私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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魔術が絡んでいない怪我ならポピーは一瞬で治しちゃいそうなイメージあります。
そしてウィーズリー大活躍回。

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


花火とか、進路指導とか、自由とか

 アンブリッジが校長になった次の日の朝。

 私はグリフィンドールのテーブルの隅に腰かけ、フレッドとジョージと話していた。

 勿論話題はダンブルドア先生がいなくなったことに関してだ。

 

「つまり、今こそ弾けろという火星の暗示だ」

 

 フレッドが茶化して言う。

 だが、私もジョージも同じような意見だった。

 

「今まで俺たちはダンブルドアがいたから自制してきた。ちょっとした混乱は起こしてきたが最後の一線は常に守っていた。そうだろう?」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 ジョージの言葉に私とフレッドは頷いた。

 

「聞いて、2人とも。耳寄りな情報があってね。実は私、今アンブリッジに何をしても退学にも処罰の対象にもならないのよ?」

 

 私は自慢するように2人に言う。

 2人とも目を丸くして驚いた。

 

「マジかよ……一体何をしたんだ? 弱みを握ったとかか?」

 

「破れぬ誓いを結んだの」

 

 その言葉に2人が同時に口笛を吹く。

 

「すっげえなそれ。俺も昔ロン相手に結ぼうとしたことがあるけど……」

 

「ああ、パパが烈火の如く怒ったな。珍しいことに」

 

「なにやってるのよ……。なんにしてもアンブリッジで商品を試したいときは私に言いなさい」

 

 私はそう得意げに言ったがフレッドが指を左右に振った。

 

「ところがどっこい。商品は既に完成している。店も殆ど出来上がった」

 

「しいてお願いするとしたら俺たちの邪魔をしないで欲しいってところだな。俺たちだけでやった方が商品の良い宣伝になる。おおっと勘違いはするなよ? やっこさんに手を出すなって言ってるわけじゃない」

 

 フレッドは教職員テーブルからこちらを睨んでいるアンブリッジをチラリと見た。

 

「死なない程度に盛大にやってくれ」

 

「ああ、盛大にね」

 

「勿論。あのカエル相手に容赦はしないわ」

 

 私たちは器用に3人で握手をすると、今日の昼過ぎに計画している花火大会の打ち合わせを始める。

 今日一日は騒がしいものになるだろう。

 

 

 

 

 昼食を手早く食べ、私と双子は玄関ホールへと来ていた。

 フレッドとジョージは次々と花火に火をつけていく。

 

「ウィーズリーの暴れバンバン花火さ。今日でありったけの在庫を使っちまおう」

 

「手伝うわ」

 

 私も喜々として大量の花火に火をつけた。

 お嬢様は花火が好きだ。

 たまに紅魔館でも扱うことがあるが、この2人の花火は格別だった。

 見た目は小さい花火なのだが、火をつけると同時に大きなドラゴンの姿になり火の粉を振り撒きながらバンバンと激しい爆発音を響かせる。

 大きなネズミ花火はUFOのように縦横無尽に城中を飛び回り破壊活動を行っていた。

 ロケット花火は壁に当たると方向を変え、いつまででも飛び続けている。

 

「凄いわ。2人に金貨を託して正解だったわね」

 

「そりゃどうも」

 

「お嬢さまさまってね」

 

 普通花火は数十秒で火薬を燃やしきってしまうが、この花火にはそのような問題はないらしい。

 火をつけて少し時間が経つが、まだ花火は元気なままだった。

 

「一体なにご……ぎゃあ!」

 

 次の瞬間アンブリッジが階段を下りてくる。

 私は反射的に手に持っていたロケット花火をアンブリッジに向けて発射していた。

 ロケット花火はまっすぐアンブリッジへと飛んでいくとお腹に当たり大爆発を起こす。

 その衝撃でアンブリッジは数メートルほど吹っ飛んだ。

 フレッドとジョージはアンブリッジに見つかる前に何処かに隠れたらしい。

 既に私の近くにはいなかった。

 

「ほう、凄いわね。アンブリッジは火傷をしてない。普通なら体が真っ二つになってもおかしくないのに……。安全面にも気を使っているということかしら」

 

「な、何をするんですか! グリフィンドールから……」

 

「グリフィンドールから、なんですか?」

 

 アンブリッジは減点しようとして咄嗟に口を噤む。

 私は手に持っていたロケット花火に火をつけもう一度アンブリッジへと飛ばす。

 アンブリッジは今度は杖を取り出すと消失呪文を唱えた。

 アンブリッジの杖から放たれた呪文はまっすぐ花火へと飛んでいき、見事命中する。

 その瞬間ロケット花火の本数が10本に増え、その全てがアンブリッジの体に命中した。

 

「あははははは。あー、おかっしい」

 

 私はケタケタと笑いながら他の花火にも火をつけていく。

 私は周囲をくるりと見回した。

 すると廊下に掛かっているタペストリーの隙間から2本の右手が突き出ておりそのどちらもが親指を立てている。

 多分フレッドとジョージのものだろう。

 その手はアンブリッジが起き上がると同時にタペストリーの隙間へと引っ込んだ。

 

「あ、貴方こんなことをしてどうなるか分かっているの!?」

 

「どうするんです?」

 

「あ……ぐっ」

 

 アンブリッジは苦しげに呻く。

 私は高速で動いてアンブリッジに接近すると横腹を蹴っ飛ばした。

 あばらが数本折れたかもしれないが、まあいいだろう。

 肺に刺さっていなければ致命傷ではない。

 

