気が付かれずに侵入できるような男を生きたまま連行するのは少々危険すぎる」

 

 ファッジ大臣がそう付け足した。

 

「えーっ!」

 

 次の瞬間、ベッドで気絶しているものと思っていたハリーが大声を上げた。

 私を含めた全員がハリーの方に振り向く。

 

「ハリー、どうしたのかね?」

 

 ファッジ大臣がハリーの方に近づいていく。

 このどさくさに紛れてブラックを救出しに行こうかと思ったが、スネイプ先生は隙のない表情で私の行動を監視していた。

 

「大臣、聞いてください! シリウスは無実だったんです! ピーター・ペティグリューは本当は生きていて自分が死んだと見せかけたんです! 今夜ピーターをみました。大臣、吸魂鬼にあれをやらせてはダメです! シリウスは――」

 

「ハリー、君は混乱している。あんな恐ろしい試練を受けたのだし。横になりなさい。さあ、全て我々が掌握している」

 

「してません! 捕まえる人を間違えています!」

 

「大臣聞いてください! お願いです」

 

 ハリーの訴えにハーマイオニーも参加した。

 2人でファッジ大臣にブラックの無実を訴える。

 そんな様子の2人に肩を竦めるようにスネイプ先生は言った。

 

「お分かりでしょう? 閣下。錯乱の呪文です。ブラックは見事に2人に術をかけたものですな」

 

「僕たち錯乱なんかしていません!」

 

 マダム・ポンフリーが慌てたようにこちらに駆けてきて、ハリーの口にチョコレートを詰め込みベッドに押し戻す。

 

「患者を興奮させてはいけません。先生、大臣ここは一旦お引き取りを」

 

「僕、興奮していません。僕の言うことを聞いてくれたらきっと……そうだ咲夜! 咲夜なら事情に詳しい筈です! 彼女に話を聞いてください」

 

 ハリーの叫びにマダム・ポンフリーが貴方も患者を興奮させる原因ですか? と言わんばかりの視線を投げかけてくる。

 

「ハリー、咲夜の言葉は沢山聞いた。「そうなんです大臣」これしか言ってなかったが……」

 

 確かにそう言っていたが、その印象はどうなのだろうか。

 すると今度はダンブルドア先生が医務室の中に入ってきた。

 ダンブルドア先生の顔を見てハリーが縋るように言う。

 

「ダンブルドア先生! シリウス・ブラックは――」

 

「ダンブルドア先生、貴方もですか!?」

 

 ハリーのそんな言葉はマダム・ポンフリーの大声に掻き消された。

 ダンブルドア先生は落ち着いた様子でマダム・ポンフリーをなだめる。

 

「ポピー、すまんのう。だがわしはミスター・ポッターとミス・グレンジャー、それにミス・十六夜に話があるんじゃ」

 

 ダンブルドア先生は私たちのほうに向きなおる。

 

「たった今シリウス・ブラックと話をしてきたばかりじゃよ」

 

「それはさぞかしポッターに吹き込んだのと同じおとぎ話を聞かせられたことでしょうな」

 

 スネイプ先生は吐き捨てるように言う。

 

「ネズミがどうとか、ペティグリューが生きているとか」

 

「さよう。ブラックの話はまさにそれじゃった。セブルス、私はこの3人と少しばかり話がしたい。席を外してくれるかの」

 

 スネイプ先生は私を睨みつけるとファッジ大臣と共に医務室を出ていった。

 マダム・ポンフリーも「次大声が聞こえたら本当に追い出しますからね」とダンブルドア先生を脅しつけ、別室へと入っていく。

 

「先生、ブラックの言っていることは本当です。僕たち、本当にペティグリューを見たんです」

 

「ペティグリューはルーピンが変身した時に逃げたんです」

 

「ペティグリューはネズミで……」

 

「ペティグリューの前足の鉤爪、じゃなかった。指、それは自分で切ったもので」

 

「ペティグリューがロンを襲ったんです。シリウスじゃありません!」

 

