私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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そーれ。お辞儀をするのだ!

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


校長室とか、第三の課題とか、復活とか

 6月24日の朝。

 私は大広間で朝食を取っていた。

 スライスした食パンに目玉焼きを載せる。

 そして軽く塩を一振り。

 昔、日本のアニメ映画でこのような食べ方をしていたのを思い出し、実践してみたが意外と美味しい。

 目玉焼きだけじゃ味が物足りないかと思ったら、卵の独特のうま味を塩が引き立ていい味を出している。

 お嬢様に出せるような料理ではないが、時間のない時の朝食などにはいいだろう。

 向かい側ではハリーたちが日刊予言者新聞を顔を突き合わせて読んでいる。

 どうやらハリーの事が1面に載っているようだ。

 表情から察するにあまりいいことが書いてあったとは思えないが。

 突然ハーマイオニーは何かを思いついたのか飛ぶように大広間を出て行ってしまう。

 大方リータ・スキーターがらみだろう。

 

「あと10分で魔法史の試験だぞ!? おったまげー。試験に遅れるかも知れないのに、それでも行くなんてよっぽどあのスキーターの奴を嫌っているんだな」

 

 ロンが目を丸くしてハーマイオニーを見送る。

 どうやら私の予想は当たっていたようだった。

 

「そういえばハリー。ビンズのクラスでどうやって時間を潰すつもりだ? 咲夜みたいに一緒に試験を受けるか?」

 

 ロンが私を見ながら言う。

 そう、今の時期はまさに期末試験真っ盛りだ。

 来年にふくろう試験を控えているだけあり、今年の期末試験は皆気合が入っている。

 そして代表選手は期末試験が免除されていたが、私は試験中なにかするわけでもないので一緒に試験を受けているのだ。

 ハリーは勉強する気など起きないのか試験中は教室の隅で第三の課題で使えそうな呪文を探している。

 ハリーはロンと私をチラリと見ると、「僕はパス」とロンに言った。

 私はパンを食べ終わり席を立とうとする。

 するとマクゴナガル先生がグリフィンドールのテーブル沿いに私たちに近づいてきた。

 

「おふたりとも、代表選手は朝食後に大広間の脇にある小部屋に集合です」

 

「でも、競技は今夜です!」

 

 ハリーが先生が何か勘違いをしているのではないかと言った表情で言葉を返した。

 

「それは分かっています。ポッター」

 

「先生、あと5分で魔法史の期末試験なのですが」

 

「ミス・十六夜。代表選手は期末試験を免除されると最初に伝えたはずですが?」

 

 マクゴナガル先生が不思議そうな顔をして私を見る。

 先生のその言葉に私ではなくロンが答えた。

 

「咲夜は暇つぶしに今までのテストを全部受けています」

 

「そうですか……折角スカーレット嬢が来ているのですが」

 

「行きます!」

 

 私が余りにも早く即答した為か、マクゴナガル先生は少し後ろにふらついた。

 お嬢様と期末試験を天秤にかけるなどとんでもない。

 マクゴナガル先生はなんとか持ち直すと言葉を続ける。

 

「よいですか、代表選手の家族が招待されて最終課題の観戦に来ています。皆さんにご挨拶する機会だというだけです。早く終われば試験にも途中から参加するとよいでしょう」

 

 マクゴナガル先生は立ち去っていく。

 私はハリーのほうを見るが、ハリーは唖然とした顔で固まっていた。

 

「まさか、マクゴナガル先生、ダーズリーたちが来ると思っているんじゃないだろうな?」

 

「さあ? あ、ハリー、僕急がなくちゃ。ビンズのに遅れちゃう!」

 

 じゃあね、とロンは大広間から走り去っていく。

 ハリーは何やらモヤモヤとした顔で朝食を再開させた。

 

「ダーズリーの噂はよく聞くけど、そんなに酷いの?」

 

「あの連中は自分たちがまともであることに誇りを持っているんだよ」

 

 だから魔法使いの祭典にはこない、そういうことらしい。

 ハリーからダーズリー一家に関していい噂を聞いたことがないので、あまり良い家族とは言えないのだろう。

 

「取り敢えず私はお嬢様が待っているから行くけど、ハリーはどうするの? 1人で部屋に入る?」

 

「それも嫌だな。一緒に行くよ」

 

 ハリーは嫌々といった顔でテーブルから立ち上がる。

 私はそんなハリーの手を掴むと引きずるように部屋を目指した。

 部屋に入ると中央のソファーにお嬢様が座っているのが見えた。

 傍らには美鈴さんを引き連れている。

 

「咲夜、首尾はどう?」

 

 お嬢様がすっと椅子から立ち上がる。

 美鈴さんはワールドカップの時に着てきたようなキッチリとしたスーツを身に着けていた。

 

「上々です。お嬢様」

 

 私はお嬢様に挨拶をしてから部屋の中を見回す。

 クラムは父親と母親らしき人物とブルガリア語で課題に関することを話している。

 部屋の反対側ではデラクールが母親らしき人と妹と共にホグワーツでの生活の話をフランス語でしていた。

 そしてハリーの家族はというとロンの母親のモリーさんと兄のビルが来ていた。

 きっとマクゴナガル先生かダンブルドア先生が計らってくれたのだろう。

 ハリーにとってはロンの家族こそ本当の家族のようなものだ。

 そうしているとお嬢様が私のほうにより耳元に近づく。

 そして若干背伸びして私の耳に囁いた。

 

「今日はどんな手を使ってもいいわ。少しでも早く優勝杯に触れなさい。双子の呪文で偽物を作るのも忘れるんじゃないわよ」

 

「心得ております」

 

 私が頷くとお嬢様は満足そうに頭を撫でた。

 若干背伸びしながらだが。

 

