私の世界は硬く冷たい   作:へっくすん165e83

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次回で不死鳥の騎士団編を終わらせたい。

誤字脱字等ありましたらご報告して頂けると助かります。


ふくろう試験とか、復讐とか、アーチとか

 ふくろう試験は2週間に渡り行われる。

 基本的には午前は筆記で午後は実技だ。

 私はこの日の為に時間を止めて勉強してきてはいたが、正直がっかりするほどレベルが低かった。

 どの試験も基本的なことしか出ず、話にならない。

 実技のテストも使えて当たり前のような呪文しか出なかった。

 だが、それでも普通の生徒にとっては難しいらしく、皆テストとテストの合間に教科書や羊皮紙とにらめっこをしている。

 ハーマイオニーもその様子なのを見て大きくため息をついたものだ。

 全ての試験が何の問題もなく終わったわけではない。

 夜に行われた天文学の試験中にハグリッドが捕まりそうになり、マクゴナガル先生が失神呪文を胸に4発も食らうという事件が発生したのだ。

 私はその時既に回答を終えていたのでその様子を観察していたが、ハグリッドは魔法使いたちの妨害を振り切って全速力で校門の奥の闇へと消えていった。

 そう、目立った事件と言えばそのぐらいだ。

 マクゴナガル先生はまだ昏睡状態らしいが、裏を返せばダンブルドア先生もマクゴナガル先生もいないのでやりたい放題できるということである。

 私は最後の試験日の朝に皆と一緒に朝食を取っていたのだが、1通のふくろう便が私へと届いた。

 届いた羊皮紙にはクィレルの筆跡で『9時 図書室』と書かれている。

 なるほど、9時に紅魔館の図書館に来てほしいということだろう。

 私は懐中時計を見て時間を確認する。

 そして9時までそんなに時間がないことを確認し、急いで朝食を食べきった。

 

「ハーマイオニー、ちょっと談話室に戻ってるわね」

 

 私は横で必死になって魔法史の教科書を読んでいるハーマイオニーに声を掛けると大広間を出ていく。

 そして廊下を曲がり誰もいないことを確認すると時間を止め大図書館へと姿現しした。

 そこには小悪魔の姿はあらず、パチュリー様とクィレルだけがいる。

 私は2人へと近づき時間停止を解除した。

 

「待たせたかしら」

 

 私は後ろからクィレルに声を掛ける。

 クィレルはそんな私に驚くこともなく平然と振り返った。

 

「8時57分。まだ時間には余裕があるだろう?」

 

「もし時間よりも早くても、相手が先に来ていたら待たせたことになるのよ。で、何か用だったの? 学校にふくろうを送ってくるなんて珍しいじゃない」

 

 私はパチュリー様の横へと座る。

 クィレルはその向かい側に座った。

 

「なに、時間を取るようなことではない。今日、ヴォルデモートはハリー・ポッターの心へと侵入し嘘の情報を流す。上手くいけばハリー・ポッターは神秘部の最深部へとのこのこやってくるはずなのだ。そこには多くの死喰い人が集まる」

 

 クィレルはニヤリと笑う。

 私はクィレルが何をしたいか理解できた。

 

「ここで一戦交えるわけね。私はハリーを神秘部最深部へ誘導すればいいということでしょう?」

 

「物分かりが早くて助かるよ。まさしくその通りだ。事前に伝えておかないと君はハリーが神秘部に行くのを妨害するだろう?」

 

 ……確かに何かあると言われなかったらハリーの行動を妨害するだろう。

 

「ええ、そうだったかもしれないわね。取り敢えず了解よ。私はハリーの行動を邪魔しないわ。それと、死喰い人を全滅させることもしないと言っておこうかしら」

 

「良い返事が聞けてなによりだ。では私は向こうへと戻ろうと思う。試験頑張りたまえよ」

 

 そう言い残しクィレルは姿くらましした。

 私はそのままパチュリー様の方を向く。

 

「パチュリー様、1つお願いしたいことが……」

 

「破れぬ誓いなら既に解除したわ。まったく、なんてものを学校で使っているのよ。今度から面白半分で自分に呪いを掛けるのはやめなさい」

 

 ……バレてた。

 

「申し訳ございません。つい出来心で。そしてありがとうございます」

 

 私はパチュリー様に深々と頭を下げる。

 それを見てパチュリー様は四角錐の石が付いた指輪と銀色で青白い宝石が付いている髪飾りと金色のカップを私の前に並べた。

 

「それ、全部分霊箱よ。この数カ月の間に小悪魔が集めたものね。マールヴォロ・ゴーントの指輪、ロウェナ・レイブンクローの髪飾り、ヘルガ・ハッフルパフのカップ。今はサラザール・スリザリンのロケットを捜索しているんだけど、既に何者かに取られた後だったらしいのよ。ダンブルドアに先を越されていなければいいのだけど」

 

「では、所在不明なのですか?」

 

 その質問にパチュリー様は首を横に振る。

 

「いえ、書き置きに名前のイニシャルがあったわ。S・A・B……シリウス・ブラックの親族で、元死喰い人。スリザリンのロケットはブラック邸にあると見て間違いないわね。というわけで暇な時間ができたらブラック邸を隅から隅まで探索して頂戴な。」

 

 パチュリー様が手を一振りすると分霊箱が元あった場所へと戻っていく。

 そしてパチュリー様は指輪だけを机の上に残した。

 

「貴方童話とかって読むかしら」

 

「はい、グリム童話とかなら少しは」

 

「魔法界の物は?」

 

「……。読んだことがないです」

 

 私は正直に答える。

 

「この指輪に使われている石は死の秘宝の1つである蘇りの石よ。まあ簡単に説明すると死の秘宝っていうのは最強の杖と死人を蘇らせる石と透明マントのことね。これがその1つ。蘇りの石」

 

「……それって貴重な物なのでしょうか?」

 

