私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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これで炎のゴブレット編終了です。
いつものことながら原作の続きを一度読み返すので今回こそ遅くなると思います。
最悪2~3日更新が開きますがご了承ください。
誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


涙とか、賞金とか、騎士団とか

 私は校長室で独りダンブルドア先生の帰りを待つ。

 ハリーを医務室に送り届けたのか、10分もしないうちにダンブルドア先生は校長室へと戻ってきた。

 そのままダンブルドア先生は私の向かい側の椅子に腰かける。

 そしてゆっくりと話し出した。

 

「さて、ハリーが戻ってきたところまでの話は聞いた。じゃがそれ以降の話はまだじゃ。聞かせてくれるかの?」

 

 ダンブルドア先生は私の顔を見る。

 私は鞄の中からティーセットを取り出すと紅茶を淹れダンブルドア先生に差し出した。

 

「ハリーがポートキーで帰った後の話ですよね」

 

 私は紅茶を一口飲み、話し始める。

 死喰い人からの総攻撃にあったこと。

 ヴォルデモートと一対一で対決したこと。

 

「そして、君はここへと戻ってきた。どうやってじゃ」

 

「姿現しですが――」

 

「この学校の敷地内では姿現しはできんことになっておる」

 

 ダンブルドア先生はぴしゃりと言った。

 

「ではこの学校の敷地外でしたらどうでしょうか。例えばホグズミードとか」

 

「シリウスから校長室に突如現れたことは聞いておるのじゃがね」

 

「むぅ……」

 

 誤魔化すのも限界か、私は話題を切り替えることにした。

 いつも以上に真面目な表情を取り繕い、ダンブルドア先生に話し掛ける。

 

「ダンブルドア先生……私の話を聞いてくださいませんか?」

 

「聞いておるとも」

 

「私はヴォルデモートと敵対しました。いや、敵対してしまいました」

 

 私は一度そこで言葉を切った。

 

「話を聞く限りそのようじゃな」

 

「敵対してしまったんです。私は、私個人に敵意を向ける敵を作ってしまった……」

 

「咲夜、お主が怯えるのもわかる。学生が相手取るには……いや、例え闇払いでさえ、恐れ怯む相手じゃろう。じゃが――」

 

「貴方は何も分かっていないッ!!」

 

 私の大声に、ダンブルドア先生は初めて驚いたような

 顔をした。いや、大声に驚いたのではない。私が目に見えて狼狽していることに驚いたのだろう。

 

「私が狙われるということは、同時に私の周囲が狙われるということッ……失態です。失敗です。私は、私は……――ッ……私は自分自身の失敗でお嬢様を危険に晒してしまった……」

 

 私は顔を歪め両手で顔を覆う。

 私の目から涙が溢れ出た。

 

「私のせいでお嬢様が狙われるかもしれない……私のせいでお嬢さまに……」

 

 私の両手を伝い、涙がボタボタと服の上に落ちる。

 

「私は、私は……私は……」

 

 私は袖の中から大ぶりのナイフを取り出すと、自らの喉に刃を向ける。

 そして震える声で言葉を紡いだ。

 

「わ、わた、私は……お嬢様の安全の為に、死ななければなりません。私がお嬢様のために危険に晒されることはあっても、逆は絶対に起こってはならない」

 

 私はナイフの刃を首へと押し付ける。

 だがナイフの刃が首の皮を裂く前にダンブルドア先生の手がナイフの動きを止めた。

 

「その必要はない。お主の言いたいことも分かる。じゃが、方法は他にもあるじゃろう」

 

「ダンブルドア……せんせい」

 

 私はダンブルドア先生の胸に飛び込んで泣いた。

 悔しさと後悔が形を成して目から溢れ、私の顔とダンブルドア先生の胸元を濡らす。

 ダンブルドア先生は私の背中を優しく撫でる。

 そして優しく私に声を掛けた。

 

「大丈夫じゃ。大丈夫じゃとも、咲夜。今君が自分の仕える主を守るために何が出来るのか、よく考えるとよい。時間は過去へは戻らない。過ぎ去ったことよりも未来を考えるのじゃ」

 

 私は涙を拭い、決心したような顔を作る。

 そして感情を込めてダンブルドア先生に言った。

 

「先生……私は……ヴォルデモートを倒します。私の大切な方を守るために。友を守るために」

 

「君ならそう言ってくれると、わしは信じておったよ」

 

 ダンブルドア先生は私の肩に手を置く。

 

「君は道を踏み外さなかった。主を思い、友を思い。健全なる……正義を尊ぶ魔法使いへと成長していたのじゃ。咲夜、君の不思議な力について教えてくれんかの。教えてくれるならば、わしは喜んで君を不死鳥の騎士団に迎え入れよう」

 

 私は涙でグシャグシャの顔を無理やり歪め、微笑んだ。

 そして時間を止め、ダンブルドア先生の時間停止だけを解除する。

 ダンブルドア先生は周囲を見渡すとなにか納得したかのように頷いた。

 

「君の力は時間を止める。そういうことじゃな」

 

「はい」

 

「今までもこの力を使い、テレポートの真似事のようなことをしてきたと」

 

「そうです。先生」

 

 部屋中で忙しく動いていた小物はその動きを止めている。

 私がその中の1つに触れると途端にそれは動き出した。

 ダンブルドア先生も同じように手を触れるが、それは動き出さない。

 私は一度時間停止を解除した。

 