「おぜうさま撫でにくそうですね。どれ、私がちょっとお手伝いを」

 

 美鈴さんがお嬢様の脇を掴んで自分の胸元まで持ち上げた。

 

「ちょ! 美鈴、下ろしなさい! そこまで小さくないわ。下ろせって言ってんでしょうがッ!!」

 

 お嬢様の後ろ蹴りが美鈴さんの顎にヒットする。

 その威力は凄まじく美鈴さんはそのまま後ろに吹き飛ばされると掛けてある肖像画の1つを突き破り壁に頭から刺さった。

 部屋中が揺れあたりに埃が舞う。

 流石に全員が何事かとこちらを見ていた。

 

「お嬢様、お怪我はございませんか?」

 

 私はお嬢様の着ている服についた埃を丁寧に払う。

 ハリーは何事かと美鈴さんに駆け寄った。

 

「これ……死んでない、ですよね?」

 

「大丈夫よ。門番だし」

 

「美鈴さんですし」

 

 私とお嬢様は口々に言う。

 ハリーはそういう問題じゃないだろうとあたふたしていた。

 

「ほへふはは~、はへへふははひっへ」

 

 美鈴さんは壁から頭を引っこ抜くと何か抗議しているようだったが、顎が外れているので何を言っているか全然分からない。

 美鈴さんは自分の顎を叩きはめると改めて言った。

 

「おぜうさま、学校で暴れちゃ駄目ですよ? ほらこの肖像画とかとっても高そうですし。あー私しーらない!」

 

 美鈴さんは手を後ろで組むと口笛を吹き始める。

 部屋にいる殆どの人は、壁や肖像画よりも美鈴さんに怪我がないのかが気になるようだった。

 

「咲夜」

 

「はい」

 

 私はお嬢様の言葉の意味を理解し時間を止める。

 そして部屋の壁や肖像画に修復呪文を掛け、元に戻すと時間停止を解除した。

 

「あら、美鈴。何も壊れていないようだけど。どこの何が高そうだって?」

 

 美鈴さんはぐるりと頭を回し壁を確認する。

 そしてため息を1つついた。

 

「直ればいいってものでもないでしょうに……あ、咲夜ちゃん私の服も綺麗にしてくれない?」

 

「しなくていいわよ」

 

「してください! お願いします!」

 

 美鈴さんが私に抱き着いてくる。

 流石にウザったいので美鈴さんに杖を向けた。

 

「スコージファイ!」

 

 一瞬にして美鈴さんの服についていた壁の一部や埃が綺麗になった。

 

「サンクスさくっちゃん。よっ! 我らがメイド長」

 

 美鈴さんは私の手を掴み上下にブンブンと振った。

 

「えっと、大丈夫ですか? 美鈴さん」

 

 ハリーが恐る恐る美鈴さんに尋ねる。

 美鈴さんはピンと背筋を伸ばした。

 

「ええ、大丈夫です。これでも丈夫なんですよ?」

 

 美鈴さんは何処からともなくクナイのようなものを取り出すと手に突き刺す。

 クナイは深々と美鈴さんの手の平を貫き地面に血を滴らせた。

 デラクールとその妹が小さく悲鳴を上げる。

 ハリーはその光景に目が釘付けになっていた。

 モリーさんが慌ててこちらに駆けてくるのが見える。

 

「え? 美鈴さん一体何を――」

 

 ハリーはどうしていいかと動揺しているように美鈴さんの前であたふたとした。

 次の瞬間美鈴さんはそんな反応が面白いというようにカラカラと笑う。

 そして刺さっているクナイを引き抜いた。

 一瞬クナイの軌道に沿うように血のアーチが出来たがまるで逆再生でも見ているかのように美鈴さんの傷は塞がる。

 美鈴さんは手とクナイについた血をハンカチで拭うとハリーに向けて手を伸ばした。

 

「ほら、もう治ってる。私たち妖怪なんてこんなもんよ」

 

「こら、美鈴さん。床が血で汚れたじゃないですか。これでも毎日屋敷しもべ妖精がですね……」

 

 私は美鈴さんに文句を言いながら杖を床に向け血を綺麗にする。

 美鈴さんはタハハと頭を掻いた。

 

「さて、校内を少し歩きましょうか。咲夜。案内は頼むわよ」

 

「かしこまりました」

 

 お嬢様はそのまま大広間の方へと歩いていく。

 そのあとをすぐに美鈴さんが追った。

 

「ああいう方たちなのよ。気にしないで」

 

 私は軽くフォローを入れるとお嬢様の後を追う。

 お嬢様は大広間のテーブルに朝食として置いてあるリンゴを1つ掴むと私のほうへと投げた。

 私は時間を止めそのリンゴを剥き8等分に切ると皿の上に盛り付け果物用のフォークを1つつける。

 そして時間停止を解除しお嬢様の方へとリンゴを差し出した。

 

「ありがと」

 

 お嬢様は歩きながらリンゴを食べ始める。

 美鈴さんはテーブルにあるリンゴをそのまま丸かじりした。

 

「んで、何処に向かうんです? 校長室?」

 

 美鈴さんはリンゴをシャクシャクと食べながらお嬢様に聞く。

 

「そうね、それも捨てがたいけど、個人的には秘密の部屋ってのに興味があるわ」

 

「ですが、あそこにあるのは蛇の死体ぐらいでして……」

 

「じゃあ校長室」

 

「かしこまりました」

 

 私はハリーから聞いた話を頼りにガーゴイルの石像がある場所までお嬢様を案内する。

 確かここで合言葉を言わなければならないらしいのだが、生憎私は合言葉を知らなかった。

 

「百味ビーンズ」

 

