萩の華、桜の花   作:桜華(おうか)

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第三話 最初ノ雨

海へ出てどのくらい経っただろうか。

鎮守府はおろか陸すらも見えない。鎮守府近海と言えど、それなりに距離はあるようだ。いや、この状況であれば近いところまで攻められている方が困る。

矢矧は周囲を警戒しながらそんなことを考えていた。

ここに来て数時間だが、体は文字通り手足のように動かせている。

「作戦指示されたポイントはこのあたりみたいね、逆探されている形跡無し、よし!索敵を厳に!」

叢雲が威勢の良い声を発し、矢矧もそれに従い、動く。

二人は電探を使いながら周囲を警戒する。

「かからないみたいね・・」

矢矧は叢雲に話しかけた。

「そろそろ作戦開始時刻のヒトサンマルマルよ、いつ来てもおかしくないわ、警戒、怠らないでね」

了解。そう返そうとした矢先であった。

「! 電探に感あり!」

矢矧の声が鋭く響いた。

「予想よりも少し早いわね、敵の電探の周期は!?」

「長、まだこちらには気づいてないわ!艦影一二三四五!いずれも軽巡以下みたい!」

「不幸中の幸いか・・いずれにしろ数的不利には変わりないけど!」

一気に空気が変わった。

肌を刺すような緊張感と寒気がするほどの恐怖が走る。

水面には蒼白い死のイメージが散らばって、海底が黑い大きな口を開けて待っている。

ああ、そうだ。私はここで戦ってきた。

何度も絶望した。

だが、また同じ道を進むわけにはいかない!

「迎撃開始よ!」

叢雲が力の籠った声を上げ、それに矢矧が答える。

「了解!」

二人は猛機動で敵に近づく。

肉眼でも見える距離までくると、ようやくその姿のすべてを見ることができた。

異形、化け物。そんな言葉がよく似合った。

「何なのこれ・・」

矢矧の誰にも向けていない問いに叢雲が答える。

「こいつらは深海棲艦、まだよくわかってないことがほとんどなんだけど、少なくとも私たちを攻撃する敵、ってとこかしら!」

攻撃されるのは今も昔も変わらないらしい。

にしても手、らしきものが見えるやつもいるが、おおよそほとんどが人間とはかけ離れていた。深海、というだけあってほとんどが魚の化け物のような姿だ。

叢雲はそのまま続けた。

「軽巡一に駆逐四ね!作戦通り行くわよ!」

二人は横一定間隔を保ったまま深海棲艦に突っ込む。

向こうもようやくこちらに気づいたらしく、進路を変えて向かってきた。

「砲撃開始!」

叢雲の指示に従い、矢矧は撃ち始める。

作戦通り自分たちからは突っ込まず、慎重に砲撃する。

前に踊り出てきた敵駆逐に何度か照準を変えながら撃ち続けた。

それから数発目で夾叉し、次の砲撃では着弾させた。

ほどなくして炎上した敵駆逐は腸を撒き散らしながら爆散した。轟沈だ。

「やるじゃない!」

撃ち続けながらも叢雲は矢矧を褒めた。

「まだまだ!」

矢矧もここではまだ満足できない。

だが、依然として敵はこちらの倍である。

当然、こちらの倍は撃ってくる。

二人はじわじわと回避に意識を割き始め、砲撃が疎かになり始めていた。

叢雲が少し焦って言う。

「くそっ、埒が明かないわね!いっそ切り込む!?」

「ダメ、提督の言っていた通り耐久戦よ!」

提督の言っていた手とは何なのか、今は信じるしかない。

その時だった。

矢矧の視界の端の青の背景に一条の白線が走った。

これは、危険だ。矢矧はそう直感した。

思い切り体をよじり、精一杯の回避行動をとる。

「矢矧!」

どかん、と鈍い爆発音がし、水しぶきが上がる。

「大丈夫!」

矢矧は懸命に答えたが、水しぶきが消えた後に見えた彼女の姿は無残なものだった。

「大丈夫じゃない!どう見ても中破以上じゃない!」

あれは魚雷の航跡だ。

何とか直撃は避けたが、爆発には飲まれたようだ。艤装はひしゃげ、右腕からは鮮血が漏れ出ていた。航行はできても戦闘は困難そうである。

正面の敵が魚雷を撃ったようには見えなかった。ではどこから?

矢矧は右腕の鈍い痛みに耐えながら、瞬時に周囲を見ると叢雲に叫ぶ。

「九時の方角!新たに敵一!」

いつの間に接近されていたのだろうか。砲撃と同時に索敵もまた、疎かになっていたのであろう。

「重巡・・級・・?」

叢雲がその正体を告げる。

人型に近いその敵重巡は何もせず、静かにこちらを見ている。

いつの間にか砲撃も止んでいた、が少なくともそれに歓喜する余裕はない。

叢雲が呟く。

「新しい敵、ピンチね・・」

矢矧はつぶさに周りを見ながら状況を把握し、言った。

「砲撃が止んだと思ったら、敵軽巡たちが移動してる!挟み込まれる!」

「あーもうどうするのよ!このままじゃ・・!」

敵重巡はゆっくりと砲撃姿勢をとる。死へのカウントダウンをするように。

それに倣って移動した敵軽巡たちも砲撃姿勢をとる。

漠然とした恐怖がさらに研ぎ澄まされより具体的になる。じわりじわりと冷たい水底のイメージが頭に流れ込んでくる。

終わる?ここで?

矢矧は初めてそれを思った。

だが、すぐに打ち消した。

終わるわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。矢矧は知っていたからだ。

生は執着する者のところにあるのだと。

矢矧は手をぐっと握る。

 

ここで終わってたまるか!

 

その思いは一撃の砲撃のもとに実現した。




続きは明日以降かな?
難しかった・・・orz

改一 叢雲のセリフを変更しました。
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