「それでは私は授業へと向かいます。花火は校長である貴方が何とかしてくださいね」

 

「め、命令します! 校長として補佐官に命令します! 私の言うことを聞きなさい!!」

 

「補佐官をやるとは言いましたが貴方の言うことを聞くとは言ってません」

 

 私はぴしゃりと言い切ると変身術の教室に向かった。

 その日1日は学校中が大混乱だった。

 あちこちで双子お手製の花火が爆発し、光り輝く。

 そして何より驚いたのは他の先生の対応だろう。

 花火程度自分たちでなんとでもすることができるはずなのに毎回アンブリッジを呼んで対処させるのだ。

 そして決まってこう言う。

 

「先生、どうもありがとうございます。花火程度どうにでもできるのですが、なにしろそんな権限があるかどうかはっきりわからなかったもので」

 

 どうやら先生方もダンブルドア先生を追い出されてご立腹のようだった。

 まあ、その原因は私なのだが。

 ダンブルドア先生は私に伝言役を任せた。

 私は若干話を膨らませて他の先生方にダンブルドアの失踪を伝えたのだ。

 簡潔に言ってしまえば「なんもかんも魔法省が悪い」というやつである。

 そのせいでアンブリッジはスリザリン以外の生徒と教職員から鼻つまみ者にされているのだ。

 なんにしても、今日1日は楽しく過ごせそうである。

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 私は談話室で花火の予約を取っているフレッドとジョージを見ながらハーマイオニーを待っていた。

 ハーマイオニーは今興奮した声で双子に賞賛を送っている。

 どうやら私と同じく少し反抗的な気分らしい。

 ロンもその光景を目を丸くして見ていた。

 ハーマイオニーは跳ねるように私たちのいるテーブルへと戻ってくる。

 

「大丈夫? 気分は悪くないか?」

 

 ロンが心配するような顔をして言った。

 

「ええ、すこぶる良好……とは言えないわね。ちょっと反抗的なの」

 

「そう、じゃあそこに座りなさい」

 

 私は表情を作りハーマイオニーに座るように促す。

 ハーマイオニーは私の横の椅子に腰かけた。

 

「何を勘違いしているの? 床に、正座しなさいと言ったのよ」

 

 ハーマイオニーはそれを聞いた瞬間ビクンと体を震わせる。

 ロンとハリーは正座という言葉が聞きなれないのか首を傾げた。

 

「星座? 星でも見るのか?」

 

 ロンのそんな言葉を尻目にハーマイオニーはおずおずと私の前に正座する。

 そして顔を伏せた。

 

「なんで正座させられたのか分かっているわよね?」

 

 ハーマイオニーは気落ちしているようにじっと黙り答えない。

 ハリーとロンは何が始まったのか理解したのか、急に先ほどまで全く手についていなかった宿題に取り組み始めた。

 

「マリエッタの額に浮かび上がったアレは何?」

 

「……ぃです」

 

「聞こえないわよ。もう1回」

 

「呪いです」

 

 ハーマイオニーが今にも泣きそうな声で答えた。

 いや、実際もう半分泣いている。

 

「ここで1つ問題を出すわ。もし私が今貴方に「私は死喰い人なんです。」って告白したら、普通信じる?」

 

「信じません」

 

「そうよね。じゃあ告白した瞬間左手に闇の印が浮かび上がったら?」

 

「信じます」

 

「そうよね? で、マリエッタのアレは何?」

 

 そこまで丁寧に説明して、ようやく理解したようだった。

 ハーマイオニーは小さく「あ」と声を漏らす。

 そう、マリエッタの額に密告者と浮かび上がらなければDAの活動はバレなかったのだ。

 マリエッタの言葉になんの信憑性もなければいくらでも話を誤魔化すことができる。

 

「わ、わたし……こんなことになるとは思わなくて……」

 

「嘘ね。こんなことになると思わなかったらあんな呪い掛けないでしょ?」

 

「でも咲夜だってあの呪いの改変を——」

 

「私は発動条件を弄っただけよ。中身までは確認してないわ。だから今、ここで、貴方を正座させているのよ? わかる?」

 

 私は椅子から立ち上がりハーマイオニーの顔を上から覗き込む。

 そしてゆっくり囁いた。

 

「ねぇ。私今何をしても退学にならないの」

 

 勿論嘘だが、その言葉を信じたハーマイオニーはプルプルと震え出す。

 目からは涙が零れ、その様子をチラチラと観察しているハリーたちは一層宿題に集中した。

 

「取り敢えずここは人目につくから女子寮へと行きましょうか」

 

「い、いや……」

 

「返事は?」

 

「……はい」

 

 私はハーマイオニーの腕を掴むと嫌に優しく女子寮の方へと引っ張っていく。

 ハーマイオニーはまるで屠殺場へ連れていかれる人間のような目をしていた。

 私はそのままハーマイオニーをハーマイオニーのベッドまで引っ張っていき、そこに腰を下ろさせる。

 私はその隣へと座った。

 

「ねえ。ハーマイオニー。人を管理するって、どういうことだか分かる? 人の上に立つって、どういうことだか分かる?」

 

 私はできるだけ優しい声を作ってハーマイオニーに語り掛ける。

 ハーマイオニーは啜り泣き始めた。

 

「組織の上に立つ人間はね。責任を背負うのよ。特にDAのような何かに逆らうような、秘密裏に行う活動の場合は特にね。今回、責任を取ったのは誰? ハリー? ハーマイオニー?」