「時間を操る。それが私の能力ですわ」

 

「よく教えてくれた。この力のことを話すのは途轍もなく勇気のいる行為だと、わしは思う。わしはその勇気を認め、ここに君を不死鳥の騎士団の一員だと認めよう。共に悪を絶つ為に戦おう」

 

「はい!」

 

「今日はもう寝るのじゃ。医務室に向かうがよい。そこでレミリア嬢も待っていることじゃろう」

 

 私はダンブルドア先生に一礼すると時間を止め、顔をハンカチで拭う。

 そして目の腫れが収まるのを待ち、医務室へと姿現しした。

 医務室の一角にお嬢様と美鈴さんがおり、2人で何かを話しているような形で固まっている。

 私は静かにお嬢様に近づき、お嬢様と美鈴さんの時間停止を解除した。

 

「お嬢様、不死鳥の騎士団への侵入は無事成功しました」

 

 私はニヤリと笑い、お嬢様に報告する。

 お嬢様はその報告を聞き満足そうに頷いた。

 

「よくやったわ。意外と早かったわね」

 

「ヴォルデモートの復活を利用させてもらいました」

 

 美鈴さんが不思議そうに口を開く。

 

「どうやって説得したの? 学生がホイホイ入れるような組織じゃないと思うけど」

 

「自殺の真似事と偽りの涙を少々。男というのはいくつになっても女性の涙には弱いものですよ」

 

 そう、先ほどのは全て演技だ。

 ヴォルデモートと敵対してしまったじゃない。

 敵対するように命令されているのだ。

 

「やるじゃん」

 

 美鈴さんが私の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 私はそれがむず痒く、そして何より嬉しかった。

 

「あとそれと、優勝杯です」

 

 私は鞄を開け、優勝杯を取り出す。

 優勝杯のポートキーの呪文は既に効力を失っているようだ。

 お嬢様は満足そうに優勝杯を手に取ると、何処かに消し去ってしまった。

 

「パチェのところに送っただけよ。いつまでも持ってると返せって言われそうだし。そう言えばクィレルの調子はどうだった? 会ったんでしょう?」

 

「見たところでは死喰い人の中でもそこそこの地位を手に入れたようです」

 

「そう……。咲夜。2年後よ。戦争は2年後に起こすわ」

 

 お嬢様は人差し指と中指を立てる。

 

「それまでに不死鳥の騎士団を大きく強くしなさい。死喰い人とぶつかったときに多数の死者が出るように。それまでは出来るだけ仲間が死なないように気を付けなさい」

 

「かしこまりました」

 

 お嬢様はもう一度満足そうに頷く。

 

「さて、私たちはもう帰るわ。優勝賞金は……そうね。貴方の好きに使えばいいと思うけど、特に使うあてが無いならウィーズリーの双子にでもあげなさい」

 

「それはまた一体何故です?」

 

 私は今年度の初めにドラコとした会話を思い出す。

 お嬢様はその会話の内容を誰かから聞いたのだろうか。

 

「今朝ウィーズリー夫人と話したのだけれど、その双子が何やら面白そうなことをしているらしいわ。悪戯グッズっていうの? 夢を持つ若者は応援しないとね」

 

 そしてお嬢様は窓を開けた。

 空には星が満ち、若潮の薄い月が浮かんでいる。

 お嬢様はそのまま外へと飛び出ると、翼を羽ばたかせ宙に留まった。

 

「じゃあ帰るわ。夜だから人目にはつかないと思うけど。時間の停止は適当に解除していいわよ」

 

「じゃあね、咲夜ちゃん。また夏休みに会おう」

 

 美鈴さんもお嬢様に続き外へと出る。

 そしてファイアボルトも真っ青な速度で一気に上空まで飛び上がると、一瞬で姿が見えなくなった。

 昔言った言葉を撤回しよう。

 ファイアボルトなんかよりお嬢様のほうが全然速い。

 私は窓を閉めると時間停止を解除する。

 あの速度なら万が一マグルに見られてもジェット機にしか見えないだろう。

 私はハリーの横のベッドに移動すると汚れた服を着替えベッドに潜り込む。

 

「正義の魔法使い……ね」

 

 何が正義で、何が悪か。

 そんなこと簡単だ。

 私の中ではお嬢様こそ正義であり、お嬢様を妨げるもの全てが悪だ。

 ダンブルドア、私は貴方に協力するが、決して貴方の正義の魔法使いではない。

 私は私の正義を貫き通すだけである。

 私はシーツを頭の上まで手繰り寄せるとそのまま朝までゆっくり眠った。

 

 

 

 

 

「あの人たち、静かにしてもらわないと、この子たちを起こしてしまうわ」

 

「いったい何を喚いているんだろう? また何か起こるなんて、ありえないよね?」

 

 モリーさんとビルがヒソヒソと話す声に私は目を覚ます。

 そしてそのままもぞもぞと布団の中で制服へと着替えた。

 

「大惨事だ! 取り逃がすとは、ダンブルドアも不甲斐ない!!」

 

 あの叫び声はファッジ大臣だろうか。

 マクゴナガル先生と怒鳴り合っているようだ。

 そして10秒も経たないうちに医務室へと入ってきた。

 

