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ハグリッドが帰ってきたという知らせを聞いて、ハリーとロンは全力で男子寮の方向へと走っていった。
その様子を見て何かを察したのかハーマイオニーも女子寮へと走っていく。
次に3人が談話室に揃ったときには、全員が防寒着でもこもこになっていた。
「咲夜も早く準備!」
ハーマイオニーは声を張り上げる。
だが、私の場合この程度だったら防寒着は要らない。
「一足早くハグリッドの所に行ってるわ。雪が降ってるから足跡には注意するのよ」
「なんでだよ? 一緒に行けばいいじゃないか」
「そのマントに4人は少し窮屈よ。野郎4人ならまだしもね」
野郎4人という言葉を聞いて少しハリーの表情が柔らかくなる。
勿論、その4人とはジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターの4人のことだ。
私は3人に手を振ると、女子寮の方へと上がる。
そして視線が切れたところで時間を止め、ハグリッドの小屋の中へと姿現しした。
時間停止を解除する。
「こんばんは、ハグリッド」
私が後ろから声を掛けるとハグリッドは少しオーバーに肩を震わせ急いでこちらを向いた。
「……なんだ、咲夜か。どうした、こんな時間に?」
ハグリッドは自分で傷の手当をしているようだった。
よく見ると髪は血でべっとりと汚れ、全身傷まみれだ。
「……酷いわね。随分と苦労の多い旅路だったみたいだけど」
「なんてことはねぇ。こんなもんすぐ治るわい」
私は杖を振るいハグリッドの体を綺麗にする。
そして傷だらけの腕に治癒の魔法を掛けるとその上に丁寧に包帯を巻いた。
「ポピーを頼ればいいのに。強情ね」
「できるだけ心配かけたかぁねえからな。ほれ、なんか飲むか?」
ハグリッドは包帯の巻かれた腕の調子を確かめるようにグルグルと回すと、炉にかけていたヤカンを持ち上げた。
「さてと……紅茶はどこだったか。ん、あちこち埃まみれだ」
それはそうだろう。
なにせここ数カ月この小屋には人が入っていない。
ファングも違うところで世話をされていたはずだ。
「ハグリッド、紅茶の用意をするなら5人分用意しなさいな」
「あと3人も誰が来るっていうんだ? 3人……」
ハグリッドは気がついたかのようにはっと顔を上げる。
そう、3人と言ったらハリー、ロン、ハーマイオニーと相場が決まっているのだ。
次の瞬間小屋のドアが外側から叩かれる。
「ハグリッド、僕たちだよ!」
ハリーの嬉しそうな声が聞こえてきた。
「紅茶の用意は私がしておくから、ドアを開けてあげなさい。外は冷えるわ」
「おお、そうだな。ちょいと頼む」
ハグリッドは紅茶の缶を机の上に置くと、ドアの方へと歩いていった。
私はその缶の蓋を開ける。
「……これは駄目ね」
そして自分の鞄からティーセットを取り出すと、紅茶を5人分用意した。
「よう、来たか!」
ハグリッドがドアを開けると足音が3つ入ってきた。
そして何もない虚空から突然3人が姿を現す。
「まだ帰ってから3秒も経ってねえってのに……」
「あら、貴方の体内時計、相当ゆっくり時間を刻むのね」
ハリーたちは中に入ると傷だらけのハグリッドを見上げる。
ハーマイオニーなどは軽く悲鳴を上げていた。
「一体何があったの!?」
ハリーが驚いたような声を上げる。
「なんでもねぇ! お、咲夜。茶の用意ありがとな」
「何でもないはずないよ。酷い状態だぜ? 何かに襲われたんだろう!?」
「ほれ、座れ」
ロンの言葉をハグリッドが適当に流した。
ハリーたちは渋々ながら椅子に座っていく。
私は皆の前に紅茶を並べた。
「ハグリッド、巨人に襲われたの?」
ハーマイオニーが静かに言う。
その言葉にハグリッドは分かりやすいほどギクリとした。
「誰が巨人なんぞと言った? お前さん誰と話をしたんだ? 誰が言った? 咲夜か?」
「貴方よ、ハグリッド」
私は軽く頭を抱える。
それでは肯定しているようなものだ。
「カマ掛けられたことぐらい気がつきなさい。そんなんだといつか痛い目を……いや、もう随分と痛い目を見ているようだけど」
ハグリッドはそれを聞いてようやく気がついたのか、はっと目を丸くしハーマイオニーを見る。
「おまえさんらみてえな小童は初めてだ。なんというか……必要以上に知りすぎとる。決して褒めとるわけじゃねえぞ。知りたがり屋、お節介っちゅう意味だ」
ハグリッドは口では厳しいことを言っているが、表情は軽く笑っていた。
あまり厳しく咎める気はないのだろう。
「それじゃあ、巨人を探していたんだね?」
ハリーは紅茶のカップを手に取りニヤっと笑う。
「しょうがねえ、そうだ」
それからハグリッドはダンブルドアの使いとして巨人を探していたという話を3人にし始めた。
その話は大体がダンブルドア先生にした報告通りだったが、若干マダム・マクシームに関する話が多かった気がする。
話を簡単にまとめると、ダンブルドアの使いとして巨人に接触したが、途中で相手の頭領が代わったり、死喰い人と接触しそうになったりと、あまり上手くは行かなかったようだ。