 お嬢様がガーゴイル像に向けてお菓子の名前を言う。

 するとガーゴイル像は突然生きた本物となり、ピョンと脇へ飛びのいた。

 そしてその背後にあった壁が音を立てて開いていく。

 

「よく合言葉を知ってましたね。おぜうさま」

 

 美鈴さんが感心したように言う。

 お嬢様は無警戒な様子でその中へと入っていった。

 

「夢で見たのよ。さあ、行きましょう」

 

 壁の奥には螺旋階段があり、エスカレーターのように上へ上へと動いている。

 私が先行し危険がないか確認するとお嬢様も階段へと乗った。

 そのまま私たち3人は上へと運ばれていく。

 そして最終的に輝くような樫の扉にたどり着いた。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 美鈴さんが一番にドアを掴んで中に入る。

 お嬢様と私もその後に続いた。

 どうやらここは校長室で間違いないようだ。

 変な小物で溢れ、壁には歴代の校長の写真が掛かっている。

 そして部屋には不死鳥のフォークスや組み分け帽子、グリフィンドールの剣なども置いてあった。

 

「小洒落た部屋ね。アルバスらしいわ」

 

 お嬢様は机の上に置いてあった小物の1つを弄りながらぽつりと言う。

 私はその言葉に反応しようと口を開きかけたがその前に違う人物の言葉が割り込んだ。

 

「スカーレット嬢に褒められるとは光栄じゃのう」

 

 一体いつからそこにいたのだろうか。

 ダンブルドア先生は私たちの真正面にある大きな椅子に腰かけていた。

 まるで1時間ほど前からそこに座っていたかのような違和感の無さである。

 私は少々ギクリとしたが、お嬢様は平静そのものだ。

 

「ええ、ここにあるやつなんか色々なものが出たり引っ込んだりしているわよ。これも魔法で動いているのでしょう? なんというか、万能過ぎて美しみに欠けるわね」

 

「ふむ、そういうものかのう」

 

「ええ、発達しすぎた技術というものは面白みがないわ。時計がいい例ね。クォーツの時計は確かに正確で価格も安いわ。でも、時計としての価値は機械式には敵わない。機械的な機構を用いて様々な機能を持つ複雑時計はそれだけで1つの美を持つわ」

 

 お嬢様は小物の1つに手をかざす。

 するとその小物はストンと動きを止めた。

 どうやらお嬢様がその小物が持っていた魔力を消し去ったようだ。

 

「少しでも前提が崩れたらストンと、こうなってしまう」

 

「ふむ、そうかも知れんのう。じゃが、わしはそこまで魔法が便利なものとは思っとらんよ。したいことも満足にできぬ不完全なものじゃ」

 

 ダンブルドア先生は何処か遠くを見るような目でそう呟いた。

 その目はお嬢様が妹様のことを語る時の目に似ている。

 どこか自分を責めている。

 そんな目だ。

 

「さて、1つお聞きしてもよろしいかの?」

 

 ダンブルドア先生はいつもの表情に戻り、お嬢様に尋ねる。

 

「どうしてスカーレット嬢がここにいるのかのう?」

 

「あら、城に招待したのは貴方じゃない。ボケるにはまだ早いわよ?」

 

「ふむ、もっともじゃな。だがしかし、今生徒は試験中じゃ。なので試験が実施されておる教室には入らんようお願いしたい」

 

「そんなことぐらいは分かってるわ」

 

 お嬢様はひらひらと手を振ると踵を返す。

 美鈴さんは部屋の小物に興味津々だったが、お嬢様が部屋を出ていくと急いでついてきた。

 そのまま螺旋階段を下り、ガーゴイル像の裏から廊下へと出る。

 

「さて、競技まではまだ時間があるけど。何をして時間を潰そうかしら」

 

「そうですね……ホグワーツで何か時間が潰せるようなところですと……図書室、厨房、必要の部屋ぐらいでしょうか」

 

 お嬢様の問いかけに私は答える。

 お嬢様は少し悩んだ後私に告げた。

 

「ホグズミード村に行きましょう。夜まではまだ相当時間があるし競技に間に合わないということはないわ。美鈴、日傘」

 

「を?」

 

「ぶちのめすぞお前」

 

 お嬢様の言葉の続きを催促した美鈴さんがお嬢様から鋭いボディーブローを貰う。

 美鈴さんは3メートルほど吹っ飛んだが、なんとか立て直し苦笑いを浮かべた。

 

「じょ、冗談ですよぅおぜうさま。誰もおぜうさまのローストチキンなんて見たく――ぐぅゅっ!!」

 

 今度は頭を叩かれた。

 その衝撃で凄い勢いで地面に叩きつけられたが大丈夫だろうか。

 

「大丈夫よ。美鈴だし」

 

 お嬢様が私の心境を察したのかそう答えた。

 

「馬鹿はほっといていきましょう。咲夜」

 

「はい」

 

 私は日傘を取り出し、お嬢様を日傘の中に入れる。

 そして苦しそうに呻く美鈴さんをその場に放置してホグズミード村へと向かう道を歩いた。

 もっとも、美鈴さんはすぐに追いついてきたが。

 

 

 

三本の箒

レミリア「競技前だけあって賑やかね」

美鈴「女将さんテキーラ3つ!」

咲夜「美鈴さん朝からお酒って……」

 

悪戯専門店ゾンコ

レミリア「鼻食いつきティーカップですって」

美鈴「クソ爆弾ってなんだろう」

咲夜「館で爆発させたら美鈴さんでも殺しますよ」

 

菓子店ハニーデュークス

レミリア「血の味がするペロペロ・キャンディー?」

咲夜「あ、それあんまりお嬢様の好みの味じゃなかったです」

美鈴「このゴキブリ・ゴソゴソ豆板って――」

レミリア「貴方が1瓶全部食べるなら買ってあげてもいいわよ」

美鈴「じゃあいいです」

 