「ダンブルドアは何処かね?」

 

 ファッジ大臣はモリーさんに詰め寄る。

 

「ここにはいらっしゃいませんわ。大臣、ここは病室です。少しお静かに――」

 

「何事じゃ」

 

 モリーさんが大臣をたしなめようとしたその時、医務室の扉が開きダンブルドア先生が入ってくる。

 

「病人たちに迷惑じゃろう? ミネルバ、貴方らしくない。バーティ・クラウチを監視するようお願いしたはずじゃが」

 

 バーティ・クラウチ。

 この場合は息子のほうだろうか。

 

「もう見張る必要はなくなりました。ダンブルドア!」

 

 マクゴナガル先生が珍しく叫ぶ。

 

「逃げたのです! 忽然と監禁していた部屋からいなくなりました」

 

「ふむ、それは困ったのう。重要な証人だったんじゃが」

 

「そんなことはどうでもいい! ダンブルドア、これは貴方の失敗だ!」

 

 ファッジ大臣はダンブルドア先生に怒鳴りつける。

 どうやらかなり怒っているようだ。

 

「いや、クラウチの証言が必要じゃった。ヴォルデモートが復活を遂げたのじゃ」

 

「例のあの人が……復活した? バカバカしい。おいおいダンブルドア……」

 

 ついにボケたか? と言わんばかりにファッジ大臣はダンブルドア先生の肩を叩く。

 

「ミネルバもセブルスも貴方にお話ししたことと思うが。真実薬で聞いたクラウチの告白を貴方にも教えたじゃろう」

 

「いいか、ダンブルドア。まさか、まさかそんなことを本気にしているのではあるまいね? 例のあの人が……戻った? まあ、まあ落ち着け。まったく。クラウチは例のあの人の命令で動いていると錯覚していた、思い込んでいただけだ」

 

「ハリーが優勝杯に触れた時、まっすぐヴォルデモートの元に運ばれていったのじゃ。咲夜も、ハリーもヴォルデモートが蘇るのを目撃した。わしの部屋まで来てくだされば一部始終をお話ししますぞ」

 

 ダンブルドアはハリーと私をチラリと見る。

 私はベッドから起き上がり、そのまま腰掛けた。

 

「大臣、ヴォルデモートは確かに復活しました。まあ信じるも信じないも大臣の勝手ですが、信じずになんの対策も立てぬまま時間を浪費し、いざ復活してましたとなったら困るのは大臣ですよ。失脚することは確実で、最悪民衆に嬲り殺されるでしょう」

 

 私はファッジ大臣の顔を見る。

 私の言葉にかなり狼狽しているようだった。

 

「だ、だが……そんなことはありえない」

 

「そうですか。ではそのように。最終的に死ぬのは貴方です。コーネリウス・ファッジ魔法大臣」

 

「そんなことには――」

 

「なります。貴方は社会的にも肉体的にも死ぬことになるでしょう。魔法省始まって以来の無能として死んでいくのです」

 

「これ、咲夜。これでは脅迫と変わりない」

 

 ダンブルドア先生が私の言葉をたしなめた。

 

「じゃが、ヴォルデモートが帰ってきたのは確かじゃ。ファッジ、貴方がこの事実を認め、必要な措置を講じれば、我々はこの状況を救えるかもしれぬ。まず最初に取るべき処置は、アズカバンを吸魂鬼の支配から解き放つことじゃ――」

 

「とんでもない!」

 

 ファッジ大臣がダンブルドア先生の言葉を遮った。

 

「吸魂鬼を取り除けと? そんな提案をしようものなら私は大臣職から蹴り落されるだろう。魔法使いの半数が、夜安眠できるのは吸魂鬼がアズカバンの警備に当たっていることを知っているからなのだ!」

 

「コーネリウス、あとの半分は安眠できるどころではない。あの生き物に監視されているのは、ヴォルデモートの最も危険な支持者たちじゃ。そしてあの吸魂鬼はヴォルデモートの一声でたちまちヴォルデモートと手を組むであろう。連中はいつまでも貴方に忠誠を尽したりはせん」

 

 大臣は言葉が出てこないと言わんばかりに口をパクパクとさせている。

 ダンブルドアが言葉を続けた。

 

「第二に取るべき措置は巨人に使者を送ることじゃ。しかも早急にの」

 

「巨人に使者だと!? 狂気の沙汰だ!」

 

 大臣が叫ぶ。

 

「友好の手を差し伸べるのじゃ、今すぐ、手遅れにならぬうちに。さもないとヴォルデモートが以前やったように巨人を説得するじゃろう」

 

「ま、まさか本気で言ってないよな? 私が巨人と接触したなどと、魔法界に噂が流れたら……ダンブルドア、みな巨人を毛嫌いしている。そのことは知っているだろう」

 

「はっきり言うぞ。わしの言う措置を取るのじゃ。そうすれば大臣職に留まろうが去ろうが、貴方は歴代の魔法大臣の中で最も勇敢で偉大な大臣として名を残すじゃろう。もし、行動しなければ――」

 

「貴方は無能の烙印を押され、一生辱めを受ける。その扱いは末代まで変わらないでしょうね」

 

 私がダンブルドア先生の言葉の続きを言った。

 