 

「……ち、違うわ。責任を取ったのは……全く、関係ない、ダンブルドア先生。先生は私のせいで……。私の……ミスで……」

 

 ボタボタと大粒の涙がハーマイオニーの膝を濡らしていく。

 

「そう。まったく関係のないダンブルドア先生が全ての責任を背負い込んでくれたわ。だからハリーも、貴方も退学にならずに済んだ。……おかげであの最悪が校長になったけど。本来なら責任を背負うのはハリーだったはずなのよ」

 

「そう、そうよね。私、いつもいつも肝心なところでミスばっかり……私……私……」

 

 ハーマイオニーの体の震えが更に強くなった。

 この震えは私に対する恐怖の震えではない。

 もっと本質的な、ハーマイオニーの根底に関わるものだろう。

 私は優しく肩を抱き、ハーマイオニーに体重を預けさせた。

 

「貴方の不安の種を言い当ててあげるわ。貴方は失敗が怖いのよ。他の何よりも失敗することを恐れ、成功してもそれは喜びではなく安堵でしかない。成功することが普通になってしまっている。だから人一倍勉強しないと気が済まないし、テストも一番を狙いたがる。だから貴方は失敗するのよ」

 

 私がそう言い切るとハーマイオニーの体が小さく跳ねた。

 

「叱られたことのない子供が社会に出てから急に叱られて大きなショックを受け、立ち直れなくなるのと同じ。貴方は失敗を知らなさすぎる。そのせいで最後の詰めが甘かったり失敗したときに人よりショックを受けることになるのよ」

 

「でも——じゃあ、私。どうすれば……」

 

「本当に大切だと思う部分は人に頼りなさい。そして何度も何度も考えなさい。1から10まで完璧にしなくていい。一番大事な部分だけにありったけの力を使うの。これからの世の中、失敗は許されない情勢になっていくわ。そういったときに仲間を守れるかどうかは貴方次第よ」

 

 私はそのままペタンとハーマイオニーの頭を太ももに乗せる。

 ハーマイオニーはそのまま声をあげて泣き始めた。

 私は優しくハーマイオニーの頭を撫でる。

 そしてハーマイオニーを乗せたままベッドに倒れ込み、柄にもないことをしたと少し反省した。

 まあでも、こういうのもたまにはいいだろう。

 私はそのままベッドの上で目を瞑る。

 ハーマイオニーもそのうち私の上で寝てしまうだろう。

 だとしたら私もこのまま寝てしまう方が良い。

 私は睡魔に襲われるまま夢の世界に引きずり込まれていった。

 

 

 

 

 

ロンドンの街。

私は目の前にいる人間を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

次にテーブルに座っている人間を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

次に歩道を歩いている人間を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

次に花屋の店員を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

次に親と歩いている子供を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

誰も殺されたことには気がつかない。

死んだことに気がつかない。

誰も私を見ていない。

誰も自分自身を見ていない。

動かない。

動けない。

私が鏡を見てそこに映っている人間を殺した。

その人間は死んだことに気がつかない。

その人間は死んだことに気がつけない。

その人間は死んだことに気がつくことはない。

 

「全部消えて無くなってしまえばいい」

 

 ————ッ!?

 私は急に誰かの声が聞こえてベッドから跳ね起きる。

 その瞬間太ももの上に乗っていたハーマイオニーを落としてしまうが、そんなことに構っている暇はなかった。

 私は必死に周囲を見渡し、声の主を探す。

 だが、そこには誰もいなかった。

 

「夢? ではないと思うけど……」

 

 私は声がした方向を鋭く睨みつける。

 だが、やはりそこには誰もいなかった。

 私は首を傾げつつもベッドに戻り布団を被る。

 そして周囲に警戒しつつ眠りへと入った。

 

 

 

 

 

 

 

 イースター休暇も終わりに差し掛かる頃、談話室の掲示板に進路指導に関しての掲示がなされた。

 それと共に魔法界の職業を紹介するビラや小冊子が談話室のテーブルに積まれるようになる。

 ホグワーツの5年生はもう将来に関して考えなければいけない歳になったということだろう。

 掲示板のリストを辿ると、私はどうやら月曜日の朝食が終わってすぐにマクゴナガル先生の部屋に行かなければならないようだった。

 つまり休暇が終わってすぐだ。

 まあ、進路指導など私には必要ない。

 卒業、いや無事卒業できるかどうかも分からないが、卒業と同時に紅魔館への永久就職が決まっているようなものだ。

 ……就職とは少し違うが、でもマクゴナガル先生にはそう言うしかないだろう。

 月曜日の朝、私はいつものようにフレッド、ジョージと朝食を共にする。

 彼らの話では、今日の放課後にホグワーツを発つらしい。

 まさに新しい人生の始まりというわけだ。

 

「おべんちゃらのグレゴリー像のある廊下の方に歩いて来れば、俺たちの雄姿が見れると思うぜ」

 

「ああ、その間にハリーも何かしでかすようだが、まあ知ったこっちゃないな」

 

「個人的にはそのハリーの話を聞きたいんだけど……」

 

 私はトーストを齧りながらアンブリッジの口の中に鼻血ヌルヌル・ヌガーを投擲する。

 ヌガーは見事アンブリッジの口の中に入り、その瞬間盛大に鼻血が噴き出した。

 

「「お見事」」

 

「凄い即効性ね。あっという間にアンブリッジが血だらけになったわよ。……あれ、失血死するまで止まらない感じ?」

 