「誰か来たわね」
私は不意に気配を感じ取りドアの方を見る。
その様子に話をしていた4人は息をひそめた。
ザク、ザク、と雪を踏みしめこちらに歩いてくる足音が聞こえてくる。
私は身振り手振りでハリーたちに透明マントを被るようにジェスチャーした。
そして杖を振るいティーカップを3つ消し去る。
それで先ほどのジェスチャーの意味を理解したのかハリーたち3人は素早く部屋の隅に移動し透明マントを被った。
ドンドンとドアがノックされる。
ハグリッドが急いでドアを引いて開ける。
そこにはアンブリッジ先生が立っていた。
アンブリッジ先生は口を堅く結びのけぞるようにしてハグリッドを見上げる。
「それでは、貴方がハグリッドなの?」
アンブリッジ先生はまるで耳の遠い人に話しかけるように大きな声でゆっくりと喋った。
どうやらハグリッドの陰に隠れて私の姿を発見していないらしい。
ハグリッドが返事をする前にズカズカと小屋に上がり込んだアンブリッジ先生は、ようやく私の姿を発見したのかハッと息を飲んだ。
そして軽く息をつく。
「あー、失礼だとは思うが……いったいお前さんは誰ですかい?」
「私はドローレス・アンブリッジです」
先生は私の横に腰を掛ける。
私は鞄から1つティーカップを取り出すと、紅茶を注ぎアンブリッジ先生の前に出した。
「ありがとう。なんで貴方がここにいるの?」
アンブリッジ先生は紅茶を受け取ると、改めて私に聞く。
「ふくろうのことで少し相談があったので」
私は適当に嘘をついた。
「ドローレス・アンブリッジ……たしか魔法省の人だと思ったが。あんたファッジのところで仕事をしてなさらんか?」
「大臣の上級次官でした。いまは闇の魔術に対する防衛術の教師です」
「そいつは豪気なもんだ。今じゃあの職に就く奴ぁあんまりいねえ」
ハグリッドは感心したようにアンブリッジ先生を見ると、ハグリッド自身も椅子に腰をかける。
「それに、ホグワーツの高等尋問官です」
「そりゃ何ですかい?」
ハグリッドは聞きなれない役職に顔を顰める。
「私としては何故貴方が今までいなかったのかが気になるのですけどね」
アンブリッジ先生は紅茶を飲みながら静かに言った。
「学校は2カ月前に始まっています。貴方の授業は他の先生が代わりに教えるしかありませんでしたよ。一体どこで何をしていたの?」
「あー、俺ぁ……健康上の理由で休んでた」
「健康上の?」
アンブリッジは傷だらけのハグリッドの体を探るように見る。
「動けるほどには回復したので、戻ってきたっちゅうわけです」
「そうですか」
「そうとも」
アンブリッジ先生は何かを値踏みするようにハグリッドを見ると用は済んだと言わんばかりに椅子から立ち上がる。
「大臣には貴方が遅れて戻ったことは報告します」
「ああ」
「それに、高等尋問官として残念ながら私は同僚の先生方を査察するという義務があるということを認識していただきましょう。ですから、近いうちにまた貴方にお会いすることになると申し上げておきます」
アンブリッジ先生はそう言うと、ドアの方へ歩き出す。
ハグリッドはすっとんきょな声を上げた。
「お前さんが俺たちを査察?」
「ええ、そうですよ。魔法省は教師として不適切な者を取り除く覚悟です。では、おやすみ。咲夜も遅くなる前には帰るのですよ?」
そう言い残しアンブリッジ先生は小屋を出ていった。
私は軽くカーテンを開け、アンブリッジ先生が城の方へと帰ったのを確認すると、3人に合図を送る。
「査察だと? あいつが?」
ハグリッドが唖然とした。
「そうなんだ。もう殆どの先生が査察を受けてる」
ハリーは透明マントを片付けながらハグリッドに言った。
「あの……ハグリッド。授業でどんなものを教えるつもり?」
ハーマイオニーが恐る恐る聞く。
ハグリッドはその言葉に嬉しそうに答えた。
「おう、心配するな。授業の計画はどっさりあるぞ。ふくろう年用にいくつか取っておいた動物がおる。まあ見てろ、特別の特別だ」
「えっと……どんなふうに特別なの?」
「教えねえ。びっくりさせたいからな」
ハーマイオニーは遠回しに言っても通じないと判断したのか、切り口をかえた。
「ねえ、ハグリッド。アンブリッジは貴方があんまり危険なものを授業に連れてきたら、絶対に気に入らないと思うわ」
「危険? 馬鹿言え。お前たちに危険なもんなぞ連れてこねぇぞ!」
「よく言うわ」
私が大げさに肩を竦めるとむぐっとハグリッドが押し黙る。
自分で言っておいてなんだが、心当たりがあるのだろう。
「まあ、なんだ。連中は自己防衛ぐれぇはするが——」
「ハグリッド、アンブリッジの査察に合格しなきゃならないのよ。そのためにはポーロックの世話の仕方とか、ナールとハリネズミの見分け方とか、そういうのを教えているところを見せた方が絶対いいの」
ハーマイオニーはハグリッドの言い訳染みた言葉を遮り真剣に訴える。
「だけど、ハーマイオニー。それじゃあ面白くもなんともねえ。俺の持ってるのは、もっとすごいぞ。何年もかけて育ててきたんだ。イギリスで飼育に成功してるのは俺ぐれぇだな」
