私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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アンブリッジ先生、ご冥福をお祈りいたします。

苛めとは
弱い者を一方的に苦しめること

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


警告とか、苛めとか、傷痕とか

 ホグワーツの新入生歓迎会。

 組み分け帽子の歌が終わると同時に拍手が沸き起こった。

 だが、例年と比べると盛り上がりに欠ける。

 それは、何故か。

 今回の組み分け帽子の歌が少々異質で、警告を含むものだったからだろう。

 私が聞いた限りでは、組み分け帽子が学校に対して警告を発する歌など今までなかった。

 やはりヴォルデモートが復活したからなのだろう。

 

「今年はちょっと守備範囲が広がったと思わないか?」

 

 ロンがそう言って眉を吊り上げる。

 どうやらハリーとハーマイオニーも同じ意見らしい。

 

「これまでに警告を発したことなんてあった?」

 

「左様。実はあるのです」

 

 ハーマイオニーの不安そうな声に答えたのはほとんど首無しニックだった。

 ニックはネビルの体をすり抜けるように身を乗り出し、ひそひそを続ける。

 

「あの帽子は必要と感じたら自分の名誉にかけて学校に警告を発するのです」

 

 ニックは話を続けようとするが、マクゴナガル先生に睨まれて何処かに消えてしまった。

 あの帽子はグリフィンドールの持ち物だったか。

 そのあとは粛々と組み分けが行われ、そしてそれも終わるとテーブルの上に料理が溢れかえった。

 ハリーたちは口の中に料理をかき込み始める。

 私も目の前に置かれたミートパイに手を付けた。

 

「おお、そうでした。あの帽子はこれまでに何度かあのような警告を発しております。いつも学校が危機に直面している時でした。忠告の内容はいつも同じですよ。団結せよ、内側から強くせよと」

 

「もっともな意見ね」

 

 ニックは食事が始まると先ほどの組み分け帽子の歌について話してくれる。

 私としても帽子の意見には賛成だ。

 できるだけ団結し、多くの仲間を持ち、そして死んでいって貰いたい。

 

「じゃあ全部の寮に仲良くなれってことか。……無理だね」

 

 ハリーがスリザリンのテーブルを見て呟いた。

 そこではドラコが胸の監督生バッジを他のスリザリン生に見せびらかしている。

 

「でも驚きね。昔はスリザリンとグリフィンドールが親友だったなんて」

 

 私は歌の内容を思い出しながら言う。

 今現在のグリフィンドール寮とスリザリン寮はおかしなほど対立している。

 きっとどちらも自分が正義だと思っているに違いない。

 そしてその抗争のようなものを上から見て阿呆らしいと笑うのがレイブンクローで、間に挟まれておろおろするのがハッフルパフ。

 私の中の寮のイメージはそんな感じだ。

 しばらくすると宴会のご馳走もテーブルから消え失せ、ダンブルドア先生が立ち上がる。

 大広間がシンと静まり返り、皆がダンブルドア先生の顔を見た。

 

「さて、素晴らしいご馳走を皆が消化しているところで、学年度始めのお知らせといこうかの。1年生に注意しておくが、校庭にある禁じられた森は生徒立ち入り禁止じゃ。そして管理人のフィルチさんからの要請で……これが462回目になるそうじゃが、全生徒に伝えてほしいとのことじゃ。授業と授業の間に廊下で魔法を使ってはならん。その他の禁止事項はフィルチさんの事務所のドアに貼り出してあるので、確かめられるとのことじゃ」

 

 ハリーはロンと顔を見合わせる。

 誰が見に行くかそんなもん、2人の顔はそう言っていた。

 

「今年は先生が2人替わった。魔法生物飼育学にプランク先生がお戻りになった。さらにご紹介するのが、アンブリッジ先生、闇の魔術に対する防衛術の新任教授じゃ」

 

 私はその言葉を聞いて改めて教職員テーブルを見回す。

 するとそれはそこにあった。

 なんというか……いや、私がここまで人間に対して嫌悪感を抱くのは珍しいことだと自分でも思うのだが……私はアンブリッジ先生のことが生理的に無理なようだ。

 カエルのような顔に甲高い声、ピンクで統一された服装。

 まだカエルの方が何十倍もマシだろう。

 何故ここまで嫌悪感を持つのかは自分でもわからない。

 だが、本能がこいつはダメだと訴え続けていた。

 ダンブルドア先生は話を続ける。

 

「クィディッチの寮代表選手の選抜の日は――」

 

「ェヘン、ェヘン!」

 

 次の瞬間アンブリッジ先生が咳払いと共に立ち上がる。

 その様子を見てダンブルドア先生が静かにアンブリッジ先生を見下ろした。

 そして何かを察したのかすぐに優雅に腰かけアンブリッジ先生の話を静かに聞く体勢に入った。

 

「校長先生、歓迎のお言葉感謝いたします」

 

 その声を聞いて殆どの生徒が顔を顰める。

 なんというか、全員がガラスを釘で引っ掻いた音を聞いたかのような表情をしていた。

 

「さて、ホグワーツに戻ってこれて本当にうれしいですわ。そして皆さんの幸せそうな可愛い顔が私を見上げているのは素敵ですわ!」

 