「残念なことに失血死一歩手前で安全装置が働く。ああ、残念なことにな」

 

 ジョージがニヤニヤ笑いながら私にケチャップの瓶を渡してきた。

 私はその意味を察しケチャップの瓶をアンブリッジへと投擲する。

 アンブリッジは頭からケチャップを被った。

 

「お見事」

 

「……つっても外見あんまり変わらないな。元からピンクだし今は鼻血で赤いし」

 

 アンブリッジ先生はキッとこちらを睨みつける。

 私は知らん顔してトーストを齧り続けた。

 アンブリッジ先生は急いで医務室へと駆けていく。

 このままだと失血死すると思ったのだろう。

 朝食も終わると生徒たちは1限目の授業を受けるために教室を移動していく。

 私はその流れに逆らいマクゴナガル先生の部屋を目指した。

 マクゴナガル先生の部屋には一度来たことがある。

 私は廊下を進み部屋の前まで行くと、ドアをノックした。

 

「どうぞ」

 

 中から声が聞こえてきたので私は静かにドアを開け中へと入る。

 そこには先ほど医務室に駆けていったアンブリッジ先生が隅の方に立っていた。

 

「お掛けなさい」

 

 マクゴナガル先生は広げられた資料を机の隅に積み直しながら私に言う。

 私はマクゴナガル先生の向かい側へと腰を下ろした。

 

「さて咲夜。この面接は貴方の進路に関して話し合い、これからの学年でどのような学科を継続するかを決めるためのものです。貴方の場合進路は決まっているでしょうし、あとはどの学科を選択するかだけを——」

 

「ェヘン、ェヘン!」

 

「——相談するだけです。貴方の場合ですと変身術や魔法薬学、魔法生物飼育学などが——」

 

「ェヘン、ェヘン!」

 

 マクゴナガル先生はアンブリッジの咳ばらいを無視する。

 いや、アンブリッジにのど飴を1つ差し出した。

 

「魔法生物飼育学などが適しているでしょう。館には危険なペットも多いと聞きます。それと呪文学も——」

 

「ェヘン、ェヘン」

 

「校長。何か御用でしょうか?」

 

 マクゴナガル先生はイライラした表情でアンブリッジに聞いた。

 アンブリッジはできるだけ私と距離を取りつつマクゴナガル先生の方へと近づいていく。

 

「十六夜咲夜は一体どのような職場を希望なさっているの? 当人の間だけで話を進めてもらっては困りますわ」

 

「当人の間だけで話を進めるべき案件です」

 

「校長命令です。教えなさい」

 

 アンブリッジはできるだけ私を見ないようにしてマクゴナガル先生を問いただす。

 マクゴナガル先生は軽くため息をついてアンブリッジに教えた。

 

「彼女は使用人として屋敷で働く予定です。いや、既に働いています。卒業してもその道を外れることはないでしょう」

 

 そのことはアンブリッジも知っているはずだ。

 アンブリッジは顔にニヤニヤと笑みを浮かべた。

 

「まあ、既に使われる身ということね。一体何処の屋敷で働いているの?」

 

「紅魔館です」

 

「あら、聞いたことのないお屋敷ですわ」

 

 アンブリッジ先生は持っていたクリップボードにガリガリと何かを書き記す。

 その様子を見てマクゴナガル先生は話を戻した。

 

「貴方としてはこれを続けたいといった授業はありますか?」

 

「いえ、卒業できれば結構なんでもいいです。勿論、無様な点数は取れませんが」

 

 全科目『T』など取ったら恥ずかしさの余り自殺するかもしれない。

 ハーマイオニーではないが、取っている科目の成績は全て『O』を取るつもりだ。

 

「ですが、ホグワーツにいる間は貴方は学生です。学生の本分は勉強であって——」

 

「学年首席に言う話ではないですよね? それ」

 

「おっと、そうでした。貴方に対し多くを語る必要はないのは確かです。では——」

 

「ェヘン、ェヘン」

 

 マクゴナガル先生は呆れたようにアンブリッジを見る。

 アンブリッジは軽く資料に目を通すと、何でもないことのように言った。

 

「紅魔館……確かスカーレットという吸血鬼が当主の屋敷ですわよね。貴方、吸血鬼なんかに仕えているの? あのような野蛮で低俗な生物……ど、どうしたのですマクゴナガル先生!?」

 

 アンブリッジがそう言った瞬間にマクゴナガル先生はこちらに飛び掛かってくる。

 そしてそのまま先生は私を押し倒し両手を掴んだ。

 

「ダメです、十六夜咲夜。ダンブルドア校長がいない今こそ問題を起こしてはなりません」

 

 マクゴナガル先生は私の体をがっちりと拘束する。

 私はキョトンとした顔で先生を見た。

 

「……一体どうしたのです? マクゴナガル先生」

 

「……。いえ、貴方がアンブリッジ先生を殺すものだと思ったので」

 

「なぜ私がそのような事をするんですか?」

 

 私は体についた埃を叩き落として椅子に座り直す。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 その瞬間アンブリッジは急に物凄い勢いで床を転がり悶絶し始めた。

 何故悶絶を始めたか、理由は簡単だ。

 私が時間を止めてアンブリッジの口の中にフッ化水素酸を流し込んだだけである。

 人間の口にフッ化水素酸を入れるとどうなるか簡単に説明すると、触れたところが激しく腐食し、生えている歯が全て重度の虫歯に冒されたような痛みを発する。

 磔の呪文など遠く及ばないほどの痛みがアンブリッジを襲っていることだろう。

 