「ハグリッド……お願い……。アンブリッジはダンブルドアに近い先生方を追い出す口実を探しているの。頼むからふくろうに出てくるようなつまらないものを教えて頂戴」
ハーマイオニーは必死に訴えるが、ハグリッドは聞く耳持たずだ。
大あくびをして、暖炉の火を弱くしはじめる。
「ええか? 俺の事はなんも心配せんでえぇ。まかしとけ……さあ、もう城に帰ったほうがええだろう。足跡を残さんようにな」
ハグリッドの言葉に3人は渋々帰っていく。
「まあ、貴方のやりたいようにやればいいと私は思うわよ。でも、ダンブルドア先生に迷惑を掛けないようにね」
「それと授業の内容がどう関係するっちゅうんだ?」
「なんでもないわ。おやすみ、ハグリッド」
私はハグリッドに挨拶すると時間を止めて女子寮へと姿現しする。
そしてベッドに潜り込みぐっすりと眠った。
火曜日、ハグリッドが帰ってきてから初めての魔法生物飼育学の授業があった。
私はハリーたち3人と共に授業へと向かう。
ハリーたちは心配そうな顔をしていた。
授業の内容がということもあるのだろうが、この場合はアンブリッジ先生の査察のほうの心配だろう。
「今日はあそこで授業だ!」
ハグリッドは集まったグリフィンドール生とスリザリン生に向かって声を掛ける。
そして背後の暗い木立を指さした。
「少しは寒さしのぎになるぞ! どっちみち、あいつら暗いところが好きなんだ」
「何が暗いところが好きだって?」
私の横にいるドラコが声を上げる。
マダム・ポンフリーの懸命な治療でドラコは日常生活を送れるほどには回復したようだ。
「怪我はもう大丈夫なの? ドラコ。一昨年の怪我は随分長引いていたようだけど」
「鍛えているから。……咲夜、ありがとう。真っ先に駆けつけて応急処置をしてくれたって聞いたよ。そのおかげさ」
ドラコは体を見せるように両腕を広げる。
まだ軽い青あざなどの怪我の痕が服の隙間から覗いていた。
「よし、森の探索は5年生まで楽しみに取っておいた。連中を自然な生息地で見せてやろうと思ってな。さあ、いまから勉強するやつぁ珍しいぞ。飼い馴らすのに成功したのは多分イギリスじゃ俺だけだ」
ハグリッドはそう言うと森の中へと入っていく。
「本当に飼い馴らされてるんだろうな? あれの言葉が今まで正しかったことがあるか?」
ドラコだけではない、誰も森の中へと入りたくなさそうだった。
だがハリーを先頭にグリフィンドール生が森に入っていくのを見ると、スリザリン生もその後に続き始める。
私はドラコと最後尾を歩いた。
「まあ、警戒しておけば襲われることはないと思うわ。それに、シーカーである貴方なら動物の攻撃を避けるぐらい造作もないことでしょう?」
「まあ、そうだけどね」
ドラコはそう言って前を向く。
恐怖を感じているのは見え見えだった。
森の中を10分も歩くと少し暗い広場のようなところに出る。
そこには雪は積もっておらず、全て上に覆いかぶさっている木が雪を遮っているようだった。
「集まれ集まれ」
ハグリッドは肩に担いでいた牛の死体を地面に置く。
「さあ、あいつらは肉の臭いに引かれてやってくるぞ。だが、俺の方でも呼んでみる」
そう言うとハグリッドは甲高い奇妙な叫び声をあげる。
その様子に殆どの生徒は恐怖で声も出ない様子だった。
1分、2分と時間が経過していく。
私は周囲を見回した。
何かが接近してきている。
すると暗がりの中から1匹のセストラルが姿を現した。
セストラルとはドラゴンのような顔と首で、翼のある大きな馬のような胴体を持っている。
珍しい魔法生物のはずなのだが、ホグワーツではこれを馬車馬として使っているのだ。
……本当にそれでいいのかホグワーツ。
「ハグリッド、どうしてもう一度呼ばないのかな?」
ロンがぽつりとそう呟く。
殆どの生徒が全く違う方向を、グルグルと見回していた。
どうやらセストラルが見えている生徒は殆どいないらしい。
「さーて……こいつらが見える者は手を挙げてみろや」
ハグリッドが喜々として生徒に聞く。
私は静かに手を挙げた。
他に見える生徒はスリザリン生が1人とネビルだけのようだ。
「咲夜、一体何が見えるって言うんだ?」
ドラコが少し表情を強張らせて私に聞いた。
私は牛の死体が置いてある方向を指さす。
そこでは丁度セストラルがお食事をしている真っ最中だ。
もしセストラルが見えていないとしたら、肉が勝手に骨から剥がれて空中で消えていく様を見ていることだろう。
「セストラルだ。心配はねえ。こいつらは凄く大人しいからな。お前さんらもこいつらが引いている馬車に毎年乗っとるだろう」
ハグリッドの言葉に何人かの生徒が気がついたかのように声を上げる。
毎年ホグワーツ特急へと行き来する馬車、それを引いていたのがセストラルだと気がついたからだろう。
「よし、そんじゃ知っとる者はいるか? どうして見える者と見えない者がおるのか」
ハグリッドの言葉にハーマイオニーが手を挙げる。
「言ってみろ」
ハグリッドがニッコリと微笑みかけた。
「セストラルを見ることができるのは……死を見たことがある者だけです」
「その通りだ。グリフィンドールに10点。さーて、セストラルっちゅうのは——」
「ェヘン、ェヘン」
特徴的な咳払いが森の中に響き渡った。