「狂気の沙汰ではない。狂っている……ダンブルドア、一体何をふざけているのだ。私にはさっぱりだ。しかし、もう聞くだけは聞いた。私ももう何も言うことはない。この学校の経営については少々話があるので明日連絡しよう。私は魔法省に戻らなければらなん」

 

「ええ、戻りなさい。そして自由に死ねばいいわ。できればさっさと大臣職を降りることをおすすめするけど」

 

「咲夜」

 

 ダンブルドアの言葉に私は軽く肩を竦める。

 だがダンブルドアもマクゴナガル先生も同意見なのだろう。

 そんな顔をしていた。

 ファッジは頭を抱え首を振り、病室を出ていこうとする。

 しかし、途中で向きを変え私のほうに歩み寄った。

 

「この賞金をどちらに渡していいか私には分からん。ここに置いておくぞ。本来ならば授賞式が行われる予定だったがこの状況では……では失礼する」

 

 ファッジ大臣は今度こそ医務室を出ていった。

 ハリーのベッドの方を見ると、ハリーも起き上がっている。

 私はガリオン金貨の袋を持ち上げた。

 

「ハリー、ということらしいけど。どっちが優勝かしら」

 

「……君だろう?」

 

「じゃあこの金貨は私の自由に使うわね」

 

 私は鞄を開けると金貨の入った袋を放り込んだ。

 あとでハリーと共にフレッドとジョージに渡そう。

 ダンブルドア先生はファッジ大臣が出ていくのを見送ると、改めてベッドにいる人々のほうに向きなおる。

 

「やるべきことがある」

 

 ダンブルドア先生はいつになく真面目な声を出した。

 

「モリー……あなたとアーサーは頼りにできると考えてよいかな?」

 

「勿論ですわ」

 

 モリーさんは唇まで真っ青だったが、決然とした顔で頷いた。

 

「ウィリアムはすぐに城を発ちアーサーに何が起こったかを伝えてほしい。近々わしが直接連絡するとも言うといてくれ。ただし、アーサーは目立たぬよう事を運ばなくてはならぬ。わしが魔法省の内政干渉をしているとファッジにそう思われると――」

 

「僕に任せてください」

 

 ビルはダンブルドアが言い切る前に力強く頷くと、モリーさんの頬に軽くキスしマントを着て足早に部屋を出ていった。

 

「ミネルバ。わしの部屋でできるだけ早くハグリッドに会いたい。それからもし来ていただけるようならマダム・マクシームもじゃ」

 

 マクゴナガル先生は黙って部屋を出ていく。

 

「ポピー。頼みがある。ムーディ先生の部屋に行ってウィンキーという屋敷しもべ妖精を探してくれるか? 酷く落ち込んでおると思うからできるだけの手を尽して厨房に連れて帰ってくれ。ドビーが面倒を見てくれるはずじゃ」

 

「は、はい!」

 

 驚いたような顔をしてマダム・ポンフリーも医務室を出ていった。

 そしてマダム・ポンフリーの足音が聞こえなくなるとダンブルドア先生は再び口を開く。

 

「さて、そこでじゃ。ここにいる者の中で2名の者がお互いに真の姿で認め合うべきときがきた。シリウス、普通の姿に戻ってくれぬか」

 

 ハリーのベッドの影から大きな黒いブラック犬が姿を現す。

 そして一瞬で人の姿になった。

 

「シリウス・ブラック!?」

 

 モリーさんが金切り声を上げる。

 スネイプ先生は叫びも飛びのきもしなかったが、怒りと憎悪が入り混じったような表情をしていた。

 

「なんでこやつがここにいるのだ?」

 

「わしが招待したのじゃよ」

 

 ダンブルドア先生が静かに言った。

 

「セブルス、君もわしの招待じゃ。わしは2人を信頼しておる。そろそろ2人とも昔のいざこざは水に流し、お互いに信頼し合うべきときじゃ」

 

 ダンブルドア先生が2人を交互に見るが、ブラックとスネイプ先生はこれ以上の憎しみはないといった表情でにらみ合っている。

 私は時間を止め、2人の右手を動かし握手をさせた。

 そして時間停止を解除する。

 

「「――ッ!?」」

 

「ナイスじゃ咲夜。あからさまな敵意をしばらく棚上げにするということでもよい」

 

 ブラックとスネイプ先生は互いに手が白くなるほどの力で互いの拳を握り潰そうとするが、やがて中で爆発でも起きたかのように手を放す。

 

「今はそれで十分じゃ。シリウス、すぐさまここを出発し、昔の仲間を集めてくれ。リーマス、アラベラ、マンダンガス。しばらくはルーピンのところに潜伏すればよいじゃろう。わしからそこに連絡する」

 

 ブラックは心配そうな顔をするハリーの手をギュッと強く、しかし優しく握ると再び黒い犬に変身し、医務室を出ていった。

 

「セブルス。君に何を頼まねばならぬのか、もうわかっておろう。もし、準備ができているなら……もし、やってくれるなら……」

 

「大丈夫です」

 

 スネイプ先生は冷たく暗い目を光らせて頷いた。

 

「それでは、幸運を祈る」

 

 ダンブルドア先生がそう言うと、スネイプ先生はブラックの後を追うように医務室から出ていく。

 ダンブルドア先生はスネイプ先生の後ろ姿を微かに心配そうな色を浮かべて見送った。

 