「吸血鬼がなんでしたっけ? 先生。もう一度お願いします」

 

 私は地面を転がっているアンブリッジの顔を蹴飛ばす。

 マクゴナガル先生は急いでアンブリッジへと近づくと何が起こったのか理解できないように目を白黒させた。

 

「早くマダム・ポンフリーのところに連れていったほうがいいですよ。フッ化水素酸って猛毒ですので」

 

 マクゴナガル先生は博識だ。

 フッ化水素酸と聞いただけで何が起こったのか察したらしい。

 アンブリッジの口へと清めの呪文を使うと物凄い勢いで医務室へと引きずっていった。

 これでアンブリッジも少しは懲りればいいのだが。

 何というか、蹴り続けてもフッ化水素酸口に含ませてもショック死しないところを見るに、神経だけは図太いらしい。

 なんにしてもこれで進路指導は終了だ。

 私は軽く伸びをすると既に始まっている1限目の授業へと向かった。

 

 

 

 

 

 結局マダム・ポンフリーの治療が適切だったせいでアンブリッジは昼には復活した。

 フッ化水素酸の怪我をそこまで最短で治すとは、やはりホグワーツの医務室は凄い。

 いや、これが呪いによる怪我ならもっと治すのに時間が掛かるのだろうが、フッ化水素酸による怪我には魔術的な要素は何もない。

 消え去った骨すら一晩で再生させる腕だ。

 焼け爛れぐらいちょちょいのちょいなのだろう。

 これが生徒だったらポピーも長いことアンブリッジを入院させただろう。

 だがアンブリッジは治療が終わった瞬間医務室から放り出されたらしい。

 昼食の席で私はアンブリッジを発見したが、アンブリッジは私と視線が合っただけでガクガクと震え出し、必死に目を伏せる。

 私はそんな様子にニヤリと笑うと着々と午後の準備をしているフレッド、ジョージに話しかけた。

 

「調子はどう?」

 

「バッチリ。なあ」

 

「おうともよ」

 

 2人は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

 

「悪ガキ大将の座は咲夜に譲ろう。精々あのクソババアを困らせてやれ」

 

 フレッドが楽しそうに笑いながら私の手に暴れバンバン花火を押し付けてくる。

 

「あら、お願いしなくても争うようにその座を目指すわよ。色んな生徒がね」

 

 私は花火を鞄の中へと仕舞う。

 フレッドとジョージはホグワーツで食べる最後の料理を精一杯腹に詰め込むと満足した顔で大広間を去っていった。

 これはホグワーツに限った話ではないが、目的もなく生きている人間が多いような気がする。

 何をするでもなく、ただ流されるように生きている人間。

 特に裕福な国の人間はそうだ。

 そう思えばあの2人の行動は非常に夢に満ち溢れている。

 自らが生きる目的というものをしっかりと見ているような気がするのだ。

 

 

 

 

 

 午後の授業が終わると同時にハリーはアンブリッジの部屋がある方向へと駆けだしていく。

 ハーマイオニーはそれを必死になって止めようとしていたが、ハリーはその制止を完全に無視した。

 フレッド、ジョージが言っていたハリーの用事とやらだろうか。

 ハーマイオニーは心配そうな顔をしてハリーの後ろ姿を見ている。

 私はその後ろからハーマイオニーに話しかけた。

 

「ハーマイオニー、ハリーがどうかしたの?」

 

 ハーマイオニーは何かを迷っているかのように表情を曇らせると、ロンの顔を見る。

 どうやら意見を求めているようだったが、ロンは肩を竦めるだけだった。

 

「……あのね、咲夜」

 

 ハーマイオニーは決心がついたのか、ようやく口を開いた。

 

「ハリーはシリウスに会いに行こうとしているの。どうしても今話がしたいんですって。私は止めたんだけど言っても聞かなくて……」

 

「どうやって話をするつもりなの?」

 

「多分煙突飛行粉だと思うわ。アンブリッジの部屋に行くって言ってたから。咲夜、ハリーを止めた方がいいのかしら」

 

 ハーマイオニーはそう言って表情を曇らせる。

 私はそんなハーマイオニーに言った。

 

「そこまで深刻に考える必要はないわ。ロンの兄を信じなさい。彼らの陽動は凄いわよ。……でも心配なのは確かね。私はブラック邸に先回りしておくわ」

 

「ちょっと待って、どうやって先回りするの? その方法が安全なのだとしたら是非ともハリーにもそっちの方法を取らせて……」

 

「無理よ。それに何事も経験だわ」

 

 私はハリーの後を追うように走り出す。

 そして角を曲がった瞬間時間を止めてブラック邸へと姿現しした。

 そう言えばここに来るのもクリスマス休暇以来だろうか。

 私は時間を止めたままブラック邸の中を歩き回る。

 今この屋敷にいるのはルーピンとブラック、そしてクリーチャーだけだった。

 私は急に襲われないようにルーピンの真ん前に立って時間停止を解除する。

 ルーピンは急に現れた私に一瞬体を震わせたが、すぐに冷静な表情へと戻った。

 

「やあ、咲夜か。久しぶりだね。……何かあったのか?」

 

 ルーピンは厨房の暖炉の前のテーブルに腰かけている。

 その位置ならハリーがきたことにも気がつけるだろう。

 

「ええ、何かあったのよ。ハリーがここに来るわ。多分頭だけ。ブラックと緊急で何かを話したいみたい」

 