私はついに追いついてきたかとその方向を見る。
そこには痛そうに尻をさすっているアンブリッジ先生の姿があった。
10分置きに全身くまなく蹴っ飛ばしているので、痛いのは尻だけではないはずなのだが。
「今朝、貴方の小屋に送ったメモには授業の査察をするという内容が書かれていたと思いましたが」
アンブリッジ先生は少し眉をひそめて言った。
「ああ、うん。この場所が分かってよかった! ほーれ、見ての通り今日はセストラルをやっとる」
「え? 何?」
アンブリッジ先生は耳に手を当て、顔を顰めて大声で聞き返した。
「なんて言いましたか?」
アンブリッジ先生は完全にハグリッドを異国の人間のように扱っている。
いや、人間として見ていないのかも知れない。
ハグリッドはアンブリッジ先生の言葉に少し戸惑ったような顔をした。
「あー……セストラル!」
ハグリッドも大声を出す。
「大っきな、翼のある馬だ。ほれ!」
ハグリッドはややオーバーな動作で巨大な両腕をバタバタと上下させた。
その様子にアンブリッジ先生はブツブツと言いながらクリップボードに何かを書き始める。
「原始的な……身振りによる……言葉に……頼らなけらばならない。っと」
「さあ、とにかく……」
ハグリッドは生徒の方に向き直る。
「む……俺は何を言いかけてた?」
その言葉にアンブリッジ先生は更にクリップボードに書き足した。
「記憶力が……弱く……直前の……ことも……覚えて……いないらしい」
アンブリッジ先生の嫌に大きいブツブツとした呟きにドラコが噴き出す。
まあ、強ち間違っていないかもしれない。
「ご存じかしら? 魔法省はセストラルを危険動物に分類しているのですが」
アンブリッジ先生はクリップボードに書き終えるとハグリッドに話しかける。
「セストラルが危険なものか。そりゃ散々嫌がらせをすりゃあ、噛みつくかもしれんが——」
「暴力の……行使を……楽しむ……傾向が……見られる」
アンブリッジ先生はハグリッドの言葉を曲解してクリップボートに走り書きをした。
ハグリッドは必死に弁明を始めたが、アンブリッジ先生は聞く耳持たずだった。
アンブリッジ先生はメモを書き終えるとハグリッドに向き直る。
そして大きな声でゆっくりと話し始めた。
「授業を普段通り続けてください。私は歩いて見て回ります」
そこでアンブリッジ先生は歩く仕草をして見せる。
「生徒さんの間をね」
次にその場にいる生徒1人ひとりを指差し。
「そして、みんなに質問します」
最後に自分の口を指さし、口をパクパクさせた。
ハグリッドはその様子をマジマジと見ている。
どうやら自分が馬鹿にされていると気がついていないらしい。
ハーマイオニーなどは悔し涙を浮かべてるというのに。
アンブリッジ先生は私たちの方へと歩いてくる。
そしてドラコの横にいるパーキンソンに質問した。
「どうかしら? あなた、ハグリッド先生が話していること、理解できるかしら?」
パーキンソンは目に涙を浮かべている。
だがこれはハーマイオニーのとは違い、笑いすぎて出た涙だ。
パーキンソンはクスクスと笑いながら喘ぎ喘ぎに答える。
「いいえ……だって、あの話し方が……いつも唸ってるみたいで……」
その答えに殆どのスリザリン生が大爆笑する。
ハグリッドは少し顔を赤くした。
「いや、ハグリッドが甲高い声で話し出したら、それはそれで……」
私がそう言うとさらに笑いが大きくなる。
グリフィンドール生からも、少し笑いがこぼれた。
結局その後アンブリッジ先生は授業が終わるまで私の横から離れることはなかった。
邪魔だったので時間を止めずに一度蹴っ飛ばしてやろうかとも考えたが、ぐっと自制する。
授業が終わり解散したあとで、好きなだけ蹴飛ばせばいいのだ。
「あの腐れ、嘘つき、根性曲がり、怪物ばばあ!」
城へと帰る道中、ハーマイオニーが狂ったように悪態をついた。
「怪物ばばあは酷いわね」
私は冷静につっこむが、ハーマイオニーには聞こえていないらしい。
「あの人が何を目論んでいるかわかる? 混血を毛嫌いしてるのだわ。ハグリッドをウスノロのトロールか何かみたいに見せようとしているのよ!」
「あら、トロールに失礼でしょ?」
私がそう言うとハーマイオニーはキッとこちらを睨んだ。
「でも授業は悪くなかったわ。ほんと、ハグリッドにしてはとってもいい授業だった!」
「ハグリッドにしてはって……」
「アンブリッジはあいつらが危険生物だって言ってたけど」
私の言葉を遮るようにしてロンがハーマイオニーに聞く。
「そりゃハグリッドが言ってたようにあの生物は確かに自己防衛するわ。でも、ねえ、あの馬。本当に面白いと思わない? 見える人と見えない人がいるなんて! 私にも見えたらいいのに!」
ハーマイオニーは嬉しそうにそう叫ぶ。
私は袖の下から1本、大ぶりのナイフを取り出しハーマイオニーに差し出した。
「はい」
「え? これはなに?」
ハーマイオニーは恐る恐るナイフの柄を掴み、持ち上げる。
「その辺にいる生徒を適当に殺してきなさい。見えるようになるわよ」
私は静かにそう言った。
ハーマイオニーは顔を真っ青にしてナイフを私に返す。