 私は周囲をもう一度見回す。

 見る限りでは幸せそうな顔をしている生徒はクラッブとゴイルぐらいだった。

 

「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。きっと良いお友達になれますわよ!」

 

 私はそっと少し離れた席にいるフレッドに声を掛ける。

 

「フレッド、ちょっといい?」

 

「え? あ、咲夜か。ごめん今耳を塞ぐのに忙しいんだ。話なら後で――」

 

「面白いものを見せてあげるわ。貴方たちが作ってたゲーゲー・トローチ出しなさい」

 

「……なんで知ってるんだ? あれは企業秘密で――」

 

「いいから。あ、効果が出る方の半分だけでいいわよ」

 

 フレッドは肩を竦めながらポケットから1粒のトローチを取り出した。

 このトローチは双子の2人が開発したもので、食べると嘔吐を起こすというものである。

 私はそれを手の平の上に乗せフレッドとジョージの目の前に出す。

 そして時間を停止させた。

 

「さて」

 

 私はトローチを握りしめ大広間を飛んでアンブリッジ先生に近づく。

 そして鳴き声を出そうと口を大きく開けているアンブリッジ先生の口の中にゲーゲー・トローチを投げ入れた。

 トローチは喉を転がっていき胃袋の中に無事収まる。

 私はグリフィンドールのテーブルへと戻り先ほどと同じ体勢を取った。

 もっとも、手の上のトローチはもう無くなっているが。

 そして時間停止を解除する。

 

「おい、トローチが消えちまったぜ? これを見せたかったのか?」

 

 ジョージが少し興奮したように声を上げる。

 私はアンブリッジ先生からは見えないように先生の方を指さした。

 

「――魔法界独自の古来からの技を、後代に伝えなければ永久に――ぉぼ、おぼろろろろろろろろろrrrrrrrr――」

 

 トローチの効果が効いてきたのかアンブリッジ先生は全校生徒の前で盛大に胃の中の物を吐き出し始めた。

 全てのテーブルで大爆笑が起きる。

 

「ぶはははははっ! マジかよ咲夜! さいっこうにクールだぜ!!」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! 腹痛え……流石我らがスポンサー様だ!」

 

 アンブリッジ先生は自分が何故嘔吐したのか、そして何故それが止まらないのか分からず周囲を見回しながら吐き続ける。

 結局その大爆笑の嵐はマダム・ポンフリーがアンブリッジの嘔吐を止めるまで続いた。

 アンブリッジ先生は自分の身に何が起きたのか分からず困ったようにあたりを見回している。

 そしてようやく自分の服が自分の吐瀉物でドロドロの事に気がつくと杖を振って綺麗にした。

 一部の生徒はまだ痙攣するように体をビクンビクンさせている。

 ハリーたちもニヤニヤとアンブリッジ先生を見ていた。

 私は次の瞬間教職員テーブルの方から視線を感じる。

 ダンブルドア先生が静かにこちらを見ていた。

 私はその視線に微笑み返す。

 どうせ証拠なんてないのだ。

 その後は顔を自分の服よりも赤くしてアンブリッジ先生が座り、代わりにダンブルドア先生が立ち上がる。

 そしてその後の連絡事項を告げていった。

 私は取り敢えず満足して椅子に座り直す。

 そう、今までで最も私の態度の悪い1年が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 魔法史の授業が終わると今年初めての魔法薬学、スリザリンとの合同授業だ。

 私はいつものようにドラコの横に腰かけた。

 

「やあ、咲夜。夏休みはどうだった?」

 

 ドラコはご機嫌のようだった。

 何かいいことがあったのだろうか。

 

「そうね、楽しかったわ。色々と。……ドラコは監督生に選ばれたのね」

 

「マルフォイ家の長男だからね。僕の予想ではグリフィンドールの監督生はあの穢れた血じゃなくて咲夜だと思っていたんだが、あのヘンテコジジイが考えることはわからないな。まあ監督生なんて面倒くさいだけさ」

 

 そう言ってドラコは肩を竦めたが、表情から察するに監督生としての生活を存分に満喫しているようだった。

 しばらくドラコと談笑しているとスネイプ先生が教室に入ってくる。

 

「静まれ」

 

 スネイプ先生はハリーたちを睨みながら冷たく言った。

 その言葉を聞いてクラスにいた生徒がシンと静まり返る。

 

「本日の授業を始める前に、忘れぬようにはっきりと言っておこう。来年の6月、諸君は重要な試験に臨む。そこで魔法薬の成分、使用法について諸君がどれほど学習したかが試される。このクラスの何人かは確かに愚鈍であるが、私としてはふくろう合格スレスレの『可』以上を期待する」

 

 スネイプ先生はハリーを見た後ネビルを睨みつけた。

 確かにネビルは魔法薬学がすこぶる苦手だ。

 

「来年までに私の授業を去る者もでよう。私は優秀なものにしか、いもりレベルの受講を許さん。つまり、ここにいる何人かは必ずや別れを告げるということだ」

 

 スネイプ先生は黒板に魔法薬のレシピを書き始める。

 

「今日はふくろう試験にしばしば出てくる魔法薬である安らぎの水薬を調合する。もっともグリフィンドールの生徒には2年前この水薬にお世話になった者もいるようだが……」

 