 その言葉にルーピンは目を見開く。

 そして急いでブラックを呼びに行った。

 

「シリ……咲夜?」

 

 次の瞬間ハリーの顔が暖炉から出てくる。

 そして困惑したような声を出した。

 

「あれ……談話室の暖炉に出ちゃったのかなぁ」

 

「いえ、ここはブラック邸で合っているわよ。すぐにルーピンとブラックが来るわ」

 

 私がそう言うと今度こそハリーは目を丸くした。

 

「何で咲夜がそこにいるんだ?」

 

「騎士団員だから?」

 

「……最初から素直に咲夜に相談すればよかった」

 

 ハリーはしょぼんと表情を暗くした。

 中々話が私の耳に入ってこないと思ったら、どうやら意図的に隠蔽していたらしい。

 そうこうしているうちにルーピンがブラックを連れて厨房に帰ってきた。

 

「どうした?」

 

 ブラックはちらりと私を見たが、すぐに暖炉の方へと駆けていく。

 

「大丈夫か? 助けが必要なのか?」

 

 ブラックは暖炉の煙に咳き込みつつハリーに聞いた。

 

「ううん、そんなことじゃないんだ。僕……ちょっと話したくて。父さんのことで」

 

 ルーピンとブラックは驚いたように顔を見合わせる。

 ハリーは一瞬私を気にしたようだが、時間がないと言わんばかりに話し始めた。

 ハリーは閉心術の授業中に憂いの篩という魔法具でスネイプ先生の過去を見たらしいのだ。

 その過去には苛められるスネイプ先生と、スネイプ先生を苛めているハリーの父親があったらしい。

 その振る舞いはスネイプ先生がいつも言うように、傲慢そのものだったようだ。

 そしてそれはハリーの想像していた優しい父親とは程遠い存在だったらしい。

 ハリーがその話をし終えたとき、ブラックもルーピンも一瞬黙った。

 まさに図星を突かれたといった表情だ。

 少し間をあけてルーピンが口を開いた。

 

「ハリー、そこで見たことだけでジェームズを判断しないでほしい。あの頃はまだ15歳だったんだ」

 

「僕だって15だ!」

 

 ハリーは何か焦るような表情で答えた。

 今度はシリウスが口を開いた。

 

「いいかハリー。ジェームズとスネイプは出会った瞬間から憎み合っていた。そういうことがあるということは、君にもわかるね」

 

「うん。でも父さんは特に理由もないのにスネイプを攻撃した。ただ単に、シリウスおじさんが退屈だと言ったからなんだ」

 

「なるほど、シリウスもジェームズも昔から傲慢で嫌なガキだったわけね」

 

「ああ、君のようにな」

 

 私の軽口をブラックは軽く受け流す。

 まあ何というか、傲慢で嫌なガキというのは否定できない。

 

「当時から相当馬鹿をやったんでしょう?」

 

「ああ、まさに君のようにな。だが、私とジェームズだけじゃない。みんな馬鹿だった。……あー、ムーニーはそうでもなかったが」

 

 ブラックはちらりとルーピンの顔を見る。

 そして言葉を続けた。

 

「特にジェームズはリリーがそばにいるといつも馬鹿をやったものだ」

 

「どうして母さんは父さんと結婚したの?」

 

 ハリーは情けなさそうに言った。

 

「母さんは当時父さんのことが大嫌いだったくせに!」

 

「それは違う」

 

「7年生のときにジェームズはリリーとデートをし始めたよ」

 

「ジェームズの高慢ちきが少し治ってからだ」

 

「そして面白半分に呪いを掛けたりしなくなってからだよ」

 

 ハリーの叫びにブラックとルーピンは口々にジェームズのフォローをする。

 ハリーはまだモヤモヤしているようだ。

 まあ、それはそうだろう。

 自分が信じていたものが崩れるというのは、つらい。

 

「ハリー、時間よ。そろそろヤバいわ」

 

 私は懐中時計を取り出して時間を確認する。

 すでに20分が経過していた。

 

「帰らなくっちゃ!」

 

 ハリーは慌てたように叫ぶとポンという音と共に消えた。

 私とルーピンとブラックの間に気まずい沈黙が流れる。

 

「いやぁ、ハリーがジェームズに似なくて良かった。リリーの子だよ。あれは」

 

 ルーピンがしみじみという。

 その言葉にシリウスは苦笑した。

 

「ジェームズが聞いたら泣くぞ?」

 

 2人で顔を見合わせて苦笑いする。

 なんというか、仲がよろしくて何よりだ。

 

「それじゃあ、私も城に帰るわ。何か伝えておくことはある?」

 

 私が2人に確認すると、ルーピンが口を開いた。

 

「スネイプの閉心術だけはしっかりとやるように伝えておいてくれ」

 

「了解」

 

 私は時間を止めてホグワーツの女子トイレの個室へと姿現しする。

 そしてそのまま玄関ホールへと急いだ。

 その瞬間私の横をフレッドとジョージが箒で通り過ぎる。

 

「「じゃあな! ホグワーツは任せたぜ!!」」

 

 2人はそのまま正面の扉を蹴り開け、ホグワーツの空へと飛び去って行った。

 ……残念、どうやら2人の雄姿を見逃してしまったようだ。

 2人を追うようにしてアンブリッジや親衛隊のドラコが玄関から外へ飛び出していく。

 その後ろではポルターガイストのピーブズが2人に敬礼の姿勢を取っていた。

 ピーブズが生徒にあそこまで敬意を払うところを私は見たことがない。

 それほどまでにあの2人の影響力は大きかったということだろう。

 