自分が言った言葉の不謹慎さに気がついたようだ。
「あの……咲夜、本当にごめんなさい。——ううん、勿論そうは思わないわ。ああ、なんて馬鹿なことを言ったんでしょう」
「少し冷静になりなさい。ほんと、血が上ると何をするか分からないのはハリーもハーマイオニーも変わらないわね」
私は咎めるように2人を見る。
ロンは「え? 僕は?」というような顔をしていた。
「なんにしても、そのうち嫌でも見えるようになるわ」
私はそう言い残し、次の授業のある温室へと歩き出す。
その途中で時間を止め、アンブリッジの背中を骨が折れない程度に蹴った。
12月に入ると気温は更に下がり雪の日も多くなった。
ようやくクィデッチのシーズンも終わりDAの会合が開けるようになっていった。
DAの会合も回数を重ねるごとにレベルが上がっていく。
初めの頃は全員が息を切らしていた準備体操も、もう殆どの生徒が難なくこなすようになっていた。
呪文の方も少しずつ上達してきている。
私を中心にハリー、ハーマイオニー、ディゴリーが教師役となり丁寧に教えているためだ。
そしてクリスマス休暇に入る前の最後のDAの会合がある日、大広間で朝食を取っていた私にアンジェリーナが話しかけてきた。
「咲夜、ちょっといい?」
アンジェリーナは遠慮がちに私の横に座る。
「どうしたの? ふくろう同好会の話?」
「いいえ、ふくろうじゃないわ。実はクィディッチの件で少し相談があって……」
アンジェリーナはちらりと私の顔色を窺う。
「咲夜、グリフィンドールのシーカーになってくれない?」
私はその言葉に食べていたクロワッサンを一度置いてアンジェリーナの方を見た。
「なんで私なの?」
「咲夜ってなんでもそつなくこなすし……ね?」
ね? って、言葉足らずにも程がある。
だが、クィディッチをしてみるというのは良い提案だろう。
お嬢様からいただいた箒もトランクの中にずっと仕舞ってあるだけだし、久しぶりに飛びたい気もする。
だが、シーカーは駄目だ。
「ビーターならやってあげてもいいわよ」
その言葉にアンジェリーナは目を輝かせた。
だが途端に不思議そうな顔をする。
「どうしてビーター?」
「いやだって私がシーカーやったら優勝しちゃうじゃない」
私はそう言い切る。
アンジェリーナはその言葉に目を丸くした。
「優勝しちゃっていいじゃない! 何がいけないの?」
「そうね、例え私以外の選手が全員何もできない豚でも、優勝できてしまうって意味よ」
その言葉にアンジェリーナは更に首を傾げた。
「まあいいわ、さっきの言葉覚えておきなさいよ! ビーターやるって言ったわよね!」
アンジェリーナは嬉しそうに叫ぶとバタバタと大広間から出ていった。
多分マクゴナガル先生にでも報告に行ったのだろう。
私は先ほどまで食べていたクロワッサンを手に取り食べ始める。
そして静かに紅茶を飲んだ。
まあ、アンジェリーナにはああ言ったが、勿論違う理由がある。
私が能力を使ってシーカーをしてしまっては完全にゲームが成立しなくなるというのも理由の1つではあるのだが、一番大きな理由は単純に私がビーターをやりたいからだ。
合法的に人に鉄の球を叩き込めるなんて、面白いに決まってる。
あわよくばアンブリッジに鉄球を叩き込んでやろう。
最後のDAの会合は無事終わり、私は女子寮の自分に割り当てられたベッドに横になっていた。
その時にアンジェリーナに教えられたことだが、シーカーはジニーに決まったらしい。
なんでもかなり筋が良いとのことだった。
人は見かけによらないというのは、こういうことを言うのだろう。
なんにしても、今日はもう寝よう。
時間は有り余るほど沢山あるが、無駄にできるわけではない。
私は目を瞑り、静かに眠りに落ちていった。
私はロンドンに立っている。
右手にナイフ、左手には大きな袋を持っていた。
さて、今日も首を集めよう。
歩道を歩く親子を見つけた。
殺した。
首を切り落とし袋に入れる。
悲鳴を上げて逃げていく子供がいる。
殺した。
首を切り落とし袋に入れる。
警官が私の方に走ってきた。
殺した。
首を切り落とし袋に入れる。
私の前に人間がいなくなった。
よかった、これで……。
誰も殺さなくて済む。
「……ぅ、ん。……?」
私は腹部に違和感を感じ、ポケットの中をまさぐる。
そして我に返り時間を停止させ、懐中時計を取り出した。
不死鳥の騎士団の緊急招集だ。
私は寝間着から制服に着替えると、意識がはっきりとするまでベッドの上に座る。
段々と脳に血液が回ってきて、寝起き特有の頭痛もなくなってきた。
「よし」
鞄から手鏡を取り出し、目が充血していないことを確認する。
一通りの確認が済んだ私は鞄をポケットに入れ校長室へと姿現しした。
ここにはダンブルドア先生の他にマクゴナガル先生とハリー、ロンがいた。
私はハリーとロンの後ろに回り込み、時間停止を解除する。
「ダンブルドア先生、お呼びでしょうか?」
私が声を掛けるとハリーとロンは跳び上がって驚いた。
「咲夜、アーサーが任務中に襲われた。今エバラードとディリスが確認に向かっておる」
アーサーが襲われた。
確か今日の晩、アーサーは神秘部の廊下を監視する任についているはずだ。