「んなわけないでしょう? こんなものより賢者の石の方がよっぽど使えるわ。ただの骨董品よ」

 

 パチュリー様はそう言って指輪を仕舞い込む。

 私は懐中時計を確認し、少し長い間ホグワーツを離れすぎたことを知った。

 

「ロケットの件はお任せください。私は一度ホグワーツへと戻りますね」

 

「ええ、そうしなさい」

 

 私はパチュリー様に頭を下げると時間を止めホグワーツへと姿現しする。

 そして適当に人目のない場所で時間停止を解除させると談話室へと向かった。

 

 

 

 

 

 午後2時。

 私は最後の試験を受けるために大広間へと来ていた。

 私は試験問題が裏返しに置いてある机の1つへと座る。

 そして全員が揃うとすぐさま試験が始まった。

 まあ試験の内容自体は何の問題もない。

 私はさっさと試験を終わらせ、居眠りをするふりをしながらハリーの身に何か起きるのをじっと待っていた。

 

「あぁぁああああああああああああああっ!!」

 

 予定通りなのかは分からないが、ハリーがいきなり叫び声をあげて椅子から落ちる。

 そして落ちた瞬間に我に返ったように辺りを見回し始めた。

 

「ど、どうしたのかね!?」

 

 試験官がハリーのもとへと駆け寄っていく。

 ハリーは苦しそうに起き上がった。

 

「な、なんでもありません……」

 

「そんなわけなかろう! 凄い形相じゃったぞ。医務室に行く必要がある。さぁ」

 

「行きません……医務室に行く必要はありません……」

 

 そう言いつつもハリーは試験官に引きずられていく。

 ハリーと試験官は大広間を出ていき、姿が見えなくなった。

 

「さてみなさん! 試験の時間は残り少ないですよ!! 集中してください!」

 

 ほかの試験官の声に大体の生徒がぎょっとして答案用紙に食らいつく。

 私はできればすぐさまハリーを追いたかったが、試験中に抜け出すのは至難の業だろう。

 あと10分もせずに試験が終わる。

 それからゆっくりでいいはずだ。

 私は最後に自分の回答を一通り確認し、ミスがないことを確認する。

 それが終わるのと同時に試験が終了した。

 私は素早く席を立つとハーマイオニーとロンと共にハリーを探しに向かう。

 いや、ハリーもこちらのことを探していたらしく、すぐに合流することができた。

 

「何があったの? 大丈夫? 気分が悪いの?」

 

「どこに行っていたんだよ?」

 

 ハーマイオニーとロンがハリーへと同時に聞いた。

 

「一緒に来て!」

 

 ハリーは早口でしゃべりすぎて多少せき込む。

 

「早く、話したいことがあるんだ!」

 

 言うが早いかハリーは足早に廊下を歩いていく。

 そして空いている教室を見つけると中に転がり込んだ。

 ハリーは全員教室内に入ったことを確認するとすぐにドアを閉める。

 

「シリウスがヴォルデモートに捕まった」

 

 ハリーは焦ったように早口で言った。

 その言葉にロンは驚愕を、ハーマイオニーは息をのむ。

 

「見たんだ。ついさっき。神秘部のガラス玉が沢山ある部屋でシリウスは拷問されている。あいつはシリウスを使って何かを手に入れようとしているんだ」

 

 私はハリーを観察するが、嘘を言っているようには見えない。

 

「……僕たち、どうやったらそこに行けるかな?」

 

「行きたいなら私が連れて行ってあげるけど……本当に行くの?」

 

 なるほど、ヴォルデモートが流した嘘の情報というのはこのことか。

 だとしたら怪しまれない程度に全力でハリーを神秘部に連れて行かないといけないだろう。

 ハーマイオニーは何かを言おうとしたが、その前にハリーが口を開いた。

 

「当たり前だろう!? たった1人の家族なんだ! そりゃ世間から見たらまだお尋ね者の殺人鬼かもしれない。それでも僕からしたら親同然の存在なんだよ!」

 

 その言葉を聞いてハーマイオニーは開きかけていた口を噤んだ。

 ハーマイオニーのことだ。

 この夢の怪しさや確認したほうが良いことなど様々なことが脳内を駆け巡っているのだろう。

 だが、ハリーの言葉を聞いてそんなことを言っている場合じゃないと気が付いたらしい。

 これだけは言わないとといった表情でハーマイオニーが口を開いた。

 

「ハリー、まずはシリウスが屋敷にいないかどうか確かめましょう。もしブラック邸にシリウスがいるようだったらこれはヴォルデモートの見せた罠よ」

 

「時間がないんだ。確認している間にシリウスが殺されてしまったらどうする!?」

 

 ハリーはハーマイオニーを怒鳴りつけるが、ハーマイオニーの必死の説得もあってまずはブラック邸に向かうことになった。

 私はハリーの手を掴む。

 そしてそのままホグワーツから姿くらましした。

 ブラック邸の厨房に姿を現すと、私はハリーの手を放し時間を止める。

 まずはここにブラックがいるかどうかを確認しなくてはいけない。

 ついでにスリザリンのロケットの捜索もしよう。

 私は止まった世界の中を歩き、厨房を出る。

 そして全ての部屋の隅から隅まで探索を始めた。

 1階には厨房に屋敷しもべ妖精のクリーチャー以外誰も居らず、部屋の隅々まで探索したがロケットは見つからなかった。

 私は1階の探索を切り上げて上の階へと向かう。

 上の階の部屋の1つでブラックがバックビークの怪我の手当てをしているのを発見した。

 そのまま探索を続行するがやはりロケットは見つからない。

 ……だとしたらあと探していないのは屋根裏だけだ。

 私は埃の積もった屋根裏に足跡をつけないように注意しつつ上る。

 そしてそこでスリザリンのロケットを発見した。

 

「これで残る分霊箱はハリーと蛇だけね」

 