「咲夜」

 

 ダンブルドア先生はこちらに向き直る。

 

「不死鳥の騎士団の活動に、君の能力を使わせてもらうことになるじゃろう。先ほどのあれはファインプレーじゃった。活動の目途が立ったら、こっそりと連絡を送る」

 

「わかったわ」

 

 私は時間を止めると鞄を掴む。

 取り敢えずお腹が空いた。

 屋敷しもべ妖精たちとゆっくり話でもしながら何か食べよう。

 私はそのままふわりと飛び上がると医務室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ヴォルデモート卿の復活から1カ月が経ち、ようやく今年も終わりを告げた。

 私は全ての荷物を鞄の中に入れたか確認すると玄関ホールへと向かう。

 玄関ホールには既に馬車待ちの生徒が溢れかえっていた。

 

『咲夜!』

 

 フランス語で呼びかけられる。

 デラクールだ。

 

『また会いましょう。次はもう少し英語を勉強してくるわ』

 

『十分上手いとは思うけどね』

 

 デラクールは笑顔で私に手を振ると、ハリーたちの方へと歩いていく。

 

『優勝おめでとう。まったく大した14歳だよ。君は』

 

 今度はブルガリア語が聞こえてくる。

 クラムだ。

 

『あら、ワールドカップで活躍するクィディッチのシーカーさんに言われても褒められた気がしないわね』

 

『そういうところも含めて大したものだって言ってるんだよ。また機会が有ったら会おう』

 

 そういうとクラムもハリーの方へと歩いていった。

 私は一足先に馬車へと乗り込む。

 そしてしばらくすると私が乗った馬車にハリーたちも乗り込んできた。

 ホグズミード駅で馬車からホグワーツ特急に乗り換える。

 私たちは私とハリー、ロン、ハーマイオニーの4人で1つのコンパートメントを独占した。

 ハリーたちはヴォルデモートのことやスキーターを捕獲したという話で盛り上がっている。

 ……いやスキーターを捕獲したってなによ。

 私は車内販売で適当にお菓子を買い込み茶菓子にする。

 そして今年を静かに振り返った。

 色々なことが起こった1年だったが、なんとか全ての目標を達成することが出来た。

 優勝杯を手に入れ、ヴォルデモートが復活し、不死鳥の騎士団にも入れた。

 だが、本番はここからだ。

 これからどんどん戦いを激化させていき、多数の戦死者を出さないといけない。

 私はちらりとハーマイオニーの方を見る。

 ハーマイオニーは小瓶に捕獲したスキーターを見てニッコリとしている。

 

「私、ロンドンに着いたら出してあげるってリータに言ったの。ガラス瓶に割れない呪文を掛けたのよ。だからリータは変身できない」

 

 ハーマイオニーは満足そうに微笑みながらコガネムシが入った瓶を鞄に戻した。

 次の瞬間コンパートメントのドアがスッと開く。

 

「なかなかやるじゃないか。グレンジャー」

 

 そこにはドラコが立っていた。

 後ろにはクラッブとゴイルを引き連れている。

 そういえばこの3人の親は死喰い人だったか。

 次の瞬間四方八方から飛んできた呪いの数々がドラコと後ろの2人に直撃した。

 ハリー、ロン、ハーマイオニーが同時に杖を抜いて呪いをかけたのだ。

 しかもよく見ると、コンパートメントの外にはフレッドとジョージもおり、その2人も杖を構えている。

 

「ありゃまあ。話ぐらい聞いてあげてもよかったんじゃない?」

 

「聞く価値もないさ」

 

 フレッドが丁寧にゴイルを踏みつけて入ってくる。

 ジョージも絶対にドラコ以外の地面を踏まないように気を付けながらコンパートメントに入ってきた。

 

「面白い効果が出たなぁ」

 

 ジョージがクラッブを見下ろして言う。

 

「誰だ? できものの呪いをかけたのは」

 

「僕」

 

 ハリーが手を上げた。

 

「変だな。俺はくらげ足を使ったんだ。この2つは同時に使っちゃ駄目みたいだ。こいつ、顔中にクラゲの足が生えてるぜ」

 

「まったく……」

 

 私は3人に向けて杖を振るう。

 すると呪いの効果はたちまち消え失せた。

 気絶している3人はそのまま床を滑るように移動し、隣のコンパートメントに押し込まれる。

 

「手緩いぜ、我らが女王。蹴っ飛ばしてやればいいんだよ」

 

 フレッドが私に言う。

 

「いや、それは駄目だ」

 

 ジョージがすぐさま否定した。

 

「咲夜がやったらご褒美になりかねん。特にあの3人にはな」

 

 ハリーたちは笑ったが、私は苦笑いしか浮かばなかった。

 そんなイメージがあるのだろうか。

 私たちはその後双子の持ってきたカードゲームをして時間を潰した。

 そんな時間はあっという間に過ぎていき、ホグワーツ特急は9と4分の3番線に入線していく。

 生徒が列車を降りるときのいつもの混雑と騒音が廊下に溢れた。

 ロンとハーマイオニーは先に列車を降りていく。

 私はハリーとフレッド、ジョージをコンパートメント内に引き留めた。

 

「私の中では私の単独優勝ってことになっているんだけど、一応ね」

 