そこで襲われたということだろうか。
「ダンブルドア!」
突然歴代校長の肖像画の1つから声が聞こえてくる。
どうやらエバラードというのは歴代校長の1人らしい。
「誰かが駆けつけてくるまで叫び続けましたよ。みんな半信半疑で、確かめるように下りていきました。下の階に私の肖像画はないので、確認には行けなかったのですが……。ともかく、まもなく皆がその男を運び出してきました。症状は良くない。血だらけだった」
「ご苦労。なれば、ディリスがその男の到着を見届けたじゃろう」
エバラードの報告を聞いてダンブルドア先生は冷静に言う。
ダンブルドア先生の言葉通り間髪入れずに肖像画に駆け戻ってきた魔女、ディリスが言った。
「ええ、ダンブルドア。皆がその男を聖マンゴに運び込みました……。酷い状態のようです」
聖マンゴ、確か魔法界の総合病院のところだったと記憶している。
私はまだ入院が必要なほどの大怪我をしたことがないので、行った事はない。
「ご苦労じゃった」
ダンブルドア先生は歴代の校長たちにそう言うと、マクゴナガル先生の方を見た。
「ミネルバ、ウィーズリーの子供たちを起こしてきておくれ」
「わかりました……」
マクゴナガル先生はすぐさま校長室を出ていく。
ハリーは横目でチラリとロンの顔色を窺っていた。
ロンは怯えたように表情を強張らせている。
ダンブルドア先生は今度は戸棚から古いヤカンを取り出した。
「ポータス!」
ダンブルドア先生が呪文を唱えると、ヤカンは青白い光を発し、震え出す。
「先生……。まあ緊急事態だしいいか」
ダンブルドア先生は緊急でポートキーを作ったのだろう。
だが、ポートキーを勝手に作成するのは犯罪だ。
「そうじゃよ咲夜。固いことを言うでない」
ヤカンの震えが止まるとダンブルドア先生は違う肖像画に歩み寄る。
確かその肖像画はブラック邸で見たことのあるものだった。
「フィニアス、フィニアス」
ダンブルドア先生が名前を呼ぶが、その肖像画にいる人物は反応しない。
だが、鼻がぴくぴくと動いていたので、多分狸寝入りだろう。
「フィニアス!」
何人かの肖像画がダンブルドア先生と共に叫ぶ。
もはや眠ったふりは出来ないと思ったのだろう。
フィニアスと呼ばれた魔法使いは芝居がかった身振りで目を見開いた。
「――っ? 誰か呼んだかね?」
「フィニアス、貴方の別の肖像画を、もう一度訪ねてほしいのじゃ。また伝言があるのでな」
「ほうほう、わかりましたよ。ただ、あいつがもう私の肖像画を破棄してしまったかもしれませんがね。何しろあいつは家族の殆どを——」
フィニアスが言い訳を始める前に、ダンブルドア先生がそれを遮った。
「シリウスは貴方の肖像画を処分すべきでないことを理解しておる。シリウスに伝言するのじゃ。『アーサーが重傷で、妻、子供たち、ハリー、が間もなくそちらに到着する。護衛には咲夜を付ける』よいかな?」
「アーサー負傷の妻子供ハリーが滞在。護衛が咲夜。……咲夜? 誰だそいつは」
「私よ」
私は軽く手を挙げた。
「まだ小娘じゃないか」
「否定はしないわ」
「フィニアス」
ダンブルドア先生が静かに言うと、フィニアスは気乗りしない調子で肖像画の奥へと消えていった。
次の瞬間校長室のドアが開き、フレッド、ジョージ、ジニーがパジャマ姿で入ってくる。
その後ろにはマクゴナガル先生の姿があった。
「ハリー、マクゴナガル先生が貴方がパパの怪我するところを見たっておっしゃるの」
「お父上は不死鳥の騎士団の任務中に怪我をなさったのじゃ」
ジニーの言葉にハリーが返事をする前にダンブルドア先生が答えた。
「お父上はもう聖マンゴ魔法疾患傷害病院に運び込まれておる。きみたちをシリウスの家に送ることにした。病院へはその方が隠れ穴よりも便利じゃからの。お母上とは向こうで会える」
「どうやって行くんですか? 煙突飛行粉で?」
フレッドが珍しく敬語でダンブルドア先生に聞いた。
どうやら動揺しているらしい。
「いや、煙突飛行は監視されておるのでな。ポートキーに乗るのじゃ」
ダンブルドア先生は机の上に置かれたヤカンを指さした。
次の瞬間、部屋の真ん中に炎が燃え上がり、その場に1枚の金色の羽が舞い降りる。
ダンブルドア先生は器用に空中でその羽を捕まえた。
「フォークス、わしの飼っとる不死鳥からの警告じゃ。アンブリッジ先生が君たちがベッドを抜け出したことに気がついたに違いない」
「私が足止めに行きましょうか?」
私はダンブルドア先生にそう進言するが、ダンブルドア先生は首を横に振った。
「君には護衛の任があるじゃろう? ミネルバ、適当な作り話で足止めしてくだされ」
マクゴナガル先生はその言葉を聞いて校長室から出ていった。
「あいつは喜んでと言っておりますぞ」
私が声がした方向に視線を向けると、そこにはフィニアスが気乗りしない顔で口を開いていた。
「私の曾々孫は家に迎える客に関して、昔からおかしな趣味を持っていた」
どうやら向こうは安全のようだ。
私はダンブルドア先生と頷き合い子供たちを集める。
そして全員をポートキーに触れさせた。
私もヤカンの取っ手を持つ。
「ポートキーは使ったことがあるじゃろな?」