 先生は今度は私を睨んだ。

 ボガート事件のことと思っていいだろう。

 クラスの何人かは嫌なことを思い出したと言わんばかりに顔を歪める。

 嫌悪感というよりかは、純粋な恐怖によるものだった。

 

「この水薬を調合するときには注意することが多々ある。成分が強すぎると、飲んだ者は深い眠りに落ち、時にはそのままとなる。故に、調合には細心の注意を払いたまえ。1時間半、時間を与える。始めたまえ」

 

 私はドラコに材料を持ってくるよう伝えると大鍋をドラコの分も用意する。

 そして黒板に書かれた調合法をよく見て暗記すると、ドラコの持ってきた魔法薬を手で摘み感覚で量り始めた。

 

「いつも思うんだけど、それどうやっているんだ? ミリグラム単位の材料とかもあるだろう?」

 

「そうね、魔法薬学は料理に近いから」

 

 私は普段魔法薬を調合するとき目分量で入れていくが、ドラコが同じことが出来るとは思えない。

 なのでいつもドラコの分は私が分量を量り皿に盛るのだ。

 私はドラコに正確に指示を出しながら自分の鍋を片手でかき混ぜ魔法薬を量らずに入れていく。

 安らぎの水薬は正確な回数かき混ぜなくてはならないのだが、逆に正確にかき混ぜたら完璧に調合できるということである。

 私は匙を横に置くと炎の強さを決められた大きさまで下げる。

 そして数分経つと軽い銀色の湯気が私の鍋から立ち上った。

 ドラコは指定された回数に注意しつつ鍋をかき混ぜている。

 そして私から遅れること10分。

 ドラコも魔法薬を完成させた。

 スネイプ先生は私の鍋を覗き込み、次にドラコの鍋を覗き込む。

 そしてひとしきりドラコの魔法薬を褒めるとハリーの方へと歩いていった。

 

「ポッター、これは何のつもりだ?」

 

 スネイプ先生がハリーの鍋の中身を匙で掬い静かに鍋の中に戻す。

 

「安らぎの水薬」

 

 ハリーは頑なにそう答えた。

 

「教えてくれポッター。お前は字が読めるのか?」

 

 スネイプ先生は冷ややかに言う。

 その言葉を聞いてドラコは鼻で軽く笑った。

 

「読めます」

 

「ポッター、黒板に書かれた調合法の3行目を読んでみたまえ」

 

「月長石の粉を加え、右に3回撹拌し、7分間ぐつぐつ煮る。そのあと、バイアン草のエキスを2滴加える」

 

 ハリーはそこまで読んでがっくりと項垂れたような顔をした。

 

「3行目をすべてやったか? ポッター?」

 

「いいえ」

 

 スネイプ先生の問いにハリーは小声で答えた。

 

「答えは?」

 

 スネイプ先生は聞こえなかったと言わんばかりにハリーに問い直す。

 ハリーは少し声を大きくして言った。

 

「いいえ。バイアン草を忘れました」

 

「そうだろう、ポッター。つまりここにあるごった煮はなんの役にも立たない。エバネスコ、消えよ」

 

 先生が杖を振るとハリーの鍋の中身がきれいさっぱり消え去った。

 ハリーはそれを見て絶望的な顔をする。

 

「課題がなんとか『読めた』者は自分の作った薬のサンプルを小瓶に入れ、名前を書いたラベルを貼って提出したまえ」

 

 つまり魔法薬モドキが消え去ったハリーは0点ということだ。

 

「そして次の時間までに月長石の特性と魔法薬調合に関するその用途を羊皮紙に30センチ書いてくるように」

 

 私は出来上がった魔法薬を小瓶に詰め、ドラコと共に机に提出する。

 そして大鍋を綺麗にし鞄の中へと仕舞い込んだ。

 

「じゃあね、ドラコ。また次の合同授業で」

 

 私はドラコと分かれハリーたちと合流する。

 次は占い学だったか。

 占い学では夢占いの授業に入った。

 見た夢の内容から自分の未来を占うという授業だが、正直私は自分の夢に自分で引くタイプである。

 1か月夢日記をつけるという宿題が出たが、本当に見たままを書いていいのか分からなかった。

 ……ロンドンの街に繰り出して人を殺して歩く夢を見たなど、書けるわけない。

 

 

 

 

 

 次の時間は闇の魔術に関する防衛術の授業だった。

 私はハリーたちと共に教室に入るとアンブリッジ先生は既に教壇の前に座っている。

 私たちは教室の一番後ろの席へと座った。

 

「さあ、こんにちは!」

 

 アンブリッジ先生は立ち上がり気持ち悪い声で挨拶する。

 教室にいる何人かの生徒が挨拶を返した。

 

「チッチッ、それではいけませんねぇ。みなさん、どうぞこんなふうに。「こんにちは、アンブリッジ先生」ではもう一度いきますよ? はい、こんにちは、みなさん!」

 

「コンニチハアンブリッジセンセイ」

 

 教室にいる全員が呪文のように唱えた。

 

「そうです。難しくないでしょう? 杖を仕舞って羽ペンを出してくださいね」

 