 私はそのまま屋根裏を出て2階で姿くらましする。

 そして一度紅魔館の大図書館へと立ち寄り、本を読みながら固まっているパチュリー様の時間停止だけを解いた。

 

「パチュリー様、これを」

 

 私は時間の止まった世界でパチュリー様にロケットを差し出す。

 

「あら、早かったじゃない。もっとゆっくりでも良かったのよ?」

 

「偶然ブラック邸に顔を出す機会がありましたので。では私はこれで」

 

 私はパチュリー様に一礼するとブラック邸の厨房へと戻り、時間停止を解除した。

 

「シリウスおじさん? シリウス、いないの?」

 

 ハリーは厨房内に呼びかけるがそこにはクリーチャーしかいない。

 クリーチャーは急に現れた私たちに少し驚いていたが、すぐさま嬉しそうにこちらを向いた。

 

「ポッターと十六夜がここにいます。こいつらは何故ここにやってきたのだろう? クリーチャーは考えます」

 

「クリーチャー、シリウスはどこだ?」

 

 ハリーが問いただした。

 

「ご主人様はお出かけです。ハリー・ポッター」

 

「どこへ出かけたんだ? クリーチャー、どこへ行ったんだ?」

 

 ハリーの問いにクリーチャーはツクツクと笑うばかりだった。

 もっとも私はクリーチャーの言葉が嘘だということを知っている。

 ブラックは上の階でバックビークの手当てをしているのだ。

 

「クリーチャー、シリウスは神秘部に行ったのか?」

 

 クリーチャーはその言葉を肯定も否定もしなかった。

 

「ご主人様は哀れなクリーチャーにどこに出かけるかを教えてくれません」

 

「でも知っているんだろう? どこに行ったか知ってるんだ!」

 

「ご主人様は神秘部から帰ってこない!」

 

 クリーチャーはこの上ないほど上機嫌で高笑いする。

 

「こいつ!!」

 

 ハリーがクリーチャーに手を上げようとしたその瞬間に私はハリーの手を掴み先ほどの空き教室まで姿現しした。

 そして教室に着地した瞬間にアンブリッジの顔が目の前に広がる。

 その顔は戸惑いを隠せないといったような顔だった。

 ……その前にこの状況はどういうことだろう。

 私が部屋を見回すと、ロンとハーマイオニー、そしてジニーとルーナとネビルが高等尋問官親衛隊に拘束されていた。

 

「が、がっが学校内で姿現しはできないはず! やっぱり何かおかしなものを隠し持っていた!! ついに尻尾をとらえましたよ、十六夜咲夜!!」

 

 アンブリッジは唾を飛ばしながら私に怒鳴る。

 ハリーは咄嗟に杖を抜こうとしたが後ろからドラコに拘束された。

 

「あら、先生。……そうね、バレてしまったものは仕方がないわ」

 

 どういう状況かまるで分らないが、ここで手札を晒すのは得策ではないだろう。

 私は静かに両手をあげて杖を持っていないことを示す。

 それを見て安心したのかアンブリッジはニンマリと私を見た。

 

「おっと、貴方を罰することは私にはできないんでしたわね。罰則を与えるのも点数を引くこともできない。でも個人的な恨みを晴らすことはできますわ。クラッブ、スネイプ先生を呼んできなさい。ゴイル、十六夜咲夜を羽交い絞めにしなさい」

 

 アンブリッジの命令でクラッブは空き教室を出ていく。

 そしてゴイルは後ろから私を羽交い絞めにした。

 そして数分もしないうちにクラッブがドスドスと足音を響かせながら帰ってくる。

 その後ろにはスネイプ先生が立っていた。

 

「校長お呼びですかな……咲夜、君にはそんな趣味があったのか?」

 

 スネイプ先生は羽交い絞めされている私を冷ややかに見る。

 私は軽く肩を竦めた。

 アンブリッジはスネイプ先生に向けてニンマリと笑顔を向ける。

 

「ああ、スネイプ先生。真実薬を1瓶欲しいのですが、なるべく早くお願いしたいの」

 

「最後の瓶をポッターを尋問するのに持っていかれたではありませんか」

 

 スネイプ先生はアンブリッジの顔を見る。

 

「まさか、あれを全て使ってしまったということはないでしょうな? 3滴で十分だと申し上げたはずですが?」

 

 アンブリッジの顔が少し赤くなった。

 あの様子だとすべて使い切ってしまったようだ。

 ……というかハリーに真実薬を使ったということか?

 いや、スネイプ先生も仮にも騎士団メンバーだ。

 渡したものは偽物だろう。

 

「もう少し調合していただけるわよね?」

 

「勿論。今から作業に取り掛かりますと成熟に満月から満月までを要しますので……大体1か月で準備できますな」

 

「1か月!?」

 

 アンブリッジが憤慨した。

 

「私は今すぐこのクソガキを尋問したいのよ!! この生意気な少女に無理に真実を吐かせる薬が今すぐ欲しいの!」

 

「……ほう。それは何とも面白そうな話ですな」

 

 スネイプの手が一瞬ローブへとのびる。

 まさか本当に渡したりしないだろうな。

 だが、スネイプ先生はそこまで愚かではなかった。

 

「面白そうな話ではありますが、申し上げた通り真実薬の在庫はもうありません。咲夜に毒薬を飲ませたいなら別ですが……まあ、お役には立てませんな」

 

「……貴方は停職です!」

 

 アンブリッジは金切り声をあげて叫ぶ。

 スネイプ先生は皮肉っぽくアンブリッジに礼をして教室を出ていこうとした。

 

「あの人がパッドフットを捕まえた! あれが隠されている場所で、あの人がパッドフットを捕まえた!」

 

 次の瞬間ハリーがスネイプ先生に向けて叫んだ。

 スネイプ先生はハリーの言葉を聞いて足を止める。

 

「パッドフットとは何なの? 何が隠されているの? スネイプ、こいつは何を言っているの?」

 