ダンブルドア先生がそう聞くと、皆頷く。
「よかろう。では、3つ数えて……1、2……」
次の瞬間ハリーがダンブルドア先生を見上げる。
「3」
次の瞬間、私はハリーから殺気を感じ取った。
私は咄嗟に逃げようと思ったが、既にポートキーは発動している。
もう手を放すことはできない。
次に地面に足が付いた時には、私たちは既にブラック邸の厨房へと降り立っていた。
「ハリー、今のはどういうこと?」
私はハリーが立ち上がる前にその上に馬乗りになる。
ハリーは訳が分からないといった表情で私の顔を見上げていた。
「なんの話だ?」
「とぼけないで。今さっきダンブルドア先生を殺そうとしたでしょう?」
私の言葉にハリーは分かりやすく動揺する。
「な、なんでそれを咲夜が? いや、違う。僕の意思じゃない。本当だ!」
一体何事かと、ウィーズリーの兄弟たちがこちらを見ていた。
「……まあいいわ。後で事情を詳しく話しなさい」
私は立ち上がり、慌ててこちらに駆けてきたシリウスに事情を説明した。
「まあ、詳しくはハリーに聞いて」
私は簡単に説明を終えるとハリーに全て丸投げする。
ハリーは少しずつ話し始めた。
どうやらハリーはアーサーが蛇に襲われた夢を見たというのだ。
そしてその夢の通り、確かにアーサーは襲われていた。
「ママはもう来てる?」
フレッドがブラックに聞く。
「多分まだ、何が起こったかさえ知らないだろう。アンブリッジの邪魔が入るまえに君たちを逃がすことが大事だったんだ。今頃はダンブルドアがモリーに連絡を入れる手配をしているだろう」
「聖マンゴに行かなくちゃ」
ジニーが慌てたように声を上げる。
そして全員を見回して、皆がパジャマ姿なのに気がついたようだった。
「シリウス、マントを貸してくれない?」
ブラックは首を横に振る。
私もブラックと同意見だ。
「駄目よ。ここで大人しくしておきなさい。そのうち面会には行けるわ」
「でも——」
「大人しくしてなさい」
「はい」
ジョージが諦めたように項垂れた。
その様子にブラックが口を開く。
「辛いのは分かる。しかし、ここにいる者全員がまだ何も知らないように振る舞わなければならないんだ。少なくとも、君たちの母さんから連絡があるまでは、ここでじっとしていなければならない。いいね?」
ウィーズリーの兄弟たちは、渋々頷いた。
ハリーはまだ顔を真っ青にして厨房の椅子に座っている。
「それでいい。ビールでも飲んでリラックスしなさい。アクシオ、バタービール!」
シリウスが杖を振ると食糧庫からバタービールが数本飛んでくる。
私はそれを片手でキャッチした。
「もっと強いの——」
「君は護衛だと聞いたが?」
私が文句を言い切る前にブラックが冷ややかに言った。
まあ、この場合ブラックのほうが正しいので素直にバタービールで我慢することにする。
皆椅子に座り、じっと何かが起こるのを待っていた。
次の瞬間空中に炎が上がり、薄暗い部屋を照らす。
「きゃあ!」
ジニーの可愛らしい悲鳴も部屋中に響いた。
「フォークス!」
ブラックはそう言うなり炎と共に現れた羊皮紙に目を通す。
「ダンブルドアの筆跡ではない……君たちの母さんからの伝言に違いない、さあ……」
ブラックは羊皮紙をジョージにへと手渡した。
ジョージはそれをもぎ取るように受け取ると、引きちぎらんばかりに広げ、読みあげた。
「『お父さまはまだ生きています。母さんは聖マンゴに行くところです。じっとしているのですよ。できるだけ早く知らせを送ります』……まだ生きている。だけど、それじゃまるで……」
そう、まだ生きているということは、今にも死にそうということだ。
全員そのことに気がついたらしい。
皆顔を青くしていた。
その後は全員が押し黙り、ただ時間が過ぎるのを辛抱強く待っていた。
ジニーが今にも泣きだしそうなので、私はジニーのそばへと行き、優しく抱きかかえる。
「大丈夫。アーサーは死なないわ」
ジニーは私の胸に顔を埋めた。
それから数時間が経過し、そろそろ明け方だという時刻になった頃、厨房のドアが急に開いた。
私は咄嗟に杖を構えるが、そこに立っていたのはモリーさんだった。
皆一斉にモリーさんを見る。
モリーさんの顔色は優れなかったが、みんなを見回し力なく微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お父さまは眠っています。あとでみんなで面会に行きましょう。今は、ビルが様子を看ています」
フレッドはそれを聞き、両手で顔を覆うとどさりと机に突っ伏した。
ジョージとジニーは立ち上がり、モリーさんに抱き着く。
「さあ、朝食だ!」
ブラックが勢いよく立ち上がり、嬉しそうに大声で言った。
次の瞬間にテーブルが料理で満たされる。
その光景に全員がブラックに賞賛の声を送った。
「あ、いや……これをやったのは私じゃない」
ブラックは気まずそうにこちらを見る。
「咲夜、君だろう?」
ブラックは確信しているかのようにそう言った。
そう、ブラックの言う通りだ。
ブラックが「朝食だ」と叫んだ瞬間に時間を止め、全員分の食事を用意しただけである。