 先生はそう言って黒板の前を開けるように教壇を横にずらすと、黒板の横に椅子を置きそこに座った。

 

「あぅ!?」

 

 途端にアンブリッジ先生が悲鳴を上げて跳び上がる。

 そしてそのまま何回かジャンプし、机に躓き床の上に転がった。

 何が起こったか、簡単である。

 私が時間を止めてアンブリッジ先生の椅子の上に画鋲を10本ほど置いただけだ。

 

「せ、先生!? 何かあったんですか?」

 

 前の方に座っていたパーバティが悲鳴のような声を上げた。

 ハリーとロンはアンブリッジ先生のそんな様子を見て机の上に突っ伏し笑いを堪えている。

 

「だ、誰ですか椅子の上にこんなに画鋲を置いたのは……あれ? 画鋲がない」

 

 話は簡単だ。

 先生が転げまわっているうちに時間を止め、私がすべて画鋲を消失させただけである。

 アンブリッジは大きい尻を摩りながら立ち上がると気を取り直して黒板を杖で叩いた。

 

『闇の魔術に対する防衛術 ~基本に返れ~』

 

 黒板にはそう文字が浮かび上がる。

 

「さ、さて、みなさん。この学科の授業はかなり乱れていましたね。毎年先生が変わり、殆どの先生が魔法省指導要領に従っていなかったようです。その結果として、不幸なことに皆さんは魔法省がふくろう試験を受ける学年に期待するレベルを遥かに下回っています。しかしご安心なさい。こうした問題は全て解決します。今年は慎重に構築された理論中心の魔法省指導要領どおりの防衛術を学んでいきます。さあ、これを書き写してください」

 

 先生はまた黒板を杖で叩いた。

 私は叩いた瞬間に時間を止めアンブリッジ先生の尻を蹴飛ばす。

 そして元いた場所に戻り時間停止を解除した。

 

「あうっ――!?」

 

 黒板に文字が浮かび上がると同時にアンブリッジ先生はまた跳び上がる。

 何故こんなことをするかと聞かれたら、……なんと答えればいいのだろうか。

 あれが生きていることが気に入らないとでも言えばいいだろうか。

 少々幼稚だとは思うが、まあ憂さ晴らしぐらいにはなるだろう。

 

「ちょっと、さっきからなに!? この教室に何かいるの!?」

 

「えっと、先生。大丈夫ですか?」

 

 トーマスが奇怪なものを見るような目で先生を見た。

 何人かの真面目な生徒は既に黒板の文字を写しにかかっているが、殆どの生徒が「この先生なにかがおかしい」と言わんばかりの表情で先生を見ている。

 

「あのアンブリッジってやつやべえよ。挨拶の時には吐いたし、今度は1人で教室中を転げまわるし」

 

 ロンがヒソヒソとハリーに言う。

 ハリーも変人という意見に同意していた。

 

「は、早く黒板の文字を写しなさい」

 

 先生は教室中を見回しながら生徒にそう告げる。

 大方ゴーストでもいると思っているのだろう。

 そして全員が写し終わり羽ペンを机に置くと、先生は再び口を開いた。

 

「みなさん、ウィルバート・スリンクハードの防衛術の理論を持っていますか?」

 

 持っていますと何人かがぼそぼそという。

 その様子に先生は馬鹿にしたように首を横に振った。

 

「もう一度やりましょうね。私が質問したら答えはこうですよ。「はい、アンブリッジ先生」または「いいえ、アンブリッジ先生」では、みなさん、ウィルバート・スリンクハードの防衛術の理論を持っていますか?」

 

「ハイ、アンブリッジセンセイ」

 

 全員の呪文の詠唱に、教室中がわーんと鳴った。

 

「よろしい。では5ページを開いてください。『第1章、初心者の基礎』おしゃべりはしないこと」

 

 アンブリッジ先生は椅子の上を手で払い、画鋲がないことを確認して椅子に座る。

 私は座ろうとした瞬間に時間を止め画鋲を椅子に並べた。

 

「あうちっ!!」

 

 ……この先生は頭までカエルなのだろうか。

 先生のそんな奇声を聞いてクラスの殆どが教科書で顔を隠した。

 顔は隠れているが、クスクスといった笑い声は微塵も消せてはいない。

 次の瞬間、ハーマイオニーが真っすぐと手を上げた。

 驚いたことに、教科書は閉じて机の上に置いてある。

 先生は尻をさすりながら立ち上がると椅子を魔法で消し、黒板の前に立った。

 

「この章について、何か聞きたかったの?」

 

 そして手を上げているハーマイオニーを見て鳴き声を上げた。

 

「この章についてではありません」

 

「おやまあ、今は読む時間よ。他の質問なら、授業が終わってからにしましょうね」

 

 アンブリッジ先生はそう言って話を切り上げようとするが、ハーマイオニーは座らなかった。

 

「授業の目的に質問があります」

 

 その言葉を聞いてアンブリッジ先生の眉がつり上がった。

 

「貴方のお名前は?」

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「さあ、ミス・グレンジャー。ちゃんと全部読めば、授業の目的ははっきりしていると思いますよ」

 

 アンブリッジ先生は優しい声で言った。

 

「でも、わかりません。防衛呪文を使うことに関しては何も書いてありません」

 