 アンブリッジは混乱するようにスネイプ先生に問う。

 

「さっぱりですな。ポッター、頭がおかしくなりたいのならいつでも私の研究室に来るがいい。戯言薬を飲ませてやろう」

 

 そういうとスネイプ先生は教室を出て行った。

 多分ハリーの今の言葉で十分意味は通じてしまっただろう。

 スネイプ先生がシリウスの安否を確かめる前にここを発つしかない。

 アンブリッジはスネイプ先生の様子をイライラした表情で見送ると、静かに杖を取り出した。

 

「……いいでしょう。しかたがない、ほかに手はない」

 

 アンブリッジは少し興奮したような顔で私を見る。

 

「ゴイル、しっかり押さえつけておくのです。磔の呪いならこいつの舌も緩むでしょう」

 

 その言葉を聞いてドラコ含める殆どの生徒が顔を真っ青にする。

 後ろで私を拘束しているゴイルもカタカタと歯を鳴らしていた。

 

「校長先生。それ違法ですよ? わかってますか?」

 

 私は冷静にアンブリッジに問う。

 

「バレなければ犯罪ではないのです。複数の生徒の戯言よりも私の証言1つのほうが社会的な信用は上です。クルーシオ!!」

 

 アンブリッジは極限まで私に対する憎しみを込めて磔の呪いを使った。

 私は開心術を防ぐときのように体と心の時間をずらし、磔の呪いを無効化する。

 タンスに磔の呪いをかけても何も起きないように、今の私に磔の呪いを使っても全くの無駄だ。

 私は指1本動かさずにアンブリッジを鋭く睨む。

 アンブリッジは私が必死に痛みを我慢しているものだと思っているのか、ケタケタと笑いながら何度も私に磔の呪文を使った。

 

「我慢しなくてもいいんですよ? 痛かったら泣き叫べばいい。これは罰ではありません。私の私怨です」

 

「つまり先生は私に敵意を持って攻撃している。そう受け取ってもよろしいのでしょうか」

 

 私は先ほどと全く声色を変えずにアンブリッジに聞いた。

 アンブリッジはその段階になってようやく私に磔の呪いが効いていないことに気が付いたようだ。

 

「……その力の秘密を教えなさい。ゴイル、しっかりと押さえつけておくのですよ」

 

 呪文が効かないとわかるとアンブリッジは私の腹部を思いっきり蹴っ飛ばした。

 おお、そうくるかと私は少し驚く。

 だが、この1年で相当やつれたアンブリッジの体では、私の体にダメージが入るほどの蹴りは出せない。

 そのあともアンブリッジは私の顔を殴ったり脛を蹴ったりと散々ほかの生徒が見ている前で私に暴力を振るっていく。

 だがそのどれもが力が入っておらず、血が出るどころか私の体にかすり傷すらつけることができなかった。

 だが、結果はどうであれ過程は残る。

 ここには10人ほどの目撃者がいるのだ。

 彼らからしたらアンブリッジが一方的に私に磔の呪文を使い、暴行を加えたようにしか見えない。

 たとえ私の体に怪我がなくても、一方的にアンブリッジが悪いようにしか見えないのだ。

 アンブリッジが息を切らせながら腹部に蹴りを入れたところで私は静かに口を開く。

 

「お教えしましょう」

 

 私のその言葉にアンブリッジは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

「はぁ……はぁ……、ついに……、口を、割ったわね」

 

「ダンブルドア先生は私に武器を残していきました。その武器の効果によって私は校内でも姿現しが使え、呪文が効きません」

 

 私はするりとゴイルの拘束を抜ける。

 そしてアンブリッジに近づいた。

 

「ご案内しましょう。ダンブルドアが私に残した武器のもとへ」

 

 私はアンブリッジの肩に触れると魔法の森の中へと姿現しした。

 アンブリッジはいきなり周囲の情景が変わったことに驚き、グルグルと周囲を見回す。

 そんなアンブリッジの顔を私は蹴り飛ばした。

 

「ぐぎゃあ!」

 

 アンブリッジは悲鳴を上げて地面を転がる。

 アンブリッジが私に対して行った暴行は、人の目についている。

 あとは私が人目につかないところで仕返しをするだけだ。

 私は地面に転がっているアンブリッジに向けて全く手加減せずに蹴りを入れる。

 普段骨が折れない程度に加減していたが、もうその必要もないだろう。

 

「たず、だずげ……」

 

 足の骨をへし折りあばらを折り、膝を破壊する。

 アンブリッジは私から少しでも逃げるように森の奥へ奥へと這っていった。

 私はそれをゆっくり追いながらたまに一発蹴りを入れる。

 どうやら私が本気で蹴ると少し肉が弾け飛ぶらしい。

 蹴りを入れる度にアンブリッジは血に染まっていった。

 

「そこで何をしている。人間」

 

 突然何者かの声が聞こえて私は後ろを振り返る。

 そこには多くのケンタウルスがおり、鋭く私たち2人を睨みつけていた。

 

「た、たすがった! お願い、そこの半獣、私を助けなさい! 私はドローレス・アンブリッジ。魔法大臣上級次官、ホグワーツ校長、並びにホグワーツ高等尋問官です!!」

 

「半獣だと!?」

 

 ケンタウルスは口々に半獣と言われたことに抗議の声を漏らした。

 アンブリッジはどうやら冷静さを失っているようだ。

 

「この汚らわしい半獣ども! さっさとそこにいるガキを仕留めなさい!! 何をしているの? あなたたちは頭も馬なみというこうrとうrsjw!!」

 

 あまりにも汚らしく喚くので最後のほうは聞き取れなかった。

 

「ケンタウルスを侮辱するな!!」

 