 私は鞄を開けるとガリオン金貨の入った大袋を双子に手渡す。

 

「ハリーと、私からのプレゼントよ。受け取りなさいな」

 

「狂ったか?」

 

「それはいつものことだろう?」

 

 フレッド、ジョージが顔を見合わせる。

 ハリーも目を輝かせていた。

 

「お嬢様が悪戯グッズを気に入ってしまってね。貴方たちの夢を応援したいって。ハリーもそれでいいわよね」

 

「勿論」

 

「でも……」

 

 フレッドはどうしていいか分からず金貨の袋を抱えてジョージの顔色を窺っている。

 それはジョージも同じだった。

 

「あら、断るの? お嬢様に食べられるわよ。紅魔館では常時人肉候補を募集しているわ」

 

「「有り難く頂戴させていただきますはい!」」

 

 双子は揃って敬礼をすると金貨の袋を鞄の中に押し込む。

 そして逃げるように列車を降りていった。

 

「でも、本当によかったのかい? 咲夜。あれは君のお嬢様のものではなく、君が獲得したものだろう?」

 

 私はハリーの額を指で弾く。

 ハリーは痛そうに頭を押さえた。

 

「私はお嬢様の所有物よ。だとしたら私が獲得したものはお嬢様の物だわ。仕えるというのはそういうことよ」

 

 私はコンパートメントにハリーを残し先に列車を降りる。

 そこにはいつものように美鈴さんが立っており、いつものように迎えてくれた。

 

「お帰り、咲夜ちゃん」

 

「ただいま。美鈴さん」

 

 私たちは簡単な挨拶を交わすと柵の向こうへと抜ける。

 そして人混みに紛れ時間を止め、空を飛んで紅魔館へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 ある日の紅魔館。

 私は久々に帰ってきたクィレルに紅茶を淹れていた。

 クィレルは少しでも役立つ知識を蓄えようと紅魔館にいるときは図書館に篭る。

 今日もパチュリー様の前で本とにらめっこだ。

 

「クィレル、紅茶が入ったわ。ほどほどにね」

 

 私はクィレルの前にティーカップを置く。

 クィレルは本から目を離さずにそれを持ち上げ口をつけた。

 

「ふむ、ワームテールが淹れるものより断然美味い。死喰い人の中ではベラトリックスが紅茶を淹れるのが上手いらしいが今はアズカバンにいるしな……」

 

「ワームテールと比べるのはおこがましいと思うんだけど……。まあいいわ。向こうの様子はどう?」

 

 私が聞くとクィレルは苦々しい顔をした。

 

「ヴォルデモートが帰ってきたということもあり大混乱だ。歓喜する者もいれば恐れ逃げる者もいる。……まずはアズカバンから死喰い人を連れ戻さないとな」

 

 まあ派手にやるよ、とクィレルは肩を竦めた。

 

「そういう君はどうなんだ? 不死鳥の騎士団の方は」

 

 クィレルが一度本から顔を上げ、こちらを見た。

 

「今のところは目立った動きはないわ。そっちと同じでこっちも大混乱よ。ダンブルドア先生があちこちに連絡して仲間を集めている段階ね」

 

 まあそのうち大きな動きがあるかも知れない。

 お嬢様には館の仕事よりも不死鳥の騎士団の仕事を優先して行うようにとの指示を受けている。

 

「なんにしてもここ1年はどちらも戦力の増強に努めましょう。今ハグリッドとマダム・マクシームが巨人の説得に向かっているわ」

 

「そうか、こちらからもマクネアが巨人の住処へと向かっている。鉢合わせにならないといいがな」

 

「戦力的にはどちらについた方がいいかしらね」

 

「……私の考えでは死喰い人だと思う。何処で戦うかにもよるが、戦争になった時、関係のない魔法使いたちがどちらに味方をするかは目に見えているからな」

 

 クィレルは本に視線を落とす。

 

「なんにしても、そちらも準備を進めるようにな。片方が叩き潰されましたじゃ、駄目だ。全ては我が主の為に」

 

「ええ、崇高たるお嬢様の為に」

 

 私はクィレルとがっちり握手をする。

 クィレルはすぐに本の世界へと戻っていってしまったので私は館の仕事へと戻ることにした。

 厨房へと向かい昼のうちに完成させておいた料理を持って地下へと向かう。

 そして地下の扉を静かにノックした。

 

「妹様、夕食をお届けに参りました」

 

 ……返事はない。

 それはいつものことだ。

 私はゆっくりと扉を開けると中へと入る。

 驚いたことに妹様はまだ寝ていた。

 普段なら既に起きている時間だ。

 

「妹様、もう夜ですよ」

 

 私は料理をテーブルへと置いて、妹様の体を静かに揺する。

 

「……ぅ、ん……zzz」

 

 どうやらまだ眠いようだ。

 布団を掴み、更に奥へと入っていってしまう。

 

「妹様? お寝坊はあまりお体によろしくないですよ」

 

「……ぁ、り……ぁ……ぁ、さくや。おはよう」

 

 妹様は目を擦りながら起き上がる。

 

「おはようございます。妹様。食事の用意ができております」

 

 私は眠そうな妹様を寝間着から普段着に着替えさせる。

 妹様はフラフラと椅子に座った。

 

「……お姉さまも面白い駒を手に入れたものね。リドルにクィレル。素敵だわ」

 