 ハーマイオニーの言葉に生徒の多くが教科書から顔を上げる。

 

「呪文を……使う? まあ、まあまあまあ。ミス・グレンジャー。このクラスで貴方が防衛呪文を使う必要があるような状況が起ころうとは考えられませんけど? まさか授業中に襲われるなんて思ってはいないでしょうね」

 

 クラスの全員が後ろの席にいる私の方に振り返った。

 確かに皆の視線のとおり、私は去年の闇の魔術に対する防衛術の授業中に先生を襲っている。

 ナイフを投げた回数も2桁に達するだろう。

 

「魔法を使わないの?」

 

 ロンが声を張り上げた。

 

「私のクラスで発言したい生徒は手を挙げること。ミスター――?」

 

「ウィーズリー」

 

 ロンは高く手を挙げた。

 アンブリッジ先生はニッコリ笑うとロンに背を向けた。

 それを見てハリーとハーマイオニーが手を挙げる。

 

「はい、ミス・グレンジャー? 何か他に聞きたいの?」

 

「はい。闇の魔術に対する防衛術の真の狙いは防衛呪文を練習することではありませんか?」

 

「ミス・グレンジャー、貴方は魔法省の訓練を受けた教育専門家ですか?」

 

「いいえ、でも――」

 

「なら残念ながら貴方には授業の内容に口を出す資格はありませんね。貴方よりも年上で賢い魔法使いたちが新しい指導要領を決めたのです。あなた方が防衛呪文について学ぶのは、安全で危険のない方法で――」

 

「そんなの何の役に立つ?」

 

 先生の言葉を妨げるようにハリーが大声を上げる。

 

「もし僕たちが襲われるとしたら、そんな方法――」

 

「挙手、ミスター・ポッター!」

 

 そう言われハリーは拳を宙に突き上げた。

 アンブリッジ先生はそっぽを向く。

 だが今度はハリーたちだけでなく他の生徒の手も挙がった。

 

「貴方のお名前は?」

 

 アンブリッジ先生はトーマスに聞く。

 

「ディーン・トーマス」

 

「それで? ミスター・トーマス?」

 

「えっと、ハリーの言う通りでしょ? もし僕たちが襲われるとしたら、危険のない方法なんかじゃない」

 

「もう一度言いましょう。このクラスで襲われると思うのですか?」

 

「「「「「はい、アンブリッジ先生」」」」」

 

 生徒の殆どが声を揃えて唱えた。

 その様子を見てアンブリッジ先生は口をパクパクさせる。

 そしてようやく言葉を取り戻したのか少しずつ話し始めた。

 

「あなた方のような子供を、一体誰が襲うというんですか」

 

 その言葉にクラスの全員がまた私を見る。

 

「襲うわけないでしょう? こっち見るのを止めなさい」

 

 私は肩を竦めた。

 襲うのは生徒ではなく先生だけだ。

 

「うーん、ヴォルデモートとか? 僕たちを襲うとしたら」

 

 ハリーがぽつりと呟いた。

 その名前にクラスの半数がギクリとする。

 

「グリフィンドール10点減点です。ミスター・ポッター」

 

 アンブリッジ先生は気味の悪い満足げな表情を浮かべている。

 

「さて、いくつかはっきりさせておきましょう。みなさんは、ある闇の魔法使いが戻ってきたという話を聞かされてきました。死から蘇ったと――」

 

「あいつは死んでいなかった! だけど、ああ、蘇ったんだ!」

 

 ハリーが怒ったように声を張り上げた。

 

「ミスター・ポッター、貴方はもう自分の寮に10点も失わせたのにこれ以上自分の立場を悪くしないよう。今言いかけたように、皆さんはある闇の魔法使いが再び野に放たれたという話を聞かされてきました。これは嘘です」

 

「嘘じゃない! 僕は見た。僕はあいつと戦ったんだ!」

 

「罰則です。ミスター・ポッター!」

 

 アンブリッジ先生が勝ち誇ったように言った。

 私はその様子に頭を抱えた。

 ああいうのには、真正面から立ち向かってはいけない。

 陰から陰湿に攻撃しなくてはならないのだ。

 

「明日の夕方、5時に私の部屋に来なさい。もう一度言いましょう。それは嘘です。魔法省は皆さんに危険はないと保証します。さて、ではどうぞ読み続けてください。5ページ、初心者の基礎」

 

 ハリーはついに椅子から立ち上がる。

 そしてハーマイオニーの静止を払いのけ先生に言った。

 

「咲夜も見たんだ! あいつは帰ってきた!」

 

「そうなのですか? ミス・十六夜」

 

 アンブリッジ先生はニタニタと笑いながら私の方を見る。

 私はハリーの方をチラリと見て肩を竦めた。

 

「そんなわけないじゃないですか? あの人が帰ってきた? バカバカしい」

 

「ほら見なさい! 貴方は嘘つきです。適当なことを言って生徒を混乱させないように」

 

 ハリーは驚いたような顔でこちらを見る。

 

「ミスター・ポッター、いい子だからこっちにいらっしゃい」

 