 私は怒りを込めてアンブリッジの背中を踏みつける。

 純粋な怒りもあるが、これはパフォーマンスのようなものだ。

 私の行動を真似るように怒り狂ったケンタウルスたちはアンブリッジを四方八方から踏みつけていく。

 その度にアンブリッジの骨が折れ、肉が抉れ、アンブリッジの形状を人ではない何かへと変えていった。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

 アンブリッジの断末魔が聞こえるが私は気にしない。

 ケンタウルスと共にアンブリッジの体を踏みつける。

 10分ほどアンブリッジはそのように嬲られ続けただろうか。

 ケンタウルスの気がすむ頃には手足はバラバラになり腹は破れ、腸が細切れになって辺りに散らばっていた。

 だが、アンブリッジはまだ死んではいない。

 私がアンブリッジの体の時間を止めたせいである。

 時間を進めればすぐにでもアンブリッジは死に絶えるだろう。

 私はアンブリッジをアンブリッジの破片と共に袋に詰める。

 そしてその袋の時間を止め、それをケンタウルスに渡した。

 

「そのうちにダンブルドア先生がこの肉片を取りに来ると思うわ。袋を開けると中に入っている肉片が死ぬから開けないように注意して」

 

「……小娘、この袋は預かろう。1つ聞かせるのだ。何故我々が侮辱されたときにあれほど怒った?」

 

 ケンタウルスの1人が袋を受け取りながら私へと問う。

 

「私の体は人間ですが、心は人ならざる者です。私は吸血鬼に仕え、妖怪に育てられ、悪魔を友に持っています。誇り高きケンタウルスをこの肉片は侮辱した。私にはそれを許すことができなかった。それだけです」

 

 私がそう答えると群れの中から1人のケンタウルスが飛び出し私の姿を確認した。

 

「ロナン。私はこの少女を知っている。彼女はレミリア・スカーレットの従者だ」

 

 その言葉を聞いて周囲にいたケンタウルスはざわざわと騒ぎ出す。

 ロナンと呼ばれたケンタウルスも目を見開き驚いた。

 

「お嬢様を知っておられるのですか?」

 

 私はロナンに聞く。

 ロナンは何かを思い出すように目を瞑るとゆっくりと一度頷いた。

 

「レミリア・スカーレットは腕のいい占い師だ。彼女は元気にしているか?」

 

「ええ」

 

 私の返事にロナンは満足そうに頷いた。

 

「彼女の従者の頼みだ。この袋は我々が責任をもってダンブルドアに渡そう。娘、名は何という?」

 

「十六夜咲夜と申します」

 

「……名付け親はレミリア・スカーレットだな。良い名だ。では十六夜咲夜、また機会があれば会おう」

 

 ケンタウルス達はアンブリッジのミンチを持って森の奥へと消えていった。

 よし、これで何の問題もなく魔法省に向かうことができるだろう。

 私は一度時間を止めると先ほどの空き教室へと姿現しした。

 だが私はそこで奇妙な光景を目にする。

 既にハリーたちの姿が教室にないのだ。

 教室の中にはドラコ率いる親衛隊が倒れているだけである。

 私は周囲に意識のあるものは誰もいないことを確認し、時間停止を解除した。

 

「ドラコ、ドラコ? ……完全に伸びてるわね。これは失神呪文かしら」

 

 私は教室内にベッドを出現させると親衛隊員たちを順番に寝かせていく。

 寒い季節はとっくの昔に過ぎ去ったが、床で寝ていては風邪を引いてしまうだろう。

 私は最後にドラコをベッドへと乗せ、軽く頭を撫でる。

 そしてそのままその教室を後にした。

 一体ハリーたちはどこへ行ってしまったのだろうか。

 いや、考えるまでもなく魔法省に行こうとしているに決まっている。

 だとしたらアンブリッジの部屋だ。

 ハリーはシリウスと話をしたときにアンブリッジの部屋の暖炉を使ったと言っていた。

 今回も同じ方法を取るに決まっている。

 私が急いでアンブリッジの部屋に姿現しすると、そこにはすでにルーナの姿しかなかった。

 

「ルーナ、みんなは?」

 

「先に煙突飛行を使って魔法省に行ったよ。私は一番最後なんだ」

 

「残念、最後から2番目よ。さっさと行きなさい」

 

 どうやら私の予想通りハリーたちはすでに魔法省のようだ。

 ルーナは私の言葉に頷くと暖炉に入り「魔法省」と唱えて姿を消した。

 私もすぐさまそのあとを追う。

 暖炉の横に置いてある煙突飛行粉を暖炉に投げ入れその中へと入る。

 

「魔法省」

 

 次の瞬間私は上に落ちるように煙突の中へと吸い込まれていった。

 グルグルと目の前の情景が変化し、ようやく私は地面に足をつける。

 どうやら無事に魔法省についたようである。

 魔法省の入り口にあるアトリウムが目の前に広がるが、いつものように多くの魔法使いが忙しなく仕事をしているわけではなかった。

 アトリウムにはハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニー、ルーナ、ネビル、そして私の7人しかいない。

 魔法省は完全にもぬけの殻と化していた。

 

「おかしい、受付にも守衛室にも誰もいない」

 

 ハリーが杖を抜きつつ言う。

 

「社員旅行かな?」

 

「あら、ホワイトな職場ね」

 

 ルーナの言葉に私が付け足すと、ふざけている場合じゃないとハリーに怒られた。

 

「こっちだ。エレベーターに乗ろう」

 

 ハリーは先陣を切ってアトリウムを歩き出す。

 私は最後尾にいるルーナに話しかけた。

 

「あの後どうやって親衛隊をまいたの?」

 

 私が聞くとルーナは不思議そうに首をかしげる。

 

「どうやるかを教えたのは咲夜じゃない」

 

 そうだった。

 既にDAが活動をしなくなってしばらく経つため、すっかり忘れていたが、ここにいる6人には私が対人用の技をこれでもかというほど叩き込んだのだった。

 ロンなど素手でステューピファイ(打撃)が撃てるほどである。

 