「妹様から見て、あの2人はどう思いますか?」

 

 妹様はナイフとフォークを手に取り、夕食を食べ始めた。

 

「そうね、クィレルはお姉さまを裏切らないわ。お姉さまの魅了で縛られているっていうのもあるけど、心の底からお姉さまに忠誠を誓っているし。分からないのはリドルの方よ。大人しいのが逆に不気味だわ。……このサラダ美味しいわね」

 

「恐れ入ります」

 

「本来ならもっと自由に泳がせるべきなのでしょうけど、パチュリーの事情もあってそうはいかない。難しいわよね」

 

 私は妹様が食べている後ろで紅茶を用意し始める。

 

「まあ長引くような事態でもないし、私としては言うことないわ」

 

「紅茶が入りました」

 

「ありがと」

 

 妹様は夕食を取り終わると紅茶を一口飲む。

 そして私の方へと振り向いた。

 

「頑張りなさい。お姉さまの為にね」

 

「承知しております」

 

 私は妹様に一礼すると地下の部屋から出る。

 妹様はあの部屋に引きこもっていらっしゃるのに外の情勢に詳しい。

 何か理由があるのだろうか。

 ……美鈴さんは閉心術を使えないので多分そこからだろう。

 クィレルとリドルは直接妹様に会ったことはない。

 狂気云々の話ではない。

 お嬢様が会わせようとしないのだ。

 私は厨房へと戻り食器を洗う。

 するとその時、ポケットの中に違和感を感じた。

 私は時間を止め洗い物を終わらせると、ポケットの中に手を突っ込む。

 違和感の正体はダンブルドア先生から渡された小さなオープンフェイスの懐中時計だった。

 時刻は3時を示している。

 もっとも現在の時刻とは異なる。

 3時は招集の合図だ。

 私は懐中時計をひっくり返す。

 そこにはカレンダーが付いており、針は木曜日を差していた。

 木曜日は本部という意味。

 不死鳥の騎士団本部はロンドンのグリモールド・プレイスにある。

 何かあったのだろうか。

 私は懐中時計を仕舞い、お嬢様の部屋の前まで移動する。

 時間停止を解除し、ドアをノックした。

 

「お嬢様、不死鳥の騎士団の招集が掛かりました」

 

「入りなさい」

 

 私はドアを開けてお嬢様の部屋へと入る。

 お嬢様は部屋の机で事務仕事を行っていた。

 

「ブラック邸で集合とのことです」

 

「ええ、行ってきなさい。仕事は美鈴にやらせるわ。あっちに向かう前に門に寄って声を掛けておきなさい」

 

「かしこまりました。それでは少々出かけてきます」

 

 私は時間を止めお嬢様の部屋を出る。

 そして紅魔館内を飛び、門の前へと移動した。

 美鈴さんは暇そうに空を見上げたまま固まっている。

 私は時間停止を解除した。

 

「美鈴さん」

 

「ん? ああ咲夜ちゃんか。どうしたの?」

 

 美鈴さんはいきなり現れた私に驚くことなく振り返る。

 私は不死鳥の騎士団から招集を受けたとの旨を伝えた。

 

「なので少しの間、館の仕事を頼みたいのですが」

 

「ほいよー、了解。門番しゅーりょー!」

 

 美鈴さんは大きく伸びをして玄関の方に歩いていく。

 私はその後ろ姿を見送ると時間を止めブラック邸の正面に姿現しした。

 ブラック邸は現在その所在地を知るものにしか見えないようになっている。

 私はすり減った階段を上りドアの前へ移動する。

 そして周囲に人影がないことを確認すると杖を取り出しドアを1回叩く。

 すると何かの金属音が中から聞こえ、古びた扉が音を立ててゆっくり開いた。

 私はブラック邸へと入る。

 ここが今現在、不死鳥の騎士団の本部となっている。

 私は中に入るともう一度時間を止める。

 そして暗闇の中を明かりもつけずに歩いていき、厨房へと入った。

 厨房にはモリーさんが固まっている。

 手に持っているお玉から察するに夕食を作っていたところなのだろう。

 私は時間停止を解除し、モリーさんに挨拶をした。

 

「こんばんは。招集を受けたのだけれど、何かあったのかしら」

 

 後ろから急に声を掛けられてモリーさんは悲鳴を上げる。

 そしてバネ人形のようにこちらに振り向いた。

 

「――ッ!? 咲夜か、びっくりさせないでちょうだい」

 

 モリーさんは鍋をかき混ぜる作業に戻る。

 悲鳴を聞きつけたのか、ブラックとビルが厨房に駆け込んできた。

 2人とも騎士団員だ。

 

「なんだ! どうした?」

 

 ブラックが厨房を見回して叫ぶ。

 ブラックは穴倉生活を送っていた頃とは比べ物にならないほど着ている物も髪も清潔になっている。

 

「ごめんなさい、シリウス。咲夜にびっくりしただけよ。この子ったら急に現れるんですもの」

 

 私の能力の本質を知っているのはダンブルドア先生しかいない。

 他の騎士団員は何か特殊なことができるといったぐらいの認識しかないのだ。

 

「招集が掛かったわよね。何かあったのでしょう?」

 

 私が聞くとブラックは安堵のため息をついた。

 