 ハリーは怒りのあまりか椅子を蹴飛ばし私を睨みながら大股で先生の方へと歩いていった。

 アンブリッジ先生は羊皮紙に何かを書くとハリーが見れないように丸め、封蝋を押す。

 そしてそれをハリーに手渡した。

 

「さあ、これをマクゴナガル先生のところへ持っていらっしゃいね」

 

 ハリーはそれをもぎ取るように掴み取ると一言も言わずに教室を出ていく。

 私は静かに挙手をした。

 

「どうしたの? ミス・十六夜」

 

「ハリーがちゃんとマクゴナガル先生のところに行くか見張ってもよろしいでしょうか? ほら、あの様子ですと……」

 

 私は先生に言葉の意味が伝わるようにニタリと表情を歪ませた。

 先生はその表情の意味を悟ったのだろう。

 快く了承してくれた。

 私は教科書を鞄に詰めハリーの後ろを追いかける。

 そしてハリーに追いついた瞬間時間を止め、1回教室へと戻りアンブリッジ先生の頭を思いっきり蹴っ飛ばしてハリーのいる場所まで戻った。

 これでアリバイは完璧である。

 

「ハリー、あれは拙いわ」

 

「五月蠅い。嘘つきはどっちだ。何でさっき嘘をついたんだ!?」

 

 ハリーが私に食って掛かった。

 私はハリーの顔を手で掴み引き離すと隣のドアをノックする。

 そこには副校長室と書かれていた。

 

「いったい何を騒いでいるのですか? まだ授業中ですよ?」

 

 次の瞬間マクゴナガル先生が扉を開けて現れる。

 

「先生のところに行ってこいと言われました」

 

 ハリーはブスッとした表情で羊皮紙を先生に手渡した。

 マクゴナガル先生は羊皮紙を広げ、読み始める。

 そして読み終わったのかハリーと私を交互に見た。

 

「入りなさい。ポッター、十六夜」

 

 私たちは先生に続いて副校長室に入る。

 

「それで、本当なのですか?」

 

 マクゴナガル先生は単刀直入に言った。

 

「本当って……何が? ……ですか? マクゴナガル先生」

 

「アンブリッジ先生に対して怒鳴ったというのは本当ですか?」

 

 マクゴナガル先生が改めて言った。

 

「はい」

 

「嘘つき呼ばわりしたのですか?」

 

「はい」

 

「例のあの人が帰ってきたと言ったのですか?」

 

「はい」

 

「十六夜を嘘つき呼ばわりしたのですか?」

 

「はい、でもそれは咲夜が――」

 

 マクゴナガル先生が座るように促す。

 私とハリーはマクゴナガル先生と向かい合うように座った。

 

「ビスケットをおあがりなさい」

 

「え?」

 

 ハリーはすっとんきょな声を上げた。

 先生は机の上に置いてあるチェック模様の缶を指さす。

 私はそれを見て鞄から3人分の紅茶を用意した。

 

「ポッター、気を付けなければなりません。アンブリッジのクラスで態度が悪いと、貴方にとっては寮の減点や罰則だけではすみませんよ」

 

「どういうことですか?」

 

 ハリーはビスケットを齧りながら先生に聞く。

 私は呆れたように口を開いた。

 

「常識的に考えなさい。あいつが何処から来ているか。誰に報告を入れているか」

 

「でもヴォルデモートが帰ってきたというのは事実だ! 咲夜だって見たはずなのに何で――」

 

「ポッター、十六夜は不死鳥の騎士団のメンバーです。そんなことは分かりきっています」

 

 マクゴナガル先生はぴしゃりと言った。

 

「ポッター、自分を抑えなさい。今はあの人が帰ってきたのが嘘か真かを議論している時ではないのですよ」

 

「そうよ。あれの言うことは適当に聞き流しなさい。じゃないといつか痛い目を見るわよ」

 

 私とマクゴナガル先生の言葉を聞いてハリーは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「なんにしてもポッター、十六夜は騎士団員です。貴方の不利になるようなことは絶対に言いません」

 

「ですが……」

 

「自分を制御しろってことよ」

 

 ハリーは自分の意見が通らなくて不服なのかブスッとした表情のままだ。

 

「十六夜、くれぐれもポッターをよろしくお願いしますよ。私も目を光らせますが、一番近くにいる騎士団員は貴方です」

 

「分かっています」

 

 次の瞬間終業のベルが鳴り響いた。

 マクゴナガル先生は私の出した紅茶を飲み干すとティーカップを返してくる。

 ハリーは結局紅茶には手を付けなかったようだ。

 私は手早くティーカップを片付けるとハリーの手を引いて副校長室を出る。

 そして夕食を取るために大広間までハリーを引っ張っていった。

 

「僕、いらない」

 

 ハリーはそう言うが私は情け容赦なく引っ張り続ける。

 

「そういうわけにはいかないわ。脳に糖分を送らないと正常に思考できなくなるもの。それに貴方この夏で少しやつれたような気がするし。ハーマイオニーたちだって貴方を探していると思うもの」

 

「食べないったら!」

 

 ハリーが私の手を振りほどく。

 私は時間を止め再度ハリーの手を握った。

 

「――!?」

 

「バカなこと言ってないで早く行くわよ。出来れば自分の意思で歩いて欲しいところだけど……」

 

「今、確かに手を振りほどいたよね?」

 