 周囲に私たちしかいなくなった途端、ハリーたちは本当に錯乱しているかのように話し始めた。

 ダンブルドア先生はそんな洪水のようなハリーたちの説明を静止させる。

 

「ブラックの言っていることを証明するものは何もない。君たちの証言だけじゃ。13歳の魔法使いが何を言おうと誰も納得せん。スネイプ先生が語る真相のほうが、君たちの話より説得力があることを理解せねばならん」

 

 ハリーが何かを言おうとするのをダンブルドア先生は手を上げて止める。

 

「必要なのは、時間じゃ」

 

 ハーマイオニーはダンブルドア先生の言葉の意味を理解したのだろう。

 ハッと息をのむように目を丸くした。

 

「時間がない、急ぎ足で説明するからよく聞くように。シリウスはフリットウィック先生の事務室に閉じ込められておる。首尾よく運べば今夜1つと言わずもっと、罪なき者の命を救うことができるじゃろう。ただし、見られてはならん。ミス・グレンジャー、規則は知っておろうな。誰にも、見られてはならんぞ?」

 

 ダンブルドア先生はそういうとハリーたちから離れ、医務室の入り口の方に行く。

 

「ミス・十六夜。君は別に話がある。ついてきなさい。それと、医務室の扉には鍵をかけておくかの。グレンジャー。3回、ひっくり返すのじゃ」

 

 私はダンブルドア先生と共に医務室を出る。

 隙を見計らってブラックを助けることはできるだろうか。

 私はダンブルドア先生の後ろで考える。

 ダンブルドア先生がドアを閉め、魔法で鍵を掛けようとした瞬間、ダンブルドア先生の前にハリーたちが割り込んできた。

 おかしい。

 先ほどまで2人は医務室にいたはずだ。

 

「やりました!」

 

 ハリーが息を切らしながらも嬉しそうに何かを報告する。

 

「シリウスは行ってしまいました。バックビークに乗って……」

 

 ブラックを逃がした?

 バックビークに乗った?

 私は先ほどのダンブルドアの言葉を思い出す。

 あれはハーマイオニーに逆転時計を使えと言っていたのだろうか。

 だとしたらハリーが変な方向から飛び出してきた理由もわかるというものだ。

 

「ようやった。さてと……よし、2人とも行ったようじゃ。中へお入り、わしが鍵を掛けよう」

 

 ダンブルドア先生は医務室の扉を開けハリーたちを中に入れる。

 そして今度こそダンブルドア先生は鍵を掛けた。

 先生は満足したようにうなずき、私に向き直る。

 先ほどハリーたちに向けていたものとは違う、真剣な目だ。

 

「実はシリウスから興味深い話を聞いての。この言葉だけでも思い当たる節はあるじゃろ」

 

 先生は私と目線を合わせる。

 その視線に開心術独特の違和感は感じなかった。

 

「シリウスは君がアズカバンから自分を脱獄させたと言った。その後も世話になったと……シリウスをアズカバンから脱獄させたというのは本当かね?」

 

 私はなるべく表情を変えずに考えこむ。

 これは言ってもいいものだろうか。

 先ほどのハリーたちへの助言を聞くに、ダンブルドア先生はブラックのことを無実だと考えている。

 だとしたら先生に話したところで私がアズカバンに放り込まれるということはないだろう。

 だが、軽々しく魔法界で脱獄不可能だと言われているアズカバンから一番監視が厳しいブラックを連れて出てきたとは言えないだろう。

 

「私1人の力では、そんなことは到底無理です」

 

 私は慎重に言葉を紡いでいく。

 

「ですがここ1年ブラックの世話をしていたのは否定しません」

 

 私はそう言葉を濁した。

 

「私1人の力では。ということは手助けがあれば出来る。そういうことじゃな」

 

「それも否定しませんわ」

 

「動機は?」

 

「……」

 

 私は先生の言葉に口を紡ぐ。

 これ以上私の口からは言えない。

 私はまっすぐにダンブルドア先生の目を見つめ返した。

 

「なるほど」

 

 ダンブルドア先生が納得したように呟き顔を上げる。

 