「ああ。少し話し合わなければならないことがある。今後の騎士団の活動についてだ。会議は今日の深夜。ある程度騎士団員が集まってからだ」

 

「わかったわ。モリーさん、手伝いますよ」

 

 私はモリーさんの横に並びまな板の上に置いてあるジャガイモの皮を剥き始める。

 モリーさんは心配そうな顔で私を見ていた。

 

「無理に参加しなくてもいいのよ? 貴方はまだ未成年なのだし……」

 

 モリーさんは未成年が騎士団の活動に参加するのに凄く反対している。

 会議の時にも厳重過ぎるぐらい厨房のドアに魔法を掛け、ここにいるウィーズリーの子供たちに聞こえないようにするぐらいだ。

 

「あら、信用無いのね私」

 

「そういう意味じゃないわ。私は貴方が心配で――」

 

 私は時間を止め、料理を進める。

 そして30分ほどの時間をかけて夕食の準備を全て終わらせた。

 時間の停止を解除する。

 

「ありがとう。でも心配いらないわ。みんなを呼んでくるわね。夕食にしましょう。」

 

「え? まだ料理は……――!?」

 

 モリーさんはいつの間にか自分のかき混ぜていた鍋の中身が完成しているのを見て目を丸くする。

 私は厨房を出て上の階に上がった。

 上の階は子供部屋になっている。

 ウィーズリーの家族は現在殆どここに集まっているのだ。

 

「ロン、フレッド、ジョージ。夕食が出来たわよ」

 

 私が声を掛けるとバタバタと部屋の中から音がして何故かハーマイオニーが飛び出してきた。

 そういえば夏休みの間はここに移動すると騎士団員の誰かが言っていたか。

 

「咲夜! 咲夜もここに来ていたのね! 館の方は大丈夫なの?」

 

 ハーマイオニーは私が騎士団員だということを知らないようだった。

 私の手を掴み埃が舞うのも構わずピョンピョン飛び跳ねている。

 

「ええ、美鈴さんに任せてあるわ。いつの間にかここへ来ていたのね。ハーマイオニー」

 

「今朝ルーピン先生の案内で到着したの。ロン、ロン!」

 

 ハーマイオニーが部屋の中に向かって叫ぶ。

 ロンはのそりのそりと部屋の外へ出てきた。

 その後に続き2人の双子も姿を現す。

 

「夕食だったっけ。今行くよ……そうだ、咲夜。騎士団の活動はどんな感じだ?」

 

 ロンは私が騎士団の活動を秘密にしていることが気に入らないらしい。

 最近会うといつもこの調子なのだ。

 

「上々とは言えないわね。ほら。さっさと厨房に行きなさい」

 

 私が号令をかけるとロンとフレッドとジョージは下の階へと下りていった。

 

「ジニーはどこ?」

 

「多分部屋だと思うけど……咲夜、もしかして貴方って」

 

「騎士団員よ」

 

 私は部屋の中へと入る。

 そこには既に布団に包まっているジニーがいた。

 

「ジニー、夕食はどうするの?」

 

 私はジニーを揺するが起きる気配はない。

 埒が明かないのでハーマイオニーだけを連れて厨房へと下りた。

 厨房のテーブルには既にウィーズリーの兄弟とブラック、ルーピンが座っている。

 

「さて、よくわからないけど予定よりも早く料理が完成したわ」

 

 モリーさんは狐につままれたような顔をして料理をテーブルに並べている。

 私が最後にテーブルの一角に座ると皆夕食を取り始めた。

 

「最近変わったことはないかしら」

 

 私は食事に手を付けずにブラックに聞いた。

 ブラックはこの家に軟禁状態になっている。

 裏を返せば一番情報が集まるこの本部にずっといるということになる。

 

「今のところは大丈夫だ。ハリーを含めてね」

 

 私たちの会話にハーマイオニー含めるウィーズリーの下の兄弟たちは耳をそばだてる。

 一語一句たりとも聞き逃さないという態度だ。

 

「そう、それは安心ね」

 

「君こそ館はいいのかい? 休暇中はメイド長をやっていると聞いたぞ」

 

「大丈夫よ。いつも何かしらの用事を作って館を抜け出してきているわ」

 

 それに夕食も館で取ったしね、と付け加える。

 私は鞄から紅茶の入ったティーカップをそのまま取り出した。

 時間を止めていれば液体も固体と変わらない。

 匂う物は匂わず、暖かいものは冷めない。

 全員がその異様な光景を目を丸くして見ていた。

 

「……なによ。マグルじゃないんだからそんなに驚かないで」

 

 ただの保温魔法よと嘘をつく。

 そのままブラック邸での時間は過ぎていった。




用語解説


大号泣咲夜
勿論嘘泣き。

咲夜の能力を知るダンブルドア
正直ある程度の予想はしていたが、物質転移か時間停止かで悩んでいた段階。

優勝杯はおぜうへ
ダンブルドアはハリーの優勝杯が偽物であると気が付きましたが状況が状況なので詳しく追及している暇はありませんでした。

無能大臣ファッジ
そのうち死ぬんじゃなかろうか。

まだおねむな妹様
かわいい。

騎士団員咲夜
他の騎士団員の印象では「よくわからない少女だがダンブルドアが信用しているなら……」状態


追記
文章を修正しました。

2018-11-05 加筆修正

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