 ハリーは呆然と引っ張られている手を見て言う。

 

「ほら、やっぱり記憶が飛んでるじゃない。そのあとすぐ掴み直したでしょ?」

 

 私は適当に誤魔化してそのままハリーを大広間まで引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 数日後、私たちは魔法生物飼育学を受けるためにハグリッドの小屋近くへと来ていた。

 と言ってもハグリッドは今ホグワーツにはいない。

 ハグリッドは不死鳥の騎士団の仕事でマダム・マクシームと巨人の説得に向かっているのだ。

 あれから少しずつ連絡があったがもうすぐ巨人の住処につくらしい。

 なんにしても、生きているということが分かっただけでも朗報と言えるだろう。

 巨人と言えば死喰い人陣営も人材を送っていると言っていたか。

 プランク先生はグリフィンドールとスリザリンの生徒全員が揃うと授業を始めた。

 

「早速始めようかね。ここにあるのが何だか、名前が分かる者はいるかい?」

 

 そう言ってプランク先生は目の前に積まれた小枝を指さした。

 ハーマイオニーの手がすぐに挙がる。

 私もこれの正体の予想はついていた。

 プランク先生が軽く小枝を蹴飛ばすとそれは宙に跳ねて小さなピクシー妖精のような姿になる。

 

「さてと。誰かこの生き物の名前を知っているかい? ミス・グレンジャー?」

 

「ボウトラックルです。木の守番で、普通は杖に使う木に棲んでいます」

 

 プランク先生は満足そうに頷きグリフィンドールに5点を与えた。

 その後もプランク先生の授業は進んでいく。

 私はボウトラックルと遊びながらハリーたちの様子を観察した。

 やはりというか、ハリーたちはハグリッドがいないことを心配しているようだ。

 だが、ハグリッドが巨人と接触しているというのは極秘中の極秘である。

 まあそのうち帰ってくるだろう。

 ふと我に返ると私は10匹ぐらいのボウトラックルに囲まれていた。

 

「貴方たちも一緒に遊びたいの?」

 

 私はボウトラックルの手を取る。

 ボウトラックルたちはキーキー声を出して喜び、私の周りを飛び跳ね回った。

 

「大人気ですね。ミス・十六夜」

 

 プランク先生はそんな様子を見て声を掛けてくる。

 私はボウトラックルを肩に乗せながら返事をした。

 

「動物に好かれやすい体質なのかも知れません」

 

 私はスケッチブックを取り出すとボウトラックルを書き写す。

 ボウトラックルも炭のようなものを持ち私のスケッチブックに色々と書き込み始めた。

 

「あいた!」

 

 突然ハリーの大声が聞こえる。

 そちらの方に視線を向けると何故かハリーは手から血を流していた。

 どうやらドラコに煽られて手に持っていたボウトラックルを強く握りしめてしまったらしい。

 私は片手間に杖を取り出しハリーの手に向けて治癒の呪文を掛ける。

 

「ハリー、苛めちゃかわいそうよ」

 

「ご、ごめん。ついカッとなって。……ありがと」

 

 ハリーは完全に傷口が塞がった手をさすりながら言った。

 私は改めてスケッチブックに視線を落とす。

 そこには私が描いたボウトラックルのスケッチと、ボウトラックル直筆のサインと落書きが書かれていた。

 うん、これはこれで様になるだろう。

 私は満足してスケッチブックを鞄へと仕舞った。

 

 

 

 

 

 金曜日の夕方6時、私は談話室の前でハリーを待っていた。

 アンブリッジ先生がハリーに与えた罰則は今日で3日目のはずなのだが、ロンからその罰則に関することで面白いことを聞いたのだ。

 なんとハリーがアンブリッジ先生の罰則で体罰を受けているというのだ。

 私はその真偽を確かめるべく、ここで待っている。

 しばらく待っているとハリーが手に血を滴らせながら帰ってきた。

 私の姿を見て咄嗟にローブで手を隠したが、床に落ちた血までは消すことができない。

 私はハリーに歩み寄ると隠した手をローブから引っ張り出した。

 

「ハリー、これは一体何?」

 

 私の言葉にハリーは目を逸らす。

 私はハリーの手の甲に書かれている文字を口に出して読んだ。

 

「『僕は嘘をついてはいけない』これはアンブリッジ先生が刻んだものなのよね? ハリー」

 

 ハリーは答えなかった。

 視線をずらし、じっと床を見つめている。

 

「そう、アンブリッジが刻んだのね」

 

 私はハリーの沈黙をそう受け取った。

 ハリーは否定しない。

 私はハリーの手の甲の傷に治癒の呪文を掛けるとハリーににっこり微笑んだ。

 

「安心しなさい、ハリー。明日は罰則をしなくても良くなるわよ」

 

「え、それってどういう」

 

 私は袖の下から彫刻刀を取り出すと呪文を掛ける。

 

「ちょっと刻んでくるわ。先に談話室に戻ってていいわよ」

 

 私はもう一度ハリーに微笑むと時間を止めてホグワーツの廊下を走った。

 廊下をいくつか曲がり階段を降り、私はアンブリッジ先生の部屋へと直行する。

 そしてドアを呪文で開け、中で固まっているアンブリッジ先生を発見した。

 私は彫刻刀に呪文を何度も重ね掛けをし、簡易的な魔法具へと変化させる。

 そしてアンブリッジの額に文字を彫り始めた。

 