「あら、なんのことかしら? 魔法使いさん。さあ食べましょう?」
私はぽかんとしているブラックをよそに椅子に座り直す。
皆状況が分からないといった顔でテーブルについていった。
「シリウス、子供たちを一晩中見ててくれてありがとう」
モリーさんが優しくブラックに微笑む。
だが私は知っている。
多分私たちがここにいることで一番喜ぶのはブラックだ。
「なに、役に立てて嬉しいよ。アーサーが入院している間はここでゆっくりするといい」
「まあ、シリウス。とてもありがたいわ……アーサーはしばらく入院することになると言われたし、なるべく近くにいれたら助かるわ。……もしかしたら、クリスマスもここで過ごすことになるかもしれないけど」
「大勢の方が楽しいさ」
ブラックはクールにそう答えたが、多分内心では狂喜乱舞しているだろう。
尻尾があったら千切れんばかりに振っているに違いない。
その後は全員がそこそこの量の食事を取り、昼まで仮眠を取った。
もっとも私は厨房で昼食の下ごしらえをしてから時間を止めて寝たが。
昼食を取り終わる頃になると全員のトランクがホグワーツから送られてきた。
私は既に制服から動きやすい服装に着替えていたが、他の皆はまだパジャマだったからだ。
皆トランクから服を取り出すとそそくさと着替えていく。
どうやら一刻も早く聖マンゴに向かいたい、そのような感じだった。
「全員揃っとるか? ええ?」
突然厨房のドアが開きムーディとトンクスが入ってくる。
ノックも無しに突然だったので、私は咄嗟に杖を向けていた。
「なんだ!? わしに杖を向けるとは! 決闘か!? こい!!」
「なんだマッドアイか」
私はつまらなさそうに杖を降ろす。
ムーディは今にも私に呪いを掛けそうな勢いだったが、何とか自制し、改めて周囲を見回した。
「ハリーたちの護衛をダンブルドアから頼まれたのだ」
「私って信用無いのね」
「バカを言え。もし信用してなかったらお前みたいな小娘を騎士団員にしとらんわ。ほれ小僧ども。出発するぞ!」
私の軽口をムーディは軽く流し子供たちを集合させる。
「もしかして、徒歩で向かうの?」
ジニーがトンクスに聞いた。
「まあね。地下鉄を使うわ。みんなマグルの服装を着ているわね?」
トンクスが全員を見回す。
私はトンクスの頭を叩いた。
「貴方が一番目立ってるわ」
トンクスの髪は鮮やかなピンク色をしていた。
トンクスはてへと舌を出す。
「私よりマッドアイの方が……ね?」
トンクスは笑いを堪えてムーディを指さす。
確かにムーディは義眼を隠す為に少々奇妙な帽子の被り方をしている。
その様子を見て双子が笑った。
「なんだ? 変か? 顔の前で義眼がギョロついておるよりはマシだろが。ええ?」
ムーディは眉を吊り上げる。
まあ、マシなのは確かだ。
私たちはロンドン市内へと向かう電車に乗り込み、ロンドンの中心部にある駅で降りる。
そして駅から少し歩き、パージ・アンド・ダウズ商会と書かれたレンガ造りの大きなデパートの前まで来た。
そのデパートは営業をしている様子はなく、ショーウインドーにはマネキンが数体放置されている。
まあこの外装はマグル避けのためのものだ。
トンクスがマネキンへと話しかけると、マネキンが小さく頷き手招きをし始める。
トンクスはジニーとモリーさんの肘を掴み、ガラスを真っすぐ突き抜けて姿を消した。
ウィーズリーの兄弟たちもその後に続いていく。
そして最後に私がハリーの背中を押して共にガラスを抜けた。
中は病院の受付になっている。
グラグラとした椅子が何列にもなって並び、そこには多くの魔女や魔法使いが座っていた。
患者の容体も様々だ。
何ともなさそうな人もいれば、体中から腕を生やした奇妙な風体の人もいる。
ハリーは周囲をきょろきょろと見回し、横にいるロンに声を掛けた。
「あの人たちは医者(ドクター)なのかい?」
ハリーは近くにいる薄い緑色のローブを着た魔法使いたちを指さした。
「医者って人間を切り刻んじゃうマグルの変人の事? 違うさ、あれは癒しの癒者(ヒーラー)だよ。」
癒者とは、マグルで言うところの医者のようなものだ。
身近な癒者といえば、マダム・ポンフリーとかだろうか。
「ほら、こっちよ!」
モリーさんが受付のところで手を振っている。
「ほら、行くわよ」
私は2人の背中を押して、受付へと向かった。
用語解説
咲夜に頭が上がらないアンブリッジ
アンブリッジは弱いものはとことんいじめ、強いものに媚びを売るそんなクズだと私は思います。
セストラル
ハリーはセストラルの姿が見えていません。セドリックが生きていたばっかりに……。
アンブリッジ「暴力の……行使を……楽しむ……傾向が……見られる。」
咲夜のことですね。わかります。
殺人ビーター咲夜ちゃん
撲殺天使と化します。
咲夜「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~……あれ? 戻らない」
蛇にぱっくんちょされたアーサー
すぐに処置された為、死なずに済みました。
勝手にポートキー
ダンブルドアも結構悪い人です。
追記
文章を修正しました。
2018/12/04 加筆修正