「君のお嬢様には困ったものじゃ」

 

 私はそんな先生の言葉に目を見開いた。

 

「どうやら当たりのようじゃな」

 

 ……ここに何処にでもよくあるホグワーツの壁がある。

 凄く硬い、石でできているため当たり前だ。

 私はその壁に思いっきり頭を打ち付けた。

 

「あぁ……私の馬鹿……」

 

 ダンブルドア先生の言葉に反応してしまった罰として、何度も壁に頭を打ち付ける。

 だが3度目ほどから、壁に頭が当たる感触が無くなった。

 壁がクッションのようなフワフワした素材に変化している。

 

「自分の体は労わるものじゃよ」

 

 ダンブルドア先生は軽く杖を振るうと私の額についた傷を治す。

 

「そして、顔は大事にしなさい」

 

 そういうと先生は私の頭を撫でた。

 

「わしはレミリア・スカーレットという存在をトレローニー先生以上には知っておるつもりじゃ。スカーレット嬢の性格も、あの気まぐれさも知っておる。勿論、それがスカーレット嬢の魅力であり、強みでもある」

 

 先生は何が言いたいのだろうか。

 ただ静かに私の顔を見ていた。

 

「先生。私、来年荒れます。今のうちに予告しておきますね」

 

 私は保険とばかりに先生にそう言った。

 

「スカーレット家のメイドは、敵に回すと恐ろしいですよ」

 

「ほっほっほ、そうじゃな。じゃが、それと同時に味方につけると頼もしそうじゃ。ヴォルデモートにとられんよう、気を付けておかねばの」

 

 私とダンブルドア先生は笑い合う。

 次の瞬間廊下に怒声が響いた。

 

「貴様の仕業か!? 十六夜咲夜ッ!!」

 

 スネイプ先生の声だ。

 大方ブラックを逃がしたのは私だと思っているのだろう。

 

「どうしたのじゃセブルス。それと、咲夜には何かを成す時間はなかった。ずっとわしとここでこうして会話していたからの」

 

「そんなはずはない! 貴様しかこのようなこと……」

 

「わしの言葉が信用できんかね。きっとブラックは姿現しを使ったのだろう、セブルス。誰か一緒に部屋に残しておくべきじゃった」

 

「ヤツは断じて姿現しをしたのではない!! この城では出来ないのだ! それは貴方が一番良くご存じのはずだダンブルドア校長! 十六夜でなかったらポッターだ!!」

 

「スネイプ、落ち着け。ほら、この部屋には外から鍵が……」

 

 スネイプ先生はファッジ大臣のそんな静止を無視して扉に魔法を掛け、鍵を吹き飛ばし中に入っていく。

 私はそんなスネイプ先生に肩を竦めると談話室の方向に向けて歩き出す。

 なんだがここ数年で一番疲れたような気がする。

 クリスマスパーティー以来の全身の倦怠感に、私は今すぐ寝たいと思った。

 もう、今年度も終わる。

 紅魔館に帰れるのだ。

 私は肖像画を通り談話室から女子寮へと上がると、ベッドに潜り込む。

 そして目を閉じると自然と私は夢の世界へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 ハリーたちは次の日の朝にはすっかり元気になり医務室から退院してきた。

 朝食の席で逆転時計の話を聞いたが、どうやらハリーとハーマイオニーは上手いことバックビークとブラックを助け出すことができたらしい。

 ハグリッドはバックビークが逃げたことを泣くほど喜んでいた。

 残念な知らせがあるとしたらルーピン先生が辞職したことだろうか。

 どうやらスネイプ先生が『うっかり』ルーピン先生が狼男であるということをスリザリン生に話してしまったらしい。

 ドラコはまるで自分が発見したことのように生徒に情報をばら撒いていた。

 まあドラコ自身バックビークが逃げたと知って激怒していたので、それの腹いせも兼ねているのだろう。

 ドラコはしきりにハグリッドが隙を見つけて逃がしたに違いないと言っていた。

 学年末の宴会では、グリフィンドールが3年連続で寮杯を獲得した。

 どうやらクィディッチ優勝戦での成績が大きく反映される結果になったようだ。

 テーブルは真紅と金色で彩られ、グリフィンドールのテーブルはお祭り騒ぎだった。

 だが私が思うにこの流れは良くない。

 来年あたりはスリザリンか他の寮が寮杯を獲得すべきだろう。

 でなければ1年目のスリザリンのように全ての寮が敵になってしまうと考えられるからだ。

 私はそんなことを考えつつ、宴会のご馳走に手を付ける。

 ……うん、やはり美味しかった。

 