喫茶店マダム・パディフットの店

レミリア「私のカラーの喫茶店ね」

美鈴「あ、でも紅茶はあんまり……」

咲夜「こういうところのを紅魔館のと比べちゃ駄目です」

 

魔法用具店ダービッシュ&バングズ

レミリア「ガラクタ屋?」

美鈴「ジャンク屋」

咲夜「修理屋です」

 

スクリベンシャフト羽ペン専門店

レミリア「そう言えば咲夜は羽ペンを使わないわよね」

咲夜「瓶に浸けるのが面倒で」

美鈴「インクの切れない羽ペンって売ってますよ?」

咲夜「羽毛が服につくので……」

 

グラドラグス魔法ファッション店

レミリア「普通のからケバケバしいのまで何でもあるわね」

美鈴「魔法が切れた瞬間縫い目が全部ほどけてとかなりませんよね?」

咲夜「一部そうなりそうな商品があるのが怖いわね」

 

ホグズミード郵便局

レミリア「ほら、美鈴。食料が一杯よ? どうしたの? 食べないの?」

美鈴「あのことまだ引きずってるんですか?」

咲夜「あのフクロウはここのだったのかしら」

 

 

 

 晩餐会に出るために私たちはホグズミード村からホグワーツへと戻る。

 大広間には既に各校の生徒たちがテーブルについており、私たちは教職員用のテーブルへと座った。

 

「ホグワーツの料理ってどうなの? 美味しい?」

 

 お嬢様が目の前に現れた料理を見て私に聞く。

 

「そうですね。たまに私も手伝ったりすることがありますが、普通に美味しいですよ」

 

 隣にいる美鈴さんは、美味い美味いと言いながら料理を食べている。

 お嬢様は大きなローストビーフを自分の皿に取り食べ始めた。

 

「あら、普通に美味しいわね。ホグワーツでは腕のいいコックを雇っているようだわ」

 

 私も第三の課題に向けてスタミナをつけるために軽く食事を取る。

 そして皆が満足した頃を見計らって料理が皿の上から消え、ダンブルドア先生が立ち上がった。

 

「紳士、淑女のみなさん。あと5分も経ったらみなさんにクィディッチ競技場に行くように、わしからお願いすることになる。三大魔法学校対抗試合、最後の課題が行われるためじゃ。代表選手は、バグマン氏に従って今すぐ競技場へ向かうように」

 

 私はダンブルドア先生のそんな言葉を聞いて立ち上がる。

 そしてお嬢様の方へと向いた。

 

「少々お使いに行ってまいります」

 

「ええ。行ってらっしゃい」

 

 生徒用のテーブルを見るとハリーやクラム、デラクールも立ち上がっている。

 私たちは拍手を受けながら大広間を抜け、バグマン氏のあとに続き競技場へと向かった。

 クィディッチ競技場とはいうが、今やその面影は全くない。

 生垣は6メートルほどまで成長しており、正面に隙間が開いている。

 どうやらあれが迷路への入り口のようだ。

 私たちが競技場に到着してから5分も経つとスタンドに人が入り始める。

 何百人という生徒が次々に着席し、あたりは興奮した声と大勢の足音で満たされた。

 私は空を見上げる。

 もう既に日は落ちているのでお嬢様も日傘はいらないだろう。

 しばらく経つとムーディ先生、マクゴナガル先生、フリットウィック先生、ハグリッドがグラウンドに入場してくる。

 

「私たちが迷路の外側を巡回します。何かに巻き込まれて助けを求めたいときは、空中に赤い火花を打ち上げなさい。私たちのうち誰かが救出します。よろしいですか?」

 

 マクゴナガル先生の言葉に私たちは頷いた。

 それを見ると先生たちはバラバラの方向へと歩き出す。

 バグマン氏はその様子を見ると杖を喉に当て拡声呪文を唱える。

 

「レディース&ジェントルメン! 第三の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題がまもなく始まります! 現在の得点状況をもう一度お知らせしましょう。1位、得点100点――十六夜咲夜選手! ホグワーツ校!」

 

 大歓声と拍手が競技場内に響き渡る。

 

「2位、得点90点――ハリー・ポッター選手! ホグワーツ校! 3位、得点80点――ビクトール・クラム選手! ダームストラング専門学校! 4位――フラー・デラクール選手! ボーバトン・アカデミー!」

 

 暫くすると歓声も収まり、バグマン氏は再び口を開いた。

 

「では……ホイッスルが鳴ったら十六夜選手が1番にスタートします」

 

 私はその言葉を聞いて杖を抜いた。

 

「いち……に……さん!」

 

 ピッという軽いホイッスルの音が聞こえ、私は全力でこの場から走り出す。

 中心へと向かう道は記憶している。

 

「ルーモス!」

 

 私は杖に明かりを灯し生垣の中に入っていく。

 そして全員の視線が切れたところで私は時間を止めた。

 

「よし。これで私の勝ち」

 

 私は走るのを止め、迷路を慎重に歩き始める。

 まだ2回目のホイッスルの音は聞いていない。

 ということはこのまま優勝杯にたどり着くことが出来たら私の優勝である。

 私は記憶を頼りに迷路を進んでいく。

 迷路内にはスクリュートや様々な魔法生物が放たれていたが、時間が止まっているのでただの障害物でしかない。

 というよりかは、生垣自体ただの障害物でしかないのだ。

 私は生垣の上まで飛ぶと空から優勝杯を探す。

 すると競技場の真ん中らへんにぽっかりと開いている空間を見つけた。

 

「あそこね」

 