「咲夜こそ校長先生をどうしたの? 一緒に消えちゃったけど」

 

 今度はジニーが話しかけてきた。

 その話題は皆興味があるのか、エレベーターを待ちながら全員が私へと振り向く。

 

「ケンタウルスに引き渡したわ。多分そのうち帰ってくるわよ」

 

 私が曖昧に答えた瞬間、ジャラジャラガラガラ鳴りながらエレベーターが上がってきた。

 私が先頭を切ってエレベーターに乗り込むと次々とエレベーターに乗り込んでくる。

 ハリーは全員乗ったのを確認すると9階のボタンを押した。

 

「怪我は大丈夫なの? あんなに沢山……酷いことを……」

 

 ハーマイオニーが泣きそうな顔になりながら私のお腹をさすった。

 

「怪我はしてないわ。あんなの幼児がじゃれてきたのとそんなに変わらないわよ」

 

 私は服の裾をめくりあげ傷のない綺麗なお腹を見せる。

 ハリー、ロン、ネビルは咄嗟に顔をそむけた。

 

「わかった、わかったからさっさとお腹をしまってくれ」

 

 ロンが顔を赤くして言う。

 何というか、皆年頃というわけだろう。

 

「神秘部です」

 

 アナウンスが聞こえ、エレベーターが止まる。

 私たちはエレベータを降り奥の扉へと向かった。

 

「OK、いいか」

 

 ハリーは扉の前で立ち止まり、口を開く。

 

「どうだろう、何人かはここに残って、見張りとして——」

 

「そう、じゃあ私が残るわね」

 

 ハリーが言い切る前に私はハリーの提案に乗った。

 それを聞いてネビルが不安そうな声を出す。

 

「咲夜が残っちゃうの? この中で一番強いのに」

 

 ジニーもネビルの意見に賛成のようだった。

 私はみんなを説得させるために例え話をする。

 

「そう、じゃあ私が中の様子を見てくるから貴方たち全員がここに残りなさい」

 

「ダメだ! 危険すぎる!」

 

 ハリーが慌てたように叫んだ。

 私は一度みんなに向き直る。

 

「ここにいる人間を単純に戦闘能力で分けたら私と他全員よ。これはおごりや自慢ではなく、皆を教育した私が分析した結果。私なら自由に姿現しできるし何かが来たらすぐ伝えることができるわ」

 

 勿論、本当のことを言ってしまえば見張りなど必要ない。

 全員で予言のある所に向かえばいいのだが、それでは戦死者が出ない気がするのだ。

 ダンブルドアは私の能力を知っている。

 誰かが私の見ているところで死にそうになったら助けられることを知っている。

 だからこそ私は皆と一緒に行くことはできない。

 ハリーは悩むように唸ると、私の顔を見た。

 

「僕は咲夜を信用している。その実力も、不思議な能力も、頭の良さも。見張りを頼めるかい?」

 

「ええ、引き受けましょう。ブラックを必ず救ってくるのよ」

 

 ハリーは大きく頷くとみんなと共に神秘部の扉の向こうへと消えていった。

 私は扉が閉まるのを確認すると静かにその前に仁王立ちする。

 これで完全にハリーはヴォルデモートの罠にかかったはずだ。

 そしてスネイプが騎士団員としての仕事を全うしていたらそう長い時間も掛からずにここに騎士団員が到着するだろう。

 私は懐中時計を取り出すとクロノグラフを動かす。

 10分経っても団員が到着しなかった場合単身神秘部に乗り込もう。

 死者は出てほしいが、ハリーが死ぬと厄介だ。

 

「十六夜君。時間を止めてくれ」

 

 どこからともなくクィレルの声が聞こえてくる。

 私は躊躇することなく時間を止めた。

 先ほどの声はどこから聞こえたものだろうか。

 私は止まった時間の廊下を歩き、階段の陰に立っているクィレルを発見した。

 クィレルは死喰い人の服装をしておらず、いつものローブ姿だ。

 私はクィレルを持ち上げ廊下まで運ぶと時間停止を解除する。

 クィレルはいきなり目の前の光景が変わった為か周囲を見回すと、私に話しかけた。

 

「ふむ、打ち合わせ通りハリーたちは神秘部に入っていったな」

 

「貴方は神秘部にいなくていいの?」

 

「ああ。私は君と同じく見張りだ。先ほどルシウスにハリーたちが神秘部に入ったと連絡を入れたところだよ」

 

 クィレルは腕に刻まれた闇の印を見せる。

 そしてその印をシールでも剥がすかのように捲りとった。

 

「パチュリー様に弄って貰ってね。取り外しが効くようにしてもらった」

 

 クィレルはひらひらと印シールを振ると、クルリと巻いてポケットに仕舞う。

 

「本当に素晴らしい魔女だ。ヴォルデモートが彼女に協力を仰ごうとするもの頷ける」

 

「ヴォルデモートがパチュリー様と接触しようとしているの?」

 

「逆に問おう。ダンブルドアは彼女に接触しようとしていないのか?」

 

 クィレルの言葉に私は少し考える。

 

「そういった話は聞かないわね。でもここのところ数カ月話をしていないしもしかしたらパチュリー様を探している可能性はあるわ」

 

「なるほど、その言葉から察するにダンブルドアは自分の過去を語らない性格らしい。パチュリー様とダンブルドアはホグワーツの同期だ」

 

 クィレルはさらりとそんなことを言った。

 

「パチュリー様がホグワーツの生徒?」

 

「ああ。といってもこれは本人から直接聞いた話ではないから信憑性には欠けるがな。レイブンクロー生だったようだ。ダンブルドアが当時一番目立つ生徒だったとしたら、パチュリー様は当時一番目立たない生徒だったらしい」

 

 それは少し衝撃の事実だった。

 パチュリー様の原点が、ホグワーツにあったなんて思いもよらなかったからだ。

 