 

 

 

 宴会の翌朝、私はハリーたちと共にホグワーツ特急に乗り込んでいた。

 コンパートメント1つを占領し、お菓子を広げたり今年有ったことを話したりしているうちに時間も過ぎていく。

 

「そう言えば今朝、朝食の前にマクゴナガル先生に伝えてきたわ。私、マグル学をやめることにしたの」

 

 ハーマイオニーのそんな言葉にロンは手に持っていたかぼちゃパイを落とした。

 

「だって君、100点満点のテストで320点取ったじゃないか!」

 

 ロンが当たり前だと言わんばかりに声を上げる。

 まあ確かにハーマイオニーにマグル学はいらないだろう。

 

「流石に今年みたいになるのは少し耐え切れないわ。あの逆転時計。あれ、結構気が狂いそうだった。咲夜の助言の後は少し改善されたけど、来年も同じことをする気にはなれないの。逆転時計は返却したわ。マグル学と占い学を落とせばまた普通の時間割になるし」

 

「そう、まあ無理はいけないわ」

 

 私はハーマイオニーにそんな言葉を掛ける。

 まあどちらもハーマイオニーにはいらない学問だろう。

 

「でも酷いよな。君が僕たちにそのことを言わなかったなんて。いまだに信じられないよ」

 

 ロンが先ほど落としたかぼちゃパイを拾いながら頬を膨らます。

 

「僕たち、君の友達じゃないか!」

 

「よく言うわ。あれだけ喧嘩ばかりしておいて」

 

 私の言葉にロンが口を噤んだ。

 心当たりしかないのだろう。

 

「冗談、貴方たちは誰から見ても仲良しトリオよ」

 

 私はハリーのほうをチラリと見る。

 ハリーは窓の遠くの方をじっと見ていた。

 

「ねえ、ハリー。元気だして!」

 

「大丈夫。休暇のことを少し考えていただけさ」

 

 ハーマイオニーの心配そうな声に、ハリーが答えた。

 

「うん、僕もそのこと考えてた。ハリー、絶対僕たちのところに来て、泊まってよ。僕、パパとママに話をして準備して、それから話電する。話電の使い方はもう分かったから……」

 

 ロンがハリーを励ますようにそう言った。

 

「ロン、電話よ。ハーマイオニーの代わりに貴方がマグル学を取るべきね」

 

 私が茶化すとロンは顔を真っ赤にして私に文句を言う。

 私はそれを笑いながら受け流した。

 

「なんにしてもだ。今年の夏はクィディッチのワールドカップだぜ!? どうだい、ハリー? 泊まりにおいでよ。一緒に見に行こう。パパ、たいてい役所からチケットが手に入るんだ」

 

 ロンのこの提案は効果があったようだ。

 

「うん、ダーズリーは絶対僕を喜んで追い出すよ」

 

 午後も過ぎた頃、窓の所に小さなフクロウが飛んでいるのが見える。

 列車に手紙を届けようとする猛者もいるのだなと変なことを考えていたのだが、どうやらこのフクロウは私たちに手紙を届けようとしているみたいだった。

 ハリーは窓を開けてフクロウを捕まえ、手紙を取り外す。

 小さなフクロウは手紙を届けられたことが嬉しかったのかピョンピョンとコンパートメント内を飛び回り私の掌に乗った。

 

「シリウスからだ!」

 