 私はその空間へと降りる。

 そこには三校対抗試合の優勝杯が置かれていた。

 私はそれを確認し、手に取る。

 確かに優勝杯だ。

 私は時間を止めたまま優勝杯に双子の呪文を掛ける。

 少々特殊な呪文が掛かっていたのか複製するのに時間が掛かったが、何とか偽物を作ることができた。

 私は時間停止を解除し、本物を鞄に隠そうと手を触れる。

 次の瞬間私はへその裏側のあたりが引っ張られるような感覚を受けた。

 両足が地面から離れ、流石に拙いと感じた私は優勝杯から手を離そうとするが離れない。

 しまった。

 優勝杯はポートキーだったのだ。

 私は優勝杯に引っ張られるように飛ばされる。

 時間を止めようかとも思ったが、術の途中で不確定要素を混ぜ込んだら体がバラけるかも知れない。

 私は何処かに足が付くのを辛抱強く待った。

 次の瞬間私は何処かの地面に着地する。

 私は手に持っている優勝杯を鞄に仕舞い、辺りを見渡す。

 

「ここは何処かしら」

 

 あたりには草が生い茂り手入れがなされているとは思えない。

 どうやらここは墓地のようだ。

 右にはイチイの大木があり、その向こう側に小さな教会が見える。

 私は墓の1つに目を向けた。

 かなり古い墓だがしっかりとしたものだ。

 しかも最近手入れがなされた形跡がある。

 その墓石には『Tom Riddle』と書かれている。

 

「リドル……ヴォルデモートの墓? いえ、違うわね。これはリドルの父親の墓だわ」

 

 私は墓石に手を合わせる。

 手を合わせるのは日本の仏教の文化だったか?

 まあ取り敢えずリドルの父親の為に祈った。

 もっとも、形だけだ。

 後ろから私に接近している何者かを油断させるためである。

 

「誰だ?」

 

 甲高く冷たい声が聞こえた。

 私はゆっくりと後ろを振り返る。

 

「貴方は……ペティグリューね」

 

 そこにはフード付きのマントをすっぽりと被っているピーター・ペティグリューが赤子のようなものを抱えて立っていた。

 その横にはクィレルの姿もある。

 クィレルは私の姿を見て少し目を細めた。

 

「お前は……十六夜咲夜か」

 

 ペティグリューは私を思い出したようだ。

 赤子を大事そうに抱えながら呟く。

 私は何かされる前に時間を停止させた。

 そしてクィレルに近づき、クィレルの時間だけを動かす。

 

「……ほう。時間が止められることは知っていたが、実際に体験してみると恐ろしい能力だな」

 

 クィレルは周囲を見回す。

 そして改めて私の方へと向き直った。

 

「十六夜君、何故君がここにいる? というのは愚問だったな。君が優勝できないはずがない。優勝杯の偽物は残してきたか?」

 

「ええ、双子の呪文で増えた偽物がまだ競技場内に置いてあると思うわ。……今から何が始まるの?」

 

 私の問いにクィレルはペティグリューのほうをチラリと見る。

 

「ヴォルデモート卿が復活するのだ。こちらの予定ではハリーがここへ来る手筈だったのだが、まあそのうち来るだろう」

 

「じゃあその赤子は……」

 

「そう、力を失っているヴォルデモート卿だ。私は今年の秋にワームテールと出会いヴォルデモート卿に接触した。そして復活の計画を聞かされたのだ。クラウチの息子がムーディに成りすましホグワーツに潜伏している」

 

 なるほど、ということはムーディ先生は今年の初めからずっと入れ替わっていたわけだ。

 本物は何処にいるのだろうか。

 

「ヴォルデモートの復活は行えそうなの?」

 

「ああ、問題はない。ハリーがここに来ることができたらだが」

 

「取り敢えずはヴォルデモート卿の復活が最優先ね。復活して貰わないと戦争が起きないわけだし」

 

「ああ、全ては我らが仕えるレミリア・スカーレットの為に」

 

 私たちは頷きあうと元の位置に戻る。

 そして時間停止を解除した。

 

「余計なやつは殺せ」

 

 赤子からおどろおどろしい声が聞こえてくる。

 ヴォルデモート卿の指示でペティグリューは杖を抜いた。

 

「アバダケダブラ!」

 

 私は飛んでくる死の呪文を軽く避ける。

 いくら即死する魔法だとしても、当たらなければ意味がない。

 

「まあ待てペティグリュー。十六夜咲夜よ。我らにはやらなければならないことがある。邪魔はするなよ」

 

 クィレルはそう言って私を睨みつけた。

 私は杖を仕舞うと1歩下がる。

 ペティグリューは迷っているようだったが、次の瞬間悩んでいる余裕がなくなった。

 ハリーが偽物の優勝杯に引っ張られてここにつれてこられたのだ。

 ハリーにとったらこれ以上の地獄絵図はないだろう。

 訳も分からず飛ばされて、ついた先にはペティグリューとクィレルとヴォルデモート。

 ペティグリューは杖を私からハリーの方へと向け直し、ハリーをリドルの父親の墓石へと縛り付ける。

 そしていそいそと大鍋を用意し始めた。

 大鍋には既に魔法薬が満たされており、沸騰するように泡立っている。

 クィレルが鍋の下に杖を向け、鍋を火に掛けた。

 

「急げ」

 

 甲高く冷たい声が聞こえてくる。

 どうやらこの声はヴォルデモートのものらしい。

 

「準備ができました。ご主人様」

 

 ペティグリューは赤子の状態のヴォルデモートを鍋の中に入れる。

 ハリーは額が痛むのか酷く苦しそうに呻いていた。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん。父親は息子を蘇らせん!」

 