「……その様子だとロクにダンブルドアの過去も知らないらしいな。夏休みに館に帰ったら聞いてみるといい。ああ、そうだ。時間を止めて話したかったのはこんな話ではない」

 

 クィレルは禿げ頭をぺちりと叩いた。

 

「ここに私は来ていない。そもそも死喰い人ではないと魔法省に印象つけたいのだ」

 

 クィレルは改めて口を開いた。

 

「印を外せるようにしてもらったのもそういった理由でね。いいか、もう一度言おう。私はここに来てはいない。いいね?」

 

「ええ、わかったわ。貴方はここにいなかった。そういうことにしておけばいいのよね」

 

「ああそうだ。それじゃあ私は少しやることがある。姿をくらませたら時間停止を解除してくれ」

 

 そういうとクィレルはどこかへと姿くらまししていった。

 私は誰もいなくなった廊下で時間停止を解除する。

 クィレルは一体何をしようとしているのだろうか。

 だが、あのクィレルの楽しそうな表情を見る限り、ロクなことでないのは確かだ。

 私は元の位置に戻ると扉に背を向けて立つ。

 そして待つこと8分、ジャラジャラガラガラいいながらエレベーターが下りてきた。

 私は先ほどのクィレルのように階段の隅に隠れて様子を窺う。

 

「そんなところで何をやっている小娘!」

 

 突然ムーディの声が廊下に響き渡った。

 どうやら廊下の壁を透視して私の姿を捉えたらしい。

 私は最大限警戒しながらエレベーターの方へと向かった。

 そこにはムーディを先頭にブラック、ルーピン、トンクス、キングズリーがいる。

 不死鳥の騎士団が誇る最強の面子といってもいいかもしれない人間たちだ。

 

「どうしてハリーたちと一緒じゃない。ええ!?」

 

 ムーディが大声を上げる。

 私は軽く肩をすくめた。

 

「挟み撃ちにあったら一網打尽でしょ? 脳みそまで腐ってきたのかしら。戦力を2つに分けて私は入り口で見張ってたのよ。それよりどうしてブラックがここにいるのよ。貴方は捕まって拷問を受けていると聞いたのだけど」

 

「まさかそんな話を信用したのか? あれはクリーチャーの戯言だ。ヴォルデモートの仕掛けた罠とも言える」

 

 ブラックが冷ややかに言った。

 勿論そんなことは端から理解している。

 だがこうやって言っておかなければ私がここにいる理由がなくなってしまうではないか。

 

「だとしたら拙いわね。既にハリーたちが突入してから9分が経つわ。既に何人か死んでるかもね」

 

「むしろしっかりと罠に掛かってたほうが生存率高いかもね。よし、マッドアイを先頭にして全員で突撃だ!」

 

 トンクスはグイグイとムーディの背中を押して神秘部の中へと入っていく。

 私たちもそのあとに続いた。

 扉を抜けるとそこは大きな円形の部屋だった。床も天井も何もかも黒く、私たちを囲むように扉が並んでいる。

 そしてそのうちの3つに大きく『×』が焼き印されていた。

 

「どの扉だ?」

 

 ブラックがムーディに聞く。

 ムーディはグルリと部屋全体を義眼で見回すと、焼き印がしてある扉に突入していった。

 次の瞬間部屋にいた死喰い人との乱戦が始まる。

 私は時間を止め一度冷静に部屋の中を見回した。

 部屋にはハリーとネビル、ハリーは予言の入っていると思われるガラス玉を持っている。

 あと他には死喰い人が沢山いるといった感じだ。

 私は時間停止を解除し死喰い人に失神の呪文をかけていく。

 これは相手を倒すための呪いではなく、けん制の意味合いが強かった。

 そのまま私はハリーへと接近し、ハリーの首を絞めている死喰い人にナイフを突き立てた。

 

「グアアァァッ!」

 

「ステューピファイ!」

 

 ハリーは追撃するように死喰い人に失神の呪文をかける。

 

「ありがとう!」

 

 ハリーはそう叫びながらネビルに攻撃しようとしていた死喰い人に呪文を飛ばした。

 ネビルも死喰い人に負けじと応戦している。

 

「ほかのみんなは?」

 

 私が聞くとハリーは困ったような顔をする。

 どうやらどこかで逸れてしまったようだ。

 

「でも、予言はバッチリだ。おっと、あ!」

 

 ハリーはガラス玉を掲げるが、ネビルが躓いた拍子に落としてしまう。

 ガラス玉は粉々に砕け予言を吐き出し、ただのガラス片へと戻った。

 

「予言がどうしたって? このお馬鹿」

 

 私はハリーの頭をグーで叩く。

 私たちの後を追うようにしてブラックがこちらに接近してきた。

 

「ハリー無事か!?」

 

「シリウス予言が!」

 

 ハリーは足元を見て必死に叫ぶ。

 私はハリーに向けて飛んできていた死の呪文をナイフで撃ち落とした。

 

「……まあこれは記憶媒体に過ぎない。ほかの皆はどうした?」

 

 ブラックは一度予言の残骸に視線を落としたが、すぐにハリーのほうへと向き直った。

 

「みんなばぼがのべやにいる」

 

 ネビルが喋りにくそうに口を開く。

 その言葉を聞いてハリーとブラックは頷いた。

 

「ここは私に任せて3人は子供たちを探して逃げて」

 

 私はそう言ってアーチのある部屋へと体を向ける。

 

「ほどほどにな」

 

 ブラックは苦笑いするとハリーたちと共に石段を上っていった。

 私が改めて部屋を見回すと結構酷いことになっていた。

 ムーディは既に頭から血を流し床に倒れていた。

 トンクスも何人もの死喰い人に囲まれて劣勢だ。

 あ、今倒れた。

 

「やっと見つけたぞ小娘!!」

 