『私は生徒に体罰を与えた』

 

 何度も何度も、その傷口を彫刻刀でなぞっていく。

 何度も何度も何度も何度も。

 やがて白く骨が見えたところで私はその行為を止めた。

 この傷口には魔法が掛けてある。

 上から布などを当てて覆い隠すと酷く痛み出し、更に傷が深くなるのだ。

 勿論、髪の毛などでも同じである。

 治す為には髪をかき上げ、額を晒し、傷口を見せながら生活するしかない。

 これはパチュリー様から教わった魔法で、昔の罪人などに刻まれたものらしい。

 

「よし」

 

 私は満足すると魔法で自分の服や手についた血を拭う。

 そして証拠品である彫刻刀を消失させるとグリフィンドールの談話室へと戻った。

 

 

 次の日の朝、アンブリッジ先生は朝食の席へと現れなかった。

 だが既に学校中の噂になっていることがある。

 それはアンブリッジ先生の額に『私は生徒に体罰を与えた』と刻まれているというものだ。

 もっとも噂の発信源は私だ。

 どうやらアンブリッジ先生は自分の部屋に篭っているらしい。

 だが、それでは折角刻んだ意味がない。

 私はトーストを1枚口に咥えると時間を止めアンブリッジ先生の部屋へと向かう。

 アンブリッジ先生は私の思惑通り前髪をヘアピンで留めて額を晒していた。

 そして重病の病人のように唸っているような顔でベッドに横になっている。

 私は時間を止めたままアンブリッジ先生に触れると大広間まで付き添い姿現しをする。

 そして大広間のど真ん中にアンブリッジ先生を設置し先ほどまで座っていた場所に座り直した。

 先ほどと同じようにトーストを咥え私は時間停止を解除する。

 

「……え? きゃああああああああああ!」

 

 時間停止を解除して数秒後、大広間中にアンブリッジ先生の悲鳴が響き渡った。

 生徒は何事かと言わんばかりにアンブリッジ先生を見る。

 そしてアンブリッジ先生を見た生徒の殆どが先生の額に刻まれた『私は生徒に体罰を与えた』という文字を見た。

 途端に大広間にざわめきと悲鳴が沸き起こる。

 アンブリッジ先生は見られては拙いと咄嗟に手で傷口を隠すが、隠した瞬間に悲鳴を上げて手を退かした。

 そう、覆えないのだ。

 隠すことすらできないのだ。

 

「うわ……マジかよ」

 

 私の隣に座っていたロンがアンブリッジ先生を見ながら声を上げる。

 ハリーはアンブリッジ先生を見た後すぐにこちらを見た。

 

「咲夜……あの――」

 

「私じゃないわよ。あの後すぐに談話室に入ったのを貴方も見たでしょう?」

 

「……そうだね。そうだ」

 

 アンブリッジ先生は一刻も早く大広間から逃げようと出口目指して走り出す。

 そして大広間から出ていった瞬間、大広間中の生徒が大笑いした。

 

「ハリー、今日は罰則に行かなくてもいいわ。あの様子だと多分傷口を見られたくないでしょうから」

 

 私はトーストを食べ終わり静かに紅茶を飲んだ。

 

「うん。むしろ行ったら更に罰則を増やされそうだ」

 

 ハリーはニヤリと笑ってオートミールをかき込む。

 そう言えばと思い出し私はまだ唖然としているロンに声を掛けた。

 

「そう言えば、ロン。貴方グリフィンドールのクィディッチチームのキーパーになったんですって?」

 

 私のその言葉を聞いてロンは我に返り、嬉しそうな顔をした。

 

「うん。僕今年から監督生になっただろう? そのお祝いにママが新品の箒を買ってくれたんだ。チャーリーもフレッドもジョージもクィディッチをやってるし、いい機会だから僕もね」

 

 そう言ってロンは胸を張る。

 

「選抜試験があったんでしょう?」

 

「ああ、でも僕が選ばれたってことは僕が一番だったってことだろ?」

 

 確か選抜試験は昨日だったか。

 私はもう一度大広間の中をぐるりと見回す。

 先ほどのアレで噂の信憑性はぐんと増すだろう。

 私は内心ほくそ笑むと紅茶を飲み干した。




用語解説


アンブリッジ先生
今作で一番可哀想なことになることが決定しているお人。死ねないのが一番可哀想です。

そしてこれぐらいしか書くことがないぐらいアンブリッジ一色の今回でした。
次回からは不死鳥の騎士団の話の筋にのってもう少しまともな内容になる予定です。


予想よりコメントが多かったので追記
咲夜のアンブリッジ苛めにはなんの意味も意図もありません。
ただ咲夜が生理的に気に入らないという、そういった理由で苛めを行っています。
仕返しの意図があったりや復讐心にかられているわけではなく、ただ本能的に気に入らない。
今後のストーリーにこれがどう関わってくるのか意識しながら読むと今後の展開が理解しやすいかも知れません。


追記
文章を修正しました

2018/11/17 加筆修正

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