 クィレルがそう唱えるとハリーの足元の墓石が割れ、細かい塵が宙を飛ぶ。

 そして静かに鍋の中に降り注いだ。

 その瞬間鍋の中の液体は鮮やかな青色に変わる。

 

「しもべの肉、喜んで差し出されん。しもべはご主人様を蘇らせん」

 

 クィレルはそう唱えた後にペティグリューの右手の先を切り落とす。

 ペティグリューの右手はクルクルと宙を舞い、鍋の中に入った。

 途端に鍋の中身は燃えるような赤色へと変わる。

 右手を切り落とされたペティグリューは痛そうに呻いている。

 まあそれはそうだろう。

 クィレルはペティグリューの右手に杖を向け簡単な止血を施した。

 

「敵の血、力ずくで奪われん。汝は敵を蘇らせん」

 

 クィレルは大きな注射器を取り出すと慎重にハリーの腕に射し、血を抜く。

 なんというか、何とも生易しい方法だった。

 クィレルがハリーの血を入れると鍋の中身は目も眩むような白色へと変わる。

 私はその光景を静かに見守った。

 次の瞬間白い蒸気がうねりながら立ち上がる。

 そして鍋の中身は人の形を作った。

 それは骸骨のように痩せ細った、背の高い男だ。

 

「ローブを着せろ」

 

 クィレルは横に置いてあったローブを手に取り、男に丁寧に着せていく。

 私はその男の顔を見た。

 男の顔は骸骨より白く、細長い。

 そして真っ赤な不気味な目に蛇のように平たい鼻、唇の無い口。

 そう、ヴォルデモートは今この時、復活を果たしたのだ。

 ヴォルデモートは自らの体を確かめるように手を這わせると、ハリーを見て、次に私を見る。

 クィレルは恭しく1本の杖をヴォルデモートに手渡した。

 

「腕を伸ばせワームテール」

 

 その言葉にペティグリューは先のない右手を差し出したが、ヴォルデモートは反対の手を掴む。

 そしてペティグリューの左手に彫られた赤い刺青のようなものを確認した。

 

「戻っているな。全員が、これに気が付いたはずだ。……そして今こそはっきりとするだろう」

 

 ヴォルデモートは長細い指を刺青に押し当てる。

 その瞬間赤い刺青は黒へと色を変えた。

 その行為はかなりの激痛を伴うのか、ペティグリューが悲鳴を上げる。

 ヴォルデモートはその悲鳴を楽しむかのようにさらに指を押し付けた。

 

「さて、戻る勇気のあるものは何人いるのだろうか」

 

 ヴォルデモートはペティグリューを払いのけ、ハリーの方を見る。

 その顔は復活した喜びを噛みしめているように上機嫌なものだった。

 顔からはリドルの面影は感じられない。

 

「さて、イレギュラーがいるようだ。小娘、名をなんという」

 

 ヴォルデモートは私に声を掛ける。

 なるほど、闇の帝王と言われるだけのことはある。

 声を掛けられただけで私の背筋に冷たいものが走った。

 

「十六夜咲夜」

 

「ではお前がレミリアのメイドか」

 

 ヴォルデモートは懐かしいものを見るように私を見た。

 開心術を使おうとしているようだが、私は心の時間を止め、それを阻む。

 

「強情なやつよ。……来たようだな」

 

 次の瞬間ヴォルデモートの周りに次々と魔法使いが姿現しで登場する。

 全員がフードを被り、仮面を付けていた。

 

「ご主人様……ご主人様……」

 

 死喰い人たちは恐る恐るヴォルデモートに近づき、跪いてローブの裾にキスをする。

 そしてヴォルデモートを取り囲むように輪になって立った。

 

「よく来た、死喰い人たちよ。本当によく顔を出せたものだな」

 

 ヴォルデモートは顔を歪ませて全員を見回す。

 死喰い人たちは一斉に目を逸らした。

 

「お前たち全員が無傷で、魔力も失われていない。何故お前たちは私を助けに来なかった?」

 

 ヴォルデモートは杖をふらりと上げる。

 その瞬間死喰い人たちの体が強張った。

 

「お前たちには失望した。一度平伏せ。クルーシオ……」

 

 ヴォルデモートは死喰い人の1人に杖を向け、磔の呪文を掛ける。

 その死喰い人は地面に倒れ悲鳴を上げながらのたうち回った。

 

「も、もうじ……もうじわげございません。ああぁぁぁぁあぁあああああッ!!」

 

 その死喰い人は散々泥まみれになり、地面を転がる。

 ヴォルデモートは不意に磔の呪文を解いた。

 

「まあよい。お前たちはこれからも私に忠誠を誓え。使えるやつなら使ってやる。役立たずは死ね」

 

 ヴォルデモートはくるりとハリーの方を向く。

 

「私の最も忠実なる下僕は私の復活のために尽力したというのにな。それ」

 

 ヴォルデモートが唇の無い口を歪めハリーを指さす。

 死喰い人の全員の目がハリーへと向いた。

 

「ハリー・ポッターが楽しい楽しい私の蘇りパーティーにわざわざ参加してくれた。……拍手はどうした?」

 

 ヴォルデモートが言うと死喰い人全員が勢いよく手を叩きだす。

 

「五月蠅いッ!」

 

 ヴォルデモートの理不尽な怒りに全員がぴたりと拍手を止めた。

 

「クルーシオ、苦しめ」

 

 ヴォルデモートは杖をハリーに向け、磔の呪文を唱える。

 墓場にハリーの悲鳴とヴォルデモートの笑い声が響き渡った。

 

「見ろ。こんなただの小僧が一度でも私より強かったなど考えられない。ただ悲鳴を上げて泣きわめくガキではないか」

 