 私はその物言いに覚えがありそちらを向く。

 するともう目の前まで死の呪文が迫っていた。

 私は時間を止めて死の呪文を回避し、その人物を見る。

 先ほどの物言いから私はムーディを想像したのだが、違った。

 そこに立っていたのは去年逃走したバーティ・クラウチ・ジュニアだ。

 私は周囲の状況を確認して時間停止を解除する。

 それと同時に3本のナイフを投げつけた。

 

「ふん」

 

 クラウチは魔法を使わず杖だけでそれをはじき飛ばす。

 

「相変わらずそればかりだな貴様は。ええ?」

 

「貴方喋り方がムーディっぽくなってるわよ。気が付いてる?」

 

「そりゃ1年もあんな変人演じてたら口調ぐらいは似るだろう。ああそうだ」

 

 私は冷静に去年学校で教師をしていた偽ムーディを思い出す。

 少なくとも今いるムーディと変わらないぐらいには魔法の腕に長けていたはずだ。

 

「アバダ ケダブラ!」

 

 突然背後から女の声が聞こえて私は身を捩る。

 そこにはアズカバンから脱走した死喰い人の1人であるベラトリックス・レストレンジが立っていた。

 私の頭上を死の呪文が通過していき壁に当たる。

 私は体勢を立て直し、2人を同時に視界に収められる位置まで後退した。

 

「この嬢ちゃんが最年少の騎士団員だって? まだガキじゃないか! クラウチ、こいつは私の獲物にすることにしたよ」

 

「何を言う! こいつは俺の獲物だ!」

 

「両方まとめて殺してやるわ」

 

 私は2人を鋭く睨む。

 2人はその言葉を聞いて鋭い視線をこちらに向けてきた。

 

「思い上がりもほどほどにしたほうがいいねぇ……いくら去年わが主のところから逃げ遂せたとしても所詮実力はそんなもんさ!」

 

「油断大敵!! こやつは変な術を使う。心してかかれベラトリックス!」

 

 クラウチとレストレンジが同時に杖をこちらに向ける。

 私は自分の中の時間を3倍ほど速くした。

 だがそれほどまで私の速度を速くしても2人の魔法の速度は相当なものだった。

 私は何とか2人の攻撃を受け流しつつ、2人に死の呪文で返していく。

 私と2人の間は既に死の呪文の洪水と化していると言ってもいいだろう。

 一発でも当たれば即死という状況でクラウチとレストレンジは笑っている。

 もしかしたら死喰い人の中ではこいつらが一番やばいのかもしれない。

 私は徐々に2人に押されていき、ついには1メートルと離れていない位置まで接近される。

 もうここまで来たら杖でやりあうのは意味がない。

 私は杖をしまい込みコンバットナイフを両手に構えるとそこに霊力を流し込む。

 これなら呪文を反らすことが可能だ。

 私はクラウチへと一気に距離を詰め切りかかる。

 クラウチは一瞬ギョッとした表情をしたがすぐさま一歩下がり私に向けて杖を振るう。

 私は杖先から出た死の呪文を切り裂くとクラウチの足をすくうように回し蹴りをする。

 その私の背中を蹴ろうとレストレンジが接近してきたので片足だけで一気に跳躍しレストレンジの後ろに回り込んだ。

 

「ちょこまかと!」

 

 レストレンジは後ろになぐように裏拳を叩き込んでくる。

 私はそれを体を反らして避けるがそれが失敗だったらしい。

 レストレンジの足の下を抜けるようにクラウチが私の腹目掛けて蹴りを繰り出していた。

 流石にこの体勢では避けようがないので私は石のアーチがある方に飛ぶ。

 だが、それが間違いだと後になってわかった。

 アーチから何か囁くような声が聞こえてきたのだ。

 私はこの囁きが何なのか本能的に察する。

 これは死者の声だ。

 このアーチを潜るともう戻ってこれない。

 だが、それに気が付いたのはアーチを半分潜った後だった。

 私はそのままアーチの中へと落ちていく。

 

 

 

 私は死んだ。




用語解説


ふくろう試験
ホグワーツの5年生が受ける試験。後々の学科選択にかかわる大切な試験です。

いつの間にか倒れるマクゴナガル先生
ご老たゲフンゲフン。体に影響がないか心配です。

疾走して失踪するハグリッド
ハグリッドってめちゃくちゃ足が速いイメージが私の中にはあります。

クィレルとの打ち合わせ
たまにこのように打ち合わせをしています。

分霊箱
もう殆ど集まってしまいました。まあ本人が回収しているので当たり前ですが。

破れぬ誓いを破ってしまうパチュリー
いとも簡単に呪いを解いてしまうパチェ先生。

蘇りの石
パチュリーにとって大切なのはその後の実験にそれが使えるかどうか。ゆえにただの骨董品

ロケット回収
このころはまだブラック邸にあります。

S・A・B
追加された伏線

スネイプ「咲夜、君にはそんな趣味があったのか?」
スネイプからしたら咲夜の実力を知っているので遊んでいるようにしか見えない。
実際咲夜はこのとき結構遊んでます。

クルーシオが効かない咲夜
物理的な魔法でないと咲夜にはあまり効果がありません。

少女に暴行を加えるおばさん
力が弱すぎて傷をつけることもできなかった模様。
咲夜にとって大切なのはアンブリッジがこちらに手を出したという結果だけ。

アンブリッジ(肉片)
咲夜とケンタウルスに同時に喧嘩を売った結果です。一応生きてます。一応ですが。

顔の広いおぜう
特に占い系には顔が広いです。

居残り組咲夜
結局騎士団員と共に突入します。

パチュリーの母校
ダンブルドアと同期のパチェさん。作者がこの設定を覚えていたらのちに詳しい話が出てきます。

クラウチ&ベラトリックスVS咲夜
時間を止めたら瞬殺できてしまいますが、それをしない咲夜ちゃん。結果死亡。


ざんねん!!わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!!


プチ修正しました。

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