 

 

 

 

 フレッドとジョージの自由への逃走はそれから数日の間、生徒の間で何度も繰り返し語られた。

 まさに2人はホグワーツの伝説となったのだ。

 そしてどうやらフレッドとジョージはホグワーツに置き土産を残していったらしい。

 東棟の6階の廊下に大きな沼地を作ったのだ。

 フィルチさんとアンブリッジは必死にこの沼地を消そうと奮闘したが、成功していない。

 この沼地に関しても他の先生方は手を貸そうとはしなかった。

 フリットウィック先生だったら、一瞬であの沼地を消すことができるだろう。

 だがそんなことでアンブリッジの苦労は終わらない。

 私を筆頭に2人に触発された生徒が悪ガキ大将の座を目指して競い始めたのだ。

 ホグワーツの廊下のあちこちにクソ爆弾や臭い玉が落とされ、酷い悪臭を漂わせている。

 アンブリッジの部屋は更に酷い。

 もう既に人の住める状況ではなくなっている。

 まさにホグワーツは大混乱になっていた。

 もっとも、その筆頭は私とピーブズだ。

 私はとにかくアンブリッジを集中的に攻撃し、ピーブズはとにかく無差別に城中を荒らし回る。

 私がアンブリッジの食事にゲーゲー・トローチを混ぜている時にはピーブズは大広間にタランチュラの大袋を放り込み、私がアンブリッジの腹部を蹴飛ばしている時には、ピーブズは積まれた羊皮紙の束を暖炉のある方向へと押し倒していた。

 それだけではない。

 ずる休みスナックボックスの影響で普段あまりヤンチャをしない生徒もおかしな行動を取るようになった。

 アンブリッジが教室に入ってくるだけで多くの生徒が気絶したり吐いたり高熱を出したりするのだ。

 そして皆決まって「アンブリッジ炎です」と答える。

 アンブリッジはどうしてそんなことになっているか全く理解できていないようだったので、取り敢えずふくらはぎを蹴って転ばせておいた。

 

 

 

 

 クィディッチ・シーズンの最後の試合、グリフィンドール対レイブンクロー戦は5月の最後の週末に行われることになっている。

 その頃になると学校は少し平穏を取り戻したようだった。

 いや、皆がその状況に慣れたと言い換えてもいいかもしれない。

 グリフィンドールは優勝候補で、この試合に勝てば優勝が決まっていた。

 ロンは相変わらず下手だったが、まあ今回も前回みたいに素早く終わらせればいいだろう。

 試合の日の朝食の席で、ジニーが少し遠慮がちに私の方へと近づいてきた。

 

「……咲夜、今回も前の試合と同じようになるの?」

 

「私としてはその予定なのだけど。何か不都合が?」

 

「……。私、頑張るわ。咲夜がレイブンクローの選手を全滅させる前にスニッチを取ってみせる」

 

 ジニーは何かを決心したように私に向かって言い切った。

 私はテーブルから立ち上がり、ジニーの頭に手を乗せる。

 そして優しく撫でた。

 

「期待しているわよ」

 

 私はその手を頬へと滑らせ、最後に力強く肩を叩く。

 ジニーは力強く頷いた。

 

 

 

 

「さあ始まりましたクィディッチ最終戦。実況は毎度おなじみの僕、リー・ジョーダンがお送りします。えー、見どころの選手と言ったらやっぱり十六夜咲夜選手でしょうか。フレッド、ジョージの2人が失踪する前からアンブリッジに猛威を振るっていた彼女ですが、前回の試合ではハッフルパフの選手を全て箒から叩き落とすという偉業を見せつけてくれました。今回もその細腕からどのような強打が放たれるのか注目していきたいところです。そして前回可愛らしく涙目になっていたジニー選手。あれから練習を積み重ね、試合前のインタビューでは「レイブンクローの選手のためにも全力でスニッチを掴みに行きます」と話していました。さあそして何よりも気になるのはアンジェリーナ選手の精神状態でしょうか。前回の試合では我を忘れてゴールにクアッフルを入れ、試合後は赤面していた彼女ですが……おおっといい笑顔! 今日は大丈夫なようです。これは安心だー! 対するレイブンクローは毎度おなじみチョウ・チャンをシーカーに置いたチーム編成です。チェイサーの気合も十分、デイビーズなど現在進行形で咆えています。おおっと? レイブンクローのビーターが中々出てきませんね……へい! ビーターびびってる!!」

 

「ジョーダン! 選手を煽らない!!」

 

「了解です、先生」

 

 私はジョーダンの実況を聞きながらピッチに立つ。

 グリフィンドールの観戦席もレイブンクローの観戦席も気合十分だ。

 

「咲夜、ほどほどにね」

 

 アンジェリーナが笑いながら私の背中を叩く。

 

「それは貴方の方でしょう?」

 

「あー……まあ今回は大丈夫だ。ジニーも気合十分だしね。ただ1つ心配なのが……」

 

 アンジェリーナはロンの方を見た。

 ロンは歓声のせいもあってか半分諦めたような顔をしている。

 そう、スリザリンはまたウィーズリーは我が王者を歌っていた。

 

「逆転できる点数までならいいんだけど、調子が悪いととことん駄目な男だからさ」

 

「さあ、始めるわよ!」

 