 私がフクロウで遊んでいるとハリーが叫んだ。

 全員がその手紙を覗き込む。

 内容を整理するとこんなことが書かれていた。

 バックビークと共に隠れる場所を無事見つけたこと。

 遠く離れたところでマグルに自分の姿を目撃させ、ホグワーツの警備を解くということ。

 ファイアボルトの送り主は自分で、私に頼んで箒を贈って貰ったということ。

 箒はハリーへの13年分の誕生日プレゼントであるということ。

 そして来年もっとハリーがホグワーツでの生活が楽しくなるようにあるものを同封したということ。

 ハリーは封筒の中にもう1枚羊皮紙が入っているのを見つける。

 ハリーはその羊皮紙を見て目を輝かせた。

 

『私、シリウス・ブラックはハリー・ポッターの後見人として、ここに週末のホグズミード行の許可を与えるものである』

 

「ダンブルドアだったらこれで十分だ!」

 

 ハリーは幸せそうに言った。

 

「ロン。ここに追伸があるわよ」

 

 私は皆に見えるように羊皮紙を広げる。

 そこにはロンがペットのネズミの代わりにこの小さなフクロウを飼ってくれたら嬉しいといった旨の文章が書かれていた。

 ロンはその一文に目を丸くし、私からフクロウを受け取る。

 

「僕がこいつを飼うって?」

 

 ロンはしげしげとフクロウを見ていたが、恐る恐るクルックシャンクスの方に突き出し匂いを嗅がせた。

 

「どう思う? 間違いなくフクロウなの?」

 

 ロンが心配そうにクルックシャンクスに聞く。

 クルックシャンクスは満足げにゴロゴロと喉を鳴らした。

 どうやら本当にただのフクロウだったようだ。

 ロンはその返事で満足したのか、大事そうにフクロウを抱える。

 ペットか。

 ハリーにはヘドウィグ、ハーマイオニーにはクルックシャンクス、ロンには今持っている小さなフクロウ。

 じゃあ私は?

 私は少し考えて、鞄の中に入っているリドルの日記を思い出した。

 そして自分の考えが余りにもバカバカしいモノだと気が付くと声を出して笑ってしまう。

 ハーマイオニーはそんな私を不思議そうに見ていたが、私はそんなことお構いなしだった。

 そんなことをしているうちにホグワーツ特急はキングズ・クロス駅に到着する。

 私が汽車から降りると途端に何者かに抱き着かれた。

 

「さ~くぅやちゃーん! お勤めご苦労さん! 娑婆の空気はいかが?」

 

 私はジタバタと美鈴さんの中で暴れる。

 だがやはり抜け出すことはできない。

 

「やめてください美鈴さん! これからお勤めしにいく子もいるんですから!!」

 

 無論、ハリーのことだ。

 ハリーは抱き着かれている私を驚いたような顔で見ている。

 私はやっとの思いで美鈴さんを引き剥がした。

 

「僕も毎年だけど……咲夜も大変だな」

 

 ロンが頬を掻きながら言う。

 ハーマイオニーは美鈴さんに挨拶をしていた。

 

「なるほど……じゃあこの3人が咲夜ちゃんのご学友ということかな?」

 

 美鈴さんはハリーとロンの肩を抱き私のほうに向かせる。

 ハリーたちは照れくさそうに頬を染めていた。

 

「そんなんじゃないわ。ルームメイトと、同じ寮の生徒よ」

 

「またまた~照れちゃって」

 

 初めからどう否定してもそう言うに決まっている。

 私は美鈴さんを強引に無視し、ハリーたちの方を向いた。

 

「次会うときは4年生かしら」

 

「ああ、いい夏休みを」

 

 私はぐいぐいと美鈴さんを引っ張って3人から離れる。

 そして紅魔館への帰路を急いだ。




用語解説


狼男になったルーピン
禁じられた森に逃げていきました。

逃げたピーター
ヴォルデモートを拾ってリドルの屋敷に
主な仕事:ナギニのエキス絞り。時給0ガリオン

ブラックとバックビーク
無事ハリーたちが逃がしました。


追記
文章を修正しました。

2018-09-12 加筆修正

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