 ヴォルデモートは磔の呪文を解き、ハリーの縄に向かって引き裂きの呪文を掛ける。

 途端にハリーは地面に転がった。

 ハリーは磔の呪文の痛みがまだ抜けきってないのか苦しそうに地面でもがいている。

 だがヴォルデモートはそんなことはお構いなしだった。

 

「杖を抜け、ハリー・ポッター。決闘のやり方は学んでいるな? ……いつまでそこで寝ているのだ、さっさと立たんか小僧!」

 

 ヴォルデモートが杖を向けるとハリーが達磨のように跳ね起きる。

 物質操作系の魔法だろう。

 

「ハリー、決闘というのは儀式のようなものだ。互いに礼儀を守り、決まりに従う」

 

 ヴォルデモートは楽しそうにハリーにそう語る。

 

「さあ、頭を下げろ。それが礼儀だ。掟には従うものだぞ、ハリー。体を折るのだ!」

 

 ヴォルデモートは再びハリーへと杖を向ける。

 その瞬間ハリーは見えない手に押しつぶされるように体をくの字に曲げた。

 死喰い人はその様子に笑い声を上げる。

 

「五月蠅い。お前らも礼儀を知らないと見える。黙って見ていろ」

 

 ヴォルデモートが死喰い人を睨みつけると笑い声はピタリと止んだ。

 

「さあ、背筋を伸ばし、杖を構えろ。決闘だ」

 

 ヴォルデモートは杖を構える。

 ハリーは苦しそうに呻きながら杖を持ち上げた。

 

「アバダケダブラ!」

 

 物凄い速度でヴォルデモートは杖を振るい、ハリーに死の呪文を掛ける。

 ハリーも武装解除の呪文を叫んでいた。

 緑と赤の閃光が空中でぶつかり合い、そしてそのまま拮抗する。

 ヴォルデモートの杖とハリーの杖が一筋の閃光で繋がったのだ。

 まさに刀で鍔迫り合いでもするかのようにハリーとヴォルデモートは杖を構えたまま動かない。

 両者ともこの状況に困惑しているようだった。

 次の瞬間ハリーが杖の繋がりを切り、必死に走り出す。

 

「アクシオ! 優勝杯よ!」

 

 そしてハリーは呼び寄せ呪文で優勝杯を引き寄せ、その場からいなくなった。

 次の瞬間私は思い至る。

 あれ? 置いてかれた?

 突然いなくなったハリーに死喰い人たちは困惑し、ヴォルデモートも怒りを露わにする。

 そして全員が残された私のほうを向いた。

 

「まあよい。やつはそのうち殺す。……十六夜よ、置いてかれた気分はどうだ?」

 

 ヴォルデモートが私に語り掛けた。

 

「まあ、アウェーよね。この状況的に」

 

 全員が無言で私に杖を向ける。

 そして口々に死の呪文を私に向けて放った。

 私は時間を止め反対側へと回り込む。

 そして時間停止を解除すると殆どの死喰い人がいきなり消えた私に驚いた。

 

「姿現し、ではないな。レミリアも面白い従者を持っているものだ。お前は私の味方か? それとも敵か?」

 

「その2択なら敵ね」

 

 次の瞬間ヴォルデモートの横に立っていた死喰い人の首がぽとりと落ちた。

 先ほど時間を止めた際に切り落としておいたのだ。

 

「あら、その人形少し接合部が弱いみたいね。いい接着剤を持ってるわよ?」

 

 ヴォルデモートは横にいる死喰い人をつまらなそうに見ると、私に向き直る。

 

「面白い力だ。度胸もある。私がお前の力を試してやろう。杖を抜け」

 

 ヴォルデモートは先ほどと同じように杖を構える。

 どうやら決闘を行うらしい。

 私は優雅に一礼すると、真紅の杖を抜き放った。

 

「クィレル。合図をするのだ」

 

 ヴォルデモートの言葉にクィレルはコインを1枚取り出す。

 そしてそのコインを空へと弾いた。

 そのコインが地面に落下し音を立てた時、ヴォルデモートの杖が動き出す。

 私は杖をローブへと仕舞い込んだ。

 

「アバダケダブラ」

 

 ヴォルデモートの杖から放たれた死の呪文は私に向けて直進する。

 私はそれを半身で避け、ナイフを数本投擲する。

 だがそのナイフはヴォルデモートに到達する前に勢いを失くし、地面へと転がった。

 

「ほう、決闘中に杖を仕舞うか。だが戦う気がないわけではない」

 

 立て続けに緑色の閃光が私に迫る。

 私は自分の中の時間を早め、高速で動きそのどれもを回避する。

 

「素質もある。動きも悪くない。ふむ、ハリーとは出来が違うな」

 

 私は時間を止め、ナイフをヴォルデモートに投擲する。

 ナイフは時間の止まった世界を進み、ヴォルデモートの首筋でピタリと動きを止めた。

 時間停止を解除するとナイフはそのままヴォルデモートの首筋に突き刺さろうと動き出すが、ヴォルデモートは杖を持っていない方の手でナイフを掴み取った。

 

「それほどの能力を持っているというのに、お前はダンブルドアにつくというわけか」

 

「そうよ。貴方少しキモイもの」

 

「昔はもう少しまともだったのだがな……やはり影響は出ているようだ。まあいい、敵対する者は皆殺しだ。死ね」

 

「貴方がね」

 

 もっとも、私にはヴォルデモートを殺す気など更々ない。

 ただ適度に煽り、敵対すればそれでいいのだ。

 ヴォルデモートの杖の動きに合わせて私も杖を振るう。

 

「「アバダケダブラ!」」

 

 私とヴォルデモートの死の呪文がぶつかり、辺りに飛び散った。

 

「ほう、この呪文を使いこなすか。ますます殺すしかなくなったな」

 

「死なないし貴方には私を殺せないわ」

 