 レイブンクローのビーターがフーチ先生に引きずられながらピッチに出てくる。

 どうやら自分のチームの選手を守り切れるか不安なようだ。

 

「正々堂々と戦うのですよ!」

 

 フーチ先生は選手を並ばせると各種ボールを解き放つ。

 次の瞬間ホイッスルを鳴らした。

 試合開始だ。

 

「さあホイッスルが高らかに鳴り響き選手たちが一斉に飛び立ちました。クアッフルを取ったのはレイブンクローだ! レイブンクローのデイビーズが一直線にゴールを目指していきますが、あーっと!! ここでブラッジャー直撃!! 後ろを確認せずに飛んでいたのが仇となったようです。咲夜選手百発百中! ここで彼女の経歴を振り返ってみましょう。えー、十六夜咲夜選手、2年生の時に数十匹のピクシー妖精をナイフで全て惨殺。4年生の頃にはダンブルドアをも出し抜いて対抗試合の代表選手の座を勝ち取りました。その後見事なナイフ捌きでドラゴンを討伐するなど、生徒とは思えない魔法の腕前を持ち合わせております。狙った獲物は百発百中! 決して殺りそこねることは——」

 

「試合の実況をなさい!!」

 

「はい、はい! マクゴナガル先生」

 

 私はレイブンクローの司令塔であるデイビーズを真っ先に落とした。

 デイビーズは担架に乗せられてピッチから退場していく。

 その様子を見て殆どのレイブンクロー生が青ざめていた。

 私はブラッジャーを追いかけ、クラブ1本で両端を交互に叩きその場に留める。

 そして近くを通ったレイブンクローのチェイサーに打ち出した。

 ブラッジャーは真っすぐチェイサーに向けて飛んでいくが、途中でレイブンクローのビーターが割って入る。

 ブラッジャーはビーターの側頭に当たり、レイブンクローのビーター1人はそのまま地面へと落ちていった。

 

「よし、2人目」

 

 私は一度本気でブラッジャーをアンブリッジへと叩き込む。

 本来ならばブラッジャーはピッチの外へは出ないようになっているが、私が霊力で操作しているので普通にアンブリッジの顔面へと吸い込まれる。

 そのままアンブリッジの顔面を陥没させた。

 

「おおっと! グリフィンドール10点!」

 

「ジョーダン、あれはゴールポストではありませんし、クアッフルでもありません」

 

「失礼しました。なんと不幸なことにブラッジャーが校長先生の顔を潰してしまったー! ポピー! 早く来てくれー! そうこうしているうちにも試合は進んでいきます。咲夜選手まるでロケットのように一直線にブラッジャーを追いかけていきます。そして手元で何度か跳ね返し……撃った! 命中! またもやチェイサーを1人撃ち落としました。さあさながら戦場と化してきました。スニッチを探すシーカーにも焦りを感じます。どうやらどちらも早く試合を終わらせたくて仕方がないようです」

 

 私はブラッジャー2つを弄びながらジニーの様子を確認する。

 ジニーは必死にピッチ内を見回し、スニッチを探しているようだった。

 次の瞬間チョウが動き始める。

 ジニーもすかさずその後を追った。

 

「おおっと! 各チームのシーカーがスニッチを見つけたようです。ですがチョウ、気を付けろ!? グリフィンドールのスナイパーはいつでもお前の後ろを狙っているぞ? おおっと!? これはどういうことだ!? 残っているレイブンクローの選手がシーカーを守るように隊列を組みます。どうやら自分たちの勝敗全てをシーカーに任せたようです。さあキラリと光る金のスニッチ。その栄光を掴み取るのはどちらの選手になるのでしょうか。ジニーが前に出るチョウが前に出る。おっと、ここで咲夜選手シーカーから少し距離を取りました。どうやら全てをシーカーへと託したようです。さあここで一気にスニッチに接近し……どっちだ? ジニーだ!! ジニーがスニッチを取りました! 試合終了です!! 今年の優勝はグリフィンドール! グリフィンドールです!!」

 

 ジニーは幸せそうに笑いながらピッチに下りてくる。

 チョウは悔し涙を浮かべて芝生の上に膝をついた。

 

「やるじゃない。まさにウィーズリーは我が王者ね」

 

 私はジニーの頭を撫でる。

 ジニーはくすぐったいと頭を捩った。

 その後も次々とグリフィンドールの選手が下りてきてジニーを褒めたたえる。

 ロンもニッコリ笑ってジニーの肩を叩いていた。

 

「凄い! 凄いぞ! ハリーに負けず劣らずの逸材だ!」

 

 私は観客席を見回してハリーとハーマイオニーの姿を探す。

 だが、2人は何処にもいなかった。

 さらに言えばハグリッドもいない。

 

「……一体何をやっているのかしら」

 

 私は肩を竦めると控室へと入った。




用語解説


はっちゃける咲夜ちゃん
実に子供っぽくて幼稚ですが、本来は遊び心に溢れる性格です。

怒られるハーマイオニー
怒鳴られるよりも精神にぐっとくる怒られ方をするハー子さん。大号泣。

進路指導
咲夜には絶対必要ないです。

フッ化水素酸
絶対素手で触っちゃ駄目です。飲むなんてもってのほかです。軽く浴びるだけで骨が見えるまで肉が腐り落ちます。

ポピー万能説
一番の悪魔。さっさと治して元気な状態に戻してしまう。

最後のクィディッチの試合
ジニー大活躍。キマシタワーは建ちません。


追記
文章を修正しました。

2018/12/23 加筆修正

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