 私の挑発にヴォルデモートはニヤリと口を歪ませる。

 

「それは何故だ?」

 

「あと3秒で私はここから消えるからよ。3、2、1」

 

 ヴォルデモートが再び杖を振り上げた瞬間に私は時間を止める。

 そしてホグワーツの校長室へと姿現しした。

 

 

 

 

 

 一瞬体がバラけるかと思ったが、何とか私は姿現しを成功させる。

 時間の止まった校長室をぐるりと見回すが、そこにはブラックの姿しかなかった。

 私は時間停止を解く。

 

「――ッ!? ……なんだ咲夜か。君の術は校長室にまで入れるのか?」

 

「まあね」

 

 私はブラックの隣に腰かける。

 時間を止められるというアドバンテージがあるとはいえ、ヴォルデモートは相当手ごわい相手だと認めざるを得ないだろう。

 もっとも殺してしまうことは簡単にできる。

 だが分霊箱を壊さない限りヴォルデモートはいくらでも復活するのだ。

 

「第三の課題はどうなった? 一体競技場で何があった?」

 

 ブラックは私に説明を求めてきた。

 私は墓場で起こったことをブラックへと説明していく。

 その説明を聞いてブラックは信じられないと言った表情で頭を抱えた。

 

「ヴォルデモートが復活した? ハリーの血で? ……その話が本当だとしたら相当ヤバいな」

 

「ヤバいの?」

 

「ヤバい」

 

 ヤバいらしい。

 私たちはしばらく墓場で私が見たことについて話し合っていたが、不意に校長室の扉が開きダンブルドア先生と疲れ果てた表情のハリーが入ってきた。

 

「咲夜!」

 

 ハリーが目を見開き叫ぶ。

 その表情から察するに、どうやらハリーの中では私は死んだことになっているようだった。

 

「よくも置いてったわね」

 

「ご、ごめん。僕必死で……」

 

 私がひと睨みするとハリーは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「咲夜よ。その話は後じゃ」

 

 ダンブルドア先生はそう私を抑えるとブラックにムーディが偽物で、どのような目的でホグワーツに侵入していたかを話し始めた。

 ハリーは今にも気絶しそうな表情で私の横に座る。

 

「本当にごめん。咲夜。僕は君を見捨てたようなものだ……」

 

 ハリーはそう呟きがっくりと項垂れた。

 

「まあ、私は1人で帰ってこれたわけだし」

 

 私はハリーの頭の上に手を置く。

 そして優しく撫でた。

 

「貴方は自分のベストを尽くしたと思うわよ?」

 

 暫くするとブラックにクラウチの息子のことを話し終えたのかダンブルドア先生がこちらへと向く。

 

「ハリー、迷路のポートキーに触れてから、何が起こったのか。わしは知る必要があるのじゃ」

 

「ダンブルドア、明日の朝まで待てませんか?」

 

 ブラックはハリーの肩に手を置き、やや厳しい声で言う。

 

「今は休ませてあげましょう」

 

「一時的に痛みを麻痺させることはできる。深い眠りによっての。じゃが後になって感じる痛みは更に強いものになろう。ハリー、話を聞かせておくれ」

 

 そのダンブルドア先生の言葉を聞いてハリーは少しずつ墓場での出来事を話し始める。

 ヴォルデモートが復活したこと。

 死喰い人が集結したこと。

 ヴォルデモートと杖が繋がったこと。

 ハリーとダンブルドア先生は墓場であったことについて質疑を繰り返す。

 私は椅子から立ち上がり校長室内をふらふらと歩いた。

 ダンブルドア先生はハリーと杖が繋がったことに関して話している。

 呪文逆戻し効果というらしいが、私にはあまり興味がない話だった。

 私は暇つぶしに手元にあった組み分け帽子を手に取り被る。

 勿論、思考は読ませない。

 少しの間話し相手になってもらうだけだ。

 

『君は……十六夜咲夜だね』

 

 頭の中に組み分け帽子の声が響く。

 私は心の中で返事をした。

 

『ええ、そうよ。少し気になることがあるのだけれど、いいかしら』

 

『構わんよ』

 

『貴方は最初私をスリザリンに入れようとした。でもグリフィンドールに変えたわ。それは何故?』

 

 組み分け帽子は暫し黙る。

 私は言葉を重ねる。

 

『私自身。自分はスリザリン寄りの人間だと思っている。貴方も同意見でしょう? 貴方は何故私をグリフィンドールに入れたの?』

 

『より大きな善のために。君はスリザリンに入ればそれはそれは素晴らしい魔女になったことだろう。盛大に道を踏み外すことになるが。私の判断に間違いはなかった。君は仲間を救い、罪なき者の命を救った』

 

『そうね。結果的にはそうなったわ。貴方にはそれが見えていたというの?』

 

『希望だ。私のね』

 

 そうなって欲しいという希望を持って私をグリフィンドールに入れた。

 そういうことなのだろう。

 私は組み分け帽子を脱ぎ、元あった場所に戻す。

 ダンブルドア先生とハリーも話を終えたらしく、犬に変身したブラックと共に校長室を出ていこうとする。

 

「咲夜、少々ここで待っていてくれ。お主にも聞きたいことがあるからの」

 

 ダンブルドア先生は私にそう釘を刺すと校長室を出て行った。




用語解説


壁にめり込む美鈴
頭が深々と刺さった状態。

校長室へGO
レミリア「合言葉は夢で見た」

ホグズミード村
本来カットされる部分をおまけ程度に

クィレル
ちゃんと仕事をしています。

死の呪文を避ける咲夜
当たらなければどうということはない。

ヴォルデモート
カリスマ溢れるお辞儀さん。


追記
文章を修正しました。

2018-10-28 加筆修正

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